
老人党リアルグループ「護憲+」は、日本国憲法の基本理念である国民主権、平和、人権を護りたいと願い、「護憲」の視点に立った「世直し」を志す老人党有志グループです。
コラム「護憲+語憲」 :見習い期間 (03/09)
命を守るための制度を守る
もう10年以上前の話になるが、健康上の理由で就労できず収入がそれほど多くない友人が外科手術を受けることになった。本人だけで費用を負担できるのか、そもそも医療費が払えるかどうかわからない人が医療を受けることができるのかと当初は疑問に思っていた。当時はいわゆるセーフティネットについての知識をほとんど持っておらず、個人で貯金をしておくか保険に入るくらいしか、もしもの時に備える方法はないと考えていたからだ。 続けて友人から「高額医療費制度」なるものを使用し、費用負担は最小限に抑えられ、その後の生活を圧迫することもないと教えてもらい、広く知られていないだけで制度としてのセーフティネットは存在するのだと初めて知った。 誰もが常に元気でいられるわけではなく、時には医療の力を借りることもある。自分も友人のようになったらどうしようと最初に話を聞いた時には不安しかなかったが、過度に怖がる必要はないとわかった。
ところが、昨年12月から政府が「高額医療費制度」の患者の自己負担上限額を引き上げる方針を明らかにした。健康保険料を負担する世代の人口が減っている点を問題視しているのだろうが、引き上げる措置を取れば制度を利用しづらくなるのではないだろうか。 思いがけず病気やけがをすることは誰にだって起こりうることであり、本人だけに責任転嫁することはできない。ましてや「原因はすべて自分にある」と自責する必要もない。しかし、こうした制度の要件引き上げで、自分が病気になり、しかも医療を受けるだけの収入がないのは自分が悪いと考えさせてしまう可能性がある。 具体的な引き上げ額も重要ではあるが、額を問わず「引き上げ」と聞いただけで「財源が足りないのかも」「自分が負担を増やしてしまう(あるいは現に増やしている)かも」と利用をためらってしまう人もいるかもしれない。
今年に入り、段階的な自己負担額引き上げについて話が二転三転し、ついに3月7日になってようやく首相が引き上げを凍結すると表明した。 この決定には、がんや難病の患者の方たちが必死に声を上げたことが少なからず関わっているだろう。闘病中でただでさえ精神的にも身体的にも負荷がかかっている人たちに抗議運動をさせること自体が問題ではあるが、市民の側があきらめずに訴えれば変えられることもあると勇気づけられた。また、国会には野党議員もいて、野党側が見直しを求めてくれたことも凍結へとつながったはずだ。
一方で、政府は今年の秋以降に制度の在り方について改めて検討・見直しを行う方針も示している。現時点で引き上げを完全に凍結させたのは今夏の参院選を意識しているだけかもしれない。引き続き、皆保険制度も含めたセーフティネットが壊されないように注視する必要がある。
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