0001
新聞記事などの紹介(第二十期)
笹井明子
08/01 00:06
新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、インターネットなど、各種メディアに載った興味ある話題や情報を紹介する場
0002
Re: 新聞記事などの紹介(第二十期)
コナシ&コブシ
08/24 10:13
手塚治虫さんの「マンガの描き方」のふろく 20日の毎日新聞の「今週の本棚」欄より。 漫画家でお笑い芸人の矢部太郎さんが「マンガの描き方」という手塚治虫さんが書かれた本を紹介しています。 矢部太郎さんは確か「大家さんと僕」という漫画を描いていたと思います。 以前、アフリカの村に住み込み、言語を学習してその地の人を笑わせる、というテレビ番組に出演、全くことばがわからず困り果てたときにこの「漫画の描き方」の中にあった似顔絵の書き方を思い出し、落ちていた棒きれで似顔絵を描き、一気に距離が縮まったとのエピソードがつづられていました。 【漫画的表現が言語の壁を超えるということを強く感じた体験だった】 そして、矢部さんにとって、さらに 【この本が自分にとって決定的なのは、後半の『ふろく』という箇所のためです】 【「どんなものをどんなふうに描いてもいいのだ」としながらも「漫画を描くうえでこれだけは絶対に守らねばならぬことがある。それは基本的人権だ」と書かれています。 <基本的人権だけは、だんじて茶化してはならない。それは 一、 戦争や災害の犠牲者をからかうようなこと。 一、 特定の職業を見下すようなこと。 一、 民族や、国民、そして大衆をばかにするようなこと。> この三つだけはプロもアマも必ず守ってもらいたい・・・】 【漫画だけでなく何かを表現しようとする人間全てが忘れてはいけないことばだと思います】 と綴られていました。 今の憲法の最高法規の章に書かれた97条の基本的人権をそっくり削除しようとしている自民党の改憲草案。 差別発言を何度も行ってきた人物を重要ポストに据える岸田政権。 自民党に根をはったカルトの闇は恐ろしく深いと思わされる日々ですが、こんなときだからこそ、何度もこの基本的人権の原点に立ち返り、手塚治虫さんが訴え、矢部太郎さんが紹介している、このことばをかみしめたいと思います。
0003
立憲民主党・国対ヒアリング「旧統一教会問題」藤倉善郎さん・鈴木エイトさん
笹井明子
09/07 17:05
今日11時から行われた立憲民主党主催の国対ヒアリング「旧統一教会問題」の様子が、以下で見られます。 ツイキャス https://twitcasting.tv/chinami_niigata/movie/744429789 Youtube https://youtu.be/9HFuSRh7NNg ☆西村ちなみさんツイッター https://twitter.com/chinami_niigata/status/1567095942813466626 旧統一教会の何が問題なのか、これまで政治はどうかかわってきたのか、自民党は旧統一教会と手を切れるのか、切るつもりがあるのか、今自民党が行っている「自己申告」にはどんな意味があるのか、など、この問題の本質が、藤倉善郎さん、鈴木エイトさんの長年にわたる渾身の取材に裏付けられて、具体的に語られ、とても参考になりした。 また参加している立憲民主党、他の議員たちの質問も、旧統一教会問題と夫々が日頃取り組んでいる問題との関連で問うているなど、日々の活動の真剣さが垣間見えて、信頼度アップに繋がりました。 全部で1時間20分ほどと少々長いですが、お時間がありましたら是非ご覧ください。
0004
「次の内閣」設置の狙いは? 立憲民主党長妻昭政調会長インタビュー(東京新聞)
笹井明子
09/17 16:23
*** 立憲民主党が、泉健太代表を首相に見立てた「次の内閣(ネクストキャビネット、NC)」を設置した。要となるネクスト官房長官に就いた長妻昭政調会長に、設置の狙いや低迷する党勢の回復にどうつなげるかを尋ねた。 ―最も訴えたいことは。 「『政権を任せても大丈夫だ』と思ってもらえるように、NC(設置)を信頼醸成の第一歩にしたい。今すぐに政権を取れるほど期待が高まっているわけではないと理解しているが、準備をしなければ『万年野党』のままだ」 ・・・ ―NC設置は立民の源流となる旧民進党以来、5年ぶりだ。 「旧民主党の下野から数えれば10年がたち、緊張感が薄れている側面はあった。『すべての人に居場所と出番のある政治』『まっとうな政治』というわれわれの政治理念を高く掲げて内閣を倒し、国民のために戦う内閣を新たにつくりたい」 ・・・ *** (9月17日 東京新聞) https://www.tokyo-np.co.jp/article/202663 広島出身で、「保守本流」と言われる「宏池会」の岸田首相には、安倍政権による右傾化・身びいきでボロボロになった日本の政治を、少しは立て直してくれるだろうと、若干の期待を抱いたりもしましたが、ここに来て、岸田氏も自民党の派閥調整等、「党内論理」しか見えない視野狭窄に陥っていて、国会軽視、国民の暮らしへの無関心、等、自民党政権である限り、今までと何も変わらないことが明確になり、淡い期待は見事に砕かれました。 であるからには、野党第一党の立憲民主党を軸に、政権交代に向けた体制作りを頑張ってやってもらうしかありません。 この間SNS等を通して、立憲民主党にも、共産党、社民党、れいわ新撰組、他にも、しっかりした見識と意欲、実力を持つ議員や候補者が数多くいることが分かってきました。 立憲民主党・泉代表も、アチコチにいい顔をしたいようで頼りなく見えていましたが、ここに来てようやく「戦う内閣」の覚悟を決めたようです。 これからも各方面から様々な批判や中傷を受けながらの体制作りは大変だと思いますが、長年に亘り地道な活動を続けてきた長妻さんらと共に、「まっとうな政治」づくりの中心となる組織確立のために、頑張ってもらいたいと思います。
0005
フト思ったこと コモンズを考える
yo-chan
10/14 16:55
斎藤幸平氏の「人新生の資本論」をここの所、読んでいる。 資本主義の世の中を如何に上手に世渡りして行く上において、希少性を如何に上手に創出していくかが、重要であると述べられている。特にコモンズ(市民が共同して管理し共同で利用する例えば入会地や地域の水源等の共同財産的な物を指す)を如何に共同社会から奪い取り、そのものを希少性化させ富みを産む形に変える術を、持てる財力と権力を使って実行している人々が存在しており、彼らが我が世の春を楽しんでいる、というのが今の資本主義社会の世の中の本質であり、問題点であると斎藤氏はいう。 コモンズとはふんだんに存在するもの、例えば空気とか太陽の光とか水のような無償のものを指す言葉でもあり、氏は参加型社会主義という考えを提示し、市民による例えば共同組合組織によるコモンズの復権・取り戻しが今後の市民の行動目標になるとしている。 オリンピック開催時の不祥事に絡んだ元電通マンが、自社にコモンズの名前を使用しているという。彼のやっていることは本来の意味のコモンズの反対のことのように思う。 以下にある新聞に投書を試みた文章を載せておきます。 19世紀初めの政治家であり経済学者だったローダデール氏は特定の個人や複数人の利益の拡大は、通常は大多数の人にとって潤沢に存在し皆の共有財産として管理し皆で利用しているものを敢えて希少化することで生じさせた付加価値を奪う事により起こるものであり、大多数の人の利益の総和を結果として減少させる事態を生じさせるとした。ここで潤沢に存在し大多数の人が皆で管理し利用している例えば沼川や牧草地のような共有財産をコモンズと称している。 産業革命及び大航海時代・植民地政策等を経て西欧の資本家が世の中の仕組みを能動的に形作り始めた以降、古代・中世の世の中において大多数の人が生活基盤の拠り所としていたコモンズが囲い込み運動等により、一方ではコモンズの減少消失に繋がり、もう一方では地域の生活基盤の弱体化で働き場所を都市に求めざるを得ない労働者の増大へと繋がって行き資本家主義の世の中への流れが動かしがたい状況になった。そのキーワードがコモンズと言える。 先年のオリンピックの公式スポンサーの選定作業時の不透明な利権にかかわる捜査が進んでいる。元電通マンの会社名がコモンズという。上に述べたコモンズの歴史的意味合いから判断すると彼の捉えている意味合いに大いに違和感を持つ。彼にとっては、オリンピックは大多数の人が潤沢にアクセスでき参加できる行事だと捉えていたのではなく、飽くまでも希少化することで生じる利益を得るがためのものであったのだろう。コモンズ2なる会社まであったそうな。
0006
市民の声を届かせる
珠
10/16 13:43
昨夜のニュースに、「旧統一教会、政府調査へ 宗教法人法「質問権」を初適用」とありました。 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA153EM0V11C22A0000000/?n_cid=BMTR2P001_202210152135 「質問権を使った調査は解散命令の前段階で、違法行為を防ぐ狙いで設けている。これまでこの権限を使った事例はない。」とのこと。 これだけ自民党、そして現政府高官にまで食い込んでいる宗教団体を、政府が調査せざるを得なくなったのは、多くの市民の怒りの表明があったからでしょう。 親が教会員で、無茶な寄付をして生活が困難になった家庭の二世、三世たちが、必死の思いで声を上げています。 彼らだけに任せることなく、1人1人の声は小さくても、やはり声に出していくこと。自分たちの出来る範囲で、出来る人はそこを越えて、表明していくべきなのだとつくづく思います。 ここに署名のサイトも出ています。 https://www.tokyo-np.co.jp/article/203687
0007
フト思ったこと---機械対人間、対人サービスが機械一辺倒、これが進むべき方向なのか?
yo-chan
10/18 09:09
昨日、またこんな光景を体験した。場所は、都市銀行のATM。私の前の高齢女性が1台のATMから離れて行った。順番が来たと思いそこへ行った所、預入ボックスが開いた状態であった。リセットボタンをクリックして預入ボックスを閉じ、所用を済まそうとした所、通帳が出てきた。前の高齢女性の物であり、その人が少し離れた所に居たのが確認出来たので、まちがい無いことを確認して返すことが出来た、という体験だった。 また6−7年前に、こんな体験もしているのを思い出した。その時は東京駅の切符販売機械の場所。海外から来たと思しき人が購入を試みていた。しばらく苦闘の後、あきらめ離れて行ったので次の女性が購入を試みていたが、これまた不満そうに離れて行った。なにが起こったのか判らなかったが、順番だったので操作画面をみたら、英語バージョンになっていた。海外の人が英語バージョンで苦闘したのち、戻さずに離れたがために、そして次の女性は日本語の画面に戻すことが出来なかったがために、2人の方がストレスを溜めるだけの事態が起こってしまったということを体験した次第です。 かかる事態はひょっとすると日常良く起こっていることかもしれない。また何時かは私も同じ状況を作ることになるだろう。齢がすすむことで、また何らかの理由から同じ事態を起こすことは当然ありえる当たり前のことであるのであるから。 問題にしたいことは、人はいろんな場面でいろんなサービスを求める生き物であるのに対して、その受け皿の相手が段々と機械に置き換わっていっているのが近年の特徴のひとつだということです。 対人サービスを機械に置き換ることを推進しているのは、雇用人数を減らして人件費を減らしたい企業側の論理および機械・装置メーカー側のビジネスチャンス拡大の思惑とそれに応える霞が関官僚の思惑との合作というやはり財界の論理に基因するのであろう。 そしてデジタル化や情報化や機械化の推進が経済を成長させる動因であり、経済の成長無くしては、国家の発展はない、という経済成長至上主義の観念が財界・政界・役人・知識層・マスコミ全般に広く深くいきわたっており、それが故に市民までがそれに感化され同調する時代に入り込んでしまっているがための、状況なのであろう。 社会の発展・進歩そして人の幸福や豊かさの増進のための価値基準として、機械化の推進 のみを唯一の指針とする考え方は健全なものなのであろうか? あまりにも単眼的な考え方ではないのか? 電話の相手が先ずは機械音声ということが一般化している。こんなことが日々のストレスを積み上げる現代社会のどうしようもなさ、生きづらさを生み出している一つの原因だろう。 何故、人がサービスを求めて期待する相手が機械だけなのか、を一旦立止まって考えてみたいものと思うのだが? 効率性を追及する経済成長至上主義に逆行するかもしれないし、企業の利益率の足を引っ張るものかもしれないが、人の幸福や心の豊かさを維持し改善していくには人に対しては人がサービスをするという考え方は、欠かせないそして大切な社会の要素だと思うのだが。 そして参加型社会を、今後推進していくための雇用の拡大の1つの手段になるのでは、とも思うのですが? 何故に複眼的・多眼的な思考の大切さが弱体化していってしまっているのか?
0008
フト思ったこと---新聞クイズ欄の愚問、悪問、朝から気分を害する設問について
yo-chan
10/23 20:43
毎日曜日のクイズ欄を楽しみにしている。 71歳時点の自動車免許更新時の動体視力や運転技量試験はなんとかクリアし、5年間の免許は更新出来たが、75才到達時点の更新が来年に迫ってきている。 次は視力と運転技能に加えて、いよいよ認知機能検査が科せられることになるようだ。 そこで認知機能を最低限維持したいとの希望も込めて、尚更クイズ欄を楽しみにしている。 そんな折、今日のクイズ欄にはガッカリさせられ、気分も害される部分があり、少なくとも指摘だけはしておきたい、との思いから以下に記します。 クロスワードの設問に元S首相が何が好物か、と問うている。 こと欠いて何てツマラナイことを問いかけるのか?こんな事を話題にすることの愚かしさ、読者におかしな政治的バイアスを与えるという問題点をクイズ製作者は気が付かなかったのか? こんにちの有権者の投票行動のある部分は、どうやら、投票対象の候補者や政党が、どれだけ投票者にとって身近に感じられるか、TVや新聞・マスコミを通じて身近に知っているかに依存していると思われる節がある。 かかる考えに立てば、愚問と済ましてスルーすることは出来ないと思う。 新聞社とクイズ作者に自省を求めるとともに大いに反省を求める所である。
0009
フト思ったこと---新聞クイズ欄の愚問、悪問、朝から気分を害する設問について
yo-chan
10/23 20:43
毎日曜日のクイズ欄を楽しみにしている。 71歳時点の自動車免許更新時の動体視力や運転技量試験はなんとかクリアし、5年間の免許は更新出来たが、75才到達時点の更新が来年に迫ってきている。 次は視力と運転技能に加えて、いよいよ認知機能検査が科せられることになるようだ。 そこで認知機能を最低限維持したいとの希望も込めて、尚更クイズ欄を楽しみにしている。 そんな折、今日のクイズ欄にはガッカリさせられ、気分も害される部分があり、少なくとも指摘だけはしておきたい、との思いから以下に記します。 クロスワードの設問に元S首相が何が好物か、と問うている。 こと欠いて何てツマラナイことを問いかけるのか?こんな事を話題にすることの愚かしさ、読者におかしな政治的バイアスを与えるという問題点をクイズ製作者は気が付かなかったのか? こんにちの有権者の投票行動のある部分は、どうやら、投票対象の候補者や政党が、どれだけ投票者にとって身近に感じられるか、TVや新聞・マスコミを通じて身近に知っているかに依存していると思われる節がある。 かかる考えに立てば、愚問と済ましてスルーすることは出来ないと思う。 新聞社とクイズ作者に自省を求めるとともに大いに反省を求める所である。
0010
フト思ったこと---機械対人間 パート2
yo-chan
11/11 15:12
園児をバスに置き去りにする事件が社会問題になっている。昨日の東京新聞にこの話題が載っていた。 政府は園児バスに安全装置を導入することで対応するとして、来年4月から対策費234億円を予算案に計上したという。バス一台あたり18万円で、対象バスは5万台程という。 前回にも指摘したように、人が何らかのサービスを受けたいときには、そのサービスをしてくれる相手は人間であって欲しい、と思う. 機械音痴とか情報弱者と言われる人は多いと思う。また年を重ねれば誰もがそうなってくると思えばみんなにとっても切実な問題だろう。園児にとってもことは同じだろう。 今回のケースに対しては、果たして機械だけで安全性は担保されるのだろうか。相手は掴みどころのない幼児なのだから尚更懸念される。 どうして機械に頼り切らない対応策を考えようとしないのか、不思議でならない。 一方で、国民年金だけが頼りで生活に苦労が大きいという高齢者が多くいる。 またウ―バー等の不安定な職に携わっている人も多い。 例えば、園児バスの確認作業に先生だけでは難しいのであれば、機械だけに頼るのではなく人の目も活用する方が良いのではとの思いから、そんな場面に役に立つ善き仕事を必要とする人に提供するビジネスチャンスを何故発案しようとしないのか? 更に言えば、コンビニのトイレを一般に開放し、町のトイレ不足解消を狙った動きが以前にあった。 また障害者の横断歩道の安全向上策としてスマホにその場の情報を提供するシステムを構築する予算化を警察が検討しているという話が数年前にあった。 一方は人手不足が問題で進んでいない模様だし、もう一方は困っていて助けを求める人の相手が相も変らぬ,先ず機械という問題を抱えている。 何を施策化し予算付けするにも、先ずメ―カ―の仕事作りを、第一におもんばかっているとしか見えない現在のシステムを何とかできないものか? 血の通った温かみのある施策作りに汗をかく政党・政治家は何処にいるのだろうか?
0011
フト思ったこと---対抗する軍事力強化は至極当然な市民の安全を保証するものだ、の考えに竿を指してみたいが、かなり手強そうだ
yo-chan
11/24 21:45
NATOなみにGDP2%を目途に防衛力を強化するというアドバルーンが打ち上がっている。ウクライナ問題や北朝鮮の核ならびにミサイル騒動が日々話題になっている折り、市民の安全を確保するには至極当然な考えにも見えるが、市民の安全保障策として軍事のみに頼る論が先行する状況に敢えて異論を提示したい。 5つ程、異論のポイントがある。 1つ目は、お金のこと。5%UPは5兆円程に相当するという。政府の目論み通りGDPの2%へ防衛費が上がれば、いずれ消費税が2%をはるかに超える割合であがるだろう。 2つ目は、現在の5兆円が10兆円に上がることで、利権にたかる所謂白アリが喜ぶだけの構図が拡大することを、指をくわえて見るだけという閉塞感がまたまた募ることになろう。 また今日、官房長官がシェルター構想まで持ち出してきている。市民の恐怖につけ込んだ何時もの箱物行政の臭いがする。 3つ目は、軍事力競争というものは、そもそも経済力そして科学技術力に優るものが勝つに決まっている争いと言える。ある意味、産業革命・植民地獲得競争や革新技術開発競争等の場面において狡賢く立ち回り経済的に優位に立った組織程、勝ち残る世界を表している。そんな世界を拒否する考えがあっても良いのではとも思うのだが。残念ながら品性に基づく議論は軍事力競争批判の際には、迫力が無いことは承知の上で敢えて触れておく。 4つ目は、今回防衛に関わる費用増額の議論の中に先制攻撃力を加えるという考えも混ぜられている。お互いが先軍思想に走り、盾と矛との武器開発調達合戦を互いに繰り広げる状況は、双方の疑心暗鬼のなか何かのきっかけで戻ることが不可能な最悪状況に陥る可能性が生まれる危険な議論との認識が大切と考える。 核まで普通に持ってしまっている現代の軍事情勢のもとでは、血気にはやった一時の熱気位で即断して欲しくない問題と考えたい。 5つ目は、帝政下のドイツに生まれたユダヤ人哲学者レオ・シュトラウス(シカゴ大に奉じネオコンの祖と目され、毀誉褒貶の激しい面もある学者として知られる)の論説を紹介する形になる。彼の主張の一つは、近代社会に入った我々は“科学”と“哲学”とを分離し、しかもただ分離しただけでなく近代社会の我々は“科学”の側に軍配を挙げ“哲学”の方を追放しようとした、ということである。従って近代社会成立以降の革新的科学技術は“哲学的価値観”抜きの単なる”有用性”だけを利用して進んでいる社会といえる。この点が一つ。 もう一つの彼の主張は“思想の自由”に関することである。普通、“思想の自由”は至極当然で自明な基本的人権と思われている。しかしシュトラウスは“思想の自由”とは、大多数の市民にとっては、少数の弁論家や著述家たちが提示する幾つかの見解の中の一つを単に選択することにすぎないことだ、と主張する。ここにおいてもしも公権力が大多数の市民に提示される見解の選択肢の幅を恣意的に規制し、狭めた場合、どのようなことが起こるだろうか?と問うている。かかる状況のもとでは、大多数の市民にとって異論は存在せず、公権力の誘導する選択肢だけが唯一の正当なものと、大多数の市民が判断するのは至極当然のこととなる。即ち、大多数の市民は自身が自由な立場から選択を行ったと思うかも知れないが、実態は誤誘導の罠に囚われているという事態が懸念されるわけである。 だがこれは第一の局面の懸念だとして、シュトラウスはそれだけでは留まらない次の懸念もあると続けている。 第二の局面の懸念は次のような状況を指す。即ち第一の局面で、大多数の市民が公権力の誘導する見解を正当なものと判断し受容したとしても、そのお仕着せの見解に従わない真に独立した思考を持つ少数の人の存在まで根絶することは出来ない状況が残るだろうとシュトラウスは想定する。しかしその生き残った少数者の異論は、彼ら少数者の勇気や信念が如何に強靭であったとしても、また如何に人類の進歩による思想の自由の実現が期待されようとも、長く生き続けて行くことは困難だろうとしている。しかもその生き残った少数者の異論をつぶすのは公権力ではなく、公権力の誘導する見解を正当なものと判断し受容した大多数の市民が行うのだ、と論じている。 このシュトラウスの2つの局面に対する視点は、自民一党支配が長く続く日本の特異性を示唆する見解であろう。 “防衛力強化を検討する政府の有識者会議”の見解は、新聞・雑誌・TVとうのマスコミ媒体に踊る有識者や芸人らによる影響によって強化され、市民への浸透が加速されていくことだろう。これを食い止めることには、かなりの智恵を絞る必要があろうし、そうした上でも極めて困難なことと心得なければならないだろう。 一方、設立されたとされる、軍事力ではなく平和外交による安全保障を目指す「平和構想提言会議」には、一方に偏りがちな世論のバランスを取る為にも最大限の努力で取りくむことを期待したい。
0012
フト思ったこと−−−犯罪も戦争も不安や恐怖心を和らげるシステムが普段から有効に働いていることが大切。抑止システムだけを競い合うのは、逆に不安と恐怖心を高めるだけ。
yo-chan
12/21 11:07
得てして世の流れというものは、各国の「指導者層の都合」からの意見が飛び交う中の雰囲気を土台に作られていくもののように感じられる。ことに軍事や防衛構想等の話の場合、特に感じられる。 市民はただ単に指をくわえて、これを眺めているだけしかできないのだろうか? そんなこんなで今、日本では敵基地先制攻撃さえも容認する閣議決定がなされた。 また、こんな日本の動向に深い懸念を表明し続けている中国が存在している。 そして北朝鮮の脅迫的反応も出始めている。 更にロシアとウクライナ、そしてNATO・米国等の動き、台湾、中印等々いやな世の中の雰囲気が満ちているとも見える報道が続いている。 第三の道(アンソニー・ギデンス著、149−150ページ、1998年)という本にこんな記載がある。 「犯罪」が増加する要因に「日々の礼儀の乱れ」がある。それを最近の犯罪学は証明している。 犯罪の増加は困ったこと、市民は対策を取りたくなり、2つの観点から行動をする事になる。 一つは事前のそなえで犯罪を抑止できるように、例えば、鍵を余分に付けたり、窓に柵を付けたり、防犯カメラを設置したりするだろう。 もう一つは、犯罪に巻き込まれることの恐怖心を如何に克服するかの対策であり、警察に駆け込んだり、国によっては,市民は銃刀を用意するかもしれない。 しかし、第三の道の本がとりあげた学説【「犯罪」が増加する要因に「日々の礼儀の乱れ」がある。それを最近の犯罪学は証明している】は、犯罪の防止に有効な対策は普通見逃しがちな「地域の市民の日々の挨拶から始まる市民間の関わり合いであり意思の疎通」が大切だと言っている。 ここで「日々の挨拶」即ち「礼節」を期待するには、「衣食」あるいは「衣食だけでなく住の心配のない安定した職」が市民に足りていることも大切な条件になるだろう。 従って地域の「犯罪」を減らし、不安や恐怖におののく心配のない世の中作りは「安定した職」の提供システムと「日々の礼儀」の励行システム作りに如何に汗をかくか、ということが最も大切な行動目標となるだろう。家の鍵の心配や自衛手段に頼るだけでは決して充分ではないことに、留意する必要がある。 では、この学説の「犯罪」を「戦争」に置き換えてみたらどうなるか? この学説の趣旨から言うと、「戦争」を未然に抑止するにも、不必要な恐怖心にかられることから逃れるためにも取り組むべき大切な行動は「当該地域の国家間の、並びに各国の市民の間の日々の挨拶から始まる国家間・各国市民間の関わり合いであり意思の疎通」のための努力が大切だ、ということになるだろう。 そこで日本並びに近隣地域の現況を再度見れば、日本では敵基地先制攻撃さえも容認する閣議決定がなされ、こんな日本の動向に深い懸念を表明し続けている中国が存在し、そして北朝鮮の脅迫的反応も出始めている。このようなキナ臭い話のみが我々の周りを駆け巡っているだけなのである。 従って、これも繰り返しだが、得てして世の流れというものは、各国の「指導者層の都合」からの意見が飛び交う中の雰囲気を土台に作られていくもののように市民には感じられ、ことに軍事や防衛構想等の話の場合、特に市民には感じられる。 故に、市民はただ単に指をくわえて、これを眺めているだけしかできないのだろうか?と言う閉塞感に襲われるのである。 この閉塞感が引き起こされる大きな要因は、【大切な行動目標である「当該地域の国家間の、並びに各国の市民の間の日々の挨拶から始まる国家間・各国市民間の関わり合いと意思の疎通」の努力において、現在【国家間】の挨拶から始まる日々の関わりと意思の疎通が不足しているからだろう。 我が国に当てはめれば現政権は、市民が求める大切な行動を不充分にしかしていない、そしてバランスのとれた充分な行動をする意思も能力も無いと判断せざるを得ない。 だとすれば、我々市民が「紛争」の懸念を低減するには各国市民の間での礼儀が大切な行動目標である、との認識と意思を少なくとも明らかにし、そのシステム作りに智恵を働かせる必要があると思う。 幸いに世界中の市民の間の距離の壁はネット社会の現在なくなっている。 「戦争」という恐怖の根本に巣くう「疑心暗鬼」という妖怪は、封じ込もうという意思さえあれば世界中の市民から消し去ることも可能な環境は整ってきている。 世界市民が強い意思と智恵さえ発揮すれば。 そして「安定した職」の提供システムの重要性。 競争社会中心主義、革新技術推進中心主義という新自由主義のみが前面に押し出され、格差や不平等の発生が放置され、職業の不安定さも放置されている。 これらの問題にも現政権が、市民が求める大切な行動を不充分にしか出来ない、そしてその意思も能力も無いのであれば、職業の不安定さの改善に、我々市民が少なくともその意思を明らかにし、システム作りに智恵を働かせる必要があるだろう。 無論そのような意思も能力も無い政権には降りてもらい、ともに行動する政党・政治家を見いだす行動も大切でしょう。 そしてこれらの過程から生まれる話題や市民の動きを、世界中の市民が共有することこそが「犯罪」や「戦争」の恐れから遠ざかる本筋と思う。 市民が「人間の都合」からの意見を自由に述べ合う「場」の存在が今後必要なシステムと思っている。
0013
Re: 新聞記事などの紹介(第二十期)
コナシ&コブシ
02/27 09:59
このところの安保三文書の閣議決定とか、あまりに急速に軍事国家に向かっているようで、危機感を感じながらも消化しきれていない自分に歯がゆい思いをしています。 そんな時に、フェイスブックに書かれた三上智恵さんのメッセージを読みました。 三上智恵さんは、ご存じのとおり、すぐれたドキュメンタリー映画で、沖縄の基地の問題をそこに住む人たちの想いを掬い上げながら私たちに知らせてくれています。 ここから・・・ 以下に大事なことを書きます 今、長野県佐久市の皆さんとオンライン集会が終わって感無量 内容は,2018年の映画 「標的の島 風かたか」 以降 私がせっせと1人でカメラ担いで撮りちまちまと編集したもので マガジン9に上がってる動画を抽出してもらって一挙に1時間分見るという 斬新なスタイルでしたが 宮古島に弾薬が運び込まれ中城湾が戦車で埋まりシェルターに入れとはどういうことか? なぜ頭を抱えて避難訓練するまでになったのか? この一年の動きをまとめてみるだけでも私自身がまずすごく苦しくなった 全部現場にいたから 編集もしたんだから わかってるはずなんだけど消化できちゃいなかった だから胸が抉られる思いで過去映像なのに、衝撃だった ここまで,ここまできてしまったかと そしたら佐久市の会場の発言した方々七人のうち4人が泣いてしまった 言葉にならなくなって 佐久市といえば平和の取り組みがずっと盛んで 島袋文子さんを何度も招聘されて 沖縄の動きを即座に自分ごとにして活動を続けて来られた地域で だからこそ,なんだろう なんでここまでになったんだ? 南西諸島が戦場にされるそんな話が進んできてしまったのか 悔しいし、情けないしと喉を詰まらせて 何かしなければいけないと急く気持ちを表明された方も多かった それで,実は私は 年初から,今年は一本の映画をまとめる方針を固めて カメラマンたちと撮影体制を作って動き出している まだ秘密だったのだが映画として完成して宣伝もして各地の映画館に 準備をしてもらうのにどうしても半年近くかかってしまう そうでないと届けられないシステムそれは変えられないんです だけどそのときには沖縄が大変なことになってる可能性すら 考えなくてはならない状況なので この5年撮りためた私の映像だけでスピンオフを作ります お金と時間をかけず今沖縄で起きていることをちゃんと正視してもらわないと 日本がどんな危機にあるのか わかってもらえないならまとめて見せないといけない 今日のイベントのように まとめてみるとイヤでも見えてくるものがある なので新たな作品を作りながら並行して 30分程度のスピンオフ動画を今月中に作ります 上映してくれるグループには無料で渡します 目的は単純です 1.危機感を共有してもらうこと 2.進行中の撮影へのカンパも募ること 次作を公開する前に 今撮ってるのを出しちゃうのは?? というご意見もあると思いますが 私は素晴らしい映画の監督に なりたいのではなく「戦争を止めたい」んです そこははっきりさせたい 映画祭で評価を受けたいわけではない なぜ沖縄が犠牲になるのか? なぜ戦争に向かう国の動きにほとんどの国民が見てみぬふりするのか? 止められるとしたら今しかないけど? 効果的に伝えられる人が伝えている人が少なすぎる だったら私がやります、というだけの人間です だから,しょぼい映像でも1人で撮り続けてきたんです それを繋ぎ直しますからみんな、それをみるために集まってくれませんか? キャラバンで10人ずつで一つのパソコンで見る でも良いです 身の回りの何箇所かで三上智恵のスピンオフ作品 これみて、見ざる言わざる聞かざるをやめて 何かしないといけないよねって 考えようよ! と集まり直すキッカケにしてもらえませんか? 今思いついて今書いてるから 暴走気味かもしれないけど みんなで集まってそれを見たい!という希望者にお渡しする動画 映画にする前の野菜の乱切りみたいなものを 作りたいと思っています その映像ください! キャラバンやる!という方は個別で良いので連絡ください。 ここまで・・・ 朔のような場所があったら、みんなで集まってみたいな、と思いました。 どこかで、機会を持てたらいいですね!
0015
必勝しゃもじ 戦争肯定
猫家五六助
04/10 00:53
東京新聞・「ミラー」投稿欄、男性(63歳、東京都在住)の方の投稿を転載します。 ********「必勝しゃもじ 戦争肯定」************ 戦争は勝負ではない。「殺し合い」だ。その当事国の国家元首に「必勝」と書かれたしゃもじを贈る岸田首相の幼児性は際立っている。どう考えても無意味な「戦争」という愚かな行為を、まるで「後押し」するかのような行動原理は何に支えられているのだろう。 そしてもう一点。岸田首相が無能で無恥なのは、もう一方のロシア国民のことがすっぽり頭の中から抜け落ちていることだ。 戦争を進めているのはあくまでもプーチンという独裁者とそれを取り巻く政府、軍部のナショナリストたちであり、兵士の中には戦争に嫌々駆り出され、ましてロシアの犯罪と言うべき、不条理なウクライナ侵攻を忌避し、戦争で死にたくないと思っている無辜(むこ)の市民がどれだけいるか、ということを全く考えていない。 いくら「ウクライナのがんばりに敬意を表して」などと言っても、それは、本来は一般市民であるロシア兵の戦死を肯定することと同義だ。岸田首相は「ロシア兵を殺せ」と言っているに等しい。こんな人物が総理大臣をやっている日本って何なのだろうか?こんな恥知らずを支持する国民が四割もいる国って、一体どうなっているのか? 「戦争における戦士の死、国民の犠牲」に一切目を向けず、いらぬ防衛費強化を独断で決め、先制攻撃さえ厭(いと)わないという平和憲法をないがしろにする方針にフォーカスする岸田内閣。そんな自民党政権が続く限り、この国は破滅へと向かうだけである。 ********************* 私も「必勝しゃもじ」には強い違和感を持っていた。簡単に言えば、「何をはしゃいでるの?バカだろ!」と。こんなにも軽薄な男とは思わなかった。 大平洋戦争を経験された世代の方々も苦々しく思っているのではないか。必勝旗、必勝たすき、千人針、寄せ書き、そして必勝しゃもじ。これは必勝アイテムとして日露戦争に際に発案されたという。 今どき、謎かけめいた答えを「日露戦争」に求める岸田首相。どうせ、右傾化した人々に頼まれ、人気取りに仲介したのだろう・・・と邪推する。本人が発案したならば、管義偉を超え、安倍晋三の次に「クズ総理」と呼びたい。
0016
誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜NHK
蔵龍隠士
04/16 04:58
誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜NHK https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/VG6R7M2KK3/ ◎初回放送日: 2023年4月15日 ◎【再放送】2023年4月20日 午前0時から60分 偶々、初回放送を見たものですから。再放送をご案内したくて。 ☆ご参考までに 死刑廃止 - 著名人メッセージ:団藤重光さん(東京大学名誉教授、元最高裁判所判事) https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/dandoshigemitsu.html 團藤重光 ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%98%E8%97%A4%E9%87%8D%E5%85%89
0017
争点はある。何故無風化してしまうのか?
yo-chan
04/17 10:21
中央区の区長選に現職以外、立候補者が立たなかった。 自民の強い区ではある。が、何故野党は論戦を挑む機会をみすみす手放してしまうのか? 争点はあるし、また作るものであると思う。 例えば、区の進める東京駅周辺の再開発に代表される都市部行政の生態系に対する基本姿勢の問題を追求する絶好の機会と捉えることが出来る。 東京都には檜原村がある。そこで林業に取り組む若者らがいる。 林業は、農業とほぼ同じ道をたどらされているのが、我が国の状況である。 檜原村の若者はいう。丸太の林業は成り立たない。40年50年経った立木(1m3程)一本が売値1万円程。若者が管理する25ヘクタール程の林地から伐採が可能な立木は80m3(立方メートル)と国際的な森林管理基準(ForestManagement:FM認証制度)は規定する。従って丸太の森林経営に固執したら、年間80万である。 彼は補助金助成金も活用しながら丸太の林業だけでは林業は成り立たないとして、従来山に捨てていた残材部分(1/2の部分が市場価値無く打ち捨てているという)の利用に目を向け、彼は木のおもちゃの分野に活路を見いだそうとしている。 都市部の大半の人は、林業は国際競争に巻き込まれ、経済の視点から競争力は林業にはない、と結論付け、自動車・電気・機械という競争力のあると称される業界の国際間の交渉のための1枚のカードとして都市部の大半の人は、林業を切り捨てている。 彼だけではないだろう。農業同様に、森を守ることの重要性を生き方や考え方の第一義に置くことを選択して困難の中、森のなかで苦労している人は多いと思うし、これから増えていってほしいとも思うところである。 1950年ごろまでは、森に働く場をおき従事する人は50万人程だったという。 今は4万人程に減ってしまっている。この数字が我が国の林業とそして現在の森の姿を表している。1950年代から始まった植林運動。いまでは森の木も70歳を頭に50歳から60歳の高齢化が森にも進みつつあるという。手の入らない森は、人と同じように病気になりやすくなる。 このあたりの問題は、公金の研究でさらに見ていく予定なのでここまでとします。 表題の「争点はある」といったポイントは「都市部の大半の人は、林業は国際競争に巻き込まれ、経済の視点から競争力は林業にはない、と結論付け、競争力のある業界の国際間の交渉のための1枚のカードとして都市部の大半の人は、林業を切り捨てている。」という考え方・思考法だけが助長される区政であって良いのか、という点です。 無投票再選の現区長は令和5年の予算一般会計1483億9376万4000円のなかで 「水とみどりあふれる豊かな環境を未来につなぐまち」作りの施策として「都内連携による森林保全活動の推進」として226.4万円を計上しています。 森林保全活動の推進は大切な施策です。 でも1483億からの予算の226万円。0.00015%です。 森を預かる人々から期待されている区の行政が取り組むべきことは、それ以外に多くの視点があるはずです。 例えば、カナダでは木材利用の多角化を目指し、低層(1−2階)以外の中層(3−5階)高層(6階以上)のビルの木造化に向けた技術開発・建築基準の検討が進められており、 既にカナダ全州で木造6階建てが建てられるようになっているという。 まさにこういった視点の論争を区の行政にかかわる選挙に期待したいのである。 無投票再選という事実を目にして選挙民としてつくづく対立勢力の不甲斐なさに忸怩たる思いを募らせるところである。 「都市部の大半の人が、経済の視点からは林業には競争力がない」と結論付けている市民に対し、大切な見方や考え方や取り組む必要のある別のこともある、と訴える機会にもなったと思うと非常に残念な事態です。
0018
養老孟司氏の想いの記事を読み、フト感じたこと。
yo-chan
05/02 10:35
養老氏の想いがPresidentOnline記事(みんな、体の声が聞こえなくなっている)に紹介されている。普段から興味が有り調べながら取り上げている話題に繋がる部分や参考になる部分も多々あり、氏の言葉を中心に、私見を交えた形で氏の想いを紹介します。 資本主義はマクロに見ると終わろうとしており、そのトップを切って、脱成長期に入っているのが我が国だ、と養老氏はいう。経済学者の水野和夫氏や佐伯啓思氏らも同じ認識を主張している。 その上で、次に望まれる社会として、例えば江戸時代の庶民のコミュニティに既に存在していた小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会を挙げている。 そしてそれぞれの小規模なコミュニティが自立していくには、エネルギーの自給自足を追求することが大切な一つの手段だとし、岡山県真庭市のバイオマス発電に触れている。 また養老氏は、手入れがなされ生かされている里山の自然とその中で自然と共生する社会の姿にもスポットライトをあてている。 氏の考える手入れをして生かしていく里山の自然のなかには森も含まれ、それぞれの小規模なコミュニティが自立して行く上で、いくつかの方向性を提示している。 一つはエネルギーの自給自足策としてのバイオマス発電。 木の伐採の際、その約半分は森に残されることが多く、その後の製材場においても更に持ちこんだ50%分の半分の25%分は商品価値なしと見なされ、伐採木の合計75%は利用されていないのが現在の林業の実態である。バイオマス発電は利用していない部分の活用という森林利用の拡大策の一つであり、そこで生まれる雇用機会をも考えると小規模なコミュニティの自立手段の一つになるだろう。 またエネルギーの自給自足策としては、太陽光もあり、また小水力や小規模な風力さらに地域によっては地熱や潮力利用策もあるだろう。 【今すでに眼前にある日の光・風や川の流れ等のエネルギー資源を、小規模なコミュニティが自給自足策として利用していくには眼前のエネルギー資源を現地で実際に利用可能にする技術開発を手掛ける小規模事業体の存在が求められると予想する。市場サイズから大企業が参入し、取り組むには無理があろう。これらの小規模エネルギー資源の利用・活用分野も小規模なコミュニティが自立して行く上での望まれる活動の一つであり、森林内での伐採や製材場までの移送および必要な路網作り等の林業活動にかかわる自動化・機械化・効率化のための技術開発も小規模なコミュニティにかかわる小規模技術開発事業体の存在と活動が求められる、と考える。そして必然的に安定した職も発生するだろう】 二つ目は、事業としての林業の再認識。 戦後の一時期価格が高くなり(1960年代国産材は国際価格の3倍だったという)林業が上手くいくと思われたが、1970年にアメリカの圧力で関税が撤廃されて、3分の1の価格の外材が入って来るようになり、国産材の需要が激減。今は国産材を使った建築物に補助金が出る所もあるが、採算が取れる山林経営は大変なことになっている。 この認識のもと養老氏は、やはりビル建設等への木材利用を拡大していく方向性を確実にしていく努力が小規模なコミュニティを自立に導いていく上での重要な要素とし、CLT (CrossLaminatedTimber)のような合成材の紹介をしている。 使い易い木は60〜80年育ったものとされるが、ここの所CLT(CrossLaminatedTimber)のような合成材技術が進み、40年程の木も使えるようになっている。 スウェーデンでは、この合成材で4階建てや5階建てのビルが建てられている。日本でも消防法が少しずつ変わり最近は木造のビルが建てられるようになってきている状況である。 森林を守り利活用していくには、森林の計画的・合理的な維持や管理が第一に大切。しかしそれだけでは充分でなく、木材を加工する技術の開発を進めるとともに、消防法を含む法律を木材の利用性拡大に繋がるように変えていく必要がある。そして最終的には国産材が選ばれ売れる環境作りまでを構想に入れている総合的なプロジェクトが求められる。 小規模なコミュニティが自立して行くには、コミュニティ内の智恵と努力とともに、大多数の都市の市民の理解と応援が大いに必要となるところです。 三つ目に、養老氏は現代人の都市観と自然観とを論じている。 現代人の都市観と、それに対峙するものとしての自然観を、養老氏は次のように表現している。 「僕は都市化するということは、自然を排除することで、脳で考えたものを具体化したものが都市だと言ってきました。都市の反対側に位置するのが自然です。」 養老氏のこの考えを私流に言い換えると次のようになります。 「都市化を至上の目標とする人々が考える自然というものは、対峙すべきもの、排除すべきもの、支配し利用すべき対象であり、そして都市化を志向し、そこに邁進する人・組織の作りだす具体物としての都市というものは、彼らの脳が考えだしたものである」 養老氏は、人の脳が考えだし、作りだすものに対しては極めて懐疑的であり、否定的な姿勢をもっていることに特徴があるようで、上記の現代社会の都市観そしてそれに対する自然観には同意するところですが、例えば氏が記事の中で語る「終わってしまった資本主義の次の社会として、社会主義はうまくいかないであろう。それは脳が考えた社会体制であるから」、という部分には違和感があります。しかしこの部分だけを抜き出して氏の考えを評価するのは拙速とも思うので、この点は保留しておきます。 しかし養老氏がいう、「人が手を入れて生かしてきた里山の自然の中に、これからの社会のヒントがあるのではないか、そして子供も大人も、自然寄りに暮らしたほうがよい」としている主張には大いに首肯するものです。 小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会をどのようにして形成していくか、そして応援していくかという考えと、そしてその中に、子供も大人も自然寄りに暮らすほうが良い、という思想をどう組み込んでいくかという過程が、望ましい社会の一つの形として養老氏は思い描いているのであろう。 その手段として、エネルギーの自給自足、木材利用の拡大に繋がる総合的なプロジェクトを主張しているのだろう。 そして子供も大人も自然寄りに暮らすことが可能な場所として、手入れが為され続ける里山や森林や田園に目を向けることの大切さを都市に暮らす人々に主張しているのだろう。里山や森林や田園等の自然環境には大きな教育力や情緒に繋がる生命力があることは、養老氏だけでなく、おコメと農業にこだわりを持っていた井上ひさし氏も説くところである。 そのような里山や森林や田園等の自然を背景に持つ無数の小規模なコミュニティを育てていく手段としては、エネルギーの自給自足と木材利用総合プロジェクトに加えて、食と住の分野は省けるとして、医療と教育の都市部との格差問題そして里山や森林や田園地域での安定した職の創造と提供が極めて重要な問題点となるであろうと考える。 私案になるが、安定した職の創造として2つ程あげてみたい。 一つは、バケーションの実態。特に欧州に見られる1−2週間をかけて家族皆で都会を離れて休暇を楽しむのに対し、我が国はせいぜい2-3日の家族旅行。かけている費用はそれほどの違いは無さそうな実態。 里山や森林や田園等優秀な教育力と治癒力をもつ自然を背景に持つ無数の小規模なコミュニティは、そのコミュニティの育成・活性化の手段として、この観点での受け皿作りを考えてもよいと思うのだが。 もう一つは終の住まい方に関連するもの。都市部の高齢者は終の住まい方において、その人数の多さの故に、そして都市部では特に3世代をまたぐような大家族制が困難になり、小家族が当たり前になって久しい。従って老老介護の問題や誰もが利用可能な受け入れ施設不足が問題となっている。終の住まい方についての思いは人それぞれに違いはあるだろうが、選択肢の一つとして、終の住み家を、里山や森林や田園等優秀な教育力と治癒力をもつ自然を背景に持つ小規模なコミュニティ内に設ける運動というものも非常に魅力ある ものと思うのだが。 小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会を育んで行く上,で都市部に住まいする人の考え方が非常に大きな重みをもっていると言えます。 前に紹介したハーバード大のセミナーの中でKuo氏は「全面ガラス高層ビル等の現代建築物が西洋の経済発展のイメージに直結したもの、進歩と力を象徴するものと捉えている世の風潮がある」と主張している。我が国においてもこの風潮があるのは事実であろう。 森林を守り利活用していくこと、それを通じて無数の小規模なコミュニティの自立化を図って行くこと、そして子供も大人も、自然寄りに暮らしていける場所を作って行くという総合的なプロジェクトの進展にはこの風潮のみが大勢を占める状況は、改善の余地のある世の中だと言える。Kuo氏は、従来とは異なる進歩と力を象徴する別の形式が創造される必要を問うている。 養老氏の想いは、その別の形式の価値観の創造に役立つものだと思う。
0019
5.3市民意見広告「戦争回避が政治の役割!大軍拡・改憲に反対します。」
笹井明子
05/04 16:15
憲法記念日の昨日、朝日新聞(全国版)朝刊、信濃毎日新聞朝刊、読売新聞(全国版)朝刊の3紙に、恒例の「5月3日、市民意見広告」が掲載されました。今年のメインタイトルは「戦争回避が政治の役割!大軍拡・改憲に反対します。」、サブタイトルはずばり「平和」です。 今年の主張は「大軍拡がいのちと暮らしを脅かす」「平和憲法をもつ日本ができること」「「戦争できる国」にさせない」「非戦の未来を選ぶ」の章分けで語られています。 詳細は以下をご覧ください。 https://www.ikenkoukoku.jp/archives/813/ この市民意見広告運動は、2003年5月に「イラクへの攻撃と有事法制に反対する」趣旨でスタート。以来、憲法記念日に誰でも参加できる「紙上のデモ」として、憲法9条や25条の真の実現を通して平和を訴える「意見広告」を新聞紙上に掲載し続け、当初の2095件だった賛同件数も、今年は10,337件にまで伸びているとのことです。 https://www.ikenkoukoku.jp/about/ https://www.ikenkoukoku.jp/news/826/ 「老人党・護憲+」も長年にわたり参加しており、今年も賛同者に名を連ねました。画像の文字「平和」の「平」の下の線と中の線が交わる辺りに名前があるのですが、分かりますか?
0020
生態系の崩壊を抑制する法律を間に挟んで、EUと農民との間に意見の対立が起きている
yo-chan
05/31 16:31
生態系の崩壊を抑制する法律を間に挟んで、EUと農民との間に意見の対立が起きている DeutscheWelle 2023年5月26日 TimSchauenberg氏記す 気候変動の事象を泥炭地の視点から考えることは見過ごされやすいものだったと思います。 DeutscheWelleに格好の記事がありましたので紹介します。欧州の泥炭地ということで温帯から寒帯地域の泥炭地の場合を考える機会となります。 一方、インドネシアに特徴的にみられる熱帯地域の泥炭地の状況や課題については別の機会に紹介したいと思います。 気候変動のスピードを抑制することを目標に、EUは農業の生産活動から生じるGHG(温室効果ガス)排出を抑制すること、そして土壌の持続可能な利用を促進することを目指して新たな法律の成立を検討している。この新たな法律にはCO2の貯蔵庫であるピートランド(泥炭地)の復元が含まれていることから、もとピートランド(泥炭地)だった土地を利用している農民らの働く場が失われるとして批判も起こっている。 欧州地域のグリーン化を促進し、気候変動が進行する中で地域の生態系と生物種の保全を目指す自然復元法(NatureRestorationLaw)は2022年6月にEC(European Commission)により初めて導入されているが、排水された元は泥炭地だった土地を復元するという内容を含んでいることから政治的に抵抗を受けている。 法案が成立すると以前は泥炭地、今は農地になっている土地の30%は10年内に元の泥炭地に復元し、別の利用法に変更が求められ、さらに2050年には30%を目途の復元面積が70%にまで引き上げられることになっている。 農民団体は貴重な耕作地の大規模な減少に繋がる法案として懸念を訴え、一方法案擁護者らは泥炭地が地球温暖化のスピードを鈍化させる上で有効な手段であり、EUが掲げるパリ協定の目標達成には必須のものだと主張している。 湿地帯の一つの形の泥炭地と言うものは、数千年にわたり大量の植物の死骸が水面下に貯留することで形成されており、他の如何なる生態系よりも大量の炭素を貯えていることを特徴としている地帯である。 地球規模で見ると泥炭地は全陸地の3%程を占めている。一方泥炭地が貯留する炭素量は地球上の森林全体が吸収する炭素量の2倍程を貯えている。 ここで泥炭地を排水し、農業の様な何らかの利用をその地で行うとすると、泥炭地はCO2貯留地ではなく、反対に温暖化ガスの大きな発生源地域へと変わってしまうことになる。 欧州全域のGHG排出量の7%分が排水された泥炭地及び湿地帯からの排出の結果である。そしてこの量は欧州全域の工業活動からの排出分に匹敵するという。 養分が豊富で生物多様性にも役立っている欧州の泥炭地の面積を合計するとドイツほどになる。その半分以上が回復困難なダメージを既に受けている(ドイツでは90%近くがダメージを受けているという)。 スカンジナビアやバルト海諸国に存在する以前は泥炭地だった場所は、現在は森林として主に利用されている。オランダ・ポーランド・ドイツでは排水された元泥炭地の大半が現在農地になっている。ドイツでは全耕作地の約7%は元泥炭地であり、現在全GHG排出量の37%が農業からものである。 ドイツ北西部にある研究機関(GreifswaldMireセンター)のHirschelmannさんは、パリ協定を確実に順守するには排水された元泥炭地での農業を廃止して、paludiculture(再度湿潤化した泥炭地を利用した農業)に投資するといったパラダイムシフト(paradigm shift)が求められると言っている。 一方欧州議会の保守グループ(欧州民衆党、EuropeanPeople’sParty)は今回の泥炭地復元法の効力を大幅に削ぎ取ることを狙っている。そして農業目的の土地利用から農業以外の目的への土地利用の変更にも反対の立場である。また欧州農業団体のCopa−Cogecaは今回のEUのグリーン法案の経済的および社会的欠点を警告している。即ち排水されていた元泥炭地の再湿潤化は欧州の農業生産性を大幅に低下させることに繋がり、食料の安定確保に危険をもたらすとしている。 これらの主張に対してグリーン法案擁護者らは長期的にみればこの法案は欧州の食料安全保障に資するものだと主張する。即ち欧州環境・海洋・漁業委員会のSinkevicius委員は、この5月初めに「多くの神話があるのは事実だが、グリーン法案には多くの利点が農民に対してあるのも事実である。土壌の肥沃化、日照り災害の減少、保水力改善、受粉活動の増大が例である」とツイートしている。 また緑の党の欧州議会議員のPaulusさんは「農民は常に排水した元泥炭地に換金作物を栽培することで短期的利益を最大化することを選択するものであり、一旦排水した元泥炭地を再度湿潤化した土地で農業活動を行うことはしたくないのである。それ故に、農民に対して補償等のインセンティブを行うことが当然の考え方になる」と述べている。 野心的な法案を擁護する人は、利益の出る農業と湿潤地への復元策とがお互いに利益が相反する関係である必要性はないと指摘している。 欧州委員会の計算によれば、天然の資源を復元するのに投資される1ユーロの金は長期的に見れば少なくとも8倍の8ユーロ分の経済的リターンが見込まれるとしている。 再度湿潤化した泥炭地は、穀物(grains)やコーンのようなものを単一栽培するには適していないものの、GreifswaldMireセンターも含まれる多くの研究機関が1月に公表したPositionPaperによると、再湿潤化泥炭地は他の作物の生育には適している可能性はあるとしている。 再湿潤化し復元した土地には、樹木や牧草やアシ・ヨシを栽培することは可能であり、これらアシやヨシは建築向断熱材またはプラスチック代替用有機素材として利用できる。 また牛の代わりに水牛が再度湿潤化した泥炭地で飼育できる日が来るかもしれないとしている。
0021
原発はやっぱり怖い
珠
06/12 21:23
過日、護憲+の会に参加されたメンバーから、お礼とお知らせが届きました。皆様、ぜひお聞きください。 ――――― 福島原発に関する最新情報です。 私は先ほど、聴きました。 非常に怖くなりました。 西谷文和 路上のラジオ「震度6強でフクイチ1号機倒壊?」森重晴雄さん https://youtu.be/YtVAfs7FhZQ ―――――― 福島原発については、こうした情報と楽観的な情報との間に乖離がある。もちろん日本に原発が存在する以上、何もなく落ち着いていけば助かると思うが、そうもいかないのでは?と、皆も薄々気づいているのではなかろうか。 それでも直視しても、自分ではどうにもできないと思っているかもしれない。確かに地震や津波といった自然の起こす災害自体は、私たちは何ともできない。でも、それが起きた時に少しは災害を小さくすることはできるのではないか。 例えば福島第一原発は、一部の学者が指摘していたように、万一を考えて電源施設を高台に作っておけば、かなり防げたかもしれない。 しかし、原子力は果たして人間がどこまでコントロールできるものなのか。何も起こらなければ大丈夫というのは、コントロール出来ていることにはならない以上、原発を廃止する方向を目指すことしかない。 福島第一の事故後にドイツは脱原発を目指した。現存のエネルギーに今は頼りつつも、方向性を自然エネルギーに切り替えたことで、問題になっている効率性などの研究も進むだろう。 日本の「原発は安上がりだ」という論は本当だろうか? 国土の喪失も含め多大な損害を引き起こし、後始末さえまだできていない(果たしてできるのか?)福島のような万一の事故を除いても、毎日出てくる放射性廃棄物の後始末や、老朽化しての解体コストまでを入れたら、赤字になるだろう。米国は原発の高コストをきちんと認めているそうだ。 国家予算すなわち税金からの原発へのつぎ込みは、他の電源開発とは比べ物にならない。また、予算をつぎ込んでいる放射性廃棄物の再処理システムは、失敗しているのが現状だ。費用対効果だけを考えても「再処理の成功は無いだろう」というのが世界の方向。原発は安くない。 そろそろ私たちも、原発に税金をつぎ込み、国民を放射能の危険にさらす政治家を選ばないようにする。つまり脱原発の方向を定めても良いのではないだろうか。 参考 ドイツの電力事情 https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20230425.php 原発推進派の原発コスト計算 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/nuclearcost.html 原発ゼロ・エネルギー転換戦略のコストへの言及 https://energytransition.jp/strategy/qa/nuclear 原発の本当のコスト 39ページありますが、ぜひご一読を。 https://www.foejapan.org/infomation/news/110419_o.pdf
0022
今年11月末からドバイで開催のCOP28会議の意義について
yo-chan
06/21 09:32
COP28ドバイ会議に先立つ補助会合(科学技術に関する補助会合と実施に関する補助会合)が6月5日から15日の期間ドイツのボンで開催された。 初の世界規模での棚卸(global stocktake)が行われる重要な会議と位置付けられている。 ドイツボンで開催されていた会議に関する記事がDeutscheWelleにあり、それを紹介するとともにCOP28ドバイ会議をよりよく理解するために、昨年のエジプトCOP27の簡単なおさらいもしてみたいと思う。 DeutscheWelleの記事(2023年6月15日、MartinKuebler氏記す)の題名は、 「気候変動:世界規模の棚卸とは如何なるものか?」 以下に大略を記します。 気候変動交渉担当者らによる10日間にわたったボン会議が終わった。 緩和(mitigation)と順応・適応(adaptation)への取り組みに対する資金問題が厄介な課題だということが浮き彫りになって来ている。 国際気候行動ネットワークのHarjeetSinghさんは「ボン会議で、年末のドバイ会議(COP28)の方向性が決まって欲しいと思っていた。これ以上の遅れを認めることは出来ず、残念な状況だ」と語っている。そして技術的面では多くの進展があったとした上で、更に続けて「調整が難しい課題が残っている。それは、現在と過去において温室効果ガス排出の責任を負っているのは誰だ?ということであり、誰が気候変動の流れを止めて逆転させる行動に要する資金を提供するのか?ということであり、そして気候変動が原因で起こり続ける破壊的な影響に順応・適応(adaptation)する取り組みに要する資金を誰が提供するのか?ということである。開発途上国は選択に迫られている。即ち限られた資源の下、途上国では“人々の生計を選択すべきか、太陽光技術への投資を選択すべきか”を毎日求められている」と指摘している。 Singhさんは、今後世界が正しい軌道に乗るか、破滅への道に向かうのかを決めるのは 「資金(finance)」と「公正(equity)」についての議論だと主張している。 今回のボン会議は、“科学技術と実施とに関する補助会合”的色彩を持つことからグローバルサウスを代表するSinghさんの主張を展開する議論はこれ以上なく、またもう一方のグローバルノースの考えもこの記事には紹介されていない。今年11月末から予定のCOP28ドバイ会議では「資金(finance)」と「公正(equity)」についてグローバルサウスとグローバルノースとの間で厳しい議論が展開されることになるだろう。COP28ドバイ会議をよりよく理解するために、昨年のエジプトCOP27を紹介しているDeutscheWelle(2022年11月9日Jennifer Collins&HeatherMoore両氏記す)を簡単におさらいしてみます。 COP27:気候変動対策の資金は何処からくるか? 「資金(finance)」と「公正(equity)」がエジプトのCOP27の中心議題だった。 低収入諸国は富裕国に対して、化石燃料に依存しない未来図への行動を資金面で支援すること、そして温暖化により発生している損出(damage)の代金の支払いを支援することを要求している。 そのような温室効果ガス排出削減の行動向けの資金(finance)や温暖化が進み日照りや洪水といった損失が発生する事態への順応・適応(adaptation)対策に必要な資金として、毎年数兆米ドルが入り用だと、グローバルサウスは言っている。 これらの状況を背景に、エジプトCOP27の時点で課題として提出されていた“資金”に関するポイントをまとめて見ると 1.2009年COP15:先進国が2020年までに年間1000億ドルの拠出を約束した件 この件に対する2022年末の時点での予測では、先進国は2023年まで公約を果たさないだろうと言われている。一方今回のCOP27においては、2025年を目標により高い資金計画案の合意を求める動きもあるという。 2.緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF) 気候事象に脆弱な低収入諸国へ1000億ドルを投入する一つの方策であり、再生可能エネルギーへの移行を支援し、農家の日照りに順応する種子への転換とか、熱波に対処する都市部の緑化促進等を支援することを目指している。民間企業、公共機関や市民社会組織は、資金調達のためにGCFの認定を受ける必要がある。国連の専門家らが1200億ドル規模のプロジェクトリストを公表しており、そのグリーンエネルギーや作物の順応化等を含むリスト案は投資家らから支持される可能性が高いと見られる。 3.自主的な炭素市場(voluntary carbon markets) 多くの低収入国は炭素クレジット市場を利用して資金を調達したいと考えている。ケニアのRuto大統領が、炭素クレジットはケニアの次の有望な輸出品と語っていることに代表される。国連でも最近の報告書(IntegrityMatters:NetZeroCommitments by Businesses, Financial Institutions, Cities and Regions)で炭素クレジットは低収入国が気候変動対策資金を調達するのに役立つだろうとし、ただし購入者が自身の排出削減行動を回避するために炭素クレジットを利用することの無いように注意すべきとしている。自主的炭素市場組織のGold Standard財団のHewlett最高技術責任者は「自主的な炭素市場は、COP27の他の資金メカニズムと同様に必要な資金の全てを提供するものではない」としている。 4.損失損害基金(loss and damage fund)による補償 洪水による破壊や不作による生計の消失など気候変動による破壊に対する支払いを支援することを目的とする特別損失損害基金の創設を低収入諸国は永年に渡り主張している。 ケニアのRuto大統領は「損失と損害の議題は、際限なく対話を続けるような抽象的な話ではない。数百万のケニア人、数億人のアフリカ人が毎日のように経験している悪夢だ」と主張している。 またナイジェリアKebetkache女性開発資源センターのOkonさんは、歴史的に化石燃料の持つエネルギーを解放利用することで現在の気候変動の主因と目される温室効果ガスの大半を排出し、その結果技術力と生産性とで世界を凌駕し、経済を発展させてきた富裕国が一方で存在する。そして温室効果ガスを歴史的にほとんど排出していないにも拘らず気候変動による犠牲のみ強いられているアフリカの現在の構図が一方で存在している。 損失損害基金による補償は、富裕国による「援助(aid)」と見るべきではなく、富裕国がグローバルサウスから奪ったものを返す一種の「賠償金(reparation)」と見るべきと主張している。 これに対して、富裕国側は特別な形の損失損害基金の創設の考えに長く抵抗してきており、その理由は富裕国側に莫大な資金を負わせることになるからとしている。 そしてこの損失損害基金の議題は、今年初めてCOPに公式に認定されている。 5.債務軽減(debt relief)と債務自然スワップ(debt-for-nature swap) 低収入諸国に対する気候変動対策資金の多くは、助成金(grant form)ではなく融資(loan)の形で行われている。このloan形式だと、すでに債務を多く負っている国々は更なる債務に陥る。これを避けるためアフリカや島嶼諸国等多くの国が何らかの形の債務軽減を求めている。 債務自然スワップ(debt-for-nature swap)または債務気候スワップ(debt-for-climate swap) が打開策の一つになり得ると主張されている。これらの方式には、国の債務の一部を免除し、熱帯雨林やサンゴ礁などの重要な天然資源を保護するための保全計画に投資することが含まれる。 カリブ海コミュニティ気候変動センターのBynoeさんは「各国が何らかの形の救済策で合意しなければ、気候問題上の不公正さは深まるだろう」と主張している。そして「私達は既に多くの債務を抱えており、これ以上の債務は私達にとっては、ほとんど持続不可能な状況をもたらすことだろう。」と言っている。 IMFは2022年8月19日に途上国の対外債務(debt)と気候対策の実施を交換(swap)する債務気候スワップ(debt-for-climate swap;DCS)方式が、先進国からの贈与援助等より効果的である、と発表している。 対外債務(debt)の負担に悩まされるグローバルサウスは、温室効果ガス排出削減の行動向け資金(finance)と温暖化による損失が発生する事態への順応・適応(adaptation)対策向け資金として毎年数兆米ドルが入り用だと主張している。 一方富裕国は「援助(aid)」より債務気候スワップ(debt-for-climate swap;DCS)方式が有効との小手先の経済の技術論に誘導しようとし、そして規模も1000億ドル程度の議論となっている。 そしてグローバルサウス側は、富裕国がグローバルサウスから奪ったものを「賠償金(reparation)」として取り返す機会だと見ている。 資金(finance)と順応・適応(adaptation)と「公正(equity)」に関する現時点での世界の認識には大きな隔たりがある。COP28ドバイを見据えての今後の動向に注目したい。 再度DeutscheWelleの記事(2023年6月15日、MartinKuebler氏記す)「気候変動:世界規模の棚卸とは如何なるものか?」に戻り、紹介を続けます。 COP28ドバイは、世界で初めての「世界規模の棚卸(global stocktake)」の機会となる。即ち2015年のパリ協定の目標へ向かって、世界各国がそれぞれ独自に設定した目標(nationally determined contributions)を世界で初めて「世界規模の棚卸(global stocktake)」 を行う機会(進捗状況を総点検する機会)となる。 この棚卸は5年ごとに実施されることになっている。 棚卸が成功できるかどうかが、COP28ドバイが成功したかどうかを決め、そしてまた最終的には2030年の目標を我々が達成できるかどうかを決めることになるだろう、と国連気候変動担当責任者のSimon Stiellさんは言っている。 世界規模の棚卸のアイデアは2015年のパリ合意から生まれ、そこには世界各国が、どのように温室効果ガス排出を削減するか、変化する世界の影響(impacts)に、どのように順応していくか、そして気候危機に対処するのに必要な資金をどのように確保していくのかを定期的に点検していくかの方策が組み込まれている。 世界規模の棚卸の目的は、各国に対し説明責任の訓練の場を提供すること、各国の設定した目標の定期的な確認作業の場を提供すること、次に何処へ向かう必要があるか、を考える場を提供することであり、そして併せてパリ協定の目標達成のためには、どれだけ迅速に行動する必要があるかを理解する場を提供することだ、とStiellさんはいっている。 2021年に始まり今年2023年の初めに終了した第一段階では排出量・順応への取り組みや各国の国家気候行動計画(Nationally Determined Contributions;NDC)に関する最新データの収集が含まれている。 第二段階の技術評価は今回のボン会議で終了しており、ここで専門家と気候変動担当者にCOP28での議論に先だってデータを評価する機会が与えられた。 最終的な総括報告書は9月に予定されており、世界がパリ協定の合意目標達成から、どれだけかけ離れているのかを示し、そして改善が必要な点に関するアドバイスの提供がなされると見られる。 Singhさんは今までのほとんどの国際協定には、定期的な見直しと、将来を見据えた計画を策定する機会を可能にする世界規模の棚卸作業のようなプロセスは無かったという。単なる技術的なプロセスに留まらずに野心的な行動につながる意味あるものに確実にしていきたい、としている。 非営利団体Climate Works財団のHelen Mountfordさんは、今回の棚卸が気候変動事象の今後の行方、我々が真に住みやすい将来を確保できるかどうかを決める重要な10年の期間における決定的な転換点になる作業の場を提供することになるだろうとしている。 そしてSinghさんは「タイミングが極めて重要である。我々は科学者から既に情報をもらっている。そして何が必要なこともわかっている。今や大切なことは政治的な方向性であり、これこそが世界の指導者らが提供する必要のあることである」という。
0023
22日23日にパリで開催されていた「新しい世界金融協定」に向けたサミットについて
yo-chan
06/26 09:17
2日間にわたり、40人の国家元首と1500人にのぼる参加者が集まり「新たな世界金融協定に向けたサミット」が金曜日にパリで終了した。 閉幕記者会見でサミットを主催したマクロン大統領は「この2日間で、我々は地球の為の新たな合意を構築することが出来た。我々は国際金融構造とガバナンスの抜本的な改革に向けた道筋を構築する共通の政治的見解を詳述する文書を作成した」と述べ、不平等との戦い、そして気候変動への対応という我々が直面している二重の課題に対し、大きな転換点になったと主張している。 先日の記事「今年11月末からドバイで開催のCOP28会議の意義について」の直後に早速マクロン大統領がドイツのボン会合を引き継ぐようにパリで開催した2日間にわたる会合の要点を紹介したい。 出典はDeutscheWelle;PakistanDawn; CapitalNewsKenya。 今回のサミットの成果だ、と主張されている部分を中心に、そして指摘される問題点も紹介したいと思います。 そして普段彼らの意見を読む機会がすくないと思い、ケニアのWilliamRuto大統領の話を最後につけています。 (成果と主張されている部分と指摘される問題点) 1. 1000億ドル規模の特別引き出し権(SpecialDrawingRights,SDR)を途上国へ移転 SDRとは、IMFが保有する通貨へのアクセスを途上国に提供し、通貨と交換ができる権利のこと。途上国に、この権利の移転が可能となる状況が生まれたことを、パリに本拠をおく気候ベンチャーキャピタルのIsabelleAlbertさんは今回のサミットの具体的な成果の一つと指摘している。 2. サミットの参加者らは、途上国の気候変動対策を支援する1000億ドルを拠出する2015年設定の目標が今年達成される可能性が高いことを予測している。 3. 多国間開発銀行(MultilateralDevelopmentBanks,MDB)の融資能力の拡大 今後10年間で、バランスシートが最適化され、より多くのリスクが取られることが予想されることから、多国間開発銀行(MDB)の融資能力が全体的に増加し、2000億ドル規模になるとの予測が為されている。今後の改革が実施されるとMDBはより多くの資本が必要と見込まれ、より多くの資金を注入する必要性のあることを富裕国が初めて認めている。 4. ジャストエネルギー移行パートナーシップ(JustEnergyTransitionPartnership,JETP) これまで大半の資金提供は特定のプロジェクトに向けられてきた。より大きい効果を資金提供に持たせるにはより体系的なアプローチが望ましいと考えられ、ジャストエネルギー移行パートナーシップ(JustEnergyTransitionPartnership,JETP)の取り組みがその第一歩だった、と捉えられている。 このJETP投資スキームでは、富裕国は化石燃料に依存する途上国を支援してクリーンエネルギーへの転換を図り、そして転換過程で生じる社会的影響に対して手当てするというものである。2021年11月以降、南アフリカ・インドネシア・ベトナムの3つのJETPが締結され、セネガルが今回のパリサミットで4番目のJETP国となった。 5.2020年に債務不履行となっていたザンビアの63億ドルの債務の再編についての合意 この件でアメリカと中国とが、長らく対立していた。この件で大半の債権をもつ中国は世界銀行やIMFなどの金融機関に対し,損出の一部を吸収するように求めているが,金融機関や西側諸国はこれに反対している。 6.今回のパリサミットの大きな成果として富裕国側が、途上国も意思決定プロセスに加わることが重要である、ことに理解を示したことだと気候経済委員会委員長のロレーヌ大学Damette教授が言っている。 7.Damette教授を始めとして多くの人が、特にアメリカとG7が主導している世界銀行とIMFが現在の差し迫った課題に取り組む組織としては不適格になっているとして広範な改革が必要だとしている。殊にトップダウンアプローチ手法の両組織の体質が問題視されており、パリに本拠地を置くシンクタンク気候経済研究所のClaireIEschelierさんもボトムアップの手法が合理的としている。 8.今後10年間で、多国間開発銀行(MDB)の融資能力が全体的に増加し、2000億ドル規模になるとの予測が為されており、したがって富裕国がより多くの資金をMDBに注入すると見込まれている。この件に関し一部の気候変動活動家はこの構図に批判的な人もいる。例えば気候アクションネットワークインターナショナルのHarjeetSinghさんは「気候変動対策を強化するには多額の財源が緊急に要求されることは理解できるが、現在の構図は民間投資に偏りすぎている」と指摘している。 9.WindCapitalのAlbertさんは、パリサミットは正しい方向への第一歩ではあるが今後我々が公正な移行を確実に達成できるかどうか、は今後の数カ月、数年の行方を注視する必要があるとしている。今回の合意が今年末のドバイCOP28の成功につながるよう期待したいと述べている。 次いでパリサミットにも参加したケニアのWilliamRuto大統領の話を紹介する。出典はCapitalNewsKenyaからです。 Ruto大統領は先ず世界的な融資システムが不公平であり、懲罰的なものであり、全ての人に公平なチャンスを与えるものでないと、主張する。 現在、貧困国はリスクの大きい借り手と位置付けられ、富裕国より8倍高い金利を設定されている、という。 それでも彼は「ケニアは施しの資金援助は望まない」とした上で、次のように語る。 「人は平等な存在だとする構図・絵柄を好まない人々も居る。そういう人は得てして我々アフリカ人は絶えず支援が欲しいと言い続ける状況の続くことを願うものである。だが我々は“気候変動の被害者だ”や“施しを”といった不平をいう話には飽きあきしているのだ。」 「我々アフリカ人は支援を望むのではなく、気候変動を含めて現在の課題解決に関与したい。」 またRutoさんは、ケニアが開発援助よりも民間投資を呼び込むことを望み、そしてIMFと世界銀行の改革を要求している。そして途上国の債務管理の再考を支持し、海上輸送と航空輸送及び金融取引に対する国際税の導入を支持している。 ケニアは債務返済に年間100億ドルを支払っている。もしもこれを国の発展に使えるならば、これは迅速に利用可能な、とても大きい国の資源となり、莫大な効果を発揮するものになるだろう、とした上で、世界銀行やIMFを含む国際金融機関に借りている借金が20年間猶予付き50年ローンに変換されさえすれば、この我々の希望する構図は実現可能なのである、とRutoさんは主張している。 ケニアの希望する構図は、借金から逃げ出すのではなく、返済スケジュールの変更を指摘しているのである。 アフリカの人々の中にはロシア進攻後、ただちにウクライナに数10億ドル規模の支援が実施される一方で気候変動問題に対する富裕国側の鈍さに苛立ちをしめす動きも見られる。Rutoさんも「ウクライナは我々が直面している気候変動という問題に比して大きいものではなく、我々は他の全ての問題を脇においてでも気候変動に一致して対処すべき」としている。 Rutoさんはアフリカの気候変動問題に関して強力な姿勢をもっていて、9月初旬にケニアでアフリカ気候サミットを主催する意向である。 Rutoさんは、気候変動対策の請求書の支払いは富裕国だけとする考えには同調しない。我々全員で支払いたいとしている。その理由は、我々は現在の気候変動問題に緊張感を持ち続けていたいし、炎上する世界に常に目を向けていたし、そして関与し続けていたいからである。
0024
海図なき海原に向かって:海洋温度が記録的高温に
yo-chan
07/13 11:40
海図なき海原に向かって:海洋温度が記録的高温に The Guardian 2023年4月8日 Graham Readfearn氏記す 現在、世界各地で異常気象が報道され、そして私達自身も体温を超える気温の中での暮らしを強いられています。かかる状況の中、見た目の事象の根っこの部分の要因を捉える姿勢が、今現在およびこれから我々が生活していく上での大切な指針を与えてくれるものと思い、若干古い記事ではありますが、人新世の加速化時代に伴う海水温の異常についての記事を紹介します。この4月ごろに他にも多くの同種の記事が出ております。敢えてここではThe Guardianを取り上げましたが特に選択に意図はありません。 科学者らが更なる海洋熱波を警告している。これにより極端な気象事象の増大につながる恐れを指摘している。 世界の海洋表面温度はサテライトを利用して観測されているが、記録を取り始めて以降で最高となる海水温を記録した、と米国政府機関が報告し、海洋熱波につながる恐れを指摘している。 国家海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration;NOAA)からの先行データによると、海洋表面の平均温度が、4月のスタートとともに2016年に記録していた過去の最高温度21℃を超えて21.1℃になった、と気候科学者らが語っている。 「現在進行している道筋の方向は、予測が出来ない状況であり、過去の記録を塗り替えつつある」とNew South wales大学のMatthew England教授が語っている。 3年にわたる太平洋のラニーニャが温度上昇抑制に役立っており、増大する温室効果ガス(GHG)の作用を弱めてくれていた。 しかし科学者らは今や海洋表面は熱で暖められ始めているとし、今年後半に発生が予想されるエルニーニョ(6月9日気象庁はエルニーニョ現象が既に発生していると発表している)を指摘して極端な異常気象のリスク拡大と更なる地球温暖化記録更新拡大を警告している。 NOAAのMike McPhaden博士は「三段底を記録した最近のラニーニャは収束を迎えている。この長く続いた寒冷期は、大気中のGHG増加にもかかわらず地球表面温度上昇を押し止めていた。ラニーニャが今や去り気候変動の兆候が強くそしてハッキリと現れてきている」と語っている。 熱帯の太平洋の中央部そして東部の冷却と強い貿易風とで特徴付けられるラニーニャの時期は地球に冷却の影響が出る。一方エルニーニョの時期は海洋温度が通常より上昇し、地球温度を上げることになる。 観測データは大半がサテライトからの観測値だが、船やブイを使っての観測データからも裏付けられている。そしてデータには極地のデータは含まれていない。 化石燃料を燃やすことや森林伐採推進の結果発生する新たに追加されるGHG排出分に基因する過剰熱エネルギーの90%以上が海洋に吸収されている。 昨年発表された一つの研究によると、海洋中に吸収され蓄積される熱エネルギー総量が加速度的に増大しており、そしてより深い所まで侵入しているとし、結果として極端な気象事象の火に油を注ぐ形になっているとしている。 この研究の共同研究者のEnglandさんは「我々は今、海洋表面温度が最高記録を達成している状況を目撃している。このことは我々にとって緊急警報がなっていることであり、我々が世界の気候システムに人間の活動の足跡を拡大しているということを示す極めて明らかな証しである」と語っている。 海洋表面から2kmの層の観測データは、この海洋の上層部に急速に熱エネルギーが蓄積されていること、そしてそれが1980年代以降、特にその速度が上昇していることを示している。 米国国立大気研究センター(US National Center for Atmospheric research)の著名な研究者のKevin Trenberth博士は観測データが、熱帯地帯の太平洋の熱エネルギーが100m以上の深くまで拡大していることを示していると語り、そしてこの熱エネルギーが海洋上の大気に効果を波及して、より大きな熱エネルギーを大気の気象事象に供給して海洋熱波を形成する原因となっているとも主張する。 UNSW気候変動研究センターの助教授のAlex Sen Gupta博士は、サテライト観測データによると海洋表面の温度上昇が1980年代以降ほぼ直線的に生じていると語っている。 「ラニーニャ現象が発生していたにもかかわらず、最近の3年間が暑かったということは極めて驚くべきことで、そして現在も暑さ記録が更新されている」と語っている。 少なくとも5日続けて、温度がその時期の年間記録の上位10%範囲に入る海域を海洋熱波発生域としているが、現在の観測データによると「中等程度〜強度の海洋熱波」がいくつかの地域で見られるとし、それらがインド洋南部、大西洋南部、アフリカ北西部沖、ニュージーランド周辺、オーストラリア北東部沖、中央アメリカ西部であるという。Sen Gupta博士によると、同じ時期にこの様に多くの地域に海洋熱波が観測されるのは極めて異常だとしている。 海洋熱波は局地的な気象条件に左右される部分がある一方で、研究によると海洋が暖められるにつれて海洋熱波はその頻度と強度を増大させることが認められており、人間の活動 を基因とする地球温暖化の予測される進行状況につれて海洋熱波の問題が悪化していくことが見込まれる。 より暖かい海洋が、大気中により多くの熱エネルギーを風雨に供給することで暴風雨化し、併せて氷床の融解の促進を行うことにより、海面の上昇をも促すことになる。そして海水の温度上昇はそれ自体、海水の熱膨張を引き起こすもので、この点からの海面上昇も加わることになる。 海洋熱波は海洋野生生物に壊滅的な影響を与え、熱帯のサンゴ礁・サンゴの白化を引き起こす可能性がある。実験によると海洋温暖化により食物連鎖に根本的な変化が起こり、藻類(algae)の成長が促進される一方で、人間が食べる種類は減少する可能性があると指摘されている。 Monash大学の気候科学者のDietmar Dommenget教授は人間が引き起こす地球温暖化の兆候は海洋中では、よりハッキリと姿を現すと語っている。 「明らかに我々は迅速に進行する温暖気象の中におり、そして類例を見ない新しい記録を観察している。我々の大半はエルニーニョの発生を予測している。エルニーニョが発生すれば、我々は新しい記録を海洋でも陸上でも観測することになるだろう。そして我々は現在既に記録が達成されているのを見ているし、今年後半には更に多くの記録が生まれるだろう」とDommenget教授は語っている。 海洋温暖化が大気の異常気象を誘発する側面の最近の話題を紹介しましたが、コインの裏側に海洋の酸性化という大きな問題も隠れて存在しています。海洋の温暖化も海洋の酸性化も海洋野生生物の生態系に大きく影響する事柄になります。 いろいろな視点から人新世の加速化時代に伴う異常事象の根っこの要因を紹介していきたいと思います。
0025
Milletsは現在直面している危機を解決する賢い主要穀物の一つとなりえるか?(その1)
yo-chan
07/24 14:48
Milletsは現在直面している危機を解決する賢い主要穀物の一つとなりえるか?(その1) 今年は国際millets年(International Year of Millets)。 インドが主導し、国連が宣言し、2023年の1年間を使って世界の人々にmilletsの良さを知ってもらおう、認知度を高めたいとの思いが背景にある。既に半年が経過し、後半に入っている。インドや国連になり替わりとまでの大仰な気持ちはないが、取りまとめて紹介するに値する良さをmilletsが明らかに持っているとの思いから以下に紹介します。 何故に国際millets年が設定されたのか?の理由を考えることから始めてみます。 理由の一つは、milletsの生育条件・生育能力が、今まさに我々の世界が直面している危機の解決の方向性と合致していること。即ち我々がmilletsを取りこみ、活用していくことが異常気象下の我々世界の危機を軽減し、少なくとも望ましい方向へと導いてくれるだろうということ。 そしてもう一つの理由は、milletsが含有している栄養成分に、我々現代人(特に都市部にすむ人々)の多くが直面している健康上の危機を軽減する働きがありそうだ、ということ。 以下一つ一つのトピックを見ながら紹介を進めていきます。 1.Milletsの範囲 今年が国際millets年(International Year of Millets)と敢えて書いてきております。 理由は日本と世界との間にmilletsの範囲に違いがあり、日本で使用されている国際雑穀年(人の心に訴えかける力の無い、情けないネーミングと思っています)の中の雑穀を敢えて避けて国際millets年と書いてきております。 そこでまず、雑穀とMilletsとの関係を調べてみました。 日本雑穀協会によると、雑穀は時代背景や主食の変遷につれて変化してきたものとした上で、現在の雑穀の範囲は次のものを含むものとしている。 キビ・アワ・ヒエ等のイネ科作物 オオムギ、ライムギ、ハトムギ、ソルガム等の主食にしていないイネ科作物 大豆や小豆 キノア、アマランス、ソバ等の擬穀 ゴマ、エゴマ、アマニ、ヒマワリの種 黒米、赤米、緑米等の有色米、そして玄米・発芽玄米や玄米胚芽 トウモロコシ、小麦全粒粉と小麦胚芽等々 一方、国連FAOによるとmilletsを次の様に規定しています。 小さい穀粒の乾燥地帯にも生育可能なイネ科作物で多数の種類がある。代表としては Pearl、Proso、Foxtail(アワ)、Barnyard(ヒエ)、Little、Kodo、Browntop、Finger(シコクアワ)とGuinea(ホロホロアワ)そして黒と白のFonioおよびSorghum(ソルガム)がある。 即ち日本雑穀協会が雑穀の範囲としている上位2種の雑穀のみを、世界はMilletsとして考えていることになります。 どういう呼び名でmilletsを表すか、といった名称の問題はある意味、課題と掲げる活動 即ちmilletsを上手く社会に浸透させたい、と考えた際に事が成就するかどうかを決めかねない非常に重要な要素となり得ます。事実、例えばインドの財務相は演説中milletsを”Shree Anna(穀物の母)”と呼んでおり、さらにインドは現在「nutri-cereal(ニュートリシリアル;栄養価の高い穀物)」と呼ぶようにしているようです。 日本も国際millets年(International Year of millets)を本気で社会に浸透させたいのなら、全ての人々に訴求する良い呼び名をまずは考えることから始め、国際雑穀年なる訴求力の無いネーミングは避けるべきだったと思っております。 2.世界のMilletsの現状は? 次いでmilletsの世界の生産量と消費実態をみてみると、 FAOによると、2021年の総生産量は3008万トン。インドが1293万トン(約43%)。他の主要な産地は中国とナイジエリアとなっております。 この2021年の世界の生産量の傾向は、少々の変動には目をつむって大胆に言えば1960年代以降現在まで、ほぼ同じ状況が続いていると捉えることが出来ると思います。 そもそも世界の生産量の傾向を調べようとしても、的確な情報がネットに載せられていない状況があります。Milletsはやはり家畜の飼料か、せいぜい小鳥の餌との認識が特に多くの先進国(先進国・開発途上国と言う区分け・ネーミングも積極的には使いたくないと思っています)で支配的だった故と考えております。伝統的にmilletsを食糧と捉えていたアフリカやアジアの事情は世界の先進国の視界には全く入ってはいなかったのでしょう。 ついで消費実態をみてみる、FAOが世界のMilletsの利用実態を教えてくれている。 その1992〜1994年の期間の平均として利用実態をみると 世界総生産量は2831.4万トン(食用2228.9万トン,飼料193.6万トン,その他409万トン) 途上国総生産量は2650.9万トン(食用2177.6万トン,飼料96.6万トン,その他376.7万トン) 先進国総生産量は180.5万トン(食用51.3万トン,飼料97万トン,その他32.3万トン) 因みに アフリカの総生産量1118.8万トン(食用867.3万トン,飼料18.7万トン,その他232.8万トン)、アジアの量1528.4万トン(食用1310.3万トン,飼料74.8万トン,その他143.3万トン) 世界総生産量の94%程が途上国で生産されており、途上国の人々が世界総生産量の77%近くを直接食用としている実態が浮かぶ。先進国はほぼMilletsを当てにしておらず、小鳥の餌を含む家畜の飼料と見ているのが実情のようだ。 以上、生産量の観点ではmilletsの世界には、大きな変化がないと言えるが、消費実態については注目しなければならない動きが1960年代以降のインドで起こっていた。 それはインドの人々の一人あたりのmilletsの消費量であり、HindustanTimes2022年7月28日Increasing production and consumption of milletsによると、1962年の32.9kgから2010年には4.2kgへと大幅に減少している。 インドが世界最大のmillets生産国であり、今年を国際millets年とする運動を推進した国でもあるが、インドにおけるこの内実の変化は大いに注目しなければならない事柄であり、国際millets年である2023年以降に改善していくべきインドの目標の一つであろう。 動きが乏しいと見られがちな世界のmillets事情のなかでの注目すべき、もう一つの点にアフリカにおけるmilletsの動向がある。 ニジェールでは、穀物総消費の約75%がMilletsで占められ、そしてサハラ以南の他のアフリカ諸国もMillets の消費が30%以上になっており、近年Millets の消費が増える傾向にあるという。 因みに日本のMillets消費は年間200t程。その大半が飼料用という、正に日本はアワ,ヒエ,キビは小鳥の餌程度の理解で停止してしまっている国と言えるでしょう。 インドにおける内実の変化を先に紹介したが、この原因を次に考えてみたい。 それはインドをも巻き込んだ1960年以降の世界を覆った緑の革命(GreenRevolution)の影響であった。ある意味2023年を国際millets年とした背景要因に緑の革命の功罪があったとも考えられます。次に緑の革命を紹介します。 3.インドの緑の革命 1947年の独立後、インドの食糧事情は自給自足できる状況ではなく、PL-480プログラムのもとアメリカから穀物を輸入していた。穀物の輸入によりインドの飢えは緩和されたが、インドの外交政策上の自由度に困った影響を与えることとなった。 インドは食糧の自給自足化を目指す政策に取り組むこととなる。 土地改革だけでは農業に変化をもたらすことが出来ず、農業発展には政策上のパラダイムシフトが必要とされた。そのためにインドは新農業戦略(NewAgriculturalStrategy,NAS)に進んでいった。電力確保と灌漑設備化のため、ダム建設に既に取り組んでいたインドは新農業戦略において、緑の革命への取り組みに誘導する施策を農家に対し整えて行った。 即ち緑の革命の取り組みには、肥料・灌漑設備・高収量(HighYieldVariables,HYV)種子等のかなりの初期投資が入り用であることから、農家へのクレジットの拡張をおこなった。 4.緑の革命(Green Revolution,GR)の歴史 インドにおける緑の革命の展開に進む前に緑の革命の歴史を簡単におさらいしておきたい。 緑の革命の出発点は、1940年代のメキシコで始まった耕作法の革新とされる。 当時Borlaugさんは、メキシコで高収量品種小麦の開発を展開しており、近代的農耕法(化学肥料・農薬の多用・灌漑設備・農業機械の活用等)を併用する条件の下で、高収量HYV種子の特徴が最大限に発揮されることを見いだした。事実メキシコは1960年代には、小麦の一大輸出国に転換した。 この新しい技術を世界に拡大することを目的としてRockefeller財団とFord財団そして多くの政府機関が研究開発に資金を投入した。メキシコはその後に国際トウモロコシ小麦改良センター(CentroInternacional de Mejoramiento de Maiz Trigo, CIMMYT)を1963年に作っている。 米の方は1960年にRockefeller財団とFord財団の支援のもとフィリピンに国際稲研究所(International Rice Research Institute,IRRI)が設立された。この研究所で1960年代に作り出されたのがIR8と呼ばれた米の改良品種であった。IR8は灌漑と化学肥料とを組み合わせると、1株当たりより多くの米粒が実るというものであった。 5.緑の革命が成功するための必要な構成要素の存在 緑の革命とは、外部から資源をタイムリーに、そして適切に投入することを前提にしている農耕技術に基礎を置いている。この外部から投入する資源についてみてみると、 高収量種子の使用が先ず前提とされている。この高収量種子は矮性種子(Dwarf varieties of seeds)と呼ばれ、大量に投入される肥料の栄養分が小麦の穀粒に向くように、そして葉や茎にはあまり向かわないように設計されている。そして、肥料の栄養分に関しては、従来の堆肥では栄養素含有濃度が低いため緑の革命農耕技術には不充分とされ、高濃度のN,P,Kを含有する化学肥料の使用が条件づけられた。 よって大量に投入される化学肥料の栄養分は、優先的に小麦の穀粒に向きそれにより収穫量は向上する一方で、栄養分が茎には向かわないように設計されている為に背たけは伸びず背の低い状態になり、風雨による倒伏被害も避けられることになる。これが緑の革命農耕技術の一大特徴と言える。 緑の革命が、小麦と米というその生育に水を大量に必要とする作物を選んだことが、必要以上に灌漑設備を整備することが、緑の革命が成功するかどうかを決める重要な構成要素に繋がったと言え、灌漑設備の整備の必要性も緑の革命農耕技術の特徴の一つと言える。 また除草剤・殺虫剤・防菌剤等の化学薬剤の大量使用も緑の革命農耕技術の特徴と言える。 6.インドにおける緑の革命の功罪 インドが緑の革命に取り組んだ背景には、3番目の項目(インドの緑の革命)で触れたように、独立後のインドの食糧事情特に1960年代の早い時期に人口増大圧力が高まり、自給自足できる状況ではなく、厳しい飢餓の恐れが生じていたことが大きかったと思われる。 そしてアメリカの農学者NormanBorlaugさんのメキシコで展開していた高収量小麦品種の開発の動向であり、その成果としてメキシコで1950年代の半ばには明らかな小麦の収穫増大が起こっていたこと、並びに1960年にRockefeller財団とFord財団の支援のもとフィリピンに国際稲研究所(International Rice Research Institute,IRRI)が設立された等の事情も大きく作用していたと思われる。 以下に緑の革命の功罪を紹介する形で緑の革命について考えていただければと思います。 (1)緑の革命のプラス面 ・飢餓が減少し、多くの農家が貧困から救われた。 ・主要穀物の小麦(20年で生産量は3倍化)と米(生産量は2倍化)の生産性が向上したことから、PL−480を通じて穀物をアメリカに依存する形態から自給自足に変えることが可能となり、インドの外交上のフリーハンド性は高まり、そして外貨準備金の蓄積を大幅に増やすことにつながった。 ・緑の革命は、農業向けトラクター・エンジン・シュレッダーやポンプ装置等の機械産業を育成する効果があった。結果としてインドの産業化にプラスの貢献をした。 ・モンスーン時期の水を貯えて利用するダムが建設されたことにより、水力発電電力が産業の成長を促進するとともに人々の生活改善に役だった。 ・緑の革命の結果、地方の中産階級が生まれ、彼らは後に子弟の教育に投資することに結び付いた。 (2)緑の革命のマイナス面 ・繰り返される作付けとその強度が増大されることで、土壌の肥沃度が低下する。 ・チューブ式井戸の加速度的利用の拡大により地下水位の低下が起こる。 ・肥料、殺虫剤、除草剤使用量の拡大により土壌の汚染と、毒性化が進行し、広範な水質汚染と地下水汚染が発生する。 ・農場の生態系を歪め、環境悪化を引き起こす。 ・農薬の過剰使用による、ガン・腎不全・死産・先天性障害の発症の増加 ・浸水事例の増加による、マラリア発生率の増加がおこる。 ・緑の革命に合わせて始まった農業補助金制度が現在政府の財政に悪い影響を与えている。 ・緑の革命の高コスト性のため、コスト支払いが出来ない小規模な限界農家が発生している。一方資金余力のある農家は緑の革命の利益を得て、新たな支配層を形成するという地域社会における不平等が促進され、格差の拡大が問題化している。 ・耕運機・トラクター・脱穀機などの機械化により、従来これらの農作業に従事していた人々の職が失われることとなった。 ・豆類、milletsや油糧種子の生産は無視され、その結果現在インドは豆類と油糧種子は輸入する必要が発生している。 ・作物の遺伝形質の多様性が世界的に低下する傾向を緑の革命は助長した.。 7.第2次緑の革命の必要性をインドが考える理由 これまでの緑の革命を第1次緑の革命と呼ぶと、第1次緑の革命は明らかに飢えを救い、 貧困を減らし、生活は改善し、インドの産業化にはプラスの貢献をし、インドの外交上の 自由度は高まり、そして外貨準備金の蓄積を大幅に増やすことにつながるという目を見張る素晴らしい結果をもたらしたことは事実である。 その反面、第1次緑の革命を遂行したが為に不都合な部分も生じていることも緑の革命のマイナス面で紹介したとおりである。 かかる背景から、インドは第2次緑の革命の必要性を考えているという。その必要性の理由は次の点である。 (1) 第1次緑の革命から余り恩恵を受けていないBihar州WestBengal州等幾つかの州などに特に焦点をあてる必要がある。 (2) 小麦と米とは別に、豆類、油糧種子やトウモロコシなどにも焦点をあてる必要があり、更により高い食料の自主性を目指す必要がある。 (3) 環境に調和した、持続可能なシステムで第2次緑の革命は遂行する。食糧安全保障は、土壌の肥沃度低下や地下水系の汚染進行や水位の低下や農家の健康の犠牲の上にあってはならない。 従って、第2次緑の革命はより包括的かつ持続可能なものであり、栄養の安全保障を目標とする必要があるとしている。 実は更に、現在我々はもっと大きな課題に直面している、との指摘がある。 一つは地球の陸地の40%が現在の乾燥地面積であるが、この肥沃度の低い乾燥地が2100年には50〜56%に拡大することが予測されている。 アジア開発銀行とポツダム気候影響研究所(Potsdam Institute for Climate Impact Research)の調査によると、インドの気温が今世紀末までに、最大6℃上昇すると指摘されている。これによりインドの各州では米の収量が2030年代には5%、2050年代には14.5%、2080年代には17%減少する可能性があるという。 そして科学者らは、気温上昇により米と小麦の栄養価の低下の可能性を指摘しており、また最近のジェット気流の強い蛇行現象により北米・東欧や東アジアにある主要穀倉地域に7%程の収穫量低下を起こす可能性があると指摘している。 異常気象が連日伝えられ、そして我々自身日々この異常性を実感しております。 今年は国際millets年(International Year of Millets)。 インドでさえ緑の革命の一面の見栄えの良さに気をとられて、米と小麦の収穫量は2倍3倍となった半面、一人当たりのmilletsの消費量が、1962年の32.9kgから2010年には4.2kgへと大幅に減少するという事態をまねいている。 Milletsの存在を思い出し、良さを認識した上で、milletsを取り入れた暮らしをする人が少しでも増えたらと思っております。 因みに、ご飯に2割程アワを入れての暮らしを少し前から始めております。これだけで年に10kg近くのアワ即ちmilletsを食することになります。健康によさげな感じはしております。 今回はここまでとします。栄養面、健康面、栽培面でのmilletsの優秀性やその他の面の紹介は次の機会とします。
0026
命の危険すら感じる暑さを考える
yo-chan
07/30 14:56
命の危険すら感じる暑さを考える ここ数日、異常気象やそれに関連する報道記事がそれこそ矢継ぎ早の様相で紹介されている。Guterres国連事務総長は、地球が温暖化の局面をすぎ、沸騰化の新局面に突入したとさえする、発言が一昨日飛び出している。7月4日WashingtonPostは、この暑さを125,000年間で最高に暑い日と形容している。 熱帯の暖かい表層海洋水をメキシコ湾流にそって大西洋北部へ運び、そこで冷却されて深海へと沈みこみ、そして反転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムが存在している。 北極圏に存在する永久凍土は、大気中の約3倍の二酸化炭素を、そして200倍のメタンガスを閉じ込めている一種の装置とも言える。 人の体には、あるレベルまでは熱気に良く順応して体温を一定に維持する一種の超能力と言っても良い内部システムが存在している。 地球や人を含む自然界には、このような装置やシステムが他にも数多く存在しており、そのお陰で自然界の恒常性や安定性が保持されている。 いま我々が日々目撃している光景は、地球が我々に与えてくれているそのような装置やシステムにも、許容限界、即ちシキイ値(tipping point,thresholds,yield value)が厳然と存在しているということ、そして我々は厳然と存在しているシキイ値を強く意識することの重要性を学び、我々が取るべき迅速で、そして効果的な対策にそれを活かしていく必要が求められているのだろう。 良く言われる、一旦シキイ値(tipping point,thresholds,yield value)を越えると、人間の力では到底制御不能の次から次への悪循環が始まり、例えば気温の制御で言えばParis合意目標の1.5や2℃以内に抑制どころか4℃にも及ぶ加速的上振れも指摘されている。 我々はまだ虎の尾を踏んでしまっていないのであればよいのだが。 そんなことを、思わざるを得ないここ数日の報道記事を以下に紹介したい。 1.命の危険すら感じる暑さを考える。研究者らがボランティアの協力のもと調べている。 NBC NEWS 2023年7月6日 Aria Bendix氏記す 身の危険を感じる熱波がアメリカを覆い続けている。そんな中、外気温が華氏104〜122度(40〜50℃)になると人の体は外界に順応して正しく働くことが出来なくなる可能性がある、との証拠が新たに出されている。 スコットランドのエジンバラで開催されていた実験生物学会年次大会において木曜日に発表された研究によると、外気温が上記の範囲になると人の安息時の代謝率に比べて、高い外気温にさらされると、人の代謝率は上昇するという。ここで人の安息時の代謝率とは、人が休息している時に必要とされるエネルギー量のことを言う。 そして一旦,人の代謝率が上昇し始めると、人の呼吸は荒くなり、脈拍は上がっていき、そして外界からの過剰な熱(熱ストレス又は暑熱ストレスとも訳されるheat stress)を体外に逃がすことが最早出来なくなると、人の体幹の温度が上がり始め、その結果として混乱(confusion)、はきけ(nausea)、ねむけ(dizziness)、頭痛(headache)や失神(fainting)が誘発される。 「人は、ある点までは通常、熱気にとても良く順応する」とこの研究を行ったRoehampton大学のLewis Halsey教授が語っている。 Lewis Halsey教授は数年にわたり関連する一連の研究を行っており、2021年の最初の研究においては60才以下の13人のボランティアの協力のもと幾つかの温度と湿度の環境に1時間、人がおかれた際の代謝率・体幹温度・血圧・心拍数と呼吸数を測定し、それらの値と安息時の値との比較を行い、華氏104度(40℃)以上の気温になると人の代謝率が上がること(40℃湿度25%の場合35%の増加、50℃湿度50%の場合56%の増加)を認めていた。体幹温度については40℃湿度25%の場合は、上昇は見られないが、50℃湿度50%の場合には体幹温度が1℃上昇し、心拍数は64%上昇した、としていた。 Halsey教授もボランティアとして実験に参加し、過酷な環境を体験した印象を次のように語っている。「汗をかいて体温をさげることは、人間にとって一種の超能力といっても良いものであるが、しかし気温が50℃湿度50%の環境では、かいた汗の行き場がなくなり、発汗−体温冷却システムが正常には働かない“かなり厳しい” 環境だと言える。」 そしてHalsey教授は気温50℃湿度50%の環境のもとにボランティアの人々が長時間おかれた場合には生存できなかった可能性があったと推定している。 2.チュニジアの異常気温、サハラ砂漠以南の国からの避難移民らが「もう耐えられない」状況に置かれている。 AlJazeera 2023年7月24日 Simon Speakman Cordall氏記す 国際移民機関(International Organization for Migration,IOM)事務所の外に用意された仮設テントは焼ける大地の上で、灼熱の太陽に照らされ、誰もいないも同然に立っている。 100人ほどの正規な手続きを踏んでいない,IOM事務所の外に寝起きする避難移民の1人Kellyさんは、「もう耐えられない。からだを休め、安らかに過ごすという気分にはなれない。ストレスがたまる毎日だ。」と語る。 チュニジアのチュニスは月曜に50℃に達し、日曜は45℃だった。そして7月のこれまでの平均気温は33℃。 チュニジアの首都チュニスの日常は限りなく緩慢になっている。蛇口からの水道水は熱く、食べ物は簡単に腐り、野良犬と野良猫が日陰を争い、夕暮れが来ても安息はほとんどない。連日の猛暑から体が回復する機会がほとんどなく、チュニジアでは都会でも田舎でも厳しい状況で暮らす多くの人々に熱中症や脳卒中のリスクが高まっている。 ナイジェリアから一年半以上をかけてはるばる地中海を望むチュニスにやってきたKellyさんのような人々に対して、Kais Saied大統領はこの2月、サハラ以南の人々がチュニジアに暴力・犯罪や容認できない慣行を持ちこんだ、と非難する差別発言を行って以来、多く避難移民らは暴徒からの迫害を受ける厳しい生活をおくっている。 昨年の夏、欧州全域をおそった熱波は61,000人の死者を出したと見積られ、特に地中海沿岸で多かったという。チュニジアやアフリカ北部における死者数の発表は特になく、この問題を難しくしている原因が死者数すら発表できない地域の現状だと、目されている。 首都チュニスや他の主要都市にはエアコンは行き渡っているが、都市部以外には数は少ない。都市部以外にエアコンが普及していないのは、一つは高額であること、そしてそれとは別にエアコンに対する不信感、即ちエアコンは健康に良くない、と思いこんでいる人の存在もあるという。 英国、Roehampton大学のLewis Halsey教授が人の体に及ぼす外気温の影響・効果に関する研究報告を発表しており、その中で「外気温が一旦あるレベルを超えると、人の体にある体温を維持する内部システムが働かなくなる」と述べている。「ただし、心理的要素もあり、猛暑のなかにあっても、例えば家に戻ればエアコンがあるとなれば、猛暑の中厳しいではあろうが、耐えられるだろう。もし、そうでないとすると、猛暑から逃れる場所のない厳しいストレスがたまる毎日が待ち構えていることになる」 今月初旬にチュニジアは国境警備を強化する内容の条約をEUと結んでいる。 既に72,000人程が危険な国境越えでイタリアに入っている。その大部分は極度の貧困と戦乱を逃れての行動だが、気候変動が深刻化するにつれ、更に多くの人が極端な、気候変動から逃れるためにヨーロッパに目を向けることになるだろう。 3.大西洋の海流が、もうすぐ流れを止めるという。 それによる重篤な気候変動にどう対処するか? USA TODAY 2023年7月25日 Doyle Rice氏記す 大西洋子午線逆転循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation,AMOC)とは、地球に存在する重要な海流システムであり、熱帯地域の暖かい塩分を含んだ表層海洋水をメキシコ湾流にそって米国東海岸沿いに大西洋北部へ向かい、大西洋北部で冷却されて深海へと沈みこみ、そしてそこから逆転して南へと向かっていく極めて大きな海流循環システムである。この循環システムはヨーロッパ北部を数℃分温める効果があり、そしてより冷たい海洋水を米国北部海岸へ持ち込む役割も果たしている。 この大西洋子午線逆転循環AMOCが、今世紀の半ば、多分2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性がある、とする新しい研究論文がこの火曜日に英国のNature Communicationsに発表された。 AMOCが崩壊し、停止すると、米国やヨーロッパそしてその他の地域に急激な気候変動が引き起こされ、ヨーロッパでは氷河期様の状況が起こり、ボストンやニューヨークでは海面上昇が起こり、米国の東海岸沿いでは巨大な嵐やハリケーンの発生の可能性が生じるという。 また、降雨量や降雪量の著しい減少が米国中部や西部で起こるだろう、ともされている。 今週、新たに発表された研究論文は、コペンハーゲン大学の2人の研究者(Peter DitlevsenさんとSusanne Ditlevsenさん)が行ったもので、2人の研究者は先端的統計手法を考案の上、直近150年間の海洋温度のデータをこの先端的統計手法に適用して計算している。 かれらの採用した先端的統計手法は、従来の統計手法では到達することが難しかったより確実精度を高めた推定を行うことが出来るという。 その結果、かれらは今回95%の精度でAMOCが、2025年から2095年までの間に崩壊し、停止する可能性があると言うこと、そして現在の温室効果ガスの排出傾向に変化がなく継続するとすれば、最も高い確率で2057年頃AMOCの崩壊・停止が起こる可能性がある、としている。 彼らの主張するAMOCの予測崩壊・停止時期は、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change,IPCC)が以前のデータをもとに提示している予測(AMOCの急激な変化は、今世紀中はあり得ないとした結論)と矛盾するものである。 今回のかれらの研究論文に対し、他の専門家がどう見ているかについて紹介すると、 ペンシルバニア大学のMichael Mannさんは「研究を発表した研究者らが、思い付きの華やかな統計手法以上のものを数多くテーブルの上に持ち込んでいるのか、どうかは判断できないが、歴史的には思い付きの華やかな統計手法に基づく欠陥のある予測というものが散乱しているものである。時にそうしたものは派手すぎるのである。」と語っている。 一方、ドイツのPotsdam Institute for Climate Impact researchの気候学者のStefan Rahmstorfさんは、「一つの研究からは限られた証拠しか得られないが、数多くのいろいろなアプローチを行った後に、同様な結論に達するのであれば、その到達した結果は重大に受け止める必要があると言える。殊に99.9%の精度をもって我々が排除したいと希望するリスクの課題について議論する際には、そういうことであろう。今回の科学的事実は今後10年から20年のうちに臨界点・転換点を早くも通過することを排除さえ出来ないという事である。AMOCの臨界点・転換点が正確にどこにあるのかは、不明であるが、数年前に我々が想定していた時期よりも、より近くになっているという証拠を付け加えているとは言える」と語っている。 今回の研究により到達した結果をもとに研究者らは、「我々の結果は、可能なかぎりGHG排出を削減することの重要性を強調するものである」とする彼らの主張を載せておく。 4.気候事象のシキイ値(ClimateThresholds臨界点・限界点)の無視 AlJazeera 2023年7月27日 Ali Tanqeer Sheikh氏記す パキスタンの気候異常緊急事態が眼前に明らかに現れてきている。われわれは今や絶えずある災害から次の災害へと移っていき、打ち続く災害がわれわれの社会や経済とどう関連しているかを、じっくり考える時間を持てずにいる状況である。 最近の12週間から18週間を見ても、一連の異常が起こっている。3月と4月の熱波、6月の熱帯性暴風雨と6月と7月の都市部の洪水。これだけでは不充分とばかりに、新たな波が面前に現れてきている。インドとアフガニスタンからの国境を越えた洪水がPunjabとKPを襲っている。BalochistanとSindhの山沿いの猛烈な雨、Gilgit−Baltistanを襲う地すべりと氷河の決壊。 これらの異常気象事態(Extreme Weather Events,EWEs)は3つの相互に関連する流れの存在を浮かび上がらせている。 一つは気温上昇を1.5から2℃に抑えるという2015年Paris合意の内容が、化石燃料を緊急に退場させる活動を著しく過小評価(弱めた)していた、ということである。 二つ目は、パキスタンの災害が相互に関連しており、個々の異常気象事態が次から次へと連鎖的に次の事態を発生させているというパキスタンの脆弱性に対する新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定である。 三つ目は、気候に関連する損失(losses)と損傷(damage)の大きさが気候管理力の弱さに大きく関係している。パキスタンの政策立案者らは気候災害の事後処理的対応を続けている。政策立案者らは新たなシキイ値(臨界点・限界点)の規定を深く考察して、政策に反映させ、行動に移していくことを今だに始めていない。 パキスタンだけが気候災害を受けているわけではない。隣国の中国・インド・アフガニスタンも熱波や洪水の新たな記録を立てており、世界各地もまた異常気象に見舞われている。 熱波がヨーロッパ南部を覆い、カリフォルニア・カナダ・シベリアの山火事、Horn of Africa(インド洋と紅海に接するアフリカ東部の地域,エチオピア・エリトリア・ジプチ・ソマリアがある)の記録やぶりの干ばつ等である。 自然はParis合意が打ち出した時間の猶予を、我々に与える気はないようだ。 パキスタンは、連鎖化する異常気象から身を守るために必須な政策決定を行う分岐点に立っているといえる。 気温上昇・降雨量の傾向がどのように関連し合っているのか、そしてパキスタンが気候管理力を強化する上で、どんな実質的な行動を取ることが出来るかをみていきたい。 パキスタン気象庁によると、新たな気温記録と新たな降雨記録が、6月に36都市で打ち立てられたという。 うだるような気候により、Benazir収入支援プログラムは現金支給を停止している。列車は線路の融解により運行が止まっている。そして、電力供給システムも多くの地域で破断している。 パキスタンの熱波は、公共サービスを混乱させ、学校や医療機関も混乱している。 労働生産性も低下し、農業分野へも悪影響が出ている証拠がある。 Sindh州とBalochistan州の各地は生存ぎりぎりになってきており、JacobabadからTurbatにいたる各都市が、人間が生活するのに適していない状況になってきている。そして具合の悪いことに熱波関連のデータを記録する機関は無いし、各地域の住民を守る地域行政機関も存在していない。しかし、地方行政機関は労働時間や学校暦を再考する責任は負っている。夏季の労働条件を規制する権限も与えられている。予知出来るリスクを低減する強力な気候管理策を実行することが出来る。 長期化する熱波への対策として、スペインの小都市がまさに気温と湿度のレベルをモニターして熱波のランク付けするシステムを正に開発したところである。Adrienne Arsht−Rockefeller財団リジリエンスセンター(resilience center)(Arsht−Rockと略して呼ばれるようです)の支援の下、熱波を1から3のスケールで分類化する方式を開発している。 カテゴリー3が最も甚大な熱波で、それぞれアルファベット順と逆にZoe(ゾーイ)Yago (ヤゴ)とXenia(ゼニア)と名付けられている。 10年前に開発したカラチの熱波管理計画では、新たに設置した市当局の実態のある活動をもとめているが、パキスタンは、スペインのSeville市と同様に,国としての熱波の命名化と分類化を採用して、市民の生命を守るシステムを作る必要がある。 アラビア海上の熱帯性暴風雨の事例が増大している。Biparjoyがこの6月新しい記録を打ち立てている。これはカテゴリー3にランク付けされた非常に甚大なサイクロンとされていた。時速160から180kmという強風を維持していた。12日間強さを保持し、アラビア海サイクロンの最長命記録となった。パキスタンではリアルタイムでサイクロンを追跡し、早期警戒体制が機能したことで、80万人に及ぶ退避・救出作業も成功裏に実施出来た。 Biparjoyはカラチ及びsindh州の各地に厳しい熱波状況を数日にわたり引き起こし、砂嵐と広範囲の豪雨をSindh州南部に引き起こした。そして続く数週間続いた熱波に拍車をかけることになった。パキスタン気象庁はモンスーンの先触れとなる豪雨が各地で引き起こされていたと指摘し、明らかにシステムの混乱があったといえる 幸いにもBiparjoyはパキスタンを直撃しなかったことから、重大な被害は回避出来たが、食料や飲料水、医薬品、トイレや仮設住居支援の供給体制能力をテストする機会とはならなかった。 しかし、市行政当局は崩壊し、軍隊が避難支援や物資の供給に協力するよう要請された。 あらゆる気候災害の防衛の最前線に立つのは、地方行政機関と共同体支援グループにほかならない。そして地方の行政当局は情報を与えられておらず、機能もしていない。地域の災害管理当局は、今だに地域行政府を支援する能力をもっていない。 パキスタンは目標を持たずに無闇にさまようのではなく、気象事象に基盤をもつシキイ値を活用して、行動を活発化させて我々および次の世代をまもっていくことに注力する必要がある。
0027
2023年7月28日に終了したインド開催のG20環境・気候変動相会合の報道に関する雑感
yo-chan
08/01 14:57
2023年7月28日に終了したインド開催のG20環境・気候変動相会合の報道に関する雑感 上記会合がインドのチェンナイで開催されていた。 この会合が気候変動に対するものでありG20のこの課題に対する現在の状況を見定めるという視点から、その成果がどうであったかは興味があり、幾つかの報道機関の報道をもとに紹介する次第です。 また我がNHKがどう報じているのかも比較が出来る格好の機会でもあることから、かかる観点からNHKがどこまで日本の市民のことを思って活動してくれているかの紹介もしたいと思っております。 では入手可能なネット情報を見ていきます。 1. ロイター配信 表題:G20環境相会合、排出削減で見解に溝 共同声明見送り G20は28日まで3日間の日程で、インド南部チェンナイで環境・気候相会合を開き、気候変動問題などについて協議したが、先進国と途上国との間の見解の相違が埋まらず、温暖化ガス排出削減の目標を巡り合意に至らなかった。インド政府当局者が明らかにした。 当局者によると、先進国側は地球温暖化を抑制し、熱波・山火事・洪水の悪化を食い止めるために2025年までにGHG排出量のピークを実現し、2030年までに排出量の絶対量を43%削減することを提案した。 これに対し、途上国側はインフラ整備や成長能力が制限されるとして、この双方に反対した。2015年のCOP21パリ合意を順守するよう求めた。パリ合意は、各国がそれぞれの状況に応じた方法で、地球温暖化対策を進めることを認めている。 欧州の代表団によると、中国とサウジアラビアはG20協議を通したコミットメントを拒否。 欧州連合(EU)のシンケビチュウス欧州委員(環境・海洋・漁業担当)は一部の国が、これまでの気候変動に関する公約を撤回しようとしていると非難し、「狭い国益に基づいて動いてはならない。最も動きの鈍い国により変化のペースが決められることがあってはならない」と述べた。 G20議長国インドのブペンダル・ヤダブ環境・森林・気候変動相によると、全ての問題に関する加盟国の完全な合意が必要な共同コミュニケの代わりに、協議の成果をまとめた声明と議長総括が発表される。 G20は先週インドのゴアでエネルギー相会合を開いたが、一部の国の反対により化石燃料の段階的削減で合意に至らず、4日間にわたった会合の最後に共同声明ではなく、成果声明と議長総括が発表された。 2. 共同通信2023年7月28日 表題:G20環境・気候相会合が閉幕 インドで開かれたG20環境・気候持続可能性相会合が閉幕した。 共同声明は採択できず、代わりに議長総括などを公表した。 3.Climate Home News 2023年7月28日 表題:G20気候変動協議は指導者の嘆願にもかかわらず排出削減を達成できず COP28議長のスルタン・アル・ジャベール氏と国連気候変動責任者のサイモン・スティエル氏は、G20各国に対し、リーダーシップを発揮し、野心的な排出削減を実現するよう呼び掛けた。 インドのチェンナイの首脳会議で、先進国は地球温暖化を抑制するため、2025年までに排出量のピークを達成し、2035年までに排出量を、2019年の水準から60%削減するという約束を求めた。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、これは地球温暖化を臨界値の1.5℃に抑えるためには必要とされる条件である。 しかし途上国側はこの要求に反対し、各国はその置かれている状況により、それぞれ異なった方法で地球温暖化に対する対策を講じるというパリ合意に基づく方式の堅持を主張した、とロイターは報道している。 この結果はCOP28議長のスルタン・アル・ジャベール氏と国連気候変動責任者のサイモン・スティエル氏とがG20に参加する各閣僚に対し求めていた要請、即ち的確な道筋を構築し、そして気候変動への対抗意志を明確に示した上で各閣僚は、チェンナイから帰国してほしいとすることに矛盾したものである。 今回のG20会合は国連気候サミット(COP28)に先立ち、各目標に対するコンセンサスを得る重要なフォーラムの位置付けと見られている。G20各国は世界のGDPの85%と排出量の80%を占めている。「世界は各国の指導者らの団結と行動と救助活動を要請している。そしてその出発点がG20であって欲しい」とジャベール氏とスティエル氏は主張している。 しかし数日の激しい討論の後、今回の会合も、先週のG20エネルギー相会合の結果と同様に合意には至らず、分裂状態で終えることになった。 一部の欧州当局者は、少数の国が以前の気候公約に逆行する行動をしていると糾弾している。「我々は大胆な選択を求められており、そして勇気と実行約束とリーダーシップを発揮するよう求められている。我々は狭小な国益によって突き動かされるべきではないし、そして最も歩みの遅い国が規定する変革スピードに合わせるべきではない」と欧州環境委員のバージニジュス・シンケヴィシウス氏は述べている。 意見の相違により、会議終了時に共同文書を作成することが出来ず、代わりに結果発表と議長による要約が発表された。 要約では、各国はエネルギー転換の問題とそれをこの文書にどのように反映するかについて異なる見解を持っていると述べている。 チェンナイでの会談は、化石燃料の使用削減と再生可能エネルギーの目標設定の公約をめぐってG20のエネルギー相が先週土曜日に意見交換をした際の意見相違の再現だった。 COP28の議長ジャベール氏の描く計画の柱は、今世紀半ばまでに化石燃料を段階的に削減し、2030年までに再生可能エネルギーを3倍化することである。 オブザーバーらは、これまで幅広い合意が得られていたように思われた再生可能エネルギーの目標に関して意見の対立が存在することに驚いているという。 会談に詳しい2人の関係筋によると、先週の会合で各国政府は3つの陣営に分かれていたという。 EUとドイツに支援を受けているG20議長国のインドは、再生可能エネルギーを3倍化するというより高い達成目標を支持していた。 フランス・アメリカ・韓国を含むグループはこの公約の骨抜き化を目論み、再生可能という言葉を限定したり、焦点を絞りこむという考えを嫌って、原子力発電や二酸化炭素回収技術をも含む低炭素解決策を含める様な文言に拡張するよう求めている。 ロシア、サウジアラビア、中国、南アフリカなどの強硬派は、いかなる形の再生可能エネルギーの目標を導入することに反対していた。 現在、アル・ジャベール氏率いるCOP28チームに注目が集まっている。11月のドバイ首脳会議に先立ち、ジャベール氏は意見の隔たりを解消し、何らかの合意形成を図る圧力が高まっている。 「COP28議長国は、あらゆる機会を通じて野心的であり、達成可能な目標を明確に約束するよう、引き続きすべての関係者に呼び掛ける」と広報担当者は語っている。 9月のG20首脳会談は、その目標達成に向けた進展を示す最後の機会の一つになるだろう。 4.The Indian Express 2023年7月29日 表題:G20気候変動会議、強化された行動に関する合意なく終了 先進国が全員に緩和目標の強化を求める一方、途上国のグループは金融と技術に関する未だ実行されていない約束の履行を強調し、先進国に対し、更なる努力を要求した。 G20環境・気候大臣会合では、気候変動対策の強化を示す如何なる文言についても合意に達することが出来ず、気候変動対策の強化を求める主要経済国の期待は空回りしたままだった。 G20の環境・気候持続可能性作業部会の作業を終えた閣僚会合では、排出削減目標の引き上げや2025年までの世界排出量ピークの達成など,最も重要な問題について意見が分かれたままだった。 先進国が全員に緩和目標の強化を求める一方、途上国グループは金融と技術に関する執行されていない約束の履行を強調し、先進国に対し更なる取り組みを求めた。これらの良く知られた溝は、気候変動会議でも野心的な意思決定を妨げてきていた。 G20で採択された決定は気候変動会議で到達した合意に代わるものではないが、グループ内の国々の経済的・政治的影響力の故に、グローバルレベルで変動を誘因する可能性がある。 チェンナイ会合では、一部の国が世界の排出量のピークを2025年までに達成するという約束にG20各国が合意することを望んだが、これは途上国にとっては同意できない内容だった。2035年までに世界全体で2019年の基準値から60%の排出量削減に取り組むという提案もあった。現時点での科学的なコンセンサスは、各国が1.5℃目標の達成に期待を持ち続けるためには、2030年までに2019年のレベルから排出量を約45%削減する必要があるということだ。 G20の途上国グループは、先進国に対しネットゼロ目標を10年前倒しし、2040年までにカーボンニュートラルを達成することを約束するよう要求したが、これもまた全員が同意するものではなかった。 世界の再生可能エネルギーの3倍化、化石燃料の継続的な段階的削減計画、メタンなどの非二酸化炭素温室効果ガス排出量の削減などが、合意が出来なかった他の問題の諸点であった。インドなどの途上国も、欧州で今年から施行される炭素国境調整メカニズムについて、偽装貿易障壁に当たるとして懸念を表明した。 5.Kuwait Times 2023年7月30日 表題:G20で気候危機に関する合意出来ず 2025年までに排出量のピーク化の合意ならず G20の環境大臣らは金曜日、インドで開かれた会合で、世界の排出量を2025年までにピークに達させること、再生可能エネルギー利用の3倍化等、世界の気候危機に対処するためのその他重要な問題について合意出来なかったと述べた。フランスの環境大臣クリストフ・べシュ氏は「特に石炭の段階的廃止や削減についても合意出来ず残念だ」と語った。そして、中国・サウジアラビアとの協議、ロシアとの協議は複雑だったと、べシュ氏は付け加えている。 会議の議長を務めたインドのブーペンダ―・ヤダブ気候変動大臣は、「エネルギーに関するいくつかの問題といくつかの目標を定めている課題が存在していた」ことを認めている。 今回のチェンナイでの会合は、世界のGDPならびにCO2排出量のそれぞれ80%以上と影響力の大きい国々のエネルギー担当相らがインドのゴアにおいて、世界の現在のエネルギーの各源泉から化石燃料を削減していくという工程作りに失敗した数日後に開催されたものであった。気候専門家らが洪水・暴風雨・熱波を引き起こしている要因が記録的な高温にあると指摘する中での、今回の合意作りの失敗は緩和努力に水を差すと見られる。 石油産油国らは、厳しい緩和措置を講じることによる彼らの経済への影響を心配している。そしてゴアでの進展が無かった原因として、ロシアとサウジアラビアを非難した。 運動家らは度重なる合意の失敗に落胆している。気候変動シンクタンクE3Gのアレックス・スコット氏は「欧州・北米は炎上中で、アジアは洪水に見舞われている。こんな中、G20気候大臣らは日に日に高進する気候危機を抑制する共通の方向性についての合意に失敗している。」と述べ、サウジアラビアと中国の抵抗は、彼らが途上国の利害を擁護しているとする主張に反する、とも付け加えている。 今年のCOP28気候変動会合の最高責任者のアドナン・アミン氏は「この金曜日の会合に参加した全員が、世界が直面している危機の重大性を理解している。だが、一種の政治的了解が働いていると思う。全ての国が先ず自国に直接に関わる利害をおもんばかる所から始めるのは明白なことだ。」と指摘している。 大半の参加国の代表は環境ならびに気候変動担当大臣で、一方米国はジョン・ケリー気候担当大統領特使が代表団を率いていた。そして11月下旬から始まるCOP28会議を主導する石油トップのスルタン・アル・ジャベール氏も出席していた。ジャベール氏は、彼がアブダビ国営石油会社のトップであり、地球温暖化の主要な原因と目されていることから厳しい批判にさらされてきている。 欧州連合環境委員のヴィルジニジュス・シンケヴィシウス氏は「壊滅的な気候事象の証拠が増えている。そして人々の暮らしが破壊されている。交渉の歩みは遅く、G20はウクライナ戦争で分極化し、重要な課題に対して明らかな意見の対立が起こっている。エネルギー調達等の望ましいシステム移行を資金面で支援する観点や短期的に発生する打撃による影響を改善する観点の課題は、永らく途上国と富裕国との間で論争されてきている。 インド等の主な途上国は、従来から主要排出国だった諸国が、貧困国側における緩和努力の費用をより多く負担する必要性を論じている。「先進国はどんなことを公約しようとも、それらは実行されなければならない。」とヤダブ氏は言う。そして土地の劣化問題や海洋資源の持続可能な利用法等の幾つかの課題については合意に達したと付け加えている。 7月28日まで行われていたG20チェンナイ会合の状況を紹介する新聞や論説を紹介しました。チェンナイ会合の模様とその数日前に同じくインドのゴアで開催されていたエネルギー問題会合についてもある程度の現状認識は得られるものと思います。 現在の気候危機の大半の原因を作り、そして今はその蓄積した資金力と技術力を背景に自国の気候危機への対応は充分に行っている状況にある先進国の優越的立場が一方にあり、そしてもう一方では責任を問われる必要のない国々でありながら、気候危機の惨状を甚大に被っている資金力に乏しい途上国が他方で存在しているという構図を、先ずは絶えず議論の前提に置いておくべきでしょう。そのような視点を意識した報道を我々は求めたいものです。そういう観点でG20チェンナイ及びゴアに対する世界の報道は全体を通して見ると、視野を広く取りバランスを考慮しており、一定の評価は出来るのではと思います。 では最後にNHKがチェンナイ会談をどう報じているかを見てみます。 6.NHK NEWS WEB 2023年7月29日 表題:G20環境と気候変動問題の閣僚会合 共同声明まとまらず インドで開かれたG20=主要20カ国の環境と気候変動問題の閣僚会合は、ロシアのウクライナ進攻をめぐる記述などで折り合えず、共同声明をまとめることができませんでした。 インド南部のチェンナイで28日開かれたG20の環境と気候変動問題の閣僚会合では、気候変動への対応や海洋資源の保全などについて議論が交わされました。 閉幕後の記者会見で議長国のインドは「持続可能で強じんな未来の実現のために、G20の閣僚は一致した立場を示した」と述べ、成果を強調しました。 一方で、声明への具体的な記述をめぐり各国の立場に隔たりがあったとして、共同声明を見送ったことを明らかにしました。 閉幕後に発表された議長総括によりますと、会合でロシアがウクライナ情勢や経済制裁などに関して、ほかの国とは異なる立場を表明したほか、中国は地政学的な内容を声明に盛り込むことに反対したとしていて、ウクライナ進攻などをめぐり、折り合いがつかなかったものとみられます。 ことしインドで開かれているG20の閣僚会合では、欧米とロシアの対立が続くなか、共同声明がまとまらない事態が相次いでいます。 欧米とロシアの対立と言う記載やロシアのウクライナ進攻と言う文言を計4か所で使っていたり、中国が反対したことが折り合いをつけられなかった要因だとしている等、共同声明がまとまらない事態が相次いでいる原因はすべてロシアと中国のせいだと言っているようにうけとれるG20の紹介記事に仕上げております。 異常気象と言う困った課題の存在は認めるものの、極めて健全な国際社会の中での困った国、ロシア・中国、という構図を際だたせようとする悪意とも思える論説と言えます。そして日本を含めた健全な先進的欧米社会が提示する改革プログラムがベストとの意識が見え隠れしているようにも感じます。 今回G20の会合で目指した合意が達成できなかった根本理由は次の点における先進国側と途上国側との間に大きな溝があり、今回も埋められなかったことが最大の要因でしょう。 即ち、「先進国は全員に緩和目標の強化を求める一方、途上国のグループは金融と技術に関する未だ実行されていない約束の履行を強調し、先進国に対し、更なる努力を要求している。」そして「エネルギー調達等の望ましいシステム移行を資金面で支援する観点や短期的に発生する打撃による影響を緩和し改善する観点の課題は、永らく途上国と富裕国との間で論争されてきている。インド等の主な途上国は、従来から主要排出国だった諸国が、貧困国側における緩和努力の費用をより多く負担する必要性を論じている。」 NHKの報道姿勢には、現在の気候危機の大半の原因を作った日本も含まれる先進諸国の責任意識の希薄さが、そして自国の気候危機の軽減策さえ、そのグローバルサウスから奪い取り蓄積した資金力と技術力を背景に講じることさえ整えれば、それで良しとする優越的な傲慢さが現れていると思います。 責任を問われる必要のない、ただただ気候危機の惨状に疲弊している途上国のことをおもんばかる眼差しの欠如を感じてしまう極めて残念な報道姿勢と考えます。 そして先進国対途上国という構造に存在する格差問題を思わず、前提にして考える癖がついてしまい勝ちですが、先進国の中にも、そして途上国の中にも同じ格差問題がそれぞれ潜んでいるということも議論の大前提に加えておく習慣を持つことも重要と思っております。 我々のまなざしを向けるべき先は非常に多く、そして見た目は極めて自然に見えてしまうものの、それでいて極めて力強く格差を強要する勢力が存在することに注意し続ける必要を感じます。 +
0028
気候変動への挑戦−小さな島嶼国Barbadosの事例
yo-chan
08/28 15:33
気候変動への挑戦−小さな島嶼国Barbadosの事例 グローバルサウスが、国際金融構造を変革して、サウス・サウス間協調の強化を目指す 「グローバルサウスと世界秩序」プロジェクト(The Global South in the World Order Project)という機関があり、毎月グローバルサウスの専門家を集めて会議を開いている。 グローバルサウスの立場から見た国際関係の話題を議論すること、現在の西欧が主流の考え方に対して異論を提示すること、そして非西欧的な視点をワシントンの政策立案サークルに投げかけること、を目的としているという。 先週開かれていたBRICSの会合についてネット情報を見ている過程で、この存在を知る機会があった。そもそもBRICSが向かう方向の一つは、グローバルサウスという存在を如何に世界に認知させていくか、そして現実に存在しているが故に当然持っていてしかるべき彼らの発言権を如何に確保し保証していくか、ということであろう。その流れから今回BRICSはエジプト・エチオピア・イラン・サウジアラビア・UAEそしてアルゼンチンを新たにメンバーに迎え入れたのであろう。BRICSの動向も今後注目すべき対象である。 そしてグローバルサウスの問題は何もアフリカ・アジア・中南米に限った話ではないと常々思っている。グローバルサウスの国の中にもグローバルノース部分は存在しており、またグローバルノースの中にもサウス部分が存在しているということが、現代社会の困った状況をピッタリと表現していると思っています。 原因は、ここ数十年にわたりグローバルに蔓延した新自由主義・経済拡張市場至上主義だったことは言うまでもなく、故に世界の格差拡大は止まることを知らずに進み、同じく日本国内にもグローバルサウス部分の拡大化が進んでいるのが実態です。 今までもグローバルサウスの視点を一つの物差しに世界状況を見てきております。この世界の現況情報が日本国内の状況を考えていく際にも極めて示唆的なものを提供するとの思いから、そんな過程で見つけた「グローバルサウスと世界秩序」プロジェクトの発信する情報の存在を先ずは紹介したいと思います。 世界の格差矛盾の問題を考えるだけでない、日本の中の格差矛盾をも考えていく上で意義あるものと思います。 今後折に触れて紹介していきたいと思いますが、先ずは8月25日付けの記事から取り上げてみます。 「グローバルサウスと世界秩序」プロジェクトはこの7月28日、グローバル金融構造変革に関するBarbadosの2022年Bridgetownイニシアティブ構想について討論を行っている。この構想は、島嶼国BarbadosのMia Mottley首相がグローバルサウスへ向けての気候変動対策資金の利用の上で障害となっているものを取り除くことを目指して積極的に主張している提案のことである。専門家らはこの会議でこれらの諸国の負債の重圧を軽減するための具体的方策を検討し、そしてグローバルサウス全体を支援する上ではBridgetownイニシアティブ構想を推進することが如何に重要であるかを議論している。そして国際金融機関の協力ならびに国際金融機関の効果的な改革を確保し、進めていくのに西欧諸国が中国と協調することの重要性も議論している。 「グローバルサウスの気候問題向け資金調達の挑戦」 Veronica Gutman氏(ブエノスアイレス大学・アルゼンチンTorcuato Di Tella財団研究員) グローバルサウスは今、先例のない絡み合った課題に直面している。生活費危機・負債危機・予算と財政上の課題・政治的および制度的困乱状態そして緊急事態の異常気候危機。これらの課題には緩和(Mitigation)と適応・順応(Adaptation)の為の投資資金として数兆ドルが入り用とされている。 途上国が、回復能力を高め、そして低炭素型経済を促進展開するには、気候課題向けの資金を緊急に展開することが必要である。コロナパンデミック・ロシアとウクライナとの戦争および異常気象が悪化を辿るという厳しい制約を経済的・社会的に受けているとはいえ、途上国は適切な緩和措置努力を講じる必要がある。必要となる財源は今起こっている異常気候の損失と損害(Losses and Damages)の両方を手当てするとともに、今後に必要とされる適応・順応措置努力にも手当する必要がある。 しかし、国際的な気候変動向けの融資構造は、通常短期的金融投資に適用されるモノサシを使って各国を評価しており、基本とすべき長期的な低炭素社会構築向けのインフラは視野に入っていない。広く行きわたっている金融投資の根拠として考慮に入れられているのは、国際的な主要投資家らの見方や好みであって、温室効果ガス(GHG)排出を世界規模で削減するという責務や途上国の明確な責務といったものは無視されることになる。 途上国のGHG対策動向を修正する上で緊急に必要なこと、そして避けることのできない気候変動の打撃に直面している地球を緩和化し順応化し助ける上で緊急に必要なことは、金融の流れを支配している評価基準に革命的な改革を直ちに行うことである。ことに途上国にとって利用可能な資金は3倍化すること、損失と損害に対する交付金・補助金(grants)は利用しやすくすることが必要であり、低コストの長期譲許的融資が提供されるべきである。 更に、革新的な金融商品を開発することが重要である。例えば負債−気候スワップ(Debt-for -climate swaps)は途上国の負債負担を軽減することに役立ち、気候変動に関連する要請に応える資金を提供するのに役立つ。持続可能性に繋がる融資は、これらの融資が金利の低減を通じて気候目標を達成した国に報いることが出来ることから、もう一つの方策になる。 簡単に言うと、現在の経済的および社会的危機の状況の中、気候変動危機により途上国に課せられている挑戦の為の資金ニーズは緊急性があるとともに複雑さもあると言える。これらの諸国は経済の下降および不安定な社会状況に直面している中で、持続可能な開発の達成に努力しており、気候変動対策向け行動への適切な財源を確保することは最も重要な課題となっている。 気候変動への順応・適応策ならびに緩和策の取り組みに対する資金不足を埋め合わせるためには、資金メカニズムの革新化・協調的パートナーシップの構築やグローバルな各課題の優先順位付けの再設定を行うことが大切となる。資源を有効に動かすことで、負債軽減が促進され、そして資金的支援の平等な分配がなされることから、国際共同体組織がこれら諸国の回復力拡大と環境上のリスク緩和に役立つことになる。これらの諸国が直面する多方面の課題が存在するものの、この様な行動を取りいれることによってこれら諸国はより持続可能であり、如何なる国も漏れなく全て包み込まれることになるという、より包括的な将来へと続く道を切り開いていけることになるだろう。 「ブリッジタウンイニシアティブ(Bridgetown Initiative)が如何に世界秩序の再考に役立つか」 Brurce M,Mecca氏(Climateworkセンター上級アナリスト) インドネシアおよび東南アジアの気候変動に永らく携わった経験から、西欧ではしごく普通と思われる西欧の思考様式が如何にグローバルサウスとの間の気候問題の国際間交渉において彼らが公平公正さを欠き、そして愛他心を欠く姿勢を取ることになるのかが、想像ができるのである。 例えば、気候変動事象に基因する損失と損害(Losses and damages)に関わる基金の創設の希望は1991年小さな島国のバヌアツが提起したが、この最も気候変動に脆弱な国々のための基金設立に国連気候変動枠組み条約の締約国が合意したのは、昨年のCOP27の最中であった。実に32年後に実現したことになる。 そもそも損失と損害基金構想の背景は、これまでのGHGの92%分の排出に関わっている西欧が、世界からかき集めた資産を使って自身らは取り得る最大の緩和化策(mitigation)と順応化策(adaptation)で見を守ることを行いつつ、一方ほとんど排出に責任の無いバヌアツやバルバドスのような島嶼国がただただ被害のみを被っており、適切な緩和化策や順応化策を取ろうにも彼らに使い勝手の良い公正公平な世界金融システムがないという構造の欠陥に注意を払うことが重要な視点である。そして今現在も続く世界金融システムが先進国によって優先的に独占的に支配され続けているという欠陥構造なのである。 かかる背景のもと、昨年のCOP27においてMia Mottleyバルバドス首相が、気候異常事象により良く対応がとれるように世界金融構造を改革するべく2022Bridgetownイニシアティブを提案した。事実、グローバルサウス諸国の気候変動資金に対する必要性は今後数年中に更に高まっていく情勢である。 ここではグローバルサウス諸国に向かう資金の流れの障害となっているものを取り除いていくことに加えて、グローバルサウス諸国がそれぞれの国の市民の生活水準向上努力を犠牲にしたやり方で気候異常事象の対策を行うことのないよう、国際社会は配慮して保証していくことが重要である。 提言されたイニシアティブは、国際通貨基金(IMF)に対し、利用可能な緊急流動性を拡大するよう促しており、多国間開発銀行(multilateral development banks)に対して1兆ドルの融資手段(lending instruments)を追加するよう求め、多国間機関の支援による気候変動強靭性の為の民間投資を奨励している。 このイニシアティブが、基本としているのは、気候変動事象に大きく打撃を受けており、そして高い利子(先進国の数%に対してグローバルサウスは14%の利息とも言われる)の負債返済に今現在苦しんでいる途上国に対して、気候変動向けの資金が、常時利用可能だということを保証する具体的な方策を提供することである。 Bridgetownイニシアティブの訴えかけの核心部分は、地球温暖化を1.5℃未満に抑えるという2030年の気候目標の達成のためには、少なくとも35兆ドルの利用に障害となるものを取り除くことが出来るよう世界金融システムを改革することを希求することである。 このイニシアティブは必要に迫られて生れたものであり、現在存在し、提示されている多くの解決策は全く持って不充分だと明確に指摘することは大切なことである。現状の解決策が不充分ということは、インドネシアを含めて全てのグローバルサウス諸国にとって当てはまることであり、これらの国々は異常気象に対する緩和化(mitigation)措置、順応化(adaptation)措置、強靭化(resilience)措置に要する資金援助の利用しやすさに関する難題に直面しているのである。 視野を広げて見ると、Bridgetownイニシアティブは、国際金融構造を我々が理解する上で役立つといえる。公正であり、バランスのとれた気候についての国際的統治が如何なるものであるべきか、が今や理解できるといえる。世界は気候変動と闘うためにBridgetownイニシアティブのような現実的な解決策を必要としているが、世界の気候統治を再構築するにはまだまだ多くの作業が残されている状況である。これら残されている作業には、気候変動に対する責任と権利をどのように線引きするか、などが含まれている。 今日、グローバルサウス諸国の気候変動向け資金利用の権利が大きく合意されているのであれば、西欧富裕諸国もまた、現在のGHGの90%以上という過去の排出の責任を負わなければならない。換言すれば、西欧富裕諸国の責任は、グローバルサウス諸国の気候変動向け資金利用を提供することに留まるものではない。手遅れになる前に大気中からGHGを意図的に除去(carbon capture)するというマイナスの排出に相当する努力を西欧富裕諸国は行う必要がある。 ブータンは炭素排出がマイナスという世界でも稀な国の一つである。ブータンでは年間700万トン程のCO2が吸収され、一方で排出は200万トン程という。ブータンの実態を全て西欧富裕諸国にそのまま当てはめるのは妥当でないものの、彼の国の成功実態を検討することは必要なのではないか? ということで少し、ブータンのことを調べてみました。 国土面積:38,332km2(3,833,200ha)内72%が森林 人口:80万人程 1972年以降有名なGross National Happiness(GNH)を、GDPの代わりに政策指標とする 2009年に国土の森林カバー率が60%を下回ることのないように憲法を改正している。 そして輸出用森林伐採を禁止。 2010年に新森林政策が制定され、それまでの保全重視の政策から森林の持続的利用と保全のバランスを図る政策へと変更している。これにより政策の優先度は生産林の持続的管理、自然保全、流域管理、住民林業と民間林業を含む社会林業、木材産業に重点を置く方向になっている。 河川での水力発電を優先して、農村地域での煮炊き用薪の利用削減を目指して電力無料化を進めているという。水力発電能力は最大で30,000MW。この内の5%分程の1500MWが開発済みで、その70%分はインド向け電力。2020年までに更に10,000MW分を追加してインドへ輸出する契約をしており、新たに10基のダムを建設中。 2020年までに100%オーガニック食品の生産化を目指し、2030年までに廃棄物ゼロ化とGHG排出をネットゼロに、を目標としている。 観光ビジネスには慎重な姿勢を取っており、観光客に1日200から250ドルの開発手数料を徴収してエコツーリズムと環境保護の両立を図っている。 因みに日本は、国土面積:373,100km2(37,310,000ha)ブータンのほぼ10倍、内森林面積は25,000,000haで森林カバー率は67%。 降水量の豊富さ等、地勢的には極めて類似点の多い国であると思います。 人口密度は平均値として15倍程大きいという違いはあるものの、限界集落やそれに近ずい ている地域のことを思うと、事態はそれほど違わず、多いに真似られるというか真似 なければいけない部分も大いにあると思うのですが? 今回は「グローバルサウスと世界秩序」プロジェクト(The Global South in the World Order Project)という機関の存在を示すことと、それがグローバルサウスの声を聞く良い媒体と いうことを紹介することを第一にしております。 BRICSも一面グローバルサウスの声の拡大化を重要目標に据えているグループといえます。 BRICSの今回の会議については別の機会に取り上げてみます。 11月末のCOP28を見据えて、9月のインドで開催されるG20にModi首相はアフリカ連 合を取りこむ発言が既に打ち出されており、アフリカを始めとするグローバルサウスを取 り巻いての駆け引きが活発化する様相が出ております。 大切なことはグローバルサウスの使い勝手を中心に据えた金融構造の改革の話の方向が進 展していくのか、西欧先進国が従来のGHG排出分の償いを意識した拠出金拡大を自律的に 進めていくのか、そしてグローバルサウスの声が高まることを当然とする世界の方向にな っていくのか、がポイントと思っております。
0029
東京新聞「関東大震災100年・時を超えて(下)」「都新聞の記事」
笹井明子
09/06 13:06
9月3日の東京新聞の特集記事『関東大震災100年・時を超えて(下)』で、「東京新聞」の前身「都新聞」の「震災後の朝鮮人に関連した記事」を紹介していました。 曰く: 「爆弾や凶器を携へて暴威をふるった不逞朝鮮人」「ピストルを乱射し、女性を強姦」「抜刀で避難民を袈裟切りにす」(1923年10月21日社会面トップ) 「民衆を畏怖せしめ、激高せしめたるの罪、不逞朝鮮人にある。自警団の暴行は悪きも、その当時の事情を考慮する必要がある」(1923年10月22日コラム「一事一言」) あの東京新聞の前身の新聞が?!と正直愕然としました。 コラムの「自警団も悪いが、当時の事情を考慮する必要が、、、」ということなかれ主義的で結局体制につく「どっちもどっち論」を、私たちは今も多くのメディアで目にします。 私たちは、贔屓のメディアに盲目的に従うのではなく、パンドラさんが「映画『福田村事件』紹介記事で言っているように、率直に話し合える仲間の存在を大切にしつつ、事実を見極める努力を怠らないことが必要だと、つくづく思いました。 なお、今回の記事を書いた東京新聞・原田諒記者は、記事の終わりに、「私の曽祖父は都新聞の記者だった。これら記事への関与は不明だが、虐殺を正当化する論調は許しがたい。・・・ 何年かけてでも誤りは正していかないといけない。」 と結んでいます。 自社の前身の新聞社に対する率直な批判と、この記事を掲載した東京新聞の英断には、改めて信頼の念が湧きました。これからも頑張ってください!
0030
インボイスによる影響についての世論調査を東京新聞と城南信金が共同して行っている。これを見てフト思ったこと
yo-chan
09/16 12:22
インボイスによる影響についての世論調査を東京新聞と城南信金が共同して行っている。これを見てフト思ったこと 9月15日付け東京新聞の一面に10月から始まる予定のインボイス制度導入を控えて、その影響に関する世論調査を東京新聞が、城南信用金庫の協力の下、城南の有する顧客企業に対して行った結果を載せている。 調査結果のポイントは、一つは現在及び今後の景況判断についての中小企業の見方であり、「現在の業況は良い」は前回7月とほぼ同じ26.1%だったが、「中長期の先行きの業況は良い」が前回から5.7%低下の27.2%と、現在の原材料高・エネルギー高そして人手不足感等の懸念が今後の業況に対する懸念を生み出している模様である。 そして二つ目のポイントのインボイス制度の導入による影響への中小企業の意識であるが、懸念が指摘されている個人事業主等の免税事業者がインボイスの導入により課税事業者から取引を敬遠されるのではないかという懸念は、「課税事業者の10.8%が取引をやめるか、少なくとも取引継続に関して検討する予定」と回答しており、更にある識者が10.8%に留まらず実際にはもっと多いのではとの指摘もあり、インボイス制度の導入による懸念が実態として存在していることが伺われる調査結果となっているとしている。 今回フト思ったことは、インボイス制度とその影響についてのことが主眼ではない。 東京新聞が城南信用金庫と共同して世論調査を行ったという事実の確認によりフト頭に浮かんだ情景に関することになります。 常々、世論調査は我々市民の非常に大きな権利であり、その権利を実際に活用したいものだと考えております。 そしてもし現在の世論調査に欠陥があるのであれば尚更のこと、指摘される瑕疵を取り除くこと、そして原則上バイアスがほぼかかる恐れがないシステムを作りだし利用していくことが望まれると考えております。 その上で、市民の意識動向の定点観測値を得るシステムともいえる市民による、市民が本来有する権利である市民の為の世論調査を実施して公正で正確な市民の意識動向の結果を得、それを一つの判断材料として世の流れを構築できないものかと、常々思っております。 そんな普段考えていたことをふと思いだしたことから、世論調査の実態を含めて少し調べてみました。 2021年9月26日にJ CASTトレンドという媒体に「世論調査回答率低下で信頼性は かつては80%超が、今や40%台に落ち込みも」という記事があり、先ずはこの記事からポイントを拾って紹介すると 1) 近年、世論調査の回答率が落ちてきているという問題が起こっているという。 日本の世論調査の歴史は長く、かつては80%を超す回答率で、信頼度も高かったと言われている。例えば内閣府の行う「国民生活に関する世論調査」の回答率は1984年までは80%以上。それが1995年には75%を割り、2004年には70%程度に、そして今では50%台という。 同様に2021年8月29日公表の日経とテレビ東京の世論調査(内閣支持率やコロナ対策等)の回答率は46.6%(乱数方式採用の携帯含めての電話による調査)で50%を下回っている。 菅首相の続投の是非を問うた朝日新聞の世論調査では固定電話の回答率が51%(1095世帯にかけて有効回答556人)、携帯の回答率は43%(1964人にかけて有効回答839人)。 固定と携帯を合計すると回答率45.6%となる。 2) 世論調査の方法論の問題 かつては、調査員による戸別訪問だったのが、個人情報の保護意識の高まりがあり、2006年の法改正により住民基本台帳の閲覧をもとにした調査が出来なくなり、代わりに登場したのが固定電話による調査、そして携帯やスマホといった時代に移り固定電話が縮小するという時代にあわせた世論調査へと変遷している背景がある。 しかしこの時代に合わせたが為の結果、世論調査に課題が突きつけられている状況がある。 一つは、世論調査の意義や重要性を調査対象者に伝えることが、かつての戸別訪問方式では出来ていたのに対して、携帯やスマホを含めての電話方式では意義や重要性を伝えることの困難さがそもそもあるという。 踏み込んで言えば、世論調査電話がイタズラ電話や勧誘電話と区別できないという事実が一方にあり、そして通常人は未登録番号や知らない番号ましてや非通知の電話には「答えない」というケースが既に一定数存在しており、それが傾向として増加していく可能性があるというのである。 現在の電話は、相手先が登録済の人からの電話か、あるいは見知らぬ非通知の電話か、が電話に出る前に判るまでになっており、敢えて非通知には対応しないのが常識化しているのが現在であろう。そしてオレオレ詐欺を筆頭に電話を手段にした詐欺師たちが手を変え品を変えて良からぬことに血道を挙げているという世の中の背景がある。 従って、通知電話であろうが無かろうが見覚え聞き覚えの無い電話に対して、人は「見知らぬ電話には対応しない」が一般的になって来ている世相と思う。 よって、見知らぬ電話に出る・出ないという事が調査結果に跳ね返ってしまう可能性を秘めた、現在主流の無作為抽出の電話世論調査には、とんでもない欠陥があると言える。 そして、それが放置されたまま世の中でまかり通っているのが今の状況となります。 またインターネット上で世論調査と類似の調査があるが、ここではネットの特定サイトを見ている人に偏った解答になりがちという欠点が存在している。 3) かかる状況のもとで、現在の世論調査を手掛けている専門家らがどう状況を捉えてい るかを見ると、日経リサーチの世論調査部長の佐藤寧さんは、回答率を高めるために、例えば1問だけでも良いとして、他の設問を無回答としてしまうと無回答が不自然に多い偏った調査になり、また回答が期待できる年齢層を狙っての調査を行うと回答率は上がるもののある特定の年齢層に偏った調査結果になるとして、「回答率が高いことはイコール品質が高い望ましい方向ではないという点に注意する必要がある」と指摘している。 その上で、原則として「調査の趣旨を丁寧に説明して調査対象者の理解の上での世論調査活動の重要性を指摘している。この努力を怠ると、現状の方式の無作為抽出の電話方式では突然の電話にも対応するという人柄がよいというか警戒心の薄い人の集団からの世論調査結果を追い求め、拾い集めるという恐れがある」としている。佐藤さんは「自動音声応答通話(オートコール)方式の調査は世論調査ではないとさえ言いきっている。 総括としてJ CASTは「回答率が低くとも、きちんと対象者が選定されていたら、精度の高い調査は可能ということなのかもしれない。デジタル時代になっても、世論調査は「人力」に頼る部分が大きいようだ。と結論付けている。 ここで今日の東京新聞の世論調査の方法論を見ると、「調査は9月11〜13日、城南信金が東京都と神奈川の本支店を通じて実施。取引先の企業892社から回答を得て東京新聞が分析した」となっている。 電話での調査ではないと思われ、この点は評価できそうだが、もう一つの問題点の回答率の高さに関しては判断する情報がないのが気にかかる。 市民の権利としての世論調査の方法論は、やはりかつての対面方式が望ましいと思う。 機械音声のオートコールは問題外だが、携帯や固定電話を使用する人力による現状の調査様式は指摘される根本的な欠点があるものだということが明らかになった今、重要な市民の権利である市民の意識の大勢を公正で正確に掴むことが出来ていない現状は放置していてはいけない課題を残しているといえる。 世論調査の形式・様式上の瑕疵の存在を指摘したが、別の課題の存在も指摘してみたい。それは物語(narrative)に絡む問題である。 何事も常に、人・もの・金を支配する権力者や彼ら所属の組織が、彼らにとって都合のよい物語(narrative)をこしらえることから世の流れは始まると言える。 そして、現代の人・もの・金を支配している人なり組織は、技術革新競争至上主義にいち早く気付いた主体者(権力者・強国)であり、彼らは概ね都市部に生息し、農・漁村地域や森林・山岳地域という周縁部を切り離して活動しているのが特徴といえる。 この構図により支配者vs.被支配者、グローバルノース(グローバルウェストという人もいる)vs.グローバルサウスという対立構造が国内的にも、また国際間にも生じている由縁である。 この構図で具合の悪いのは、都合のよい物語(narrative)をこしらえることが出来たのが、都市部に生息する権力者であり強国だけであったという歴史の存在であるといえる。 彼ら主体者らが作った都合のよい物語には、周縁部に追いやられ、そして無視されてきていた人々のことは先ずは語られることはなかった。この周縁部にはグローバルサウスの国々が入っており、そしてグローバルノースに含まれているものの、やはり周縁部の地域が無視され続けていることは限界集落のことを持ちだすまでもなく自明のことであろう。 しかし自明ではあったとしても、実態としては主体者らが作る都合のよい物語(narrative)には参加出来て来なかったのである。ここに構造的な課題・宿題が存在して現在に続いているのである。 しかし、この根本的問題の改革に最近ようやく世界的には目が向けられ始めたと思われる兆しが出てきている。 BRICSが打ち出した5カ国から来年には11カ国へと拡大であり、G20インド会議にアフリカ連合の参加をModi首相が主導したことであり、そしてケニアのRuto大統領が主導し先頃開催のナイロビでのアフリカ気候変動会合の結果である。 今まで声が届かなかった、いや先進諸国があえて聞こうとして来なかった主にグローバルサウスの国々の声を聞こうとするBRICSの動き、Modi首相の試み、そしてアフリカからアフリカの総意としての声を発信しようとする試みであるRuto大統領の試みはグローバルサウスが世界に向けて壮大な物語(narrative)を提示して世の中・世界の今後の行方に正当であり真っ当なインパクトを与えようとする大きな動きと見ることが出来る。 Modi首相の語る今後の物語。Ruto大統領が代表するアフリカからの物語。ナイロビでのこのアフリカの発する物語は11月末のDubaiCOP28に向けたアフリカの意見集約であると既に表明されている。COP28の動向への期待が膨らむところである。 この様な今まで権力と無縁であった人々や組織の声を聞く耳を権力者らが持つこと、そして権力と無縁の人々や組織が声を発することの権利を真っ当に主張して、正当な主張を世に提示していけるシステムを作ること、そのシステムを活用して権力と無縁の立場の人々が物語(narrative)を作って提示していくという世の中の流れを作っていくことが、権力者や権力者に忖度する識者らからのみの物語を基にした現在の世論調査の問題を、多方面からの物語の競い合いを基盤とする真っ当な世論調査にしていく上で必要な作業であり、今現在この宿題が残っていると考えております。 最後に東京新聞の世論調査活動に一つ期待を込めて注文するとすれば、全国にある各地方紙と共同して、かつての戸別訪問形式の世論調査制度の構築をお願いできないか、である。 手足となって動いてくれることを期待したい組織は例えば全国の大学の社会学関係の先生であり高校の先生も協力が期待できるのではと思っている。 敢えて物語(narrative)という言い回しをふんだんに使っていますが、これはnarrativeというキーワードを含んだ文を用いてネット検索すると結構面白い情報に辿りつけることを体験しているからです。キーワードという言葉にこだわることも調べる上で大切なことと最近考えております。ご参考までに。
0031
健康・教育・エネルギーについて、フト思ったこと
yo-chan
09/30 13:00
今朝のネット情報に英検が一つ新たな中段を設けて、小中高大生らやその親達から更に金を収奪するシステム作りを算段している様をみて、次のようなことをフト思った。 子供達が持っている能力を最大化する手助けをするのは、そもそも社会の組織が果たすべき最も大切なことであり、その教育の機会を全ての子らに如何に公平に平等に提供していくシステムを形作っていくかが、社会の組織に課せられた大切な仕事の一つであると思案している。しかも教育には原則無料を貫く思想が社会に求められると信じる。 そしてこの考えは、国境を越えて全ての国々の子供達にまで広げることも強く求められる。 何故この様に考えるか。それは全ての子らには無限の能力が潜在していると信じるからであり、その無限の能力を財力のあるなしで、制約・妨害していくことが愚かな所業だと思うからである。そして世界の子供達の開花した無限の能力が与えてくれる可能な未来を実現させたいからであり、その未来を見てみたいからである。 即ち、子供達の存在そのものがコモンズであり、人類の共有財産だと考えたい。そのコモンズが持つ能力を全ての方面へ発展・発揮させることを妨げる権利は、当然誰も持っていないのである。 その上で今朝の英検の話。財力のあるなしで(発想としては、教育を商品化して価格を付け一つのサービス提供として捉えている)、子供達の潜在能力とその後が左右されるシステムとなっていると思う。英検の無料化が出来ないのであれば、別のシステムを作り出したいものであり、必要があると考える。 ネット社会である。必要な情報がかなりの部分ほぼ無料で入手できる時代になっている。 控えめにお節介を焼くことが好きであり、主たる人生の目標部分を終え時間に余裕のある老人たちがネット環境を上手に使って世界の財産である子供達に教育で貢献できる仕組みが出来ない物かと、フト思ってしまう。錆び付きつつあるとは言え獲得してきた智恵を子供らへ還元することは、老人の大切な仕事の一つではないかと思う。 現在教育現場で糊口を凌ぐ人々が存在しているのは判る。が、現在財力の多寡で、そして教育の商品化という世の流れの中で、子供達の間で可能性の芽が意味無く摘まれている不合理さが存在しているのも現実である。世界へと目を見開いた上で、何とかしたいものである。 ことは子供達の教育の問題だけではない。 前提として求められるのは、子供達を含めて全ての人々が健康であること。 更に世界の全ての人が充足した生活を送る為のエネルギーへのアクセス性の公正さ・平等性・安価性も前提として社会の組織には求められる。 健康とエネルギーのことを考える時、私達が住まう国土を現在我々が最大限に上手に有効利用しているのかという点が、気になっている。 私達が住まう国土を最大限に有効利用する目的は我々の健康とエネルギー調達の為だけではない。目的は国土の最大限有効利用化を通じて現在進行中の気候温暖化を如何に食い止めるか、ということである。即ちGHG排出を低減する活動(例えば石炭火力発電の代わりにバイオマス発電。コンクリ−鉄筋型都市作りの代わりに木質建設材料の使用等)であり、単に放置するのではない、森林の持つGHG吸収力を絶えず最大限の活性状態に置く森林経営の確立である。 ここでそれぞれ新たな職が生まれるという参加型共生主義活動に寄与する面も強調されるべきである。 例えば健康の基である食糧を見ると、日本であれば先ずは米となるが、今年は世界Millets年であり、しかもこのMillets年に合わせたかのように現在世界では高温・乾燥・更に洪水や山火事そして土壌の流出や高塩濃度化等の劣化が進行している様が連日報道されている。 しかし乾燥に強い作物のMilletsの生産を進めようという声は先ずは聞こえてこない。 水稲や小麦よりはるかに少ない水の量・そして投入肥料量が少なくても充分栽培でき、そして食すれば健康にも良いというアワやヒエ・きびを持続可能な方策で、何故に栽培していこうという気分を発揚しようとしないのか? ことは日本だけの問題ではない。世界では10億人程が飢えに苦しんでいる。与えられて住まう国土を最大限に利用して、国内の人の健康と共に余剰部分を世界で必要としている人々に提供するという発想の国作りが求められている。耕作放棄地や未利用地の存在などは誠にもったいない状況であり、世界全体からひんしゅくを買っているという思いを持ちたい所である。 エネルギーに関しては、先日ソルガム利用のバイオマス発電の話を目にした(ソルガム発電、9月25日、杉山大志氏記す)。かいつまんで触れると品種改良したソルガムは3カ月で6m程成長し、1ha当たり年間200トン以上の収穫が見込まれるまで研究は進んでおり、採取したソルガムはポーン(爆弾)せんべいを製造する様な装置を使って爆砕処置を行い乾燥させて、造粒化すると石炭にかなり近い発熱量(5200Kcal/kg、石炭は6200Kcal程)のバイオマスになるという。 因みに現在の石炭火力発電に消費している石炭(全量輸入でウクライナ戦争により戦前の1t100ドル程度が現在200ドル程に上がっているという)量は年間1億トン。これを全てソルガムに置き換えるとソルガム耕作面積は200万haが必要で、日本の陸地面積の5.4%分になるという。実はこのソルガムもMilletsの一つ(もし増産すれば食糧対策にもなる)。 国土の5.4%というと、極めて大きな面積を占めるイメージだが、放棄しており未利用の地域が多く存在している現状から見ると魅力ある、汚いと称される石炭を代替えする一つの素材ではあろう。 だが、やはり本筋は、植林はすれどもその利用をほぼ放棄している日本の森林経営である。 日本の森林が本来有する力を有効に利用してバイオマスを提供するという観点が、汚いと称される石炭を代替えする上での本筋であろう。 そして日本の森林が本来有する力を最大限に有効に利用してCLT(Cross-laminated Timber)等の木質建設材料を建設業界に提供していき、それによりコンクリ−鉄筋という現在必要以上に使用されているコンビを削減していく方向も今後の社会の本筋と思う。 全ての子らには無限の能力が潜在しており、その無限の能力の開花の先にある未来を是非実現させたいものである。 教育という観点で言えば世界の子供達の持つ潜在能力(これもコモンズだろう)を意味無く埋もれさせるシステムがあれば取り除くか、またはそれに代わるシステムの構築が求められる。 健康とエネルギーの観点では、耕作放棄地や未利用地そして森林林野という大地の持つ潜在能力(間違いなく大きなコモンズだ)を意味無く埋もれさせている現状があるのであれば、やはり最大限の有効利用化を目指す必要が求められる。 これは日本の国土に住まう人間として世界から要請されている重要な使命と考えたいものである。 進み方としては、新自由主義主体者側が商品化し提供するやり方ではない、市民側が主体的に参加する参加型共生主義思想が当然前提となる。
0032
「庶民に相談の必要は無い」と事業が始まり、「金儲け」の本音は隠し、夢を振りまき既成事実化に邁進し、傍観せざるを得ない庶民に大枚の金は求めるという不可思議さがある社会
yo-chan
10/22 17:57
「庶民に相談の必要は無い」と事業が始まり、「金儲け」の本音は隠し、夢を振りまき既成事実化に邁進し、傍観せざるを得ない庶民に大枚の金は求めるという不可思議さがある社会 そんなことを考えさせられる報道が最近続いている。 一つは大阪万博に500億円を追加するという話題である(10月20日朝日新聞デジタル記事より)。これまでの1850億円から500億増の最大2350億円となる見通しを日本国際博覧会協会が正式発表し、各方面から批判が噴出、という内容である。 2020年ごろからのこの話題に関する、主な利害関係者の話を拾っておくと、 日本国際博覧会協会 石毛博行事務総長 「1850億円(そもそも1850億円自体が2020年12月に当初の1250億円から600億円引き上げられていた)の範囲内で建設を行うミッションを与えられ努力してきたが、不充分ということで苦渋の決断をしてお願いしている」 2020年12月1250億円が1850億円に拡大した当時の井上信治万博担当大臣 「新型コロナウイルス禍で負担を強いられている中だが、国民が盛り上がる万博にするのがわれわれの責任」 政府と大阪府・市そして経済界の3者が均等に負担する図式の1当事者の吉村洋文知事は 2020年末の建設費拡大時点で「コストを上げるのはこれが最後」として当時は容認したが、 今回は「説明は不充分。改めて質問し、回答を踏まえて判断したい」と発言している。 推進団体である関西経済連合会松本正義会長 「以前から1850億円で足りるのか、と何度も言ってきた。協会は土壇場で1850億円では出来ないと言ってきた。負担する国民に対する説明が不足しているし、不誠実な態度だ」 もう一つの話題は冬季五輪を画策する札幌市長の発言である。 市長は、1964年東京五輪を我が国が成功して以降、複数回にわたり夏冬五輪で繋いできたオリンピック開催国という我が国の伝統(?)の火を消すことなく、冬季五輪開催を達成することで伝統を繋いでいきたい、等々とマスコミを利用して主張しているようだ。 この市長の主張は、表面的には「善きイメージの理念」を振りまいており一応は市民やスポーツ界の期待を背負った志のある発言であり、行動のように見えてしまう。 かかる「善きイメージの理念」の正論と見えてしまう発言に対して、反論するのは勇気がいるし、そもそもおとな気ないのではと、尻込みしたくなる気分にもなるところである。 がしかし、開催が1年遅れ、しかもコロナ禍の混乱の中、そして以前の真夏をはるかに超える異常気象の最中にも関わらずに強行してしまった先の2020東京五輪の実体験(言うまでもなく当初予算をはるかに超えた形で行われていた)のことを思い出せば「金儲けが主たる目的の」という裏に隠れた深い想いが当時の2020オリンピック招致活動にも働いていただろうし、今回の市長の発言の裏に隠されていると想像することは、容易なことであろう。 敢えて、これ以上は万博やオリンピック絡みの彼ら利害関係者らの発言には触れないが、こういう報道を読むにつけ、始めに記した考えに危機感を抱くものである。繰り返すが、 「庶民に相談する必要は無い」と事業が決まり、傍観せざるを得ない庶民に金は求める社会。 「金儲けの為」という本音は隠し、夢は限りなく振りまき既成事実化に邁進し、やがて傍観 させられていた庶民に対して、更に膨らみに膨らませた金を要求する社会。 それが許されるという不可思議さがある社会。この課題を考えてみたい。 この問題を更に考えていく上で、興味深い一つの視点が10月10日、現代ビジネス掲載の[大阪・関西万博や東京オリンピックがうやむやに始まりグダグダなまま進む。。。「ダメな日本」の致命的な弱点]に述べられている。少し長くなるが現代ビジネスの記事を引用して慶応大学栗田氏の考えを紹介したい。 まずは「ダメな日本」にならないためには、として以下の点を挙げている。 (1) 誰かが何かを主張している場合、了解して受け入れる前に「その主張が論理的なモデルになっているか?入手できる現実のデータをきちんと用いて組み立てているか?」 この部分で納得できなければ、その主張を信じるべきではない、とし、その上で検証可能なモデル分析をしている情報には興味を持ち、主張される結論が自分にとって大切と思えば、その主張に関連する書物や文献に当たって自らその真偽を判定する習慣を身につけることが現代の情報氾濫時代に自分を守る上で大切と勧めている。 (2) 学者や研究者は自身の研究を専門学術誌に掲載を希望する時には、前段に必ずその分野の他の専門家の「事前査読」による関門が設定されているシステムが存在している。それに合格しない限り学術誌に掲載はされない仕組みが出来上がっている。 一方、政府や地方公共団体が進める各種計画においては、事前の報告書作成は官僚らが依頼した当該分野の識者や専門家らが関与する。しかし出来上がった報告書を他の別の識者や専門家が内容の論理的妥当性を確認するといった計画実施前の「査読」に相当するシステムが存在していない、とされる。 そして、事前査読制度が無い状況で、あえて他の研究者がそうしたチェックを自主的に行っても、学界内で評価されないという土壌が日本社会には存在しており、これが相当大きな問題・課題だと、栗田氏は指摘している。 それらを踏まえて、栗田氏は近年の万博やオリンピックの様子を次のように捉えている。 1. 収支のモデルが粗雑である。入場予定者人数や入場料単価設定が私企業の行うような幅を持たせての予測となっていない。 2. 誰を満足させるためのプロジェクトなのかが常に曖昧にされている。 3. 公共事業の常で業者の定価(言われるままの価格)で組み立てられている。即ち、必ず支出が大幅に膨らむシステムになっている。 4. 利害関係者の利益はシッカリと事前に確定・確保している。プロジェクトが成功しても失敗しても業者は必ずもうかる仕組みになっている。口銭利益の存在とその確保もされているのであろう。 5. 特に、スポーツと文化を背景のプロジェクトは関連利益団体や圧力団体の力が強く、またマスコミも基本的に後押しすることで、市民の疑念やサイレントマジョリティの反対意思を反映させる術もなく、あれよあれよという間に計画が既成事実化していき、そして実行されていく。 国民も国会議員も誰ひとり明確に賛成していないのに「日独伊三国同盟」が締結されてしまった、という日本の恐ろしい特質は今も変わっていないと思える、と指摘している。 もう一つの視点が、昨年(2022年1月25日付け)の東京新聞の「こちら特報部」に「五輪中毒」と題して、坂上康博一橋大教授が触れている。坂上氏もそこで「怖いのは招致が決まると、異論が封じられ、国際公約を錦の御旗に有無を言わせずに物事が進行してしまう」と五輪招致活動に前のめりになる我が国の体質を指摘している。 坂上氏によると、戦後主権回復の1952年に東京が立候補し、2021年2度目の東京大会が終わった9月までの69年4カ月の期間、未決定の現在の札幌市の活動を除いても、複数の都市が重なった時期を含めて延べ58年11カ月が招致や開催準備に費やされていた。東京・札幌・名古屋・長野・大阪がひっきりなしに運動しており、空白期間は最長でも1972年札幌五輪後の5年半程度としている。 この状況は正に五輪に絡む動きが無いと済まない、という依存症や中毒症状と言える。 そして五輪中毒をもたらしている原因を、スポーツ界、開催都市、地元財界、政治家など複数の活動者の存在だとし、その活動者らが複合的に引き起こしているとしている。 複数の活動者らを突き動かす動因として、一旦招致が決まると、異論が封じられ、施設建設やインフラ整備、そのための立ち退きもスピーディに出来るという例外扱いが通用することを挙げ、この使い勝手の良さが中毒の要因の一つとしている。この五輪圧力が市民側の智恵や創意工夫を封殺し、思考停止状態を引き起こしている、と懸念を述べている。 一つは大阪万博に500億円を追加するという話題ならびに、もう一つの話題の冬季五輪を画策する札幌市長の発言を基にして、日本の抱えている永く続く、深い致命的弱点そして中毒症状を見てきたが、栗田氏が指摘しているように計画が一方的に決められ、市民は当然のこと、計画検討作成に携わった専門家・識者とは別の専門家・識者すらも排除して計画が決められ、既成事実化が進められていく所に大きな問題が存在していると思う。 合わせてもう1点気になっていることがある。 それは、かかる案件の世の中での「見え方」、または別の言い方からすると我が国特有の「見せ方」もまた大きな課題であると思っている。 即ち、利害関係者らは、「金儲けの手段としての」万博、「金儲けの手段としての」オリンピックという本音を間違いなく常に心に抱いているだろう。 しかし傍観させられている一般市民には、決してそのような「見え方」で捉えられないような仕組みも開催都市、地元財界、政治家など複数の活動者は合わせ作っているといえる。 反対に如何に「夢ある」「人類の進歩の印」等々の美辞麗句で塗り固め、表面上は一般市民には付け入る隙がない「見せ方」をも彼らは見事に行っているのである。 彼らは奸智に長けている上に力を持っているのである。そして閣議決定される直前までは彼らは本音を隠し通し続けるのである。 そして閣議決定がされた後は、彼らは本音を隠す必要はなくなり、そして市民はそれまでの既定事実の積み重ねや国際公約という錦の御旗の前に、為す術なく予算の可能な限りの彼らの膨張作業を見つめるだけの存在になっているのである。 この悪しき連鎖のなかでは、我々には閉塞感が絶えずただよい、晴れることはない。 そしてそれを困ったことだと嘆息をつく位が、取り得る我々の関の山の行動だったとも言える。しかも庶民には大枚の奉加帳が回されてくるのである。 残念ながらこの不可思議さは、今後も延々と続くだろうと容易に想像されるのである。 だが、この悪しき連鎖を断ち切れないものだろうか。 この悪しき連鎖を断ち切るには閣議決定される前に、「金儲けの手段としての」や「金儲けが主たる目的の」という本音が必ず隠れ潜んでいるという認識を市民が常にハッキリと持つこと、それを意識した行動を組み立てていく習慣を市民が持つことが大切だ、と考えている。更に過去の悪しき実体験を忘れないで持ち続けること、そして別の識者や専門家らの冷徹な査読システムを万博やオリンピックや他の公共事業の閣議決定以前にシステムとして組み込むという市民の智恵と力を持つこととが大切と考えている。 このシステムを上手く構築でき機能させることが出来れば、無駄だった「死に金」を「生き金」に替えて使っていくことが、次に考える必要のある事柄になる。 例えば放棄され半分死んでいる日本の森林に人の手を入れていく際の資金にも使いたいし、人新世時代を通じて世界平均以上に日本が排出してきた温暖効果ガスの結果、疲弊してしまっているグローバルサウスへの「Loss&Damage」対策資金向けの貢献費用に充てるも善しと思う。日本でも世界でも雇用の拡大に繋がるテーマと考える。 「生き金」の使い方の思索ほど楽しいことはないのでは、と思う。
0033
世界沸騰時代に対処するキーワード(1)「C3植物」対「C4植物」
yo-chan
11/08 11:24
世界沸騰時代に対処するキーワード(1)「C3植物」対「C4植物」 「地球温暖化」危機というステージを飛び越え、次のステージ「地球沸騰化」時代に入ったとする話題が、今夏始まった。いよいよ「我々」は追い詰められたといえる。 ここで言う「我々」には、人だけが含まれる訳ではない。話題のクマも、その他すべての動物も含まれるし、蚊や蝶らの昆虫も、そして全ての植物も全ての微生物も含まれる。 即ち、地球沸騰化時代に突入するまで環境悪化を推し進め、放置してきた人の愚かさを、理不尽にも被害のみを受けている全ての動植物と全ての環境をも「おもんばかる」意識を、人が持つことが大切な姿勢と思う。 かかる観点から、「地球沸騰化」時代に対処する際に心得ておきたいキーワードを取り上げ、どちらの道を選ぶのが賢明かの選択に役立つ情報を提供してみたいと思う。 先ず、今回は「C3植物」と「C4植物」という言葉を通して、「地球沸騰化」時代における賢い農業政策選択の一視点を提供してみたい。 植物が光合成を行い、大気中の炭酸ガスを吸収し酸素を吐き出し、糖・脂肪・蛋白質等の様々な栄養素を作りだし、人を含め全ての光合成機能を持たない生物に対する食料を提供していることは周知のことである。そして植物の持っているこの炭酸ガス吸収機能が、産業革命以降、主としてグローバルノースが化石燃料に依存する経済を拡大し世界支配を目指したことで過大に発生させた炭酸ガスの極めて有効な吸収装置になっていると捉えられていることも周知のことである。 簡単に光合成のことをおさらいしてみる。 光合成の解明はカルビンとベンソンらの研究(1950年)から始まる。 カルビン−ベンソン回路として知られる回路の存在を彼らは突き止め、光合成の機構が解明された。 この回路は炭酸ガスCO2の同化吸収機構(植物の持つ炭酸同化作用とも言う)であり、グルコースやでんぷん、そして有機酸・脂肪やたんぱく質等が作りだされる出発の回路である。 このカルビン−ベンソン回路は植物の葉の維管束鞘細胞に存在しており、この回路の最初の段階を触媒する酵素(RuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ、Rubiscoと呼ぶ)がそこに存在し、取り込んだ炭酸ガスCO2を、5つの炭素を持つ化合物のリブロース1,5−2リン酸(RuBPと略す)に結合させる働きを行っている。そして一旦6つの炭素を持つ中間体を経由し、3つの炭素を持つ化合物のグリセロアルデヒド−3リン酸(3PGと略す)2分子へと変わる。この3PGと略される3つの炭素を持つ化合物が回路の最初の段階で作られることから、この回路をC3回路と呼び、この回路を持つ植物群を「C3植物」と呼ぶ。 米や小麦そして大豆などの主要な農作物と陸上植物の大半がこの「C3植物」である。 カルビンとベンソンらの研究によりC3回路とC3植物の存在が発見され植物の持つ炭酸同化作用は明らかになったが、その後彼らの研究に触発される形で、世界各国でいろいろな植物の光合成の追試確認研究が行なわれた。その過程でC3回路とは別種の回路、C3植物とは異なる植物の存在が明らかになった。 それが、ハワイにおけるサトウキビを用いた研究であり、「C4植物」と言われる一群の植物の存在が明らかにされ、注目されるきっかけとなった。 「C3植物」との違いであるが、まずその「C4植物」の持つ「C4回路」の活動場所が「C3回路」の場所と異なる点が第一の特徴である。 即ち「C3植物」の「C3回路」は葉の維管束鞘細胞に存在すると述べたが、「C4植物」の「C4回路」の活動する場所は、葉の維管束鞘細胞に囲まれる形で存在している葉肉細胞においてである。 そして第二の違いは、葉肉細胞中に存在する酵素の働きにより、3つの炭素からなる化合物のホスホエノールピルビン酸が炭酸ガスCO2と結合し、4つの炭素からなる化合物オキサロサクサンが出来ることが異なる点である。即ち3炭素化合物が炭酸ガスを吸収して4炭素化合物に替わることでサイクルが始まることから、この一群の植物が「C4植物」と名付けられた言われ、なのである。 4つの炭素を持つオキサロサクサンはリンゴ酸に変換され、その後、変換されたリンゴ酸は葉肉細胞から維管束鞘細胞に送られる。維管束鞘細胞でリンゴ酸(4炭素)はピルビン酸(3炭素)に戻され、その際生じる炭酸ガスCO2は既に説明した維管束鞘細胞に存在する「C3回路」に取り込まれ、以降「C3植物」で起こるのと同じ工程で各種有用栄養成分が作られていくことになる。 即ち、この葉肉細胞に存在する「C4回路」は、「C3植物」には存在していない別ルートの炭酸ガス吸収装置・濃縮装置とも言えるシステムであり、何らかの状況により炭酸ガスの利用が困難になった場合、2つのルートの炭酸ガス吸収装置を持つ「C4植物」の方が1つのルートしか持たない「C3植物」より有利になるとの予測が出てくる。この点が地球「沸騰化」時代の農業施策を考える際のポイントになる「C3植物」と「C4植物」との違いである。 以下「C3植物」と「C4 植物」の違いについて焦点を当てている文献を基に説明を進めていく。 参考文献:植物生理学II 第9回講義(光呼吸とC4光合成) 北海道大学農学部 環境ストレスと植物の反応 他にも多くの文献がネット上で見ることが出来ます。 1. 炭酸ガスの有効利用性については「C4植物」の方が、「C3植物」と同じ機構がある上に、加えて炭酸ガス濃縮装置C4回路という特別装置を持っていることから優秀と言える。但し、C4回路を回転させるためには高エネルギー物質のアデノシン3リン酸ATPが余計に必要とされ、エネルギーを余分に必要とするという欠点が存在している。 2. C3植物の説明で酵素Rubiscoが炭酸ガスCO2をC3回路に取り込む反応を触媒することから回路のサイクルがはじまると説明した。この酵素Rubiscoは炭酸ガスだけでなく、大気中のO2とも親和性があることが知られており、O2が酵素Rubiscoにより取り込まれると「光呼吸」と呼ばれる反応がスタートすることになり、植物組織内の有機化合物が酸化燃焼されエネルギーが発生利用されるとともに炭酸ガスCO2が逆に発生することになる。いわばCO2とO2とのいずれが酵素Rubiscoに取り込まれるかは植物の置かれている環境に左右されることになる。よって現在の炭酸ガスCO2が過大に存在している地球沸騰化の局面では、C3植物は有利な環境とも言える。 しかし炭酸ガスが過大な環境では必然的に気温が高くなっているわけで、この様な環境ではC3植物の光合成活動は抑制される、ということも知られている。それが次の3.の項目である。 3.「C3植物」と「C4植物」との決定的な違いが紹介されている。それによると 「C3植物」が有利な環境:湿潤・低温・日射が弱い方が好ましい 「C4植物」が有利な環境:乾燥・高温・日射が強くても良い ここで日射が強く、高温で乾燥した環境が、「C3植物」に不利になる理由が説明されている。 高温・乾燥(必然的に日射も強い)になると、植物は「葉の気孔」からの水分の蒸散を防ぐために「気孔」を閉じる方向になり、従って炭酸ガスを取り込むことが困難な方向になる。よって「C3植物」は光合成能力が低下し、高温乾燥条件下で萎れていくことになる。一方、「C4植物」は気孔の閉鎖傾向による炭酸ガス摂取力が低下するものの、それに打ち勝つC4回路という特別炭酸ガス濃縮装置を持っていることから生育が妨げられないという特徴を持っていることになる。 結論として現在の地球「沸騰化」時代に賢く対処するには、米や小麦といった乾燥・高温・干ばつといった環境に弱い「C3植物」に偏った農業施策だけの遂行では世界の食料安全保障は不安定な状況に導かれていく恐れが高いと言え、従って合わせてアワ・ヒエ・ソルガムといった「C4植物」の栽培を推進する農業政策が強く望まれることになる、との考えが出てくる訳です。今年も残す所2カ月を切ったが、2023年度が国際Millets年と国連が唱道している理由はこの辺りにあると言えます。 代表的な「C4植物」であるMilletsにはアワやヒエ・キビがあり、ほかにトウモロコシ・ソルガム・サトウキビ・ハトムギ等がある。 アワ・ヒエ・キビの世界の生産量は3,000から4,000万トンと言われ、国祭Millets年に関わらずそれほど拡大は起こっていないように見える。 但しアフリカでは緑の革命(GreenRevolution:GR)型の種子企業・穀物メジャー・肥料企業・農薬企業が先導する工業型農業が主流の状況下にあるが、その弊害が指摘され、それに代わる農業(Agroecologyという)が復興しつつある状況にあり、Milletsの生産量がアフリカで拡大する兆候が指摘されている。Agroecologyについては次回に触れる予定。 ソルガムの世界生産量はもう少し多く6,000万トン程という。 但し利用のされ方はどちらも家畜の飼料が大半で、最近バイオエネルギー関連での利用が注目されているという。人が食する場面では、美容にこだわる人や健康を重視する人が少し存在して食べているのが現状と思われる。 いずれにしてもMilletsとソルガム合わせても1億トン程度で、米・小麦・トウモロコシという主要穀物の生産量の27億トン程と比べると4%にも満たない、少ない状況である。 日本ではアワ・ヒエ・キビは現在年に200トンが流通しているだけでほぼ全てが飼料利用である。しかし文明開化以前の日本ではコメと共に主食の地位を占めていたという歴史がある。 今回「C3植物」対「C4植物」というテーマで「C4植物」の優秀性を示してきた。 ことに地球「沸騰化」と言われる時代には、この「C4植物」の優秀性ということに着目することは時代に対処していく上で重要なモノサシになると思う。 大気中の炭酸ガス量は産業革命前の250ppm程度だったのが今や400ppmを越え、更に高まっていくことが強く予測され、そして今年が世界Millets年ということの重みに思いをはせ、賢明な対処策を世界が・国がそして個人個人が考えていくことが望まれると思う。 因みにここ数カ月アワと押し麦を主体に米は4分の1位に減らした食生活に替えて暮らしている。結構、ヨサげな感じで暮らせています。 そして「エゴマ」の粒を毎朝7g程度すりつぶして食しています。こちらはDHAやEPAと同等の不飽和必須脂肪酸の摂取を狙っての食生活の智恵です。 更に、大豆は納豆(納豆は大切な食品です)の形で日に一個、それ以外の豆の摂取目的で「ひよこ豆」の煮たものを100g程度毎日食べています。大豆には大豆油が多く含まれており、農水省推奨の一日100gの豆をすべて大豆の形で食べると油分を多く取りすぎることになり、それを気にしての油分の少ない「ひよこ豆」を採用しているわけです。
0034
ドバイCOP28開催直前に流れているニュース
yo-chan
11/23 15:08
今月末からUAEドバイでCOP28が開催される。 我々が現在抱えている気候変動課題に対してCOP28が、そして国際社会がどのような討論 を行い、どのような解決策を提示していくのか、を見定める際の参考になれば、との思いから直前に報道されている幾つかのニュースを紹介してみたい。 取り上げたニュースは以下である。 1. DeutscheWelle,2023年11月17日 “Who pays for climate damage and where does the money go?” Jeannette Cwienk記す 2. PakistanDawn,2023年11月18日 ”Climate action" Aisha Khan記す 3. AlJazeera,2023年11月18日 “COP28 must not repeat the mistakes of the African Climate Summit” Sydney Chisi記す まず、DeutscheWelleの記事(誰が被害の請求書の支払者で、その資金は何処にむかうのか)から始めます。 一つは気候変動を止めるという目的(mitigation)で、もう一つは気候変動の結果として生じる被害に適応する目的(adaption)で、一連の気候変動基金(climate fund)が貧困国向けに約束され用意されている。しかしこれらの用意されている基金が実際には何をカバーしているのか、そして何ゆえにどの基金の運用もが物議を醸すことになっているのか、という疑問がある。 歴史的に見て、化石燃料を産業革命の動力源として利用し、温室効果ガスを大量に発生させ、結果として地球温暖化を引き起こしてきた米国や欧州の様な国が気候変動向けの請求書の支払者になるべきだとの議論がある。しかしながらその意味する所は正確にはどのようなものであろうか?以下順を追って見ていく。 (気候変動融資climate financeとは何か?) 気候変動融資の背後にある考え方の一つに、発展途上国が化石燃料に頼らない経済発展のかじ取りが出来る様に支援することがある。 もう一つの考え方に、気候変動の影響を最も受けている貧困国が気候の変化に適応できるよう、裕福な国々は支援すべきということがある。 これらの考え方は1992年のリオデジャネイロ世界気候サミット以降、世界の気候交渉の中心議題となって来ていた。 気候変動への資金提供というと一般的に連想されるのは、2009年のコペンハーゲン国連気候サミットで先進国が2020年までに年間1000億ドルを調達するという公約をしたことである。2015年のパリにおいて、参加者らはこの金額を2025年まで毎年支払い続けることで合意し、そしてその後新たな金額を設定するとした。 (気候変動融資はどのように実践されるのか?) 公約の1000億ドルの実施の点で、先進国側は当初公的資金(public fund)を想定していた。 しかし先進国側は徐々に民間投資(private investment)を通じての金額を上昇させようとしている。 資金の流れとしては、約50%は供与国から受領国に向けて2国間で流れており、主として開発援助の形式がとられている。 残りの流れは、多国間資金(multilateral money)の形式を取っており、複数の国家が資金を供出し、そして複数の受領国家が受領することを意味している。この資金は世界銀行やアフリカとアジアのそれぞれの開発銀行のような多国籍銀行を経由して運営されている気候変動プログラムから提供されるか、あるいは多国間気候変動基金(multilateral climate funds)を通じて割り当てられる。 (緑の気候基金、Green Climate Fund) 多国間の基金プールの中で最も著名なのは緑の気候基金GCFだろう。この基金は、再生可能エネルギーの拡大などの気候変動を遅らせるための対策向けと、異常気象やその他の温暖化の影響への適応向けの両方を目的とする。 これまでに富裕国側は約200億ドルの提供を約束している。その内128億ドル分のプロジェクトが承認され、これまでに36億ドルが特定のプログラムに既に供給されている。大半がアフリカとアジア向けだが、ラテンアメリカ・カリブ海諸国・東ヨーロッパ向けのプロジェクトもいくらかある。 4年ごとに供出国は基金を補充することが求められている。資金の半分弱は有利な融資の形(favorable loans)で供給され、残りは返済の必要のない直接補助金(direct grants)として提供されている。 (適応基金、Adaptation Fund) 富裕国側が公約する1000億ドルの資金を受け取るもう一つの別の基金(Fund)が適応基金。これは比較的規模の小さい基金であり、基金を補充するシステムはなく、富裕国側は可能な時に、あるいは希望する時に供出するやり方が取られている。 この基金の目的は、異常気象による影響に適応できるように各国の手助けになるプロジェクトを支援することである。これらの異常気象による影響としては、例えば洪水への対策や暑さに強い作物の栽培などの対策が挙げられる。 途上国は、融資の形でなく、補助金の形で受け取る。該当プロジェクトは通常、利益を生むことが無いような適応行動へ資金を提供するということが特徴である。故に売電可能な風力発電やソーラー発電のプロジェクトへの拠出は対象外となる。 (開発程度が最低の国家向け基金、Least Developed Countries Fund、LDCF) この開発程度が最低の国家向け基金(LDCF)は、最貧国46カ国をカバーしている。 返済の必要のない助成金のみで運営されており、緊急の気候適応資金を提供することを目的としている。これまでにLDCFは360以上のプロジェクトに資金を提供しており、約17億ドルが支払われている。 (1000億ドルの気候変動資金の公約は果たされているか?) 結論としては、果たされてはいない。 OECDのデータによれば、2020年に国際気候変動融資に支払われた総額は約830億ドル。 Oxfamドイツの気候変動・政策責任者のJanKowalzig氏は、「830億ドルという額は大きく聞こえるかも知れないが、グローバルサウスの貧困国が必要としている額はもっと大きい」と指摘している。そして、「我々の調査によれば、適応対策向け費用だけでも、2030年までの期間、毎年3000億ドルを超えるものとなっている。そしてこの数字には気候緩和対策向け費用は含まれていない」とも指摘している。 また、国際開発機関(international development organization)によると、OECDが言う830億ドルは粉飾されている、という。Oxfamの計算では2020年の実際の気候変動支援金額としては最大約245億ドルだったとしている。OECDが公式にリスト化しているプロジェクトの多くは、気候への影響が殆どないものだ、とOxfamは見ている。 「その上、先進国は公約の1000億ドルの支払い方として、多くは融資の形で貸し出している」。従って途上国側はこれらの融資を返済する必要があり、ドイツの支援団体「Bread for the World」のMinninger氏は「このやり方は、ごまかしだ」と主張している。 (損失,Loss,と被害,Damage:気候変動対策資金調達のネックポイント) 世界は何十年もの間、熱波や干ばつによる作物の被害や地域の居住不能化など気候危機により引き起こされている損失(Loss)や被害(Damage)を誰が支払うべきか、について議論を重ねてきている。更に発展途上国はこの目的の為の追加資金を望んでいる。 先進国側は気候変動融資の範囲を超える損害賠償で訴えられることを懸念しており、また彼らは世界最大のCO2排出国の中国など経済的に強い新興国にも同様にドナー国としての支払いを望んでいる。 損失と被害については多くの疑問が未解決のまま残っている状況である。 (気候リスクに対するグローバルなシールド、Global Shield against Climate Risks) 気候リスクに対するグローバルなシールドは、2022年のCOP27においてG7とV20(気候 変動リスクを特に大きく受けている約70カ国のグループ)により立ち上げられた。 壊滅的な異常気象に迅速に応えられるように、このシールド(絆創膏といった意味合いか)基金にはあらかじめ決められた金額が割り当てられている。 これまでに2.28億ドル以上が提供されており、その約80%はドイツ拠出となっている。 次いで、PakistanDawnの記事(気候変動への行動)を紹介する。 NASAの代表的科学者のJamesHansen氏は「産業革命以前に比べて世界の平均気温を1.5℃以内に抑えることは、ほぼ絶望的であり、2℃以内に抑えることも、もし我々が迅速かつ適切な行動を取らない限り、非常に困難な状況だ」と指摘している。 この終末論的シナリオ及び気候変動問題の議論に何ら進展が見られないという背景から、国際司法裁判所(International Court of Justice ,ICJ)は諮問手続きを開始している。 手続きには書面及び口頭諮問が含まれ、これにより気候変動に関する各国の義務についての指導基準が与えられることになる。 勧告的意見が下されるのは、2024年後半から2025年初めと見られる。 この動きは国連の下記の動向が引き金になっている。 国連総会(UNGA)はバヌアツ政府からのリクエストを支持する決議を採択した後、ICJに対して気候変動に対する国家の責務に関する勧告的意見を求めることを正式に決定し、ICJ に要請している。 これにより、気候正義の解釈に極めて大きな変化がもたらされ、気候変動対策の将来を形作る上で、またとない機会が提供されることになるだろうとみられる。 地球上から消滅の危険にさらされている国々や、生命を脅かす課題に直面している国々にとって、ICJが今後発表する勧告的意見は、国際法に基づく法的責任を大規模排出国に問う上で役立つ可能性がある。 この勧告的意見は、また現在および将来の世代で最も弱い立場にある人々に損害を与える気候変動に関する行為や不作為に対し政府の責任を追及しようとしている世界中の法域での気候変動に関する訴訟や裁判を強化する可能性がある。 これは気候変動対策の方針を変える画期的な機会を提供することになる。 ICJへの第一回目の書面提出の期限は2024年1月22日まで延長されている。気候危機の前面に立つ国々にとっては、この期間延長は気候正義について、より幅広く議論に取り組むことが出来る機会を提供するものと言える。 気候変動危機に最も責任を負う国々が、脆弱な国々に対する被害を抑制するために、今何を為すべきか、ということをICJ判事らに理解させるには、各国が人権・環境権や気候に関する国際法規的に確固たる証拠と先進的見解を持って、それぞれの訴訟ケースを如何に数多く提供するか、に掛かっている。 このことは、損失と被害を今後の気候変動交渉の最前線に据え、気候危機を管理するには道義的責任を超えて、拘束力を伴う法的義務をも国際社会に認識させることが必要ということである。 ICJの勧告的意見には、諸国が単に慈善的に脆弱国に対し援助を提供するという意識から脱却して、気候変動による被害と損傷に対する公正であり、法的に健全な賠償(reparations)という考えへの移行を促す面もある。被害のみを大きく受けている国々がこの機会を使いタイムリーにそして強力に主張すべきことを展開することが求められる所である。 地球が沸騰する時代、そして暴力が支配する世界にあって、この展開により多国間主義ならびに世界正義に新たな希望が注入される可能性がある。 自主性に任せて排出を削減するという考え方・システムは機能することはなかった。 この自主的削減の考え方は「解決策の計画」を策定する装置にはなったが、公正な将来への希望に関しては、反対に減退させていく方向に働いたと言える。 ICJの勧告的意見により、国家及び非国家主体(多国籍企業体をさすか)は、各国の法的責務を明確にして、履行に対する責任を負うプロセスに参加する機会を得ることになる。 ある国の開発と発展によって、世界の他の地域に暮らす人々の生活や生存が脅かされるのであれば、その開発と発展を推し進める権利は如何なる国であっても持っていない、という当然のことを世界に広める機会に、今回のCOP28がなるべきと考える。 壊滅的な猛暑と洪水が世界の半分に襲いかかるまでに、残されている猶予期間はもう7年だけだ、と言われている。 時を同じくしてネパールでICIMOD主催の初の極間会議(inter-polar conference)とフランスでの極地サミット(Polar Summit)が開催されており、地球の平衡感覚が危機に瀕していることを示す状況が生まれていると思われる。 「地球全体を想定するアプローチ」という視点を欠いては、今後は管理できないことが示されている。 現在人類に課せられた課題は、気候正義というレンズのみを通して判断すべきでなく、地球全体の生命システムの生き残りという全体的見方から判断すべきと、今回の国連総会のICJへの要請決定を捉えるべきである。 そして地球全体の生命システムのなかで、絶滅に向かうスピードを加速させているのが人類だけなのだ。 最後はAlJazeeraの記事(アフリカ気候サミットの間違いを、COP28は繰り返してはならない)になります。 グローバルノースのロビイストらがCOP28で誤った解決策を押し付けてくること、それを許してはならない。 11月末にドバイで開催されるCOP28。しかし会議に先立ち、気候変動政策へのアプローチに大きな変更が無い限り、有意義な進展はないだろうとの指摘が活動家や市民社会から既に打ち出されている。 グローバルサウス諸国側には、富裕国や多国籍企業が通常通りの事業を継続する施策が推進されており、貧困国は単に気候変動の矢面に立たされているのみではないか、という懸念が強くある。 この9月初めにナイロビで開催されたアフリカ気候サミットでも、この懸念は出されており、政府・企業・国際機関・市民団体から数千人の代表が集まったCOP28に先立つアフリカサミットで、アフリカの人々が損失(loss)と被害(damage)の補償、気候緩和、気候変動資金などの問題について共通の立場で合意を得る機会になると見られていた。 しかし発表された最終文書(ナイロビ宣言)ではアフリカ諸国間の一致事項やアフリカ諸国内にある最善の利益を反映するものには適っていなかったと言える。 グローバルノース諸国や多国籍企業のロビイストらには、彼らの誤った解決策を表明する為のスペースが与えられており、そして高いレベルでの会議アクセス権も彼らには与えられていた。 一方アフリカ大陸を支援する目的で透明性ある解決策を要求する活動家や市民社会代表らは、議事進行中のアクセスが困難な状況に置かれ、脇に据え置かれているのではないか、という状況であった。かかる会議の進行を考えるとサミット最終文書の結果は驚くべきことでもないだろう。 結果として、9月のアフリカ気候サミットでは主たる排出国のグローバルノースがアフリカ諸国を補償する政策を推進する一方で、サミットとしてはグローバルノースがアフリカ諸国に被害を与えることを継続するという政策を受け入れさせるものであった。 このサミット宣言では、炭素クレジット・炭素オフセットや炭素取り引きといった問題を含んでいる実践案に重点が置かれ、そしてそれを合法化したものであった。 これらは誤った解決策であり、アフリカ諸国が必要としているものとは言えない。 これらはグローバルノースがアフリカの土地と人々の支配を継続し、そしてアフリカ大陸の排出削減分に見合うクレジットを購入する一方で、グローバルノース側は温室効果ガスの排出を継続することが出来るシステムをアフリカの人々に認めさせたという、新植民地主義の戦術に他ならない。 炭素取り引き(carbon trading)という方策は排出国側が排出を継続することを目指して、その排出分に見合う炭素捕捉活動(アフリカにおける新規植林活動や森林保全活動等)をグローバルサウス側の国で行うというものであるが、ここで問題になるのは、これらの炭素捕捉活動を考えている地域には、そこに存在する森林や土地を生活手段として必要としている地元の人々が現に生活しているということである。 即ち、炭素取り引きの構図には、炭素捕捉という名目および自然保全という名目のもとで、地域に住む人々の生活権・生存権を脅かすという部分が含まれている。 このような計画では炭素排出量の増大に対処はできず、排出量の削減を拒否する富裕企業や先進国のグリーンウォッシングが可能となる構図を助長するということが良く知られている。 炭素取り引きのやり方が解決策でないならば、アフリカ諸国の損失と被害、適応と緩和への資金提供についてグローバルノース側はどういう形で支援を進めていくことが出来るのであろうか? ここで「キャップとシェア(cap and share)」という考え方が対案となりえる、と気候活動家や市民社会が見なし始めている。 このシステムは世界規模の炭素税(international carbon tax)を中心に据えて、その税金の支払者はグローバルノースの化石燃料採掘組織であり、その主要な消費者だというものである。 この税は、世界規模のグリーンニューディール基金(global Green New Deal fund)向けに年間数兆ドルが見込まれ、その資金で再生可能エネルギー社会への移行や世界の全ての人へのエネルギー供給が可能となると考えられている。またこの資金により、損失と被害向けの助成金、グローバルサウスの適応と緩和活動、そして一般の人々を支援するための現金給付にも提供可能とみられる。 キャップとシェアは国民国家を超えて機能する税制を確立することになる。このことは気候正義の鍵となる考え方であり、永い間待ち望まれていたものである。 モデル化によると、世界規模の炭素税の経済効果は革命的であり、アフリカの全ての極貧状況からの脱却など、大きな利益が得られることが示唆されている。
0035
世界沸騰時代に対処するキーワード(2)AGRA対AFSA
yo-chan
12/04 14:51
食と農(食糧問題及び農業問題を全体として捉える場合に食農という言い方がある。以降可能な限り食農を使ってみたい)のシステムに関する世界の潮流をまず捉えてみたい。 そして、その潮流が世界沸騰時代という今の状況に合致した適切な流れなのかどうかを考えてみたい、と思い調べております。 そんな考えで、前回はC3植物とC4植物というキーワードを取り出し、現在の世界の食農システムの潮流が妥当かどうかを判断するキーワードの1つを提示しました。 今回はアフリカの食農システムに興味があり調べていく過程で、興味深い別のキーワードの存在が出てきましたので紹介したいと思います。AGRAとAFSAになります。 AGRAとAFSAはいずれもアフリカ大陸における、それぞれの食農システムの普及を目指している組織になります。ただし、AGRAは世界のアグリビジネス業界の提供する科学技術を採用し、そして推進することでアグリビジネスの巨大企業からの支援と後援を受けており、その運用資金は世界の慈善団体(例えばロックフェラー財団やビル・メリンダゲーツ財団)から受けており、その技術力と資金力からアフリカ各国の政府にAGRAの食農システムを採用させる力を持っており、一方のAFSAはこうした支援や後援を現在はほぼ受けることが出来ていない、世界の潮流の脇に置かれた組織だというのが今の現実の状況と思われます。 しかしながらAGRA とAFSAという2つの組織の活動を調べていくと、2つの組織の動向が、単にアフリカ大陸に留まらない、世界の食農システムの現在と今後の行方を考えていく上で非常に参考になる思想がそれぞれに含まれている、と感じております。 前回のC3植物とC4植物と同様に、今回もAGRAとAFSAという二つの組織を観察していくことで、世界が目指すべき食農システムと、その流れが世界沸騰時代に適っているのかを考える上での参考材料になればと思っております。 結論的にいうと、種子ビジネス・合成肥料・合成農薬販売等の多国籍巨大アグリビジネス事業体の利益が優先的に確保され、そして単一品種栽培の効率化を追求し、規模の拡大を目指すAGRA型システムだけが繁栄している現状を肯定するのでなく、家族労働も含めた小規模事業者のその土地その土地に合わせた自主性・自律性が尊重されるAFSAシステムもが共存する食農システムが構築され、世界から支持を受けるようなことが望ましく、その方向が我々の取るべき道だと考えております。 即ち、いずれか一方に偏った食農システムの採用は正解ではない、という考えであります。 私自身は主流になり得ていないAFSA側に身を置きたい気持ちがあるものの、出来る限り、バランスをとりながら話を進めてみたい。 まずAGRAを紹介する。 AGRAの正式名称は、緑の革命アフリカ同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa)。 彼らのホームページ中の「我々について」に記載されている内容は次のとおりである。 AGRAはアフリカが主導する組織であり、小規模農家の収入が増え、生活が改善され、そして食料の安全確保の向上に役立つ農業の革新化を図ることに焦点を合わせている組織です。アフリカの農民らが、直面する環境上のそして農業上の課題に関してアフリカに特有の解決策を求めていることをAGRAは心得ています。AGRAが提供する解決策により、生産拡大が持続可能な形で達成され、そして急激に拡張している農業市場への接続性が向上されることが期待できます。簡単に言うと、AGRAの使命というものは、小規模農家の生活を、そして生存をかけた孤独な戦いの状況から繁栄発展するビジネスへと転換させることであります。 2006年以降、AGRAはパートナーら、各国政府、非政府組織、民間企業体やその他多くの組織機関と連携し活動してきています。そして小規模農家や先住アフリカ農業事業体に対して有効性が実証されている一連の解決策を提供してきています。AGRAは小規模農家を第一に考えており、農業の革新なしには如何なる国も低収入状況から中程度収入状況の国への発展はあり得ないと考えています。 以上が、AGRAのホームページにおける自己紹介です。表面上はAFSAの理念を意識し、取り入れながら存在感の確保を試みているが、利益関与団体の意向を底流では保持した文言と見えます。 繰り返すが、AGRAは、多国籍化学肥料・農薬企業・種子ビジネス企業等からの後援を受け、国際的慈善団体からは資金支援を受け、そしてAGRAの農業システムは行政から優先的に採用され、世界的に主流と認知されている組織であるということが大きな特徴であり、そしてその推進するシステムは、以前に紹介したメキシコの研究所の矮生コムギ(背たけが低い)の品種とフィリピンの研究所の矮生コメの品種という新しい多収量品種の単一栽培をアジアと中米に広めた1960〜1980年代の所謂「緑の革命GreenRevolution(GR)」システムを、前回のGR拡大路線に乗り損ねたと見られるアフリカに2006年以降から適用・推進することを念頭に置いた組織だ、ということである。 自身が美辞麗句で飾るAGRAのホームページの情報とは異なる、別の立場の人々が見るAGRAについての情報を次に紹介してみたい。 Tufts大学のTimothy A.Wise氏による「間違った約束:緑の革命アフリカ同盟(False Promises:The Alliance for a Green Revolution in Africa)」の記事がそれである。この記事は題名からわかる通りAGRAに批判的な立場からの見かた・歴史観になります。 更に興味のある方はWise氏の論文「Failing Africa's Farmers:An Impact Assessment of the Alliance for a Green Revolution in Africa」2020年を参照することをお勧めします。 以下に簡単にWise氏の論旨を拾って紹介します。 ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation:BMGFと以下略す)及びロックフェラー財団が2006年にAGRAの設立に着手。 多国籍種子企業が販売する高収量(矮生)種子や合成肥料及び合成殺虫剤等農薬を用い、そして灌漑−多水農耕が必要な米・小麦等の単一品種栽培を特徴とする緑の革命(GR)型農耕システムをアフリカ大陸に導入することを目的とする組織の設立である。 そしてAGRAが推進するシステムが、アフリカに存在する飢餓と貧困の削減達成に貢献できる、と主張している。 AGRAは様々なプロジェクトに投資を行っており、そしてアフリカ各国政府にロビー活動(多国籍巨大アグリビジネス団体の力を背景とする)を行い各国政府がAGRA型GR技術を採用することを推進し、アフリカ大陸各国家の食農政策の推進と市場の構造改善を達成する手助けを行っている。 AGRAは発足以来、10億ドルに近い出資・寄付金を主にBMGFから受けており、BMGF以外にはアメリカ、英国、ドイツ等もある。 AGRAは5億ドル以上の助成金をアフリカ農業の現代化を目指して行っている。 そしてアフリカ各国政府は主として、「作物栽培向け投入資材(農薬や肥料や種子に相当する)購入資金助成金プログラム(the form of input subsidy programmes, FISPs)」という形で獲得した助成金を使用している。即ち、農家はハイブリット種子を購入し、合成肥料や合成農薬の力を借りて緑の革命型農業システムを行い、それにより農家の収入と生活の改善及び生産性の向上を図ろうというわけである。 AGRAの初代代表には前国連事務総長のアナン氏が就任しており、その主導のもとAGRAは重点対象国を13カ国に設定して、その内10カ国が事実FISPsを採用している。 AGRAが当初目標としたミッションが2008年年次報告書(2008annual report)に記されており、2020年までにアフリカの2000万の小規模農家の収入の倍増とアフリカ20カ国の食料不安・栄養不足を半減させることとしていた。 AGRAが主導するシステムの実績は次のようである。 栄養不足の改善:3ヶ国は15年にわたり改善がみられる。ザンビア(2%改善)、エチオピア(8%改善)ガーナ(36%改善)。反対にケニア(44%の悪化)、ナイジェリア(247%の悪化)。 即ち、過去15年のAGRA型システムの取り組みで全体としては、栄養不足は逆に50%悪化したという。AGRAの目標は完全に破たんしていると言える結果なのである。 2000万の小規模農家の収入アップ目標:この目標も達成されていない。巨大アグリビジネス企業の利益は常に確保される(それが保証されるシステムであるが故である)ものの小規模農家の収入アップに繋がらない理由は、一つにAGRA型のシステムでは時間と共に土壌の劣化が起こり、生産性の悪化が付随することによるとされている。 よってAGRAは2020年6月に説明なしでこれら目標をホームページから削除しているのが実態である。 このWise氏の提供している情報の中でAGRAの本質を示すものは次の点だろう。 1.2006年ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation,BMGF)とロックフェラー財団がAGRAの設立を主導。そして10億ドルに近い出資・寄付金が主にBMGFからのものだったこと。 2.AGRAは5億ドル以上の助成金を、アフリカ農業の現代化達成を目指して行っている。 アフリカ各国政府は獲得した助成金を「作物栽培向け投入資材購入向けの助成金プログラム」を提示して、農家がGR型農業のハイブリット種子や合成肥料の購入をするよう誘導する。各国政府に対する多国籍アグロビジネス事業体からのロビー活動により、13カ国中10カ国でFISPsが採用されているというのが実態である。 3.そして各国政府にFISPsを採用させて、GR型農業行政を行うよう誘導したのが前国連総長だった人物でありAGRA初代代表だったという点も重要なことである。 4.BMGFやロックフェラー財団がバックアップし、種子企業や大手合成肥料会社・農薬企業・農業機械企業といった多国籍企業の資本力・事業化力の後援があり、地元各国政府の思惑が重なった形で、アフリカ大陸の食と農業のガバナンスはAGRAが思い描く方向に進んでいるという実態が厳然と存在している。 即ち、アフリカに留まらずに世界の食農システムのガバナンスを支配しているのはAGRA的工業型農業システムであり、これが現在の主流の体制と間違いなく言える状況である、とも言えるのではないかと見ている。 次にAFSAについて、説明する。 AFSAとは、食料主権アフリカ同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa、AFSA)を指す。 同様に先ずはAFSAホームページの「我々について」を見てみたい。 AFSAはアフリカの小規模農家・牧畜民・漁民・先住民・信仰共同体・消費者・女性そして若者らを統合し、統一して食料主権を声高に訴えることを目指している。 そしてFAO(世界食糧農業機関)がホームページでAFSAを紹介している。それによると、AFSAは2008年に趣旨を共有する関係者らが構想を持ち、2011年の南ア・ダーバンにおける国連気候変動に関する枠組み会合(the UN Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)のCOP17において発足している。発足時の報告において、食料主権主義が地球を冷却する力があり、世界の食を改善し、そして地球環境を再生する力を持つと主張されている。 即ち、AFSAはアフリカにおける食料主権とアグロエコロジー(agroecology)確立のため闘っている様々な市民活動家らの広範な同盟である。同盟に加わっているのは、農民組織団体・NGOネットワーク・専門家NGO団体・消費者運動団体・AFSAの考えに共鳴する国際組織団体及び個人らであり、小規模農家・牧畜民・狩猟採集者ら・先住民の人々らを代表するものである。 AFSAの重要な目標は国の政策に影響を及ぼすこと、そして食料主権に向けてのアフリカが提示する解決策を推進することであるとしている。 アフリカの農民を組織化しネットワーク化するための汎アフリカプラットホームである。 そして共同体の権利・家族型農業・伝統として継承されている農業知識体系の推進そして環境及び天然資源の管理運営等をアフリカ農業政策へと昇華していくように声を強めていくことがAFSAの目標だとしている。 しかし、その実態及び実績は、やはり主流からは脇に置かれた存在という面はぬぐいきれない状況であろう。 AGRAの背後の多国籍アグリビジネス巨大企業体組織・国際慈善団体のバックアップとそれになびく地元各国政府の存在という総合力は侮ることはできない力である。 ここにおいて前国連総長がアフリカの食農システムの改善向上を目指す考えを持った時に多国籍アグリビジネス巨大企業体組織のGR型システムだけを念頭に置く構想だけでなく、AFSA型のシステムの構築と確立も重要だとする構想を持てなかった判断力と見識の不足が残念である。 多面的な視野を持って動けば、例えばBMGF等の国際慈善団体基金の投入もバランスの取れたものになっていたのではないかと思う。 かかる現状の課題からAFSAはBMGFも含むAGRAへの出資団体に公開書簡を送っている。 その内容を記しておきたい。 AFSAの35の組織ならびに40カ国174に及ぶ団体からの後援を背景に、AFSAはAGRAを支援する団体に対し支援の停止を要望する。そしてアフリカ人が主導するAgroecologyやその他の低い投入物量(合成肥料や合成農業薬剤の使用量の削減化を目指す)を特徴とする農耕システムを支援するように要請する。 アフリカ大陸最大の市民社会団体ネットワークであるAFSAは、2021年5月にAGRA支援団体に対し、AGRAが15年にわたり実施した工業型農業システムが数100万の小規模農家の収入拡大と食糧安全保障に貢献した、という確かな証拠があれば提示して欲しい旨の書簡を送っている。 これに対しわずかな回答はあるものの、信頼できる証拠の情報は提示されていない(2021年9月7日時点)。 AGRAの掲げる使命(生産性と収入を向上し、食料安全保障を改善するという使命)は明らかに破たんし実際にはアフリカ農民に対し広範な悪影響を及ぼしている。 約15年にわたり、10億ドル以上を推奨種子・化学肥料・農薬購入に費やすシステムを13のアフリカ諸国で展開し、その上、毎年10億ドルに及ぶ補助金制度をアフリカ諸国政府が提供するシステムをAGRAが展開したが、持続可能な形で収穫量・農家収入そして食料安全保障を改善するというAGRAの目標が達成されたという明確な証明は為されていない。 AGRAシステムに取りくんだ13カ国では栄養不足の割合が30%拡大し、主食作物の生産量が拡大した国においてさえ田園地域の貧困と飢餓状況の削減にはほとんど効果は出ていない。反対にAGRA推奨の品種の大量採用により、元々かかる地域の食料安全保障に役だっていた気候変動に強い作物が脇に追いやられるという弊害のみが残ったといえる。 AGRAが果たした悪影響に対する理由を挙げると、 1. 持続可能な生活システム、長期にわたる土壌肥沃性や気象等を犠牲にして、良策とは言えない化学的投入物(肥料と農薬)に高度に依存する単一品種栽培を追求している。 2. 高収量種子・肥料・農薬依存へと農民を誘導する戦略は、多国籍アグリビジネス事業体の提供する生産システムへの依存性を農家に植え付けることになる。しかもこのシステムは環境に悪影響を与えることで、気候変動に対する回復性を悪化させ、そして小規模農家の負債リスクを高進させる恐れがある。 3. AGRAはその財政力を梃子にしてアフリカ諸国の農業政策に介入している。そこではアフリカの飢餓と貧困対策は置き去りにされ、アフリカ農民と資源が収奪されるシステムが働いている。 AGRA現代表のKalibata博士が、開催が予定される国連食糧サミット(UN Food Systems Summit、UNFSS)に国連特別代表として参加し、AGRAのシステムを世界に提案し、世界を間違った方向に誘導する可能性が出てきている。このことが現在の我々が抱えている課題の一つであると捉えている。 世界の数100の組織・団体が、開催予定のUNFSSが多国籍企業の主導する工業型農業を世界に拡散する機会になるのでは、という懸念を表明している。 2021年6月500人に近い数のアフリカの各種団体の長がBMGFに書簡を送り、悪影響のある工業型農業への支援停止を要請している。そしてBMGFおよびその他の支援団体は、小規模農家の声を聞くよう求めている。 AFSAはこれらの書簡の内容を支持し、慈善団体が支援を決定する段階で、アフリカ人の声を聞くよう要望する。 世界は人道的に、環境的に、そして異常気象という危機に直面している。従って発展モデルを迅速に転換する必要がある。 アフリカの全ての農民は、それぞれの知識を共有し、科学者らと連携して低い投入量に基づく農業モデルを確立することが更なる望ましい結果を生むということを理解している。即ち農業生産の権利はアフリカ農民の手にあるべきだ、と考えている。 AFSAはBMGF及び他のAGRA支援団体がアフリカ全域にわたる農民の声(健全であり、持続可能であり、公正な食農を目指すシステムの構築、即ちAgroecologyに基づく食農システムの構築)に耳を傾けるよう要請する。 世界は主流側、体制側がアドバルーン的に方向を指し示し、その持てる資金力と技術開発力とそして腕力を用いて、その方向への動きを実態化させていくことで、動いていくものだ、とも言える。 まさしく進行中のCOP28で、温暖効果ガス排出削減の手段として、100カ国以上の支持を受け当然ながら再生可能エネルギーの拡大が上程されようとしている。そして20程の国(日本はこちらにも顔を出している)が、原発の3倍化の方針を上程する気配が感じられる。 このCOP28での突然の原発の動向は今後興味深い問題ですが、現時点ではあくまでこういう考え方もある位の受け取り方をする必要が我々市民側には求められると思っております。 事実、DeutcheWelleやAlJazeeraやPakistanDawnらの記事には、20程の国による原発の3倍化方針の情報は取り立ててスポットライトは当てられていない。 例え紹介されている場合でも100カ国以上の支持の再生可能エネルギーの3倍化拡大策が強調され、そして原発の動きもある位の報道が現状です。 ここでも日本の報道の突出性がある意味興味深く、また気にかかる所です。 わき道にそれてしまいましたが、今回のテーマの底流として存在していると感じる資金力や腕力による世の潮流作りの功罪ということについて、今後焦点を当てていきたいと思っております。
0036
単純明快!アベノミクスの正体
猫家五六助
12/04 15:45
鬼籍に入った安倍晋三の功績に「アベノミクス」を掲げる人たちがいます。 それが、どんな人たちなのか。webで見つけた記事をご紹介します。 主張しているのは、立憲民主党・小沢一郎衆議院議員です。 ◆小沢一郎議員、アベノミクス『破たん』をイラストで明快に解説/東京中日スポーツ https://www.chunichi.co.jp/article/803222 ◆アベノミクスの「当初説明」と「現在」わかりやすい図 https://www.chunichi.co.jp/article/803224 個人的には当初から「アベノミクス」はシロートの妄言と考えています。 企業の、経営の本質は「利益の追求」です。 そもそも、政府主導によって大企業・投資家が大儲けした後、中小企業へ(儲かる形)=(適正利潤、上乗せマージン)で仕事を発注すると思いますか? 賢い企業は儲けたお金を、さらなる先行投資・内部留保・役員報酬・株主分配に使います。利潤を追求して「株主(+社員)」へ分配するのは当然です。 もし、安倍政権(政府)が大企業に「十分儲けたのだから、下請け・孫請け企業から製品サービスを高めに買い取ってやれ」と指示・強制したら、それは資本主義でも自由経済でもなくなる。 だから、アベノミクスはアベノトモダチだけが潤う仕組みでした。 しかし、安倍晋三だけが悪いわけではありません。無恥で浅知恵な彼をヨイショし、そそのかし、アベノミクスを称賛した輩がいたのでしょう。 結果的として安倍晋三+オトモダチ(黒田総裁?、竹中平蔵?)は、あり得ない妄想を主導して国民を欺いたチョー悪オヤジたちです。 ※意見には個人差があります。 私は安倍晋三個人に興味はありません。政治家だった彼を否定し、批判し続けます。
0037
世界沸騰時代に対処するキーワード(3)COPとMultistakeholderism
yo-chan
12/25 19:16
今月13日までUnited Arab Emirate(UAE)のDubaiにおいてCOP28が開催された。 COP28の成果を伝えることを念頭に、妥当な記事を調べていたが、一つの記事だけでは全貌を伝えること・その成果の是非を伝えることが難しそうだと考えている。 従って、幾つかの記事を何回かに分けて紹介していく予定です。 先ずはAlJazeeraからの記事を紹介致します。 この記事はCarola Rackete氏が見たCOP28の総括であり評価ですが、氏の総括と評価には現代国際社会の統治(ガバナンス)が抱えている大きな課題であるMultistakeholderism(多利害主体主義)が各所に見え隠れしており、そういう視点で極めて興味深い読み物になっていると考えます。 Rackete氏の記事をCOP28の紹介の最初に持ってきた由縁です。 このMultistakeholderismというキーワードが今回のCOPを考えていく上で重要な背景思想の一つであると思っており、そしてこの背景思想がCOPだけに限らず現代の国際社会が抱える一国だけでは解決が困難な諸課題を国際社会が対応していく際、ある特定の有力勢力がこの思想を拠り所にし、国際社会の統治(ガバナンス)が事実この思想に沿って左右されていると考えると現在の国際社会の流れが良く見えてくる節がある、と思っております。 という訳で、これから何回かに分けてCOP28の総括と評価を紹介していくことと、合わせてMultistakeholderismの是非や問題点をも考えていきたいと思っております。 ではRackete氏の記事を紹介します。 タイトル:気候危機から抜け出す方策・道はある。だがそれはCOPを通じて、ではない。 AlJazeera、2023年12月19日 Carola Rackete氏記す 世界最大規模の気候課題サミットが開催されたが、それは一種のマヤカシであり、我々に役立つものではありえない。 気候危機に対する国連締約国会議(UN Conference of Parties:COP)は今回で28回目の開催となる。そして今回の最新のCOP28の会議の最終合意文書に初めて「化石燃料の終結」という文言が載せられた。 確かにCOP28では「化石燃料への依存状態から移行していくこと」を各国に約束させることに成功はしたけれども、気候危機を真に解決できる策が設定できたかどうか、という視点からみると、COP27やそれ以前の合意内容以上の進展はほとんどなかった、と言えるのである。 即ち、2015年のパリ合意の目標である2030年までにGHG(Green House Gas)排出を43%削減すること、に対しては今回の会合出席者間で合意に至らなかった。 そしてCOP27で設立した損失と損害基金(Loss and Damage Fund:この基金は気候危機に最も脆弱な諸国に対して財政支援を行うことを目的とする)の課題に関して言うと、富裕諸国側はいかなる有効な貢献策も打ち出すことはなかったのである。 例えば、ドイツはこの基金に1億ドルの拠出を約束しているが、この額はベルリンのA100高速道路のわずか430mの距離分の建設費用と同等なのである。そしてこの金額は気候変動の結果全世界が被った損失と損害金額に全く見合う額ではないのである。事実2022年のパキスタンで発生した洪水では1739人が死亡し、200万人が避難を強いられたが、この洪水災害損害額は300〜400億ドルに達したと見られている。 一方、ウクライナ戦争の結果、化石燃料生産者らは記録的な利益を得ており、そして彼らは更に生産拡大を目論んでいる。今回のCOP28には数千人の化石燃料生産者サイドのロビーストらが会合に参加している。 化石燃料生産者サイドの動向が地球の未来に大いに懸念される所であるとの我々の認識に対して、ロビーストらは化石燃料生産者サイドの動向は人類の賢明な進歩であるかのような認識を植え付ける偽装工作活動を展開していたのである。 そして今回、議長役を務めたUAE国営石油会社社長のスルタン・アル・ジャベル氏の文書が流出するという事態が発生し、その文書においてジャベル氏は化石燃料ビジネスの推進を今回の会合の中で計画していると指摘されているのである。 化石燃料生産者側は、会議の交渉の中心に公正さと正義という思想を据えるのではなく、彼らは誤った方向の解決策を推進しようとしているのである。即ち欧州全域において、企業は炭素捕捉と貯蔵技術(carbon capture and storage:CCS、CO2をその発生源で捕捉し、適切な場所に移送し埋蔵するという方式)の開発を推進しており、この推進の狙いが異常気象が進行する状況下においてさえ、化石燃料の利用を継続し続けたい、ということなのである。 しかしながら、CCS技術の有効性・効率性は不充分なものであり、コスト的にも見合わないと見られている。そして現在の実験室レベルの再現性・有効性を充分大きなスケールまで同等の性能で規模拡大させるにはかなりの時間が掛かるとも見られている技術なのである。 即ちCCSの技術開発の推進は、単に化石燃料の利用を延長し、継続したいが為の方便であり、化石燃料利用の延長による化石燃料の漏出や流失、採掘地の崩壊等の破壊的危険性が継続し続けることになり、そしてその上に権力者らが正しい判断の下でより望ましい対策を採用し、実施していくことを単に遅らせるだけの働きをするものだと言える。CCS技術への過剰な期待と依存は、地球環境を劣化させ続けることに繋がるのである。 CCS技術の推進は、ドイツの緑の党のプログラムにも見られ、Wintershall社のようなドイツ化石燃料企業もがCCS技術を推進している状況がある。 そしてCCS技術は、COP28の最終合意文書中にも組み込まれているのである。 この理由は何なのだろうか? 考えられることは、資本主義を機能し続けるために、そして欧州のGDP成長を継続させるために、化石燃料を燃やし続けることが必要だという思想であり、その思想には多くの人の生命や他の地域に住む人々の生活は含まれていない、無視されているのである。 もう一つ別の企業側の遅延戦略が炭素オフセット(carbon offsets:現在はnature-based solutions、自然に基づく解決策とも呼ばれているようだ)に対して市場を更に拡大しようとする動きである。例えば炭素オフセットの認証を発行したとしても、その80〜90%はCO2排出削減に結び付いていない、とされている。かかる状況下において、オーストラリアやUKの様な諸国は、炭素市場を世界に既に拡大している。一方ECは、生物多様性クレジットと水質汚染との取引きを計画中である。 COPは一種のマヤカシであり、年が経過するほど腐敗が進行していると言える。 誰もが考える真の解決策というものは、化石燃料使用の終結であり、企業による政治支配の停止であり、化石燃料依存体質を脱却した産業構造の広範な構築である。 幾つかの国は既にこの方向への道をたどり始めており、化石燃料不拡散条約(a fossil fuel non-proliferation treaty)推進運動を画策することで代替え策を創造している。12カ国、2000以上の団体、そして60万人以上の人々が、このキャンペーンを後押ししている。これら12カ国とは、気候変動の悪影響を最も受けている国々なのである。 ヨーロッパでのこの条約の意味する所は、化石燃料に関する新規インフラへのこれ以上の投資を行わないこと、時代遅れの内燃エンジン自動車の迅速な停止、そして生態系に合致した農業(ecological agriculture)に向けて工業生産型肥料の代わりに天然素材を利用する肥料への転換ということである。 この方向に展開していくには、グローバルノースの各組織や団体や人々が立ちあがり、各国政府が行動に参加するよう圧力をかけていくことが必要とされるのである。 EUは、明らかにその富を共有化することには関心を持ってはいないが、しかしEUは国連が到達した合意よりも先進的な政策パッケージの一つであるグリーンディール政策を少なくとも実行しているのである。ただしこのグリーンパッケージ政策は間違った目標を設定しており、即ち持続可能な方向に発展していくのでなく、経済を発展させていく目的の為に、グリーン化へ転換を図っていくという構図になっている。そして近年、EUの政策は「悪い」状態から「更により悪い」状態へと悪化する方向になって来ている。 最近の数カ月間、欧州では保守勢力と極右勢力が協同してグリーンディールの最も重要な法律(自然保全法と殺虫剤使用削減の為の持続可能な利用規制)のいくつかを葬り去ろうとしている。 この保守と極右勢力の協同体制が強化されたり、6月予定の次期議会選挙の結果、協同体制が多数派となれば、EUの各組織が化石燃料終結に向かう動きを維持することは、ほとんど期待できないものとなるだろう。次期EU議会選挙の結果が最も懸念されるところであり、EUの決定の重要性を人々が深く認識して、投票行動に結びつける必要がある。 結局のところ、変化を推進していくのはCOPやEU委員会からもたらされてくるのではない、ということである。変化というものは下からわき上がって来るものである。 我々は企業による乗っ取り(corporate takeover)に対し、抗議活動に参加が望まれる。そして極右勢力の台頭に対しても抗議活動に加わることが望まれる。我々は、人間中心の生態系に合致したシステムに移行するため、下からの動きを加速化していくことが望まれ、そのための共同行動を構築していく必要がある。 我々はCOPで提示される誤った解決策には慎重に対応していく必要があり、そして化石燃料を終結させるためグローバルサウスの行動の先頭に加わることが求められている。- 以上がCarola Rackete氏から見た今回のCOP28の総括議論です。 表題の地球沸騰化時代を考える際、重要なキーワードとしてCOPとMultistakeholderismの二つを挙げました。 COPについては更に説明の用は無いと思いますが、Multistakeholderismについては最後に少々説明を加えておきます。この言葉の説明も簡単に纏めることが困難なものであるということを先ずはことわっておく必要があります。 これから数回に分けて今回のCOP28の説明を行いますが、その中の情報等も参考にこのキーワードの存在を意識して考えてもらえれば、と思います。 Multistakeholderismの最初の説明として、京大の久野秀二氏の「持続可能な食農システムへの転換:グローバルヘゲモニーと対抗的実践との相克(農業経済研究94巻91−105、2022年)」中にある部分を引用させていただく。 マルチステークホルダー主義は、1980年代以降に強まった新自由主義的グローバリゼーションの産物である。加盟国からの拠出金に依存する国連システム等の多国間機関が財政難に陥り、多国籍企業の資本力、とりわけBMGF(Bill & Melinda Gates Foundation)等の民間財団の資本力に依存せざるをえない状況が背景にある。更に世界経済フォーラム(World Economy Forum)の影響力が増し、彼らが多国間主義(Multilateralism)から多(利害関係)主体間主義(Multistakeholderism)への転換を構想した「Global Redesign Initiative」が着実に実行に移されてきたという点も重要だ。マルチステークホルダー主義の問題点としては、 1. 多様なステークホルダーが水平的な関係においてグローバルガバナンスに参加するとはいえ、それが包括的・民主的である保証はなく、むしろ現実に存在するステークホルダー間の構造的な権力格差が曖昧にされてしまう。政府・国際機関を除いてガバナンスのプロセスに積極的・恒常的に参加できるステークホルダーは自ずと多国籍企業・産業団体や主流の国際NGOに限られる。規制する側(政府)とされる側(企業)、権利保持者(人々)と義務履行者(政府)と潜在的権利侵害者(企業)の立場上の違いも、同じカテゴリーに括られることによって曖昧にされてしまう。 2. コンセンサスが前提されており、熟議の末に採決が行われるような意思決定の手続きを要しないガバナンス手法であるため、「すべてのステークホルダーが合意できる合理的な解決策」という名目で、課題解決の方向性や手段を技術的・脱政治的に限定し、より構造的・根本的な転換を要求するような反対意見や少数意見は最初から排除される傾向にある。 3. 総じてグローバルガバナンスの断片化が生じ、透明性と説明責任の欠如も相まって、実際に何が議論され、何が行われているのかが外からは見えづらい、いわばガバナンスの迷宮が出現している。 前回のキーワードのAGRAとAFSAに合わせて更に説明すると、マルチステークホルダー主義の具現体組織がAGRAといえる。AGRAの訴求するグローバルガバナンスにおいては、国連機関(そもそも元国連事務総長のアナン氏がAGRA初代代表)や政府間組織、農業研究機関(矮生小麦や矮生コメの開発化とその実践)、国際NGO,農業団体、民間財団(BMGFやロックフェラー財団)、民間企業(多国籍肥料企業や農薬企業そして国際的種苗企業等)などの広範な関係団体を構成員に加えたマルチステークホルダー型のガバナンスプラットフォーム(即ちAGRA)が設置され、特定の考え方や規範に基づく農業改革等の構造化・制度化が進められる、のである。 Multistakeholderismの考え方は、現実の国際社会の諸々の課題に対するガバナンスに既に深く広く浸透しているのが実態と言える。 Rackete氏が危惧するCOPの現状においても、アフリカの食と農のシステムにおいても(充分な「人もの金」に裏付けられたAGRAの考え方が優先的に実態化される一方で、AFSAの動きはやはり鈍いと言える)、そしてSDGsの実態においても(上位に位置している筈の人々や市民ら権利保持者が建前としてはSDGsを主導していくのが、望ましい姿であると考えたいが、やはり実態は大手建設企業らが勝手に主張する論理のもとSDGsが実態化され、推進されているのが現実と感じている)、現代の諸課題のガバナンスはマルチステークホルダー主義の考え方に浸食されている、という見方を意識することが大切ではないかと思っている。
0038
2024年の元旦の朝にフト思ったこと。今夜初夢として見たい夢のこと。
yo-chan
01/01 12:02
皆さん、あけましておめでとうございます。 2024年の年明けの今年最初の食事をしながらフト思ったことを簡単に記しておきます。 正にこうなったら、うれしいな、の夢の話になります。 昨年年末のCOP28に関する話題の提供を現在進めており、年末もいろいろと材料集めを行っております。 その過程で、世界のエネルギー調達課題において、極めて大きな二つの潮流の激突が我々の現前に、明瞭に立ち現われたのが今回のCOP28の一つの見かただと思っております。 世界各国が自己申告で設定した目標の棚卸しとか、ロス&ダメージの資金調達の問題とか、いろいろな観点が今回のCOP28で討議され、進展を見てきているとは思います。 新年の朝の話題として、ここでは一方では100数十カ国が署名した2030年までに再生可能エネルギー発電量を3倍化するという宣言案がCOP28の場で提示されたのに対して、片や米国やフランス・英国・日本・韓国等22カ国が署名宣言した2050年までに原子力エネルギー発電量を3倍にする案が同じくCOP28の場に提供されている話に限定して見たいと思います。 両方の宣言の目標は全く同じで、現在世界が苦しみの中に入り込んでいる気候変動問題・異常気象にどのように順応していくか、GHG排出を如何に緩和していくか、そしてその資金的裏付けをどう担保していくか、という我々世界が抱えている課題への対策作りになります。 一方は風力やソーラー等の再生可能エネルギーで、もう一方は原子力エネルギーでその実現を推進していこうとしています。正にこの2つが、我々が現在目にしている大きな潮流と言えます。 この辺りの話の詳細な紹介は、次回の世界沸騰時代の記事に譲るとして、ここでは簡単に端折った形、夢の話の形で論を進めたいと思います。 この二つの大潮流の状況を、極めて大づかみに捉えてみると、次のようになるのでは、と思っております。 22カ国の支持・署名という数の上では劣っているが、GDP的には世界の半分程は占める有力国が原子力3倍化案の後ろ盾になっている。 一方の再生エネルギー3倍化案には100数十カ国という数の上では世界の半数以上を占める後ろ盾を持つもののGDP的には極めて劣勢な状況が見て取れる。 ここで興味深い情報を一つ提供すると、既に2022年1月時点でEU域内の有力者が今回のCOP28の原発3倍化案を先取りする形で、2050年までの期間、毎年200億ユーロの資金調達が原発促進の為に必要だと発言している(Thierry Breton氏、Guardian TV,2022,1,10)。 正に2050年までという期間設定も同じで、既にほぼ2年前には今回のCOP28での宣言がスケジュール化されていたのではないか、と思う位の手際の良さを原発推進派に対して、感じる所です。 一方の再生エネルギー推進により異常気象を乗り越えていこうとする再生エネルギー3倍化案の方は、チェルノブイリや福島の事案を拠り所に極めて大きな潮流を形成してきていることは事実です。しかしながら、原発推進派は“人もの金”の3つを持っている一方で再生可能エネルギー派は"人“はさておき、“ものと金”は原発派に比べて劣り、しかも今回のCOP28を契機として、原発3倍化が彼らの思惑通りに動き始めて行けば、この“ものと金”における両者の格差は更に極めて大きな差へと開いていく恐れを、実は持っております。即ち、権力を持ち資金調達の権限をもつ各国の支配層のかなりの部分は、原発業界の意向になびいていくのではないかと予想しております。 そこで、夢の話です。 世界には、権限や権力はないが普通に暮らしている市民が、80億人は存在しているのです。 正に原発3倍化の22カ国に対して、再生エネルギー派は100カ国をはるかに超えている状況と同じ構造が“人の数”の点として、ここに存在しているのです。 市民が再生エネルギーの推進を力に異常気象を乗り越えていこう、その為に我々市民は再生エネルギー推進のための資金調達の一翼を担おうではないか。こんな運動を世界に巻き起こすことが出来ないものか。とこんな夢です。 例えば、「我々市民の、我々市民の為の再生エネルギー推進で異常気象に打ち勝とう」 こんなキャッチフレーズでしょうか。 80億人が、例えば年100円を寄付すれば8000億円。 この一人100円という金額でもEU有力者の希望資金の年3兆円の1/4強に達するのです。 こんな夢を今夜の初夢で見てみたいものです。
0039
1年に亘り過去の基準温度より1.5℃を毎月継続して上回るという年を我々は経験した
yo-chan
02/23 11:18
1年に亘り過去の基準温度より1.5℃を毎月継続して上回るという年を我々は経験した AlJazeera、2024年2月8日 表題の報道が欧州のコペルニクス気候変動サービス(Copernicus Climate Change Service,C3Sと略称される)から発表され、一方NASAは海洋と大気に関する情報を、従来を量的・質的に大幅に上回り供給することが期待される気象衛星を発射している。 記録を取り始めて以降で初めて、地球の気温が12カ月間(2023年2月から2024年1月の1年間)に亘り継続的に1.5℃を超えて上昇した、とコペルニクス気候変動サービス(C3S)が発表している。人類への警告と受け止めるべきと科学者らは述べている。 気候変動につれて暴風・日照りや山火事が世界各地を襲い、エルニーニョにより太平洋東部海域の海洋表面温度を温めている。その結果、1850年以降の記録の中で2023年が最も暑い年だった、と記録されることとなっている。 C3Sは2023年の1年間が19世紀の基準温度に比して1.52℃温暖だったとした上で、2024年もこの極端な気象状況は続いているとしている。 ただし、科学者らは約200カ国の政府が署名した2015年のパリ合意で設定した温暖化の上限値1.5℃を永続的に上回っている訳ではない、としている。 パリ合意において各国は2050年までに化石燃料の使用を段階的に廃止の方向に進め、代わりに再生可能エネルギー利用を進めるとしているが、実態としては、世界は温暖化を1.5℃以内に抑制することを含めて合意目標に向かっての軌道には達していないと国連は見ている。そして科学者の中にもパリ合意の目標達成は最早現実的には無理だとする意見があり、彼らは少なくとも目標値の上振れを最小限にすべく温室効果ガスの排出削減の努力を迅速に進めるべきと強調している。因みに2024年1月の気温は2020年に記録した過去最高を更新している。 米国宇宙局(US Space Agency)NASAが木曜に最新人工衛星を発射している。目的は、従来得られていた以上に詳細な世界の海洋及び大気の観測情報を得ることである。 9億4800万ドルをかけ打ち上げられた人工衛星は少なくとも3年の期間、地上676kmの高さから地表を毎日スキャンすることを使命としている。観測項目はプランクトン(Plankton,P)、エアゾール(Aerosol,A)、雲(Cloud,C)及び海洋生態系(ocean Ecosystem,E)。 頭文字を取ってこの人工衛星はPACEと呼ばれる。 この人工衛星プロジェクトの科学者Jeremy Werdellさんは、「我々地球に住む者にとって今まで見たことのない光景をもたらしてくれるだろう」と話している。 今までの地表観測衛星では、7から8種類の色の情報が送られて来ていた。今回の新しい衛星では200種類の色の情報が送られてくることになり、科学者らは海洋中の藻類(Algae)の種類や大気中の粒子の種類が特定できることになると期待されている。新人工衛星からの情報は1〜2カ月で始まる予定とされ、ハリケーンやその他の異常気象予報の精度向上に繋がることや地表温度上昇のような気候変動の詳細情報や有害藻類の繁殖の予測精度の向上に繋がることが期待されている。
0040
持続可能な農法が如何にエチオピアの農民の役に立つだろうか
yo-chan
02/23 19:06
持続可能な農法が如何にエチオピアの農民の役に立つだろうか Deutsche Welle、2024年2月22日 Alistair Walsh氏記す 以前Tigrayに関する記事をいくつか紹介したことがある。 農業の世界に2つの大きな流れがあることをAGRAとAFSAというキーワードを基に紹介もしている。 そして国際間に亘る諸課題(世界の食糧安全保障もその課題の一つ)を解決する際、従来期待されてきた世界各国の政府間協議を前提としたMultilateralismの限界が指摘され、修正が求められ、その結果として実行力を期待して、殊に世界規模の国際企業を利害関係団体と認定して課題解決の場への関与を認め、参加できるとしたMultistakeholderismについても紹介している。 Multistakeholderismを正に体現している農業システムの普及を目指すアフリカ内の組織がAGRAであり、その長所と短所を紹介した。 そして企業型単一作物栽培に特化した農業システムの普及を特徴とするAGRA型農業だけでは、世界の農業の健全な発展は期待できず、少なくとも同等以上の寄与をAFSA型農法に求めるのが大切な視点であることを指摘している。 今回Deutche WelleにTigrayの現在地を含めてのアフリカ農業を考える機会が期待できる一文があったので紹介してみたい。 エチオピアの食糧危機には複雑な理由がある。最大の理由は日照りであり、日照りは地球沸騰化が原因して悪化している。この問題への対応策として、気候変動に配慮するスマート農業(climate-smart agriculture、CSA)に向かって舵を切っている 人々がいる。 「日によっては何か食べ物にありつけるけれども、別の日は腹をすかせて眠りに就いている」とエチオピア農民のGebremedhin Hagosさんが、わずかな収穫物を見せながら話す。 他のエチオピアの農民と同様にHagosさんはここ40年の期間で最悪の日照りに見舞われ、雨が降ることを祈っている。数千ヘクタールに及ぶ作物は既に焼けついた畑で枯れており、数万頭の家畜も既に死んでいる。 「飢えに苦しんでおり、危機的状況だ」と70歳のHagosさんはこの1月に話し、そして「何が出来るのだろうか?どこへ行ったら良いのだろうか?」と語っていた。 Hagos さんと彼の家族は、そのように充分に食べることの出来ない1600万人にのぼるエチオピア人の中の人々である。子供を含めて多くの人々が永年の戦乱状況・経済危機や長引く日照りの影響から栄養失調や病気に苦しんでいる。 2年間に亘りTigray地区反乱軍と政府軍との戦乱でTigrayの北部の州が大きく破壊されており、飢餓の拡大により、Tigrayではこの半年で数百人の餓死者がでている、と国連担当者が指摘している。 この危機的状況に迅速に対処するため国連ではとくにTigray在住の300万人のエチオピア人に緊急支援する計画を立てている。一方他の支援組織らはこれらアフリカの角と称される地域に住む人々が将来に亘って自力で食糧を如何にして確保していくか、という課題の解決を模索している。 「エチオピアの人々の強靭性を強化していくことが基本目標の考えである」と国連世界食糧プログラム(UN World Food Programme,WFP)のスポークスパーソンのClaire Nevillさんは語る。そして「人々自身が持続可能であり、長期に亘り食糧の確保が出来、そして再び食糧難に戻ることがない、という解決策を保証することが目標である」と指摘している。 アディスアベバ大学開発研究学科助教授のAbyiot Tekluさんは「気候変動に配慮したスマート農業(climate-smart agriculture,CSA)がエチオピアやその他のアフリカの角地域の国々の食糧生産の長期的確保に役立つ」との信念を持っている。エチオピアの多くの農民らは自給自足型農業(subsistence farming)を実践してきており、作物向けの用水に雨水を利用してきており、彼らの慣行は気候変動の時期に特に相応しいものと言える。 気候変動に配慮したスマート農業(CSA)とは、永らくそれらの地域で行われてきた持続可能な農法の新しい名称であり、Tekluさんの研究の中心テーマである。この農法では長期の雨季が期待できないアフリカの角のような場所においては、それぞれの異なる固有課題に合わせた対応策を個別に考案していくことが必要とされる。 気候変動に配慮したスマート農業(CSA)の一つが、エチオピア南部で伝統的に行われてきていたアグロフォレストリー(agroforestry)であり、当該地域の高地でも谷間でも良好な結果が提供出来ていると、Tekluさんは語る。これらの地域におけるアグロフォレストリーでは、生産作物の植生の中に高樹木や低樹木を植え、これらの樹木と作物からなる植生の間でニワトリの様な動物を一体的に育てるやり方を採用している。画一的単一作物栽培の方式に比べて、このアグロフォレストリーでは土壌の肥沃化が助長され、従って土壌の流出・侵食が防止できることになる。また生物多様性が改善され、水の損失の軽減も図れるという。 ある研究によると、エチオピアの伝統的な小規模農家の家庭菜園においてはアグロフォレストリーが実践されていることが紹介されており、これらの実践により当該地域の緑化は促進され、一方彼らの生計の助けになるとともに栄養のある食物の入手が出来ることとなっていた、という。 土壌の保護を最大目標とする保全型農業(conservation agriculture)が、もう一つの形の気候変動に配慮したスマート農業(CSA)の例である。この農法では、作物の収穫後に作物の非食部分を畑に残すという小さな修正点を持っているとTekluさんは述べ、それにより土壌の質が回復され、農地を保護出来ることになるという。この畑に残される作物残渣は燃やされて肥料となるか、そのまま家畜の飼料となるか、してエチオピアでは利用されている。 収穫残を畑に残すというような気侯変動に配慮したスマート農業を2年間採用すると、以前は土壌が劣化していたDebremawiの高地地域において作物が生い茂るようになり、そして農民らは小規模な灌漑などの別のCSA技法を取り入れることも出来るようになったという。 Tekluさんは現在の危機が悲惨なものであり、現在の紛争と度重なる危機により、短期的には今述べているような農法の適用は困難だということを認めている。しかし、エチオピアが長期的開発アプローチを採用し、そして地下水系のような未利用資源の開発に着手するのであれば、農民らを支援する機会と方策はあるとTekluさんは信じている。 国連世界食糧プログラム(UN WFP)はまた、エチオピアの食糧危機に対して長期に亘る持続可能な解決策を優先させることを拡大している。 洪水や日照りのような異常気象の早期警報システムを農家へ提供することを検討しており、それにより農家は事前に対策が取れることが期待されている。この方策に合わせてこれらの異常気象からの打撃を和らげる資金的支援を組み合わせることで、追加の食糧や家畜の保護にこの資金を充てることが可能となる。 WFPはまたエチオピア西部地域のGambelaの以前から自給自足農業を営む農家を支援して作物の栽培を手助けし、その収穫物をWFPに売却するというプロジェクトを検討している。このシステムにより、農家は農耕用機械の購入が可能となり、そしてより良い種子や肥料の調達も可能となり、生産性の向上や農業特有の不安定さの低減に役立つことになる。 「Gambelaの農家から購入したトウモロコシは、南スーダンからGambelaへ逃れた人々へ供給することが可能となる」とこのプロジェクトに関わるClaire Nevillさんは指摘する。 しかし、資金提供を求めて世界各地の危機の間で獲得競争状況が存在する現在、このエチオピアでのWFPの活動の為の資金は不足しており、支援金の大半はエチオピア人への食糧援助支援といった緊急性の高い危機の軽減目的で利用されているという。 エチオピア政府とTigray反乱軍との間の紛争は2022年に終結したとされているが、Tigrayの農業天然資源局の広報局長Mikiale Murutsさんは「220万人が避難し、農業活動から切り離された生活を余儀なくされている」と述べている。 紛争前には、この地域は持続可能なアプローチのリーダ―であり、砂漠化と闘い、人々の食糧生産能力の向上の取り組みに対して、国連が後援する賞を受けたこともある。 しかし、和平が成立した現在も、この地の肥沃な土地の多くが戦闘員に制圧されており、農業は不可能だとMurutsさんは語っている。「現状、食糧支援がなく、これらの地域における食糧不安は更に悪化すると予測され、人々は死に直面している」と指摘している。
0041
今のSDGsが描く望ましい「未来の社会と自然の景観」は企業論理からのみ見ている修正だと感じる。SDGsをSPGsやSOGsに読み換えると企業論理とは異なる「人々」の論理が発する「別の」目標設定の必要性が見えてきて、それらを今のSDGsに持ち込むことの大切さと面白さが見えてくると思う。
yo-chan
03/02 10:24
今のSDGsが描く望ましい「未来の社会と自然の景観」は企業論理からのみ見ている修正だと感じる。SDGsをSPGsやSOGsに読み換えると企業論理とは異なる「人々」の論理が発する「別の」目標設定の必要性が見えてきて、それらを今のSDGsに持ち込むことの大切さと面白さが見えてくると思う。 現在のSDGsには企業が差配し、企業に都合のよい目標だけが注入される仕組みが社会に埋め込まれているように感じている。そして社会はそれを受け入れて、その方向にしゃにむに動かされているように感じる。そこには我々という「人々」の存在が抜け落ちているように思う。そんな危機意識を以前から持っている。 危機意識の根元の一つに、SDGsのD(Development)という言葉に違和感を覚える事がある。 Developmentは「開発」とか「発展」に直結する言葉と、普通受け取られている。 そして「開発」や「発展」という言葉が真っ先に結び付く先は「企業」であり、「企業の存在理由」のなかにこのDが強く組み込まれていると、人々も安易に納得しているように思う。 従って企業が差配し、企業に都合のよい目標が優先されている現在のSDGs が違和感なく社会に受け入れられている背景には、DevelopmentのDが挿入され、ある意味強制的に企業の存在感を世界に周知させようとして、Dが使われているというネーミングの妙にも理由があるのではないかと邪推している。 社会を構成するのは「人々」と「企業」。決して「企業」だけで成り立っている訳ではない。現状のSDGsが「企業」の論理を中心として動いており、一方の「人々」が抜け落ちている状況は困ったものだと常々感じております。 そこで命名の妙が一つの原因であるのなら、SDGsに代わる別のスローガンを提起するのも意義があるのではとの思いから、SPGsとSOGsというスローガンを敢えて提示してみます。 SPGsはSustainable People Goalsの略、SOGsはSustainable Other Goalsの略です。 SPGs中のPは申すまでもなく、ハッキリと「人々」が主体だというスローガンとしたいという思いからの造語です。 SOGs中のO(Other)は現状の「企業中心の論理」から出てくる目標設定とは異なる、それらとは別の「他の」目標の設定が重要だ、ということを強調したいが為に作った造語です。 SDGsを敢えてSPGsとかSOGsに読み換えることで、現在は脇に置かれがちな我々という「人々」が希望する未来の目標の設定をSDGsに組み込んで行くチャンネルが生まれるのではないかと考えております。 企業の論理とは異なる人々の持つ別の論理から生まれる目標をSDGsに組み込むことは、「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の目標をより健全にする作業であり、視野をより広げる上で必要とされる作業であると考えております。 「人々」という言葉を繰り返して使用していますが、ここで使っている「人々」には我々人間だけでなく共に暮らしている動物・植物そして微生物、即ち全ての生命あるものを含めております。そして生命あるものだけでなく、我々の周りに共に存在している大地河川や大気といった自然環境をも含めて考えていきたいと考えております。即ち命のあるなしに関わらず全ての我々の周りにあるものを代表して代弁する存在として我々という「人々」が存在しているという立場を取りたいと考えています。 この様な視点の考えを推し進めていく上で役立つ情報を今後紹介していきたいと考えており、今回は先ずAlJazeeraの情報から始めてみます。そこではアフリカが抱える諸課題は、企業利益を優先する思考から手掛けていくのではなく、諸課題解決の中心に「人々」を据えて取り組むことの重要性を訴える視点が打ち出されております。 AlJazeeraの2月28日の記事(アフリカの気候変動の真の解決は人々に関することの追求から可能であり、利益を追求することでは決して解決できない、アフリカOxfam所属のHassaneさんの手になる記事)。 2月17-18日アディスアババで今年度のアフリカ連合サミットが開催され、各国指導者らが「気候変動に関するナイロビ宣言」を採択。 アフリカでは、干ばつと洪水が交互に繰り返されており、農作物は枯れ、流され、そして多くの家畜が死亡している。 アフリカ東部だけでも74億ドルに相当する家畜と数十万haに及ぶ農作物が失われ、その結果数百万人の人々が無収入、または食べ物のない状況に昨年置かれていたという。 アフリカ東部では井戸掘削の際、5か所に1ヵ所はカラ井戸であったり、浄化処理なしでは飲めない水が出るといった状況である。井戸掘削はより深く掘る必要があり、費用がかさむことになり、維持も困難なことになる。 ナイロビ宣言は、地球温暖化に対するアフリカの寄与度合いは歴史的に極わずかであるのに対して、アフリカの人々の生命と生計そして経済面は温暖化による悪影響をより大きく受けており、過大な負担をアフリカは強いられている、という指摘の点では市民社会の思いとおおむね一致している。 この宣言では「地域共同体」の果たす役割が、気候変動対策活動において鍵となる、との認識が指摘されており、注目すべき視点である。 気候変動への対処に必要となる適切な資源と支援を、役割が期待される「地域共同体」に確実に到達させていくことが、当然ながら求められるのである。残念ながら、この点の明確なシナリオの提示が正にナイロビ宣言では欠けている部分である。 アフリカ各国は「グリーン成長」戦略の地域規模への、地方規模への、そして国家規模・世界規模への拡大を目指す政策・規制そして奨励金制度の実施に取り組んでいる。 ここで問題となるのが「グリーン成長」とは、ではどんなものか、という条件についての透明性が無い状況が存在していることである。現状では無数の成長策が提示され、妥当なものと判断されており、その結果優先されるべきは「人々」を中心に据えるとの尺度が薄められて、「利益」思考が優先されてしまうという事態がたびたび発生することになっている。 例えば海外でのCO2排出を相殺する目的で企業は広大な土地を購入することが可能となっており、結果として企業の石油とガスのくみ上げは継続され、その為にアフリカや他の地域が出汁として利用されるという状況が発生しているのである。そしてこのような状況により、アフリカ大陸の小規模農家そして大陸の環境に不利益がもたらされているのである。 富裕国に対し、彼らの約束の履行を促すこと、そして気候予算の拡大を要求することは大切ではあるが、提供される資金の性格を見極めることも重要である。 富裕国側は2020年度に833億ドルを拠出したというが、Oxfamの計算では実質上は高めに見積もっても245億ドルだったとしている。富裕国側の根拠には気候変動目標案件に含めるには、評価基準を過大に甘くする必要のあるプロジェクトが混じっていたり、ローンとして拠出している案件も含まれているとしている。債務が既に重くのしかかっている国にとって、ローン案件は受給国にとっては反対に有害な支援となる恐れがある。 また、現在利用可能な気候変動向け資金のメカニズムには、利用のしやすさの点での課題と包括性・一体性の無さの課題を指摘する市民社会の組織や団体が多く存在している。 事実、Oxfamの調査では西アフリカ/Sahel地域で国際的気候変動資金を直接利用できた団体のなかで、「地域的組織・団体」だと認定できたのはわずか0.8%だったとされる。 気候変動資金がどの程度地域レベルに到達し、プロセスに地域社会がどのように参加しているかについて、不透明な情報提供が依然として続いている。この点の改善が求められる。 そして地元住民が利用しやすく、管理しやすい少額の助成金の創設が求められる。 ナイロビ宣言では女性が直面する多面的な課題に対する包括的であり一体的な取り組みが為されていない。食べ物が足りない時、女性は食べる量をへらしたり、最後に食べるということを行うものである。そして学校をやめるのは女児が優先され、そして口減らし目的で女性は早婚化となる。日々の水を求めて女性は炎天下子供を抱えて数km歩くことになり、危険にさらされている。家庭内暴力の傾向は貧困状況と密接に関連しているとの研究が東アフリカで確認されており、貧困状況の改善が早急に求められる。 ナイロビ宣言では輸送に対する炭素税の創設を世界に要請している。 しかし適切な緩和戦略を併せて取り入れることなく進めると炭素税は脆弱な人々に悪影響を過大に与えることとなり、食料・医薬品やその他生活必需品のコストを更に上昇させる恐れがある。 我々の希望は投資が真に「人々」に広く行きわたり、気候変動への対処が可能となり、それにより「人々」は食物を生産することが出来るように繋がっていくシステムの構築である。 国際農業開発基金(the International Fund for Agricultural Development,IFAD)によるとアフリカ大陸には推定3300万世帯の小規模農家があり、大陸の食糧供給力の70%程を生産しているという。この様な状況でも、FAOによるとサハラ以南の地域に住む貧困状態にある90%の住民は農村地域に暮らしているという。 給水システムと衛生システムに向けての投資が必要とされる。アフリカ南部地域では飲用可能な水を利用できる人の割合は高々61%とされ、適切な衛生環境下で暮らしている人は5人に2人という。最近のマラウィ・モザンビーク・ザンビアやジンバブエにおけるコレラの蔓延が拡大している原因はかかる衛生環境の劣悪さである。事実1月以降これらの地域では新規感染者が数千人にのぼり、死者は数百人発生している。 現在アフリカは決定的な岐路に立っていると言える。 アフリカ大陸の指導者らは自由貿易市場から要請される拙速な取り繕い策、そして致命的になる恐れのある罠とも言える策を回避すべきであり、気候変動活動の中心に「人々」を据えることに注力すべきである。そうすることによって「包摂的・一体的な成長と持続可能な発展に基づく豊かなアフリカ」を目指すというアジェンダ2063がその目標に向けて一歩を踏み出すことになることが期待できるのである。 資源とチャンスへの利用可能性が公平であり、そして利用しやすさを支援することで、全ての個人が生き残るだけでなく、自然界と調和して繁栄するアフリカ大陸の構築が可能となるのである。 アフリカの気候変動に対応する現在の状況や水資源・衛生状況の課題と疾病との関係やジェンダーをも含めての貧困問題等と通して、結局は市場の論理が優先されている形の支援が横行していることをOxfamアフリカの担当者が指摘していると思います。 Oxfamが指摘している「利益」を中心に据えるのではなく、「人々」を中心に据えてアフリカの今後の課題に対処していくことが大切とする姿勢は、冒頭述べた現在のSDGsが企業の論理が中心となっており、それをより健全にするには企業の論理とは異なる「人々」が持つ別の論理から生まれる今までとは異なる「他の」目標をSDGsに組み込むことが、大切であり、必要な作業だとする思いと相通ずる認識だと思います。 「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の健全な目標を作っていくには企業の論理だけでなく、それとは異なる別の論理からの検討が必要であり、それを行えるのは我々「人々」が求められている、と思うのです。 次回は我々の農耕と病害虫とのかかわりに関連する問題を取り上げる形で、ともすると企業の「利益」が偏重されすぎてきた歴史と、そこから生じた「人々」の不利益の問題を取り上げてみます。そして企業からの課題解決策が優先され、それとは異なる「他の」良い解決策があるにも関わらずに、何故かそれが見落とされてしまった歴史の例を名著とされるカーソンの「沈黙の春」に焦点を当てることで振り返ってみたいと考えています。
0042
(目にとまった記事の紹介) 太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された
yo-chan
03/02 15:20
(目にとまった記事の紹介) 太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された Deutsche Welle,2024年3月1日 ナイロビ:この木曜、国連代表団は地球温暖化対策として太陽光を宇宙に跳ね返すという技術を更に推進していくことを求める決議議案を撤回した。本技術が健康と環境上のリスクに影響が出ることを懸念しての動きである。 国連環境総会(UN Environment Assembly,UNEA)で、この決議草案に反対する人々は、太陽光修正技術(solar radiation modification,SRM)の利用が、巨大な汚染事業者らに対して彼らの責任が免責されてしまうことに繋がるのではないか、と懸念していると会議を傍聴していた団体らが発言している。 スイスとモロッコとが12月に初めてこの地球工学的技術の検討を要請する決議を上程しており、今週ナイロビの総会でこの問題について協議されていた。 当初の草案では専門家らの招集が要望され、彼らの手になるリスクと倫理上の考察を加えたSRMの、可能性があり、そして妥当な利用法に関する報告書が作成されることが要望される、ということが念頭に置かれていた。 この技術を使っての最も知られている利用法の一つが冷却用反射材としてSO2を用いて、それを大気圏のかなりの上層に噴霧するというものである。 わずか数件の小規模SRMプロジェクトが実施されているだけの状況である。 そして研究者の中には、気候変動の臨界点越えを避けることが必要となった際にSRMは運用可能だと指摘している人もいる。 批判的立場の人たちは、天候と農業とに悪影響が起こり得るとし、殊に貧困国にその影響が大きく生じるだろうことを懸念している。 彼らはSRMが温室効果ガス排出削減活動のスピードを遅らせるいい訳・方便に利用されることもまた懸念している。 直近の2週間にわたる6回の改訂版作成の後、木曜日にこの決議案は撤回された。 スイス連邦環境局のRobin Poll報道官は、「SRMに関する情報への利用しやすさ改善という議案に各国が反対している。そして収集する情報にSRMのリスクと不確実性に焦点を当てるべきかどうかという点、あるいは潜在的な利点をも同様に含めるべきか、どうかという点で各国は反対している。」 「UNEAが、この重要な議題に結論を出せられなかったことは残念なことである。しかし、ここで行われた議論には多くの、そして有益な情報が含まれており、この重要な課題に関する国際的な討議を我々は開始したのである。」とPoll報道官は指摘している。 ケニアの気候問題代表のAli Mohamedさんは、アフリカ諸国がこの決議に反対している、としている。 「この科学技術はまだ開発の黎明期であり、潜在するリスクは充分解明されてはいない」とMohamedさんは語る。 「現時点で、温室効果ガス規制には数多くの解決策がある」 国際環境法センター(The Centre for International Environmental Law,CIEL)によれば、EUと太平洋島嶼諸国とコロンビアそしてメキシコが決議に反対しているという。 「これらの技術は気候危機の根本の原因を解決していくことには繋がらず、反対に主要なGHG排出事業者らが化石燃料の段階的廃止という緊急の必要性を遅らせるような目的でこの技術が使われることになるだろう」とCIELの上級地球工学キャンペーン担当のMary Churchさんは指摘している。 。
0043
(目にとまった記事の紹介)そしてその情報をもとに「人々」の立場から試みにSPGs(Sustainable People Goals)の具体的目標を考えてみる
yo-chan
03/06 11:44
(目にとまった記事の紹介)そしてその情報をもとに「人々」の立場から試みにSPGs(Sustainable People Goals)の具体的目標を考えてみる 「人々」の発想から浮かぶSPG(農耕)、SPG(食べ物と栄養)、SPG(暮らしと生計)にまつわる目標を(目にとまった記事の情報)をもとに考えてみたい。SOGsも提案していますが、両方を表記すると煩雑になるのでSPGsを代表して今回は使用しております。 今回のニュース記事は、The Lancetに発表された「世界の肥満と低栄養」に関する研究を紹介しているDeutsche Welleの記事です。 世界的な栄養失調の様相:8人に1人が肥満 Deutsche Welle,2024年3月1日 Tapatrisha Dasさん記す 医学雑誌ランセットの最近の報告によると、栄養失調が原因となる飢餓人口は世界的には減少しているが、しかし栄養失調の別の形態である肥満は爆発的に拡大している、と指摘されている。 世界の肥満率の実態をみると、1990年以降子供の肥満率は4倍化、成人のそれは2倍化している、との研究結果が3月1日の医学雑誌The Lancetに発表されている。 世界の10億人(8人に1人)が、BMI(Body Mass Index)が30以上の肥満状態にある。 BMIとは個々人の体重と身長の数値をもとに計算できる簡便な過体重や肥満状態がわかる数値であり、kgで表した体重を、メートルで表した身長の二乗で割って得られる数値。 WHOの栄養と食品安全局代表のFrancesco Brancaさんは、肥満率30以上の人が世界で10億人を越えるのは、以前は2030年と予測していた、と語る。しかし、この予測が8年も早い2022年に到達し、破られてしまったことになる。 Lancetの報文の共著者であり、インペリアルカレッジロンドン教授のMajid Ezzatiさんは、肥満率の上昇のスピードがこの様に早いことに「驚いている」と語っている。 そして、この急速な上昇が、世界が想像する地域即ち富裕諸国で起こっているのではない。 今回の新たなデータによると、多くの富裕諸国では肥満率が頭打ちになり始めている状況が一般化してきているのに対して、エジプトやイラク、リビアや南ア、チリのような低所得国から中所得国では成人と共に子供達の間で肥満が急速に進行していること、が認められている。そしてシリアやトルコやメキシコ等の国もそれに遅れることなく追随しているとされている。 「米国を除くと、全ての伝統的な先進国は、肥満率の点では世界のトップグループに入っている国はなく、低所得から中所得の国々がトップグループをほぼ独占している状況だ。」とEzzatiさんは指摘している。 今回のデータは、飢餓に苦しむ人々の数の低減化が世界規模である程度進んでいることも示している。 過去30年間で、痩せすぎの成人の人数は世界規模で半減している。18才以下で見ると、痩せすぎの女性は5分の1に、男性は3分に1に低下している。 しかし、状況が改善されていない、いくつかの国の存在も浮かび上がっている。 例えば、エチオピアやウガンダの様な国々では、痩せすぎの成人の割合はほとんど変わっていない。 インドやバングラデシュやパキスタンの様な他の国々では、痩せすぎの成人の割合は急速に低下している。 しかし、パキスタンでは、一つの栄養失調の形態が、別の栄養失調の形態に置き換わっているように見える状況があるという。即ち、痩せすぎの成人の割合が1990年以降に27%から7%へ低下した一方で、肥満の成人の割合が3%から24%へと同時期に上昇している。パキスタンにおける肥満率の上昇スピードは、欧州諸国の大半の国より大きいのである。 そして、サハラ砂漠以南のアフリカの国々にも同様な痩せすぎが減少する一方で肥満の人が増大するという交差性が、殊に女性の中に見られているという。 低所得から中所得国の国々で肥満率が急増している理由は何なのであろうか? 富裕諸国に比べて低所得から中所得諸国の間で、急増しているのには、いくつかの理由があるとBrancaさんは指摘し、次のような理由を挙げている。 一点目はエジプトやメキシコの様な国で急速な工業国化が最近の30年程で起こったこと。それにより、それらの国では特に都市部に置いて食ベ物のシステムが変化しており、「加工食品と加工飲料の売り上げやスーパーマーケットの数やアウトレット販売店の数が大きく拡大した」とBrancaさんは指摘する。「それらの変化は非常に早く、そしてその向かう先が良い方向ではないのである」と付け加えている。 二点目は2倍化する負担の生物学(the biology of the double burden)の存在であると、Brancaさんは指摘する。2倍化する負担の生物学、とは低体重で生まれた子供や、あるいは子供のころに充分に食べ物を摂取できなかった子供らは、往々にして過体重な成人や肥満成人になりやすい、ということを指す。サハラ砂漠以南の国々で見られる状況も、この考え方で説明できるとされる。 そして三つ目として、これらの背景に政府の無策が存在している、と指摘している。その結果市民に対して健康に良い食べ物を提供するという活動が欠如する状況が生まれる。 そして、富裕諸国とは異なり、低所得から中所得諸国の多くは、脂肪分が多い・砂糖が多い、そして塩分が多い加工食品を過剰に供給するマーケットの巨大な圧力から市民を守るために必要な政府当局の政策がほぼ無いか、あるいは全く無いとBrancaさんは語る。 「重要なことは、従来は、肥満が富裕諸国の中の問題と思われていた、のが今や肥満が世界全体の課題となって来た、ということだ」とBrancaさんは指摘している。 【2倍化する負担の生物学(the biology of the double burden)との言葉は判りにくい。補足的に説明する文献が同じくBrancaさんの2019年ランセット誌にあり、内容を紹介すると、「栄養失調の2重の負担(ここでは生物学という言葉でなく栄養失調を使っている)は、国・都市・地域・世帯・個人などあらゆるレベルでの栄養過多(過体重と肥満)と栄誉不足(発育阻害と消耗)という2つの栄養失調の共存状態を指す。従来は様々な形態の栄養失調を個別の問題として理解し、対応を考えてきていた。ここに新たに出現した栄養失調の2重の負担という現実は栄養不足と栄養過剰とが相互に関連し共存しており、従って複数の側面に同時に対処する2重の責務を負った行動と政策を実施する必要があることになる。」と説明している。】 以上のランセットのニュース記事を参考にして、日本社会では、ややもすると脇に置かれて視界から消され勝ちな状況ではあるが、「人々」の立場に立てば見えてくる具体的な「市民の目標案」を、試みにいくつか提案してみたい。今回はSPG(農耕)やSPG(食べ物と栄養)やSPG(暮らしと生計)を取り上げてみたい。ここでは全てを網羅して厳密に議論することはせずに、容易に思い浮かぶ項目のみを挙げるに留めます。 ランセットの研究結果のポイントの一つは、飢餓や低体重の問題は世界的に改善されてきている、一方でBMI30以上の肥満者は急増しており、その急増している地域が先進富裕国ではなく、低所得から中所得国の国々で起こっていることの問題を指摘している。即ち、所得の格差が肥満を助長している、という関係性がハッキリと示されたと言え、換言すれば、人々の健康状態が、所得の格差により左右されている、というのである。 まず、大前提として、わが国でも「所得の格差」と「人々の肥満や健康状態」との間に相関性があるかどうか、を確認することが必要である。 興味あるデータが、大和総研の行った調査(「人々の所得や雇用から見る健康格差」2023年4月27日)にあり、紹介すると、 年収200万円未満世帯の肥満率:男性38%、女性26% 年収600万円以上世帯の肥満率:男性25%、女性22-23% (いずれも2014年厚労省発表の国民健康・栄養調査結果の概要を基にしている) 即ち日本でも世帯年収が低いと、肥満度が高くなる傾向がある、と確認できる。 また大和総研の資料によると、食材ごとの摂食量にも違いがあるとしており、即ち、年収200万未満の男性は600万円以上の男性に比べてコストが安く、カロリーの取れる穀類(米や小麦等)を9%程度多く摂食しており、反対に肉類は20%近く少なく、野菜類は30%程少なく摂食しているという。世帯年収が低いと健康に良い食生活を送りにくい状況が見て取れるのである。 こうした実態を見ると、所得格差の問題を解決する策を「人々」の立場から打ち立てる必要があると思う。SPG(暮らしと生計)の具体的な目標案を提示したいと思う理由です。 そしてもう一つの視点は、日本でも戦後の復興と成長を期待して工業偏重の急拡大が起こり、その潮流にはじき飛ばされるように農業は衰退していき、結果として農業従事者数の激減とともに自給率の悲惨な低下がもたらされ、その状況が今も継続しているのは言うまでもなく、戦後の農業人口の推移に明らかに現れています。即ち、農業従事者は1960年ごろ850万人だったのが、2015年に187万人へ、そして現在は130万人にも満たない。日本の人口約1.2億人とすると率にして約1.1%であり、その間の人口推移を加味すると農業人口の割合は日本では10分の1に低下してしまっている。 食糧自給率の状況は、農水省発表の2022年度のデータによると、カロリーベースで前年と同じ38%で依然として低い水準で推移している。因みに1965年ごろは70%を越している。 妥当な農業従事者数がどの位が良いかの判断としては、世界の農業従事者数と世界人口との関係が使えるのでは、との考えから調べると、現在約9億人が農業に従事しているという。世界人口は80億人であるので、率にすると約11%。これは1960年当時の日本の状況ともかぶる数字で、目標の目安としては妥当ではないかと思う。 そして現在の日本の状況は、世界の10分の1である。 「人々」の立場から浮かび上がるSPG(農耕)の目標として、日本の農業従事者を2050年までに倍増する(130万人から260万人へ)というのはどうであろうか。2050年の人口予測が9500万人とされており、これを使うと3%弱への農業従事者の拡大を目指すことになる。 この方向の目標を採用すれば、130万人の職が新たに農村地域で生まれること、食料自給率が改善されること、そして農村地域の生活水準の向上という暮らし向きの改善が期待される。農村地域の過疎化の解消の方向そして農村地域の人の増大による自然環境へ人の手がより多く入ることになり、里山の回復も期待できるのではないか、と思う。 SPG(農耕)の目標:日本の農業従事者を2050年までに倍増する(130万人から260万人へ) この目標はSPG(暮らしと生計)の目標とも言えるものである。 SPG(食べ物と栄養)については、ランセットで触れられている「脂肪分過多・砂糖過多、そして塩分過多の加工食品、殊に超加工食品の過剰圧力から市民を守るのに必要な政策の弱さ、政府の怠慢を論じている部分に対して、我々「人々」の立ち場からどういう目標を考えるか、が一つのポイントと思います。。 加工食品、ことに超加工食品は、それらに依存する状況が生まれるような嗜好性の高い食べ物である点が一つの困った特徴である。従ってそれらの健康への悪い影響と共にその中毒性とも言える特徴から、成人だけでなく、殊に児童らに対する健康上のリスクの配慮が極めて高く為される必要があるものだと言える。 現在、かかる観点での啓蒙活動は、ほとんど我々の視界には入って来ていない状況と考える。 「人々」の発想から浮かぶSPG(食べ物と栄養)の目標:児童らに対する加工食品、ことに超加工食品が持つ健康上のリスクを判り易く児童に伝える啓蒙活動、即ち「健康上のリスクを訴える漫画」の作成を早急に行う このような、「人々」の発想から浮かぶSPGを今後も提示していければと思っています。
0044
厄介な食べ物から子供達を守るのに必要な情報とその政策化のヒントになる世界動向
yo-chan
04/18 12:10
厄介な食べ物から子供達を守るのに必要な情報とその政策化のヒントになる世界動向 過剰な糖質分を含む食べ物から子供達を守る施策をどう作っているかに焦点を当てる 糖質の過剰摂取の問題が注目されている。今回はこの問題に焦点を当て、ことに子供達が糖質の過剰摂取の環境に置かれ、太りすぎや肥満に導かれやすい構造が世界に存在しており、この状況を放置していると糖尿病や心臓血管系疾患等の慢性疾患に苦しむ将来が彼らに待ち受けていることが大いに懸念される所である。 今回は、世界の特に子供達の糖質過剰摂取の状況を検分し、なぜ糖質の過剰摂取が問題なのか、そして世界がこの問題に対してどんな対応を試みているのか等、を紹介してみたい。 この課題を世界がどう見て、どう対応しているかを色々な角度から見ていくことが、企業主導でない「市民が主導する人々の考えに基づく持続可能な目標」SPOGs(市民の、特に子供の健康を守る)を提案する上で、参考になるだろうとの考えから取りまとめてみたい。 今回、SPOGsという用語を使っている。これはSustainable People-Oriented Goalsの略。 以前提案のSPGsとSOGsの二つを1つに纏めることが出来れば、望ましいのではとの考えから作りだした造語です。今後はこの言葉を「人々の思いに根ざした持続可能な目標」の意味合いから使っていきたいと思います。 今のSDGsは「企業の思いや願いに根ざした持続可能な(再)開発目標」と思います。 まず、事実の紹介から始める。 1. 世界の子供の肥満の実態と今後の予測 (1) WHO「肥満(Obesity)と太り過ぎ(Overweight)」2024年3月1日から引用 2022年の世界の思春期の子供らの肥満は、1990年と比較して4倍化している。 2022年の世界の5才以下の子供らのうち、太り過ぎのこどもは3700万人、5〜19才では3.9億人以上が太り過ぎであり、その内で肥満者とされるこどもは1.6億人。 (2) アメリカの実態: Centers for Disease Control and Prevention(CDC)による「Childhood Obesity Facts」データ、最終更新日:2022年5月17日から引用 2017年から2020年の期間、2〜19才の肥満者割合は19.7%(人数:1470万人) 内訳として:2〜5才は12.7%、6〜11才は20.7%、12〜19才は22.2% 別の内訳として、スペイン系の子供は26.2%、非スペイン系黒人の子供は24.8%、非スペイン系白人の子供は16.6%、アジア系の子供は9.0% (3) EUの実態:OECD/European Union(2020),“Overweight and obesity among children and adolescents”, in HEALTH AT A GLANCE:EUROPE2020から引用 2018年:太り過ぎ及び肥満の15才の子供の割合は、EU諸国平均で19%、2010年の16%と比べて上昇。 男女の内訳は、男子23%、女子15%。 EU域内の地域差は大きく、最少はオランダの12%、最大はマルタの36%と3倍の開きがある。 家庭の経済状況による太り過ぎの割合の格差の存在が認められており、恵まれない家庭の子供らの太り過ぎの割合は、恵まれている子供らに比べて50%大きいという。 (4) 日本の実態:最近の25年間の栄養調査(Obesity Research,2004)から引用 1976年から2000年の期間、6才〜14才の男児29052人と女児27552人を対象として調査した結果、1976〜1980年にかけて肥満男児割合が6.1%、肥満女児割合が7.1%だったのが、1996〜2000年にかけては肥満男児が11.1%、肥満女児が10.2%へと 男女ともに肥満率が増大している。 地域による特性として、9〜11才の男児女児共に小規模の都市に住む児童らが20年間の期間にわたり最も大きな肥満率の増大を示している。一方大都市の女児に関しては20年の期間の間に肥満率の増大は見られていないという。 2.糖質分の摂食状況 (2−1)アメリカの実態:Get the Facts: Added Sugars, Centers for Disease Control and Prevention(2〜19才の砂糖摂取量の調査、2017から2018年)から引用。 一日の砂糖摂取量:男子は72g、女子は60g 内訳:2才から5才児:黒人52g、白人48g、ヒスパニック44g 6才から11才:黒人76g、白人72g、ヒスパニック64g 12才から19才:黒人80g、白人80g、ヒスパニック60g 20才以上:男子76g、女子60g、黒人76g、白人68g、ヒスパニック64g (2−2)日本の実態:農村の児童・生徒の嗜好飲料・冷菓からの砂糖摂取量(栄養学雑 誌,1980年)から引用。 幼稚園児:男子33.6g、女子31.1g 小学校5・6年生:男子36.3g、女子33.5g 中学2年生:男子63.8g、女子47.3g 高校2年生:男子42.4g、女子32.4g (2−3)日本の実態:日本人の澱粉と糖分の摂取状況調査Nutrients2018,10月、1474ページより引用。 調査対象:18〜35カ月の乳幼児368人、3〜6才児376人 8才〜14才の小中学生915人、20才〜69才392人 結果:平均澱粉一日摂取量について 女性乳幼児の55.6gを最小として男性小中学生206gを最高とする範囲 年齢性別に関わらずに、50%以上の澱粉は米と穀類から取り入れている 平均砂糖一日摂取量について 乳幼児(女)の46.1gを最小として小中学生(男)68.7gを最高とする範囲 摂取糖質の形は、ショ糖が18.2〜34g、グルコースが7.8g〜13.1g、ラクトース(乳糖)が5.3g〜13.1g、フラクトース(果糖)が7.6g〜11.1g。 3.砂糖等の許容摂食量:(2015年3月WHO発表1日の砂糖摂取量の目安)から引用 1日の総摂食エネルギー量の5%未満が目安。 例えば2000Calを1日に食べている人は、100Cal(砂糖25g)が上限目安 小学生の場合は20g以内が目安。 海外では2歳児までは砂糖や還元糖の摂食は避けるべきとされている。 一方、The Institute of Medicineは、砂糖の適正摂取量に関して公表していない。 米国心臓学会(The American Heart Association)は女性には24g以下、男性には36g以下を推奨している。子供は12g以下を推奨している。 日本の厚生労働省:砂糖の1日摂取量目標を、成人男性8g、成人女性7g 2015年版基準の目安では、成人は10g、1〜2才は5g、3〜5才は7gとしている。 4.良く購入されている加工食品中の糖質分含有量の例 (4−1)アメリカ人は、砂糖等をどのような加工食品から摂取しているのか。 炭酸飲料/エネルギードリンク/スポーツ飲料から:42.2% 穀類ベースのデザート類から:11.9% 果物飲料類から: 8.5% 牛乳ベースのデザート類から: 5.5% キャンディー類から: 5% 直ぐに簡単に食べられる穀物食品から: 2.9% (4−2)良く見かける食べ物や飲み物に含まれる砂糖・糖質分 コーラ:100ml当たり11.3g。コップ1杯は約200mlなので23g程になる。500ml ボトルには56.5gが入っていることになる。 M社シェイク:バニラMサイズには糖質68.4g、Sサイズには41.2g R社シェイク:バニラ(サイズはS相当か)には26.3g あんぱん(80g):砂糖23.4g レモン風味炭酸水(500ml):砂糖43.2g 大福(70g):砂糖10.8g スポーツドリンク(500ml):砂糖32.4g オレンジジュース(果汁50%、180ml):13g つぶ入りオレンジ(250ml):32g ショートケーキ:28.8g シュークリーム:8.3g コーヒーゼリー(100g):10.4g コンビニ・プリンタルト類:糖質33.4gと食物繊維0.5g コンビニ・プリンサンド類:糖質28.6gと食物繊維0.2g 果汁グミ:一粒に砂糖2gが一般的。子供の場合は2〜3粒で目安に達する チョコレート付きビスケットの一例:一箱50gに糖質31.3g、カロリー266Cal(植物 油脂やショートニングとして14.5gを含有)。糖質のCal/全Cal=47% チョコレート:50g、砂糖28.3g、植物油脂16.6g、278Cal。糖質Cal/全Cal=40.7% 蒟蒻菓子:1袋(25gx12個入り)1個25gに糖質6.2g。1個で目安に達する フルーツセラピーホワイトピーチ:1個150g、糖質(果糖ブドウ糖液糖と砂糖)26.6g、106Cal、糖質Cal/全Cal=100% 5. 加工食品製造時に砂糖が使用されるが、1980年代頃からコーンシロップを原料にした色々な甘味材が主として生化学的手法を用いて作られ、砂糖より安価であること及び食品のシェルフライフを伸ばすこと、そしてこれら甘味材を使用すると加工食品や加工飲料のフレーバー性やテクスチャー(のど越し等の食感)が向上すること等が評価されて現在ではこれらの甘味材が多いに加工食品に使われている。これらの甘味材の種類には、以下のものが知られている。 ブドウ糖果糖液糖(果糖含有率が50%未満のもの) 果糖ブドウ糖液糖(果糖含有率が50%以上90%未満のもの) 高果糖液糖(果糖含有率が90%以上のもの) 砂糖混合異性化液糖(上記の液糖に10%以上の砂糖を加えたもの、例えばその 液糖がブドウ糖果糖液糖なら砂糖混合ブドウ糖果糖液糖となる) 2つ目の果糖ブドウ糖液糖と3つ目の高果糖液糖(High Fructose Corn Syrup:HFCS) は、「果糖(フラクトース)」が多く含まれ、砂糖より価格が安いこと、砂糖より20〜50%甘みが強いこと、そして保湿性や吸湿性に優れていることから焼き菓子に加えるとシットリさを高める働きがあることから寵用されている。その他の利用例ではジュースなどの清涼飲料水、スポーツドリンク、ドレッシング、焼き肉のたれなどの多くの食品に配合されている。 加工食品に使われる甘味料は砂糖だけではないということが、肥満と甘味料との関係や表示問題を考える際に砂糖だけを取り上げての議論では不充分になる、という点に留意する必要がある。 実際、HFCSは1967年に市場に導入された後、直ちに市場に受け入れられ、急速に拡大して、1980年の1人当たりの消費量は年間18.9ポンド(8560g、23.5g/日)になった。 甘味料市場におけるHFCSのシェアはカロリーベースで15%とされる(A Trend Projection of High Fructose Corn Syrup Substitution for Sugar, Amer. J. of Agricultural Economics,64,625-633、1982)。 2017年のHFCS生産量(830万トン)から計算するとアメリカ人のHFCS摂取量は69g/日に達している(High Fructose Corn Syrup Market Size, Trends and Forecast 2030Credence researchデータから引用)。 因みに、日本のHFCSの生産量は2021年に113.1万トンとなっており、国民一人当たりにすると、ほぼ1日25gになる勘定である。 日本を含めて世界は、甘味量の罠に嵌り込まされていると言える数字である。 6. 砂糖やHFCS等の糖分を過剰に摂取することによる弊害(The sweet danger of sugar 、Harvard Health Publishing 2022年1月6日より引用) 砂糖は炭水化物を含む通常の食べ物に自然に含まれているものであり、果物や野菜や穀類や乳製品等、普通見られるものである。これら食材中に含まれる砂糖は健康上問題になることはない。理由は、これらの食材は体内に取り入れられた後、「ゆっくりと」消化され、含まれている砂糖は細胞への安定したエネルギー源として働くからである。 一方、加工食品の日もちやフレーバー性や嗜好性を改善する目的で、加工時に外部から投入される過剰な砂糖や果糖その他は、吸収性の早さの問題とその糖分量の多さの2つの点で問題が発生するのである。 糖質分の吸収性の早さについては、次にデータが知られている。 お米等の穀物に含まれる澱粉は、体内で消化され吸収されるまでに3〜4時間、砂糖や乳糖などの2糖類は10分〜1時間、そして問題となる単糖であるグルコースや果糖(フラクトース)は数分で体内に吸収されてしまうのである(HFCSは、コーンシロップ中の澱粉を酵素分解や酵素的転換反応を用いて、人間では3〜4時間を要するグルコースや果糖に変換する消化工程を、工場内で済ませてしまっていると言える)。 吸収の早さの問題も重なる形であるが、摂取糖分量の過剰さの問題として、次のことを知っておくことが大切である(Harvard Health Publishing,2021年7月1日、High-glycemic diets could lead to big health problemsから引用)。 我々が日々食べる食物に含まれる糖質分の健康に及ぼす問題を考える場合、一つの物差しとしてGI(glycemic index)値を知っておく必要がある。 先ほどの体内への吸収の早さのデータを使って、GI値を説明すると、体内で消化され吸収されまでに3〜4時間が必要なお米等の穀物食品は「GI値が低い」食べ物であり、一方、数分で体内に吸収されてしまうグルコースや果糖(フラクトース)を多く添加した工業的に加工製造した食べ物や飲み物は「高いGI値」を持つものになる。 そして「高いGI値」の食べ物・飲み物を摂食すると、吸収性が早いことから血中の糖分レベルが急速に上昇することになり、膵臓からのインシュリン放出が促進されることとなる。そしてインシュリンの放出により、血中濃度は急速に低下することになる。 ここで2つの事柄が問題となって来るのである。一つはインシュリンの放出による血中濃度の急速低下により、欠乏感と渇望感が生じる可能性がある。これが、甘味食べ物と飲み物が持っている麻薬性・常習性とも言える性質であろう。 もう一つの問題は、この高GI値の食べ物と飲み物を頻繁に摂食して、上記のサイクルを頻繁に繰り返していくと、体重増加やインシュリン抵抗性や2型糖尿病に繋がっていく恐れがあること、そして心臓血管系の疾患リスクを高める可能性が高まるということである。 砂糖等の摂食と、それによる健康面の問題との間に因果関係・相関関係があると紹介する文献が多く発表されており、ここでの話の流れもそれらの文献を中心に紹介する形を取っているという点を指摘しておきたい。そして、研究者の中には、因果関係がある、と断定することは現時点ではできないとの立場の人々もいる、ということを紹介しておく。 とはいえ、砂糖やHFCSのような果糖が多く含まれている加工食品の使用実態や問題点をみていくと、「加工食品の全部」に懸念を持つのはやりすぎであろうが、特に一部の加工した食べ物や飲み物(超加工食品と呼ばれる範疇の加工食品群にかぶさる部分が大いにあると思われる)には、注意を向ける動きも必要なのではと考える。 かかる懸念をもっての世界における興味ある動きを以下に紹介していく。 7. 加工食品の包装前面(Front of Pack:「FoP」)に栄養成分を表示する世界の動向 食事と健康とを改善していくことを目指して、WHOは2004年にFoP栄養ラベル表示 方式を提案し、パッケージ前面への表示を推奨する動きを始めている。 2つの目標を念頭に置いており、一つは消費者に対して健康的な食品の情報を提供すること、もう一つは食品工業界に対してより健康的な商品の開発を促すことであった。 その後、数多くの包装前面表示方式が、多くの国から提案され、どの方式が最も効果的なものであるか、をめぐって検討が続けられているのが現状と言える。 Food Quality and Preference誌(2023年3月、An 18-country analysis of the effectiveness of five front-of-pack nutrition labels,S.Pettigrew et al.)によると、 代表的な方式として5つがあるとしている(星の数表示方式・多面的な交通信号方式・栄養素スコア表示方式・推奨摂食表示方式・警告表示方式)。 8. 「交通信号式」要注意成分を表示する世界の動向(Traffic Light Labelling: A Guide for Food Businesses、Ashbury 2024,Jan.24から引用) 英国では多くの食品事業者が、消費者の購入の利便性向上の目的から製品包装材の前面に栄養情報を色分けして、表示する方法を採用している。英国では信号ラベルと呼ばれており、世界中で採用されている食べ物や飲み物の包装の前面ラベル表示法(Front of Pack, 「FoP」)の一つである。 信号ラベルは、購入食品に含まれる主要な栄養素情報が一目で理解できるという利点がある。しかしながら、すべての食品企業と飲料企業が、かかる有用な情報を、何時の段階に、そしてどのように表示するか、を正確には理解していない状況にあるとしている。 (8−1)信号機(TL)ラベルとは? 包装済み食品や飲料製品の前面に、信号ラベルが使用され、栄養情報の迅速かつ明確な表示に役だつ。消費者は購入製品の購入時に必要な情報をそれから得ることが出来る。各栄養素(脂肪・飽和脂肪・糖分・塩分)は推奨される一日摂取量に基づいて、赤・オレンジ・緑で評価され、表示される。 赤はその栄養素が多く含まれており、食べ過ぎに注意が必要だと明示している。 オレンジはその栄養素が適度に含まれており、好む時に適量の摂食は問題ないことを意味する。 緑はその栄養素の量は少なく、日々定常的に摂食することが可能である 。 (8−2)摂食量の目安 信号ラベルには成人の1日推奨摂取量に対するその栄養素が含まれている量の割合が%で表示されている。このラベル数値を参考にして、そして摂食する別の食品の栄養素を勘案して健康な食生活が送れるよう各自が考えることが求められる。 (8−3)FoP信号ラベルの表示義務はあるか? 表示義務はない。英国で販売される商品への信号ラベルシステムは自主的な制度であり、表示に義務はない。しかし、大半の小売店と食品企業が情報の利用を許諾している(opted in)。許諾を選択している企業は、カロリー・脂肪・飽和脂肪酸・糖分・塩分の量についての情報の提供に同意していることを意味する。 英国のスーパーの棚の商品の約2/3にFoPラベルが表示されている。これらの表示は保健省のガイドラインに従う必要がある。 FoP信号システムは任意だが、ほとんどの包装済み食品では、包装の裏面に重要な栄養情報の表示が義務付けられている。 9. 学校から要注意加工食品を追放するという動きがある(Advocates hope Rio’s ban on ultra-processed foods in schools triggers wave、NCD Alliance 2023, August 11から引用)。 2023年6月にリオデジャネイロ市で、公立と私立の学校内での超加工食品の販売を禁ずるという法案が可決されている。1月のニテロイ市に続く2番目の法案可決だという。 校内での販売を禁じる対象としては、クッキーやキャンディーやソフトドリンクなどの砂糖等や脂質を多量に含んでいる食べ物・飲み物という。 2016年に超加工食品の栄養成分を包装前面に表示することを始めているチリの動向(Advocates hope Rio’s ban on ultra- processed foods in schools triggers wave、NCD Alliance 2023, August 11から引用)から見ると、適切な前面表示を行えば、施行2年後に高含量糖分を含む食べ物の販売は26.7%の減少が、高食塩商品は36.7%の減少が、高脂質商品は23.8%の減少が起こっているという。 学校から健康に良くない食べ物・飲み物等を追放することや、購入加工食品に適切な表示をしていくことを検討し推進していくことで、少なくとも幼児・児童・思春期の若者らや保護者らがこの問題に対して、適切な判断をする材料や判断する機会が得られ、結果的に彼らの健康を守っていく社会作りが醸成される方向性が見えてくるのではと思う。 但し世界に巨大食品・飲料メーカーが存在しているのも事実で、食品・飲料メーカートップ10社が世界で販売されている食品売上げの80%をコントロールしており、そして彼らが稼ぎ出す総利益は毎年1000億米ドルを上回っており、その利益の3/4が超加工食品からのものだという事実があることも侮れないものであろう。 最後に「肥満に打ち勝つ力と智恵は、若者たちが与えてくれる」との情報を紹介して、締めくくりとしたい(Giving young people the power to beat obesity、 Horizon The EU Research & Innovation Magazine、2022,2月14日By J.Smithの情報を引用)。 若者たちの健康改善を目指す政策設定や決定を行う時点で、若者たちの発言機会はほとんどない。しかし、政策の立案と決定権を持つ人々に何を、如何に変えていくことが望ましいかを伝えることが出来るのは、若者たち以上に適格な存在はないのである。 若者たちに権限を与えて政策を描き、若者たちが変化の主体になっていくことになれば、どんなことが起こるであろうか? 10代の若者たちの太りすぎの問題を解決したいのならば、先ず始めに行うことは若者たちの声を聞くことが解決に向けて新しい政策を立案する上で必要なことだと、研究者らが作る国際的組織が指摘している。 太り過ぎの原因と解決方法についての若者たちの意見は非常に重要なものであるが、現実には政策決定権者や研究者らに見過ごされている、と著名な研究者であるKnut-Inge Kleppさんは語っている。 Kleppさんは、青年期の諸課題を研究することで、若者たちの肥満問題の世代間ギャップを埋めることを目指している研究団体(CO-CREATE)の主要研究者である。 「政策を執行し、確実な効果を生んで行くには、政策設計段階に若者たちが参画することが決定的に重要なことである」とKleppさんは指摘する。「若者たちは、政策による介入がどのように効果があるのか、如何に適切なものであるかを、理解している人々だ」。 この考えを基にして、欧州の5カ国で16−18才の若者の参加のもとで「思春期の太りすぎ削減課題」を解決していくことを目指すCO-CREATEプロジェクトが立ち上げられた。 その結果、専門家らや大人たちでは想像出来なかった政策的アイデアが、多数若者たちから展開されることになったのである。以下に例を挙げると、 授業時間外での学校の体育施設の利用・ジャンクフードの広告制限を提案しているノルウェーの若者がいる。 そしてノルウェーの若者たちは健康に良い食べ物が、販売されている数多くのジャンクフードに比べて割高だ、という点を指摘している。 即ち、健康に良くない食べ物の広告を制限し、健康的な食べ物の競争性を高めれば、若者たちの食に対する行動を変えていくことが出来るだろう、とノルウェーの若者たちは発言している。 オランダのアムステルダムとアルメレの若者たちは、学校での調理教育実習の活動や学校食堂に、学生ら自身が工夫したメニューで作った温かで健康に良い美味しい食事を提供するシステムを持ち込むことを提案している。 オランダの若者たちはまた、消費者への意識付けならびに生産者に対しては砂糖の添加量を下げるインセンティブになると期待できる、砂糖税(1g当たりに課税する)の導入を提案している。彼らはまた、健康に良い食べ物や飲み物の価格を引き下げる行動や、スーパー等における健康に良い食べ物や飲み物の販売場所を消費者に判りやすい場所に移すことを提案している。 ポーランドとポルトガルの若者たちは、同様にスーパーの課題を取り上げて、健康に良い食べ物をもっと目立たせることを狙った活動の必要性を指摘している。 ポーランドの若者たちは、健康に良くない食べ物が販売店において過剰な仕方で数多く陳列されており、それが購入時の選択に影響している点を懸念している。またポルトガルの若者たちは、それら健康に良くない食べ物が入り口付近やレジ近くに配列されているという問題点を指摘している。 英国の若者たちは、健康的な食生活習慣の支援の為にソーシャルメディアの利用を提案している。 現在、若者たちはソーシャルメディア上で、ジャンクフードの市場戦略の攻撃に曝されている状況と言える。このジャンクフードの攻撃から子供達を守るには、学校レベルだけでなく、地域レベルでも国レベルでも健康的な食べ物の情報が入手できるソーシャルメディアのアカウントの作成が求められると指摘している。 SPOGs(市民の、特に子供の健康を守る)のテーマとして、例えば交通信号表示システム運動やパッケージ前面への表示義務運動を組み合わせた最適な表示方式を検討して、表示を義務化する運動やTVその他の媒体を利用して高含量のHFCS等糖質分を含む商品(一個や一本で30〜40gの糖質分を食べてしまうことになるようなもの)を広告宣伝する業者に対して課税することや販売店内の商品陳列様式の規制を設けるとか、色々と考えられることは多いのではと思っております。
0045
原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・ディーゼンドルフ氏が反駁する
yo-chan
04/21 16:25
原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・ディーゼンドルフ氏が反駁する Energypost.eu,2016年5月31日 Mark Diesendorfさんが記す 4月7日付けの「原子力発電は地球環境にやさしいのか」は、常々感じていることが多い内容の意見で、興味深く読ませていただきました。 特に「原子力発電はクリーンな発電方法である。原子力発電こそが現状で最も安定した電力供給ができる」等々のバイアスがかかった言説の問題性を指摘している点は大いに共感するところです。 見習い期間さんに触発され、核エネルギー推進者が用いがちな言説や物語の問題点を検討している海外の意見を少し調べてみました。その結果、オーストラリアにDiesendorfさんという方がおり、興味深い情報を提供しております。2016年と少々古いものではありますが、参考になる部分多いと思いますので、紹介したいと思います。 バイアスのかかった推進者側の言説・論理に対する反駁の力が弱いということと共に、彼らの言説・論理だけが、大手を振るってまかり通っている社会構造を放置し続けている、ということも我々社会が抱えている大きな問題点と思っております。 おかしいことには、ハッキリとおかしいということを言い続けること、そしてその反駁の論拠の正当性を高めていくことも大切と思っております。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の学際的環境研究のMark Diesendorf準教授が、再生可能エネルギーを絶えず貶めることに専念している原発推進主義者らから発せられる「まことしやかな」物語や言説を信じてはならない、と主張している。そして準教授は、クリーンであり、安全な再生可能エネルギー技術が世界の電力需要の100%を供給できる潜在能力を持っていると述べる。 合わせて指摘していることは、入念に仕組まれ、そして市民を間違った方向に誘導することを狙った神話やある意図を持って語られる物語に、反駁することが第一に越えるべきハードルと指摘している。 彼らが語る神話や物語というものは、政治的な強者が、命脈が尽きかけている原子力産業を究極的に応援するよう仕組まれたものなのである。 多くの国において主要な炭素低排出型電力供給源として原発エネルギーと再生エネルギーの両者が、ライバル関係にあるとされている。 ここで再生可能エネルギー技術が、発電量ならびに投資額の点で著しい拡大を見せており、そして発電コストが大きく低減してきている。しかしこの推移の進行につれて、原発を推進する人々や気候科学を否定的に見る人々らが、再生可能エネルギーに対する否定論者になってきているのである。 再生可能エネルギー否定論者らの戦略と戦術は、気候科学を否定する人々の用いるそれらと非常に良く似ている。 産業界向けの電力源として、再生可能エネルギーは能力の面、そして確実性の観点から劣っており、問題であるという風潮を作りだすことを狙っている再生可能エネルギー否定論者らは、政策決定権者らやメディアに対して再生可能エネルギーに対するマイナスの神話を、そして原発エネルギーに対してはプラスの神話を植え付けようと奔走している。 彼らの狙いは、これら二つの神話の間の争いが通俗的・世俗的なものであり、重大な問題ではない、との認識を市民に持ち込もうとしていると言える。 異常気象に対処するため、原発エネルギーと再生可能エネルギーの両方に充分な投資を行えるに足る経済的資源を持っている国は、ほとんどないのである。このことは、2016年の英国の対応を見れば了解されるだろう。即ち2016年英国は原発エネルギーに対しては長期に亘る補助金政策を提供し、一方で再生可能エネルギーに対しては既存の短期的補助金の厳しいカット政策を持ち込んだのである。 この記事は、原発や石炭火力などのベースロード発電所が必要だとする神話や物語に反駁する記事の続編であり、原発エネルギーと再生可能エネルギーに関連するその他の神話・物語の幾つかを批判的に検証することを目的にしている。これらの神話・物語に疑念を持つ人々へ役立つ情報を提供することを狙っている。ここで検証する神話・物語は、メディアや論説文やブログ・オンライン上のコメントで見受けられる原発推進者や再生可能エネルギー否定論者らが発しているコメントから引用している。 神話・物語1:ベースロード発電所は、ベースロード需要を供給するために必要だ。 変形例:ベースロード発電所は、不規則で安定していない再生可能エネルギーをバックアップするために、常時運転しておく必要がある。 変形例:再生可能エネルギーは、大規模な電力供給の為の主要な電力源と見なすには、あまりに不規則であり不安定性である。 これらは、既にDiesendorf氏の以前の記事(RENEW ECONOMY,2016,March 18)で反駁 済みである。【この紹介は別の機会に行う予定です】 神話・物語2:原発エネルギーには、復興(ルネッサンス)がおきている 世界の原発の発電量は2006年にピークを打っている。世界の総発電量に占める原発の寄与は1993年の17.5%をピークとして以降は下降しており、2014年時点では11%を下回っている。現在の原発に対する年間投資額は、風力への投資額および太陽光への投資額のいずれに対しても下回っている。直近の10年間、新規原発の数は、既存原発の閉鎖の数とほぼ一致している。欧州の幾つかの国では原発が消滅の方向に移行しつつある。そして反対に原発リアクター建設を推進している国があり、それらは中国・ロシア・インドそして韓国である(世界原子力産業レポート2015からの引用)。 神話・物語3:再生可能エネルギーは、直ちに化石燃料の代替えとはなり得ず、低炭素型のエネルギーを充分供給するには、主張されている 移行期に発生するだろうギャップを埋めるために、原発エネルギーが必要となるだろう。 既存の原発の大半は第二世代に分類され時代遅れになっていると見られている。現在の新しい世代の原発は、第3世代および第3+世代に分類される。これまで、4基の第3世代原発が日本で稼働しているが、それらの稼働実績は貧弱なものである。第3+世代の原発は欧州で2基、アメリカで4基そして中国で数基が建設中である。従ってその稼働はまだである。そして第3+世代の建設スケジュールは遅れており、必要予算も超過傾向になっているという。例えば欧州の建設費は予定の3倍に既に膨らんでいる。 高速増殖炉・統合型高速炉・小型モジュール炉などの第4世代原子炉は一つも市場に出回っていない状況にある(World Nuclear Industry Status Report 2015より)。 従って、新式原発はまだ準備できていないのが、現在の状況である。 一方、風力と太陽光はどちらも急速に成長しており、そしてコストの低減化が今も続いている。大規模な風力や太陽光の発電計画があり、2−3年で建設が終わる予定となっている(原発には10〜15年の建設時間が要する)。従って風力と太陽光による発電で、今すぐにでも化石燃料や原発を置き換えることが可能なのである。 神話・物語4:民生向け核エネルギー利用と核兵器の拡大・拡散は別物だ。 変形例:核兵器の爆発物は、通常の原子炉で作られるプルトニウムからは作れない。またトリウム核燃料サイクルやIFR(統合型高速炉)で作られるものからも、核兵器の爆発物は作れない。 6カ国(フランス・インド・北朝鮮・パキスタン・南アと英国)は、核兵器開発を支援するために民生用原子力エネルギーを秘密裏に利用してきた。加えて、少なくとも7カ国(アルゼンチン・オーストラリア・ブラジル・イラン・リビア・韓国と台湾)は同じく民生用原子力エネルギーを利用して核兵器の開発を秘密裏に開始していたが、その後計画を中止している(Diesendorf2014の参考文献より)。このように、核エネルギーは核拡散を促進し、それにより核戦争の危険性を高めるのである。そして例え核戦争の可能性は低いとしても(この点に関しては議論の余地がある)、潜在的な打撃の大きさは計り知れないものである。従って民生用原子力エネルギーが持っている、核兵器の拡散リスクは軽視出来るものではないのである。 トリウム原子炉はインドで開発中。トリウムには核分裂性が無いため、まず中性子を照射してウラン233に変換する必要がある。ウラン233は熱を発生させたり、電気を作りだしたり、各爆発物としても利用できる。ウラン233を使用した核兵器はアメリカ(ティーポットMETテスト)、ソビエトとインドでテストされている。 【参考情報:トリウムとは、原子番号90の元素で地殻中に豊富に存在。トリウム232が中性子を吸収するとトリウム233となり、β崩壊によりプロトアクチニウム233を経由して最終的に核燃料のウラン233が生まれる】 一部の核推進者らは、仮定を前提とした上で、IFRというものは核拡散に対して防止効果があると誤った主張を行っている。IFRはこれまで1基の試作機がアメリカで運用されたのみである。だが、このプロジェクトは資金面・必要性についての疑問・潜在的な核拡散能力についての懸念などの理由から1994年に議会で中止に追い込まれた(Kerry 1994)。 IFRには少なくとも2つの核兵器の拡散を拡大する経路があるとされる。 一つの経路は、核放射性の高い核分裂生性物の大半を、焼成手段を用いて放射性の低い超ウラン性物質から分離することが出来れば、通常の化学処理を用いて、分取した放射性の低い超ウラン性物質からプルトニウム−239を抽出することは容易に出来ることになり、それを使って核兵器が作れるのである。 もう一つの核拡散に結び付く経路はウラン238から兵器級のプルトニウムを製造できるようにIFRを改造するやり方である(Wymer et al. 1992参照)。 【IFTとは:統合型高速炉(Integrated Fast Reactor)。設計コンセプトとして、燃料のリサイクルを取り込み、発電プラントと燃料の再処理施設を同一サイトで実現することを狙った原子炉のことを指す】 神話・物語5:チェルノブイリの死者数は28〜64人だった。 これらの不条理に低い推定値は、急性放射線症候群による短期間の死亡のみを考慮し、死亡率の主要要因である数十年に亘るガンを無視することで生じる。推定死亡者数については幾つか出されており、IAEAの国際機関の一つのチェルノブイリフォーラムの推計(2006)が最少であり、4000人未満としている。IAEAは核拡散に反対の立場と原発事故の未然防止安全対策を推進するという立場とともに、一方では核エネルギー利用の推進の立場をとるという、相反する考え方を持っている組織である。 かかる利害関係を持たない立場の推計値として、国際がん研究機関が発表の16,000人からウクライナ・ソビエト等からの国際的医学研究者団体が発表の93,000人まで存在している。 神話・物語6:高レベル核廃棄物の永久貯蔵の問題は解決している。 すべての高レベル核廃棄物は現在、プールまたは乾式キャスクに一時保管されている。世界には永久的保管を行う場所は一つもない。アメリカのユッカ山で提案されている保管場所の開発は135億米ドルを支出した段階で中止されている。スウェーデンとフィンランドで地下保管庫の建設が進められている。例え、技術的及び経済的な課題が解決できたとしても、保管を10万年間管理し、隔離を続けることへの社会的な問題が未解決で残るのである。 神話・物語7:IFRが世界の核廃棄物を燃やし、消失することになるだろう。 IFRは設計としてのみ存在している。もしも開発されたとしたら、また別の核拡散の経路の誕生となるだろう。せいぜいが、大半の超ウラン物質を核分裂生成物へと変換する程度であり、高放射性核分裂生成物を保管するのに地下の長期保管庫が依然として必要となる。 IFRやその他の「新しい」原子炉設計の問題の詳細は、最近エコロジスト誌に再掲載されたAmory Lovins氏の2009年の古典的エッセイ「“New" nuclear reactor? Same old story」を参照のこと。 神話・物語8:原子力エネルギーは、温室効果ガスを全く排出しないか、またはごくわずかしか排出しない。 原子力エネルギーもほとんどの再生可能エネルギー技術も運転中のCO2排出はない。ただし、意味ある比較を行うには、原材料の採掘から廃棄物の管理までに至るライフサイクル全体を比較する必要がある。核物理学者で核エネルギー利用支持者のManfred Lenzen氏は、高品位のウラン鉱石の採掘を前提として、原子力エネルギーのライフサイクル平均排出量がkWhあたり60gのCO2となり、風力発電の場合は10〜20gのCO2、天然ガス発電では500〜600gとなると算出している。 ここにおいて、大半の核エネルギー推進派が無視をし、誤って伝えようとする部分が登場する。即ち、高品位のウラン鉱石の埋蔵量は、世界にあと数十年分しか残っていないことである。ウラン鉱石の品質が低下すると、ディ−ゼル燃料を用いるウランの採掘と粉末化工程に使用する燃料が増大し、その結果GHG排出量も増加することになる。Lenzen氏は低品位ウラン鉱石を使用すると、ライフサイクルGHG排出量が131g/kWhになると計算している。そして131g以上の、もっと大きい排出量を算出している人もいるのである。 このような大きなkWh当たりの排出量は気候科学の観点から容認できないものである。 低品位ウラン鉱石の採掘を再生可能エネルギーで行うとか、バーナー型原子炉の代わりに高速増殖炉を使用するという条件の場合に限って、核エネルギー利用によるGHG排出量を許容できる範囲に抑えることが出来るが、これら両方の条件とも少なくとも今後数十年以内にクリア出来ることは無さそうなのである。 このトピックの詳細はKeith Barnham氏の「False solution:nuclear power is not low carbon」を参照のこと。 神話・物語9:原子力エネルギーは、送電網において再生可能エネルギーの適切なパートナーである。 原子力推進者らは必要に迫られて、上手い話を作るもので、「新しい」原子力と再生可能エネルギーの両方を同じ送電網に送り込むことが出来ると主張している。しかしながら、変動型再生可能エネルギーが電力供給システムに対して大きな貢献をする上で原子力エネルギーが望ましいパートナーではないということが、次の4つの理由から明らかである。 (1)バイオ燃料の使用が出来る開放型ガスタービンによる発電やダムを備えた水力発電や蓄熱装置を備えた集中型太陽熱(CST)と比べて、原子炉の稼働は柔軟性に欠けるといえる。風力発電と太陽光発電は、柔軟性があり配電可能でありバランスのとれた形で大量のエネルギーを供給可能である。 (2)原子力発電所が故障すると通常数週間から数カ月が停止状態になる。それに対して、風が凪いだことによる風力発電の停止は普通数時間から数日であり、従って風力発電はベースロード発電施設から高額なバックアップを必要としないのであり、充分に、柔軟性のある配電可能な再生可能エネルギーだと言える (3)風力発電と太陽光発電の運転は、原子力発電や化石燃料発電に比べて安価である。それ故に風力と太陽光発電とは電力業界に経済的メリットを与えることになり、ベースロード運転から原子力電力を切り離すことになり、ベースロード運転システムの巨額なコストの返済の役に立つことになる。 (4)再生可能エネルギーと原子力エネルギーとは、政府の乏しい財政と補助金政策状況のなかで競合関係にあり、例えば英国政府はHinkley C に対し約束している巨大補助金を行っているが、一方では風力発電や太陽光発電に対しては補助金撤廃をしている。 神話・物語10:原子力発電炉は、通常は需要や負荷の変化に追随して柔軟に運転ができるものである。 技術的および経済的な2つの面からの制約が総発電量の77%を原子力発電から賄っているフランスで実証されている。現行世代の原子炉は負荷追随型には設計されてはいない。従って、フランスでは運転サイクルの開始当初の時点、即ち燃料は新しくそして予備の反応性が高いという条件下でのある時間においてのみ、負荷追随型モードでいくつかの原子炉を稼働が出来るとしている。しかし運転サイクルの後半に負荷追随型モードを継続することはできない。この点は、世界核機関によって承認されている。 負荷追随はベースロード発電所にとって次の2つの経済的不利益をもたらす。 ・効率の低下により、維持費のコストがかなり増大することになる。 ・電力需要閑散期の期間の収入が減少する。しかし、高額な資本コストを返済するには、出来る限り定格出力で、原子炉を運転することが求められるのである。 フランスでは余剰の原子力エネルギーを、送電線を通じて近隣諸国に売却することで2番目の経済的ぺナルティーを軽減している。一方オーストラリアの一部では余剰のベースロード石炭エネルギーを水の加熱用に用いている。 脚本・物語11:再生可能エネルギーは原子力エネルギーよりも費用が掛かるものだ。 変形例:原子力エネルギーが受け取る補助金は、再生可能エネルギーが受け取る額よりも少ない。 両方の神話とも間違っている。 エネルギーの平均コスト(Levelised costs of energy:LCOE)は、その場所に設置されたユ ニットの数、設置場所、投下資本コスト、金利および設備利用率(実際の平均出力を定格 出力で割ったもの)に依存して異なる。原子力発電所のLCOE推定額はIPCCの2014以 前のデータによると$108/MWh、多国籍金融コンサルタントLazardの2015以前のデータ によると$97-132/MWhである。 IPCCの推定コストには補助金が含まれておらず、一方Lazardの推定値には借入保証と廃 炉(decommissioning)を除いて連邦政府の補助金が含まれている。 これらアメリカの推定額のいずれもが、建設中の欧州の2基の加圧水型原子炉(European Pressured Water Reactors, EPR)のコストの大幅な高騰を考慮していない(MYTH3で言及)。 英国向けに提案されているEPRであるHinkley Cは、電力の卸売価格の2倍以上である £92.5/MWh (US/MWh) ( 2012 年為替換算)から始まる35年間のインフレ連動保証電 力価格が、当初£100億(153億ドル)の借入保証付きで提案されている。 事故や不充分な保険に対する上限付き債務が英国の納税者らに、降りかってくることが予 想される。 2015年にLazardはアメリカ全土の陸上風力発電の補助金なしのコストを32〜77米ドル /MWhと見積もっている。アメリカエネルギー省による独立した実証研究によると、2014 年の風力発電の平均電力購入契約価格は、風速が最も大きいアメリカ内陸部では22米ドル /MWh、風速が最も小さい西部地域では60米ドル/MWhとしている。アメリカ政府は風力 発電に対して、10年間23米ドル/MWhの生産税額控除の補助を行っているため、実際の コストを求めるには、この23ドルをアメリカエネルギー省の実証研究で得られている数値 に加える必要がある。 ブラジルでは、2014年の逆オークション(通常の売り手が最高値の買い手を選ぶ方式でな く、買い手が最安の売り手を選ぶ方式)において、補助金なしの平均清算価格129.3レア ル/MWh(41米ドル/MWh)で契約が落札されている。 Lazardの見積もりでは、アメリカの日射量の多い地域における大規模太陽光発電のコスト は、補助金無しの条件で50-70米ドル/MWhである。アメリカ・ニューメキシコ州におい て、57.9米ドル/MWhの電力購入契約がMacho Springsの50MW太陽光発電所からの電 力に対して締結された。連邦政府と州政府からの補助金を勘案すると、実際のコストは場 所の違いにより、80-90米ドル/MWhとなる。 チリ・ブラジル・ウルグアイでは、補助金なしの逆オークションにおけるコストは同じ範 囲にある(Diesendorf 2016)。 「メーターの裏側Behind the meter、BTM」にあると考える家庭や工場等の屋根設置型太陽 光発電装置の発電コストは、固定価格買い取り制度がない条件下であっても、日射量が中 程度〜高程度である世界の多くの地域において、地域の電力会社が提供する電力価格と競 争力がある。 蓄熱を備えたCSTに対しては、Lazardは119〜181米ドル/MWhと見積もっている。 原子力と再生可能エネルギーの補助金を比較することは困難である。補助金の量と種類は 国ごとに大きく異なり、原子力補助金には以下の一部またはすべてが含まれる場合がある (Disendorf, 2014)。 ・研究開発、ウラン濃縮、廃炉そして廃棄物の管理に対しての政府の資金提供; ・ローン保証; ・納税者および電気料金支払者により支払われた座礁資産; ・被害者と納税者によりカバーされる必要のある事故が起こった際の有限責任; ・相違点に対する寛大な契約内容。 原子力発電所への補助金は過去50年間に亘り、一定を維持するか、あるいは増大傾向で推移している。一方、再生可能エネルギーへの補助金は、特に固定価格買い取り制度への補助金は過去10年間に大幅に減少(場所によってはゼロに)している。 【参考情報:BTMとは、電力会社が持つ電力メーターまでのインフラでなく、電力購入利 用者が持つ電力メーターの裏側の電力利用者の持っているインフラを指す】 神話・物語12:再生可能エネルギーは非常な広がりを必要とするもので、従って巨大な面積の土地を要求するものである。 水力発電用ダムやバイオ燃料向け作物の栽培用地は大きな面積を要する可能性があるが、 しかしながら再生可能エネルギーのシナリオの中には、これらの資源から追加的に大きな 貢献分を要求するものはほとんどない。 地上に設置の太陽光発電ファームは大きな土地を占有する可能性があるが、それはしばし ば耕作限界地を占有する形式なのである。 ドイツとオーストラリアで広く見られる屋根に取り付ける太陽光発電装置や農作物からの 残渣をバイオ燃料とする方式では追加の土地は必要としない。 陸上風力発電ファームは通常良く農耕地に設置され、風力発電装置と農耕との相容性・親 和性が高いのである。占有される土地面積は通常1-2%であるが、再生可能エネルギー否定 論者らは、往々にしてこの点を無視してより広範な土地を占有しているとする間違った土 地面積を引用するのである。 オーストラリアのエネルギー市場向けにその必要量の100%を再生可能エネルギーで 賄う場合の経済的に最適な再生可能エネルギーの組み合わせを計算すると、km2/TWh/年で 表示する場合、100%の再生可能エネルギースキームで必要とされる土地面積は、仮定上半 径20kmの緩衝地帯を設定する必要のある原子力発電施設に要する土地面積の約半分で済 む、としている。 この原発施設に対して、仮定上半径20kmの緩衝地帯を設ける必要があるとする条件 は、福島第一原発事故が原因で、遅ればせながら導入されたものである。 神話・物語13:再生可能エネルギー技術のエネルギー回収期間(金額ではなくエネルギー単位ベース)は、その設備のライフタイムに匹敵する期間である。 現在のエネルギー回収期間の典型的な年数は:太陽光発電モジュールは0.5〜1.8年、大型 風力タービンは0.25〜0.75年、CRT(パラボラボウル)は2年、核(高品質ウラン鉱石)6.5 年、核(低品質ウラン鉱石)14年である。これら数値の範囲は、エネルギー回収期間、およ び投資したエネルギーに対するエネルギー収益率に関連する考え方が、技術の種類や場所 によって異なるという事実を反映していることになる。 再生可能エネルギーを批判する人達は、それぞれの再生可能技術が化石燃料を利用する発 電施設から継続的にバックアップ支援を受ける必要があるとの間違った仮定を導入するこ とで、より大きいエネルギー回収期間が提示されるようなことを、しばしば行うのである。 神話・物語14:デンマークの電気料金は風力発電エネルギーからの寄与が大きいことから、欧州で最も電気料金が高い国のなかの1つである。 デンマークの電力料金は、欧州の中で最も高い部類に属する。理由は電気代に対する税が 非常に高いことによる。この税は連結収入に組み込まれるが、風力エネルギーに対しては 補助金が投入されないのである。税を除いて電気料金を比較すると、デンマークは欧州の 中で平均程度に位置している。デンマークの風力エネルギーは、小売電力価格の極わずか な値上げ分を原資とする固定価格買い取り制度によって補助されているが、多額な風力エ ネルギーの寄与による卸売・大量販売価格の下落により相殺されている。 神話・物語15:80〜100%再生可能電力使用を想定した送電網の運用に関するコンピューターシミュレーションモデルは、実際のシステムを無意味に過大に単純化している。 シミュレーションモデルは確かに現実の簡略化されたバージョンだが、様々なシナリオを 調査するための強力な低コストの武器となるものである。大半のモデル作成者らは、対象 とする変数の間の幾つかの基本的な相関関係を理解することを目的として、単純なモデル から検討を始めるのである。次いで、理解が深まるにつれて段々とモデル作成者らはより 現実的なモデルを作り上げていくのである。 例えば、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大のグループは、当初100%再生可能エ ネルギーによるオーストラリア全国電力市場の運営を1年間にわたる時間単位の段階でシ ミュレ―ションした。風力発電所は既存の場所でスケールを拡張するだけの処理を行った。 次に検討したモデルでは経済データを含めることをおこない、再生可能エネルギー技術の 経済的に見た最適な組み合わせを算出している。ついで低炭素型化石燃料シナリオとのコ ストの比較を行っている。 最近、シミュレーションは6年間の時間ごとのデータに拡張され、再生可能エネルギーの 供給地域は43のサブ地域に分割がほどこされ、そして非同調供給性について一定の制約を 課すことを行っている。この様なモデルの精密化を行ったうえでも、100%再生可能エネル ギーシステムは信頼性があり、そして経済的有利性があることが認められている。 一方、スタンフォード大の研究者らは、輸送と熱を含むアメリカでのすべてのエネルギー 使用が再生可能電力で賄える可能性があることを示している。彼らのコンピューターシミ ュレーションでは、6年間にわたる30秒ごとの取得された電力需要、風力、太陽光に関す る合成データが利用されている。合成データを利用することにより、モデルを使って研究 を進める研究者らは、天候の大きな仮定上の変動をも含めていくことが出来るようになる。 この様な感度分析手法はモデルの効力と信頼性を高めることになる。 奇妙なことに、電力システムのシミュレーションモデル化作業を最も声高に批判する人々 の中には、専門分野として物理やコンピューター科学や工学や応用数学の資格を持っては いない人々がいる。例えばオーストラリアでは、2人の生物学者、1人の社会福祉学者、1 人の作業療法士が含まれている。 (結論) コンピューターシミュレーションモデルの進展および増大する実践的経験によって、多く の地域で、恐らくは世界中の地域で電力の供給が100%再生可能エネルギーから調達さ れる状況へと、移行していく可能性があることが示されている。再生可能エネルギー技術 の大半は市場で入手可能であり、価格は手ごろであり、そして環境に優しいのである。 かかる移行を遅らせるような理由は、現在の再生可能エネルギーの技術及び経済性には存 在していないのである。 原発推進派や他の既得権益受益者や支持者らが拡散している原発推進や再生可能エネルギ ー反対の神話と称する作り話は検証に値しないものである。政治的意思を持って進めて行 けば、第3世代や第4世代の原発が意味ある電力供給をおこなう時期より、はるかに早く 再生可能エネルギーのスケールアップにより、世界の電力需要が100%再生可能エネルギー から調達できるという時代がくることになるだろう。
0046
東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。
yo-chan
04/25 09:37
東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。 この対比、どちらに与したいですか? 2027年入居を目指す、中央区豊海のタワーマンション2棟のプロジェクトを進める三井不動産−清水建設が、コンクリの強度不足という瑕疵が見つかり、スケジュールに齟齬を来したという話題が東京新聞のウェブ(4月5日付け)に紹介されている。地上53階建て、全2046戸を予定し、昨年1月着工、現在1,2階を建設中で問題が確認されたという状況。 東京駅を中心に中央区では、三井不動産を始めとするデベロッパーが行政と一体に、現在槌音高く、そして巨大クレーンを林立させ、再開発と称して巨大事業に猛進中であることは、以前紹介している。ついこの前、地域内の工事現場で重大事故があり、複数名の作業員が事故死するという痛ましい事態も起こっている。 世界人口(80億人)の55%が現在、都市部で暮らし、そして世界の潮流として、人々は更に都会に吸引され、2050年には都市部住人の割合は68%に達すると予測(国連情報)され、都市生活者の数は今後新規に25億人が加わると言われている。 これに合わせて莫大な数の新規住宅が都市部に用意される必要性があり、それぞれの国がこの問題にどのように対処していくのか、が問われているのが現状であり、この先5-10年の喫契の課題となっている。但し単に都市部に住居を用意さえすれば良いという話ではなく、環境との調和・脱炭素化・グリーン社会化の方向性を考慮に入れた持続可能な形で各国はこれに対処していくことが求められている。 この喫契の課題に対する日本の対応を見るにつけ、そして東京駅周辺の喧騒的な再開発ラッシュを見るにつけ、どこか違和感を覚えるところがあり、その上今回の豊海のタワーマンションの話を聞くと、我々社会が何か大切なものを何処かに置き去りにしてきてしまい、見失ってしまっているのではないか、と感じている。 世界のいろいろな潮流を調べることの面白さに惹かれて、木造の高層建築物についても調べているが、その過程で興味あるスウェーデンの話に突き当ったので、今回は豊海のタワーマンションの話との比較をしながら、スウェーデンの話題を紹介します。 ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトの話題になります。 現在計画が進行中のストックホルム木造都市計画は、スウェーデンの大手不動産会社Atrium Ljungbergが、2023年6月に発表しており、ストックホルム南部の25ヘクタールを超す敷地に、2千戸の住宅と7000か所のオフィススペース、レストランや店舗の建設を予定しており、そのすべてが木造で、2025年の着工予定で、最初の建物の完成は2027年を見込んでいるという。 樹木を多く植えるなど、森の中にいる雰囲気を感じるように設計されているという。 スウェーデンでは、コンクリや鋼鉄から脱却した形で、環境との調和を、脱炭素社会とグリーン社会の構築を、そして持続可能な未来社会の追求を、木造建築物にこだわる形で追求していこうとの意識と意欲があることが見て取れる計画に思える。 一方、良く言えば、日本ではコンクリ・鋼鉄・アルミ等の従来の建築手法にこだわりを持ち続ける中で、環境と調和し、脱炭素化やグリーン社会化の方向は見失うことなく、持続可能な未来社会を追求しようとする姿が浮かび上がってくる。 ここで見られる明らかな立脚点の違いが、何処から出てくるのかは、興味ある問題だと思います。 ここでは、簡単に森林と林業に対する両国の違いを見ることで、この違いの一つの面をあぶり出してみたい、と思います。 以下に、スウェーデンと日本の対比をならべてみます。 1. 人口:日本は1.251億人(2022)、スウェーデンは1049万人 2. 森林面積等:日本の森林面積は約2500万ha(国土面積3780万haの約66%) スウェーデンの森林面積は約2800万ha(国土面積4080万haの約68%) 人口には大差があるが、国土と森林の面積、森林率は似ており、しかもこの森林率がここ数十年ほぼ一定している点でも良く似ている両国です。 3. GDP/1人:日本は33823米ドル(2022)、スウェーデンは55689米ドル(2022、IMF) 4. 森林の状況と森林資源の利用状況 (スウェーデン) ・スウェーデンでは、ほぼ全ての森林は管理されているとされる。農業や造林の影響を受けていない原生林があるのは最北の山岳地帯だけで、これらは天然林と呼ばれる。 従って大半の森林は農業や造林や管理という形で人の手が入っている状況といえる。 ・年間の森林蓄積量の成長増量分は約1.2億m3で、伐採実績収穫分は9000万m3程。 従ってスウェーデンの森林は毎年増大し続けており、現在は30億m3を超えている。 ・2250万ha(80%程)の森林が生産的に利用・活用されている。 ・スウェーデンの年間樹木伐採率は2.4%程。 ・パルプ・紙・製材品に関して世界第2位の輸出国。 ・木材自給率:139%(柏田木材のホームページ情報より) ・林業に6万人以上が直接雇用。林産業全般の雇用従業員数は20万人程になる。 直接雇用6万人の対人口割合は0.6%、関連業種全般の20万人の対人口割合は2%。 (日本) 「森林・林業学習館」の情報より引用 ・人工林はこの40年間(1966〜2007)で約30%増加し、1000万haに達する。戦後の拡大造林の動きで、広葉樹の天然林の多くが針葉樹林に置き換わり、結果的に天然林等の約15%の低下が引き起こされた。 ・増え続ける森林蓄積(樹木の幹の体積のことを指す)。 日本の特徴は、森林蓄積が増え続けていること(1966〜2017年の50年に2.8倍化、18.87億m3が55.6億m3に)、ことに人工林の蓄積の増加(同50年間に約6倍化、5.58億m3が35.45億m3に)が際立っている。森林面積が変わらない中での、森林蓄積のこの増大は、森林の樹木間の密集度合いの増大を意味しており、人工林は手入れされずに放置され、幹が太るのを単に眺めているのが日本の特色と言える。 スウェーデンの森林が、ほぼ同じ環境にありながら蓄積量が30億m3程で収まっているのに対して、日本では人工林(1000万haと約3分の1の面積でありながら、35.45億m3とスウェーデン以上の蓄積量になっている)だけで、スウェーデンの蓄積量を凌駕していることの暗示する意味合いは非常に重いものがある。 ・日本の樹木伐採率:0.53%。 ・木材自給率:40.7%(2022、柏田木材のホームページ情報より) ・ 林業従事者の激減が起こっており、現在の従事者数4.5万人は対人口比0.036%であ り、スウェーデンの20分の1程度という極めて「末期的」な状況である。 林業従事者数の推移データ 51.9万人(1955)、20.6万人(1970)、10万人(1990)4.5万人(2015) 「末期的」と言った理由を述べてみたい。妥当な林業従事者割合がどの程度かは、厄介で決めにくいものとは思うが、ILOが2022年11月24日に発表の森林部門の世界の雇用者数が3300万人と推計していることが、利用できるのではと考えている。この考えを基に妥当な林業従事者割合をわりだすと、3300万/80億の0.41%となる。スウェーデンが現在0.6%であり、この考え方から出される数字がある程度は当たっていると思う。この数値からすると日本の望ましい林業専業雇用従事者は50万人程となり、現状の4.5万人(0.036%)は極めて「末期的」なもので、日本が森林や林業を疎かにしている例証の一つと言うことの妥当性を裏付けるものと考える。 少なくとも、世界基準の林業専業雇用従事者を確保することが、責任ある社会の姿だと感じる所です。我が国も1955年当時はそのような普通の社会だった訳ですから。 以上、両国の森林と林業の状況比較を紹介したが、両国の間にはかなりの違いがある。 即ち、スウェーデンは持続可能な森林運営と林業経営が社会にとって重要だ、と捉えていることが明らかであり、そしてその実績を積み重ねている国だと言える。このことは木材関係の輸出が世界第2位、木材自給率が139%、森林蓄積率が毎年増大を続け、そして80%もの森林に人の手が入っている状況をみれば明らかであろう。 一方、日本は人工林の手入れが為されずに単に放置され、森では無意味に樹木の間が狭まり混雑さが高まっている。そして社会はそれを放任している、これが日本の現実である。 スウェーデンでは、ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトが進み、日本では東京駅を中心に再開発が推進中であり、重大事故が起ころうが、瑕疵が見つかり進行に遅れが生じようが、行政とデベロッパーが一旦敷いたレール上の進行はそれほどの支障なく続いていくのである(東京―大阪間のリニアにも相通じる症状だろう)。 そして森林の放置も続くのである。でも、この状況は如何にもおかしい。 こういう見方をしてみたらどうだろうか? それぞれの国や市民や社会は、森林という資源を世界から委ねられた形でそれぞれに持っており、その運営を世界から一任された存在だと考えるのである。 ある国は委ねられた貴重な森林資源を持続可能な形で有効に活用して、委ねられた権利に相応の義務を果たしている。その結果、世界の脱炭素化へ向かう方向に協力している。 一方委ねられた森林資源の活用をおろそかにする国や社会も残念ながら存在しており、そんな国や社会では森林資源が持っている炭素吸収・固定化力やそのほかの数多くの潜在能力が充分に発揮されることがない。 あまりにも、もったいないことであり、資源を委ねられているという権利に相応の義務を果たしていない国であり、社会であり、市民であると捉える必要があると感じている。 豊海のタワマンの話とストックホルムの話、私は後者の木造都市作りのプランの話の方が好きであり、スウェーデンの話の方に与したいと思う。 ある意味、我が国を象徴するとも言える現在の東京駅周辺の再開発や中央区豊海の今回の瑕疵発見の話には、森林と言う世界から委ねられている資源の大切さを忘れ、置き去りにしたまま、突進している我々社会の歪な偏った行動の結果ではないか、と感じている。 今の日本の都市(再)開発の仕方や森林を放擲している実態に違和感を持つ人が増え、政治に原因があるのではと思う人が増え変化が必要だ、に繋がっていけば良いと思っている。
0047
5.3市民意見広告「殺すな!殺させるな!」
笹井明子
05/03 10:52
憲法記念日の今日、東京新聞朝刊、毎日新聞(全国版)朝刊、八重山毎日新聞朝刊、読売新聞(全国版)朝刊、琉球新報朝刊の5紙に、恒例の「5月3日、市民意見広告」が掲載されました。 今年のメインタイトルは「殺すな!殺させるな!」、サブタイトルはずばり「命」です。 今年の主張は「再び戦争できる国にさせない」「武力で平和はつくれない」「憲法9女王を護り、非戦の未来を!」の章分けで語られています。 「市民意見広告とは(歴史・あらまし)」、今回の意見広告の詳細は以下をご覧ください。 https://www.ikenkoukoku.jp/about/ https://www.ikenkoukoku.jp/archives/851/ 「老人党・護憲+」も長年にわたり参加しており、今年も賛同者に名を連ねました。画像の文字「命」の7画・8画が交わる辺りに名前があるのですが、分かりますか?
0048
原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである
yo-chan
05/06 10:34
原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである Energypost.eu 2016年3月23日 Mark Diesendorf氏記す 今回の情報は、4月21日投稿の「原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・デ ィーゼンドルフ氏が反駁する」において、原発擁護者らが良く使う次の神話・物語1およ び2つの変形例については、著者のDiesendorf氏が既に説明済みとして前回の情報では触 れなかった氏の反駁に相当するものになります。 【神話・物語1:ベースロード発電所は、ベースロード需要を供給するために必要だ。】 【変形例:ベースロード発電所は、不規則で安定していない再生可能エネルギーをバックアップするために、常時運転しておく必要がある。】 【変形例:再生可能エネルギーは、大規模な電力供給の為の主要な電力源と見なすには、 あまりに不規則であり不安定性である。】 原発を正当化する主張として「原発は、水力と並んで大きな規模で信頼できるベースロード電源となる性能を持っている。しかも炭素排出量が小さい技術である。よって原発は必要なのである」ということを聞いたことがあるでしょう。 この主張に沿った神話や説明が、例えば、英国で提案された原発のHinkley Cの建設決定を正当化する際に英国のエネルギー担当Amber Ruddさんが利用しており、彼は「ベースロード電源確保は保証される必要がある」と主張している。 同様に、先のオーストラリア産業相のIan Macfarlaneさんは最近のウラニューム関連の会合において「誇ることが出来る唯一の排出炭素ガスゼロのベースロード電源のシステムは、水力と原子力である」との主張にも利用されている。 これらの主張が正当であるとするには、鍵となる3つの前提の妥当性の検証ならびに証明が必要となるのである。 一つ目の前提は、「確かにベースロード電源は良いものであり必要なものである」になる。 しかし、ベースロード電源というものは、必要のない時に必要以上の電力を供給し、必要な時には供給力が足りない、というのが実態としての実績なのである。 実際に必要とされ、優秀な電源とは、需要に見合う供給をその時々の状況に合わせて即座に追随できる柔軟性を持つ発電方式なのである。 二つ目の前提は、「原発は信頼できるベースロード電源である」という主張である。 しかし実際には原発はそのようなものではない。即ち、原発はすべて、安全上の理由や技術的欠陥から平常時の状態から逸脱する可能性が存在しているのである。よって、例えば3.2GWの原発には、すぐに呼び出せる3.2GWの高価な「運転予備力(spinning reserve)」を準備しておくことが求められているのである。 【参考情報:運転予備力とは、突然の故障や電力需要の急変に際しても安定した電力供給が出来るよう保有している余力電力のことを指す】 「どんな発電形式(原発・石炭や天然ガス火力)であろうが、ベースロード発電所というものは、需要の有無にかかわらず最高レベルの能力を常に発揮するように設計される必要がある」というのが三つ目の前提であるが、これも間違いである。 これらの前提条件の問題性を更に説明すると以下のようになる。 ソーラー発電から充分な供給を持たない通常の大規模電力網における夏季の電力需要の変動・動揺を想定して見ると、ベースロード発電所は一般に分刻み、時間刻みの需要と供給の変動・動揺に追随して運転するには適していないのである。従って、柔軟性のある、例えばダム機能を持つ水力発電や開放型ガスタービン発電(open cycle gas turbines,OCGTs)をもって補強しておくことが必要とされるのである。 「ベースロード発電所は、送電線網に信頼性の高い電力を供給する」という仮定は、再生可能エネルギ―から大規模な供給を受けている実際の送電線網の実績・経験から、および時間ごとのコンピューターシミュレーションの検証結果から、の両方から判断して、誤りであることが証明されている。 2014年、オーストラリア南部の州では、年間電力消費量の39%を再生可能エネルギ―(33%を風力、6%をソーラー)から取得しており、それにより、その州では石炭火力を用いていたベースロード発電所は不要だと判断され閉鎖している。そして数年にわたり州全体のシステムは再生可能エネルギ―とガスの組み合わせで確実に稼働しており、隣接のビクトリア州からの輸入も少量で済んでいるのである。 北ドイツのMecklenburg-Vorpommern州とSchleswig-Holstein州の両州は、その大半が風力である「実質」再生可能エネルギ―100%の稼働を既に実現している。「実質」というのは、相互間ならびに隣接する地域との間の取引の存在を意味している。 そしてこれら両州では、ベースロード発電所には依存していないのである。 そして「ベースロード発電所は必要ない」ということで一致している多くの研究があるのだが、これらの研究や説明・言説に対し「それはマヤカシだ」と反論する原発擁護者らが存在している。 彼ら原発擁護者らの言い分は「それらの地域は、どこか別の地域のベースロード発電所からの送電線網により輸入・移入される電力に依存している」というものである。 しかし実際にはベースロード発電所から輸入・移入されている量はわずかなのである。 オーストラリアのように完全に隔絶されている国々や、アメリカのようにほぼ隣国から隔絶している国々において、年間電力利用量の80〜100%までの量を再生可能エネルギ―に依存する電力の需給システムに関する時間ごとのコンピューターシミュレーションが行なわれているが、得られている結果は実際的経験・実績と整合的なのである。 アメリカにおいて、科学者らや技術者らの大規模なチームによりコンピューターシミュレーションが行われ、80〜90%の再生可能電力が技術的に適当であり、信頼できると認めている(100%再生可能なケースは検討していない)。2012版レポート(再生可能電力の将来性研究、Vol.1、技術レポートTP-6A20-A52409-1)が、アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory,NREL)から発行されており、そのシミュレーションの結果は、時間ごとの供給と需要とのバランスは取れているとしている。 さらにレポートによると、「現時点で購入可能な技術から得られる再生可能発電は、ある種のより柔軟な電気システムと組み合わせることで、2050年における時間ごとの需要に見合う形で、全米の80%の発電量を充分に適切に供給できる」としている。 入手できる技術と電力需要・風力及びソーラーに関する実測データを組み込んだ100%再生可能エネルギ―を条件としているオーストラリア国家電力マーケットが行った時間ごとのシミュレーションにおいても同様な結果が得られている。 このオーストラリアのモデルには、ベースロード発電所は含めておらず、比較的少規模の貯蔵施設が含まれているだけである。最近のシミュレーションはまだ公表されていないが、1時間ごとのデータは、8年間の期間に及んでいる。 欧州での研究と併せて、これらの研究は、負荷喪失確率または年間エネルギー不足といった全体の需給システムにおける標準的信頼性基準を満たした上で、ベースロード発電所は必要ないということを明らかにしているのである。 さらに、これらの研究からは、ソーラーや風力と言った変動する再生可能エネルギーを年間70%まで、その供給に依存するというオーストラリアでのモデルにおいても、信頼性は維持されるとしている。 では、このことを実現するには、どのようなことが必要なのだろうか? それには、柔軟性ある発電所を使うことで、電力需要の動揺・不安定さをバランスさせることが必要なことだ、としている。 第一に必要なのは、変化しやすい風力やソーラー発電に起こる動揺・不安定さは、需要発生時点で電力を供給できる需給調整可能な、柔軟な再生可能発電源によってバランスを取るということである。これらの柔軟な再生可能発電源としては、ダム機能を持つ水力発電、オープンサイクルガスタービン(OCGTs)や熱貯蔵機能を持つ集中型太陽熱発電(concentrated solar thermal power:CST)がある。ここにおいて、システム内の全ての発電所が需給調整可能型であることは必須の条件ではない。 ちなみに、ガスタービン自体は、都市廃棄物や農業廃棄物の堆肥化などからの「グリーンガス」を燃料として利用したり、あるいは再生可能エネルギーの余剰分を利用することが出来る。これらについては以下に説明する。 第二に必要なのは、異なった統計的性能を有するものと再生可能エネルギー源を組み合わせて利用することで、信頼性を高めることである。このことは、複数の技術に依存するシステム、および地域を拡大して展開させた風力発電とソーラー発電に依存するシステムというものが、全体としての電力の動揺・不安定性を低減させることに繋がるということを示している。 このことにより、既に貢献度合いが小さいガスタービン発電の寄与を数%へと低減させることが出来ることになる。 第三に必要なのは、再生可能エネルギー源を地理的に広く分散させるために、そして送電線網への再生可能エネルギー源の供給多様性を高めるために、新たな送電線網が必要になるということである。 例えば、風の強いドイツ北部の地域とドイツ南部の風が弱く、限定的な太陽光の地域との間の接続例が提案されている。また大きな風力資源を持っているテキサスにとっては、隣接する州との接続を拡大する必要性があるということである。 第四に必要なのは、電力需要ピーク時の電力を削るために、そして電力供給量の低い時期の電力管理を目的として「スマート需要管理」を導入することで、信頼性を更に高めることが必要だということである。 このことは、電力供給者ならびに消費者の両方がコントロールできるスマートメーターとスマートスィッチによって支援をすることであり、そして電力需要が高い時や、または供給量が低い時に消費者が短期間、ある種の回路(例えば、エアコン、温水化、アルミの精錬)を切断するようプログラムを組むことで支援するやり方である。 アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(NREL)がまとめているように、高レベルで再生可能エネルギ―発電を利用する電力システムの需給バランスを取る上で必要とされる、拡大された電力システムの柔軟性というものは、供給側ならびに需要側のオプションの保有リスト(柔軟な従来型発電や送電線網内での電力備蓄や新たな送電線網や、より応答性の高い電気機器や電力システム運用の変更)から得ることができる。 上記の研究をはるかに超える研究が、最近Mark Jacobsonらにより発表されている。 それによると、アメリカにおける輸送と加熱を含む全てのエネルギーが、再生可能エネルギーから供給できるということを示すものであった。コンピューターシミュレーションでは、6年間にわたり30秒ごとに獲得される電力需要・風力・ソーラーに関する合成データが使用されている。 備蓄(蓄電)或いは「風力ガス(windgas)」もまた電力の動揺・不安定性を管理できるのである。 上記の「柔軟な」方式というものは、良好な風力資源に恵まれるものの太陽光資源には恵まれない英国やその他の国にとっては経済的に最適なものではないかもしれない。 風力とソーラーにおける動揺や不安定さを管理していく別のやり方としては、より多く備蓄するやり方、例えば蓄電池または揚水式水力発電や圧縮空気方式がある。 さらに別の方式としては、英国のHinkley C原発プロジェクトに対し、もっとグリーンであり、低コストの代替え案だとして、エネルギーブレーンプール(Energy Brainpool)社が最近推奨している「風力ガス(windgas)」のシナリオがある。 このアイデアは過剰な風力エネルギーを用いて水の電解を行って水素を作り、その水素を用いてメタンを作り、それをコンバイン型サイクルガスタービン発電所(combined cycle gas turbine,CCGT)の燃料として利用するものである。 ここで、実用上は水素をメタンに100%変換する必要はなく、水素を少し残したメタン-水素混合物がより効率的であり有効な燃料になるとされている。 別のオプションに、水素をアンモニアに変換する方式があり、得られるアンモニアは燃料利用だけでなく、肥料産業向けに利用することも出来る。 ブレーンプール社のシナリオでは、このシステムは3.2GWのHinkley C 原発の発電出力を再現でき、より低コストで運用できるとしている。 実際には、以下に見るように、はるかに優れた方式とされる。 ・各風力タービン、CCGT、ガス貯蔵ユニットや「電力をガスに転換」する施設は完成すれば、全体システムの建設完成を待たず、それの施設は直ちにその機能を発揮し始める ・このシステムはベースロード発電所としてではなく、実際には現実の需要に見合う柔軟な発電所として用いられることになり、もっと大きな価値を持つ施設となる ・ソーラー発電が更に安価になっていくと、ソーラー発電はそのシステムとの統合化が進められ、それによって更に弾力性・復元性が向上し、コストが低減することになる ・システム全体が送電線網の安定性を生む出し、原発のように全てが突然停止すると言ったマイナスの「統合コスト」を生みだすようなことは、起こらないことになる 以上、述べたように柔軟性がある再生エネルギ―を基盤とする全ての方式においては、「従来型のベースロード発電所というものは不要になる」のである。 オーストラリアの緑の党の前代議員Christine Milneさんは、「我々は今、過去と未来との間で起こっている争いのただ中にいる」と述べている。再生エネを故意に誹謗中傷するベースロードに関するお伽噺や神話の類に反論していくことが、この争いにとって鍵となる大切な作業なのである。 最後にこの情報を提供しているオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学で学際的環 境研究を行っているMark Diesendorf準教授は次のように述べている。 「再生可能エネルギーには、ベースロード電力を供給できるだけでなく、もっと価値あること、即ち需要に応じて柔軟に電力を供給出来る性能がある。そして続けて再生可能エネルギーの拡大により、原発の役割・使命は実質的に終わる」と主張している。
0049
何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?
yo-chan
05/26 21:24
何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか? (原題:Why does Papua New Guinea experience so many fatal landslides---and what can be done? ABC news Australia アンドリュー・ソールペ氏記す もし社会に、何らかの構造的課題が存在しているのであれば、それに対しては是正に繋がる行動が為されてほしいものだ。その課題が国内のものであろうが、国際間にまたがるものであろうが、同様に行動が為されてほしいものである。 ところが、グローバルノースに対してグローバルサウスが存在していると言われていること自体に、両者の間には厳然たる構造的課題が国際間には存在していることは明白である。 例えば、パーム油のプランテ―ション開墾の為の森林伐採の横行や違法伐採木材すら、が流通し横行している状況の放置であり、結果として森林伐採が進行し、ために気候変動事象が更に悪化していくという悪い回転の構造が今もあり、しかも減るどころか拡大していると言われているのである。 そして課題が生じる大きな原因の一つに、格差の存在とその放置の問題があると考える。 ここで伝える話題の論旨は、例えば、先の能登地震の問題を考える際にも通じる興味ある視点が提供されていると思う。日本の国内にも、更に更にと富み栄えていく都市部と共に、更に更にと疲弊が進み消滅さえ懸念される田園部との格差問題があり、この課題の放置は許されないのであり、是正に繋がる行動が大いに論じられ、そして為されてほしいと思う所である。 かかる視点から、このパプアニューギニアの現在の災害状況を伝える記事は、これらの課題を再確認する機会となり意義あるものと思い紹介する次第です。 この金曜、パプアニューギニア・エンガ州のカオカラムという辺境の村で、100人を超す人命が奪われたと見られる大規模な地滑り・土砂崩れが発生した。 パプアニューギニアでは、ここ数カ月間、地滑り・土砂崩れ被害が続いている。例えば4月にはシンブ州で14人が生き埋めになっており、3月中旬には3件の地滑り・土砂崩れが発生し少なくとも21人が亡くなっている。 人命が奪われる地すべり・土砂崩れ被害の発生は、パプアニューギニアでは今に始まったことではなく、しかも悲しいことに、地すべり・土砂崩れが定期的に発生し、多くの人命がこの地で奪われるものの、それらの報道が海外に流されることは余りないのである。 パプアニューギニアにおいて地すべり・土砂崩れが何故頻繁に発生するのか、しかも多数の人命が奪われ続けるのか、そして世界の国々がこの状況の打開にどう協力できるか、を考えてみたい。 科学雑誌「Eos」で「地滑り・土砂崩れブログ」を運営している、著名な地滑り・土砂崩れ事象専門家である英国のハル大学副学長のデイブ・ぺトレイ氏は、パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れには多くの要因が絡んでおり、その中の主な要因としてパプアニューギニアの山岳地帯特有の気象環境と熱帯特有の天候とが深く影響している、と語る。 激しい風雨や嵐により地盤の浸食が進行していき、洪水や高潮といった全ての事象が危険な岩石落下の発生率を高める働きをする、とぺトレイ氏は指摘する。 それに加えて、パプアニューギニアは太平洋の2つのプレートの境界に沿って活火山が走り、そして地震活動の活発な環太平洋火山帯に位置しており、地滑り・土砂崩れが起こりやすい環境が整っている、としている。 「常時起こる地震自体が地滑り・土砂崩れを誘発することがあり、地震によって岩盤の斜面構造が弱体化されるということも起こる。いわば、これらの地域全体が構造的に非常に活動的な場所となっている」とぺトレイ氏は指摘する。 パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れは、確かに問題ではあるがパプアニューギニアに限ったものではないのであり、例えばアメリカ・日本・イタリア・オーストリアやスイスのような世界の各地の丘陵・山岳地域で、厳しい気象条件が重なれば地滑り・土砂崩れは同様に発生しやすくなるのである。 それでは、人命を奪うような地滑り・土砂崩れが、ことにパプアニューギニアで頻発しているのは何故なのだろうか? 研究者らは、地震やその他の通常起こる自然災害の場合と同じく地滑り・土砂崩れによる死亡者数とその地域の経済状況との間に存在する関係性に長年にわたり着目している。 全ての条件が同じであれば、国が貧しいほど、死亡者数は多くなる、と言われている。 この説明に対する理由は数多くある。インフラ構築物が貧弱な点・緊急時対応が有効に働かない点・医療体制が低水準である点や早期警戒警報システムがない点などが主な理由である。 別の理由として、その地域の人々の居住場所が、地域の開発状況によって決まってしまうという点を指摘する研究者がいる(Joshua West,The Conversation,January22,2018)。 パプアニューギニアは世界で最も田園地帯特有の社会が残っている地域の一つである。 公式発表の人口は、1050万人だが、実際はもっと多いと見られ、国連の調査結果によると1700万人程になるだろうと見られている。この違いの発生は、基礎的統計資料の運用上の不備が原因とされている。 いずれにしても、パプアニューギニアの都市部に居住する人の数は、全体の20%以下で、大半の人々は自給自足型農業に依存して暮らす農耕民であり、彼らは農耕のためある程度の土地を必要としている。そして人口が増大する傾向のなか、丘陵地が主体の地域で暮らさざるを得ない彼らは、必然的に地滑り・土砂崩れの危険性があり、緊急時の支援活動が期待できない地域に居住せざるを得ない状況に置かれているのである。 地形的な条件や気象条件の問題に加えて、パプアニューギニアの地滑り・土砂崩れ頻発の原因として、ペトリイ氏は人間の生産活動がもう一つ別の大きな要因となっていると指摘する。 パプアニューギニアの森林地域には、小さな規模の村々及び彼らの耕作地域が展開されている以外に、大規模産業の数多くの工場もまた展開されており、金・銀・銅・コバルトの採掘や液化天然ガス(LNG)も採掘が行われており、過去に人命を奪った地滑りが引き起こされていたのである。 規模の大きい違法伐採の問題もパプアニューギニアには存在しており、またパプアニューギニアは世界で5番目に多くヤシ油を輸出しており、ヤシ油のプランテ―ションには大規模な森林伐採がついて廻るのである。 ぺトレイ氏は、「地形的には、植林化・森林化が強く求められるのであるが、パプアニューギニアの森は伐採され続けている」と指摘する。 パプアニューギニアの森林伐採の問題は、衛星写真で確認する限り改善の兆しはない。 パプアニューギニアは地滑り・土砂崩れの危険性の除去や低減に役立つインフラ作りに苦闘している最中である。 一方で、森林伐採も原因して気候変動は高進していき、海面上昇による高潮被害も課題となってきている。 海岸沿いの村レセ・カヴォラの住民は、巨大高潮により農作地や飲み水が被害を受けたことから、この3月村全体の移動の検討を始めている。 気候変動は、地域の地形が対処できる能力を超える突然の気象状況を発生させることから、特に地滑りに大きな影響を与える、とぺトレイ氏は指摘する。 「短時間に、多大な降雨量を伴う雨に対して、崖という斜面は特に脆弱だ」としている。 「地形というものは、それが従来経験してきた最も大きな衝撃には耐える構造ではあるが、もしも新たな衝撃が従来経験した以上の大規模な場合、その地形は、新たな衝撃に応じて変形していくのであり、即ち地滑り・土砂崩れということが必然的なものになるのである」とぺトレイ氏は指摘する。 山岳地帯での地滑り・土砂崩れは、ある程度は避けられないものである。 しかしながら、死亡者数や対応策という両面において地滑り・土砂崩れの被害を軽減することは出来る、と専門家らは指摘する。 ヤシ油のプランテ―ションやLNG開発の様な大規模プロジェクトを推進するのではなく、規模の小さい地元経済の後押しが、パプアニューギニアが進めるべき正しい方向の対策であろう。ぺトレイ氏は、過去に数百人の人命が地滑り被害で失われていたヒマラヤ地域が植林活動・森林化促進活動により成功を収めてきているネパールの事例を取り上げている。「森林再生に積極的だった地域では、地滑り・土砂崩れはかなり減少しているのである」と指摘している。 パプアニューギニア以外の国々の人々は、例えばヤシ油への必要量を抑えることとか違法伐採の木材の利用をやめるといった形でパプアニューギニアの森林伐採スピードを遅らせる形での協力は可能である。 「希少金属等の資源の採掘の運用上の規制を強めることも又、我々には必要なことである」とぺトレイ氏は指摘している。
0050
「日本の木造高層ビル事情の現在地」の確認と自然や生態系すら商品化しようと試みる「世界のグリーンウォッシング事情の現在地」との対比から見えてくるもの
yo-chan
05/31 13:31
「日本の木造高層ビル事情の現在地」の確認と自然や生態系すら商品化しようと試みる「世界のグリーンウォッシング事情の現在地」との対比から見えてくるもの 「東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。 この対比、どちらに与したいですか?」という話題を4月25日に紹介した。 その後、「なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのか------日本が抱える国家的な森林問題」 (Yahoo!ニュース 2024年2月29日付け一志治夫氏記す)という記事があることが判ったので、その紹介を兼ねて木造高層ビルや木造都市計画等に関連する我が国の現在地を一志氏の話をなぞりながら先ずは見てみたい。 O現状説明として:木材を使った高層大規模ビル建築が急速に増えたのは、2020年代に入ってから。純木造は少ないが、柱や梁、内外装に木を多用し、鉄骨や鉄筋コンクリートと組み合わせて造る地上6階建て以上のビルは、都内だけで、すでに20棟をゆうに超えている。この1月4日には、東京日本橋で地上18階建て、高さ84mの「日本一の高層木造賃貸オフィスビル」(建築主/三井不動産 設計・施工/竹中工務店)の建設工事も始まった(竣工予定は2026年)。 O木造高層ビルが増えだした理由:CLTや耐火集成材といった火災時の耐火性能を持つ木の柱・梁など新たな木質系材料が誕生し、鉄骨とのジョイントなどの技術開発をゼネコンやメーカーが進めた結果、燃える、腐る、折れるといった木材の弱点、課題が克服され始めたこと。つまり、高性能の木材が誕生したことで、木造高層につきものの消防法との兼ね合いや海外事例の拡大という背景をもとに、難題のハードルが下がってきたことが一つ目の理由。そして、この動きを後押しする法整備の存在がもう一つの理由。 O現在の法整備の状況:2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、その後2021年に改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市〈まち〉の木造化推進法)となった。これをもとに、建築主が国や地方公共団体とともに木材利用に取り組む「建築物木材利用促進協定制度」が創設され、各行政による補助金制度も整い始めている。 O木造高層ビル建設が推進される背景:一つは日本が抱える切実な森林問題を挙げ、我が国の森林と林業の歴史に触れている。国土の3分の2が森林。その4割は人工林。木材を利用し、森を循環させることが日本の絶対的テーマと考えるも、1964年の木材輸入自由化で外国産材の輸入が急増。「林業は儲からない」となり「放置林」が増加。2002年に国産材の供給量が底を打ち増加に転じるものの、2021年の自給率はいまだ41.1%。かかる状況が現在地とはいえ、SDGsやESG投資と無縁ではいられないスーパーゼネコンや大手不動産会社にとって、法整備も整いつつある中、我が国の絶対的テーマである国内の木材利用、そして日本の森を好循環させることにも繋がるという観点から見ても、「木造高層ビル」建設推進の動きは、うってつけのテーマと捉えられているのであろう。そして2010年の「公共建築物等木材利用促進法」も後押しする形で、一気に建築業界の積極的な取り組みが始まったのである。 O今や不動産会社自らが森林を保有したり、管理運営する:野村不動産ホールディングは、2022年10月東京奥多摩に、「つなぐ森」の地上権を取得し循環する森づくりをスタートさせ、東京都と「建築物木材利用促進協定」を締結。今後30年、130ヘクタールの森を保有し、「地産地消の循環する森づくり」を推進していくとしている。「つなぐ森」で生産される木材は、年間約500m3。野村不動産グループが目標とする木材使用量は16,500m3。「つなぐ森」からの木材は1.5%分とわずかであるが、切り出した丸太を地域の加工所に出すことで、加工所の生産量は従来の3倍になり、地域に新たな雇用が生まれている、と意義を語っている。 日本の人工林の約半分が主伐期の50年生を超えている。CO2吸収量が減少する高齢木を伐採し、新たに植えるという循環システムを作ることは急務とされており、そうした中で不動産会社が地産地消を掲げて森林を保有し始めたことの意義は深い。 また、不動産会社「ヒューリック」は2021年10月、銀座8丁目に「銀座を中心に森を作る」を開発コンセプトに、日本初となる耐火木造12階建ての商業施設「HULIC&New Ginza8」を竣工(設計・施工/竹中工務店)。福島県産のスギを中心に使った木造+鉄骨造のハイブリッド建築。外装に木材を使用し、柱や梁に耐火集成材を用い、構造材だけで288uの木材を使用。ヒューリックは、「伐採した分の木は植える」を掲げ、福島県白河で植林活動も行っている。森の循環あっての木造建築というコンセプトがここでも貫かれている。 以上、一志治夫氏の情報をもとに日本の木造高層ビルと日本の森林の状況ならびに今後の行方を占う話を紹介したが、都市の高層木造ビルのプロジェクトを推進している不動産デベロッパーの担当者の一人が思わず語った言葉であるが、気になったので彼の言葉も再録しておきます。 『2030年の前後って、木造ビルがたくさん出来ていたよね、なんか流行っていたよね、みたいなことになっちゃうことですね、一番恐れているのは』と彼はこうなって欲しくはないものの、大いに有りえる近未来の「日本の木造高層ビル事情」を懸念しているのである。ここに紹介している大手デベロッパーの動向は、賞賛に値するものと評価したい。 熱しやすく、冷めやすい世の常の中でも、めげずに何とか進展していってほしいものではある。 とは言え、上に紹介した一志治夫氏の記事の内容は、日本も日本の不動産会社も良くやっているじゃないか、是非上手く進むよう我々も協力したいものだ、といった思いになるのはある意味、コインの一面のみを見ての話なのである。 コインの反対側の面を考えてみたい。 その為に先ずキーワードとなる、nature-based solutions(「自然を意識した解決策」NbSと略記)という言葉の説明が必要となる。 気候変動による社会・経済・環境上への打撃に世界が今後対処していく時に、このNbSが大きな役割を果たすとの観点から、国連環境総会第5回会合(UNEA-5)において多国間でNbSが討議され、その定義が正式に決定されている。 決定された定義は次である。 『手つかずの自然の陸地・水域の生態系、あるいは人手が入り改変された陸地・水域の生態系を保護・保全・再生・持続可能なやり方で利用し、管理運営する行動がNbSである。このNbSの行動は、我々が直面する社会的・経済的・環境上の課題に対し、有効であり順応性がある行動であること、そして併せてこのNbSの行動が、人々の幸福、生態系が持つサービス、そして回復力と生物多様性を提供できるような行動、をNbSとしている』 2023年4月15-16日に札幌で開かれたG7気候・エネルギー・環境大臣の会合でもこのNbSが一つの議題として討論され、UNEA-5における議論を追認し、NbSが気候・生物多様性・人間の幸福を含む多くの課題の解決に有効に働く能力を持っている、としてNbSの実行化実践化を強調している。 この世界の動きに合わせて、東京都は2030年目標(自然と共生する豊かな社会を目指し、あらゆる主体が連携して生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることにより、生物多様性を回復軌道に乗せる=ネイチャーポジティブの実現)という東京都生物多様性地域戦略を立てており、この戦略の基本戦略IIに、行政・事業者・民間団体などの核となる主体者と共に『Tokyo-NbS』アクションを推進する、という行動目標をたてている。2030年までを「NbS定着期間」と捉え、各主体がNbSとなる取組を実施することを目指す、として手法としてのNbSが組み込まれている。 国際自然保護連合(IUCN)が提唱し、国連環境総会(UNEA)がお墨付きを与え、G7が推進力を与え動き出した我々市民社会と経済社会そして自然環境に大きく影響を及ぼす気候環境危機・生物多様性損失危機・生計危機等への順応策緩和策を考えていく手法として『自然を意識した解決策NbS』が注目されて来ているのが我々の現在地だといえます。 一志治夫氏の話題にある大手不動産会社の東京奥多摩で展開されている「つなぐ森」プロジェクトが、東京都のTokyo−NbSアクションメンバーに登録されている(他にサントリーの「奥多摩の森林整備による水資源と生物多様性の保全」プロジェクトがある)ことからみても、現在、行政と大手企業という主体組織が「気候危機・環境危機・生物多様性損失危機等の順応緩和策を考え出していく手法」として『自然を意識した解決策NbS』を大きく意識していることが判ると思う。 NbSが注目され、行政と大手企業が主体的に動き出している状況は、歓迎すべきだけれども、この流れには注意が必要だとする意見・情報が存在しているのである。次の情報です。 『自然を意識した解決策(NbS)』---気候危機と生物多様性危機を利用して企業や自治体がグリーンウォッシュの手段とする間違いであり困った解決策(原題:“Nature-based solutions(NbS)"---another false, corporate pathway in the great greenwashing of the climate and biodiversity crises、globalforestcoalition.org、 Oct.12,2023 by S.Lahiri and V. F. Martinez) 「自然を意識した解決策(NbS)」に関する国連多国間協議の最終ラウンドが今週ナイロビで行われる。NbSに関しては、昆明-モントリオールでの生物多様性枠組み協議においても議題になっている。これらの協議に入っていく際、我々はこれらの取り組みの方向性を慎重に見極めていくことが大切である。 NbSという言葉は、多くの人にとって健全な方向が目指されているとの印象を与えるだろう。しかし慎重にそして厳密に実施状況を分析・精査していくと、気候危機・生物多様性危機の解決を目指すNbSの理念とは反対に、危険な障害物となる恐れが浮かび上がる。 政策立案者らは、これら多国間協議の場に置いて、社会的・環境的課題に対して彼らが取り組む際に、NbSという用語が、持続可能な管理運営方法であり、自然の特徴や自然の流れを利用しているという意味合いを持つ、と指摘している。 しかし実態としては、カーボンオフセットの図式を含むような彼らが提案する方式は、人間の権利の破綻や生態系システムの破綻に繋がるものだとの認識が強まっており、そして同時に真の緊急課題である炭素排出を削減する課題から我々の注意をそらす有害なものではないか、と徐々に受け取られるようになってきている。 これらの間違った解決策が提起される動因として考えられるものは、不安感を過大に煽る企業側のロビー活動組織の存在がある。 石油・天然ガス・アグロビジネス・輸送部門の事業者らやGHG高排出諸国の政府らが「自然を意識した解決策(NbS)」という言葉を使用することが、増えてきている。 これらの事業体や政府は、我々が今日目撃している環境破壊の大半の責任を負うべき組織であり、世界中の共同体に影響を与えている。 環境保護の幾つかのNGO団体もNbSを支持しており、NbSの考えが最適なインフラを作りだし、生物多様性がある未来を約束するのに役立つとしている(IUCN?)。 しかしながら、NbSの指針となる原理原則は、数千年にわたり地球上の森林の保護者の任を負ってきた先住民族の人々の智恵や世界観や伝統的な慣習や持続可能な生計の立て方といったものとは合致しないのである。 最近の研究によると、NbS活動が生態系や森林や生物多様性に対して悪影響を及ぼし、合わせて先住民族の人々や多方面の女性や地域共同体にも悪影響を及ぼすということが明らかとなってきている。更に何世代にわたり自然を守ってきていた人々を疎外していくことも明らかとなってきている。 例えば、シェルの例では、シェルは、年間1億ドルを『自然を意識したプロジェクト』向けに投資することで、シェルのGHG排出分をオフセットすることを狙ってNbSを利用している。同様にフランスの石油大資本のトタルは、アフリカで木材・森林・アグロフォレストリー・植林分野のプレイヤーであるForetリソースマネジメント社と共同してコンゴ共和国と提携契約を結び、4万haに及ぶ植林活動を行っている。トタルはコンゴ共和国で1000万ha以上の植林を行うという。 植林活動や再森林化活動の何処が問題なのかと尋ねるかもしれない。 しかしながら、世界の巨大企業が主にカーボンオフセット制度を利用する形で「商品市場指向型のNbS」プロジェクトに投資する行動の状況を丹念に精査していくと、それら高排出事業体企業の行動というものは、気候危機や生物多様性危機を解決することを狙っての行動というよりも、高排出事業体企業によるグリーンウォッシングの行動にすぎないということが判ってくるだろう(高GHG排出企業や排出国政府が、彼らに染みついた悪いイメージの払しょくを狙うとともに、自然環境という資源を商品化し、市場に引き出すことで、可能な限りこれら活動への投資に対する利益・配当の獲得をも狙う行動をグリーンウォシングというのだろう)。 FAOとNature Conservancy(1951年設立の自然保護NGO。生物生息地確保や生態系保全活動を行う。100万人以上の会員を擁す)との共同文書が、これらの行動の傾向を取り上げており、それによると農業分野のNbSは主として混合型資金調達・債権・グリーンクレジットと株式・カーボンクレジット・生物多様性及び水系オフセット等を通じて出資金のリターンを求める傾向をこれらの行動がどのように反映しているかを示している。 このNbSというレンズを通して見ると、『森林と土地は金銭化できる資産であり、自然資産は経済的に増大が期待できる』という見方が生まれてくるのである。 2022年2月のナイロビで開かれた国連環境会議(UNEA 5.2)において、「持続可能な発展のための自然を意識した解決策NbS」に関する決議5/5が採択された。 この決議は多国間協議で定義が合意されたNbS活動を可能な限り迅速に進めていくという推進力を与える一方で、展開が予想されるNbS活動が、GHG排出削減活動の迅速化、深耕化、継続化という我々の要求を妨げることがないよう確認していくためにNbSの効果効能の分析の必要性がある点を確認し、指摘もしている。 またNbS(nature-based solutions)が誤用・悪用される可能性への懸念から、『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との調和の必要性を強調もしている。 『自然を意識した解決策NbS(nature-based solutions)』と『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との曖昧で、ハッキリしない結合化は、気候変動と生物多様性(T8)および人々に対する自然の貢献の再建(T11)に関する目標を検討した昆明-モントリオール世界生物多様性枠組交渉(KMGBF)においても反映されている。 この決議はまた、NbSには多面的な解釈が存在していることを認めており、協議参加国間の中に共通認識が欠けている事実も認め、受け入れている。 先住民族の主要グループは、炭素マーケットのオフセットシステム装置というものが、先住民族の権利を侵害し、彼らの領域を侵食し、重大な人権問題を引き起こす可能性があると、警告を発している。彼らの主張は正当なものである。 NbSの提案者や支持者らは、『自然を経済的な資産だと解釈し取り扱おうとする』のであり、自然の従来からの管理者たちから自然を奪い取り、自然を投資対象となる商品に変えて、彼らの投資に見合う将来の利益獲得を目指すのである(16世紀イギリスで進行した、地主による牧場用地の獲得の為の、そして農民の離村と賃金労働者化を促し産業革命の地ならしを求めた運動と理解される「囲い込み運動」の現代版だろう)。 NbSを『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』と調和させようとする試みが、KMGBF交渉にも及ぼうとしていることが見られており、懸念すべき状況が生まれている。 『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』には、CBDおよび数回の気候危機COP会議を経てきたという長い発展の歴史がある。 『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』というものは、多様な文化的背景をもつ人々が生態系を統合する要素である、という認識のもとで、人々はみな平等に生態系を保全しつつ持続可能なやり方で生態系を利用していくことを推進しようという考えである。 一方で、国連環境総会UNEAの決議内容は、気候危機と生物多様性危機という双頭の危機の解決策を求めんが為に、極端に緩和手段(mitigation)に軸足を置いたものであり、そこには先住民族・多面的な活躍する女性や地域共同体が介在していることの考えが抜け落ちているのである。 この重大な欠点を持つ「商品市場主導の解決策作り」の動向に我々は反対すべきである。 この国連多国間協議場内に起こっているNbSを『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』と同一視し、調和させようとするこれらの試みは、大きな問題を孕んでいるだけでなく、自然の持つ機能が商品化され・金融化され、そして民営化されていくことを狙う商品市場至上主義に基づく市場内の協調関係が構築されることになる。 自然と一体に暮らしている我々が懸念を訴えていく際の障害物となり、結果的に政治的思惑を利する恐れがあるのである。 UNEAのNbSに関する政府間協議と気候変動と生物多様性に関するCBD SBSTTA25会議が始まる今、我々は人々と地域共同体を気候変動と生物多様性に関する議題の中心に据える絶好の機会を得ている。必要な進路修正を行い、気候変動と生物多様性という2つの危機に対する有効な解決策への道を切り開く時が来ている。
0051
農業問題を通して世界の潮流を考える(1)今年は国連「家族農業の10年」の6年目
yo-chan
06/16 14:29
農業問題を通して世界の潮流を考える(1)今年は国連「家族農業の10年」の6年目 世界農業の流れの特徴は、世界の種子メジャーや肥料メジャーが国際金融機関・慈善家 と協働し、各国政府を差配し支配する構造が明らかに見えてしまう所にあると考えている。 この構造に異議を唱えているのが、La Via CampesinaやAFSA(the Alliance for Food Sovereignty in Africa)等が掲げるアグロエコロジーの理念が世界の農業と食糧安保と自治 権に必要なものであり、その担い手である小規模農家を支援する体制の確立が重要だとい う指摘である。 こういった対立構造は勿論農業だけではない。原発含めてエネルギーの分野でも、国際金 融の世界でも、G7でもCOPでも国連そのものの構造にも深く影を落としていると思う。 このせめぎ合いの両者の考え方は、一方はMultilaterarism(各国市民が選挙権を行使し選 んだ各国の政府が参集し、世界に関わる課題の解決策を追求する方式)が機能してきた世 界の考え方であり、もう一方はMultistakeholderism(世界に関わる難題がMultilaterarism では解決困難と称して多国籍企業の参入を認め、打開策を腕力で図ろうとの方式)が差配 し支配する世界の考え方であろう。 multilaterarismには、市民が選挙権を通じて世界の課題解決に介在しているという構造が 曲がりなりにもあるのに対し、multistakeholderismでは多国籍企業体の力が前面に出て、 市民力の介入力が大幅に低下している構造になっている所が問題と思っている。 いわゆる「世界市民の家」を想定した際、多国籍企業体に「庇を貸して母屋を取られた」の表 現がピッタリな状況が今の世界を覆っており、農業含めていろいろな分野で市民が閉塞感 を感じる大きな要因となっていると感じている。 話を広げ過ぎることは避けたいので、敢えて農業の問題のみに話題を絞って現在の閉塞感 の原因の問題を考える際に必要な情報を提供していきたいと思っております。 概ね話題の中心は、世界の種子や肥料の多国籍メジャーらが国際金融機関・慈善家らと協 働し、各国政府を差配し支配する構造の紹介と、この世界構造に異議を唱えるLa Via CampesinaやAFSA等が掲げるアグロエコロジーの推進を中心とする自給自足的考えも含 んだ食糧自治権の確立と小規模農家の存在意義を訴える活動の紹介になると思います。 では第一回目として、国連の主導する「家族農業の10年」運動の紹介から始めます。 1つ目の情報は「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン」の「家族農業の10年とは」です。 2017年12月20日、今後の世界の農業の方向性を左右する出来事があり、即ち国連本会議 で2019年〜2028年を「家族農業の10年」とする議案が全会一致で成立したことです。 コスタリカが代表となり、日本を含む104カ国が共同提案国となっていた。この運動は2014 年の国際家族農業年を10年間延長し、家族農業を国連加盟国の農業政策の中心に位置付け ることを求める国連の啓発活動というものです。 「労働力の過半を家族労働でまかなう農業漁業」と定義される家族農業は、FAOの調べで 世界の農業経営組織の90%を占め、食糧生産規模的には80%を担っている。 耕地規模を見ると、1ha未満が73%、2ha未満で括ると85%を占めている。 これまで、先進国・途上国を問わず、小規模・家族農業の役割は過小評価され、充分な政 策的支援が行われてこなかった。「時代遅れ」「非効率」「儲からない」と評価され、政策的に 支援すべきは「効率的」で「儲かる」「近代的企業農業」とされてきたが、ここにきて農業の効 率性を測る尺度自体が変化している。農業の効率性は、労働生産性のみで測れるものでは ないとされ、土地生産性は大規模経営よりも小規模経営で高いことが知られている。 また今、重要視されているのがエネルギーの効率性であり、化石燃料への依存度の高い外 部投入資源(合成肥料や農薬、そして機械利用の土壌掘り起こしや灌漑設備等)を多量に使用 する大規模経営農業よりも、それら外部投入資源への依存度の低い小規模・家族農業の隠 れた効率性が注目されて来ているのである。 また、経済・社会・環境的に持続可能な農業として推進されている「アグロエコロジー」の 実践においても、もっとも優位性を発揮するのが小規模・家族農業だと評価されています。 そのため、国連の持続可能な開発目標(SDGs)(2016〜2030年)の実現において、小規模・ 家族農業は中心的役割を果たすことが期待されている。 FAO事務局長は2013年に「家族農業以外に持続可能な食料生産のパラダイムに近い存在は ない」「国や地域の開発において、家族農業を中心とした計画を実行する必要がある」と述べ ている。 この様に小規模・家族農業の活性化なくして食料の安定供給、貧困・飢餓の撲滅、農村地 域資源管理や持続可能な社会の構築は不可能だということを、遅ればせながら国際社会が 認識するようになり、政策の舵をいま大きく切っている。日本においても、政策の方向性 を再検討する時です。 以上、この「家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンFFPJ(Family Farming Platform Japan)」の立場は、中立的な感じがする、国連の「家族農業の10年」の理念を忠実になぞっ た情報の伝え方を感じます。 農水省も建前上は、同じ考え方で国連の「家族農業の10年」運動を準備怠りなく、見つめて いるでしょうが、具体的な行動は国内パワーバランスを見極め、現状は腰を引いて模様眺 めといったスタンスと感じます。 そしてもう一つの重要な、この運動の動因となって欲しいものが我々市民の動きでしょう。 残念ながら今年が、コスタリカらが求める「家族農業の10年」運動の第6年目という認識さ え、持っているかどうかが疑われる状況が日本社会の現状ではないかと感じています。 次に紹介するのは「家族農業の10年とは?日本への影響や家族農業のメリット・デメリ ット」 Minorasu.basf.co.jp , 2022年2月27日付けの情報です。 日本は農業後継者不足を理由に大規模化や法人化を国の方針とし、進んでいる。 国際的には農業の効率性・生産性向上が重視されるなか、従来の家族経営農業の価値も見 直されてきており、今回国連が「家族農業の10年」を採択(2017年)している。 「家族農業の10年」の概要と、日本への影響を紹介する。 1.「家族農業の10年」とは? 世界的に家族農業の意義を見直す動きが出ている。この象徴が、2017年国連総会本会議で 採択された2019年から2028年までの10年を「家族農業の10年」とする動きである。 この国際運動には先触れがあり、2011年の「国際家族農業年」に関する国連総会の採決で あり、2014年に施行され、各種運動が展開された。 今回の「家族農業の10年」は、この「国際家族農業年」を実質的に延長したものである。 (家族農業の定義) “労働力の半分以上を家族で賄っている農林漁業”を指している。耕地面積の大小や法人 化の有無は定義上関係がない。 ただし、国連では家族農業と小規模農業をほぼ同義語と把握しており、基本的には「家族 農業・小規模農業」として包括的に使われている。 家族農業・小規模農業と対峙する存在が、資本的なつながりで構成された組織の「企業的 農業」。営利目的で従業員を雇いビジネス展開する場合が「企業的農業」で、それ以外が「家 族農業・小規模農業」と捉えられる。 (農家への影響) 家族農業・小規模農業推進のため、国連は2019年に「家族農業の強化を実現できる政策環 境の構築」「家族農業における男女平等と農村のリーダーシップ促進」などからなる世界行 動計画の7つの柱を策定した。 2020年にはそれぞれの加盟国が「国内行動計画」を作る段階となっていたが、コロナ禍の 影響で遅れが生じており、日本も具体策案はまとまっていない。そのため現状では、国連 決議が直ちに日本の農家に影響を与える可能性は低いと言える。 日本はこれまで効率化を重視し、企業化や大規模化を政府が推進してきたが、今後国連の 掲げる「家族農業の10年」運動の推移により、最終年の2028年までの間に政策転換の可 能性はあると言える。 2.家族農業が重要視される理由 家族農業は、世界では90%を占める農業経営基盤なのである。 【全体に占める家族農業の割合は、米国で98.7%、EUで96.2%、日本で97.6% (農水省、『国連、家族農業の10年』の情報)】 世界で進行する自由主義経済の影響から、農業の効率化(作付・農薬散布等の作業の効率 化)のため大規模化が世界的規模で推進されて来ているが、その上で実際にはFAOの調査 によると、家族農業が世界全体に占める割合が、数の点でおよそ90%にのぼり、生産量の 点でもおよそ80%を占めるとされる。 人口増加により将来食糧不足が懸念される現状で、世界全体の大部分を占める家族農業を 守ることが、持続可能な社会作りに重要な施策だと考えられているのである。 途上国では、多くの人が貧困・飢餓に苦しんでいる。そして、その多くが食の安全を求め 農林水産業に従事している。従って、国連は家族農業を守ることが多くの人々を救う方策 と考えていると言える。 また、家族農業では人手不足が起こりやすいことから、女性も男性と同じくらい重要な働 き手と期待される。即ち女性なしでは家族農業は成り立たないとして、家族農業の推進は 女性の社会的地位向上にも貢献が大きいとされ、期待されているのである。 家族農業はSDGsとも密接に関連している。SDGsの17の目標のうち、貧困撲滅・ジェ ンダー平等・雇用促進などの目標に関係している。 自然と共生して食糧を生みだす家族農業は、そのほかにも気候変動やエネルギー、イノベ ーションなどSDGsの掲げる多くの目標達成に関連している。 3.日本の家族農業の現状 農水省データによると、日本の農業事業者総数は、2015年137.7万、2022年107.5万。 内訳は、 会社法人組織:2015年1.66万(1.2%)、2022年2.0万(1.9%) 農事組合法人:2015年0.6万(0.5%)、2022年0.7万(0.7%) 各種団体法人:2015年0.3万(0.2%)、2022年0.2万(0.2%) その他法人:2015年0.09万(0.1%)、2022年0.13万(0.1%) 法人組織合計:2015年2.7万(2.0%)、2022年3.07万(2.9%) 個人経営体:2015年134万(97.3%)、2022年103.7万(96.4%) 日本で農業を営む人の大半は家族農業である。 しかし、経営難や高齢化の進行で離農が今も続いている。そして僅かながらも作業の効率 化が図りやすい法人経営体が増加している。 4.家族農業のメリット 同じ品種を大きい圃場で栽培するほど生産コストが低減することから、大規模経営はスケ ールメリットを得られる。しかし多品目栽培をおこなう場合には向かない。 家族農業の小規模栽培はコスト面では、大規模栽培に劣るものの、様々な品種を植えても 管理がしやすいというメリットがあり、病害や台風など自然災害を受けた際起こる可能性 のある一度に全滅というリスクを回避できる可能性があり、大きなメリットと言える。 また、大規模経営は収穫量が膨大なため、流通網の分散化が難しい。一方小規模家族農家 は付加価値の高い作物を栽培して消費者などの取引先と直接交渉することで、販売価格を 高く維持することも目指せるというメリットがある。 そのほかにも、土地生産性やエネルギー効率は大規模経営より小規模経営の方が高いとの 報告もある(「Handbook of Agricultural Economics」vol.4,chapter65FarmSize,NORTH HOLLAND)。 5.家族農業のデメリット 労働生産性の改善が難しいことによる労働時間の増加がデメリットとして挙げられる。 即ち、家族農業ではいくら生産性を向上させても、人手の点から栽培できる面積に限界が ある。耕地面積が小さいことから、労働生産性は向上しにくく、その結果労働時間は長く なりがちである。 付加価値を高める努力と、機械化などによる生産性の向上をどう取り入れていけるかが、 考えどころとなるだろう。 今後も家族農業が重視される可能性はあるが、高齢化や後継者不足の進展もあり、日本で は農業の大規模化・法人化が避けられない方向であろう。 家族農業も小規模の意義やメリットを踏まえつつ、大規模化の検討も視野に入れることが 求められるのではないか、と考える。 以上が2つ目の記事の情報です。 この最後の総括的文章『家族農業も小規模の意義やメリットを踏まえつつ、大規模化の検 討も視野に入れることが求められるだろう』や『付加価値を高める努力と、機械化などに よる生産性の向上をどう取り入れていけるかが、考えどころとなるだろう』との説明、そ して文中に散見される色々な条件(例えば『日本は農業後継者不足を理由に大規模化や法 人化を国の方針とし、進んでいる』『国際的には農業の効率性・生産性向上が重視される』) を含めての話の進め方に気になる点が多く感じる書き方なのである。 そしてFFPJでは、ハッキリと意義を紹介しているアグロエコロジーについては、その言 葉さえいっさい伝えようとしていないのである。 実は、この情報の出所がBASF(典型的な国際的農薬メジャー)であることから敢えて紹介し たのですが、国連の『家族農業の10年』運動という世界から提起された日本の農業の転換 点にもなり得る状況を前にして、都合のよい方向へ世の流れを導いていこうとする動きが 良く行われるところであり、このBASF情報がその一例ではないか、と紹介したものです。 BASF の認識は一面的であり、後継者不足課題は、若者らの新規参入の一つのチャンスで あり、新たな雇用創出に繋がるチャンスとの考え方も出来るだろう。 そして、国連の主導する「家族農業の10年」運動と連動する形で、日本の小規模農家や家族 経営農家がLa Via CampesinaやAFSA的アグロエコロジー的世界観と横のつながりを深 めていく機会が拡大していくことになれば、そしてその結果、アグロエコロジー的世界観 が日本の市民の間に根付いていくことを期待したいものである。 次回に続いていきます。
0052
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(2)
yo-chan
06/26 16:17
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(2) 家族農業と小規模農業そしてFood Loss とFood Waste、それぞれを明確に定義し区分けし、 そして世界の農業およびFood LossとFood Wasteの実態を考える 前回、農業問題を通して世界の潮流を考える、との表題で国連主導の「家族農業の10年」運 動の話題を提供しました。 今回は第2回目になりますが、まずは表題を少し膨らませてみました。 理由は、農業という重要な問題をトータルに考えると、入り口の『農業』だけでなく、付 随する、食べるという『食』の問題・課題も同様に重要なものとして存在しており、表題 が『農業』だけでは不充分と考え『食』も表題に加えた次第です。 今後、様々な視点から「農業と食」絡みの我々が直面する課題に、光をあてたいと考えます。 問題・課題が多彩であり、また数多くあることから、話の順序や統一感や公平・公正感に 懸念が出る恐れがあると考えております。この点をご了解ください。 統一感や公平・公正感に懸念が出る恐れを思う理由は、以前紹介したAGRA対AFSAの状 況を思い出してもらえば容易に理解頂けると思います。 即ち、『農業と食』という問題課題を考えていく際に土台になる情報には、AGRA的情報と それに対するAFSA的LaViaCampesina的情報が拠り所となります。 ここでAGRA的情報とは、『大規模な単一種栽培を指向し、肥料・農薬・種子メジャーらが 支え、ビル&メリンダ・ゲーツ慈善基金らが応援し、世界銀行やアフリカ開発銀行の指導の 下、アフリカの各国政府が取り組んでいる実態であり、従ってこのAGRA型農業システム に関わるステークホルダーはふんだんにあり、しかもそれぞれ力が強い所からの発信であ る。彼ら推奨の農業システムの実態を紹介する情報はふんだんで、詳細・精密を極めてそ の上、ある意味説得力ある主張が為されているのである。 【ここに、narrative言説・物語等の市民を誤誘導する強者側の1つの武器が見えている】 これに対してAFSA的情報に関しては、AGRA型で見られる応援団体・支援団体・多国籍 巨大企業や各国政府の力の提供が殆どないことから、AFSA型農業の実態を紹介している情 報の量と質に大きな期待が出来ないというハンデが、そもそも存在している。 そしてAFSAやLaViaCampesinaが力を注ぐ相手のアフリカの小規模農家(アフリカという条件を付ければ小規模農家イコール家族農家となるだろう)の実態は、当該国家・政府・行政自体からしても完全に実態を把握しきれていないのが実情である、という。 よってAFSA型の状況を、AGRAと同等に捉えること自体が困難であり、現在我々の眼 前に出ている情報を頼りに『農業と食』という重大事項を考えて行く場合には、情報の質 と量および迫力に差があるということを、先ずは認識しておくことが必要だと考える。 世界の『農業と食』に関して、少なくとも2つの大きく対立した考え方が存在していると 思う。それら双方を平等に取り扱い、検討を行いたい思いはあるものの、入手できる情報 自体にそもそもギャップがある状況下での比較検討になると感じている。 第2回目の本題に入ります。 第一回目に、国連の主導する「家族農業の10年」の紹介をしました。 その紹介の中で、「家族農業」と共に「小規模農業」という言葉がふんだんに使われています。 しかもその二つを同列として扱い、同じ意味を持つ相互に交換可能なものであると、思わ せるような表現が為されておりました。 その該当部分を抜き出すと、 O『国連では家族農業と小規模農業をほぼ同義語と把握しており、基本的には「家族農業・ 小規模農業」として包括的に使われている』としており、国連自体が「家族農業」と「小 規模農業」を同義語扱いにしている。 O『労働力の過半を家族労働でまかなう農業漁業と定義される家族農業(即ちFAOの考えでは小規模農業とも置き換え可能)はFAOの調べで世界の農業経営組織の90%を占め、食糧生産規模的には80%を担っている』。 この国連FAOの「家族農業」と「小規模農業」についての認識および小規模農業が80%に達する食糧生産規模を持っていると思わせる記述の故に、様々な人が様々な議論をこのFAOの主張をもとに展開している状況がある。 が、しかし実はここに間違いがあるとする報告があり、今回は先ずその紹介から始めたい。 出典は、「小規模農家は世界の食料の1/3を生産しており、多くの論説が主張する生産割 合の半分以下が実態である(Smallholders produce one-third of the world’s food, less than half of what many headlines claim.)」 Our World in Data 2021年 8月6日 Hannah Ritchie氏記す Ritchie氏の情報の要点のみを記します。 世界の大半の農家は、小規模耕地栽培者(smallholders)。彼らは往々にして最も貧困状況にある。世界の食糧生産において、彼ら小規模耕地栽培者はどの位の貢献を果たしているだろうか? 『小規模耕地栽培者らは世界の食糧総生産量の70%を、なかには80%を生産している』と、時に報告されている。これらの主張は、国連FAOによっても為されており、この主張をもとに農業や開発の政策が組み立てられているのである。 しかし、この主張は間違っている。最近の研究によると、この70〜80%という数値は高すぎであって、実態は世界食糧総生産量の約1/3であり、今までの推計の半分以下なのである。 指摘されている最近の研究結果(Vincent Ricciardi氏らのGlobal Food Security, 17,64-72,2018年)を示すと次のようになる。 農家の耕地面積規模ごとに対応する食糧生産量のデータ: 【耕地2ha未満の小規模農家】 世界の耕地面積に占める割合:24% 世界の総生産量に占める割合:29% 【耕地2ha以上20haまでの農家】 世界の耕地面積に占める割合:25% 世界の総生産量に占める割合:25% 【耕地20ha以上1000haまでの農家】 世界の耕地面積に占める割合:39% 世界の総生産量に占める割合:41% 即ち、小規模農家(耕地面積2ha未満)の世界の総生産量に占める割合は29%である。 また家族農業という観点で括ると、耕地2ha未満の小規模農家に加えて、耕地2ha以上1000haまでの下の2つの階層のかなりの部分まで網羅しているのが実態であり、家族農業の世界の総生産量に占める割合は70~80%となるのである。 何故この食い違いが出てきたかの理由は、「家族農業、family farms」と「小規模農業、smallholder farms」との2つの言葉をそれぞれ厳密に定義し、区別して使うことが行われておらず、時に混乱していたことが原因なのである。 「家族農業」の耕地面積には1haや2haといった制約はなく、それ以上に大きい様々な耕地面積で、「家族農業」事業者らは耕作を展開しているのであり、「家族農業」と「小規模農業」とがイコールだとの先入観が間違いだったのである。【世界の5.7億の農家の84%(4.8億)を占める「小規模農業」の耕作面積は2ha未満という制約が条件とされている】 権威ある国連FAOが提供している基礎データ資料の見方・読み方・捉え方次第で、実態の認識に大きな違いが起こることがあり得る、ということを示す例であり、今後『農業と食』の問題を議論していく際に、使用する用語の定義・意味を厳密に捉えておくことが極めて重要であり、必要なことである、ということを示す事例と考えます。 定義と意味するところに注意を必要とする『農業と食』に関する別の言葉に、『Food Loss』と『Food Waste』があると思う。 まずSDGsの12番目の目標を読んでみます。SDGs12.3は、原文で次になる。 「By 2030, halve per capita global food waste at the retail and consumer levels and reduce food losses along production and supply chains, including post-harvest losses」 外務省訳は、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」。 「food waste」を「食料の廃棄」に、「food losses」を「食料の損失」と訳している。 上記のSDGs12.3の原文と和訳を正確に捉えるのは、殊に「waste」と「losses」の正確な違いを意識せずに読んだ場合難しさがある、と思います。 そして先の「家族農業」と「小規模農業」と同様に、「waste」と「losses」との組み合わせも、ほぼイコールであり、相互に交換できる、と捉えてしまう可能性が大いにあります。しかし「waste」と「losses」との組み合わせにも、厳密にそれぞれが定義され、区別されているのです。 従って、SDGs12.3の原文と和訳を正確に理解し読み取るには、これら「waste」と「losses」の定義を知っておくことが求められる訳です。 『農業と食』という、我々にとって非常に大切な問題(例えば世界で6.9億人もの人々が飢えに苦しむ中、毎年13億トンもの食べ物が無駄に捨てられているという我々に突き付けられている課題)を考えていくことは非常に重要なことであり、よってこの違いを心得ておくことが必要となる訳です。 では「food waste」と「food losses」の定義と違いを紹介し、その上で食べ物が無駄に捨てられている話題についての情報の紹介に移ります。 参考とした情報は2つ。 一つ目は、『Food LossとFood Wasteとの違い(What is the Difference Between Food Loss and Food Waste?)』populationeducation.org,2020年9月29日、Andrea Moran氏記す。 二つ目は、『ReFEDが新たな食品廃棄物推定値を発表し、食品システムによる対策強化を呼びかける(ReFED Releases New Food Waste Estimates and Calls for Increase Action by Food System) Refed.org,2023年4月19日.。 『Food Loss』と『Food Waste』の定義と違いについては、一つ目の情報からになります。 2つの用語の定義と意味するところの違いを理解することは、実は簡単です。 必要なことは、食べ物が生まれ、様々な過程を経て最終的に人々に食べられるまでに辿る食べ物の道筋を想定して、ある段階までに廃棄されるものを『food losses』とし、それ以降は『food waste』とする、ということになります。 境目は、農業や漁業の現場で生産され、次いで様々な加工業者の手による加工作業を経て商品となり、次いで配送流通業者が様々な小売店販売店レストラン飲食店等のフードサービス業者らに食品を配送し、以降小売店販売店レストラン飲食店等のフードサービス業者らを通じて消費者が食品を入手し消費していくという食べ物が辿る工程において、『配送業者』と『販売業者・フードサービス業者ら』との間に、今考えている切れ目がある、とするということです。 換言すると、農業漁業生産者と加工業者・輸送業者らが責任を持っている部分から出てくる廃棄物が『Food Losses』とされ、販売店やフードサービス業者や消費者らが責任を持っている部分から出てくる廃棄物は『Food Waste』とする、ということです。 『Food Losses』と『Food Waste』に対応する日本語は、政府が使う言葉、即ちlossesを『損失』、wasteを『廃棄』を基本に今後取り扱っていくことを考えています。 この定義を踏まえて、再度SDGs12.3を読んでみると、国連の目標がよりはっきりと捉えられると思います。 『農業と食』という重要な課題のいろいろな面を今後考えていく予定ですが、先ずは食べ物の『losses、損失』と『waste、廃棄』に関わる話題を更に紹介してみます。 ReFEDからの情報になります。因みにReFEDという組織は2015年に設立されているア メリカ国内の食料の無駄の削減を目指す非営利団体ということです。30社以上の企業・非 営利団体・基金・行政府主導者らが参加しています。要点だけの紹介です。 ReFEDによると、2021年にアメリカでは9100万トンの「余剰食品」が発生していた。 【余剰食品(surplus food)とは、栽培農地から始まり、加工場・販売店を経て消費者へと繋がる食品サプライチェーンにおいて、売れ残ったり・食べられなかったものを指す】 この量はアメリカの食料供給量の38%分に相当し、年間温室効果ガス排出量の約6%に相当するという。余剰食品の約50%は家庭からのものであり、20%はフードサービス事業者からのものである(即ち70%はFood Waste食品の廃棄分と分類される)。 「余剰食品」が存在することで、発生する問題はGHG排出だけではない。例えば淡水の22%及び耕作地の16%の無駄も付随しているのであり、また「余剰食品」の栽培・収穫・輸送・冷却・調理そして最終的な廃棄に要する費用も発生するのである。 ReFEDの分析によると、「余剰食品」の経済価値は2021年分として4440億ドル(アメリカのGDPの約2%に相当)。 そしてこの「余剰食品」の量は、1490億食分に達するという(ほぼ全ての日本人が、日に3度の食事が出来、1年間続けられる量。世界で飢えに苦しむ8億人の人々に2日に一回食事を提供できる量でもある)膨大な量なのである。 ReFEDの事務局長のダナ・ガンダースさんは、「食品廃棄量の削減が進んでいることが確認できる分析結果を期待していたが、残念ながら2019年と比較してほぼ同じレベルと確認されている」として、「食品システムに関与する人々が、さらに真剣に取り組み、成果が期待される取り組み方へと変更を行っていくことが重要だ」と指摘している。 ReFEDの報告では、食品廃棄に関わる問題のパラメーターが詳細に説明されている。 そして食品廃棄課題解決に関わる42種のモデル化を試みており、どのモデルが食品サプライチェーンにおけるそれぞれの事業分野に対して最も効果的にFood LossとFood Wasteを削減できるか、を求めようとしている。 これらの解決策を全ての領域において実践していくには、年間約180億ドルのコストがかかると見られる。しかし、この実践を行うことができれば、その経済的利益は740億ドルが見込まれ、コストの4倍の利益になると予測される。その上に、毎年1.09億トンのGHG排出削減が出来、6兆ガロン(約270億トンの水)の淡水節約ができ、そして10年間に6万人の新規雇用が期待できるという。 これら解決モデルを積極的に導入すれば、余剰食品の2100万トン(23%に相当)が削減できることになると見積もっている。 以上、食べ物の損失と廃棄の現状をアメリカの事例から見た情報を紹介しましたが、現状の大きな課題は、Food LossとFood Wasteとの状況を適切にモニターするという、『食べ物の無駄の見える化』システムが出来ていない・用意されていない点であると思います。ReFEDの事務局長のダナ・ガンダースさんも指摘しているように、無駄の削減の兆候が認められていない要因の一つはこの辺りになると思っています。 『見える化』が為されれば、より効果的な削減プランやアイデアは自ずと出てくるのではとも思います。 もう一つのポイントは、アフリカや中南米・アジアに散在している5億世帯にも達する小規模農家の活動や彼らが置かれている状況にもっと光を当てることが大切な視点だと思っております。彼らへの注目を拡大していけば世界の『農業と食』に関する課題の解決策は自ずと出てくるのではと思っております。 次に続きます。
0053
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−1)
yo-chan
07/02 13:21
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−1) 『数千年間農民が作物改良に向けた育種の功績』対『種子メジャーの工学的育種の商品化』 今回は、遺伝子組み換え作物(genetically modified crops, GM作物)とゲノム編集作物(genome editing crops, GE作物)の話題を取り上げます。 GM作物やGE作物の現在の使用実態・安全性・危険性に関する現在の立ち位置・規制状況等、現在そして今後の「農業と食」を考えていく際に、避けて通れない極めて大きな問題です。 GM作物・GE作物が注目され、農業と食の分野にそれらが立ち現われた源は、一つの見方として、Norman Borlaug博士らが推進した「緑の革命」がきっかけだったと考えます。そこでは、例えば風水害時に倒れにくい形質を、近代的技術を駆使して如何に小麦やコメに組み込むかが行われた訳です。 ここで、GM作物・GE作物が「農業と食」を考えていく上で、避けて通れない大きな問題だとしても、我々はもっと視野を広げて、この問題を見る必要があると考えております。 即ち、GMやGE技術の品種改良という視点に立てば、なにもそこには目新しいものは全くなく、人類は農耕を始めて以来、人々はより良いものを、より多く作る、を念頭に試行錯誤を重ね現在に至ったという育種の長い実績と多大な功績を我々は既に持っているのです。 育種を通じて品種改良するという作業は、従って我々市民がもともと持っていたという事実を、我々は基本に置いておくことが大切なことだ、という点を指摘しておきます。 かかる観点から、我々市民は、「育種という品種改良作業」を、現代科学を駆使する種子メジャーらに白紙委任するという選択は、現在もそして今後も取るべきでなく、我々市民もその作業に関わる権利があり、作業を行う道を残していく努力が求められると思います。 しかし一方では、現代社会に蔓延している「科学技術の革新で世界を制覇する」という考え方があり、それを企業のみならず、市民も行政も広く受け入れているのも事実です。 農業と食の領域で「科学技術の革新化で世界の制覇』を狙う巨大企業側の戦略がGMビジネスであり、GEビジネスだと認識し、今後も更に巨大企業側はGM・GEと通じて育種ビジネスの『囲い込み』を強め、最終的には『育種の権利』と『普通の人々』との切り離し(今風に言えばデカップリング)を狙っている、と見ております。 結論的にいえば、『巨大企業の育種システム』と『我々が積み上げてきた育種の実績に基づく市民の育種システム』との共存、棲み分けがきちんと為される社会構造を目指すのが求められていると思います。 今回の一連の情報は、掛かる社会構造を目指すための情報提供と考えております。 まずは、GM種子・作物とGE種子・作物の現在の規制状況を紹介する記事から始めます。 参考にした情報は2つ、一つは欧州、もう一つはアメリカの話題です。 欧州の状況から始めます。 「ドイツの監視機関からの警告と特許論争が続く中、欧州議会は新たな遺伝子組み換え作物の規制緩和を支持」 euro news 2024年2月8日 欧州議会は2月7日の投票で、新しいゲノム編集技術(new genome editing techniques, NGTs)を使用する作物に対しては、より緩い規制の対象にすべきだとする法案を僅差(307対263)で可決した。しかしドイツ連邦監視機関は新しいゲノム編集技術を使って改良された植物に「内在しているリスク」が軽視されており、科学的根拠はないと警告をしている。そしてEU各国では、新しい範疇のGMOsが特許で保護すべき対象かどうかの論争が、いまだに続いている。 新しいゲノム編集技術(NGT)の作物種は、アメリカでは既に市場に出回っているが、EUでは2001年制定のGMO指針の対象となっており、検査や追跡情報や表示義務等が求められる規制下に置かれている。 【作物に遺伝子工学処理を行う歴史は古く、先行した技術が生物の種の壁を超えて遺伝子操作を行うことを特徴とする、いわゆる遺伝子組み換え作物(genetically modified crops , GM作物)であり、次に出てきたものが種の壁を超えることは避け、一つの種が持つDNA内で遺伝子を操作することを特徴とするゲノム編集作物(genome editing crops, GE作物)。欧州議会や委員会及び各国では、GM技術を古い技術とし、新しい技術(ゲノム編集)で生まれるゲノム編集作物や種子を厳密に分け、現状では、この新しいゲノム編集作物が『従来の古い遺伝子組み換え技術』に課せられた規制指針と同じ土俵で取り扱われる状況を問題視し、『新しいゲノム編集技術』に対してはGM技術とは切り離し、緩い運用を求める法案を、今回賛否を問うたと言え、その法案が僅差で欧州議会を通ったという状況である】 投票では、中道右派の欧州人民党(EPP)とリベラルなRenewグループが賛成に回り、中道左派の社会党と民主党は賛成・反対が相半ばしている。つまり緑の党と左派は提案を全面的に拒否することができなかったといえる。 この投票の結果、ポルフィエール氏率いる議会交渉団が政府代表と会談し、最終的な法案をまとめる任務を負うことになっている。 法案賛成派は、欧州の食料安全保障の強化に繋がる・気候変動に対処できる・肥料や農薬の使用量が低減できる等を指摘し、投票結果を歓迎している。 環境保護団体は一様に投票結果に否定的で、「欧州議会は人々の健康、環境、そして欧州農業の将来を守る義務を果たしていない。農家らが高い代償を払い、種子企業にますます依存するようになっていくだろう」と指摘している。 一方、同じタイミングでドイツの連邦自然保護庁は政策の公表を行っており、そこにおいて「新たなゲノム編集技術に対する規制に対しても、科学的根拠がある方式で行う必要性があり、もしその条件を欠けば、その考え方は予防回避原則に反するものであり、リスク回避が不充分になる恐れがある」と訴えている。この主張は、フランス食品安全庁(ANSES)と一致した主張であるという。 欧州の有機農業を行っている団体の評価は一面的ではない。 新しいゲノム編集に対する安全性検査の緩和に関しては、反対の立場。 有機農業の場から、「新しいゲノム編集を含めて全ての遺伝子工学技術を利用する作物を排除すべきとし、ラベル表示義務を課す」という法案内容には賛成の立場。 しかし、「新しいゲノム編集植物の特許化を全面的に禁止する」という法案内容については、有機農業団体は懸念があるとし、この内容では巨大バイオ企業が市場を独占したり、農家が煩わしい契約に縛りつけられたり、特許品目が有機農場に根付いた場合に訴追される恐れがある、とする懸念を表明している。 2つ目は、アメリカの情報で、「GMOsは安全か? 科学という衣をまとった食べ物の科学を府分けする」Time.com 2024年1月5日 Jamie Ducharme氏記す、になります。 最初の遺伝子組み換えトマトがアメリカで販売されてから30年が経つ。 科学の衣をまとった食品に対し、懐疑心を持つ人は今も多い。 2020年のPew研究センターが行った調査によると、遺伝子組み換え食品が安全だと思っている人はアメリカでは27%、安全ではないと思う人の38%より低いのである(分からないとする人は33%)。 この傾向はアメリカだけではない。例えばフィリピンでは昨年初めて大規模に収穫された遺伝子組み換え米の「ゴールデンライス」に対し、活動家らはこの米が充分な検査を経ていないし、売りであるβカロテン含有(ビタミンA欠乏症による視力障害の予防を目的)という特徴も、遺伝子操作に頼らない、もっと安全な手法で解決できると指摘し抗議を行っているのである。 フィリピンの農民団体(MASIPAG)は「ゴールデンライスは飢餓と貧困に疲弊するフィリピンの抱える難題の解決策には全くなり得ない」と主張している。 遺伝子組み換え作物(genetically modified organism, GMO)の反対運動には長い歴史がある。反対運動は、多くの市民の懸念に基づいている。従来の食べ物とは違う毒性の問題、アレルギー症状が高進する、あるいは遺伝子組み換え野菜や畜肉を食べると人の遺伝子に変異が引き起こされるのではないか、という不安感が背景にある。 遺伝子組み換え作物を規制する機関の食品医薬品局(FDA)・米農務省・米環境保護庁は、GMOは安全と主張しているが、やはりこれらの食品に警戒心を持つ人は多いのである。 アーカンソー大学・農業経済学のトレイ・マローン氏は、「科学技術恐怖症(technophobia) という症状はとても一般的なものであり、古き良き時代に戻ることができれば、といった懐古趣味とも言えるもので、遺伝子編集(GE)や遺伝子組み換え(GM)に反対する風潮を生みだす心情的システムになっている」と指摘する。 多くの人が気付きにくい点に、人類は非常に長い期間、作物の改善を目指し、作物をいじくり回すといった努力を積み重ねてきた歴史があるということがある。 農民らは、数千年にわたり収穫物の中から最も良い形質の種を残し、次に使うことを繰り返して、将来の収穫量改善を目指し努力を重ね、時には異なった種の間での交配と言われる品種改良を、行い改良を継続してきた。 現在のトウモロコシ・バナナ・リンゴ・ブロッコリ等、皆そういった努力の結果出来て、今に繋がっているのである。 「遺伝子組み換え」とは、人類が長い期間積み重ねてきた作物の改善活動に関連する行動であり、高度の科学性を、身をまとっているものと言える。 行動の狙いは、例えば食べ物の香りを改善したり、栄養価値を高めたり、見た目を良くしたり、害虫からの食害を受けにくくしたり、といった形質を作物に持ち込むことである。 例としては、デルモンテのピンクの新鮮パイナップルやArcticリンゴ(arctic apple:カナダの企業が供給する褐変防止の形質遺伝子をリンゴに組み込み、皮を剥いても褐色化しない)がある。 これらの話題は注目をあび、人目に付く機会は多いのであるが、アメリカで販売されている遺伝子組み換え食品の割合は実は僅かなである。 ノースカロライナ大学の農学教授のフレッド・グールド氏は遺伝子組み換え作物についての啓発活動を数多く手がけているが、彼は啓発活動の中で、スーパーで良く見かける光景の写真を使って、聴衆に問いかけるという。即ち写真の野菜の中で遺伝子組み換え野菜はどのくらいあると思いますか?それに対する答えはまちまちだが、中には90%程と答える人もいるという。しかし正解はゼロである。 確かにスーパーにおかれている遺伝子組み換え果物や野菜は、夏かぼちゃ(summer squash)やパパイヤや前記のパイナップル・リンゴ等幾つかある。そして10年前頃からFDAは遺伝子組み換えシャケ(成長が早いという特徴を持つ)やある種のアレルゲンを削除した豚肉を承認している。しかしながらアメリカ国内では遺伝子組み換え食品は加工食品の形に代えられて販売されることが多いのである。例えば調理用油や大豆製品・甘味料やスナック菓子類の形で出回っている。 実態としては、アメリカ国内で栽培される大豆・トウモロコシ・テンサイ(砂糖大根)や菜種(canola)のほとんど全ては害虫耐性(Bt形質の組み込み)や農薬耐性(glyphosate形質の組み込み)遺伝子を組み込んだ遺伝子組み込み作物なのである。 これらの遺伝子組み込み作物はアメリカ人が毎日食べる多くの包装菓子・スナック菓子向けに利用されているのである。 これらのスナック菓子類を毎日食べているアメリカ人たちは数十年にわたる「生体実験」に付き合わされて来ているともいえる」とグールド氏は指摘する。 アメリカ人やカナダ人は遺伝子組み換え食品を、今言ったように数十年摂食し続けてきている一方で、海外の人達の遺伝子組み換え食品の摂食頻度は少ない。 ここで、もし遺伝子組み換え食品(GMOs)が重篤な健康上の悪影響を持っているとすれば、北米に住む人々と欧州に住む人々との間の健康状況を比較する研究を行うことで、そこに明白な違いが観察されるはずである。 しかし、「データを見る限り、そのことを示すいかなる兆候も観察されない」とグールド氏は語る。即ち発がん性・肥満性・腎臓機能障害・胃腸傷害・自閉症等におけるアメリカ及びカナダ対欧州との間には遺伝子組み換え食品に基づく違いは観察されないのである。 動物を用いての実験においても、遺伝子組み換え食品が催奇形性・器官損傷や生殖機能の点で問題を起こすという証拠は認められていない。 リスクというものはかなりの時間が経ってから起こる可能性があるとも言われる。しかし今までの研究から得られていることから判断すると、そういった懸念も小さいのではないかと思う、とグールド氏は語る。 現在までに入手できる情報をもとに、マローン氏は、遺伝子組み換え食品を恐れるに足る明白な理由はなく、反対に遺伝子組み換え食品の利用を擁護する多くの理由が存在していると指摘する。 ゲノム編集(GE)技術は、栄養性を高めるだけでなく、農業と食の生産システムを合理化し、システムの持続可能性を高める働きがあると、マローン氏は指摘する。 研究の結果が示すように、遺伝子組み換え作物の栽培は、収穫量を増大させることができ、よって農家はより少ない耕地面積でより多くの作物を手に入れられるとし、結果的に農薬等の化学合成薬剤の使用削減ができると指摘する。同様のことが成育の早い遺伝子組み換えシャケの養殖において、従来に比べて投入資源の削減が可能だ、としている。 マローン氏は革新的技術がしめす明らかな利点を訴えていくことが、遺伝子組み換えの社会的認知度を高めるのに有効だ、としている。 以上、GM作物とGE作物の現状と規制状況を紹介したが、GM作物とGE作物が持つ利点に関しての評価には、欧州とアメリカとの間に違いがあることは明らかである。 ことにアメリカのタイム社の記事では、結論的主張としてマローン氏の考えを紹介しながら、未だ認知度の低い遺伝子組み換え作物と食品の社会的認知度を如何に向上させていくことが必要なことであり、その為には革新的技術がしめす明らかな利点を訴えていくことが求められるとさえ、主張している点がアメリカ社会の現状を如実に表していると思う。 このアメリカ社会の現在の考え方(多国籍巨大企業が、革新技術の力を背景に、全てを差配し支配する農耕システムの推進であり、そこには数千年の歴史的重みを持つ市民の介在する権利は無視されている)が、ある意味一面的であり、楽観論に頼りすぎているのではないかという視点の情報を、これから紹介していく予定です。 かかる観点で紹介したい情報量はかなりのものになります。 今回は、最後にその一端を紹介する形で締めくくりたいと思います。 紹介する記事は「ブラジルにおける遺伝子組み換え作物と農薬の利用:拡大する危険性」 「Use of genetically modified crops and pesticides in Brazil: Growing hazards」 researchgate.net 2024年1月13日 要旨部分の紹介です。 遺伝子組み換え作物(genetically modified crops, GM crops)は2003年にブラジルで正式に承認された。本報文は、この技術導入後の13年間(2000年~2012年)の期間の農薬利用の実態を確認することを目的としている。 確認する測定項目は、農薬の使用量(kg)、一人当たりの農薬使用量(kg/1人)、ha当たりの農薬と除草剤の使用量(kg/ha)、作物生産性(kg/ha)である。 GM作物の導入により、農薬使用量は減少していくだろう、との我々の予想に反して、農薬全体の使用量は13年間で1.6倍に増大した。大豆に限ると、13年間で農薬使用量は3倍化している。 ブラジルではGM作物の採用により、農薬使用量は拡大し、結果として環境への影響及び人への暴露量の拡大化が起こっている。 どうやら、GM作物・GE作物の農業システムへの導入が、イコール使用農薬量の削減、環境への負荷軽減に役立つというアメリカ型農業システムの表看板には、直ちに首肯できない色々の話が有りそうな雲行きです。 次に続きます。
0054
2024年七夕都知事選を振り返って
yo-chan
07/11 16:07
2024年七夕都知事選を振り返って 簡単に言えば、また利権政治を善とする既得権益層から仕掛けられた策略に嵌ってしまった結果が、目の前に現れただけ、ということだろう。 利権や既得権で繋がる自民を中心とする保守支持層は、有権者の25%程とよく言われる。そして、この層は何があっても、棄権せずに保守政治の支持にまわるのである。 今回の投票率は5%程上がり60%に届いたが、25%程の保守岩盤層の存在は、数字上はそれだけで全投票の42%程になる。この状況のなかで反対勢力が勝つ条件は、ただ一つ、反対勢力の候補が複数にならないこと。これに尽きる。 利権政治を善とする既得権益層が仕掛けた今回の策略は、まさに反対勢力の分断化であり、複数化であった。しかも、その策略にかける彼らの思いがアカラサマに表面に浮き出ることのないよう、即ち彼らの策略の思いがさとられることで、逆に市民から反発を受けることのないよう、極めて巧妙なやり方で既得権益層は選挙戦を取り仕切ったと言える。 即ち、立共の押す候補の露出度・注目度は極力抑え、一方で第3の対立候補に多くの注目が集まるような報道が選挙期間中続けられたと言える。 結果は正に絵に描いたようなものだった。 当選候補が約43%で、第3の候補が約24%、そして立共候補が約19%。現職の得票率がまさに上に予想した42%程とわずか1%の違い。2位と3位の分断度合いも正に利権・既得権 益層が思い描いていた通りの結果が出たと言える。 利権政治を善とする既得権益層が仕掛ける策略に対しては、こう言う別の見方がある、とか、こんな考え方も別にあるということを折々に指摘していくことは大切だが、必要以上に彼らの策略をあげつらうことだけに、血道をあげることは反対勢力が取るべき健全な対応とは思わない。 利権政治を善とする既得権益層は、彼らなりに普段の日常生活に密着した活動をしているのである。例えば、町内会活動や何々通り商店会活動や消防団活動等々、そして最も手ごわい彼らの活動と思う朝のラジオ体操活動。彼らは普段の生活に密着した活動の中で地道な教宣活動を行っていると言える面があるのである。 例え、参加する全員が利権政治を善とする既得権益層の人々ではないと仮定しても、やはりかなりの人数が、少なくとも現状が大幅に変わるやり方には、二の足を踏む人々が多いのも事実であろう。 翻って、彼らの利権政治を善とする政治システムに対して、反対の意思を持つ勢力は、普段の生活に密着した活動の中で一体どんな魅力ある対立活動を打ち出せていたのだろうか? こんなことをやっている、と言うかもしれないが、残念ながら、少なくとも普段の日常生活に密着した仕掛けが、見えてこないのである。そして見えているのは、相も変らぬ、たまに気まぐれに吹く神風を期待しての待ちの姿勢だけなのである。 ここに大きな問題があり、何とか智恵を絞って身近な日常生活に結び付く、しかも利権政治を善とする層の行う活動とは明らかに違う対立した活動を創造し、具体的に行動化していくことが、対立勢力側が第一に普段の活動として取り組むべき事柄と思っている。 如何なる選挙であろうが、利権政治を善とする勢力は今後も巧妙な策略を弄してくるのは明らかであり、それを乗り越えるには、嘆いているだけでは前に進めないということだ。 そこで、一案を最後に記し、参考にしてもらえればと考えます。 対立勢力側の日常活動の一つに、自公政権や都政・府政等が執行している具体的政策ごとに、その『進捗状況を見える化するシステム』を作りだす努力を行うことを挙げたい。 そしてそのシステム作りの活動状況を例えシステムが出来上がる前の中間段階であろうと市民に訴えかけていくということです。『やってる感』を上手く訴えかけることも智恵の一つでしょう。 システムが出来れば、それをもとに進捗状況を市民が日々の暮らしの中で確認できるよう運動を進めていくことを勧めます。 即ち市民は、普段の日常生活の中で対立・反対勢力側の存在を意識することになり、そして政権担当勢力側の打ち出す政治に対しては、市民が適宜に具体的にチェックできることになり、市民にとってはその過程全てがそのまま民主主義の根本原理にふれているという実感を持てるということに繋がるのではないか、と考えております。 あくまでも一つのアイデアです。こんなことから始めて行かない限り、また選挙戦になれば、反対勢力・対立勢力側は巧みに目立たなくされ、望ましくないことだけに注目が集められるという今回の教訓が全く生かされず、毎度毎度、又まんまと上手く嵌められたなー、で事が進んでいくといった懸念を持っております。
0055
地球沸騰時代の野生生物の窮状からみた世の中の『進歩』の度合
yo-chan
07/17 10:20
地球沸騰時代の野生生物の窮状からみた世の中の『進歩』の度合 「社会の進歩」は望ましいとの思想がある。この思想をもとに『地球沸騰時代は脆弱な生命体ほど厳しい状況に置かれる』という現実を紹介する情報をもとに、「進歩」という視点から見た我々の世の中の現在地を考えてみたい。 1971年、市井三郎氏は「歴史の進歩とは何か(岩波新書)」のなかで、進歩思想の歴史を紹介しつつ、次の考え方・モノサシを「社会の進歩」の指標として提案している。 私流表現になるが、大筋で市井氏が主張する指標は『合理的・正当な理由がなく、当人に責任を負わせることは不当であり理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境を受け入れざるを得ない脆弱層が存在するのであれば、その脆弱層の存在を少なくすればするほど、その世の中は進歩している』という、考え方・モノサシを市井氏は示したのである。 半世紀以上が経過した今でも通用する、生き生きとした見方だと思う。 ここで、「正当な理由がなく、そして当人に責任を問うことは理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境」とは、現在我々が直面している地球沸騰時代の熱波であり、洪水であり、山火事等々であり、我々は世界の現実としてそれらを日々目にしているのである。 そして「脆弱層」とは、視野を狭くすればグローバルサウスの国々が一例になるだろうが、我々はもっと視野を広げる必要があるだろう。 即ち、地球沸騰時代の対処を放置したり遅らせたり、あるいは判断・手段を誤り、現在既に進んでいる望ましくない方向が更に進行して行けば、ゆくゆくは地上の全員(人間だけではない)が脆弱層になるのである。ここでは脆弱層の代表として野生生物を取り上げて、話を進めていくが、話の内容は当然野生生物だけの問題でないことは当然なことである。 この様に考え、我々が「社会の進歩」を進めたいと希望するのであれば、地球沸騰時代に生きる我々に求められることは、市井氏の示した「進歩のモノサシ」からハッキリ見えてくる。即ち、我々のやるべきことは、「地球沸騰時代の厳しい環境に苦しむ脆弱層を如何に減らしていくか」ということになる。それが『我々の世の中の進歩』に繋がる行動にもなるのである。 そしてそれを進める上で前提として、どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか、といったことも把握して行くことも求められるだろう。 では目標とする「脆弱層を如何に減らしていくか」の動向の世界の現在地はどうであるか。これは、容易に判断は難しいものの、COPやG7、G20、EUや拡大BRICS・ASEAN・アフリカ連合等の動向を注視していくことで、見ていくことになるだろう。 但し現状は、例えばGHG排出の点で責任がないにも関わらず熱波や日照り・水害・山火事・海面上昇等の窮状に苦しむ脆弱なアジア・アフリカ・中南米や島嶼国の人々がいる一方で、彼らが行う緩和策や順応化策に向けた活動資金の提供を後へ後へと先延ばししている先進国主導のCOPの動向を見るにつけ、世界の現在地には明るさは余り感じられない。世界の主導層の想定する「社会の進歩」に、脆弱な全ての国や市民や野生生物が含まれていて欲しいものだが、果たしてどうなのだろうか。注視を続ける必要がある。 今日の本題に移りますが、もう一つ今後この問題を考えていく際に心に留めておくべき点として、1つは地球沸騰時代の過酷な環境に対して緩和措置・適応措置を講じる際にも、そこには『格差』が現在、厳然として存在しているという事実の認識と、そして2つ目に資本を武器に社会の変革を、技術革新競争を勝ち抜くことのみを目標として推進して行こうとする信仰とも言える考え方が世界の支配層や、我々にも存在しているという認識を持つことが大切と思っております。そして、それら信仰を持つ層には強大な力がある。彼らの力を『上からの圧力』とすると、市民側の『下からの圧力』をどう醸成していくかが大切な視点と考えております。 では今回のテーマです。上に説明の2番目の課題の『どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか』という話題に関係する情報(脆弱層の代表として野生動物を取り上げている)を提示します。 責任がないにも関わらずに、そして緩和も回避する術も力も持ち合わせていないことから地球沸騰時代の被害だけを甘受せざるを得ない代表者として野生動物を取り上げ、地球沸騰時代の被害を理不尽にも受けているのは人間だけではないということ、そして野生動物の窮状を通して、我々社会にある格差の存在する故に起こっている脆弱な人々のこと、そしてその窮状が継続することから懸念される我々社会に広がりつつある新たな脅威の拡大に関連する情報と捉えています。 紹介する情報は次の2つです 1. 何故野生動物が不眠症になるのか? Vox.com, 2024年6月2日 Benji Jones氏記す 2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める Insideclimatenews.org, 2024年5月7日 Kiley Price氏記す 概略を伝えることを念頭に置いております。詳細は出典に当たって下さい。 1、何故野生動物が不眠症になるのか?(Why some wild animals are getting insomnia) 暑すぎる寝床で数時間、べた付く汗で眠れずに横になっている気分位、嫌なものはない。 過度の熱気は安眠を邪魔するが、それは我々が持つ自然放冷機能の作動を熱気が妨害するからだとされている。 しかし、多くの人はエアコンや扇風機をオンに出来るという幸運に恵まれている。だが野生動物には、そんな幸運はない。 哺乳動物に関する新たな研究報告が2つ出ており、それらによると、例えばチェコの野生イノシシは暑い夏の時期の安眠度合いが、涼しい時期に比べて17%低下するという。 もう一つの研究は、アイルランドの小鹿もまた夏の暑い日の睡眠がより短く、睡眠の質がより悪くなることが指摘されている。 即ち気候変動の結果、夏季の暑さが高進すると動物たちは睡眠が妨げられることになり、その結果、彼らの免疫力は低下していき、生存が危ぶまれる可能性が出てくる。 そして、生息地の移動が促進されたり、それに基づく伝染病の拡大が起こったり等々の、従来は保全されていた自然界の生態系の均衡が破られる恐れが出てくることになる。 動物たちの睡眠状況を観察することで、科学者らはそのような事柄を調査している。 ブリストル大学研究員のEuan Mortlock氏は、動物たちの睡眠状況の観察を研究対象にしている。対象は、大は大型の哺乳動物から小はミバエ(fruit flies)までを観察している。 「動物たちが起きている時に行う様々な行動が興味深い研究対象であって、睡眠行動というものは、この起床時の興味深い行動の時間と次の起床時の行動の時間を単に埋めて、繋いでいるだけの存在だ、と多くの人々は捉えていると思う。しかし私はこの睡眠行動を最も興味深い観察すべき行動の一つだと考えている」とMortlock氏は指摘する。 睡眠行動を、観察すべき興味深い研究対象だと考える理由の一つは、恐らく海綿動物を除いて全ての動物が共通して睡眠行動をとっているという点である。アザラシは300mもの深さまで潜りながら昼寝をし、クラゲは脳に相当する部分がないにも関わらずに睡眠状態になり、そのときクラゲの脈拍数は低下することが判っている。 ショウジョウバエも昼寝をする。その際ショウジョウバエは頭を少し下に傾け、触角は垂らしているという。 睡眠は、人にとっても動物にとっても非常に大切なことであり、例えば免疫系の改善や脳の働きを良くするといった様々な効能がある。従って睡眠を妨害する環境の変化は、生存や生態系に深刻な影響を与える可能性があるのである。 人の睡眠は、FitbitやApple Watchなどを使って追跡が可能であるが、野生生物に対して、Mortlock氏らは加速度計と呼ばれる装置を、捕獲した動物に取り付けることでデータを採集することに成功している。 この方法を用いると、様々な動物の睡眠行動やその他の行動の情報を入手することが可能となり、例えば、暑さや寒さその他の気象状況による野生動物の行動様式の情報を得ることができるという訳である。 Mortlock 氏らは2019年からイノシシを対象に、この方法を用いて監視活動を行い、睡眠時間と睡眠の質を測定し、得られたデータと気温や湿度といった気象データと比較し、それらの関係性を調査してきている。 得られた発見に「気温が高いと睡眠は短くなり、断片的になり、睡眠の質の低下が起こる」がある。また雪や雨の天候のもとでは、睡眠の質は高まることを認めている。これらの天候では動物の体温が低下することになり、その影響と考えている。 Mortlock氏らはダブリン近郊の公園の小鹿を対象に300日以上のデータを蓄積し解析を行っている。小鹿の場合も暑い日の睡眠時間と睡眠の質は、イノシシと同様に低下することを認めている。 非営利団体Climate Centralの報告によると、猛暑日が昨年世界全体で平均26日分増加したとされ、Mortlock氏らの研究結果と付け合わせると、野生生物の世界で、睡眠の質の低下状況が生まれている可能性が懸念されている。 睡眠不足は、野生動物の免疫性に影響を与え、病気になる可能性が高まり、子供の世話に費やす時間が低下するといった影響が出るとされている。 ここで、野生動物らは適応性の高い生き物だということを意識することも大切であり、気温や湿度の上昇により睡眠に悪影響が出る状況に置かれた場合に、彼らは行動様式を変えていくことも考えられる。例えば、体温を下げるため水浴び回数を増したり、寒冷地への移動を行うこともある。 彼らが取るこれらの適応行動によって、野生動物が人間の生活圏に接近する可能性が高まることが起こるのである。 猛暑や熱波は野生動物にとっても間違いなく様々な課題を突き付けるものである。野生動物たちは既に森林伐採や密猟などの脅威にも曝されてきているのである。 2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める(Climate Change Is Pushing Animals Closer to Humans, With Potentially Catastrophic Consequences) 気候変動が原因して、世界の動物の行動範囲に変化が起こっている。 それぞれの動物の広範な生活場所の配置替えにより、動物は人間の生活圏への接近を強要され、悲劇を生む可能性が高まっている。 気候変動が原因して人と野生動物との間に争いや接触が世界的に増え、人獣共通伝染病のリスクが高まり、世界にあふれ出てくることを示す研究報告例が増えてきている。 最近の事例を紹介していく。 (1) 人と野生動物との間の争い・接触の増大 熱波や海面上昇に加えて、アジア・サハラ砂漠以南のアフリカ・オーストラリアやフロリダに住む人々の間では、気候変動の進行につれて命に関わる毒蛇との遭遇の懸念が高まってきている。 最近の研究によると、気温上昇につれてある種の毒蛇(アフリカ西部のクサリヘビgaboon viperやアジア・サハラ砂漠以南に住むエジプトコブラ)の生息域が拡大しているという。 多くの毒蛇の生息域が、気候変動の進行により失われていく可能性があり、その結果危険な毒蛇の生息域が耕作地や家畜飼育場と重なっていく可能性が、ことに低収入諸国で高まると研究者らは見ている。 WHOも、この状況を注視しており、各国に解毒剤備蓄を増やすこと・人々に毒蛇への注意喚起を進める等の「緊急行動」を1月に要請している。 地球沸騰化により、冬眠と呼ばれる蛇の静止状態からの目覚めの時期が早まってきており、オーストラリアの蛇の活動が高進していることを、生物学者らは既に認めている。 「蛇が早い時期から活動的になり遅い時期までその活動が続くということは、それだけで終わるものではなく、蛇たちは夜遅くまで活動的になっているということを意味している」とクイーンズランド大学の生物学教授のFry氏は指摘する。 フロリダ・エバーグレーズでは、地域をはいまわるビルマニシキヘビ(1980年代にペットとして移入)の数が増えている。そして今や気候変動の影響で北部地域へと生息域を拡大している、と米地質学会は指摘している。 蛇以外の野生動物と人との争いについては、複雑さがあると言われている。 例えば、北極クマは氷塊の溶解進行により陸地での狩りの機会が増えており、人々との接触機会が拡大している。 過去20年の動向を見ると北極くまの生息域は移動しており、悲劇的な遭遇が起こる可能性が高まっているとワシントンポスト紙は指摘している。 世界各地で、数えきれない衝突事例が観察されており、人にも野生動物にも被害が起こる可能性が出てきている。 (2)動物起源の伝染病の発生 鳥インフルエンザで見られるように、人獣共通伝染病は常に一つの生物種に局在するものではない。 気候変動の進展につれて、人と野生動物との間合いが狭まるにつれて、これらの人畜共通伝染病の蔓延が進行し、流行化へと転換をおこす機会が増えることをフィナンシャルタイムズ紙が報じている。 多くの場合、流行化への転換を引き起こすきっかけとなるのは極めて小さい生き物、即ち蚊であることが多い。 高温化により、蚊は生殖再生産を加速し、人畜への咬みつきが増え、そして生息域の拡大等が相合わさって伝染病の伝搬が促進されることになる。 WHOの2023年報告は、ハマダラ蚊が原因であるマラリアの流行と気候変動との関連性を報告している。 同様に、蚊が媒介するデング熱が、従来感染が見られなかった地域にも広まっている、とされており、その理由は気候変動及び都市化の進行だとしている。 ペルーにおける感染の拡大がことに懸念されており、今年のデング熱により死亡者数は3倍以上とされている。「蚊が気候変動に適応してきており、従来よりも生殖再生産速度が速まっている」とリマ大学の伝染病学者のTarazona氏は指摘し、「ラテンアメリカ地域において極めて深刻な状況が生まれている」としている。 ダニが媒介するライム病と気候変動との関連性もまた研究されている。 研究によると、気温と湿度の上昇がダニの生育地の拡大に繋がっており、メイン州やウィスコンシン州で見られるという。 人獣共通伝染病の拡散を低減する目的で、諸国は共同体間の連絡網の利用やAIの活用等を利用する監視の増強を進めている。 熱帯夜が増加すると、野生動物の間で睡眠障害が深刻化し、結果として全ての脆弱層の生き物は疲弊し、その免疫力は低下し、精神状況にも懸念すべき状況が発生する恐れが出るのである。 一方で、人畜共通伝染病を媒介する蚊やダニはより活発化し、その活動域も従来の範囲を超えて広がりつつあり、これら人畜共通伝染病の流行により、脆弱層が更に影響を受けるという悪いサイクルの循環が起こることが大いに懸念される。 かかる「悪いサイクルの循環」の発生を如何に抑制し、脆弱層の健康・免疫力を改善し、伝染病の蔓延を如何に防いでいくかに、世界の行方は掛かっている訳であるが、市井氏のいう『進歩』という視点から見て、我々は脆弱層の窮状を低減していっている、明るい方向を目指しての道中に我々は現在いると、断言できるであろうか? また、我々の世の中は、支配層が差配する「進歩思想」だけに頼る、即ち技術革新至上主義だけに頼る「進歩思想」だけで、間違いなく世の中は『進歩』していけると言えるのであろうか?
0056
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−2)
yo-chan
08/12 11:58
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−2) 前回の(3−1)では、ブラジルを例として、遺伝子組み換え作物(GM作物)普及に誘導するシステムが農業向け化学薬剤の使用量を低減化するのでなく、逆に拡大する可能性があることを示す情報を紹介して締めくくった。このブラジルの例を紹介した2024年1月13日の情報の序論部分の紹介から始めます。逐語的な訳でなく、大意を伝えることを念頭に置いています。 (序論) ブラジルは、世界最大の食糧生産を誇る国の一つ。それに合わせて殺虫剤等農業向け化学薬剤の外部資源投入を拡大しており、2014年の殺虫剤市場規模は122億米ドルという。 2000〜2012年の期間で、単位面積当たりの農業向け薬剤量は2倍以上に拡大している。 これら化学薬剤が環境及び人の健康に対し悪影響を及ぼすとする研究例は数多くあり、かかる観点からすると、ブラジルの化学薬剤拡大の方向性は懸念すべき問題である。 「世界の農業薬剤の使用量の増大傾向」と「遺伝子工学的に除草剤耐性を付与した作物の利用拡大」との間に正比例の関係が存在することを数多くの研究報告が示している。 米国の研究では、1996〜2011年の期間、GM作物の利用により農業向け薬剤が18.3万t増大している(この量は全作物への農業向け薬剤使用量の7%に相当している)。 代表的なGM作物である「グリフォサート耐性形質を付与した大豆」の栽培に限ると、除草剤「グリフォサート」の利用は1995年に年2500トンだったのが、2002年には年3万トン(12倍)へと急増している。 除草剤、2,4−Dへの耐性形質を付与した種子の開発過程で、2,4−D耐性GM種子が実現した場合、2,4−Dの使用が3〜7倍に拡大するだろうとの予測がなされている。 ブラジルのGM作物は1990年代末に当初違法に導入され、2003年に正式に承認された。6種類のGM作物が承認されたが、利用されているのは3種(大豆・トウモロコシ・綿花)。 遺伝子工学的に導入されている形質は、可能性としては数多くあるが、現在組み込まれている形質は、「除草剤耐性」と「殺虫剤耐性」と「除草剤・殺虫剤の両方に対する耐性」である。 GM作物の作付面積の観点からブラジルにおけるGM作物の状況を見てみると、興味深いことが見えてくる。 即ち、今回調査した期間の最初の2003年のGM作物の作付面積は300万haであったのが、最後の2014年時点ではGM作物耕作面積が13倍以上の4220万haにまで拡大している。ブラジルの耕作可能面積は、2017年ブラジル政府発表データによると6340万haとされていることから計算すると、2003年時点ではGM作物は全耕作地の5%弱だったのが、2014年に66%を超えるまでに拡大したことになる。一方ブラジルには、耕作面積が2ha以下の小規模農家の耕作地が全耕地の23%存在しているとされ、これら小規模農家はGM作物の採用・普及は難しいとされており、この23%分を除外して計算し直すと、GM作物は導入が容易であり可能な全耕作地の86.5%に既に浸透していることになる。 【ブラジルの耕作可能面積(ブラジル政府データ):2017年時点で6340万ha 小規模農家数:390万、小規模農家の占める耕作地面積割合:23%】 極めて強烈な浸透・拡散力がGM作物にあったことが判る。 ここに浮かび上がるGM作物が持つブラジル国内への浸透力・伝播力・拡散力というものに注目することが重要と考える。 即ち、グリフォサート耐性GM種子を開発したモンサント社のビジネスモデルの訴求力が極めて大きかったこと、並びにこのビジネスモデルを受け入れる作物生産者側の思惑が上手く合致したことの相乗効果が働いたと思われる。 次にグリフォサート耐性GM種子を開発したモンサント社のビジネスモデルの現状を紹介する情報を基に、遺伝子工学を育種に応用するビジネスモデルの功罪を見てみたい。 紹介する情報は、『グリフォサート耐性作物(GR作物)の歴史と今後の行方(原題:History and Outlook for Glyphosate-Resistant Crops; Reviews of Environmental Contamination and Toxicology,2021 June 10)』になります。要約部分の紹介です。 1996年のグリフォサート耐性作物(Glyphosate-resistant, GR作物)の登場により、バイオ技術を作物に適用する研究開発の流れが開始された。 穀物栽培等を行う生産者らが、可能な限りGR作物を受け入れたことから、農耕史上最も急速に新規技術の利用が推進され、拡大化した事例となっている。 この技術の利用は、雑草対策としてグリフォサート[N-(phosphonomethyl) glycine]利用に依存することを要件としており、グリフォサートの継続的利用により、グリフォサート耐性の雑草が経年的に発現してくることは、当然の成り行きである。 近年、広範囲に拡大しているグリフォサート耐性雑草(GR-weeds)は、グリフォサートとは別の作用機序の除草剤に対しても耐性を発現してきており、GR作物を採用し栽培している生産者らは雑草の管理方法の変更に迫られてきている。しかし、北米と南米の生産者らは6種の主要穀物栽培に、この技術(GR作物)の利用を継続しているのである。 農業向け化学薬剤製造会社や種子開発企業らは、グリフォサートを利用する耕作法の延命を図っており、その方策としてグリフォサートと他の除草剤との組み合わせ使用の拡大策が有る。他の組み合わせ除草剤として、グルフォシネート[4-(hydroxy-methyl-phosphinoyl)-DL- homoalanine]、ジカンバ(3,6-dichloro-2-methoxybenzoic acid)、2,4-D [2-(2,4-dichloro-phenoxy)acetic acid]、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸2酸素添加酵素阻害剤(4-hydroxyphenyl pyruvate dioxygenase inhibitors)、アセチルコエンザイムAカルボキシラーゼ阻害剤(acetyl coenzyme A carboxylase inhibitors)や他の除草剤がある。 しかしながら除草剤製造会社はここ30年以上にわたり、新しい作用機序を持つ別種の除草剤の商品化は出来ておらず、現在販売中の薬剤の能力をほぼ最大限に使い果たしてしまっているというのが、現在のGR作物栽培者らの行っている雑草管理の状況と言える。 GR作物の栽培は今日でも主流であり、雑草管理はグリフォサートに相変わらずに依存しているけれども、抵抗性を拡大している雑草の能力には追い付いていないのである。 従って栽培者らは新しい技術を切望しているものの、かかる新たな技術は見えてはいない。 GR作物の利用が進んでいない地域への利用の拡大や、6種の主要GR作物以外の例えばGR小麦やGRサトウキビを開発し利用していく方策は残されており、それなりの可能性はあるものの、モンサント社の敷いたRoundup Ready(モンサント社の登録商標名)の革新的なビジネスモデルは終了したと言える状況である。 GR作物が利用され、そしてグリフォサートで雑草対策は万全だとする農業システムにはいくつかの問題点が存在していると考える。 その一つは今見たように、栽培に不可欠な除草剤を使用することによる雑草に薬剤耐性が必然的に発生するという問題である〈雑草だけでなく害虫や植物病原菌にも耐性が起こる)。 2番目の点は、例えばモンサント社のビジネスモデルの構築には、地域農業従事者らの考えや希望が全く組み込まれないシステムで研究・開発が進行されるという事実である。当然ながら、そこには大企業の利益最大化の思想のみが反映されているのである。 更に3番目の問題点として、ビル&メリンダ ゲーツ財団に代表される慈善基金や国際開発金融機関等の存在が世界のGM作物推進の背景に有るのであり、これら組織はその大きな資金力とともに世論をも形成し左右していくことが可能な情報発信力をも持っているのである。 換言すると、巨大企業は世界の小規模農家や先住民等が暮らす地域社会の声を聞かずに無視する形で革新技術を創出し、そのビジネスモデルを慈善団体や国際開発金融機関が有する資金力と情報発信力にモノを言わせて、世界に進めていく構図が浮かび上がるのであり、このビジネスモデルの浸透力と展開力の大きさは、始めに紹介したブラジルにおけるGM作物の浸透力と展開力をみれば驚異的だと言えるのである。 現在の農業には、少なくとも2つの耕作上の哲学が有ると考えている。 1つは大企業中心の革新技術の開発が先行し(革新技術開発競争主義)、それを契機にその開発されたビジネスモデルの拡大化を、国際開発金融機関や慈善財団が資金力と広告力を背景にトップダウン式に各国政府に押し付けていくシステムであり、アフリカの例でいえばAGRA的システムである。 もう一つは、AFSA的・ラ ビア カンペシーナ的なシステムであり、そこでは地域に密着し、その地域条件に適った種子を含めて農耕法全般の提案を、小規模農家や地域先住民等と地域の大学や組織の農業専門家とが協働して考案・採用していくというボトムアップ式システムである。 現在は、前者のトップダウンシステムのみが優先されている状況の存在の大きさが、我々に突き付けられている課題だと考えている。 少なくとも後者のボトムアップ式システムにも充分な資金が提供される仕組みを考えていくことが重要な視点と考える。 『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの(原題Beyond the Genome: Genetically Modified Crops in Africa and the Implications for Genome Editing; Development and Change 2023年1月5日 J.Sean Rock et al)』という報告がある。 この報告では、アフリカにおける農業の今後の向かうべき方向と遺伝子技術の利用の向かうべき方向との指針となる事柄が議論されている。興味深い情報なので 次に紹介します。 この情報は、遺伝子操作技術の中でも特に最新の技法である『遺伝子編集技術Genome Editing、GE技術』が出現した現時点において、アフリカの人々が、この技術に純粋に期待をかけている実態を指摘するとともに、一方では最新GE技術に先立つ数十年前に現われたGM(Genetically Modified)技術が辿った道程の轍を、今回のGE技術が繰り返すことのないような方策を指摘することを狙っているものになります。 (要旨)ゲノム編集技術(GE技術:遺伝形質の改変を促進する植物育種技術の一種)が、アフリカの農業技術開発に従事する研究者や専門家の想像力を膨らませている。遺伝子組み換え作物(GM作物)が数十年前に世の中に登場した時分を彷彿させるものがあり、ゲノム編集は、「高い精密さ・低コスト・短期間で結果が判る」ことから育種の常識を変革する可能性のある技術として歓迎されている。 この論文では2つの事柄を取り扱っている。1つ目はゲノム編集GE技術と以前の遺伝子組み換えGM技術との関係性を考察すること、2つ目は遺伝子組み換え技術の経験から学んだ教訓を、ゲノム編集技術の今後の方向性にどのように活かしていったら良いか、に関する一連の推奨事項を提示することである。 著者らの結論は、技術開発者・開発企業や政策担当者および科学者が、地域農民たちと共同してゲノム編集技術を開発していくシステムを優先することが大切であること、そしてシステムを全体として一体的に構築していくことの重要性を意識して進めていく必要があると考えており、1990年代当時のGMシステム開発の際の『遺伝子の開発・改変のみに焦点を当てたシステム組み立て』にならないよう注意を喚起している。 換言すると、知的所有権によって使用・利用に制約と利権が発生する作物を開発対象とするのでなく、地域ごとに特有の様々な作物を開発対象として選択し、利用することで資源保有の面で劣る地域共同体の農民らにも利用可能なシステムの構築を目指すことである。 複雑であり絶えずダイナミックに変化しているアグロエコロジー型農耕システムの中で、様々な種子が重要な構成要素の一つであることを認識してシステムを構築する必要がある。 これらの考え方が組み込まれない形式での開発システムになるのであれば、そのゲノム編集技術プロジェクトは過去に起こった失敗を再度繰り返す危険が出てくるであろう。 (序論) 2018年、Foreign Affairs 誌上で慈善事業家ビル・ゲーツがゲノム編集の有用性について熱烈メッセージを述べている。即ち「生命に宿る遺伝形質の改変操作を高速化できる植物育種技術であるゲノム編集技術(GE技術)は、従来最も脆弱な状況にある世界の農民たちを貧困から救い出す武器として有効だ。この技術の持つ可能性を失ってしまうのであれば、それは悲劇だ」と発言している。 政治家たちや政策担当者たちも同様の興奮に包まれていた。例えば前英国環境担当のMichael Gove氏はゲノム編集作物(genome-edited crops)が次に来る農業革命の推進力となるだろう、と発言している。 ゲノム編集技術が注目された事情には、2020年のノーベル化学賞がゲノム編集手段であるCRISPR-Cas9の開発者(E.Charpentier とJ.Doudna)に贈られたことが挙げられる。 ゲノム編集技術はアフリカ農業の開発・推進および転換を目指す専門家らにも刺激を与え、アフリカ大陸の農業を革新する可能性を持つ非常に大きな技術が開発された、と称えている(Komen et al 2020, Tripathi et al 2022、Mudziwapasi et al 2018, Li 2020)。 以前の遺伝子組み換え技術(GM技術)に比べて、ゲノム編集技術(GE技術)が、作物の形質転換のスピードの速さと精密さの点において優れていると、アフリカのゲノム技術擁護者らは指摘している。 これらのゲノム編集にまつわる楽観情報の流され方を見ると、遺伝子組み換え作物(genetically modified crops,GM crops)がアフリカに到来した当時のGM作物を支持する言説の流され方、説明のされかた、物語の語られかたを思い出す。 2000年代の初期、「グリーン革命」の父といわれるNorman Borlaug氏が、遺伝子組み換え技術は増大する世界人口を養っていく上で基本的に重要な武器だと主張した。 アフリカにおける停滞する収穫量の低さを改善し、小規模農民らの飢えと貧困を解決する役割を、このGM作物が担うとして、アフリカの人々もBorlaug氏が説くような話に魅せられていたのである。 GM作物に対し1.7億ドルを超す投資をし、現在もGM作物システムへの最大出資者であるビル・ゲーツ氏は、「アフリカ農民らが抱える栄養上の課題・生産性の課題・作物の疾病の課題をGM技術が解決を約束している」と主張している(Gates,2015)。 これらBorlaug氏やGates氏が謳うビジョンを実現すべくここ30年ほどの時間を使って様々な努力が為されてきたが、アフリカにおけるGM作物の現実・実態は、謳われた宣伝文句程には成果を見せてはいない。 農業バイオ技術の取得に関する国際サービス機関(the International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications, ISAAA)のデータによると、アフリカにおけるGM作物の耕作面積は2%以下であり、南アを除くと僅か0.3%となる。 学者らや活動家らは、GM種子の様な新しい種子技術が、アフリカ農業を如何に工業型への転換を促進するか、そして多額の資本が必要とされる中で農家らの興味を如何に優先して取りつないでいくか、の視点の重要性を指摘している。そして学者らや活動家らは、特許で守られている種子を持続可能な形で利用していくことがアフリカの小規模農家達にとっては困難であると見ている (Juma,1989;Kloppenburg 2004)。 社会科学者らもまた、アフリカにおけるGM作物栽培の拡張が妨げられる政治的−経済的要因を指摘している。それは、購入して利用する種子がコストの高い外部投入資源(肥料や農薬や灌漑設備等)を要求することであり、制約条件の多い作物管理体制を要求するものであるからである。 そしてアフリカの科学者らや農民らの介在が、研究開発段階や育種プログラム検討の時点で制限されていること、確立されている官民協力体制のシステムが、アフリカ農民の利益を優先するのでなく、技術提供企業者の利益を優先していること、そしてGM種子技術と目指すべき農業システムの目標との間の両立性を評価する方法が、妥当性を欠き不適切であること等が問題だと指摘されている(Dowd-Uribe,2014;Adenle,2014;Muraguri, 2010;Rock& Schurman,2020;Luna&Dowd-Uribe,2020)。 これらの批判的な意見の存在を踏まえての推進派と懐疑派との意見の交換が、現在のゲノム編集に絡んでの話題に欠けていることが、目立っているのである。 現在までの状況を観察しているBartkowski氏ら(2018)は、ゲノム編集が抱えている潜在能力・可能性や課題を広範なそして社会科学的な立場から分析している情報はほとんどないとしている。 例外としては、Kuzma氏(2018)がGM作物の遺産から学ぶことが重要な視点だと議論している。Shah氏ら(2021)は、ゲノム編集に関わる言説・説明・物語が戦略的に狭められ、利用されている点の問題を取り上げている。そしてMontenegro de Wit氏(2020)はゲノム編集が「民主化された」技術であるとの概念に疑念を示している。 この論文で、我々は、言説的分析(discursive analysis)と経験上得ている証拠とを組み合わせるやり方でもって、これら批判的な考察に貢献しようと考えている。 即ちアフリカにおけるGM作物遺産のどのような教訓が、今後ゲノム編集技術を理解し、利用していく上で役立つか? 結論的に言えば、過去30年間にわたり近代農業にバイオ技術が介在してきたことで生じた歴史的教訓を我々が適切に評価することが、GM技術とGE技術を擁護する議論が継続したことによって妨げられてきた点を議論することになる。 以上が(要旨)と(序論)部分の紹介でした。 この研究情報は、この後に多くの情報が詰め込まれており、全ての紹介は無理になります。 焦点を絞った形で次回に紹介致します。 ポイントは、GE技術擁護者の訴える3つの特徴(精密さ・コスト面・スピード)に関する擁護側と懐疑派側の論点の整理、そしてGE技術を成功裏にアフリカに普及させたいのであれば、どのような条件が必要なのかの議論を展開すること、になると思います。
0057
エムポックス(mpox)とはなにか? WHOが世界に健康緊急事態宣言を発した理由は?
yo-chan
08/15 10:19
エムポックス(mpox)とはなにか? WHOが世界に健康緊急事態宣言を発した理由は? (原題:What is mpox and why has WHO declared it a global health emergency) aljazeera.com 2024 Aug 14 Areesha Lodhi氏記す アフリカでウイルス性疾患が急速に拡大しているとして、WHOは最高レベルの警告を発表。 エムポックスに対する緊急宣言が発せられたのは、2022年以降今回で2回目となる。 WHOが水曜に発した宣言によると今年度のアフリカにおける感染者数は14000人を超えており、死者数は524人とされ、2023年の数値を既に越しているという。 WHOの宣言は、前日のアフリカ疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention in Africa;アフリカCDC)の宣言に次いでのことになる。 エムポックスとはなにか? 感染はどのように伝わるのか? 以前の流行に比べて今回の症 状はどの位危険なのか?等心得ておくべきことを以下に紹介する。 (エムポックスとは何か?) 主に人と動物が罹患するウイルス性疾患。エムポックスウイルスは「オルソポックスウイ ルス属(Orthopoxvirus genus)」に属し、通常皮膚に隆起や水泡を伴う発疹を含む水泡様 疾患を起こす。皮膚の隆起は液体や膿で満たされており、最終的にはかさぶたとなり、治 癒する。 エムポックスは,現在根絶している天然痘や牛痘に類似している。 1958年にサルで初めて確認されたことから、当初は「サル痘(monkeypox)」と名付けら れ、デンマークの研究所で飼育されたサルを用いて研究が行われていた。 1970年、最初の人への感染例がコンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo)の9カ 月の乳児で確認された。 2022年にWHOは、サルに限定される懸念から現在のエムポックス(mpox)への名称変更を推奨した。 (どのように感染が拡がっていくのか?) 感染している動物や人との接触を通じて感染が拡大していく。 動物から人への感染は、感染した動物に咬まれる、引っ掻かれる、あるいは感染動物の血液・体液または傷口に直接触れることから起こる。 人から人へは、感染者の皮膚病変や体液の直接接触や感染者の呼吸器からの飛沫を直接に受けること・感染者との長時間の対面接触・感染者が使用の寝具や衣類等の汚染されたものへの接触、といった3つの経路が有るが、最後の感染経路はまれに起こるとされる。 ウイルスは、皮膚の傷口・呼吸器器官・目や鼻や口といった粘膜から侵入する。 (どんな症状か?) 発熱・頭痛・筋肉痛・顔手足その他の部位に現れる特徴的な発疹が主な症状。 膿庖は大きな白または黄色のニキビのように見えるが、膿が詰まっており小さな隆起物状を呈する。 免疫システムの両脇の下や首の側面や後ろにあるリンパ節もウイルスとの争いで腫れることが有る。 感染により致命的となる場合がまれにあるとされる。 感染は2〜4週間継続し、症状の発現は感染後3〜21日とされる。他の人へ感染させる可能性は、症状が発現する1〜4日前からであり、無自覚での伝染が起こることになる。 エムポックスは発疹のサンプリング検査で特定できる。 (WHOが世界に緊急事態を宣言した理由) エムポックスの新たな変異株が確認されたこと、そしてこの変異株による感染例がケニアやルワンダといった幾つかの国で初めて確認される事態となっており、アフリカ大陸内および海を超えて他の地域への拡大の恐れがあると判断したことが宣言を出した一つの理由。 この宣言の発表により、各国及び各支援機関・団体は行動を起こすこととなる。 ジョン・ホプキンス大学医学部のアミタ・グプタ氏は「資源を動員する試みが現在真剣に進められており、この行動の促進を狙っての今回の緊急事態の呼びかけだ」と指摘している。 (エムポックスが拡大している地域) 先週アフリカCDCは、少なくとも13のアフリカ諸国でエムポックスが確認されたとしている。この状況は昨年同時期と比べて、症例数は160%増、死者数は19%増という。 現在までの所、症例の96%以上はコンゴとなっている。 今年初めに症状は軽く、性器の損傷を引き起こす新しい型のウイルスを研究者らが発見しており、この型のウイルス感染は発見が難しく、自覚なく他人を感染させる可能性があるとしている。 グプタ氏は「コンゴ民主共和国への出入りは少なく、現状のリスクは低いが、他のアフリカ諸国へ拡大すると、世界的な感染拡大の恐れが出てくる」と指摘する。 2022年7月の前回の緊急事態宣言時(2023年5月に緊急事態を解除)は、MPOXの系統IIにより引き起こされたが、現在の流行はより致死性の大きいとされる系統Iにより引き起こされている。 (ワクチンはあるのか?) エムポックス向けの承認された治療法とワクチンはない。 天然痘の治療薬の抗ウイルス薬テコビリマット(TPOXX)がエムポックス治療薬として研究が行われている。アメリカFDAは、18歳以上の重症多発性硬化症患者向けの天然痘ワクチン(イムバムンまたはイムバネックスの名で知られる)JYNNEOSの承認も行っているが、しかし現状では発症者の60%は18歳未満とされている。 当局はエムポックス感染者と接触した人のワクチン接種を推奨している。 グプタ氏は「コロナ禍で多くのことを学び、世界では感染監視体制は向上しているが、エムポックスが拡大するアフリカでの迅速診断や治療へのアクセスはまだまだ不足している」と指摘する。
0058
雷雨と豪雨が、今までの予測・常識をはるかに超えて激甚化する社会
yo-chan
08/26 14:04
雷雨と豪雨が、今までの予測・常識をはるかに超えて激甚化する社会 最近毎日のように、どこかで線状降水帯が発生したとの注意を喚起する情報が流される。 昨日は確か栃木あたりに発生していたと記憶する。 世界を見ても、豪雨による洪水被害の報道が多く為されている。ここ数日で見ても例えばバングラデシュで現在洪水被害が発生している。 以前パプアニューギニアの地滑りに関連する記事を紹介したが、その際、それぞれの地域の地形というものは、その地域の従来の気象条件との間に微妙なバランスがあり、そのバランスの上に地域の地形は成立し、保全されており、もしこのバランスをとっている一方の要素の気象条件が従来と全く違った場合には、その変化した状況との間に新たなバランスを構築しようとする力が働き、パプアニューギニアの場合は地滑りが発生することに繋がったと紹介しました。 今回線状降水帯や雷雨・豪雨の背景にあるメカニズムを紹介する記事があり、紹介してみたいと思います。 参考にした記事は、次の2つになります。 1.過剰に充電された雷雨:気候変動により引き起こされる異常な降雨や洪水を甘く考えていないだろうか?(原題:Supercharged thunderstorms: have we underestimated how climate change drives extreme rain and floods? The Conversation 2024 May 9 written by Andrew Dowdy et al) 2.致命的な洪水が発生し、バングラデシュで数百万人が孤立している(原題:Deadly floods leave millions stranded in Bangladesh AlJazeera 2024 Aug 23・25) 記事の忠実な紹介ではなく、大意を伝えるものです。 先例を見ない洪水を紹介する記事の中に、気温が1℃上がるごとに大気の湿度は約7%増えるという記載を良く目にする。 この7%増加という数字は、丁度今から200年前にフランスの技術者Sadi Carnot氏が行った研究の中に記されているという。 そして現在我々は、Carnot氏が1℃上昇ごとに7%湿度が上がるという事実以上の情報を手にしている。それは大気中に蓄えられた気体の水蒸気が雨粒へと凝縮する際に熱が放出されるということであり、この放出された熱が原因して雷雲中に強い上昇気流が発生し、周辺から更に湿気に富んだ空気を取り込んでいくことにより、更にエネルギーを増していく構図が出来上がり、結果的に今までに経験したことのない強烈な豪雨が産み出されるというメカニズムである。 このメカニズムにより発生する降水量は、気温1℃上昇当たり7%の湿度増加から予測される降水量をはるかに超え2倍から3倍の量になるとされている。即ち気温1℃上昇で14%〜21%多い降水量になると、されているのである。 最近の例で言うとブラジルの洪水被害(2023年11月)やドバイの飛行場の水害(2024年4月)がある。 オーストラリアでは、最新の気象科学情報を総合的に調査し、今後の洪水事象への対応指針を作成している。この指針によると、気温1℃上昇当たり、短時間に集中的に発生する雷雨の場合、降雨量が7〜28%増大すること、1日以上にわたる降雨の場合には2〜15%降水量が増大するとし、これらの予測降水量は既存の従来の洪水対策指針が想定している気温1℃上昇あたり5%の降雨量増大をはるかに超える降雨量が現実の実態を表していると、と指摘している。 従って、現在発生している雷を伴った豪雨というものは、我々が従来の予測をもとに対策を取っている安全基準をはるかに超える降雨量を実際にはもたらしており、洪水や地滑り・山崩れが起こり得る状況の中で我々は暮らしている、との認識が求められるのである。 バングラデシュ西部地域で少なくとも13人が死亡し、450万人に影響がでる洪水が発生している。先週金曜の当局発表によると、19万人ほどが避難所に退避し、バングラデシュの64の行政地域の内の11に影響が出ているという。 主要港湾都市のチッタゴンの北西100kmにあるフェニ地区の被害が最も大きい。 日曜の当局発表によると、洪水の峠は越え、水は引き始めているとしているが、いまだに30万人が避難生活を続けている。 災害対策担当大臣のAzam氏は「現在被害地域の通信環境の回復と食糧配布を目指す取り組みをおこなっている。合わせて伝染病被害の拡大を防止する対応も行っている」と話している。 世界気候リスク指標(Global Climate Risk Index)によると、バングラデシュは気候変動に対し最も脆弱な国の一つとされており、毎年モンスーンによる降雨被害が発生し、近年は異常気象のパターンの変化や極端な気象異常の増大が指摘されていた。 バングラデシュはつい最近数週間の政治的混乱の末に、ハシナ首相(当時)がインドに逃れ、ハシナ氏に代わってノーベル平和賞受賞者のムハンマド・ユヌス氏が暫定政権を率い、近く行われる総選挙前の民主的改革計画を推進している最中の洪水被害の発生になっている。 二酸化炭素の排出を早急に削減できなければ、人新世時代という、人が引き起こし進行し続けている異常気象の高進が要因となり、我々の想定をはるかに超す被害の甚大化が避けられないことになる。世界で頻発する事態にもっと危機感を持たなければならないだろう。
0059
国のメタボ対策の現状、並びにメタボ予防・改善に役立つだろうBRIの考え方、並びにBRIを利用すれば国のメタボ運動の推進状況の見える化が出来るのではないか
yo-chan
10/03 14:39
国のメタボ対策の現状、並びにメタボ予防・改善に役立つだろうBRIの考え方、並びにBRIを利用すれば国のメタボ運動の推進状況の見える化が出来るのではないか 「農業と食」関連の話題提供を行っているが、今回は健康に関連する「BMI値」の代わりに「より妥当性がある」と目される「BRI値」の話題を提示したい。 先ずは医療機関を巻き込んだ国の脱メタボを目指した運動の背景や動向あたりから始めて我が国の健康づくりに関する現状のおさらいをしてみたい。 21世紀に入りそれを契機に、国は国民の健康づくり運動の取り組みを始めている。 既に第一次並びに第二次の運動期間を終了しており、現在は今年から始まった第三次国民健康づくり運動(健康日本21:第三次)の最中である。第一次から第三次までの履歴を纏めると以下になる。 健康日本(第一次):2000年から開始の国民健康づくり運動。健康増進と疾病の予防に重点を置いた運動であり、この運動を推進すべく2003年に健康増進法が施行された。 健康日本(第二次):第一次の結果を踏まえて、2013年からの10年間の計画でスタート。 健康日本(第三次):2024〜2035年度を実施期間としてスタート。第二次運動終了時点でも目標に未達の項目がある状況の下、第三次運動の取り組みを推進するために、特に以下の4項目を定めて国民の健康づくり推進を図るとしている。 1. 健康寿命の延伸と健康格差の縮小 2. 個人の行動と健康状態の改善 3. 社会環境の質の向上 4. ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり この国民健康づくり運動の主な眼目は幾つかあるだろうが、やはり最大の眼目であり興味の対象でもあるものは、4つの取り組みの中にある2番目の『個人の行動と健康状態の改善』であろう。この目標は運動開始時点からの懸案であっただろう。 今回紹介したいBMI値とそれに代わり登場してきたBRI値の話題も、この『個人の行動と健康状態の改善』に関連する事柄であり、モノサシである。よって、これ以降は国民健康づくり運動全体を語るのでなく、最も大きな運動の目標である『個人の行動と健康状態の改善』、即ち個々人の健康状態を如何に把握することが、個々人の健康の増進に役立つか、に関して国が現在取っている具体的な行動に先ずは焦点を当てて見ていくこととする。 国が取っている具体的行動を見ていく上で、地域の医療法人のホームページの情報が結構役立つ。今回は「立川相互ふれあいクリニック」のホームページに紹介されている情報をも参考にしながら紹介を続けていきます。この医療法人のホームページには以下の記載があります。 2008年(平成20年)4月から「高齢者の医療の確保に関する法律」により、生活習慣病予防の徹底のために、メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導という新しい健診・保健指導が始まりました。 生活習慣病で亡くなる人は死亡原因全体の6割を占めるほどです。生活習慣病や重症な病気を発症する前に、今ご自分の生活習慣を見直して健康な生活を送れるように意識していくことがとても大切です。 この情報中のいくつかのキーワードについて詳細を更に紹介すると、 1.生活習慣病には:脂質異常症・糖尿病・高血圧・心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患・脳梗塞等の脳血管疾患 2.生活習慣病に係る医療費の状況:医科診療医療費総額(29.3兆円)の約30%(9兆円) 内訳(入院と外来両方を合算した額) 悪性新生物:3.4兆円 心疾患(高血圧性を除外):1.9兆円 脳血管疾患:1.8兆円 高血圧性疾患:1.8兆円 糖尿病:1.2兆円 (医療費データの出典:平成26年度国民医療費) 3.生活習慣病に係る死亡割合 悪性新生物:28.7% 心疾患:15.2% 脳血管疾患:8.7% COPD:1.2% 糖尿病:1.0% 高血圧性疾患:0.5% 合計55.3% (出典:平成27年度人口動態統計) 5. メタボリックシンドロームとは:腹囲85cm以上の男性および腹囲90cm以上の女性 といった内臓脂肪型肥満の状態に加えて、脂質異常・高血糖・高血圧の3つのうち2つ以上を併せ持つ人をメタボリックシンドローム状態の人とする。 メタボリックシンドローム及びその予備軍は、40〜74歳の男性では2人に1人、女性では5人に1人存在していると言われている。 メタボリックシンドローム状態を放置したり、更に高進したりすれば、糖尿病・高血圧症・脂質異常症を発症して薬に頼る生活が始まり、生活習慣を見直し改善を行わない場合には心筋梗塞や脳卒中といった重篤な症状へと転帰していく恐れが出てくる。 従ってこのような経過をたどっていくことを避けるべく、健康診断で健康状況をチェックし生活習慣を見直し改善していくことが求められることになる。 そこで、医療機関が行うメタボリックシンドロームに着目した生活習慣病予防のための健康診断である特定健診の意義があり、特定保健指導の意義があることになる。 今回紹介するBMI値もここに登場しております。 その特定健診の検査項目を見てみると、 必須項目として:伸長の計測・体重の計測そして腹囲の計測 尿蛋白・HDLコレステロール・GOT・GPT・γ-GTP・空腹時血糖・HbA1c・尿糖測定 上の特定健診の検査項目の中には、個人でも容易に測定できる項目がある点に着目して欲しい。 即ち、「伸長の計測」と「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つであり、今回紹介する情報に出てくるBMI値は「伸長の計測」と「体重の計測値」から算出されるものであり、もう一つのBRI値の方は、敢えて大雑把に捉えれば「伸長の計測」・「体重の計測」そして「腹囲の計測」の3つの計測値をもとに算出が出来るのであり、結論的に言うと、このBRI値が『人の健康状態』の良きモノサシとなる、と言えることから、現行の特定健診は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得ている健診だと言える。 但し、後半で述べるように、厳密なBRI値は「伸長の計測」・「体重の計測」「腹囲の計測」に加えて『尻廻り』の計測値も計算に必要としている点を指摘しておきます。 BMIとBRIの情報の紹介に進む前に、2000年頃から始まった我が国の国民健康づくり運動の推移の実態を示す情報を纏めとして紹介しておきます。 1.特定健診受診者数と受診率:2008年度の受診者数が約2000万人で始まり、2014年度には約2600万人。2008年の導入から毎年受診者は100万人増。2014年時点で全保険者の50%が受診。しかし目標とした70%には到達していない。他方、特定保健指導の2014年時点の全保険者平均実施率は18%。目標とする全保険者の45%を上回る優良な保険者は極めて少ない。ここで保険者とは医療保健担当機関のことを指す。国が医療保健担当機関の「尻を叩くも、目標には未達」の状況が継続しているのが目に浮かぶ。 2.メタボリックシンドローム人数:2008年度から2021年度にかけて、メタボ該当者及び予備軍は約1480万人から約1700万人へと220万人程増加。特に男性の増加が顕著。 3.大分県立看護科学大学からの情報に、「10年間の生活習慣が医療費に与える影響についての検討(小野治子氏記す)」があり、そこに以下の記載がある。 2018年の総医療費は年間43兆円、そのうち肥満を含む生活習慣病に関連する医療費は9.4兆円にのぼり、医療費の適正化のために生活習慣病の予防は喫契の課題です。 すなわち、特定健診や特定保健指導を10年間継続して行っているが、生活習慣病に関連す る医療費の低減化の結果を出す、という大目標の観点ではほとんどその効果が出ていない と結論付けられると思う所です。 このことは、例えば運動の進捗状況を『見える化』して、市民に如何に興味とこの課題の 重要性を絶えず意識の内に持ってもらうか、に掛かっているのではないかと感じており、 この点での運動の不十分さが残念に思われるところです。この点はまた最後に触れて見た いと思います。ではBMIとBRIの話題に移ります。 健康状態を見定めるのにBMI値を利用する。このやり方を捨てる時期に来ているのか? (原題:Time to say Goodbye to the B.M.I.) The New York Times、2024、9月6日、 Roni Caryn Rabin氏記す BMI(body mass index)値には欠陥がある、と永年にわたり批判が為されている。BMIに代わるBRI値(Body Roundness Index)に注目が集まっている。 BMI値は、伸長と体重とを測定することで算出でき、その値から人々を過体重・肥満・極度に肥満と類別化出来ることから、永らく健康状況を広範に調査する際に利用されている。しかしBMI値は、批判を最も受けている指標値でもある。 BMI値による類別化は、永らく疑問視されており、例えばBMI値が30であり、BMIによる類別化から言えば肥満の最前線にいるとされたアメリカのラグビーオリンピック代表のIlona Maherさんの例が挙げられる。Ilonaさんは、彼女のインスタグラムの中で彼女の体重でもって彼女を貶めるオンライン荒らしを行う人々に対して、「でも私はオリンピック代表に選ばれ出場できるのであって、あなた達は違う」と指摘しているのである。 過体重の人や白人以外の人に対してそれらの人々を擁護する考え方として、BMI指数は200年程も前に作られたものであり、大半が白人男性を対象に集められたデータからという来歴を有するものであり、医療における篩い分け・類別化を目的にBMI値算出法が作られたわけではないという考えがある。 医者達もBMIには欠点があることを指摘しており、昨年アメリカ医学会はBMIが人種・民族・年齢・性別・性の多様性等の考慮にかける不完全な指標だと指摘し、BMI値では筋肉質の人々や余計な部分に脂肪を多くためる人々を類別化することが出来ないとしている。 例えば「BMI値の観点からすれば、ボディビルダーでもあったシュワルツネッガーさんは肥満と診断され、減量を求められただろう」とイェール大学のMehal教授は指摘している。 「でも彼のウェストサイズは、32インチ(約81cm)だったのである」 かかる状況がBMI値の解釈とモノサシとしての利用には存在していたことから、新しいモノサシの出現が求められる状況があった。 従って「体の丸さ加減」にも着目するという新たな指標値(body roundness index; BRI)が2013年に提示されることとなった訳である。即ち、BRI値の算出は、伸長と体重をもとに算出するBMIとは異なり、伸長と体重と共にウェスト廻りと尻廻りにも着目して計測しているのである。 BRI値を求める計算式では、臀部や太ももに蓄積される脂肪分に着目するのでなく、2型糖尿病や高血圧・心臓病の発症リスク増大に密接に関連する体の中心部分や腹廻りの脂肪分の役割をより正しく評価することが可能となる工夫が為されている。 6月にJAMA Network Open に掲載された論文は、BRIが死亡率の有望な予測尺度になるとする一連の研究論文の最新の結果を報告するものである。(原報文中では、計算式に関連する議論が展開されており、数学に興味ある人は原報文に当たって下さい。またオンライン上でBRI値を簡単に算出してくれるサービスがあります。BODY ROUNDNESS INDEX CALCULATORに入り、単位をMetricに指定した上で、Kgとcmで伸長や体重、そして腹廻りと尻廻りを測って入力すればBRI値を提示してくれます。因みに私はBRI 4.5と表示されました。) BRI値は通常1〜15の範囲で、ほとんどの人は1〜10に収まる。1999年から2018年の期間、代表的なアメリカ人32995人を対象に調査したところ、BRI値の平均値が20年間で4.80から5.62へと上昇したことを6月の文献では報告している。また32995人の調査から得られたBRI測定値の中央領域の範囲は4.5〜5.5であったという。 ここでBRI値が6.9以上の人は丸みを帯びた体型とされ、ガンや心疾患や他の疾病によって死亡するリスクが、上記の中央領域の範囲の4.5〜5.5の人と比べて、ほぼ50%リスクが高まるとされる。 またBRI値が5.46から6.9の範囲の人は、中央領域の4.5〜5.5の人と比べてリスクが25%高まるという。 逆にBRI値の低い人も死亡リスクが高まるとされ、BRI値が3.42以下の人は中央領域の人に比べて25%リスクが高まるという。 論文の著者らは、65才以上の人によく見られる低いBRI値は栄養失調・筋委縮または運動不足を反映していると見ている。 「BMI値では体脂肪と筋肉量との区別は出来ない」とこの論文の主任研究員の北京小児科学研究所のWenquan Niuさんは述べ、「BMI値がどのような数値であれ、脂肪の分布状況や体組成の状況には大きなフリ幅の変動の幅があることを認識する必要がある」と指摘している。 事実、Niu博士は「BMIを健康リスク評価のモノサシとして利用すると、筋肉質のアスリートたちに対しては健康リスクを過大に見積もることになり、一方、筋肉が脂肪に置き換わっている高齢者の健康リスクは過小に評価する可能性がある」と指摘する。 腹腔内に貯えられている脂肪分は、肝臓などの内臓を取り囲んでおり2型糖尿病の前兆であるインスリン抵抗性や血糖値を正常に保持するための糖分の処理能力に脂肪分が影響することが認められており、腹腔内に貯えられている脂肪分というものは極めて重要な健康リスク要因になることである。また腹腔内に貯えられている脂肪分は、高血圧や脂質異常を助長することから心臓疾患や死亡に繋がるとされる。 「内臓脂肪の過剰な蓄積は、体内に潜むサイレントキラーであり、殊に一見痩せている人の場合は何年もほとんど目立った症状もなく健康リスクが忍び寄ってくることがある」とNiu博士は語る。 BRIは現在ニューヨークのウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校教授の数学者Diana Thomas氏発案によるもので、2013年に学術誌Obesityに掲載の論文で発表された。 BMIは人の体を円筒形に見立てて数値化しているが、Thomas博士は自身の体型は円筒形でなく、しいて言えば卵の形に似ているとの認識から、BMIの算出の基準のもとで自身の体型とBMIの算出基準との折り合いをどのように付けたら良いか、を考える方向へと彼女は思考を進めて行ったのである。 「 微積分学の導入部分で、学生は離心率(eccentricity)、即ち自分がどれだけ円に近づいているのかを、学ぶことから始める事になります。これを人の体型に当てはめると、球体に近い人もいれば、円に近い人もおり、そして円からかけ離れたスリムでたくましい人もいるという、様々な体型が存在していることになります。」 論文では、典型例として3人の男性が提示されており、一人は身長が5フィート8インチでウェスト27インチの痩せ型、2人目は伸長5フィート6インチでウェスト29インチの人、そして3人目は伸長5フィート6インチでウェスト36.6インチの脂肪が多い人で、3人三様の体型であるものの、BMIの値はみな同じ27なのである。 これに類似の考え方で調査を進めている研究者もいる。2016年の研究ではBMI値と血圧や血液検査の結果との比較が為され、BMI値と健康状態との間にはあまり相関性が無いことが認められている。 BMIが25から29.9の太りすぎと判断される人の半数が、そしてBMIが30以上で肥満と評価される人のほぼ1/3が実際は代謝的に見て良好な健康状態だったとされている。 そして健康的なBMI値とされる、BMI18.5〜24.9の人の30%が、実際には代謝的に見て健康状態が悪かったとされている。 民族性に基因する多様性の存在が、医療専門家の間でBMI値の不確実性の要因だとの認識が高まっている。即ちアジア系民族やアジアに祖先を持つ人々は、体の中央部に肥満があり、2型糖尿病に対する高い健康リスクを抱えており、しかも彼らのBMI値はより小さな値として算出され勝ちなのである。従って幾つかの医療機関では、これらの患者に対しては太り過ぎと判定するBMI基準値を従来の25以上から23以上へと変更することを、また肥満と判定するBMI基準値を従来の30から27からへ、と変更することを推奨している。 【BMI値と肥満度合いとの判定基準(日本肥満学会):18.5〜25未満が普通体重、25〜30未満が肥満度1、30〜35未満が肥満度2、35〜40未満が肥満度3、40以上が肥満度4、18.5以下を低体重としている。「BMIと適正体重」のホームページに入り、自身の身長と体重を入力すれば簡単にBMI値が判ります。】 医師らは、BMIが体型・体組成・筋肉量・骨密度の変化を正確に捉える事が出来ない粗雑な指標だとする考えに同調する方向になっている。 「例え体重が同じ人々の間でも、人々の筋肉の付き方やその程度には非常に大きなバラツキがあり、同じBMI・同じ年齢・同じ性別であっても体脂肪の%には10%から40%の間でバラツキがあるものだ」とルイジアナ大学ぺニントン生物医学研究センターのHeymsfield博士は指摘する。その上で、「BMIでは避けられないバラツキの状況の中に、BRI値の考え方は踏み込んでいくことが可能であり、人々の体型の指標としてのBRI値と彼らの健康状況との関連性をより正確に説明していくことができる」と指摘している。 BMIとBRIとの説明情報は以上です。 最後に、運動の不十分さが残念に思われるところであり、この点は後に触れて見たい、と 記載した部分の説明をします。 BMIに比べて最近提示されたBRI値が、個々人の体型と個々人の健康状況とをより正確に説明できる、と紹介しました。そして国の指導のもと地域医療機関が行っている現行の特定健診の内容は、個々人の健康状態を個々人で判断する上で、かなり的を得たものになっている(抜けている尻廻りの測定値さえ追加で組み込めば現行の特定健診内容は、BRI値と同じものになる)とも紹介しました。 かなり的を得た健診運動を10年間にわたり行ってきたにも拘らず、残念ながら結果としては、生活習慣病に該当する人の数の削減は出来ておらず、生活習慣病に要する年間の医療費の削減化も願う方向には進んでいない状況であることは、明らかだと言えます。 せっかく良い生活習慣病対策運動を用意して、しかも10年にもわたり活動しているにも拘らず、願う効果を発揮できない要因は、市民の個々人が運動の効果を「簡単につかむ」ことが難しい点にあるのでは考えます。 BRI値と健康状況との関係性は、アメリカでは約3万人を対象に20年にわたり追跡調査を行った研究が出され、生活習慣病による典型的な疾病の発生状況とBRI値との関係がデータとして蓄積されております。 生活習慣病による疾病の恐れが最少となるBRI値の幅が設定され、そのレンジからどれだけ離れると、どれだけ疾病にかかる危険性が高まるか、死亡の恐れが高まるかが『見える化』できる土俵を作ることが、原理的に出来る状況が生まれていると言えます。 現在の【国民健康づくり運動(健康日本21)】には、運動の進捗状況を市民に簡単に分かってもらうことの重要性が抜けていると考えます。簡単に運動の進捗状況が判る我が国市民向けの『見える化』が求められているのであり、しかもその見える化のシステム構築はそれほど難しいものではない、と判断しております。 サービス心の有る無しの問題と思っています。 市民にとっても、自身の健康状況を簡便に認識できるモノサシの存在は自身の健康維持に非常に重要な武器になると考えております。
0060
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−3)
yo-chan
10/04 20:36
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−3) 前回の『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3−2)』において、『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの』という文献の(要旨)と(序論)部分のみの紹介を行い、次回はGE技術擁護者の訴える3つの特徴に関する擁護側と懐疑派側の論点を紹介する旨を記して前回は終えました。以下にこの擁護側と懐疑派側の3つの特徴に関する議論を今回は紹介します。 GE技術を成功裏にアフリカ大陸に普及させたいのであれば、どのような条件が必要なのかに関する議論は、今回も見送りました。また別の機会に紹介するつもりです。 では、以下に紹介を始めます。 3つの特徴(精密性・コスト・迅速性)が、遺伝子編集技術と遺伝子組み換え技術の両技術の潜在能力の説明に長く使われてきている。 これら3つの特徴を継続的に主張し続けたが為に、多くのアフリカ農民の利益が妨げられてきていたと言える。よって、これら3つの長所とされた主張を精査して調べることは意義有ることであろう。そして、制度的構造と評価基準に焦点をあてることで、アフリカにおけるGM作物の複雑な遺産から得られる教訓について学ぶことができると考える。 そして、今後GE技術に焦点が当てられるであろう今後の育種プログラムの中にGM作物から得られた教訓をどのように組み込んでいくかに関する、我々の推奨事項を最後に述べることとする。 そのためにも、遺伝子だけに焦点を絞り込み過ぎることなく、遺伝子も含めての全体的視野に立ってアフリカの農業施策全般を考えていくことの重要性を、資金提供者らや政策決定担当者らに提案したい。 【遺伝子組み換え(Genetically Modified;GM)からゲノム編集(Genome Editing;GE)へ】 1980年代後半そして1990年代初めから始まった分子内マッピング技術の発展により、科学者らは、価値ある形質に繋がる遺伝子の特定が可能となった。一方で、遺伝子の組み換え(genetic modification)技術の発展により、育種業者はある生命体の遺伝子を別の生命体へと移すことが可能となり、生殖の概念の壁が取り払われてしまった(Stone,2021)。 遺伝子技術者らは、土壌中に常在する菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌)の遺伝子を切り取り、栽培植物に組み込むことが可能となった。 GM作物の推進者らは、この新たに達成された技術の成果は、単に作物の改質が達成できただけではなく、この新技術により貧困が削減でき、食料安全保障が改善され、経済と人類の発展が約束されることになる、との評価を広めていった(Bouis,2007;Qaim&Kouser, 2013)。 初期のバイオ技術の大半を開拓したアメリカでは、GM作物が急速に市場を拡大した。今日ではトウモロコシ・大豆・綿花の90%以上がGM作物である(USDA,2020)。 世界全体で見ても、GM作物は26の国々で2億haに近い耕作面積で栽培されている(ISAAA、2019)。 しかし栽培されているGM作物の種類は4つ(大豆・トウモロコシ・綿花・キャノーラ)のいずれかであることがほとんどである。GM作物栽培に割り当てられている耕作地の88%は、除草剤耐性機能を組み込んだ作物向けであり、その中の45%は除草剤耐性機能とともに害虫抵抗性機能を同時に組み込んだ作物である(ISAAA,2019)。 【除草剤耐性機能は、世界的に最も汎用されているモンサント社(現在はバイエル)除草剤glyphosateの散布でも枯れることがない特質をもつ種子。害虫抵抗性機能はバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌:生物農薬として30年以上の実績を持つ)が持つ作物の葉を食べる毛虫に対し殺虫効果を持つBt菌からの形質を組み込んだ種子】 GM推進者らが、GM技術の利点を強調する例として、果物や野菜栽培を行うに当たってウイルス抵抗性の形質を導入することが有益であると主張しているが、実際に応用され利用されているケースの規模は小さい。 潜在的な価値があると見られる別の形質として日照りに強い形質や栄養成分強化に繋がる形質があるが、これらの開発は充分に為されていないのが現状である。 GM作物の研究・開発は今も続いているが、新たなバイオ技術が出現してきている。 それがゲノム編集(GE)技術であり、この技術はDNAの繋がりであるヌクレオチド連鎖上で、加える・削除する・変換する、または置き換えるといったことを行って、作物の遺伝子構造を変換する技術である。 ゲノム編集技術には幾つかの異なったやり方・道具がある(Glover et al、2020)。 これまでのGM技術では、ヌクレオチド鎖の変換はランダムに行うことしかできない状況であったのに対して、GE技術においては、ゲノム連鎖内のヌクレオチドの繋がりのターゲットとする部分に対し編集が行える、という特徴がある。 GM技術と比べて、GE技術には3つの大きな特徴があるとGE技術の推進者らは指摘する。 1 精密さ:ゲノム内のターゲットとする箇所を、高い精密度・大きい制御力で編集ができる。 2 コスト:必要なインフラ装置・設備は極めて少なく、GE処理のコストは低い。従 ってGE技術は「民主的であり、ハードルの低い技術」である。 3 迅速性:GM技術と異なりGE作物には別種生命体からの外来性遺伝子物質は組み込まれない。従って、研究室レベルから上市レベルまでにクリアしなければならないハードルは、GM作物に比べて低いことから、商品化までに要する時間とコストは低いだろうとの主張である(Macnagthten&Habets,2020;Smyth,2020)。 これらGE技術を擁護し、GE技術から生れるビジネス機会の最大化を目指す人々の主張する特徴の妥当性とその主張に疑念を持つ人々の考え方・意見を、以下に詳細に検討してみたい。 第一の主張:精密さ Charpentier氏とDoudna氏の2020年ノーベル化学賞受賞の際、スウェーデン王立科学アカデミーは彼らの開発したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術が「極めて精密性が高い」点を強調した。植物の品種改良を行う専門家らも、この技術が従来の遺伝子組み換えの抱えていた課題を克服する「超精巧」なもの、として歓迎した。 しかしながら、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術には、実際に利用する場面において多くの複雑さが存在していることが明らかになってきている。 即ち育種家らはCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を利用するにあたって、多くの他の技術も合わせて一緒に利用しており、例えば、最近Corteva Agriscience社は、グリフォサート耐性トウモロコシと害虫耐性トウモロコシの認可申請を欧州の食料安全機関に行っているが、これらの新しい種子は、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術と共に旧来の遺伝子組み換え(GM)技術も利用して作られているのである。更に、利用される遺伝子編集技術の種類並びに対象とする植物の種類によっては、GE技術ではあっても外来のDNAの挿入に繋がる可能性が否定できないとされる。 即ち、新たに導入を考える形質に対応するゲノムが対象とする植物に存在しない場合には意図的に外来DNAを挿入する可能性があり、またそれとは別に遺伝子編集技術の工程中、意図はしないものの副次的に挿入が起こってしまう可能性がある。例えば国際熱帯農業研究所の科学者らは、プラスミド伝達(plasmid delivery)を用いてバナナの遺伝子編集を行っているが、編集に用いた「選択マーカー(selectable marker)」がバナナのゲノムに挿入されてしまい、結果として外来DNAが組み込まれたトランスジェニック植物が作り出されたと指摘している。 CRISPR技術は、外来遺伝子の挿入が無い点で従来のGM技術とは異なるとしばしば指摘されるが、遺伝子編集(GE)作物には外来性DNAの小断片が導入され含まれてしまう可能性があり、現在良く宣伝に利用されている言説・説明は誤解を招く危険を内在していると言える。 外来からDNAの挿入は無いと主張することで、遺伝子編集作物が遺伝子組み換え作物とは別種のものだとする説明は、これら2つの技術の間に存在する不都合な類似点や重なり状況を都合よく隠ぺいしたい利害関係者らが行いがちな「目標・結果ありき」の言説戦略だと言えるのである。 第二の主張:コスト GE技術の秀逸性を強調する主張の第二番目は、コスト面であり、この技術が植物の育種に関わる多くの人々に利用できる『民主的な技術』であるとする点である。 例えば、2015年のNature誌には、CRISPR技術が簡便であり、必要な資材の入手が容易であり、研究者が実際に行う必要のあることは、研究目的に合致するRNA断片を注文することだけで、他の資材は、通常の在庫から容易に入手でき、要するコストは30ドル未満であり、アフリカ農民らが直面する課題に対し解答を模索する開発者や技術擁護者らに対してもコスト的に参入可能な障壁の低い「民主的な育種技術」だと指摘している。 上に述べられたGE技術の特徴、例えばハードルの低さや様々な地域でも利用可能な『民主的』技術であるといったGE技術がばらまいた夢は、しかし高度の技術集約型を特徴とするバイオ技術企業が勃興し、これら大企業が取りくんだ厳格な知的所有権戦略によって残念ながら打ち砕かれてしまった。 米国における1980年のDiamond対Chakrabartyの裁判の判決により、GM作物を含む生きた生命体にまで知的所有権は効力の範囲が拡げられる事となった。 この判決により、企業間の知的所有権競争が激化し、発明競争と共に法令順守に係るコストの拡大が発生してしまった。 コスト上昇により企業間に合併の動きが起こり、1990年代前半時分には800件ほどの合併や買収やその他の戦略的合同化が農業各種資源供給企業からなる業界で見られ、10年前の1/5の企業数に減少したのである。 企業合同化の波は、知的所有権の効力を強化することに繋がり、この潮流が21世紀にはいっても継続しており、今日では4社の巨大企業(バイエル−モンサント;ケムチャイナ−シンジェンタ;BASF;コルテバアグリサイエンス)が世界の種子ビジネスの65%を支配している状況となっている。 1990年代後半、これらの多国籍企業はGM技術から得られる種子の持つ潜在能力の大きさに沸き立ち、これら種子がアフリカの貧困と飢えの解決に役立つと考え、彼らは知的所有権で守られた彼らが作成の種子をアフリカに送り込んだのである。 GM種子の第一陣は、種子ならびに必要とされる外部投入資材と一緒にアフリカの農民たちに販売された。販売された種子の価格は、アフリカの農民が扱っていた従来の種子に比べて30〜40%高いものであったが、GM種子を利用する栽培法を採用すれば充分収穫高の向上でコスト的問題は無いと説明されたのである(Schnurr, 2012)。 南アフリカにおける初期のデータ(害虫耐性形質を組み込んだ綿花並びにトウモロコシ)によると、初期投資の増額以上の収穫量のアップと投入殺虫剤量低減によるコストダウン効果が出た(Keetch et al., 2005; Thirtle et al., 2003)としているがその後の長期間にわたり検討を継続した所、初期に打ち出された成功事例は、補助金並びに特恵協定による下駄を履かせたことによる結果だったと指摘されている。即ち、これら補助金や特恵協定が無い状況では、GM種子に付随するコスト高はアフリカ農民にとっては採用を躊躇する事態に繋がることが証明されている(Schnurr, 2012)。 2008年Fischer らは、南アで販売の害虫耐性Btトウモロコシが、当時小規模農家が通常購入していた認可済み種子に比べて5倍高いことを認めている。一方、2019年のデータによると、GMトウモロコシ種子が通常手に入る種子に比べて10倍たかいとしている(Fischer,2022)。 知的所有権の制約と種子の高いコストが第一世代のGM種子の採用の妨害になっている。 この状況の下、これら採用の障害となっている制約に縛られないアフリカの主要作物のアフリカ版遺伝子組み換え作物の作成に向けた協調的な取り組みが発生している(Schnurr,2015)。21世紀に入りロックフェラー財団は巨大バイオ企業と提携してアフリカ農業技術財団(the African Agricultural Technology Foundation, AATF)を設立し、民間の種子会社とアフリカの科学者の間の協定を仲介し、これら協定のもとでアフリカの農家が知的所有権の制約から利用が妨げられている技術を利用できるようになることを目指したのである(Schnurr, 2017)。 AATFとその支援者らは、害虫・疾病・干ばつに強いイネ・ササゲ・トウモロコシなどのあふりかの主要穀物の遺伝子組み換えの開発に着手している。しかし、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGF)を始めとする強力な援助機関の支援にも関わらず、アフリカ農家向けに特別に設計され、アフリカ農家が利用可能な遺伝子組み換え作物の作成を目指す運動の結果はまだ実現していない。AATFは巨大アグリ企業とロイヤリティー無しのライセンス契約を交渉しているが、AATFが仲介するPPPの動向は鈍い。2022年時点で、これらプロジェクトのうち商業化の段階に達したのはナイジェリアのBtササゲの一つだけであり、化学的及び規制上の障害物に足を取られているプロジェクトは、アフリカ向け節水トウモロコシ・ウガンダの栄養強化バナナ・ウイルス耐性キャッサバなどである。 こうした継続的遅延は、アフリカの科学者らや農民の利益を優先するのでなく多国籍企業の利益を優先する姿勢であり、国際的資金供与団体からの資金供給の不安定さであり、バイオ技術に対する寛容な法律の存在であり、そしてPPP事業を遂行する国家が適切な規制政策を欠いているもとでのPPP事業遂行がプロジェクトの停滞を生んでいると考えられる(Schnurr, 2018)。 1990年代の企業統合化の流れと既存のGM技術をアフリカ諸国に適応しようと試みた過去の歴史を顧みれば、GE技術の持つ低コスト性という特質がアフリカの農民らの手ごろな利用に結び付くだろうと主張する技術擁護者らは、立ち止まって考えるべき時だと考える。 現在、展開中のアフリカ固有の作物のGE版作物のなかで、アフリカの研究機関や高度学術団体内で検討されているプロジェクトはほとんどないのである。更に問題な点であるのは、各種組織がGE技術の様々な場面で知的所有権争いを展開している環境のもとで、知的所有権の規則が製品のコストや利用法にどう影響をするのか、研究や研究のデザインにどのように影響するのか、ゲノム編集に必要な材料・機材・材料への入手性にどのように影響があるのか、等で様々な疑問が残されているのであり、これらさまざまな疑問というものはそもそもGM技術の開発展開時にも存在していたものなのだ(Martin-Laffon et al., 2019; Montenrgro de Wit, 2020)。 GE技術の特許出願は、2005年以降15倍以上に増加している(Brinegar et al., 2017; Graff and Sherkow, 2020)。学術機関と企業組織が急速に知的所有権を申請していることは、「基本的な研究手段と考えられるものが、成立する知的所有権の支配下に置かれ、それにより技術の展開や利用性に障害が出る可能性の有ることを科学者らや法律専門家らは危惧している(Egelie et al., 2016)。 GM技術をめぐる知的所有権制度の時と同様は、GE技術の知的所有権化は、ゲノム編集における将来の人道的及び公共の利益のための活動領域を限定することになる。 コルテバ・アグリサイエンス社所有のCRISPR関連の知的所有権の占める領域は広範であることから、今後この領域の技術や構築物の知的所有権を追求する如何なる活動組織もコルテバ・アグリサイエンス社との間でライセンス協議の必要性がある(Egelie et al., 2016)。 現在進行中の知的所有権取得の動向は、GM技術の利用時に生じたことと同様に、GE技術に関しての企業支配の集中化を引き起こす可能性がある。 CRISPR技術の知的所有権化の動向と本技術の利用性が、今後「衝突を引き起こすか、または協調化が起こる」かは、今後の動向を見ないと判断できない状況ではある(Sherkow, 2018)。GeorgesとRay(2017)は、「大企業が利益最大化のために課す知的所有権による支配という構造に対する心からの怒りというものが、GE作物を社会的に受け入れる際の最大の障害物となる」として、「政府は、知的所有権の権利に対する合理的な規制をもとにGE作物をコントロールしていくことが求められる」と指摘している。より規制を強めた対応を政府が取らなければ、GE作物はコストの高さや知的所有権に係る協定上の制約からその利用性は限定的なものになるだろう。 第三の主張:迅速性 ゲノム編集を支える3番目の主張は、技術的設備と実験室的研究段階から市場に上市するまでの時間が、GM技術に比べて早いとする点である。 従来の植物育種は通常「本質的にランダムであり、近縁種に望ましい形質があるかどうかに制約されていた」と考えられている(Barrows et al., 2014)。 20世紀後半にGM技術が登場した時、従来の育種では「最低でも7年から10年」かかっていた形質改良プロセスをGM技術では5〜6年に短縮できると称賛された(Sharma et al.,2002)。 しかし、GE技術の登場によってGM技術は今では遅い・扱いにくい・面倒だと言われるものになっている。目的の遺伝子の特定と分離、そして特定評価が多くの場合「時間がかかるもの」とされ(Jacobsen et al., 2013)、一方、戻し交配と選択による標的形質の導入は、育種プロセスを遅らせるもう一つの「制限要因」である(Wolter et al.,2019)。 それとは異なり、GE技術は「一世代の中で、複数の有益な形質を選別した遺伝子鎖の中でピラミッド化することが可能となる」、よって育種工程の必要時間は半減することができるとされる(Gao,2021)。 GE技術擁護者たちの二番目に主張する点は、GE作物には対象とする作物とは別の種類の外来生命体からのDNAの導入が避けられていることであり、この外来生命体からのDNAが取り込まれていないことから、いわゆるトランスジェックDNAが含まれているとされたGM作物の市場化が非常に煩雑な規制上のハードルをクリアしなければならないことから遅れたという事実を、GE作物は回避できると指摘しているのである バイオ技術擁護者らに広く行きわたる意見として、GM作物はアフリカ大陸において過剰に規制を受けており、技術の利用化や革新化を妨げるものである、という考えがある(Qaim 2020;Smyth,2020;Thomson, 2021)。 擁護者らの不満は、バイオ技術に対する安全規制法が禁止的であり慎重な側面を持っていること、安全規制を司る組織の資金不足の点と植物育種と規制監督の両方の能力構築の不足が原因しているとされる(Nang’avo et al., 2014)。 しかし擁護者らは希望は捨てておらず、ゲノム編集技術が先のGM技術の轍を踏むことなく、ハードルをクリアできるものと考えている(Lassoued et al,2019; Waltz,2019)。 このことはどの位信憑性があるか? GM技術が登場した初期のころ、擁護者らはGM技術に対し起こるであろう懐疑論の大きさを過少に評価していた。 2000年債の初めごろ、アフリカ諸国でバイオ技術を規制する如何なる法律も、また国内に規制する組織を持っている国もほとんどなかったのである。 各国政府・BMGF・ロックフェラー財団や米国国際開発庁を含む世界の開発資金供給機関は、直ちに地球環境ファシリティー(the Global Environmental Facility)やバイオセーフティーアフリカ専門家ネットワーク(African Biosafety Network of Experrise)やバイオセーフティ−システムプログラム(Programme for Biosafety Systems)等の専用プログラムを立ち上げることで、各国の法制整備・国家バイオセーフティ−機関の設立・規制当局者たちの訓練の支援活動を進めていった。 バイオセーフティ−に関連する規制当局は中立性が求められるものであるが、推進されたバイオセーフティ−法や機関は遺伝子技術を擁護する性格を持つことを要請されたことから、バイオ技術の規制と推進と間の線引きがあいまいになるという事態が起こった。 資金供与国や供与団体らは、これらの活発な活動や遺伝子組み換え作物(GMO)プロジェクトへ資金提供や熱心な戦略的情報操作を駆使することで、アフリカ大陸全体にバイオ技術を受け入れる政権を持つ国家を作りだすことができるとの信念を持っていた。 だが、事態はそんな単純なものではなかったのである。 アフリカ各国政府は開発を推進していく上で、そしてバイオセーフティ−規制を運用していく上で、主権の行使を行い、例えばエチオピアやウガンダではバイオ技術を推進するのでなく、むしろ規制をかける方向の法律を施行していった。 それに加えて、アフリカ大陸全体で生物多様性アフリカセンターやアフリカ食料主権同盟が実践する社会運動が推進され、それらの社会運動ではGM作物の利用だけでなく、これら革新技術が内蔵する開発や自由化自体の構造的問題そして革新技術の世界規模への拡大化に内在する世界規模で存在する格差問題にも疑念を提示するのである(Rock 2019)。 この論文執筆時点では、ゲノム編集技術を既存の法律または新しい法律に組み込むことを考えているアフリカの国はほとんどないと言える。 ゲノム編集に焦点をあてた規制を策定しようとした国は3カ国のみであった。 ケニアとナイジェリアはどちらも、「新規の遺伝子の組み合わせを持っていない製品に対してはバイオセーフティ−規制から除外するとかケースバイケースに審査するといった」より寛容的なアプローチを選択している(Komen et al., 2020)。一方、南アフリカは2021年10月に以前のGM作物と同様の危険性評価を遺伝子編集作物に課すことを宣言している。 規制制度・規制体系がア俯フィ化大陸ではバイオ技術の推進に役立つのではなく、むしろ推進を妨げていると、多くのバイオ技術推進派が信じているということを前提にすると、多くのGM作物が陥ってしまった落とし穴を避けて、承認プロセスを推進するためには、外来性DNAを含有するものと含有しないものを明確に分別する規制体系を、バイオ技術推進派は擁護するだろうことは充分あり得ると思われる。 かかる規制体系がアフリカ諸国の政治家や市民らに受け入れられるかどうかは、また別の話ではある。 。
0061
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)
yo-chan
10/14 17:47
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4) 特に、肥料の問題に焦点を当てて考える 今回は、世界の農業が取り組む必要があるにも拘らずに、なおざりにされがちな土壌の健全性に係る問題を取り上げてみます。 2つの情報になります。 一つは、地域共同体の農民らからのボトムアップで提示されている肥料に係る情報であり、殊に典型的な有機肥料の一つ『ボカシ』にスポットライトをあてた情報です。 もう一つは、開発銀行や基金、欧州のいくつかの国、慈善団体等の外部機関・組織がアフリカ諸国とアフリカ連合を糾合する形で、トップダウン型でアフリカの肥料政策を決めていく状況に関する情報になります。 ここで、アフリカの農業に対する支援資金の大半は後者のトップダウン型システム内で使われており、前者のボトムアップ型システム(このボカシの普及だけの問題ではない)には資金的な支援はほとんど廻っていないという状況の認識が非常に大切なことになる点を強調しておきます。 肥料の問題も、多方面にわたります。『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(4)特に、肥料の問題に焦点を当てて考える』の表題で興味ある続きを展開したいと思っております。では始めます。 有機肥料として知られる「ボカシ」が、ケニア農民らが行う土壌の再生に役だっている (原題:For Kenyan farmers, organic fertilizer bokashi brings the land back to life Mongabay, 2021,November 16 Isaiah Esipisu氏記す (要約) ・ケニアの乾燥したTharakaNithi郡に暮らす農民らは、「ボカシ」と称する有機肥料を使用することで新鮮野菜を育てている。 ・農作地で発生する廃棄物の混合物から作ることができる「ボカシ」は、土壌に加えると栄養分と微生物叢との両方を土壌に供給することになる。一方、従来の合成肥料は、即効的に働く栄養成分は提供するが、投入した量の半分も利用されずに、作物に利用されなかった大半は流出し水系等環境劣化の原因を作り、そして従来の合成化学肥料は土壌の微生物叢を供給する能力もない。 ・「ボカシ」を利用する耕作法は、「資源に着目する開発運動ケニア(the Resources Oriented Development Initiative Kenya, RODI Kenya)」から支援を受ける小規模農家らが共有しているアグロエコロジー技術の数多くの中の一つである。 ・最初に施用する「ボカシ」のコストは多くの小規模農家にとって高額であるというハードルの存在が指摘されるが、次年度以降の施用コストは徐々に低下していくことと、併せて利用する農家に対しては「ボカシ」を購入するのでなく、自身で作ることを推奨しており、「ボカシ」採用を推進する運動のハードル低減化に努めている。 Karungaru,Kenya---ケニア西部TharakaNithi郡Karungaru村は非常に乾燥した土地柄であるが、そこに住むPeninah Muthoniさんは、そんな環境の中でアマランスやホウレンソウ等の野菜を栽培している。それが可能となっている理由は、農業生態学(アグロエコロジー)に適った技術を彼女が取り入れていることであり、ケニア各地の彼女以外の数百名の農民も同じように新鮮野菜の栽培を行っている。 「ボカシ」のお陰で土壌の栄養状態は既に良くなっているから、今行う必要のあることは土壌水分を保持するためのカバー作物の手入れと時々行う作物への水やりになる」と彼女は語る。 Muthoniさんは、2019年RODIケニアが主催するワークショップに参加して教わった多くの技術を自宅周辺にある3か所の菜園で実践している。Sack gardens(土を入れた麻袋を利用する野菜栽培法。一袋あたり約0.35平米の面積で毎日5リットルの水やりが必要であり、通常の畑4.4平米と同等の収穫量が期待できる), 洗面台に似たへこみの有る鉢を利用する耕作法(sunken basins), そして3か所目の 「ボカシ作り」の場を組み合わせて、Muthoniさんは3人の実子と11人の養子を養うのに必要な量以上の野菜を育てている。 彼女の農作業においては、鍵となるのは肥料である。ケニア農業家畜業研究機関の代表的な研究者であるPatrick Gicheruさんによれば、ケニア各地の農民らは重要な栄養素の幾つかを欠く土壌を利用して耕作を続けている。 Gicheruさんが行ったケニア各地の調査の結果、驚きと共に分かった点は、予想していた土壌の酸性化による農業生産性の悪化ではなく、土壌中の亜鉛(Zn)とカリ(K)が決定的に不足していたということの発見であった。 土壌劣化の主な原因は土壌の過剰使用であり、農耕地は休耕を間に取り入れることなく、繰り返し栽培が行われて、作物の生育で土壌から吸収され奪われる栄養分の補充は行われていないのである。ここで栄養分の補充は化学肥料の投与が1つのやり方であるが、科学者らは化学肥料の投与が土壌中に生息する微生物叢に危害を及ぼす可能性を指摘している。そしてケニアで推奨され多く使われている化学肥料には、カリ(K)のような鍵となる栄養素が欠けているのである。 RODI ケニアによると、これらの欠点の解決を目指し、すでに数千の農民らが「ボカシ」の利用に取り組んでいる。 RODIケニアは1989年設立の農民の所得向上と食料安全保障に取り組むNGOである。 RODIケニアの取締役Esther Bettさんは彼女自身の経験から、ボカシが合成化学肥料より優れていること、さらにボカシの調製に要する日数が2週間ほどと短期間であることから、他の有機糞尿系肥料と比べても優れていると語っている。 このバイオ肥料「ボカシ」の卓越性は、使用する農民自らが、彼らが暮らす地域で入手可能な素材を用いて作れるということである。幾つかの農家や事業体がこのバイオ肥料の生産と販売化を始めている。 Bettさんによると、既に著しく劣化した農地の回復には3年ほどの日時が掛かるという。 このバイオ肥料「ボカシ」の利点を全ての人が認めている訳ではない。Kakamega郡で1.6ha(4エーカー)の土地を使いトウモロコシを栽培しているPhilemon Olemboさんは、合成化学肥料の利用を優先している。理由は有効成分が高度に濃縮されており、トウモロコシの栄養不足状況の対応に即効的に利用でき、市場での入手性も良いという理由から優先しているという。彼はバイオ肥料の良さを認めてはいるが、彼にとっては即効性が最も重要な選択条件であり、彼のビジネスにおいては遅効性というバイオ肥料の持つ効能発現の時間を待ってはいられない、としている。 Bettさんによれば、化学合成肥料は土壌に栄養分を供給し、一部は作物に利用され、そして使われなかった分は直ちに流出していく。一方ボカシは栄養分と共に微生物叢も一緒に土壌に供給することになる。 化学合成肥料は毎年供給する必要があるが、ボカシは3〜4年の間、有効性が維持される。従って次年度以降のボカシの追加量は低減させていくことが可能なのであり、計3回のボカシ供給の後は、土壌が本来持っていた良い状態に再生されたこととなる。 ボカシの施肥量は毎年低下させることになる。第一回目の施肥には1ha当たりほぼ2.4トン(1アール当たりは1トン)が必要である。50kg袋のボカシが約18ドルであり、1haあたり初年度のボカシ代は約864ドル(1アール当たり約360ドル)となり、地域の小規模農家にとってはかなりの初期費用である。Bettさんは、ボカシを自身で生産することと、耕作規模は可能な大きさ、例えば1/4エーカー(1エーカーは約1224坪、よって1/4エーカーは約300坪)から手始めにやっていくやり方を推奨している。 【RODIケニアの生産担当者ErastusMainaさんのボカシの作り方の一例:家畜の糞尿を粉炭と混ぜ、空気を混ぜ込むような方式で混合して毒素分を除去する。次いでふすま(bran)とコメ・小麦・トウモロコシの実の外皮分を加えて分解を促進する。他の助材としては微生物の栄養源としての廃糖蜜(molasses)やコメの殻やコーヒーの殻等農業廃材が利用できる。これら廃材にはシリコン(Si)が含まれ、作物を大きく強靭にする働きがあり、そして害虫被害や悪天候等への抵抗力がつくという。土壌の表面部分もまたボカシに加えることで微生物叢を導入することも行い、合わせて近くの家畜向け物販店で入手可能な酵母類も発酵過程の促進のために加える。最後に卵の殻や灰を加えてCaの補給を行う。灰にはC・Mg・K・Pが含まれる。これらのものが投入され混和され、そして層状に積み重ねられ、ポリエチレンで覆う。発酵が直ちに始まり、内温が24時間以内に60℃以上になる。 毎日ボカシ層の切り返し作業を繰り返して、8日間温度管理を行う。そののち層状に拡げて7日間自然放冷を行う(この間は1日に1回の切り返しを行う)。 Mainaさんは、他の糞尿バイオ肥料の生産には3カ月の日数がかかるのに対して、ボカシの製造は通常2週間でできると指摘している】 RODIケニアは、国内35か所の刑務所が運営する農場にボカシの技術とその他のアグロエコロジー技術を導入している。また28の学校とも協力関係を結んでいる。 RODIケニアはボカシの包装品を農家に販売しており、農家の関心が高まっている、とBettさんは語る。 アフリカ食糧主権同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa:AFSA)のMillion Belayさんによると、ボカシの様な効能が証明されている技術がアフリカの農業と食糧システムの強化の鍵を担っていると指摘する。Belayさんはアグロエコロジー技術のアフリカでの採用には障害が存在していると指摘し、その障害とは先進工業諸国の種子企業や肥料メーカーが、アフリカを彼らの作る化学合成肥料や農業用化学薬剤やハイブリット種子の大きな売り先・市場と見なしていることをあげている。 Belayさんは、アフリカの各国政府が農業の研究、殊にアグロエコロジー分野の研究にもっと投資する必要があると指摘する。 Belayさんは、更に世界の大学において、アフリカの食糧安全保障を確保するには、西欧が実践する農耕法を採用する必要があるとの教えが、本流の考え方として代々教授されてきており、そう言った考えを信じ込んだ卒業生が各大学から卒業し、社会に出てきているのが実情なのであり、彼ら卒業生はアグロエコロジーが資金的支援に値するものとは思っていないのである。かかる現実・実態がアフリカへのアグロエコロジー技術の推進・浸透を妨げている面がある、とBelayさんは指摘する。 その上で、全ての物事は土壌の健康度合い及び健全な農耕技術から始まるものであり、気象状況が望ましいと言えない環境下でさえ、健康的な食料は、良く手入れされた健康な土壌から作り出される、ということをBelayさんは強調する。 アフリカ諸国は土壌の健康問題に取り組むことを決定している (原題:African countries decide to tackle soil health challenges) RURAL21 2024年 6月26日 Birthe Lappe氏とChristine Wolf氏が記す 2024年5月アフリカ連合(African Union)とケニア政府主催の「アフリカの肥料と土壌の健全性についてのサミット」がナイロビで開かれた。60名を超すアフリカ国家元首や大臣、政策担当者、民間セクター、NGO、学界、支援団体など約4000名が参加した。 「土壌を破壊させる国は、自らを破壊させる」とアフリカ連合副委員長のンサンザバガンワ氏が、米国ルーズベルトの過去の発言を引用して宣言を行っている。 アフリカ諸国では過去10年にわたり、食糧不安と栄養失調が拡大し、世界市場に食糧と肥料とを依存する割合も高まっている。 国際肥料開発センターによると、2021年の穀物生産が3000万トン不足すると見られている。殊にマリ・ブルキナファソ・タンザニア・ザンビア・マラウイ・モザンビーク・ジンバブエでは6000〜9000万人が食料供給の危機に瀕するとされている。 この状況の背景には、アフリカの土壌の永年にわたる劣化の進行も影響しており、持続可能性の乏しい管理方法と継続する施肥不足が原因して、栄養枯渇と肥沃度の低下が起こっており、アフリカ農業の低収穫性の原因となっている。 ロシアのウクライナ侵略やコロナパンデミックも、アフリカの状況を悪化させており、肥料の入手性に重大な影響を及ぼしている。 サミットでは、総合的土壌肥沃度管理(integrated soil fertility management: ISFM)の観点から、肥料使用の改善策と土壌健康度合いの改善策の両面に焦点が当てられている。 肥料使用の改善策としては、無機合成肥料と有機肥料との両方の効率的利用の検討が必要と指摘された。 ナイロビ宣言が今回発効する以前に、アフリカで実践されていた肥料政策の基本原則は、2006年のアフリカ版緑の革命のための肥料に関するアブジャ宣言(Abuja Declaration on fertilizer for the African Green Revolution: 2006年、AGRAが活動を始めていた時期)であり、そこでは2006年当時に窒素換算で1ヘクタール当たり8kgだった化学合成肥料施肥量を2015年までに50kgへと拡大を目指すとの目標が記されていた。 今回のナイロビサミットにおいて、ナミビア大統領のムブンバ氏は、「土壌肥料の管理にはバランスを取ることが極めて重要だ」と指摘し、またマラウイの大統領チャクウェラ氏は、「無機化学合成肥料へのアクセス性と使用量を増やすという従来の目標を目指す努力の結果、農業生産高は増加しているが、その有益性・有効性は、期待した全ての課題の解決には未だ達しておらず、残された課題としては、土壌の健全性への緊急な対策が重要なものとして残っている」と指摘している。 肥料の課題に対して、ナイロビ宣言は、2006年の肥料に関するアブジャ宣言の考え方を大きく変更したものであり、パラダイムシフトが為されていると言える。 サミットの結果、アフリカ連合の加盟55カ国全てがナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動を採択している。 ナイロビ宣言では、2034年までに有機肥料そして無機化学合成肥料の国内生産量の3倍化を目指し、小規模農家がそれら肥料を入手しやすい価格と環境を作ることを目指している。 また各国は劣化した土壌を少なくとも30%は健全な状態に回復することを目指すという。 ナイロビ宣言の目標達成のため、アフリカ開発銀行(AfDB)、欧州委員会、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、国際農業開発基金(IFAD)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を含む14の援助国・機関が、ナイロビ宣言・肥料と土壌の健全性に関する10ヵ年行動計画・包括的アフリカ土壌運動の実施に対して協調的支援を行うことを約束している。 以上で情報の提供は終わりですが、最後にRODIケニアが主導する『ボカシ』の利用をアフリカの小規模農民に当てはめて、必要とされる年間のコストの計算をしてみると、 小規模農家数:3300万(出典:Celebrating small-scale farmers this World Food Day, 2023年10月12日、FARM AFRICA) 各農家が1アールの農地にボカシを施すことを仮定すると、 360ドルx 33,000,000=11,880,000,000ドル/年間(118.8億ドル、約1.7兆円) ここで、RODIケニアのBettさんの推奨する手始めに1/4の0.25アールから始めることを組み込むと、約30億ドルとなり、円換算では4350億円となる。 COPで今も続く金満国が求められている年間支援金額は1000億ドルであり、この支援要求額の3%分であり、充分手が届くボカシ支援金額だろう。 後楽園を築地へという無駄な問題をやり玉にすれば、当時のドームの施工に350億円が掛かったという。築地では500億円は下らないと予想するが、500億円と仮定して上記円換算の4350億円との割合をみると11%程になる。 大阪の件もあるだろうし、NHKの年間7000〜8000億円をかき集めるシステムもいつも通りに気に掛かります。NHKは1世帯あたり町会費のイメージの年2000円(5000万世帯として)1000億円程で回転する事業体を目指すべきだ、といつも思っています。 ドームの使い勝手が悪くなったとか何とか、といった風説をどうやら流し始めて、築地移転もやむを得ないとの世の流れを作ろうと、し始めているきらいが見られる。 ドームや大阪の件は、スポットの1回の資金ねん出だが、NHKは毎年アフリカの小規模農家に必要な土壌改良という、とても有意義な活動支援を、例えばSDGsの良く目標にされる2050年までの期間の支援金原資として充分に充当できるものと思うのですが。 お金は活かして使いものだとつくづく思う所です。
0062
優遇され、優先される階層や地域の為の再開発事業。置いてきぼりの階層や地域は放置され、格差は拡大する。こんなシステムを座視していて良いか?別の道も用意すべきだろう。
yo-chan
11/24 13:18
優遇され、優先される階層や地域の為の再開発事業。置いてきぼりの階層や地域は放置され、格差は拡大する。こんなシステムを座視していて良いか?別の道も用意すべきだろう。 再開発事業に関する記事が発表されている。 まずは、共同通信配信の記事を再録しておきたい。 「富裕層に手厚い再開発事業の実態」---2024年11月17日(共同通信) 全国118地区で進む『市街地再開発』のうち約9割に国や自治体から補助金が投じられ、公費負担の総額が予定を含め『1兆543億円』に上ることが17日、共同通信の調査で分かった。 地方で補助金依存の傾向が強く、事業費の過半を公費に頼る例も4地区で確認された。 「タワーマンション」は全体の半数以上の66地区(19都府県)に建てられ、主に『富裕層向け』の物件が乱立する。 巨費の税金を投じる割に公共性や地域住民への恩恵が乏しいとの指摘もあり、街づくりの在り方が問われそうだ。 情報公開請求で入手した資料や自治体の開示情報を基に、29都道府県で進行中の「第1種市街地再開発事業」について2023年度末時点の資金計画を集計した。その結果、補助金が入るのは104地区で、全118地区の事業費総額8兆5218億円に占める補助金割合は12.4%だった。 補助割合は静岡県富士市の「富士駅北口第1」が57.7%で最も高く、同県沼津市の「沼津市町方町・通横町第1」が56.9%、秋田県横手市の「横手駅東口第2」が53.3%で続いた。 再開発事業というものが非常に気に掛かっている。 中央区で今も展開される再開発事業と称する超高層ビル群の乱立的建設問題を取り上げた情報を以前提供している(2023年3月12日;2024年5月31日の護憲プラス記事)。 気に掛かっている根本は、我が国が取る政策には一面的偏りがあると感じる点です。 即ち、政策選択の際に経済成長を第一に置く姿勢は、理解できなくはないものの、選択された政策で利益を得る対象・階層・地域に優先性・一面性の点で偏りがある点です。 即ち、主な対象は都市部・市街地部であり、そこに居住するエリート層と呼ばれる階層が主に政策の恩恵を享受するのであり、利権と結び付く企業による、企業の為の政策作りになっていることが非常に気に掛かるのです。 そして、そのシステムから弾き出された階層や地域は放置され、いつまでも後回しにされる。かかる公平性・公正性を欠くシステムは当然格差拡大を助長する。 国の採用する企業に押された政策は残念ながら一面的であり、偏りがあり、公平性・公正性を欠くシステムなのだ。それが今まで続き、そして今も続いている。 この一面的であり、公平性・公正性を欠くシステムが横行する要因としては、「経済は好循環し続けることで、初めて企業と我が国は成り立つ」という信念の存在があるのだろう。 企業はその信念で計画を立て遂行しようとし、そしてその信念に押される形で政府や行政府にその信念が固着し、更に市民もその考えを是とする人々が現在は大勢を占めているのであろう。かかる状況が今までもそして現在も主流であるからして、例えば、そこまで公費を使うのは無駄だ、の声が多数寄せられても、押し切ってオリンピックや万博や神宮外苑等の誘致や再開発が結果的に推進されていく状況が我が国で横行していることが理解できるし、そして今は、公費投入は少ないだろうが開業の後には、間違いなく公費を当てにしなければ成り立たないであろうリニアの開発が粛々と進行する構図の存在も理解できる。 残念ながら、これが我が国の特徴であり、現状の姿だと思う。 現在のシステムの偏りの課題の一つは、上記の共同通信情報でも指摘されている都市部偏重の横行であり、一方で農・漁村部や林業地域を軽視している国の姿勢です。 農村部や林業地域を軽視する国の姿勢は、両業種の就労者数の推移で明白でしょう。 即ち、小規模家族農家は、1965年以前は約600万戸以上だったのが、2022年には104万人弱に低下し、食糧自給率(カロリーベース)は1965年までは70%以上だったのが2023年には38%(いずれも農水省データ)へ低下していること、そして林業分野の就労者数は1955年に51.9万人だったのが2020年には4.4万人へ(林野庁)と低下していること、そしてそれらの状況が放置されていることから明らかでしょう。 共同通信記事が紹介する政府の都市部偏重政策と、ここに示した就労者数等の推移から見た田園地域軽視の政府や企業の姿勢は明白です(スマート農業等の技術に一方的に頼り、技術革新を過大視する考えには賛成できかねております)。 またシステムの偏りの課題の別の面としては、例えば正規職の門戸は狭められ、非正規なら働けるといった人々の生活から安心感を奪うような不公平であり不公正なシステムを醸成し放置している現在の国の姿勢も挙げられる。この職の不安定化の問題の放置は、それ自体社会で暮らす人々の生活基盤を脅かし、そして例えば若者の結婚の意欲をもさえ現在は脅かし、最近の出生数の異常な低下へと結びついていると言える(2000年頃までの120万人程の出生数が2023年は73万人程へ、今年は70万人を割ると予測されている)。 職の安心・安定化という課題は非常に大きな私たちのテーマと考えております。 そして、市街地の優先、農村共同体地域の軽視という私たちが直面する課題は国内だけの問題ではないのであり、国際的にもグローバルノースとグローバルサウスの格差の問題として厳然たる状況で存在しています。 例えば現在行われているCOP29。ここ何回かの会議の推移をみれば、国際間の格差の存在や不平等性や不公正さの存在、そしてその存在の固定化は良く了解できるところです。 即ち、地球温暖化の主犯であるグローバルノース側は自国の温暖化の緩和(mitigation)や適応(adaptation)については、持てる富を使い対処する一方で、GHG排出量的には罪を問えない環境にありながら、『緩和』や『適応』に必要な資金がなく、最近の異常気象が原因で発生した『被害と損失』に対する手当もままならずに、グローバルノースの資金を当てにせざるを得ないグローバルサウスの窮状に対するノース側の姿勢に如実に表れていると感じます。 グローバルサウス側は、今回のCOP29において、温暖化の『緩和』や『適応』の行動、並びに異常気象の結果受けた『被害と損失』に対し保障や支援金を要求する権利を主張することは正当性があり、そしてその『緩和・適応』行動並びに『被害と損失』に対する保障や支援金の額が年に1.3兆ドルとの主張にも妥当性があると言われています。 この正当性・妥当性のあるサウス側の要求に対して、ノース側は15年前に年間1000億ドルの支援を約束していたが、ノース側は様々な条件をその都度付けては不充分にしか対応して来なかった歴史がある。 11月22日が最終日だったCOP29。延長した23日の土曜日になっても双方折り合いがついていない状況のようだ。 サウス側の求める毎年1.3兆ドルの資金提供の要求に対して、ノース側は年間2500億ドルまで資金提供額を上げて提示しているが、金額面の隔たりだけでなく、それ以外にもサウス側は問題にしていることがあり、一つは支援の内実が結局はサウス側に借金の形を背負わせるものではないのか、もう一点はサウス側の声を聞くことさえ充分に行おうとしないノース側のロビイスト攻勢であり、数と力に物を言わせた強引であり、傲慢なノース側の姿勢にサウス側は不満を溜めていると言われている。 今回のCOP29の最終文書成立は、かかる状況と従来からのノース優先サウス置き去りの会議の進め方の問題からサウス側は一部に現在も全面拒否の姿勢が残り難航しているという。 【24日10時のCNNニュースで、2035年までに年間3000億ドルへ支援金を増額する案で合意に達した模様。合意内容に但し書き等があるのではないかと思われるが、注視していきたい】 かかるごとく国際間に置いても不公平不公正な格差の存続と放置を目論む動きやいわゆるステークホルダーが有利となるルールの存続を目論む動きが存在し放置されようとしているのが世界の動向と言えるのである。 かかる国内外の状況を見るにつけ、国内のシステムや国際間のシステムには一面性といった偏りがある点が問題であり、それらを是正していくことは、非常に大切な私たちの努力目標と考えております。 従って、私たち市民のものの見方・判断の仕方を多面化する試みは重要であり、それに役立つ情報の提供は有効な手段であると考えております。 そこで今回は目についた次の2つの情報を先ずは提供します。 1.世の中には公平性が欠けているという1つの例が、危機にあるザンビアのダムである (原題:Zambia’s Kariba Dam crisis is one of inequality) AlJazeera Nov.16,2024 Harry Verhoeven氏記す ザンビアや他のアフリカ諸国政府は、都市部の共同体を重視し、田園・農村地域の共同体は軽視する姿勢を、長期にわたり取り続けてきている。 アゼルバイジャン・バクーで、国連気候変動会議COP29が開催されている。 気候変動対策に向けての資金面の交渉動向に行き詰まり感が出るなか、アフリカ南部の国々では、ある種の「再生可能エネルギー」が気候変動時代では結局のところ「再生可能なエネルギー源」たりえないのではないかという 懸念が出始めている。 ザンビアとジンバビエは、今年ひどい日照り・旱魃に見舞われ、その結果農作物の収穫に壊滅的な被害が発生し、地域を流れるザンベジ川の水量が記録的に低下している。 カリバ-ダムがザンベジ川で稼働しており、数十年間、ザンビアとジンバビエに大量の電力を供給しているが、今年9月のザンビア当局の発表では、極端な水位の低下が起こり、6基の発電タービンの内、運転可能なタービンは1基のみになっているとしている。 都市部全域で時に数日にわたり電力供給停止が起こり、最近では散発的な電力供給が常態となっている。ダム水を湛える世界最大規模のカリバ湖の水はザンビアとジンバブエの人々の生活用水でもあり、史上最低の降雨量を記録した2022年を筆頭に近年の降雨量不足は、電力をカリバ-ダムに依存する大半の都市部住民の生活に打撃を与えている。 農村地域も同様に降雨量の激減に打撃を受けている。ザンビアではここ40年以上にわたり耕作時期に厳しい日照り・降雨不足が発生しており、その降雨不足に苦しむ地域が、トウモロコシ年間供給量の半分を生産している地域であり、また家畜の4分の3以上が飼育されている地域なのである。 従って、農作物の収穫不足や家畜の損失が食品のインフレ悪化に影響を及ぼしている。 UNICEFの報告によると、5万人以上の5才以下のザンビアの子供が栄養失調の最もひどい症状である消耗症(wasting)の症状を呈しているという。またザンビアは、2万件を超すコレラ流行と戦っており、ザンビアは水不足・エネルギー不足・食糧不足の3重苦に見舞われている。 『多くの人々は、これら3重苦の災厄の原因が気候変動だとしている』 『しかし、これら災厄の第一の要因は気候変動ではないのである。 即ち、既に別の要因が原因して生じていたこれらの災厄を、気候変動という要因が更に悪化させる方向に働いているというのが、真の姿なのである』 3重苦の災厄の直接のそして根本の要因として問題にすべきは、以下に示す相互に関連し合っている『政府が採用してきた2つの政策』なのである。 『真の要因の第一は、政府が進める開発事業において、都市部共同体の開発を優先する政府の姿勢が問題であり、一方田園・農村地域共同体の開発は軽視されているのである』 ザンビアのジニ計数(社会の収入格差・不平等性を示す指数。0から1の間の指数で1に近いほど収入格差・不平等性は大きい)は高く、世界最高レベルの国々の中の一つに数えられている。 そして都市部の労働者は定期的な収入を得ることが容易であるのに対して、人数的に多い田園地域の小規模自営農家らは収入の最も低い階層を構成しており、しかも彼らは予測困難な気候変動の悪影響を最も受けている階層でもある。 ここで富裕層と貧困層との間を隔てている大きな溝というものは、単にたまたま出来上がったものではないのであり、ある意図を持ちデザインされた状況の結果出来上がった溝だと言える。 例えばここ数十年間行われた租税の改革では、都市部居住の富裕なエリート層や田園地域の大地主層は優遇されており、一方自給自足型農家や農業関連で雇用されている従業員層は後回しにされているのである。 その結果、都市部に住むザンビアの子供達は適切な食事・きれいな水そして電気とトイレの環境に恵まれる一方で、農村地域で暮らす子供達はこれらのサービスが得られないことから、農村地域では年間15000人程の子供達が下痢等の回避可能な疾病が原因して命を落としている。ここ数十年にわたり、アフリカの中でも最も多くの栄養失調者及び発育不全者を出しているのがザンビアなのである。 この状況を生んでいる要因が、ザンビア政府の採用してきている都市部偏重の政策であり、予算配分なのである。 『第2の要因は、多くのアフリカの政府の採用する水力発電への継続的傾倒の姿勢である』 この水力発電への傾倒の姿勢というものは植民地時代の遺産であり、この傾倒姿勢は独立後も熱心に引き継がれているのである。 2011年以降カリバ-ダムが水不足からフル稼働が出来ない状況が続くにも関わらず、ここ20年以上にわたり、数十億ドルの資金がガーナ・リベリア・ルワンダ・タンザニア・エチオピア等の国々でダム建設やダム改修のために費やされている。 「ダムの効能の分配が中立的でない点は強調する必要がある」 ダムは農村部に作られるが、ダムの効能の主な受益者は通常別の地域に居住しており、それら主な受益者というものは、政府にとって重要な都市部の選挙区住民であり、鉱業事業関係者や各種利益団体等々なのである。 ダムの生み出す信頼性が高く手ごろな価格の電力は彼らエリート層に主に提供されている。 一方、ダム周辺の人々や生態系は、往々にして被害を被るだけの存在なのである。 カリバ-ダムは1955年から1959年にかけて英国の植民地政策の中で、環境アセスメントを行うことなく建設され、建設地域にいた数万人に及ぶトンガ-ゴバ族の人々を強制的に移住させたのである。そして移住に関わる約束事や移住先の話等々は破られ続けてきていた。 ザンビア政府は永年カリバ-ダムをザンビア並びにアフリカ南部地域の連帯の象徴として称揚してきているのが、ザンビアの農村部の9割の住民は電力供給を受けておらず、ダムの恩恵を享受できていない。 水・エネルギー・食糧システムの同時的危機は、ザンビアと共に他の多くのアフリカ諸国において、早急に根本的な解決策を打ち出す必要がある。 そして借金返済や緊縮財政の矢面に農村部住民を立たせるべきではなく、気候の混乱や経済不況に対して自力で対応・対処することを農村部住民に強いるべきではないのである。 農村部住民や農村共同体に対し、水・エネルギー・食糧に確実かつ適切・手ごろにアクセス利用できるよう必要な政治的意思と配慮及び予算建てを政府は用意する必要がある。 最近の日照り・水不足によって生じている停電や農作物の不作という事象は、これまで政府が採用してきた都市部共同体の偏重や巨大ダム偏重の姿勢が生み出している社会の不公平性の存在に原因があり、社会のリスクが際立ってきているのである。 よって従来とは異なる道を採用し、踏み出していかない限りは、悪化していく厄災から我々は逃れられないだろう。 2.より公正な世界を作るために、G20が主導する時期に来ている (原題:It’s time for G20 to take the initiative to help build a fairer world) Al Jazeera、2024、Nov. 18 Fahrettin Altun氏記す 国際間に介在するシステムが危機にある。 私達が暮らす今の世界は、危機が連鎖して襲いかかる状況の中にいる。 食料不足・日照り・市街地を襲う戦争や集団虐殺といった危機が世界の多くの地域で頻繁に起こり、私達の「人間らしさ」に暗雲を投げかけている。 そして世界を変革する可能性のある新たな技術やシステム(例えば革新情報システムや武器、AI技術や暗号技術による仮想通貨)の主導権争いを制するのは誰だ、といった競争が加速していることも、我々の希求する「集団的幸福」に新しい脅威を投げかけている。 世界の協調を推進し、経済の成長を生み出し、国際間紛争を抑制し、世界の安定と平等と公正性を保証するため、我々は第2次世界大戦後に「規則に基づく国際間秩序」の構築を打ち出しているが、我々が直面する様々であり複雑な現今の難題に対して、この規則・システムを用いて最適な対応策を編み出すことに我々は現在苦闘をしており、これら危機を抑止するには力不足だと感じているのである。 『少数の強力な国家群及び利益団体にのみ利益をもたらし、市民大衆には大惨事を与える状況が、世界秩序の新たな常態になってきている』 それ故に、現在我々は直面する社会の諸課題への対応策・解決策を生み出すシステムを包括的に改革することが、我々の義務として求められていると言える。 『私達にはより公平な、より安定な、より公正な世界秩序が必要なのである』 今日、確立された国際間の核心システムにおける規律や規範や価値観を踏みつぶす行動を、ある種の国家が行っており、そして、それらの国は彼らの行動がどのような影響を世界に与えるかについてほとんど注意を払っていないように見える。 レバノンやパレスチナに対するイスラエルの現在の行動が、かかる甚だしい国際間の規律違反の例としてあげられる。地域の平和や世界の安定を達成するためにはイスラエルの行動は止める必要がある。 しかし国際間のシステムに対し不当な権力を持つごく少数の、即ち「超大国」と呼ばれる国々は、イスラエルを保護する行動を取っており、イスラエルは罰せられることなく行動を遂行している。この結果我々の現在のシステムは、今やその核心的目標を果たすことが出来ない状況に陥っている。 超大国はこの4半世紀にわたり偽善的で、差別的で紛争を助長する行動を取ってきている。 従って戦後構築してきた国際間秩序における主導的役割を超大国が担うことが可能だという根拠の正当性は、失われていると言える。 よって利己的な超大国がこれまでに形作り、そして取り仕切ってきたシステムではなく、世界の大多数の国々が形作り、そして取り仕切る新しいシステムが必要なのである。 開発が既に進んでいる国と発展途上の国からなる19カ国そして欧州連合とアフリカ連合を加えたG20には、より安定的な国際間の金融システムの基盤を作る上で充分な潜在能力がある。 このG20の年次サミットが、より公正なそしてより持続可能な世界の構築を目標に月曜日からブラジルで始まった。 第一にG20が取り組むべき目標は、現在不利な立場にある組織や諸国を支援する公平公正な世界メカニズムを確立することである。 G20に集まる多くの新興発展国の役割は、世界経済の一極化を目指す大国の影響力を弱めバランスを取ることであり、より公平な経済的配分を保証する影響力を果たすことである。 今回のG20は、気候変動やAIのような今後の世界経済を形作る可能性のある共通の課題に対する共通政策を確立していく機会でもある。 我々が今後向かうであろうシステムには2つがあり、1つは限られた数の強大な力を持つ国々がその有する特権を維持し、世界のその他多くの弱小国を危機の混乱の中に閉じ込め続けるシステムであり、もう一つは世界資源が公平・公正に世界に分配され、相互間に利益のある福祉のシステムや開発のシステムが確立されるシステムである。 G20参加国は、また現在の国際間システムにおける危機を悪化させている「信頼感の危機」に目を向ける必要がある。今日、「人間らしさの未来像」は次から次に出る革新技術、殊に通信技術の革新化、に翻弄されている。インターネットやソーシァルメディアの時代になり、オンライン上におけるプライバシー侵害問題やデータの安全性の問題やサイバー攻撃問題・情報戦争や心理戦争等の要素をも抱え込んだ現在の戦争形態の問題そしてデジタルファシズムの問題といった新たな課題が我々の眼前に立ち現われてきており、取り組むべき政治的経済的課題を複雑化深刻化させている。 デジタル革新技術が投げかける課題に対する、有効な政策的・戦略的対応策や倫理的規範の確立ということに関しては、私達は今までの所、対応が出来ているとは言えない。 多くのデジタル革新技術というものは、悪意のある組織の手に利用されると大衆を操作する武器にもなるものであり、最近の数年間我々は、これらの技術が間違った情報を流布したり、集団殺略といった戦争犯罪を封印するのに使われているのを目撃しているのである。
0063
インターネットが拡大、そしてデジタルファシズムも現われた、と専門家が指摘
yo-chan
12/02 13:16
インターネットが拡大、そしてデジタルファシズムも現われた、と専門家が指摘 Anadolu Ajansi 2022年6月6日 Zehra Nur Duz氏記す 先の投稿記事【優遇され、優先される階層や地域の為の再開発事業。置いてきぼりの階層や地域は放置され、格差は拡大する。こんなシステムを座視していて良いか?別の道も用意すべきだろう。11月24日】中に気になる言葉があった。 デジタル革新技術が作り出す『デジタルファシズム』という文言が、気に掛かった。 そこで、『デジタルファシズム』に関する情報を調べ、紹介することにしたい。 選んだ情報の原題は、Digital fascism emerged with spread of internet, says social media expertになります。では始めます。 「デジタルファシズム」が、開発の進んだ諸国および発展途上の国々の両方の社会にとっていま厄介な脅威になっている、とソーシャルメディア専門家のDeniz Unayさんは語る。 戦争は常に戦場で行われるもの、とは最早言えない時代に入り、人々の暮らしも徐々に変わり、そして我々の経験や体験も『仮想空間化』されたり、『拡張現実化』(augmented reality, 現実世界の物事に、デジタル技術を利用して情報を付け加えたり、合成したりして作りだされた「拡張化した現実モドキ」を我々の眼前に提示すること)されたりしてきている。 ファシズムは伝説化した過去のことであり、最早今の社会や今後の社会では、ファシズムの再来を懸念する必要はあり得ないとの考えに我々は安住してはならないと、ソーシァルメディアの専門家らは指摘している。 「デジタル社会は、一点集中型ではなく分散型が特徴である。市民・社会はデジタル的に巧みに操縦され、組織化される。そしてデジタル社会の脱集中型・分散型という特徴を携えて市民は、社会に参加することになる。この観点から、デジタルファシズムというものはインターネットの普及と共に生れ出た現象だと言える」とDeniz Unayさんは語る。 多くの政府や政府代表者らが近年デジタルファシズムやデジタル専制主義の問題を声高に発言しており、そしてデジタルファシズムが開発国と共に途上国でも極めて厄介な脅威になってきていると主張されている。 エルドガン・トルコ大統領は、5月イスタンブールで開かれたトルコ系諸国機構メディア・情報担当大臣・高官会議でこの問題を言及している。 「正確であり、偏りのない情報を数十億の人々は受け取ることが出来る、という人々が持つ権利を、デジタルファシズムは侵害するものであり、デジタルファシズムの恐れが醸成されつつある。 自己規制やルールや倫理的価値観等がソーシァルメディア上に存在しないことで、デジタルファシズムに基因する甚大な脅威が全ての社会に醸成されることになる。ウソや誹謗中傷や歪曲が頻繁に起こるソーシァルメディア上においては、真実を探し出すことや真実に辿りつくことや真実を守るといった行動が極めて大切なことになる」とエルドガン大統領は指摘した。 今日、世界で40億人程がソーシァルメディアを利用しており、彼らは日に2時間半ほどを少数のソーシァルメディアのアプリ利用に費やしているという。人々にコンテンツを提供するソーシァルメディアの場では、より多くのオンライン接続を利用者に可能にするとともに、利用者を政治的に・商業的に、そして文化的に誘導していくことが出来るのである。人々の生活は楽になり、楽しいものになる、と騙す形で誘導していき、その上で『人工頭脳指向型アプリ』(Artificial intelligence-oriented application)というものは、人々の声や画像や位置情報を常に入手し記録化し、人々にとってベストなものとは何であるか、といったビックデータ情報を入手することを望む大企業や政府にその情報入手の方策を提供することになる、とUnayさんは語る。 (ソーシァルメディアで社会の何が変わったのか?) Unayさんはインターネットが初めて登場したWeb1.0と呼ばれる時代では、情報の通信は一方通行だったということを強調する。 当時はコンピュータ言語とコンテンツの作り方を心得ている人々が、インターネットへ情報を提供し、世界の大多数の人々は単にパンフレットを読むがごとくだけだといった関わり方をしていたのである。 Web 2.0と呼ぶ時代に入ると、ソーシァルメディア上のアプリにおいては以前の時代の特徴であったコンテンツの制作やデータの供給に関する難解さは基本的に取り除かれることになった。 電子情報伝達の拡大と共に、世界には「一つの世界村」といった意識が生れ、我々は今やその村に住んでいる。スマホの出現と利用によりソーシァルメディアの利用は拡大し、我々の社会や生活スタイルや文化や伝統や我々の使う言葉さえもが影響され変化してきている。 我々はお互いにほとんど同じで似ている、とする「人間共同体」の意識を今や、我々は「新たな世界秩序」の中に見出している、とUnayさんは指摘する。 過去には、例えば地域ごとの衣装がそれぞれの地域の特性を示していたが、今は世界のだれもが同じような衣装を着ており、地域性は無くなった、とUnay さんは指摘する。 食べ物についても、従来の地域ごとの特色が希薄化し、今やほとんどの人々が同じような食事をし、同じコーヒーを飲み、同じアイスクリームを食べているのである。即ち従来の『世界の料理』の幅や奥行きの広さの中に、『同じような料理』という分類が付け加えられた、とUnayさんは強調する。 昔は地域ごとで様々な特徴のある建物を見ることができたものだが、今は世界各地の様々な都市、そして例え小さな都市であっても同じような建物が建てられており、人々は判で押したような同じ形の都市に住み、同じようなショッピングモールで買い物をし、同じような娯楽施設で楽しんでいるのである。 人々が背景に持つ伝統や文化が、時とともにお互いに似てきており、結婚から葬儀に至る人々の生活のイベントに当たって人々の行動や振る舞いが徐々に近づき似てきている、とUnayさんは指摘する。 数百万人のソーシァルメディア利用者がメディア上で興味を引く流行・トレンドを短時間の内に皆が体験するということが起こっている。文化的背景が異なるにも拘らず、大半の人々が、そこでは同じような一般化・共通化した行動をとるようになる、とUnayさんは指摘する。 「ソーシァルメディアを用いていると、人々はあまり話したがらず、あまり書くことをしない。その一方、視る・聴くことは増える。そうこうしている内に、『人々は視聴しているものに影響されるようになり、スクリーン上の人々の行動を真似るようになる。スクリーン中毒と呼ばれる症状が現れる』ことになり、医学的に懸念される問題が発生する」とUnayさんは指摘する。 「ソーシァルメディアが我々の生活に踏み込んでくれば来るほど、これらすべての変化が生じてくる」とUnayさんは言う。 「人々の好みといったものは、視覚によって急速に変化する、という。よって人間の目に近い対話型装置(interactive devices)上のアプリには、生活に関する多くの物事を時間とともに変化させる力がある」とUnayさんは指摘する。 (デジタルファシズムとは一体どこに存在しているか?) デジタルファシズムには、日常生活や社会の政治的選択に影響を及ぼすウソや虚偽や誤った情報やコンテンツが多く含まれている、とUnayさんは語る。 デジタルファシズムの推進を目指すグループの最大の目標は、偽情報や汚染された情報を作り出すことだ、とUnayさんは語る。 検索エンジンというものは、情報やコンテンツの結果をユーザーが望むように分類化することができ、そしてユーザーが望むようにウェブサイトをアクセスしやすいように移動させることができる。その一方で、検索エンジンはユーザーが望まないウェブサイトを検索結果から削除することができるとUnayさんは語る。 ロシアとウクライナとの戦争の期間に、最も典型的な例を最近私たちは確認している。即ち、ロシアの情報サイトが世界中の検索エンジンから削除されていたことがあり、ロシアの情報への我々のアクセスは制御されていた。 音声や画像を模倣し、望むままに編集して作られた『ディープフェイク』(deepfake:deep learning深層学習とfake偽物とを組み合わせた造語で、悪意を持って本物のように作られたものを指す)動画を使用して、望む内容に偽造した映像を市民に無制限に拡散し、提示することで、市民にその虚偽内容を信じ込ませることができるようになっている、とUnayさんは指摘する。 「現時点では、ヂープフェイク動画と本物の動画とを区別できるソフトはない。従って、動画の真贋を理解して識別することは非常に難しい」 『ハッシュタグ』(hashtags;メディア上の特定テーマに関する投稿を検索し一覧表化するのに便利な機能)や『シェアshares』といった機能を推進することが、ユーザー相互間の交流や閲覧の拡大に繋がり、ユーザーを望む方向へ誘導する上での優れた武器に、これらの機能がなっていると、Unayさんは指摘する。 国際的なメディアを利用して、情報や話題を望む方向に誘導するよう継続的に流す、といった情報源の単一化を行い、世界世論の流れ・方向性を望み通りに管理し、方向付けすることができるようになっている、とUnayさんは付け加えている。 (デジタルファシズムに対抗できる対応策は果たしてあるだろうか?) デジタルファシズムに対抗して取り得る手段を実行することが、人間らしさを保持する上で重要な責任であり義務である、とUnayさんは語る。そしてそれに加えて社会を守るためには、国際協調・協力を制定する法律をデジタル的に実践すべきであると指摘している。 インターネットやソーシァルメディアの急速な進展の速さに比べて、国際協調・協力に基づく法律の制定やその実践は、大きく遅れを取っていると、Unaiさんは警告する。そして制定された法律の実施方法は見直されるべきであり、法律のデジタル管理やそのデジタル的実践をできるだけ早く取り入れるべきだと述べている。 デジタルファシズムに対する最も有効な投資は、偽と思われる情報に対しての社会への衆知を迅速化・効率化することである、とUnayさんは語る。 真贋に関する市民の判断に必要な適切な情報を公的機関が迅速に行わない場合、社会というものはソーシァルメディア上に流れる偽情報やある意思を持って流される誤誘導を目指した情報を信じるものである、とUnayさんは指摘する。それに加えて、公的な情報源からの情報提供が遅れる場合には、殊に人々は偽情報を余計に信じ込むものだと指摘する。 「フェイクニュースや虚偽ニュースに対抗するためには、参考となる情報源が必要になるのである。人々から多くの反響を得ているニュースや情報というものは、分析に掛かられる必要があり、真実と虚偽との違いを社会に示していかなければならない」とUnayさんは付け加えている。
0064
砂漠化課題に関するトップダウン的多国間協議の場の現在地、そしてボトムアップ的に市民層から提起される『植物を重視した条約(Plant Based Treaty)』運動というアイデア
yo-chan
12/20 15:34
砂漠化課題に関するトップダウン的多国間協議の場の現在地、そしてボトムアップ的に市民層から提起される『植物を重視した条約(Plant Based Treaty)』運動というアイデア 地球温暖化課題解決を目指す各国政府間協議がCOPsの場で毎年開催されている。 今年度はアゼルバイジャンでのCOP29が12月初旬、先進国側から支援金を3000億ドルに増やす約束で何とか決着を見たところである。途上国側からは、不充分を指摘する声が多数出されており、不満が残る決着だったとされる。 地球温暖化の大きな側面である地球砂漠化の課題を討議する多国間協議が、12月初めの12日間を使ってサウジアラビアで開催されていた。この砂漠化課題COPは2年ごとに開催されることから今回がCOP16となっている。 11月後半の時期を使って毎年行われる多国間協議に比べて注目度合いが気になる所であり、今回のCOP16【国連砂漠化防止条約;UN Convention to Combat Desertification(UNCCD)】を紹介する記事を先ずは以下に記します。 紹介記事は3つになります。記事の重複を避ける等でかなりの編集をしています。 1. サウジアラビアで行われていた地球砂漠化に取り組む国連会合で、成果が得られず (原題: Saudi-hosted UN talks fail to produce deal to tackle global drought) Al Jazeera, 2024年12月14日 2. COP16が、世界の土地の4分の3は「永久的な乾燥状態」にあると警告 (原題:COP16 report warns three-quarters of global land ‘permanently drier’) The Economic Times 2024年12月10日 3.国連COP16は地球の乾燥を抑制し、停止するのに役立つだろうか? (原題:Can the UN COP16 summit help stop Earth’s land drying out?) Deutsche Welle, Dec.12, 2024年、Holly Young氏記す 1.サウジアラビアで行われていた地球砂漠化に取り組む国連会合で、成果が得られず Al Jazeera, 2024年12月14日 今後の干ばつ対策は、2年後の2026年のモンゴルで開かれるCOP17に先送りされる。 国連砂漠化防止条約(UNCCD)の締約国会議(12日間に亘り開催。COP16と呼ばれる)は、合意に至らないまま、サウジアラビアの首都リヤドで終了した。 今回の会議は、コロンビアでの生物多様性会議、韓国でのプラスチック汚染問題会議、そしてアゼルバイジャンでのCOP29という一連の多国間会合を引き継ぐ形で行われたが、残念ながら、どの会合も不満が残るものだったとされている。 国連砂漠化防止条約の締約国会議は、気候変動に関する強力な世界的義務を作りだすこと、早期警報システムを作るのに必要な資金を各国に要請すること、そして貧困諸国(特にアフリカ諸国)の強靭化に必要なインフラを構築することを目指してきている。 UNCCDのイブラヒム・ティアウ事務局長は、最善の方策の合意にはまだまだ時間が必要だと、述べている。 情報筋によると、196カ国及び欧州連合(EU)とからなる締約国は、「今後の干ばつ対策の基盤を築く上で大きな進展があり、2年後のモンゴルでのCOP17で完成することになるだろう」としている。 会議2日目に国連は報告書を提示し、その中で人が作り出す環境破壊により干ばつという事象が発生しており、世界の損害額は毎年3000億ドル以上と見積もられる、としている。 そして、2050年までに世界の人口の75%が干ばつによる影響を被ると予測している。 グローバルサウスとノースとの間に認識の違いがあることが明らかとなってきている。 COP16に参加したあるアフリカ代表は、干ばつに関して全ての政府が強力な準備と計画を策定し責任を負うという、拘束力のある議定書が合意されることが今回の会議の目標だと語り、アフリカ各国が強い統一戦線を組み議定書合意に向け、従来以上の団結を見せている、と指摘している。 一方、2名の別のCOP16参加者は、先進国側は拘束力のある議定書を望んでおらず、その代わりに「枠組み」作りを求めて争っているのが先進国側の姿勢であるとし、アフリカ諸国が不満を抱く原因だとしている。 リヤドでの会議に先立ち、UNCCDは15億haの土地が2030年末までに回復されることが必要であり、その為の資金として最低2.6兆ドルが求められるとしている。 2.COP16が、世界の土地の4分の3は「永久的な乾燥状態」にあると警告 The Economic Times 2024年12月10日 サウジアラビアで開催されている砂漠化等の課題を討議するCOP16において、国連後援の報告書が月曜日に発表され、世界の75%以上の土地が過去30年間以上にわたり「永久的な乾燥状態」にあると指摘している。 今や乾燥した大地は南極を除く陸地面積の40%程になっており、この陸地の乾燥化状況を放置すると、2100年までに50億人の人々に影響を与えることになるだろうと国連砂漠化防止条約(the United Nations Convention to Combat Desertification :UNCCD)の締約国会議は指摘している。 砂漠化からの回復が困難とされる現在の状況は「人類の生存への脅威」であり、農業活動が難しい乾燥大地や地域は、1990年から2020年の期間に430万km2(4.3億ha;地球の陸地面積は130億ha程、農耕地面積は12億ha程とされる。30年間での4.3億ha分の砂漠化拡大が如何に深刻な問題なのかは容易に理解されるだろう)分が増加している。 乾燥(Aridity:水分の慢性的な不足・欠乏状況)地域面積割合は、30年前の37.5%から40.6%へと拡大している。 報告書はまた、最も甚大な影響を受けている地域を挙げており、地球海地域・南部アフリカ・南部オーストラリアそしてアジアとラテンアメリカの幾つかの地域としている。 「日照り(droughts)」は一時的な少雨の時期を指すが、「乾燥(aridity)」は絶え間なく続く永久的な変容・変質を意味する」とUNCCDのIbrahim Thiaw事務局長は指摘する。 「より乾燥した気象状況により今や地球上の大地は影響を受けており、元に戻れない可能性がある。地球上の従来の環境を基に調和してきた生命活動が、変化して来ている環境条件に再度調和するよう再編成されることが求められている」とティアウさんは語る。 この変化は、温室効果ガスの排出による地球温暖化の影響が原因であり、降雨状況を変化させ、地表からの水分蒸発を増進させている、と報告書は指摘する。 「国連の科学者組織が地球の多くの地域の永久的な乾燥状況を生み出した原因が化石燃料の燃焼だと、警告したのは今回が初めて」とUNCCDの主席研究者のBarron Orrさんは語る。 更にこの状況は、水の利用性に対して壊滅的な影響を与える可能性があり、人間社会にとっては利用可能な水の量が危険な限界閾値に近づく恐れがあり、自然環境にとっては良質な水の量が危険な限界閾値に近づく恐れがある、とOrrさんは付け加えている。 慢性的な水不足の影響は、土壌の劣化・自然生態系の崩壊・食糧安全保障の不安定化や移住の強制化に繋がる。 乾燥地化が懸念される地域に居住する人は既に23億人に達するとされ、現在の状況が変わらなければ、最悪の場合、今後50億人が影響を受けるとされる。 この状況への対処策として、科学者らは「地域の乾燥度の状況を、既存の日照り監視システムの中に組み込むこと、土壌と水系の管理方法を改善すること、および影響に脆弱な地域を強靭化すること」を推奨している。 3.国連COP16は地球の乾燥を抑制し、停止するのに役立つだろうか? Deutsche Welle, Dec.12, 2024年、 Holly Young氏記す 健康な土壌というものが、水と食料を私たちに与えてくれる上で重要な条件。 2週間以上に亘り多くの国がサウジアラビアに集まり、この課題に関して討議を重ねていた。 干ばつ化や大地の劣化は、私たちの生存に関わる重大な事態であり、今世紀末までに50億人に影響が出る恐れがある、とする国連の報告書が今週出された。 最早、土壌は耕作不能となり、利用できる水は減少し、生態系の崩壊が進行していることから、人々は居住する土地を追われ、移住を余議される人の数は拡大を続けている。 国連の科学者らは、地球温暖化が第一の要因として挙げられるが、それ以外の要因として森林伐採・持続可能性が疑わしい農業慣行の存在、そして厳しさが増しつつ、頻発化する干ばつ事象の存在が、大地の劣化の要因としている。 30年前に国連砂漠化防止条約(the UN Convention to Combat Desertification :UNCCD)に署名した国々が、2週間以上にわたり行動計画や干ばつ強靭化策や大地の再生を討議した。 劣化大地の再生は「達成困難な大事業」と過大に論評されることが多い難題であり、見過ごされてしまうことが多い私たちが直面する危機、と言える。 「気候変動危機や生物多様性の減少危機や環境汚染危機等に比べると、大地の劣化に関する危機意識は極めて小さいものである。しかし実態としては毎年大地の1億ha以上(全陸地の1%程)が劣化していっている」と国際的なNGO国際自然保護連合のデービッド・グッドマンさんは指摘する。 COP16の主要中心議題は、干ばつ対策に関する世界的な枠組みを構築することであり、この問題はどの国でも、どの生態系でも起こり得る課題である、と国連砂漠化防止条約機構のイブラヒム・ティアウ所長は語る。 「フィリピンで、初めてとなる干ばつが今年発生した。つまり干ばつは最早、乾燥地域だけに起こる現象ではなくなってきており、北方の森林地帯(boreal forest)の林においてさえ起こる。」 2000年以降29%の拡大が起こったとされる干ばつは、世界規模で発生する最悪の災害であり、2050年までには世界の75%の人々に悪影響が出ると予測されている。 干ばつによる災害が起こった後に事後的に対策を取るやり方から、干ばつが発生する前の干ばつ強靭化対策や危険管理対策といった、より積極的な対応策に移行する必要がある、とグッドマンさんは指摘する。 「干ばつ対策を大幅に強化する必要性についての基本的合意は各国にあるものの、どのようにして実現化していくことが、最善かに関しては合意されておらず、依然として関係各国で論争が続いている。」とグッドマンさんは語る。 アフリカの幾つかの国は、「法的拘束力を持つ」干ばつ管理『議定書』を望んでいる。しかし、行動の指針となる『枠組み』を優先し、行動の加速化を望む諸国も存在している。 EUを含む勢力は、拘束力のある行動への準備が出来ていないようだと、セネガル代表のエマニュエル・セックさんは語る。 「議定書に合意できる段階に達した、と参加諸国が声明出来る状況を、来るCOPまでに作りたいものだ」とセックさんは語る。 移住圧力と不安定化が高まっている。 今回のCOP16の討議の中心課題は、干ばつ・砂漠化や大地の劣化の拡大化により引き起こされる数百万にも及ぶ強制的に移住を迫られる人々の問題であり、結果的に起こる地域社会・国際社会の安全保障に関連する問題である。 かつて肥沃だった土地が、水が不足し、埃まみれになったことから移住をせざるを得ない状況になっている数百万人に及ぶ人々が中東やアフリカや南アジアの地域に存在しており、これからの数十年間に更にこの状況の悪化が拡大すると見られている。 例えば、1960年代以降、チャド湖は90%ほど湖の面積が縮小し、周辺地域住民の生活の術は奪われてしまい、地域社会に緊張化が高まっている、とチャドの活動家イブラヒムさんは語る。「湖の縮小により、資源は枯渇し、地域住民は水の近くの周辺に集中化してきており、紛争を引き起こすもとになっていると、イブラヒムさんは語る。 資金面の公約が提示されるものの、大きなギャップが存在している。 国連の目標(15億haの劣化土壌を2030年までに再生する)を達成するには、2030年末までの全投資額は少なくとも2.6兆ドルと見込まれている(1日当たりに換算すると毎日10億ドルに相当)、とCOP16の始めに発表された報告書は指摘する。 サミット2日目に、120億ドルの寄付が開発金融機関連合とリヤド干ばつ強靭化パートナーシップから公約された。 サミットの第2週目には、「緑の壁を目指す大運動(the Great Green Wall initiative)」の実施化のための支援金がイタリアから1100万ドルとオーストリアから360万ドルが提示された。 【 the Great Green Wall initiative:アフリカが主導する大地の緑化を推進する運動。1億haの劣化土地の再生、2.5億万トンの炭素固定化、地域社会で1000万人の雇用を創出すること、を目指す運動という】 「今年度に行われた他の多くのCOP サミットでも経験したように、持てる資源の動員・調達・移動や資金の動員・調達・移動といったことが、依然として大きな課題として残っている」とグッドマンさんは生物多様性の為のCOPサミットのことを念頭に置いて指摘している。 グッドマンさんは毎年の必要な資金を満足するためには年間2780億ドルの資金ギャップが残っているとし、やるべきことは山積している、と指摘する。 大地再生と干ばつ強靭化への資金面で、現状6%分の貢献をしている民間セクターはもっと大きな役割が期待される、と国連砂漠化防止条約機構のイブラヒム・ティアウ所長は語る。 「私たちは慈善事業の話をしているのではない。食べ物や綿花を栽培したり、鉱物資源の採掘を行う民間セクターが、彼らの土地に対し彼ら自身が投資するような話、を私たちはしているのだ」と語る。 10億haを超す土地の再生により、農業の生産性が向上することになり、それによって予測される収益の増大分は年間最大1.8兆ドルになるとされる。 サミットの最終日、グッドマンさんは気候変動と生物多様性の喪失に関する目標を達成していくには、大地および自然生態系の両方が健全であることが必須の条件であり、その為に各当事者らは、それぞれ野心的な目標を高めていくことが必要とされる、としている。 大地は劣化すると、植物や動物の生命の維持が困難になるだけでなく、土壌に閉じ込められていた炭素が大気中に放出されることになり、気候変動の要因が拡大することになる。 国連砂漠化防止条約機構が設立されて以降、50以上の国が目標を設定して、大地の再生ならびに保護活動を行ってきている。 植林・輪作・土壌の保水力の改善や有機性肥料あるいは化学合成肥料の投与は、大地を再生させるのに役立つ戦略である。 各当事者らは、2030年までに「大地劣化の中立化:land degradation neutrality」と呼ばれる「健康な土壌における正味損失ゼロ化」の達成を目標としている。 「2030年以降に対する野心的目標をも、展開していきたいものだ」とも指摘している。 以上、砂漠化防止条約の実効化を目指す今年度の国際会議(COP16)の状況を紹介する記事を見た。 近年の多国間協議の実態の特徴は、特に多国籍巨大企業が国際的課題に対する利害関係者としての地位を国連から認められ、多数の政府代表者に交じって彼らの配するロビーストをも含めた企業関係者が、協議の方向性を左右する動きをしており、国連自体もまた次々に生じる難題に直面して、巨大企業の力なしでは乗り越えることが難しいとの判断のもと企業に依存する姿勢を取っているのが、現今の多国間協議の特徴だと言える。 多国間主義(multilateralism)からマルチステークホルダー主義(multistakeholderism)への移行である。 ここで国際社会が課題解決のため多国籍企業の力に頼れば頼るほど、社会を構成する市民の課題解決への影響力は、反対に低下していくことになる。 この流れは、国際社会だけに起こっているのではなく、日本国内にも社会を支配する考え方の大きな流れを形成しており、市民が普段抱く社会の閉塞感の根本要因だと思っている。 いわゆる巨大企業が差配するトップダウン式政治経済システムのみが社会の動向を決定していくのであり、一方の市民の影響力はほぼ発揮することが期待できない出来ないシステムが出来上がっているのでは、との懸念を絶えず持っている。 今回のCOP16においても見られるグローバルサウス側の諸国が国際会議の運営や結果に不満を呈することになるのも当然であり、また一方で、閉塞感に苛まされる市民が日本に存在し続けるのも頷ける。システム上の課題が社会に存在しているからだと思う。 何をどうしたら良いか、は非常に大きな私たち市民のテーマだと思う。 一つの切り口となる考えは、巨大企業のトップダウンの力が横行する社会状況に風穴を開けるものは市民側から生れるボトムアップの力であろう。ここでもやはり、では具体的にどうしたら良いだろうか、という問題が起こると思う。 かかる市民側からのボトムアップの力が、結構容易に達成できるのではないかと感じる、そういった視点から興味深い話題を次に紹介したい。 『植物を重視する条約(Plant Based Treaty)』運動という話題で、まさに運動主体の掲げるスローガンに市民側からボトムアップ的推進が記されております。 以下の情報は、Plant Based Treatyを推進するグループのホームページから取っています。 先ずは彼らのスローガンから紹介しましょう。彼らの心意気を強く感じる宣言です。 『私たちは、国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change;UNFCCC)パリ協定(Paris Agreement)【2015年パリでのCOP21で採択された国際的枠組。産業革命前に比べて2℃以下、努力目標として1.5℃以内に抑えること。その為の目標を各国は提示し、5年ごとに進捗状況を検討し見直すこと、を掲げた国際間協定】に賛同し、同調する形で、ボトムアップから生まれる圧力を背景にして、『植物を重視する条約』を世界規模での討議課題にすべく活動する『草の根運動』の組織です。』 『化石燃料条約(Fossil Fuel Treaty)』をモデルとし、『植物を重視する条約』を推進する私たちの運動は、『私たちが現在採用する食のシステム』自体が内包している問題点を、現在の気候危機との闘いという世界規模の議論の場の最前線に置くことを目指している。 その理由は、緊急を要する現在の生態系劣化の原因が、世界を覆う『動物飼育型農業』の拡大化の動きであると考えており、より健康な・より持続可能性の高い『植物を重視した食べ物』へと私たちのシステムを移行することが望ましいと思っているからです。 次いで彼らのホームページの『私たちについて(About Us)』の部分の紹介です。 1.私たちの使命:公正であり・植物を重視した食料システムに向けての移行を推進すること。 それにより、私たちは地球閾値(シキイチ)限界内で安全な生活が確保でき、そして地球 の再森林化が可能となる。 2. 私たちの目標:「植物を重視する条約」を国連気候変動枠組条約(United Nation Framework Convention on Climate Change:UNFCCC)に付け加えることが私たちの目標である。 それにより、植物を重視した食料システムに向けての私たちの移行が実現される。2番目の目標は各都市や各組織が、植物を重視した食料についての最善の実行政策を推進し、そして自然環境を再度野生化する上での最善の実行政策を推進できることになる。 3.植物を重視する条約のプログラム 3-1 植物を重視する条約を推進する支援者や支援団体・組織を統合すること 植物を重視する食生活への転換と移行を推進する上での進め方として、数百万人の支援者からボトムアップ的に発生する支援圧力(この中には著名人らや科学者・政治家らや各種団体・企業や地域共同体も含まれる)を統合し、「植物を重視する条約」が世界規模の議題となるよう各国政府に圧力をかけていく考えを持っている。 現在支援を表明している組織等の実態 34の都市 216,411人の個人 1552の組織 2080の企業 3-2 各種プレイブック等の活用 幼児教育、大学、老人ホームやアスリート向けの植物を重視した条約の最善の実践法を纏めたプレイブックを利用して、植物を重視した食べ物の選択肢と教育の拡大を目指す。 大学向けガイドには、炭素ラベル表示の推進、地球月間や肉食を避ける週間や世界ビーガンの日やVeganuary(1月をビーガンの月とするNPOの運動)等の存在をカレンダー化して周知することを目指す。 3-3 「植物を重視する条約」の地域共同体へのアプローチプログラム 私たちは、地域に密着した支援組織基盤の構築を重視しており、これら活動によって地域共同体が既に行っている気候課題対策や生物多様性課題対策や食料貧困対策の中に、「植物を重視する条約」の考え方や「食料を重視した食事システム」の考え方を広め、導入していくことを目指している。 3-4. 地球気候会議に対する提案 私たちは、国連気候変動枠組条約締約国会議(COPs)やボン気候会議や国連経済社会理事会(Economic and Social Council:ECOSOC)のSDGs協議などの世界規模の気候会議の場で、『植物を重視する食事システム』への移行課題を議題化するように支援啓発活動を行っている。私たちは、2023年12月に初の年次報告書『Safe and Just』を刊行している。 3-5 トレーニングと能力開発 私たちは、植物を重視する運動を強化し、推進するために役立つ道具作りやトレーニングや新たな支援者の募集等を行い、それらにより効果的な都市地域のチ−ム活動の立ち上げに取り組んでいる。 以上で、「植物を重視した条約」のホームページに記載の「私たちについて」部分の紹介を終わります。 『植物を重視した条約』に関する話題は他にも多く紹介されています。残りの興味ある情報は別の機会に紹介する予定です。 ここで、『植物を重視した条約』の運動を、自身の中に取り入れることは極めて容易なことを強調しておきます。 単に、肉食を止めるか、肉を食べる回数を減らせば、彼らの運動に参加したことになりますし、それをきっかけに自身の健康を食べものの視点から見つめ直すことにも繋がるという利点があります。 以前、農水省が一日豆類100gを食べましょうという運動を行っていることを紹介しております。畜肉を控えることで摂食量の低下が懸念される蛋白量は、農水省としては珍しい良き提案を取り込めば、充分確保は出来、お釣りさえ出るかもしれません。 畜肉経由という効率の悪い蛋白摂取ではなく、効率の良い直接的蛋白摂取策を、例えば豆類を食べることで私たちは実践でき、実感が出来ます。 国際間のトップダウン的方式では解決策の合意が難しく、議論がなかなか煮詰まらない国際会議の動向をしり目に、私たちは自身の食生活の見直しという簡単な行動で持って、地球環境という難題でさえも、極めて簡単に良い方向に持っていくことが可能だという、ある意味爽快感さえ覚える少なくとも閉塞感を少しは軽減できる運動を、彼らは提示していると思っております。何故なら、現在、『畜産型農業』向けの飼料耕作面積及び放牧用地・牧草用地は、世界の全農耕地面積の半分以上を占めていると言われております。彼らの運動は、必要以上に農耕地を占有している『畜産型農業』の問題点を指摘しているのであり、また良く言われる牛肉を経由して私たちが受け取る栄養分は、家畜向けの飼料(トウモロコシや大豆等)の持つ総栄養分の10分の一程という利用効率の悪さを問題にしているのです。 畜産・畜肉業界も巨大であり、トップダウン的経済政策システム作りの内側にいる組織でしょう。彼らの推奨する世界的課題の解決策作りには、『畜産型農業』を見直す・減少させるなどという考えが入り込む余地は、期待する方が無理でしょう。 市民からのボトムアップ型運動のみが、切り込んでいける運動であり、彼らの運動が求められる理由になります。 彼らのホームページには、個人なり組織なり企業や地方公共団体の参加を促す場所があり、より直接的参加も可能です。 今回はここまでとします。
0065
今年度ノーベル経済学受賞のアセモグルさんとジョンソンさんが提示する「モノサシ」が、望ましい社会を考える際の楽しみな道具と見ることが出来る(1)
yo-chan
12/30 14:58
今年度ノーベル経済学受賞のアセモグルさんとジョンソンさんが提示する「モノサシ」が、望ましい社会を考える際の楽しみな道具と見ることが出来る(1) アセモグルさんとジョンソンさんは、受賞の対象となった3つの著作(「国家はなぜ衰退するのか?(Why nations fail?)」;「自由の命運:国家・社会そして狭い回廊(The Narrow Corridor; States, Societies, and the Fate of Liberty)」;「技術革新と不平等の1000年史(Power and Progress)」)を私たちに提供してくれた。 それら著書の中で、二人は学者ならではの類まれな情報収集力と分析力を駆使して、私たちの社会が有史以来抱えて来ている課題・難題を考えていく際に役立つ「言葉・キーワード」や「考え方・思想」について数多くの説明と情報を提供してくれています。 2024年最後の投稿で、今回はこの二人が提示してくれている彼らが到達した地点からの眺めを共に見ることの楽しみを、そしてその眺めが、私たちが「社会」を考えていく際の「優れたモノサシ・羅針盤」になっているのでは、との思いを紹介出来ればと考えています。 彼らの提供する情報には、欧米の学者ならではの視野の広さと奥行きがあります。とにかく膨大な情報量と言えます。従って、全体像を俯瞰した形で紹介できる力は持ち合わせておりませんので、今後紹介するものは、かなり断片化した視野の狭さが否めないものになります。 一つ一つ気になった「言葉・キーワード」や「考え方・思想」に出会ったと感じた事柄をトピック的に紹介する体裁を先ずは取っていきたいと思います。 彼らの提供してくれる眺めを鳥瞰図的ならぬ虫瞰図的に見ていくのも楽しいことであり、また辿っていく先に、二人が提示するモノサシを使えば世の中の仕組みの「あや」が見えてくるといった思わぬ眺めがあることを期待しての歩みも意義あるものと思っております。 では東洋経済ONLINE に収載の河野龍太郎氏の記事の紹介から始めます。 河野氏も、二人のモノサシを基に両氏の提供する眺めを見ているのではないかと思います。 河野氏の情報は有料記事であり、無料で読める部分だけを紹介したものになります。更に氏の主旨は尊重しつつ、ある程度の編集を加えての紹介になっております。 「日本は既に収奪的な社会になっているのではないか」という設問を河野氏は立てて、ノーベル経済学賞受賞者らが提示するモノサシからその点を考えることを行っています。 「日本は包摂的な社会か、収奪的な社会か?」と聞かれたら、多くの人は「包摂的な社会だ」と答えるだろう。だが本当にそうだろうか。 ダロン・アセモグルさんとサイモン・ジョンソンさんは「包摂的な社会でなければ技術革新は成長につながらない」と説いている。彼らの論考を読み解くと、実は日本は気がつかないうちに「収奪的な社会」になってしまっていたことに気づかされる。 「技術革新と不平等の1000年史、2023年」でアセモグルさんとジョンソンさんが論じたのは、次の点だ。 1. 歴史的に見ると、包摂的(多くの人が参加し、そして多くの人に恩恵が広く行きわたる)ではない、収奪的な技術革新というものは、一部の人に富が独占されることが推し進められることになり、必ずしも市民が構成する社会の成長には繋がらない。 2. 収奪的な技術革新になるか、包摂的な技術革新になるかは事前に決まっている訳ではなく、その社会が収奪的なものか、あるいは包摂的なものか、によって決まる。 さらに、アセモグルさんとジョンソンさんは別の本「国家はなぜ衰退するのか(2013年)」で指摘したのは、自由競争社会であるはずのアメリカで、実は金権政治がものを言うようになり、青天井の企業献金が許され、技術革新の果実もトップの富裕層に集中するという実態が発生している。 そして二人は、衰退した国家はいずれもリーダ―や権力者といったエリート層が民衆や弱者から搾取する収奪的政治制度の下で国家・社会を統治していたという事実を例示し、実はアメリカも収奪的な社会になっているのではないか、と警鐘を鳴らしているのである。 アセモグルさんらの一連の論考が、「今の日本にも大いに当てはまっているのではないか」と河野氏は以前から感じていた、という。私たちの知らないうちに、日本はかなり収奪的社会に移行しており、そのことが長期停滞から抜け出せない我が国の原因ではないか、と10年ほど前から河野氏は主張していたという。 周囲の人は、長期停滞から抜け出すには「成長戦略が必要」とか「生産性の向上が必要」と指摘する中、河野氏は「生産性の向上が問題ではなく、分配の仕方が問題ではないか」と主張してきた。 生産性は向上しているのに実質賃金が上がっていない、ことが一つの日本が収奪的社会になっている証拠であり、格差の存在及び格差の放置ということも、また別の証拠だろうと河野氏は指摘している。 以上になります。 河野氏の論考には、「日本は既に収奪的な社会になっているのではないか」という設問や「日本は包摂的な社会か、収奪的な社会か?」や「包摂的な社会でなければ技術革新は成長につながらない」といった興味深い設問が登場しており、私たちが、社会が抱える課題や難題に直面した際に、考察が必要な「言葉」や「考え方」がちりばめられております。 そして河野氏は、現在の日本が「気がつかないうちに、既に収奪的社会に陥ってしまっている」という結論を導き出すのに、アセモグルさんとジョンソンさんの著書にあるモノサシを用いております。 当面はこのやり方を参考にして、アセモグルさんとジョンソンさんの著作の中で気になった「言葉・キーワード」や「考え方・思想」に出会うごとに、一つ一つ取り上げトピック的に紹介する方法をもって二人のたどった道と、そして辿りついた頂上の一つ一つからの眺望を眺めるという楽しみを行っていきたいと思っております。 第一回目は、アセモグルさんとジョンソンさんが、「自由の命運:国家、社会、そして狭い回廊」の序章において重視すると指摘しており、そして社会を構成する私たち市民が最も目標としたい「自由」について考えてみます。 両氏はこの言葉が意味するある部分を、「ギルガメッシュの寓話」を引用して説明しています。今回はこの寓話にスポットライトを当てて見ます。 ギルガメッシュは、紀元前2200年頃の現在のイラク南部にあった世界最古と謳われる古代都市ウルクの王であったとされ、現存する最古の文書に数えられるシュメールの石板に書かれた「ギルガメッシュ叙事詩」の中で、彼は統治していたウルクを、交易の振興で繁栄させ、住民には公共サービスを提供し、目覚ましい都市を形作っていったことが謳われている。 こういった偉大な面がある半面、ギルガメッシュにはもう一方の面として、住民すべてを自分の持ち物とし、住民に対してやりたい放題な振る舞いをするという専横的な面があった。即ち、ウルクの民には真の意味での「自由」がなかった、としている。 「自由」の無さに嘆いた住民らは、シュメールの主神である天の神「アヌ」に助けを求めた。 「アヌ」が取った方策は、女神「アルル」に対し、ギルガメッシュに匹敵する分身「エンキドゥ」を作ることを命じたのである。即ち、力には力でギルガメッシュの力を削ぎ、それによりウルクの民の「自由」を達成しようとしたのである。 当初、ギルガメッシュはエンキドゥに手を焼き、「アヌ」の方策が効を奏したに見られたが、やがてギルガメッシュとエンキドゥとは和解し、二人して専横の限りを尽くすようになってしまった、というのが「ギルガメッシュの寓話」のあらすじです。 この寓話を下敷きに、アセモグルさんとジョンソンさんは、ギルガメッシュ王が専横的にふるまう国家の中で、市民が獲得を願う自由という課題に関して次の説明をしている。 1.「アヌ」の採用した方策は、今日でいう「チェック&バランス〈抑制と均衡〉」だった。この方策は、アメリカの政治制度の生みの親の一人、ジェイムス・マディソンの主張(「野望には野望をもって対抗させる」との考えを合衆国憲法に導入すべき)にも現れている。だが、寓話にあったように、この方策では、ウルクの住民には真の自由は訪れなかった。即ち、上からパラシュートで降ってくるような「抑制と均衡」では、市民は真の自由の獲得はできない、ということになる。人任せでは、目標の達成は出来ないということ。 2.自由というものは、歴史上まれなものであり、今日においてもまれなことだ、とアセモグルさんとジョンソンさんは指摘し、ではどうやったら市民は真の自由を獲得できるのだろうか?と問うている。そして自由の獲得には、国家の存在が必要だとした上で、但し強い国家が存在しさえすれば市民に自由は提供されるというものではないこと、また国家を差配し指導するエリート層が好意を持って、市民に自由を提供するというものでもないとし、結論として自由というものは社会を構成する普通の人々によって獲得されるもの、即ち、国家に劣らない、そして国家と競合する強い社会の存在によって初めて獲得されるものだとしている。 3.上の結論の根拠の一つをアセモグルさんとジョンソンさんは、イギリスなどでの女性の権利獲得運動に求めている。少々過激な例を両氏は提示しているが、権利の拡大には多大な努力が求められるということを良く示す例であり、紹介したい。 1903年にサフラジェットと呼ばれる女性だけの政治団体が立ちあがった。彼女らは、女性の権利拡大を目指すという市民としての自由の権利拡大を自らの行動で図ろうとし、例えば、後に首相となる政治家の別荘に爆弾を仕掛けたり、国会議事堂の手すりに自らを鎖で繋いだり、納税を拒否したり、投獄されるとハンガーストライキに訴えるという直接行動や市民的不服従の行動を起こした。 そして、活動家の一人エミリー・デイヴィソンさんが、1913年6月4日エプソムダービーが行わる中、出場していた国王の愛馬の直前に飛び出し、自身跳ね飛ばされるとともに馬は転倒するという事件を起こした。4日後デイヴィソンさんは死亡している。 そしてそれから5年後、議会選挙への女性の投票権が達成されたのである。 この事実は、国家を差配する主として男性のエリート層の寛大な思いやりの結果ではなく、女性たちが組織化・団結化し力を高めたことの帰結と、アセモグルさんとジョンソンさんは指摘する。 女性解放の話は特殊な事例でも例外の事例でもなく、自由の実現には、社会は結束することが大切であり、国家とエリート層に対し結束して立ち向かうことが出来るかどうかが帰趨を決すると結論している。 ただでさえ強く私たちを支配しようとする国家の力が、日本には有ると思います。 そして、「自由の度合い」を高めたいという希望を私たちは強く持っていることも明白です。 だが、私たちが普段行う自由の権利の拡大を求める活動の実態は、充分なものだろうか? 結束力高く・組織的に、そして継続的に展開することが求められているのです。 果たして結束力・組織力の点で充分に行われていると言えるでしょうか? そして継続して行うという点で充分と言えるでしょうか? この辺りの関係は、アセモグルさんとジョンソンさんの提示する社会の健全度合い・幸福度合い・自由度合いが、「国家」と「社会」の両者が拮抗し合って双方力をつけ、競合し合う関係を構築できるかどうかで決まるという、いわゆる二人の言う「狭い回廊(narrow corridor)」の中に私たちの「国と社会」が入っているかどうか、に関わる事柄になります。
0066
「空気を読まない」東京新聞1面に志村さん登場
珠
01/03 11:21
明けましておめでとうございます。皆様に新春のお慶びを申し上げます。 今日の東京新聞第一面に、護憲のお仲間の志村建世さんが取り上げられています。お元気そうで何よりです。 1945年の1月1日の日記にお正月のお料理を書き「だて巻きのような甘いものはありませんでした」の記述に、戦時中を偲ばせます。 以前に護憲でお話しくださいました東京新聞の菅沼賢吾さんの 『東京新聞はなぜ、空気を読まないのか』というご本が、1月29日の発売になります。ご予約はこちらからどうぞ。 https://www.tokyo-np.co.jp/article/370967 わが家のお雑煮は、小松菜、蒲鉾、梅型人参、大根、椎茸などのお澄ましの関東風です。知人は京都出身で白味噌だそう。各地で違いますね。
0067
数えで喜寿を迎える年の始めに、相も変わらぬ・こんな社会を夢見たいものだ、という話
yo-chan
01/04 17:29
数えで喜寿を迎える年の始めに、相も変わらぬ・こんな社会を夢見たいものだ、という話 『イーロン・マスク氏は、「新封建主義」時代突入を象徴する存在』という記事が年末にあった。この記事の内容を反面教師として、相も変わらぬ・こんな社会を夢見たいものだ、という話をしてみたい。 先ずは記事(原題:Musk’s rise is symptomatic of our neo-feudal capitalist times Al Jazeera, 12月 26日,イーラン・カプール氏記す)を掻い摘んで紹介する。 世界は、ロシアと中国が金権政治体質の権威主義資本主義国だと、見なしてきた。 例えばプーチン氏の周りにはユーリ・コワルチューク、ゲンナジー・ティムチェンコ、ローテンベルグ兄弟などが、中国共産党の周りにはゾン・シャンシャンやマー・フアテング等、中国で有名な1000人の億万長者らがいるとされる。彼らが全体として強力な寡頭政治を支配していると、話題にされる。 そして現在、自由と民主を標榜する諸国で、金権体質の様相が強まっている、という。トランプ次期大統領が典型例で、彼の周りには「億万長者男子クラブ」なるものがあり、そこにはイーロン・マスク、ハワード・ラトニック、ヴィヴェック・ラマスワミなどが名を連ねている。 同様なことが、インドのモジ政権にもあり、モジ氏はムケシュ・アンバニ、ゴ−ダム・アダニ、サジヤン・ジンダルといった一握りの大物実業家と親密になり「企業に優しい」政策を推進し、経済をさらに新自由主義化することを目指しているという。 そして「億万長者の支配」が優先される方向への転換を目指す自由と民主の国として、ブラジル・韓国・台湾やトルコも挙げられている。 アメリカでは、そのマスク氏が「政府無駄遣い約二兆ドル」削減と、「過剰な州規制」削減を目指す新設予定の「政府効率化局〈Department of Government Efficiency〉」の長に任命される見込みとされる。 億万長者が、経済を牛耳り、政治をも支配する先例のない世界金権化の流れを前に、学者のジョジ・ディーン氏は、世界が「新自由主義・市場至上主義」から、「新封建主義(Neo-feudalism)」へと構造変化を起こしており、「一握りの億万ドル長者」と「十億人の不安定な労働者」が共存する時代へと転換していると表現している。 先例のない格差拡大が現在世界で起こっていることは、例えば1980年代以降、ほぼ全ての主導的先進工業諸国や主要な新興市場の各地域で起こった格差拡大の結果、総計すると世界のほぼ3分の2の人が先例のない格差拡大の影響を受けている事実から明白である。 アメリカ・中国・インド・ブラジルとロシアが格差拡大の影響の顕著な国であり、これらの諸国では金権政治による支配が遂行されている。 新封建主義時代の象徴が、多分現在進行中の「プラットフォーム経済」の下で起こっている事柄だろう。アップル・グーグル・メタ・ウ―バー・エアビーエヌビーといったごく少数の技術指向型企業が、そのプラットフォームのもと台頭し、低コスト・過酷で不安定な労働条件・税の優遇や投資への誘導といった手段を駆使して、超富裕化していき、ビジネス界の大立者となり、政権中枢への関与を高めている。 トランプやマスク、アダニやベルルスコーニといった人は、自分たちを「市民側の人間」と見せかけているが、彼らの取る政策は、企業への減税・企業にとっては魅力的なインセンティブの付与・海外との競争に打ち勝つ国内産業の保護・企業に邪魔な政府規制や投資規制の削減といったものであり、「新封建主義下での経済と政治」の実態なのである。 世界は新封建主義時代に向かい、億万長者らの金権政治が台頭し、そして自由で民主を標榜する国々では、ますます権威主義的な政府の形態が進行している。 現今の「ギグ経済」や「プラットフォーム経済」の遂行上、「新封建主義型」の政権執行者が求められている。 さて、こんな社会を夢見たいものだ、との考えからすると、世界では全く持って望ましくない状況が、上に見たとおり既に蔓延し、市民は窒息状況にあると思う。そしてこの状況は我が国にも間違いなくある。 これは政権を司るエリート層の行うトップダウン様式の政治を放置しっぱなしにしていることに加えて、そこにマルチステークホルダー主義のもと巨大企業が入りこむことを許したことから、現状の政策実態が、企業の利益の優先と政権エリート層の金権体質との間に相互にウィン-ウィンになる仕組みが出来上がり、その具合の悪さや矛盾を市民層が正していく力や行動が極端に弱かったことが、根本原因だと感じている。 即ち、トップダウン型政治・行政は社会に蔓延しているのに対して、市民が参加するボトムアップ型解決策の思想は欠乏状態だということが根本原因です。 そこで、夢の話ですが、夢の実現の目標となるキーワードを掲げます。 キーワードは「もったいない」。 この「もったいない」を市民が参加するボトムアップ運動に持ち込みたいと考えます。 簡単に説明すると、 例えば、日本の森に眠る木々。木々は充分育っているが、不充分にしか利用されていない。全くもって「もったいない」。何故に都市部に林立する超高層ビル群の、例えば2階または3階以上は木造を優先するといった政策を組み込んで利用の拡大を図ろうとしないのか? 例えば、児童。上に紹介した「新自由主義」における格差の拡大どころか、既に進む「新封建主義」社会では、格差に苦しむ家庭で勉学に励むどころでない児童が多くいることだろう。全ての児童は、それぞれに当然ながら無限の能力の可能性を秘めている。勉学に支障を抱えている多く子供らを放置していることは、全くもって「もったいない」。 例えば、我が国の農地。休耕田畑や放置田畑が全くもって多い、そして放置されている。 これまた、全くもって「もったいない」。 例えば、不安定な非正規で働いている人々。林業や農業の分野で、働く場は多く作ることが出来るだろうし、それにより職の安定化が図れるだろう。そして都市部に集中しがちな、都市部と田園部のバランスの回復の一つの方策ともなろう。不安定であり非正規の人々の放置は「もったいない」。 例えば、田園部向けの技術革新への誘導。田園部の魅力を拡大することを目指す技術革新というものは余り聞かない。現在の技術革新を目指す技術者科学者らの見つめる先に農村部等は少ないのではないか。この原因は、都市部住民向けの技術革新が企業の利益にかなう分野であり、田園部には資金という資源が大きく欠けていることが原因であろう。 この原資は都市部からの資金供与になれば良いな、と夢見る。森林税の様なものである。都市部を目指す企業の事業計画に、この分を上乗せする社会が許容されないものだろうか? 田園部に資金という資源がつけ加われば、それに見合った田園部向けの技術の革新もまたビジネスチャンスとなり、地場企業の活性化に結び付く可能性があるのではとの夢もある。 まだまだ多くの「もったいない」が、我が国・わが社会では見て見ぬふりをされて見過ごされていることだろう。 トップダウンの政治で窒息する社会から、「もったいなく」見捨てられている分野に目を向ける市民の参加型ボトムアップ社会運動の展開を、夢見ています。 「トップダウン」と「ボトムアップ」も均衡化させることが大切であり、その為の努力が市民に求められていると思っています。 なお、話題のテスラやXのマスク氏は、ドイツの年末の事件(サウジアラビア人医師が運転する車がクリスマスで賑わう群衆に突っ込んでいったというマグデブルク市で起きた事故)を背景にして、ドイツの命運はAfDの消長に掛かっている、とブログに書き、来るドイツの選挙(2月に総選挙の予定)に不当な干渉をしているとの非難を受けております。 但し、マスク氏という超億万長者の言動とそれを選挙妨害とする新聞等の言動のどちらが、ドイツ社会に実際に響いていくのか、は世の中の流れを作っていく「物語」の力という観点からこれはこれで興味深いものと思って見つめていきたいと考えております。
0068
人新世時代とは、『人災』が構造化・固定化されていく時代、と言い換えてみると
yo-chan
01/25 13:39
人新世時代とは、『人災』が構造化・固定化されていく時代、と言い換えてみると 「『本土の』無関心で『沖縄を』透明にしないで」という東京新聞のタイトルをもとに猫家さんは、『イジメ』の構造(加害行為をする人々とその行為を助長する人々、並びに見て見ぬという傍観を貫く人々、そしてこの構造に異議を申し立て行動する人々)の存在を指摘し、この構造化に異議を申し立てる人々がいること、そして傍観する人々も実態の過酷さを知れば見て見ぬふりを続ける立場から、異議を申し立てる側に変わるのではないか、かかる構造化や固定化を変えていく行動が望まれるということを紹介しているのだと思う。 人新世時代の諸状況の厳しさやオカシさや矛盾を指摘することを目的に、新聞記事等の情報を紹介しているが、タイトルに記したように人新世時代とは、そもそも『人災』の構造化や『人災』の固定化を目指す動きが先ず存在し、その結果として人新世時代特有の諸状況の厳しさやオカシさや矛盾が生まれてくる時代のことではないか、と感じています。 表現を変えれば、人新世時代という現代とは、『構造化された人災』の時代であり、それが『固定化された人災』の時代でもあるのではないか、と思っております。 そして、その構造としては、『人災』を作りだすことを狙う人々(組織)が存在し、しかもその人々(組織)は国家体制や国際間の体制に影響力を持つ、即ち権力を有する層(嫌な言い方だが、彼らはエリート層と呼ばれている)を形成し、世の流れや世の仕組みを形作って行く層が存在しており、そして不平・不満の多寡は様々だが、その流れに唯々諾々と従っていく大勢の人々がいる。また当然ながら、かかる状況に異を唱える人々もいるが残念ながら少数派の層を形成している、そんな構造の社会なのではないか。 猫家さんは、『沖縄』の課題は『沖縄』だけにとどまるのでなく、私たちの頭上に厳然とのしかかる南北に約300km、東西に約130kmという広大な『米軍空域』の存在、即ち在日米軍の特権という『イジメ』の構造の存在と、『人災』でもあるこの構造化・固定化という点に思いを膨らませていけば、決して都民も無関心ではいられないと指摘している。 ここで、氏にならい、最近見かけた『イジメ』と見える『人災』の存在とその『人災の構造化・固定化』と思われる例を先ずは紹介してみたい。 「トランプさんが、就任第一日目から『不法移民者』を早急に拘束することを始める予定」との記事(BBC NEWS,原題:Trump illegal migrant arrests to start on day one)です。 大統領指名の国境担当大臣のTom Homanさんは、移民在住者が多いとされるシカゴを手始めに早ければ火曜から行動を始めるとされる。Homanさんは、この強制送還を目指す行動が「big raid大規模な襲撃」と言われていることに反論し、この行動は「良く計画を練った上」での「標的を絞った強制執行活動」だとの論陣を張っている。 Homanさんは、この行動に対し米自由人権協会等から訴訟が提起されることを想定しており、「訴えられるだろうが、訴えるなら訴えてみろ」とも語っているという。 就任式直前の土曜日発表のニューヨークタイムズ紙とイプソス(Ipsos)の世論調査によると、かかる大規模強制送還を強く支持する、あるいはある程度は支持する人が55%に登るとしている。以上です。 トランプさんの行動は、何故に移民を選択せざるを得なかった人々の痛みということへの配慮・対応を欠くものだと思っております。 彼は、一期目と同様にパリ協定からの離脱の正式通告も初日に行っている。 気候変動による住環境・生活(生計)環境の劣化という悪条件が日々増大するという脆弱なグローバルサウスの人々が存在しており、それらの人々への配慮と対策が優先される施策が先ずは優先されなければ、移民という問題の全面的な解決には繋がらないのではと思う中での彼の行動は、現状だけ見ると残念なものに見えます。 しかしながら、そうではないという面も期待はして、今後を見守って行きたいと思います。 この話題は、長々と続けたくはないので、気持ちが上向く『イジメ』とは対峙する『チョット良い話』を最後に紹介し、人新世時代特有の『構造化された人災』『固定化された人災』の悪しき方向性のベクトルを少しでも持ち上げることが出来ればと思います。 以前、『有機肥料のボカシ』の記事のなかでRODI Kenya(資源の有効利用を目指した開発運動・ケニアResource Oriented Development Initiative Kenya)のことを紹介した。 その中で、RODI Kenyaの活動対象に、地域の学校とともに刑務所があることを紹介している。これから紹介する情報は、これに関することになる。 RODI Kenyaの活動に、『ボカシ』を含めたアグロエコロジー全般の習得の機会を刑務所内で提供することがあり、12年の刑期を課されたJidraphさんという人がそのチャンスを活用して自立していくまでを紹介する記事に仕上がっている(アグロエコロジー:囚人の更生への効果的なアプローチ、原題Agroecology: an effective approarch to prisoner rehabilitation)。この記事を提供しているのはAFSA(Alliance for Food Sovereignty in Africa)になります。簡単に紹介します。 12年の刑期を課されたJidraphさんは2007年にNeri Maximum Securityという刑務所に収監され、そこで彼はRODIが提供する「持続可能な農業と食料安全保障」プログラムの受講を申し込んだ。 Jidraphさんは、有機農業・コーヒー栽培の管理項目と改善策や有機肥料のコンポスト化等の技術を教わった。 2015年、刑務所内での彼の行動は評価され、Jidraphさんは生れ故郷のMukurweini村に戻れることとなった。しかし彼を待っていたのは、厳しいものであった。妻は既にいなく、村人たちはつらく彼に当たり、そして彼の1/4エーカー程(約300坪)のコーヒー園の木々は荒れ放題になっていた。しかし彼には、刑務所内で教わった知識という武器があり、めげることなく彼はコーヒー園の土壌の再活性化に焦点を絞り、行動を開始した。 先ず、vermicompost有機肥料(虫の力を利用してコンポスト化を行う)やボカシ、そして有機性防虫殺虫剤を自作生産して畑に施していった。 7か月程経つと彼の農場は、周辺の農家が依存し、使い続けている先進国由来の肥料を購入 する必要のないほどの耕作地へと変貌し、Jidraphさんの外部からの投入資源の購入費用は20%までに低下した。そして1,2年で周辺の農家とほぼ同等の収穫が出来るまでになり、2018年には周辺農家の2倍ほどの収穫が出来るようになったという。 この実績が認められ、今ではJidraphさんは各地の農家の人々の指導や今後農業に従事を希望する若者たちへの教育を行う活動まで行動を拡大している。 Jidraphさんは語る。 「多くの人は、私が刑務所にいた人間だと言うが、私にとっては、そこは学校だったのであり、私はそこで多くの貴重な経験を積むことができ、そしてそこで私は自分の使命というものを掴むことができた」 RODI Kenyaの活動だけの効果ではないだろうが、ケニアにおける再犯率は40%から6%へと低下した、とする情報を最後に紹介しておきます。 『イジメ』という『人災』、『異常気象』という『人災』、『非正規就労・不安定就労』や『格差』という『人災』等々いろいろあろうが、これらの『人災を構造化・固定化』する動きに同調し、助長するのでなく、しかも見て見ぬふりに陥ることもなく『人災』を軽減していく方向に役立つ『チョットした良い話』を今後も機会を見て紹介出来たらと思います。 見て見ぬふりだけでは、『人新世時代』の悪しき進行ベクトルの方向も推進力も変わらない。 『チョットした良い話』の積み重ねが、ヒョットしてそのベクトルを変える力があるのでは、との期待をしたいところである。
0069
今朝の新聞折り込み広告を見て、フト思ったこと
yo-chan
02/01 08:17
折り込みの中に、自民党中央区議員団の活動報告のチラシが入っていた。 10名ほどの議員が岐阜県可児市を訪問し、視察したことの報告を兼ねたチラシであり、議員らのにこやかな笑顔が並んだ集合写真が目に入った。 これを見て、フト感じたのは、一つにこの手のことが如何に数多く繰り返されていることであろうか、また一つにこの手の活動がどの程度の意味があり、意義があるのだろうか、という極めて当然の思いをフト感じたのであり、そしてエッフェル塔下の国政議員諸嬢の笑顔がデジャブ的に記憶から呼び戻されたことからの思いでもあろう、と感じる。 広告を見てフト思ったのは、実は上記の点ではなく、最初に浮かんだ思いは、『そろそろ私たちは、この手の議員団と称する集団視察の態様を拒否することを決断し、意味無きこと・意義無きことを彼らに通告する時期に来ているのではないか』ということです。 議員諸氏の行う様々な活動の重要性は当然です。 がしかし、その活動は個人的に為されるべきものであるとの基本を、先ずは確立させることが、私たちにとって結構大切な視点ではないか、議員の質の向上そして常に言われる無駄の削減に少なくとも役立つだろう私たちからの彼らへの提言だと、フト思った所です。
0070
農業と食を通して世界の潮流をみる(3−4)
yo-chan
02/20 16:29
農業と食を通して世界の潮流をみる(3−3)において、遺伝子組み換え作物(GM作物)ならびに遺伝子編集技術(CRISPR-Cas9)を用いる育種で生まれる作物(GE作物)を期待する遺伝子技術擁護・推進側の言説(殊に精度・コスト・スピードの点を中心に)の説明ならびに、懐疑的立場からの視点をも併せて紹介した。今回紹介の報文(『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの(原題Beyond the Genome: Genetically Modified Crops in Africa and the Implications for Genome Editing)のかなりの部分は既に紹介しております。 但し、取り上げた文献が訴えたいポイントの一つがまだ残っており、それを紹介致します。 そのポイントとは、アフリカ大陸にGE技術を成功裏に導入・定着させるために乗り越えなければならない条件についての議論になります。では始めます。 アフリカ大陸におけるGM作物は、解決が求められる様々な課題に直面していた。ゲノム編集(GE)作物とその編集技術をアフリカ農民らに役立たせたいと考える人々にとっては、従ってGM作物が直面していた難題にからむ議論が良い教材になるのである。 かかる観点から、アフリカにおける今後のGE技術の潜在能力について考えていきたい。 1.「制度的な構造」の重要性 資金提供側(例えば各種開発銀行や慈善団体基金)が、アフリカにおける支援対象としてゲノム編集技術に注目するにつれて、誰がその技術を使うのか・どんなプロジェクトが推進されるべきか・どの地域で必要とされるか、といった重要な疑問や課題が生じてくる。 GM技術、GE技術の両方とも、研究室レベルでは誰もが自由に簡単に利用できる筈であるが、やはり実態としては、両方とも相応のインフラを用意することが必要であり、そして資金や材料の調達が求められ、しかも時間的な余裕も必要なのである。 GE技術をアフリカ大陸に今後拡げていくに際して、先行するGM技術の辿った開発の軌跡をたどり、どこでどの様な障害があったのかを確認してみることとする。 その障害のいくつかとして、計画がトップダン式であったこと、農民たちを優先するという意識の欠如と責任感の欠如があったこと、そして知的所有権が盾となり、技術利用者らの利便性が限定化されてしまったことが挙げられる。以下に詳細をしめす。 GM作物をアフリカに展開し、営業ベースに乗せるために、3つの方策が取られていた。 最も直接的なものが第一の方策であり、そこではGM種子の販売を民間会社が市場で行うというものであった。この例が南アフリカの害虫食害耐性GM綿花やGMトウモロコシである。 第二の方策は、民間企業がある特定の国の研究機関と協力し、種子の共同開発及び共同販売を行うことを目指すものである。 例えば、ブルキナファソがモンサント社と提携して、モンサント社が特許権を持つBt技術を地域の綿花に導入することを目指したものが挙げられる。 第三の方策は、最も複雑なもので民間会社と国家の研究機関とある種中立的なアフリカ農業技術財団(AATF;African Agricultural Technology Foundation:サハラ以南の資源に乏しい小規模農家への利用性と技術を導入するための官民協力を推進する非営利の財団)という機関との間のPPPs(Public Private Partnerships:官民が互いのリスク分担を契約で取り決め、対等な立場で公共事業に取り組む事業化手法)を利用するやり方である。 ここで注目すべき方策は、後者の2つの協力型開発の例になる。即ちこれらの協力型開発では、ビル・ゲイツ氏や他の開発推進者は、これらの協力型開発によって「アフリカ農家の栄養課題、生産性課題や作物病害の課題解決が出来る」だけでなく、関係する専門科学者や育種技術者たちの「技術の交流」も期待できると主張していた。しかし、協力型開発の実態は、GM技術の擁護派らが主張していた程には単純なものではなかったのである。 一例として、ガーナとナイジェリアの科学者らや政策立案者らを対象としたアデンレ氏の調査(Adenle,2014,259)がある。それによると、「回答のあった大半は、新たな改良を施し、新品種の開発を目指す研究過程で地域の科学者らの関与は全くなかったか、あっても無視できるほどの僅かな関与しか出来なかった」というものであった。これらの不満が出てくる要因として、AATFが関与するアフリカの研究プロジェックトには多数の研究会議、資金提供者、民間主体等が関わるという多層的構造があり、従って複数の主体が関わることが原因しているとされる (Rock and Scurman, 2020)。 それと開発目標の食い違いが問題点としてある。マトケバナナのプロビタミンA(体内でビタミンAに変る)強化を目指すビル・メリンダ・ゲーツ財団が資金を提供したウガンダのプロジェクトでは、農民らの考えや希望はほとんど無視され、開発が進められた。ウガンダのバナナ農家達のGM技術への要望は、実際には害虫や病害に対する抵抗性付与にあった。栄養価の改善の要望は、優先順位の低いものであった (Schnurr et al., 2020)。 当時、資金提供者側では、栄養強化の話題が流行していた。その流行が開発の動向を決定してしまったのだ。 GM作物の流通・販売というものは、ある意味トップダウン式思想が支配していると言え、 例えば、ブルキナファソや南アフリカでは、販売者または政府から提供されるGM種子には、外部投入資源が多数同時に合わせて梱包され流通していたのである (Fischer et al., 2015; Luna and Dowd-Uribe, 2020)。そして、これら外部投入資源が多数合わせて梱包されたGM種子には、複数のインセンティブというオマケがついており、農家らの使用意欲をそそる形でGM種子は提供されたのである。しかし、農家達はインセンティブ付きGM種子の採用で常に便益を受けた訳ではなかった。 問題を起こした例もあり、例えば、2000年代初頭、ブルキナファソはモンサント社と提携して、モンサント社の害虫耐性Bt遺伝子技術を地元綿花栽培品種に導入した。州が2008年にモンサント社のBt綿花を採用決定したことで、業界をあげて大量に栽培が行われることとなった(2013年時点で栽培綿花の70%がGM綿花になっていた (Dowd-Uribe and Schnurr, 2016; 164)。そしてGM綿花が従来品と比べて品質が低下するという事態が発生した。このことから、従来の綿花に戻すという結果をうんでいる。 この例も資金提供者側のトップダウン的取り組みがプログラムの内容を支配し、アフリカの農民や育種家・農学者や市民団体の関与が為されていないということの問題点を示しているといえる。 以上の例から、GM作物がアフリカ大陸で辿った軌跡の中において、開発のパートナーシップの力関係がどうであったのか、そしてその力関係の故に如何なる結果がGM作物の開発に発生していたのか、が確認できるのである。今後GE技術をアフリカ大陸に根付かせる上で、「制度上の構造」の重要性が指摘されるのである。 必要以上に複雑なパートナーシップでもって組み立てられたプロジェクトや農民たちの要望・地元が持つ意味のある経験や知識を組み込んでいないプロジェクトというものは、どのような技術であろうとプロジェクトの失敗のリスクが生れるのである。 2.独立の機関による体系的評価の欠如 GM作物が世界の最貧困農家の食料生産を増やす可能性についてこれまで多くの議論が為されてきた。インド・南アフリカやブルキナファソのGM作物を早期に導入した農家に関する報告では、大きな期待が寄せられスタートしたのである。そしてこれら早期導入者たちがGM作物を植えてから数十年が経った段階で、明確ではあるが複雑な状況が浮かび上がってきている。 最近の研究によると、事前調査、計量経済モデル、農場レベルデータではない実験的試験に基ずく調査等、様々な評価において、GM作物の利点が強調されており、それにより現実が曖昧にされる傾向があることが明らかになってきている(Schnurr and Dowd-Uribe,2021)。 また、これら評価を行う組織が、導入を目指す技術の推進側の利害関係者であるという評価方法の根本的な課題も発生しているのである。事実、アフリカ大陸全体にわたり、評価を行っている個人や諸機関の多くが評価対象の技術を宣伝し普及することにも責任を持っているという課題をアフリカの学者たちが指摘している(Schnurr,2019,198)。 ブルキナファソの前に触れたBt綿花の例が、適切な評価報告方法の重要性と、もしもその健全な評価報告がなければ発生してしまう問題を浮き彫りにしている。 即ち、2016年に政府がBt綿花栽培の中止を決断し、衝撃を与えた訳であるが、その後の調査と分析により、モンサント社とブルキナファソの科学者らが2006年時点で品質の悪さを認識し懸念していたこと、収穫量の拡大が予測された量より大幅に少なかったこと、および資金力のある裕福なブルキナファソの栽培者らはBt綿花により多くの利益を得た一方で、貧しい農家らは多くの利益を逸していたことが明らかになった、としている(Luna and Dowd-Uribe,2020,2)。 これほど多くの問題点が何故報告されなかったのであろうか。 理由の一つに、評価を行う主体へ資金を提供していたのも、研究プロセス全体に資金を提供していたのもモンサント社だったということがある。多くの研究者は、問題点の指摘を思いとどまってしまう構造になっていたのである。 そして多くの評価が平均値の使用にこだわり、「農家が提示する様々な結果に内蔵される大きな変動幅と相違点とが曖昧化されてしまう」という問題も指摘されている。 さらに、GM綿花で収穫量が拡大したとする根拠のデータは、零細農家のデータを除外し、専門家からのアドバイスを受けることが可能な裕福な農家からのデータを用いている。 Glover (2010,490)はインドにおいてもBt綿花の報告中に同様の問題点があることを報告している。即ち、インドにおけるBt綿花の報告では、「灌漑と良好な生育条件に恵まれた」農場からのデータが優先して採用されている(インドの一般的綿花栽培は雨水に依存する天水栽培が主流)。これら現実と乖離したインドでの情報を利用しアフリカ大陸にバイオテクノロジーの導入を推進しようと試みる推進派は、2021年にNature Foodの場を借りて相変わらず非現実的な根拠をもとにした主張を繰り返しているという実態があるのである。 ひも付きではない独立した研究機関の存在が求められる所である。 かかるひも付きでない研究例から出されている事実に、インドにおける17年間のBt綿花栽培の実績データとBt綿花栽培が始まる前の3年間の実績データを付け合わせ比較した研究があり、その結果は綿花収穫量の拡大はBt綿花栽培の導入の結果ではなく、同時期に起こっていた肥料の使用拡大と新しい殺虫剤の影響だとしている。そして、Bt綿花栽培の導入で期待された殺虫剤の使用量の削減は一時的なものであり、標的害虫がBt耐性を獲得していったことで、逆に使用量が増大という事態を引き起こしているとも指摘している。 『纏めとしての政策的提言』 GE技術にからむ3つの特徴(精度・コスト・スピード)をもとに推進派は、資金と情報量をバックにアフリカ大陸にGE技術の導入のレールを作り、推進しようとしている。 GE技術作物をめぐるこの新たに起こりつつある熱狂を前にして、先例となるGM作物の教訓を振り返ることが、私たちにとって役立つことを見てきた。 アフリカ大陸の小規模農家が直面する現実の課題を解決していく上でGE技術がより良く機能していくに必要と思われる4つの提言を以下に提示する。 1. 農業パートナーシップの再構成化 GM作物をアフリカ大陸に根付かせる前回の取り組みで妨害となった同じ障害物は、回避できる可能性はある。鍵となるのは、プロジェクトの始めから最後までにわたって、農民たちの要望や考えを開発プロジェクトの構想やデザイン化の中に意味あるやり方で取り入れていくことであり、開発プロジェクトの構想やデザインを作りかえることである。 アフリカのゲノム編集技術は協同して開発に取り組む形式に転換することが求められるのであり、その協同開発型の取り組みにおいては、育種の優先順位やプログラムは、アフリカの科学者らとともに技術の便益を受ける農民たちによって推進される必要がある。 かかるパートナーシップを再編成する試みで有望な一つの例が、最近の「アフリカ主導の南北植物ゲノム協力事案」であり、それはアフリカ各地に生育する植物のゲノムを染色体レベルで集積化を行う初の試みである。 このプロジェクトはアフリカの科学者らにより始められ、アフリカの農民と科学者らの優先事項が常に最優先されるように運用されており、必要に応じて科学者らは世界中にパートナーを求めることも行われている。 かかる協力関係の構築例を例外のものとするのでなく、当然のものとするには、資金提供国側の行動の変革が求められる。 即ち、資金提供国側は、提供国側が念頭に置く供給技術をトップダウン的・供給側の論理でもって支配的に導入を推進していくのではなく、ボトムアップ的・受益者側の論理が支配する開発プログラムへと移行することが必要なのである。 かかる変革をスタートさせる最初のポイントは、「ゲノム編集技術作物を用いて、アフリカの農民たちをどのように助けられるか?」という「先ず技術ありき」ではなく、むしろ最初のポイントはより開かれたものであるべきであり、例えば「アフリカの農民らの生活水準を高めていくには何が求められるのか?」という「受益者側の論理・考え方」の優先が求められるのである。 即ち、GE技術の導入についても、資金提供側は決して「質問」の前に「解答」をも事前に用意していてはいけないのである。 2.成果の評価方法 2つ目の推奨事項は、ゲノム編集技術がどのように測定され評価されるのかに関わるものである。 ゲノム編集技術作物がアフリカの農業システムと上手く同調してアフリカに導入されるようデザインしていく上には、長期にわたる定性的な成果評価方法そして併せて各学問分野が参加する学際的な成果評価方法が求められる。 GM作物の導入時には、その導入の熱意を支えた多くの研究や情報は、欠陥があったり・偏りがあったり・あるいは妥協の産物と言えるものであった。従って結果として、GM作物導入のために為された巧言や美辞麗句と、実際にGM作物を取り入れ栽培を行った農民たちが味わった現実との間には大きな隔たりが生じてしまったのである。 したがって、ゲノム編集作物を導入するに際しては、以前とは違った新しいやり方の技術評価方法がセットで提供され、実践される必要がある。その新しい技術評価方法としては、プロジェクト自体と提携関係のない社会科学者・農学者・経済学者等で構成された学際的なチームが計量経済モデルや大規模調査だけに頼ることなく、農場ベースの研究設計をも統合したものである必要がある。 そして、手入れの行き届いた実験室的なフィールド試験ではなく、対象とするアフリカの通常の圃場・農耕システムを網羅し、多数の生育期間をも意識した縦断的な分析が為される必要がある。そうすることで、研究者らは生産性の考慮を超えて、技術がより広範な社会文化的・環境的・経済的・政治的背景に適合するかどうかをより良く理解するための複雑な定性的・定量的な質問をすることができる状況が生まれるのである。 この評価の改善を求める声は、方法論的な批判に止まらない。ゲノム編集作物の成果を予測するには、基盤となる政治的・経済的関係に注意を払う必要がある。 GM作物の熱狂を煽った多くの初期のデータというものは、技術への楽観的思い入れが優先され・尊重され、様々な農家の間にある相違点(性別・階級・土地面積やその他の権力区分の違い)は過少に評価されるといった技術供給者側の思惑に沿ったプログラムを通じて生み出されたものであり、その結果、一部の農家は利益にあずかることができたが、他の多くの農民は排除されてしまった。 あるべき技術評価方法は、アフリカの農耕システムを中心に据えたうえで、新しいゲノム作物の持つ潜在能力を、様々な地域で行われる様々な農家の方式で、そして長期にわたり調査するやり方であり、それにより、ゲノム編集作物が対象となる農民らにとって有益かどうかについての正確な評価が提供されるのである。 3.誠実なブローカーへの呼びかけ(ブローカーへの更なる誠実さの要請) 3つ目の提言は、正直な仲介者、即ち遺伝子編集作物に関する利点と欠点の両方を当該技術の採用を考えている農民ら等に素直に指摘することができ、そして農民らが持っている価値観を尊重した上で、当該技術の全体像を示すことで農民たちの採用の可否の決定に協力できる専門家であるという意味での正直な仲介者の必要性に関するものです。 科学者らや政策担当者らは、GM作物に関する議論を往々にして「政治化」し「二極化」する方向に立ち働いてきているが、Stone氏(2021)は新しい農業技術というものは、そもそも様々な利害関係者に対して、様々な時間枠でプラスに働くことも、マイナスに働くこともあるとし、これら「隠された’えこひいき‘」や「隠密型支援」を科学者らや政策担当者らはやめる必要があると指摘している。 無論、仲介者というものは、社会的、政治的な条件が許す限り誠実であるものだ。 そして批判的な研究というものは、技術の中立性の誤った考えを暴露するものである。 アフリカにおける遺伝子組み換え(GM)作物をめぐる議論においては、アフリカの農業バイオテクノロジーをめぐる議論を展開する上で、誠実なブローカーを自認する一連の組織が主導していた。その中に、「コーネル大学の科学連盟」、「アフリカバイオセーフティ専門家ネットワーク」、「農業バイオテクノロジーオープンフォーラム」などがあった。 しかし、批判的な社会科学的研究により、これら誠実なブローカーと目されていた諸機関がアフリカ大陸におけるテクノロジーの普及を拡大しようとしている正にその利益団体のための広報機関として機能していたことが明らかになってきているのである。 実際、私たちの誰もが偏見から無縁の客観的な評価を新しいテクノロジーの可能性について提供できる、すなわち誰もが正直な仲介者たりえるとする考え方自体が、政治的および経済的思惑を超越して議論の枠組み作りを行える『正直な発言者』が存在する、という考えを私たち皆に納得させ。押し付けるための策略的な物語・言説だといえる。このような考慮は、『正直な仲介者』が予算、助成金申請、協力者との良好な関係の維持に結びついている組織的レベルでは、さらに複雑になり、実際に不可欠になります。 全体像を見ると、アフリカのバイオセーフティ法と規制機関は新しいバイオテクノロジーを推進するための道具として位置付けられている。 アフリカの規制当局は、推進に向けた取り組みを放棄し、公益を代表して行動し、健康や環境の安全、その他の正当な社会的・開発的目標の確保に責任を負う独立した調停者としての役割を優先すべきである。 アフリカ諸国政府は、特定の技術やその応用を推進する個人や機関から独立した、規制機関を設立すべきである。政府や公共部門の機関の役割は、国家の戦略的優先事項を推進し、公共財の創出と分配を促進すること、特に貧困層や疎外された人々やコミュニティに利益をもたらすことであるべきであり、民間主体が知的所有権で守られる専有技術でもって優先的に利益を得るように配慮することだけではないのである。 全体としては、ゲノム編集をめぐる議論が活発化していることは、この新しい技術の可能性を評価する全ての人の価値観と利益を批判的に検討する機会を提供することになる。 これは、技術の採用または拒否から利益を得ようとする個人や機関の意見だけが支配的にならないように保障するために不可欠です。 4.ゲノムを超えて 4つ目の政策提言は、アフリカへのゲノム編集作物の推進を支える実験プログラムと、より広範な農業開発パラダイムの両方の規模に関するものである。 GM作物の拡大に付随して発生していた以前の熱狂の高まりと同様に、ゲノム編集作物に対する現在の熱狂は植物ゲノムの変更が生活、食糧安全保障、幸福の広範な変化を引き起こす可能性があるという考えに基づいているが、それは規制上の障壁によってGM作物がブロックされることが最小限化される場合に限られるとされている(Mudziwapasi et al.,2018; Smyth,2020)。 この簡略的枠組みに異議を唱え、それに代わって植物の育種というものは、田園地域の発展を推進する上での多くの道具・手段の中の1つだとする考え方があり、その考えに沿って政策上の変革が行われるべきだとされる。 アフリカのGM作物の前例は、ゲノムレベルの強化への投資だけでは長期的変化をもたらすのに不十分であることを示している(Dowd-Uribe and Schnurr,2016)。 資金提供者らや科学者らは、小規模農家が直面している長年の課題に対処するには、『ゲノムレベルの投資』重視から『システムレベルの投資』へとシフトすることが求められる。これには、プロジェクトの設計段階で、統合された信用、普及、市場アクセス、貯蔵、灌漑への同時投資が含まれる(Brander et al.,2021; Fischer et al., 2015)。 これに関しては、より広範な体系的問題(改良された品種が特定の農業システムに適合するかどうか、またどのようにしたら適合するか)の理解に関わる社会科学や応用フィールドサイエンスを優先することが求められ、バイオテクノロジーや植物育種の実験室的レベルのデータを優先することでもっては、このことは達成できないのである。 バイオテクノロジーや植物育種の実験室的レベルのデータを優先するのであれば、実験室、温室、または限られたフィールド試験では約束されたGM作物の有益性が、農家の畑には転嫁できなかったGM作物の過ちを繰り返すことになる。ゲノム編集作物が成功するには、その背後にある政府機関や組織は、有益なゲノム特性への彼らの投資が農家の直面する現実の状況に対して適切でありかつ有用であることが保証されるような農業および生計システムのアプローチを採用する必要がある。 結論 本稿では、社会科学者がゲノム編集に関する萌芽的な議論や学問に取り組むべきだというBartkowskiら(2018), Kuzma (2018)そして Montenegro de Wit (2020)の呼びかけを真剣に受け止めている。 このことを踏まえて、私たち自身の集積している野外実地調査・実験およびアフリカにおける過去30年間の農業バイオ技術の厳密な評価をもとに、私たちはアフリカ農業の改善におけるゲノム編集の果たす役割について現在進行形で行われている議論を評価している。 私たちはゲノム編集を取り巻く物語・言説(narratives)、殊に「精度とコスト・スピード」に関連した物語・言説が以前のGM技術の登場時に行われ、語られた物語・言説を鏡映しにしている点を指摘した。 前回のGM技術と今回のGE技術との間にある言説・物語のこの同期性・共時性(意味のある偶然の一致)というものが、アフリカにおけるGM作物を妨げた数多くの障害物の存在を冷徹に評価する上での妨げとなっている。 過去の技術革新の取り組みを妨げた落とし穴を避けるには、該当の技術が地理的場所の違いや所属する組織・機関の違いやあるいは予算の多寡に関係することなく様々な技術関係者が公正・公平に利用できるように、その技術を脱商品化する必要がある。そしてこのことができるかどうかが、未だに解決されていないのが問題なのである。 利害関係を持っている諸機関や諸組織はCRISPR関連の手段や革新化に関わる知的所有権獲得争いに躍起になっているのである。現在、これら特許の多くは教育機関によって保有されているが(Nature,2021)、このことが必ずしも研究者、製品開発者、または農家等の他のユーザーが利用しやすくなることに繋がらないのである。 ここで調査したように、多くの特許ライセンスは研究のみを対象としており、基礎研究に続く商業化の段階は対象とされてはおらず、即ち実際に利用する時点では特許所有機関・組織との交渉が求められるのである。 このような構造的な取り決めは、グローバルサウス側の労働力と知識がグローバルノース諸国の利益のために引き抜き取られるという今までに起こっていた歴史的な搾取構造を再現する恐れがある。 従って、アフリカ大陸向けのGM作物の開発時点で為された様々な作業を冷静におさらいすることが、技術推進擁護派および技術懐疑派の両方にとって良き教訓となるのである。 ここで展開した教訓としては、ゲノム編集等の新技術の擁護派は技術の過大評価を行いがちになる性向がある、という指摘である。 むしろアフリカ大陸の田園地域の発展を促進するために開発プログラムを再考したり、再設計したりする機会の醸成のために、ゲノム編集にまつわる熱狂を利用することが求められるのである。 ゲノムを超えて私たちが進んでいくには、資金提供者、政策立案者、科学者たちは農家らと協同して技術をともに開発していく必要があり、特許に縛られない素材を探索し、そして種子というものが、高度の複雑さを持つ農業生態系のシステム・耕作生産システムの中のあくまでも一つの要素だという認識を持つことが求められるのである。 そのような姿勢・考え方を持たなければ、資金がどれだけ豊富にあろうが、努力がどれほど果敢に為されようが、ゲノム編集プロジェクトは過去の過ちの轍を再度踏むという危険に陥るであろう。
0071
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5)
yo-chan
02/24 11:05
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5) 超加工食品を『うっかり失念して』はならない 超加工食品に焦点を当てた議論を紹介する。超加工食品絡みの話題は多い。 先ずは次の情報を紹介する。 地球規模で食べ物のシステムを議論する際、超加工食品も中心に据える必要があり、地球規模の超加工食品の隆盛が生物多様性に及ぼす影響の視点からの行動が求められる (原題:Ultra-processed foods should be central to global food system dialogue and action on biodiversity、BMJ Global Health, 2022年3月28日) 始めに、要点を纏めると、 1. 世界の食ベ物のシステムの中に「工業的生産化」を推進するという考えが急速に進展している、その結果として超加工食品が急速に隆盛している。 そして、食ベ物のシステムの工業化の推進により、生物多様性に多大な打撃が与えられている。 土地の利用実態や食ベ物の生産実態が生物多様性に及ぼす影響については、多大な注目が集まっているのに比べて、超加工食品の果たしている生物多様性への影響については、ほとんど関心が向けられていない。 2. 数えきれないほど多くのブランドの超加工食品が工業的規模で生産され流通されていることから、超加工食品は『地球規模にブランド化した食べ物』と称揚されている。 その結果、世界各地の伝統的な食べ物の栽培や生産や消費が、反対に犠牲にされつつある。これら世界各地に伝わる伝統的な食材・食べ物の多くは、新鮮であり、最小限に加工されている食べ物なのである。 3. 超加工食品は、特徴として数としては僅か数種類の高収量型作物(トウモロコシ、小麦、大豆や油糧種子;遺伝子組み換えGM作物に相当する)を材料とし、それらから単離して作られた「添加物」を使って生産される。 超加工食品に使われる動物由来の「添加物」の多くは、同じく高収量型作物由来の穀物を使った飼料(ここでもGM技術が登場する)が給餌され、閉鎖的環境の下で養育される家畜らから作られている。 従って超加工食品の隆盛には、高収量型作物の栽培がセットされており、よって化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用・灌漑という水の多使用に結び付く工業型農耕法の諸問題がついて廻るのである。 更に家畜飼育の為の飼料穀物栽培の為に、土地が過剰に開墾されるという問題をも付随することになり、また、化学肥料の多使用・除草剤/殺虫剤の多使用等の状況から水系の汚染や藻類の異常繁殖等の問題が発生し、土壌の劣化をも起こす条件を助長しているのである。 農業界と食品業界を覆う『工業化』一辺倒の思想を放任していて良いものかが、問われていると思う。 4. 農業の生物多様性(agrobiodiversity)の損失に及ぼす超加工食品の影響は大きいが、今までの所、世界の食料システムについてのサミットや生物多様性の総会や気候変動の総会の場で、この問題は看過されている。 かかる世界の会合において、超加工食品が抱える課題に関する議論の優先順位を高め、そしてこの課題解決の政策を合意し、その合意に沿った行動を緊急に始めることが求められる。 (序論) 地球規模化した超加工食品が、世界の国々に拡散したことで、新鮮であり、加工程度は最少の世界各地の伝統食材・食べ物が犠牲になってきている。 スーパーの棚には、僅かな種類の高収量型作物から作ったグルコースシロップヤグルテンや大豆たんぱく等の「添加物」を使用し、工業生産された超加工食品のパック商品が、華々しく宣伝され陳列され販売されている。 アメリカや英国では、市民は日々摂取するカロリーの半分以上を超加工食品から摂取している状況が既に起こっている。オーストラリアやフランスでも1/3以上になっている。そしてアジア・アフリカやラテンアメリカの低所得諸国でも急速に消費が拡大している。 現在ある程度の人が、ベジタリアン志向を強め、ビーガンに向かっている。しかし全体としては、世界は動物起源の食べ物に向かっており、これら動物起源の食べ物は、少種類の穀物飼料で育った家畜を使用し、工業的手段を用い生産されているのである。 世界の食べ物事情における超加工食品への依存度の拡大は、農業の生物多様性に影響を与えている。よって世界の食料システムに関する議論や政策の決定や各国の行動計画の中に超加工食品の抱える問題点を指摘し、その課題解決を優先させていくことが求められる。 (農業の生物多様性が厳しい脅威に曝されている) 「農業の生物多様性(agrobiodiversity)」は、動物・植物および微生物の多様性及び変異性を指す言葉であり、食べ物と農業とに直接的・間接的に関係するものであり、そして私たちの食ベ物のシステムの持続可能性や強靭性に大きく関係しているのである。 「農業の生物多様性」には、収穫を目的としない種類の植物の多様性も含まれ、収穫を意図しない植物の多様性も、私たちが行う作物の耕作のうえで有用であり、農業生態系の維持・多様性の維持の点で役立つのである。 しかし、世界における農業の生物多様性は低下しており、殊に植物遺伝子の多様性が低下しているのである。 農耕が始まって以降、7000種以上の食用の植物が確認され利用されてきた。しかし2014年時点で、意味がある栽培が行われているのは200種にも満たず、しかも重量ベースでみると、全作物生産の66%以上が僅か9種類の作物で供給されている時代になっている。 人々の接食するエネルギーの90%が僅か15種類の作物からのものであり、40億人以上の人が、その15種の中の3つの作物(米・小麦・トウモロコシ)のみに依存している。 私たちの食料システムの多様性に起こっている変化が、私たちの食べ物の多様性の低下とともに、健康であり、強靭性と持続可能性も期待される昔から伝わる私たちの食ベ物のシステムを妨害し、更に、生物圏や生態環境の劣化をも引き起こしているのである。 (超加工食品の世界拡大が、農業の生物多様性に打撃を与えている) 多くが汎用品食品や化粧品にも使われる添加物(普通の家庭で通常手に入らない添加物を使って工業的に製造した食べ物が超加工食品ともされる)を用いて一連の工業的工程を経て作られる「加熱済み調合食品」や「簡単にすぐに食べられる食品」が超加工食品である。 これらには多くの種類があり、例として甘みを付けたスナック菓子や塩味のあるスナック菓子、ソフトドリンク、即席めん類、再構成され作られた畜肉食品、調理済みピザやパスタ類、包装入りパン、ビスケットや菓子類等がある。 これらの食べ物が「地球規模化した超加工食品」の主力製品であり、中流の上にある諸国から中流の下に位置する諸国にわたり、ほぼ全ての国で急速に普及している。 従って、地球規模で食事のパターンが、加工食品への依存を高め、そして食べ物の多様性は逆に減少の速度を早めているのである。 この変遷は、食料システムの工業化・食品製造技術の変化・市場の拡大を含むグローバル化・多国籍企業の政治力と生産のネットワーク化や資材調達のグローバル化等が推進されることで起こっている。 小売業部門の展開もまた、超加工食品の市場拡大と多様化に貢献しており、特にこのことは低収入諸国や中収入諸国で起こっている。 超加工食品が急拡大し、反対に新鮮で加工度の低い伝統食材が衰退していく方向性は、食べ物として利用できる食用の植物の種類の多様性が低下していくことを意味する。 超加工食品は、ごく少数の高収量型作物から作られる添加物を使って工業的に製造される。 ブラジルの主要スーパーで販売されている7020種の超加工食品に使用されている5種類の主要添加物を調査したところ、次の結果が得られている。サトウキビ由来が52.4%、牛乳由来が29.2%、小麦由来が27.7%、トウモロコシ由来が10.7%、そして大豆由来が8.3% 2019年度のオーストラリアにおける包装された食品と飲料(24229種の製品、大半が超加工食品)の調査によると、上位の添加物として、砂糖(40.7%)小麦粉(15.6%)植物油(12.8%)そして牛乳(11.0%)となっている。 従って、バランスのとれた健康的な食事に必要な多様な食べ物を、超加工食品で置き換えるということは、食べ物の多様性を損なってしまうことに繋がるのである。 農業耕作地に見られる景観の均一性・単調さという現象も、安上がりで標準化された添加物利用を推進する現在の動向を鏡映しにしている。豆類(pulses:大豆やひよこ豆等、搾油向け、飼料向けの豆類を除いた食用の豆を指す)や果物・野菜やその他の作物といった農業の生物多様性に寄与している多種類の栽培を特徴とした従来の農業生産システムが、脇に追いやられている結果が、農業耕作地に見られる景観の単調さなのである。 超加工食品の生産には、それに用いる作物穀物生産の為の大規模な耕作地の拡大が必要であり、耕作には大量の水資源やエネルギー資源・除草剤や化学肥料の大量使用が必要であり、結果として水系の富栄養化や温室効果ガスの排出量拡大や使用包装材のプラスック汚染問題も発生する。更に植物種の多様性の低下もあることから生態系の劣化や生物多様性への影響が発生することになる。 また、ホットドッグやチキンナゲッツのような再構成型畜肉製品は別種の農業の生物多様性の損失を生む。 すなわち、動物由来の添加物の生産は、家畜を狭い場所に閉じ込め、超加工食品に使用されるのと同じ種類の高収量穀物からなる飼料を与え、飼育した家畜を使って行われている。 ブラジルの研究によると、牛肉の生産には、ブラキアリア(もっとも一般的な飼料植物)、トウモロコシ、大豆、綿、ソルガム、小麦といったわずか6種類の植物からの牧草地と肥育場の飼料が使用されている。 アメリカの肥育場では、5種類の作物(トウモロコシ・ソルガム・オオムギ・エン麦・小麦)が使われている。 大規模な放牧場の土地面積が求められ、飼料向けの工業型単一穀物栽培の需要も高いことから、動物由来の食べ物の生産は、他の作物類の栽培・生産に大きな影響を与える。 例えば、ブラジルでは、2008年と2019年とを比較した場合、米や豆類といった主食になる作物向けの耕作面積は、それぞれ約43%(米)、30%(豆類)減少している。 一方で、主に家畜の飼料になる、併せて超加工食品向け材料にもなる大豆の耕作面積は、同じく2008年から2019年の間に69.9%の増大が起こっている。 ブラジルの家計調査(2017〜2018年)のデータを使用して、様々な食ベ物の調達パターンが、植物種の多様性にどのような影響を与えるかを調査した結果、家庭が購入する買い物かごに超加工食品が多く含まれると、農業の生物多様性が著しく低下することが判明した(植物種の多様性を反映するシャノンエントロピーが13.8%減少;未公表データ)。 (世界的な課題に再度焦点を当てる必要がある) 食品に関わる議論やその行動において、世界に拡大する工業型食品のシステムによって破壊されつつある農業の生物多様性に関する議論に注目を当てることが必要とされる。 気候変動の政府間パネル特別排出シナリオ報告書に基づく研究によると、生態学的価値が市民や政策立案者らに重視され、適切に運用されようとも、動物性食品を含む食品の生産と消費は増加し続けることが予測されている。 現在の超加工食品に向かって拡大を続ける工業型食品のシステムというものは、拡大するにつれて利用耕作地の拡大をも推進することになり、その圧力により新鮮であり、健康的であり、そして持続可能性が期待できる従来の作物向けの耕作地は減少させられていくのである。 生物多様性喪失が前例を見ないスピードで進んでいることから、植物由来の新鮮な、加工度の低い食品を豊富に含む食生活のパターンへの再帰も迅速に行われることが望まれる。 超加工食品の人の健康に及ぼす影響に関する研究報告はかなり行われている。 しかしながら、超加工食品が及ぶす人の健康への打撃、地球環境への打撃についての人々の認知度は、依然として低いままである。 故に国際社会はこれから進むべき進路の議論の中に、超加工食品の話題を結果として欠落させてしまっており、その状況が続いている。 国連の生物多様性総会2021向けの草案には、超加工食品のことは一つも言及されておらず、生物多様性に及ぼす世界で進行中の工業型食品のシステムの問題についても言及はない。 代わりに、野生種の保存と消費の増加に焦点が当てられており、生物多様性全体に損害を与える食品の生産と消費を減らすことには焦点が当てられていない。 同様に、国連食料システムサミット行動計画2(持続可能な消費への移行)と、それに続く解決策と協調化(例として、子供と全ての人々の為の持続可能な食料システムによる健康的な食事)において、動物由来の食べ物や油脂含量の高い食べ物・塩分の高い食べ物・糖分の高い食べ物を『懸念すべき食べ物と特定』はしているものの、『食品の加工方法に関わる問題点』にはほとんど触れておらず、ましてや『超加工食品の問題や超加工食品の環境への悪影響』については、全く触れていないのである。 農業の生物多様性に及ぼす超加工食品の悪影響、および持続可能な生態系環境に及ぼす超加工食品の悪影響に関する研究はこれからも継続していくべき分野であり、政策の決定に活かしていく必要がある。 『うっかり、議論し忘れた』と葬り去ってはならない大切な議論すべき対象なのである。
0072
「孤独死の急増」そして「気候のムチ打ち症」状の進行で山火事が頻発化している
yo-chan
02/27 11:06
「孤独死の急増」そして「気候のムチ打ち症」状の進行で山火事が頻発化している 次のステージへと、私たちは一段階段を登ったようだ 一昨日、陸前高田で山火事が発生。昨日鎮火したが、隣の大船渡で別の山火事3件が昨日発生し、同地区の900世帯程2000人を超す人に避難指示が出される事態を岩手めんこいテレビが伝えている。9日間連続して乾燥注意報発令が出される中での林野火災である。 直接の火災発生の原因は今後の調査に待つことになるだろうが、現時点では、異常乾燥・強風が火災拡大の背景要因としてあげられている。そして併せて消防庁の専門家らの意見として、直接の要因となり得る原因として、火に対する住民の不注意を指摘し、基礎情報として、2023年度の林野火災1299件の出火原因を示している。それによると「焚火の不始末」が416件、「野焼きなどの火入れ」が247件、「放火と放火の疑い」が98件、「たばこの不始末」が49件、「マッチ・ライターが原因」が32件と、人の不注意等の原因が全体の65%程を占めていることを指摘している。 65%と出火原因の2/3は、確かに人の不注意・不始末が原因である。 しかし、それ以外の原因も1/3程あるのであり、今回は現在のところ余り指摘されていない要因を説明する情報を紹介したい。 2025年がスタートした直後の1月7日ごろから始まり、鎮火にほぼ月末までを要し、話題を集めたロサンジェルス地域の大規模な山火事があった。 この1月のカリフォルニアで連続した山火事を伝える情報の中で、山火事が何故起こるのかを、納得できる形で説明している考え方がその中で紹介されていた。今回はその辺りの紹介が中心になる。 1月のカリフォルニアの山火事の原因として、主に2つのことが挙げられた。 一つは今年、特に強かったSanta Anaと呼ばれる乾燥した季節風の存在であり、その結果各地の湿度は低くなっていた、という説明である。かなり説得力はある。 しかし、もっと納得できる説明が2つ目のものであり、そこで登場するのが「気候にはムチ打ち症という症状(climate whiplash)」があるという説明であり、この「気候のムチ打ち症」の症状の悪化が世界で起こっており、その結果として山火事の頻発化が世界で起こっている、とする説明である。 そして、「気候のムチ打ち症」の症状の一つが「山火事」であり、別の症状としては、これまた世界で頻発する「豪雨・豪雪・洪水・地滑りそして熱波・日照り・干ばつ化」があるという説明である。 では主に(Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日)と(LA fires show the human cost of climate-driven ‘whiplash’ between wet and dry extremes)の情報をもとに「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の説明を進めて見たい。 1. 「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」とは何か? 1月のカリフォルニアの山火事が発生する前の該当地域の状況を見ると、昨年2024年の10月以降の秋から冬にかけての今期の雨季のシーズン(南部カリフォルニアは地中海的気候の地域として知られ、通常は秋から3月当たりまでを雨季、夏場は乾季としているという)、カリフォルニア南部地域の降水量は同時期平均の10%に満たない極端に雨の少ない乾燥状況が起こり、野山の植生は異常に乾燥し火事に対して一触即発の状況が生れていたとの情報が専門家から指摘されていた。 そしてさかのぼって1年前の秋から冬の雨季のシーズンの降雨量と更にその前年の2年前の同じ雨季のシーズンの降雨量は、今期と反対に両シーズンとも、異常に雨の多いシーズンになっていた。 この前年と前々年の2つの雨季の降雨量の多さが、カリフォルニアの各地域に異常な植物の繁茂を引き起こし、結果的に山火事の際の燃料が大量に生産されてしまっていたのである。 そして2024年の10月以降から始まった今期の雨季は、異常に降雨量の少ない状況が発生しており、従って異常に繁茂した植物生態系から、同時に大地からそれらが保持していた水分が急速に奪われる状況が進行していたのである。いつ火事が起こってもおかしくない状況が生まれていたのである。 この、極端な雨季と極端な乾燥時期とが交互に交代する、しかも極端な形で突然にそして急速に交代する有り様を指して、「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」【UCLAのSwain氏は「水の循環から見た気候ムチ打ち症(hydroclimate whiplash)」との呼称を使用している】という言葉を与えているのである。 そして専門家らは、この「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の循環サイクルが、いわゆる現代の人類が引き起こしつつある「気候変動」の進展によって加速度的に拡大化を引き起こしている、と指摘しているのである。 Swain氏が使うhydroclimate whiplashという用語は、激烈な降雨の天気が続く時期と危険な乾燥・日照りの天気が続く時期という両極端な天候の時期が、丁度ブランコが揺れ動くように交代を繰り返す有り様を称して、それを引き起こす要因が、水の存在状態の急激な変化・変転に基づくこと(上空大気に水分が吸収されている有り様と、上空大気が一気に水分を吐き出す有り様)を強調するために水を意味する「HYDRO」を付け加えているのだと思う。 2.「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の原因とその症状の納得できる説明の仕方 何故、降雨量が極端化したり、乾燥状況が極端化するのかの、説明に『上空にある大気』を『スポンジ』に見立てて、その『スポンジの大きさ』に着目して、「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」の原因を説明する、やり方が現在主流になっていると思う。 一般に、大気の気温が1℃上昇するにつれて、大気の吸水力と保水力は7%高まるとされている。即ち「大気のスポンジ」は7%大きくなるのである。 そして、人新世時代の気候変動が更に更にと進行するにつれて地球の気温は産業革命前に比べ既にパリ合意目標の1.5℃にほぼ到達し、何ら有効な手立てを今後も行うことに失敗すれば今世紀末までに更に気温は上昇し2.7℃からそれ以上になって行く軌道を私たちは現在辿っているとされる。 ここで問題になるのは、大気の温度の上昇につれて『大気のスポンジの大きさ』は丁度銀行預金の利子が福利で増えるように、スポンジの大きさの方は指数関数的に大きくなっていくという事実があることである。 即ち、『大気のスポンジ』は更に更にと加速度的に大きくなって行っているのが私たちの現在地であり、気候変動対策を怠ってきている人類に対する自然界の返答である。 肥大化する『大気のスポンジ』は、乾燥の時期となれば、海から・植物から・大地からすべてそこにある水分をより急速に、そしてより大量に吸収して大気中に保持する能力を高めているのであり、大地は極端な乾燥・日照り・干ばつになり、農業活動を始めとして、生命をも危険にする状況がそこに生まれるのである。 そして一旦バランスが変わり、大気がスポンジを絞るがごとくに水分を絞りだすとなれば、異常な豪雨や雷雨【大気中により多くの水分が存在する状況は、同時に大気中のエネルギーの増大に繋がり、雷雨・豪雨や台風等の極大化が説明できる】が発生することになるわけである。異常に乾燥した大地には、少しの降雨さえ吸収する力がなくなっている可能性があり、豪雨や雷雨が容易に洪水や土砂崩れに結び付くことにあるのであろう。 すべてが、人新世の進行を放置する人間の無策が原因の『大気のスポンジ』の大きさの更なる拡大が引き起こしているのだ、とする説明である。 3.「気候のムチ打ち症」の現況と予測 世界の気象状況の記録によると、20世紀半ば以降、現在までの期間に発生しているHydroclimate Whiplash事象は世界全体で31〜66%増大している、という(出典:Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日 by UCLA)。 そして、研究者らは控えめに見積もっても、平均気温が産業革命前の水準を3℃上回ると今後「気候のムチ打ち症」の症例数と症状の悪化は2倍以上になるとしている(出典:Floods, droughts, then fires: Hydroclimate whiplash is speeding up globally, 2025年1月9日 by UCLA)。 また、今後「気候のムチ打ち症」の症状が、北アフリカ・中東・南アジア・北ユーラシア・熱帯太平洋・熱帯大西洋で最も増加するとの予測も出されている。しかしそれ以外の地域でも、これに類似の変化を感じることになるだろう。即ち「気候のムチ打ち症」の発症は温暖化・沸騰化を進める地球環境では、極めて普遍的なものであり、何処で起こってもおかしくないことに注意することが求められる。 実際、2023年10月から11月にアフリカ東部地域(ソマリア・エチオピア・ケニア)を豪雨が襲い、それが原因して大規模洪水が発生(100人以上の人が死亡し、70万人以上の地域住民が避難を強いられた)するという被害が起こっていたのであり。そこでも洪水発生の直前の2020年〜2023年に記録的干ばつがこれら地域を襲い、地域の数百万人の住民が食料不安・食糧危機に陥っていたのである。これら地域の洪水被害で起こったその後の被害は食料不安だけではなかった。悪化した水資源の衛生環境問題で伝染病被害もそれら地域に襲いかかるという構造が脆弱な地域には合わせて起こるのである。この点は別の機会に触れることとする。 話題を変えて「高齢者の孤独死が急増している」とのニッセイ基礎研究所の調査結果の話をしてみたい。 パンドラさんの記事に触発されて、コメントを加える形で意見を既に少し述べているが、更に少々付け加える形で、この「高齢者の孤独死が急増している」という話題を考えて見たい。 報道されている事実をなぞってみると、2011年のニッセイ基礎研究所の推計によると、 65才以上の孤独死が、全国で年間26821人だったという。 また、衆院決算行政監視委員会における立憲長妻議員の質問への答弁として警察庁が行った発表数値によれば、2024年1月から3月のわずか3カ月間65才以上の孤独死数が17034人だったとしている。これを単純に4倍して1年間の死者数にすると68000人の孤独死者数になる(出典:日本経済新聞2024年5月14日)。 従って、高齢者の孤独死数は、2011年に26821人、そして推定値ではあるが2024年の68000人への拡大化が、全国レベルで起こっていたことになる。 更に、東京23区に限定した高齢者の孤独死の推移データがある。 2015年に3116人、2020年に4207人となっている。 即ち、単純計算では全国レベルで253%(13年間で)へと増大、東京23区限定では135%(5年間で)へと増大していることになる。 但し高齢者の一人暮らしの人の人数も時の流れとともに、増大しており、それを織り込むことがこの手の情報を評価する際には必要となる。そこでそのデータを見て見ると 2000年(303.2万), 2010年(479.1万), 2020年(671.7万) ,2025年(予測)(815.5万) 独居老人もまた、近年急増していたのである。 バックグランドとなる独居老人数の拡大を考慮に入れて、以上のデータを使い、高齢者の孤独死の推移を再度計算してみると、 1.全国レベルでは:2011年から2024年の正味の増加率は1.58倍程となり、13年の期間で正味58%の高齢者の孤独死が増大している。 2.東京23区では:2015年から2020年の正味の増加率は1.15倍程になり、5年の期間で正味15%の高齢者の孤独死が増大している。 独居老人の増大を勘案しても、高齢者の孤独死は明らかに拡大しているのである。 その上で2024年の65歳以上の孤独死数68000人の持つ意味を更に考えて見たい。 全国の一人暮らしの老人数を2025年時点の全国の数値の815.5万人を2024年に仮に使って、65歳以上の孤独死数の割合を計算すると0.8%を超えている。 しかも年々孤独死割合が増大している状況は明らかになっているのである。 あと5年後もすれば、1%程度となることが予測される、即ち100人に1人の一人暮らしの高齢者がひっそりと亡くなる事態の到来が避けられないのである。この実態の深刻さを私たちは今後を考える上での基本的な情報と捉えておきたい、と思う。 現在を考える際に必要な基本的な情報として、一つは「気候ムチ打ち症」の進行は避けられず、世界の至る所で、可能性として洪水被害、台風被害、熱波や干ばつによる被害が拡大し世界の人々の生活基盤の根本を突き崩してしまう事態を私たちは避けられそうにない、という視点を持つことの重要性と、そして「高齢者の孤独死」という問題においても100人に一人が毎年なくなって行くことが避けられない環境に私たちは暮らしているという視点を持つことの重要性を私たちは認識する必要がある時代を迎えていると思いたい。 極めて厳しく、悲しく、残酷な現実ではあるが、この視点を基にしての私たちの覚悟が求められていると考えたい。 先に、「人新生時代」とは、「人災」が「構造化」され、「固定化」されていく時代なのではないか、との指摘を行っている。 今の世の中を動かしているのが、極論すれば一つのエンジンのみで進行している世の中だ、 との思いがある。 簡単化すれば、トップ(エリート層と称する、人・もの・金を手にする支配者層・企業家層そして官僚層)の差配するシステムのみが日本だけでなく世界でも優先されてしまう社会が盤石な状態で作りあげら、機能しているのである。その結果として、ここに見てきたように私たちの暮らしが、私たちの命そのものが危機を迎えつつある状況に向かっているという現実がある。 パンドラさんが、指摘する『金持ちはより金持ちに、貧しい人達はより貧しく、それが、彼らが望む社会の有り様だ』の考えが、優先される世の中はやはりおかしい。 2023年にテキサスを襲った熱波で10人のテキサス人が亡くなった情報を伝えるなかで、ニューヨークタイムズの記者は、「激化する気候危機による死は、弱い立場の人たちを守ることができなかったから起こったことだ。熱中症で、低体温症で亡くなる人が増大する事態を前にして、亡くなった人を、単に暑さのせいで、寒さのせいで亡くなった、語りたくはない。彼らは貧困のせいで、社会が彼らを見て見ぬふりをしていたせいで、そして世界が止める人々に価値を置き、貧しい人達には価値を置くことを拒んでいることのせいで、亡くなっていると語りたい」と語っている。 人新世が推進する中、私たちは次のステージへと一段階段を登ったようだ、と言えるが、しかしこの状況に何とか、竿を差したいものであり、少なくとも、もう一つの別の道・レールを私たちは用意する必要があると思っている。 「気候のムチ打ち症」関連の情報は、興味深い。更に別の機会に提示したい。
0073
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5−1)
yo-chan
03/12 09:44
農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(5−1) 超加工食品の市場拡大とNOVA分類化。その対比を通して、私たちの食の流れを考える 超加工食品(Ultra-Processed Foods; UPFs)の話を続ける。 前回のポイントを再掲すると、 1. 「食べもの」のシステムに、「工業的生産化」を推進するという考えが急速に拡大し、その結果、超加工食品の市場規模も急拡大し、今や超加工食品は「地球ブランドの食べもの」になっている。 2. その結果、世界各国に古くから伝わる伝統的食べものは衰退している。 そして、「食べものの工業的生産化」には、工業型農業(集約的工業型畜産業も含む)がセットされており、よって「工業的生産化」の特徴として、少数の限られた栽培種(イネ・小麦・トウモロコシ・大豆・綿花等のGM種)や選ばれた動物のみが優先されることがあり、他の多くの植物種や動物種は数を減らしている。即ち「食べものの工業的生産化」の方向性は、生物多様性に多大な悪影響を及ぼしているのである。 3. 超加工食品の現在地として、米国や英国では市民の日々の摂取カロリーの50%以上が超加工食品から摂取しており、オーストラリアやフランスでも1/3以上、そしてアジア・アフリカ・ラテンアメリカでも急速に拡大している。 4. しかも、超加工食品の持つ影響力について国際間で大いに議論する流れは、今までのところ醸成されていないのである。 これから、食との付き合いの流れの一つとして超加工食品が急拡大している意味を、NOVA分類システムとの対比をもとに更に考えて見たい。 人々と「食べもの」との付き合い方やその向う先を決める「世の中のシステム」においては、複数のエンジンや複数の進路・回路が用意され、それぞれが様々に機能し、様々な方向に進んでいくことができることが望ましい「世の中のシステム」の筈なのに、一つのエンジンのみが優先され、向かう道筋も一つのみが優先され、それらが世の中を支配するまでに至ることが許容されている今の「世の中のシステム」に根本的な違和感を抱いている。 この優先され世の中を支配する唯一のエンジンを動かし、向かう先を一つのみに決めているのは、無論、現在「人・モノ・金」を抑え、世の流れを作りだす上で優先権を確保し抑えている社会の支配層であり、彼らの優越性が強くなりすぎていること、換言すればエリート層が提示する、エリート層にとっては都合のよいシステムを市民層にトップダウン的に下していく構造・システムが極端に優先されている、ということにあると思う。 世の中にあるトップダウン構造・システムが優先されていることにより起こっている超加工食品の急速拡大する構図に、彼らが意識していたかどうかは別にして、見方によっては『竿を指す』研究が2009年、ブラジルのサンパウロ大学のモンテイロ教授らにより行なわれた。彼らは、全ての食べものを彼らが設定する基準(「食べもの」を作る際、家庭では入手できない食品素材が使われているかどうかと共に、台所の調理手段とは全く異質の工業的製造手段が用いられているかどうか、をも基準の中に勘案している)との下、4つのグループに分ける試みを行った。彼らの行った分類、即ち『NOVA分類システム』を先ずは紹介する。 紹介する出典先は次になります。 『NOVA分類システムから見た超加工食品と食事の質と健康』 国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations) 原題:Ultra-processed foods, diet quality, and health using the NOVA classification system (第一グループ:未加工の食べものと最小限に加工された食べもの) 未加工の食べもの(自然な食べもの)は、果物や葉野菜や茎・種子・根といった可食部の植物を指し、また動物由来のものとして、筋肉部や臓物や卵・ミルク等を指し、更に自然界のキノコ等の菌類や藻類・水等を指す。 最小限に加工された食べものは、上の未加工の自然な食べものを、貯蔵性を高めたり、食べる際の安全性を高めたり、より美味しく食べる目的で、以下に示す様々な方法で加工を加えたものであり、方法としては非可食部位や望ましくない部位の除去、乾燥化・押しつぶし・擂りつぶし・粉末化・部位別に分けること・濾過・蒸し焼き・燻製化・煮沸化・非アルコール型発酵・パスツール殺菌処理・冷却化や真空包装化等の加工処理が挙げられる。 ここで、未加工の食べものと最小限に加工された食べものとの区分けを厳格にする必要性はないとしている。 未加工の食べものと最小限に加工された食べもののエネルギー密度【簡単に言うと一口分の食べものが持っているカロリーの大きさ;一口分のカロリーが大きい食べものは、エネルギー密度が大きい食べものということになる、例えば油で揚げたスナック菓子や砂糖・脂肪分をふんだんに使った洋菓子等はエネルギー密度の大きい食べものの代表といえる;食べものと健康との関係性を考える際、この食べものが持っているエネルギー密度の大きさは、重要な考慮すべき因子とされている】は様々であり、脂質・炭水化物・蛋白の含量とそれらの含有割合も様々である。ビタミンやミネラル分やその他の生理活性物質についても同様である。 大まかに言うと、動物由来の食べものは種々のアミノ酸やビタミン・ミネラルの良い供給源であるが、エネルギー密度は通常高く、健康に問題のある動物性脂肪を多く持っており、そして食物繊維はほとんどないという特徴を持つ。 植物由来の食べものは、通常エネルギー密度は低く、食物繊維の良い供給源となる。そして多くが様々な微量栄養素・生理活性物質に富み、アミノ酸供給源としても良好な性質を持っている。 これらの状況は、種としての人間が雑食性の生き物として生れてきた来歴と結びつくことであり、古くから伝わる伝統的食べものが、同じような雑食性的組み合わせからなっている理由でもある。例えば穀物(grains and cereals)と豆類(legumes and pulses)との組み合わせ;根菜類(roots)と豆類の組み合わせ;穀物と野菜の組み合わせ;そしてそれら組み合わせへの適量の動物由来の食べものの追加である。 これらを主体にした食事というものが、健康な食事の基本となってきていたのであり、残していきたい考え方であり、食べ方であり、生き方である。 (第二グループ:台所向け・調理向けに加工された食品材料) このグループには、油・バター・ラード・砂糖や塩が含まれる。 これらの食品材料は、第一グループの食べものや自然界から次に示す方法で製造されたもので、方法としては、圧縮・精製・擂りつぶし・製粉・乾燥などがある。 これら方法のあるものは、古い歴史を持つものであるが、現在では通常、家庭やレストラン等での食べものの調理に使いやすいよう、工業的に生産されている。 当然、このグループの食品材料は栄養性のバランスは欠いており、また塩を除いてエネルギー密度は高い(1g当たり砂糖4kcal、油脂類は9kcal)。 因みに、調理した豆類のエネルギー密度は、1g当たり1.3kcal程、調理した野菜は0.4kcal程である。 家庭で、レストランで、これらの食品材料を加え、第一グループの食べものを調理して、食べものが出来上がる。 多くの第二グループの食品材料は安価なことから、過剰使用に気を付けることが必要。 (第三グループ:加工した食べもの) このグループには塩漬け調理した野菜や豆類の缶詰やビン詰、果物のシロップ詰・魚介類のオイル漬け缶詰・ハムやベーコン、パストラミやスモークした魚介類等の動物性食品・大半の焼き立てのパン製品・塩だけが加えられているシンプルなチーズ等が含まれる。 これらの加工した食べものは、第一グループの食べものに塩・油・砂糖・その他の第二グループの食品材料が加えられ作られており、これら加工処理によって作られた食べものは保存性が向上し、嗜好性も向上している。 多くの加工した食べものには、第一グループの食べものに2〜3種の第二グループの食品材料が加えられており、家庭やレストランにおける食べものの中に混ぜられて食べられるのが普通で、時にそのままの形でスナックとして食べられることもある、非常に嗜好性を高めた食べものである。 第二グループの食品材料を使って第一グループの食べものを加工するやり方は、古くから自家製造されてきたものであり、今も残っているものではあるが、現在は大半が通常工業的に生産されている。 加工された食べもののエネルギー密度は、野菜缶詰を除いて多くの食べものは1g当たり1.5〜2.5kcalの妥当なものもあれば、3〜4kcalといった高いものもある。 (第四グループ:超加工食品”Ultra-Processed Foods; UPFs”が属する) 超加工食品(UPFs)は、大量生産を目標に、工業的手法や工程を使って調製し用意した食品素材を調合・混合・組み合わせ、工業的手法を用いて作りあげたものと規定している。 超加工食品の典型例は、炭酸入りソフトドリンク類・甘味のある油っこい袋入りスナック類や塩味袋入りスナック類・キャンディ類・大量生産した袋入りパンやバン類・クッキーやビスケット類・ペイストリー類(焼き菓子類)・ケーキ類・ケーキミックス・マーガリンやその他のスプレッド類・甘みを付けた朝食用シリアル類・フルーツヨーグルト類・エネルギードリンク・調理済み畜肉食品・チーズ・パスタやピザ・魚やチキンのナゲッツやスティック類・ソーセージ類・バーガー類・ホットドッグ等々である。換言すると、ファーストフード店やコンビニの棚で極めて良く見かける『食べものたち』だといえる。 超加工食品には、製造面の特徴、用いる食品素材の特徴、その配合・調合の仕方の特徴、そして製造する超加工食品の嗜好性UPを目指す細工上の特徴等において、以下に示す特徴があり、第1〜3のグループの食べものと超加工食品とを判別する際に役立つことになる。 1. 第一グループの食べものを材料とし、それらを細分化・分画化し、糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維その他ビタミンやミネラル等の各成分に分けてそれぞれを別々に利用するという思想がある。 【家庭の台所ではあり得ない工業的製造ならではの発想である】 2. そして、第一グループの食べものも、何でも良い訳ではなく、選ばれたごく少数の作物が上記発想の分画に供せられる。ここに大きな特徴がある。 選ばれる植物性の食べものは高収量作物(多収穫性・病害虫抵抗性を持たせた所謂GM作物であるトウモロコシや小麦やコメや大豆やサトウキビ・テンサイ糖)であり、動物性の食べものは集約型工業型飼育システムで育成された家畜からのものが選ばれる。 【ここでも、台所とは異なる工業的ならではの発想があり、生物多様性の減少化の問題や多肥料・多農薬・多量用水・農地の多量占有といった問題が内在していることから、水系の劣化や富栄養化そして土壌・水系の酸性化とともに、そもそも人新世時代の望ましくないサイクルを促進する材料が一杯詰まった環境を生みだすことになる】 3. 細分された各分画食品素材(糖質・油脂・蛋白質・澱粉・食物繊維・ビタミンやミネラル等)は、あるものは加水分解処理を行い、油脂類については水素添加還元処理を施し、その他化学修飾処理(澱粉の処理が典型例)を行うことも、大きな特徴である。 各種処理で得られる代表的なものに、糖類ではフラクトース・高フラクトースコーンシロップ・果汁濃縮物・転化糖・マルトデキストリン・デキストロース・ラクトース(乳糖)があり、油脂分では水素添加油脂【例えば飽和脂肪酸が一例でこれにより液状油脂を固体にしたり、油やけの心配のない油脂が提供できるという利点があり、焼き菓子等に重用されている。一方、油脂中にある全ての不飽和結合の完全水素添加を敢えて行わなかった時期には健康被害の原因となることが後に判明し使用禁止となったトランス脂肪酸がここに登場していた】やエステル交換油脂【食用油脂の融点を上げたり下げたり調整する目的で利用されているようだ】があり、蛋白では蛋白加水分解物・大豆たんぱく分画物・グルテン・カゼイン・乳性蛋白・骨から機械的に切り離された肉(mechanically separated meats)等がある。 4.そして、上記の諸作業で生産した家庭の台所では入手不可能な、各食品素材を目的性能が最大限に発揮されるよう配合し、その混合物を、例えばエクストルーダー(射出成型)処理やその他の成型加工機を使って製品を作りだしている。 【3,4共に家庭の台所では為し得ない工業的製造ならではの発想がここにもある】 5.更に大きな特徴として、商品の嗜好性や販売力を高めることを目的に、着色料やフレーバー剤やフレーバー増強剤や人工甘味料や乳化剤・増粘剤・発泡剤や消泡剤・賦形剤・炭酸化剤・ゲル化剤・つや出し剤等の食品添加物を加えることで、製造する超加工食品にお化粧を施す努力をしていることが挙げられる。加えてパッケージングも購買意欲を高める目的で工夫を凝らしていることは言うまでもない。 また、従来から言われている、嗜好性拡大のための塩分や糖分・油脂分の過剰使用による健康被害が、超加工食品の販売力の高さと相まって高まる恐れを秘めている。 6.超加工食品は、その簡便さ・利便性ならびに賞味期限の長さ、過食さえ心配な美味しさ、そして繰り返し購入が懸念される常習性といった性能をも秘めた商品と言える。 そして、これら超加工食品は、安価であり、そして至る所でもっとも購入しやすい状態で販売され、更に今風の独特の新規販売戦略も世の中に組み込まれつつあり、先に示したように、世界の各地で市場規模を急速に拡大しているのもうなずける状況がどうやら確立してきているのが、現在の世の中の大きな特徴である。 【この辺りは、非常に興味があるとともに懸念される部分でもあり、別の機会に紹介する予定です】 次に、超加工食品を他の食べものと見分ける際に役立つ情報を紹介する。 製造メーカーは、販売する商品のラベルに製造工程の情報は記載することはなく、ましてやその製造工程を採用している目的についての情報等の記載はない。このことが、時に購入時に紛らわしさ、不明確さが生れる原因となる。 無論、例えば新鮮野菜や果物・根菜類やジャガイモの様なもの、そしてパスツール殺菌処理牛乳や冷蔵販売の肉製品、さらに台所用の食用油や砂糖・塩等といったものは、明らかに超加工食品ではない。 しかし、容易に判別が付けにくいものも多くあり、例えばパン類であり、朝食向けのシリアル類である。 判別に役立つ一つに、”あらかじめ包装されている出来合いの食べもの(pre-packaged food)”やドリンク類に対し、法令で定められているラベル表示の確認を行うやり方がある。 工業的生産であるが、使用材料が小麦粉・水・塩とイーストだけから作られているパンは第三グループの加工された食べものになる。しかし、ラベル表示に乳化剤または着色剤かのいずれかが付け加わっていれば、それは超加工食品となる。 ひき割りオーツ麦(steel-cut oats)のプレーンタイプやコーンフレークのプレーンタイプや裁断された小麦(shredded wheat)は第一グループの最小限に加工した食べものになるが、同じ食べものであっても砂糖が加わっていれば、第三グループの加工された食べものとなり、さらにフレーバー剤や着色料が使われていたら超加工食品となる。 一般化すると、購入する食べものが超加工食品であるのか、異なるのかの判別は、ラベルの使用添加物に家庭の台所では見ることのない、既に上記した超加工食品向けの工業的に生産された食品材料を一つでも含んでいれば、その食べものは超加工食品とみなすことになる。 ここで、一つ注意しておく必要のある問題が、添加剤のラベル表示には、国際間で統一されていない状況があるということである。 例えば、フレーバー剤(flavours)やフレーバー増強剤(flavor enhancers)の表示については、着香剤(flavourings)や天然フレーバー(natural flavours)や人工フレーバー(artificial flavours)、更には具体的にグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)と記載されるケースもある。着色剤については、カラメル色(caramel colour)の表示もあり、乳化剤の場合には、大豆レシチン(soya lecithin as emulsifier)と記載される場合もある。 国連食糧農業機関が定期的に添加剤のリストの更新サービスを行っており、参考になる。 今回の情報はここまでとしたい。 超加工食品をめぐるMonteiro教授らのNOVA分類の動きに合わせて、超加工食品が潜在的に持っている健康への影響を調査する研究の報告例が相次ぎ出されている。 そして、超加工食品を大きな商機として拡大化を図るビジネス界の動き、殊に私たちには付いていけそうもない新たなバーチャルな広告販売戦略の動向や、Monteiro教授らのNOVA分類システムの問題点を指摘し、分類システムの改定を目指すNOVO Nordisk Foundationが資金を提供する2年をかけてのNOVA2.0の展開の動向等々、ビジネス界と学界等とのやり取りの状況の紹介は最近の重要なテーマの一つであろう。次回以降これらの紹介を展開したい。 超加工食品が大きな利益を生む商機ととらえるビジネス界のトップダウン的な上からの圧力の拡大と、結果としての超加工食品の市場の興隆を見るにつけ、これらビジネス界のエンジン推進力を、Monteiro教授らの提示したNOVA分類システムがブレーキ役として働く機能を持っていそうなことが垣間見える点が殊に興味深い。 エリート層のトップダウンの圧力が、どの分野でも幅を利かせすぎているのが、現代の特徴とすれば、これに『棹差す』動きには大いに注目したい。 山火事の頻発を目にして、参考となる考え方を提示した。 ブレーキは不充分、アクセルは踏み続ける結果、人新世時代は進み、自然界からの解答が、地球の温暖化・沸騰化の現出であり、世界は今、ある地域は異常な乾燥、別の地域は異常な豪雨。そして異常な乾燥と異常な豪雨が予測不能に急に激変する所謂「気候のムチ打ち症(climate whiplash)」または「水に着目した気候のムチ打ち症(hydroclimate whiplash)」が現出していると述べた。 『人新世時代』の進行とともに発生する災厄は『人災』であり、しかもその『人災』は、『格差の拡大を不公正・不公平な形』で私たちに強いてきているのであり、その上更に、その『人災』の発生は、今までは私たちの意識の外、無縁のものと思ってきていたものが、今や私たちはその『災厄という人災』の発生が、確率の問題と考えざるを得ないまでに私たちの目の前に浮上してきているのである。 『人新世時代』の進行につれ派生して起こる『災厄という人災』は、異常気象の進行だけではないのであり、例えば超加工食品の隆盛もその一つではないか,という思いからこの話題を取り上げております。
0074
酷暑が如何に危険であるか、を説明する考え方が提供される
yo-chan
03/20 11:53
酷暑が如何に危険であるか、を説明する考え方が提供される 超加工食品の記事探しをしている際、興味ある記事を見つけたので、ここに紹介します。 「猛暑が老化スピードを加速する」事実を裏付ける考え方を提示する研究報告になります。 こまめに水分を取らないと熱中症が心配、暑さで寝不足になるのが心配、といった考えを持っていることから、猛暑・酷暑が危険であることは薄々感じていたとは思いますが、何故危険なのかの本質を上手く説明することは、結構難しかったのではないかと思います。 今回紹介する記事は、猛暑・酷暑が、事実として私たちの体に危険な刻印を押す実態を示すものであり、猛暑・酷暑の危険性の認識を更に深め、対処を自身の問題として、また家族・地域社会・国として、更に行政・政治家・政党として考る際に必要な道しるべとなる事柄を示唆してくれているものとして、非常に重要な研究だと思います。 紹介する記事は、次の2つ。詳細な訳出はせず、要点のみの紹介になります。 「喫煙が原因で実質年齢が高齢化していくのと同じように、熱暑が人びとの老齢化を促進している(原題:Heat can age you as much as smoking, a new study finds)」 npr、2025年3月17日、Alejandra Borunda氏記す 「熱暑が老齢化のスピードを早める可能性がある(原題:Extreme heat may speed up aging)」 NEWS MEDICAL LIFE SCIENCES、2025年3月5日、Priyom Bose博士記す またこれら2つの紹介記事のもととなる最近報告の学術研究は、次のものになります。 ”遺伝子レベルの測定から、屋外の気温がアメリカの高齢者の生物学的年齢の老齢化を加速している(原題:Ambient outdoor heat and accelerated epigenetic aging among older adults in the US、Science Advances,vol.11,No.9,2025、Feb.26)” 1. 今回の研究の要点 研究者らは、全米各地から選んだ3600人以上の高齢者からの採取血液を分析して、それぞれの被検高齢者の『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』を算出している。 合わせて、研究者らは、血液採血前の6年間にわたり、それぞれの被験者が受けていた熱履歴を示す『暑さ指数(Heat Index)』を、『気候と天候モデル』をもとに算出し、それら得られた『各被験者の受けていた暑さ指数』と『各被験者のエピジェネティック年齢』とを付け合わせて、それらの間にある相関性を検討している。 即ち、今回、研究者らは屋外の気温と湿度とが如何に人々の生物学的な年齢に影響するかの確認を、高温に曝された人々のDNA上に起こる微小な変化の調査と付け合わせることで行ったわけである。 得られた結果は、明白であり、厳しい『暑さ指数』の地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』が、『暑さ指数』が小さい冷涼な地域に暮らす人々の『エピジェネティク年齢』に比べて、14カ月程高齢化・老齢化が進行していることを示したという。 2.『エピジェネティック年齢(epigenetic aging)』とは何か? 人が持つ遺伝子DNA鎖というものは、人が齢を重ねるにつれて、DNA鎖の配列に変更はなくとも、DNA鎖のある部分に後天的に様々な修飾が起こり、そしてその修飾が蓄積されていくさまが、即ち、人が老いていく様子とプラスの比例関係になっているとされている。この修飾が年齢とともに増大していくことはごく自然なことで避けられないことであり、即ち暦の上での年齢にふさわしい老齢の兆候をごく自然に積み重ねていくのが人間だと言えよう。但し、ある人は暦の上での年齢より老けて見えたりすることがままあるのも、また反対に年より若く、見えたりすることも良くある事実でしょう。 この「暦の上での年齢」では推し量れないことがままある実質的な年齢のことを、「生物学的年齢」とも言い、また今回紹介する『エピジェネティック年齢』とも言っております。 3.『エピジェネティック年齢』の算出の方法 先に触れた修飾の仕方の一つとしてDNA鎖の構造中のシトシン部分の水素がメチル基で置き換わることに注目が集まっている。具体的には、グアニンが隣接するシトシン部位にメチル化が起こることが認められており、そしてDNAのメチル化修飾度合いが、分析機器的に技術的に定量可能となったことから、この技術を用いて研究が進められ、分析的に求めたDNAのメチル基修飾度合いの定量測定値が『生物学的年齢』『エピジェネティック年齢』と極めて良く相関することが判明したことがあり、それを利用しての老齢化や逆に若返り化に関する研究が近年盛んに行われているのであろう。 幾つか他の修飾がある中でメチル基修飾に注目が集まっている理由は、分析機器的に取り組みやすく、この分野の分析機器の開発が先行したことに原因があるのではと思います。 4.『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因ならびに懸念すべき情報 生物学的観点からみた私たちの実質年齢の高齢化・老齢化を促進する動因として熱波・熱暑が働くことは今回の研究から明らかにされたと言えます。 ここで、併せて注意すべき点として、高齢になるにつれ、老人は熱に対する防御能力が低下していくことが避けられないという事実でしょう。 即ち発汗能力の低下であり、血流の能力の低下であり、結果としての血液温度を下げるのに必要な体の表面への血液送達力の低下であり、また老齢になると服薬するある種の薬剤が人の熱耐性を妨害する等のことも要因とされている。そもそも老齢化するほど熱暑に弱い状況に老人は置かれることに留意することが重要と言える。 そして異常気象の現状はというと、例えば、猛暑で名高く熱中症や心臓疾患が頻発している米・フェニックスでは、昨年32.2℃(90度F)越えが記録となる188日に達し、その内の140日以上が37.8℃(100度F)越えとなったとされる。 また、気象評価を行っているアメリカの国立機関によると、2050年頃のアメリカでは、熱暑日の日数が更に20日から30日増大すると見積もられると報道されている。 即ち、熱中症の恐れを心配する必要のある熱暑日や熱帯夜が、更に1カ月分追加されることになるのである。 また熱暑や熱波が、高齢者の老齢化を促進するという研究結果は人々の心臓機能の老化をも促進することを意味しており、心臓疾患の悪化といった危惧すべき事態の進行が懸念される所です。しかも、危惧すべき対象となる人は、高齢者だけではなく、若い人にも同じく、熱暑・熱波は人々のDNA上に悪い刻印を押していくことになります。 ボストン大学の高齢医学者のCarrさんによると、例えば今回の研究が示す早期老齢化の状況は、認知症・糖尿病・心臓血管系疾患といった疾患の早期発症に結び付くものであり、これら発症の早期化が早く起これば起こるほど、人々の健康と仕事の生産性に影響を及ぼし、地域共同体に大きな影響を与えることになると指摘している。 『エピジェネティック年齢』に影響を与える要因には、熱波や熱暑以外にも多くの要因がストレスとして働くとされ、例えばタバコの喫煙や食習慣や運動の多寡そして生活水準や教育水準、更に精神的ストレスや物理的ストレスもストレスになると指摘している。 ここで、食習慣のストレスに、超加工食品が拡大している現状も加えるべき、と考えます。 超加工食品の拡大を、懸念する理由は簡単に言えば、工業界が期待するがままに、超加工食品への依存を高めていくと、私たちの胃袋にはそもそも限界があり、拡大する超加工食品で既に満たされた私たちの胃袋には、伝統的な食べものに向ける隙間・余地が無くなっている、と表現すれば容易に理解していただけると思います。 それら伝統的な食べものに、実は健康に役立つ『良さ』があると言われているのですから。
0075
『世の中のムチ打ち症』の悪化を憂える
yo-chan
03/28 09:47
『世の中のムチ打ち症』の悪化を憂える ロス地域でひと月にわたる大火災があった。 UCLAのスウェイン氏は、原因に世界で進む『気候のムチ打ち症』の進行を挙げる。 昨日、ある駅前でこんな光景を見た。塾がハネ、解放された子供数人が多くの人が往来する舗道で追いかけゴッコを始めていた。お年寄りや幼児らもいる駅前の歩道での出来事。 思わず連れ合いが注意をする程、危険な振る舞いに見えた。 『ムチ打ち症』には、異常な日照りと大雨が急に交代する気象だけの問題ではないと感じる。『世の中のムチ打ち症』とも言える困った症状が進み始めているのではないか? 例えばアシストされ、高速化した自転車で、時間に急かされ走り去る人々が歩道に溢れる。 上のゴッコ遊びと同じ危なさを感じる。 そして拡大する格差の放置や異常気象の進行の放置で、脆弱な人々の疲弊が一方で進む。 片や再開発と称し街に高層ビルを作り続け、それを持続可能な街作りに貢献する事業体の使命だ、と強調する企業や行政があり、多くの人々は彼らの提示する利便さや豊かさを安易に受け入れ大都会への集中度は増し、喧騒さに輪が掛かる今の世の中。 その一方、取り残され忘れ去られる山谷がある。 今の世には、格差拡大による疲弊があり、見せかけの豊かさに安易に乗る喧騒があり、時間と管理に囚われた人々の忙しなさが舗道に溢れ、そして忘れ去られた山谷がある、という様々な極端が同居し、それぞれが進行を早めていると感じる。 『世の中にムチ打ち症』が蔓延し、世の危うさが拡大していると感じる。
0076
5.3市民意見広告「武力で平和はつくれない!」
笹井明子
05/03 09:45
憲法記念日の今日、恒例の「5月3日、市民意見広告」が、朝日新聞全国版、大分合同新聞、沖縄タイムス、毎日新聞全国版、八重山毎日新聞、琉球新報の計6紙に掲載されました。 今年のメインタイトルは「武力で平和はつくれない!」、サブタイトルは「80」です。 今年の主張は「敗戦80年と憲法」「武力は戦争の抑止になりません」「私たちにできること」の章分けで語られています。 「市民意見広告とは(歴史・あらまし)」、今回の「意見広告の詳細」は以下をご覧ください。 https://www.ikenkoukoku.jp/about/ https://www.ikenkoukoku.jp/archives/944/ 「老人党・護憲+」も長年にわたり参加しており、今年も賛同者に名を連ねました。画像の文字「80」の下の丸(ブルー部分)の右上方に名前があるのですが、分かりますか?
0077
フト思ったこと
yo-chan
05/04 15:05
フト思ったこと 半年ほど前のこと。群馬は松井田のとある市道を走行中に、60−70cm程の高さの特段に壁面を補強していない土壁が2メートルほど突然崩れるさまを目撃した。 また数日前、松井田の別の場所、そこは見上げるほど高い丘の上に民家が数軒立ち並び、すぐ裏に崖が迫るという、良く見かける補強を施していた筈の崖に、応急処理的にブルーシートが被せてあるのを見かけた。 松井田もご多分にもれず、冬の終わりから春にかけて、さして雨が降らない天気が続いているが、一旦降るとなると豪雨的な降り方になることを繰り返している。 水文気候のムチ打ち症(Climate hydrowhiplash)の典型的な情況が、注意してみるとここ安中の松井田でも起こりつつあるのではないかと見ている。 国連事務総長のグテーレスさんが、地球温暖化を通り過ぎ、今や地球沸騰化と宣言したように、気温はこれ以上高くなると引き返せないという閾値にいよいよ私たちは近づいており、気候のムチ打ち症といった気象上の症状として私たちの眼前に立ち現われていると考えるべきではないかと思っている。 崖の強度というものは、今までの気候状況のバランスの下では充分に保証されるやり方で設計され、補強されているものだろう。 しかし、地球温暖化から地球沸騰化へと移行しているという現在、今までの条件の下では保証された強度を持っていた壁が、気象状況のバランスが変わってしまった現在、ヒョットすると最早持たない状況に私たちは入り込んでしまったのではないか? そんな状況を、ここ松井田で散見したのではないか、とも思っている。 事は、崖崩れだけの問題ではない。昨今の世界で頻発する山火事も全く同じことが根本的原因のように思える。 即ち人々は、従来のイメージと同じ思いをもって山に入り、従来と同じ行動をするものの、山林自体は今までのバランスとは違った状況になっており、充分管理下に置いた筈の行動が急速にコントロール不能の状況になってしまった結果なのではないか? 世界各地の洪水被害も今までとは次元の異なる状況の発生が今後懸念される。 しかも、このバランスの崩れは刻々とその様相を変えていくものであり、しかもその変化のスピードは刻々と上昇していくと、予測されている。 この国土のバランスの悪化、不安定さの進行は、ほっておくべきことではなく、正に(人・もの・金)をつぎ込むべき大切な事業と捉えるべきと思う。 次から次へと兆円単位のイベントを繰り返す国や自治体や国策会社の箱物事業や再開発事業の連鎖だけがクローズアップされる社会では持たない、と思う。 万博は止められず進んでしまった。JR東海のリニアも水面下で粛々と進行している。 現在のバランスに基づく机上の計算では充分安全性は保証されていると、聞けば答えるだろうリニアなど果たして、自然界のバランスが時々刻々と変化していく今後、本当に大丈夫なのだろうか。ことは、人の安全だけの問題ではない。がけ崩れに象徴される環境面の劣悪化に拍車をかける事業に彼らは手を染めてしまっているのではないかと懸念する。
0078
フト思ったこと−『減反半世紀』の国政思想の偏りとシューマッハーが『Small is Beautiful』の中で語るもう一つの道の興味深さと大切さ
yo-chan
07/12 15:32
フト思ったこと−『減反半世紀』の国政思想の偏りとシューマッハーが『Small is Beautiful』の中で語るもう一つの道の興味深さと大切さ 減反を半世紀も続け、今さら増産を指令か?という11日付けの東京新聞の記事。 減反一辺倒で農業を軽視し、そして更に農業を一枚の交渉カードとし、工業偏重主義に邁進した戦後政治は一定の成果を市民にも届く形で提供したのは事実だが、農業切り捨て工業偏重一辺倒の偏りすぎた政治の継続は如何にもバランスが悪く、そこここにその影響が出てきている。 減反一辺倒の思想は、市民が本来基本的に持っている『食べる』という『主権sovereignty』を国が侵害する行為を助長するもの、そして農耕作業を通じて得られる自然環境を維持し保全する国に求められる基本的責務を国が放棄し、農耕作業を通じて得られたであろう市民が本来持っている『自然環境権』をも国が無意味に侵害する行為を助長するものだった。 さらに言えば、この減反一辺倒思想を是とし受け入れ続けた市民の生活哲学の偏りにも大いに自省が求められることを指摘していると思う。 そして減反一辺倒の思想とその裏返しの工業偏重・グローバリゼーション偏重一辺倒の思想が辿る行きつく先は『コメ』の問題だけではない、『異常気候』も『農村地域共同体崩壊危機』も『働き方の不安定』も『格差の放任』にも結果として繋がった、今私たちに突きつけられている課題にも通じている、と考える。 『減反半世紀』に象徴される農政思想の偏りだけが問題ではない。 根を同じにする思想の偏りが我が国の政治・社会全体にも存在している、それらを正す一つのチャンスが眼前にある。 工業偏重・グローバリゼーション偏重一辺倒の道が、市民が取り得る最良の唯一の道ではないのである。 『もう一つ』の道もあることを気づかせてくれるシューマッハーの考え方は、今回の参議院選選択の際の参考になるものと思う。以下に紹介したい。 1973年シューマッハーはSmall is Beautifulを上梓し、その中で彼は西欧社会が是とし推進する企業が統治し主導する経済活動は、人の身の丈からは想像不能の巨大な金融集約型−天然資源収奪型システム(人の感覚とは次元を異にする莫大な資金を投入し、世界各地から必要な天然資源を際限なく収奪することを条件に成立する経済システムで、人々にもっと多く消費し、もっと多く購入を迫るシステム)だと断じ、それに対峙する経済活動が、シューマッハーがこだわる『仏教経済Buddhist Economics』思想から誘導出来ると指摘した。 シューマッハーの言う対峙するその活動の特徴とは、地域共同体を構成する人々が身の丈に合ったサイズの経済システム(地域の人が支払えるコスト内で地域の人が働ける場・システムを構築する)を地域共同体の人々が参画して作り上げ、作りあげたシステムの場で彼らが働くという経済活動(あえて言えば、身の丈労働集約型−地域密着・天然資源非収奪・持続的地域資源利用型経済活動)であり、そういった経済活動の採用の重要性を彼は、世に問うているのであり、先進国はかかる身の丈労働集約型−地域密着・天然資源非収奪・持続的地域資源利用型経済活動を推進したいとの地域共同体の希求に対して支援することこそが望ましいと、氏は主張している。 そしてシューマッハーは、かかる『地域密着・身の丈労働集約型システム』には、それに見合った技術が必要であるが、西欧企業の行う先端科学・先端技術開発競争の世界では、かかる身の丈サイズ技術の開発の思想は、全く欠落していると断じ、彼はかかる身の丈サイズ技術を『中間技術(intermediate technology)』と名付け、その必要性と重要性をも世に問うているのである。 そしてシューマッハーは、グローバルノースが行う途上国向け支援が人の身の丈から隔絶した巨大な金融集約型−天然資源収奪型に立脚した技術システムの押しつけに偏しており、この形態での支援では結果として人々に多くの働く場を提供することには繋がらず(先進国の工業化システムは利益の最大化が目標であり、人の介在は無駄とし、可能な限り機械化自動化が奨励されるのである。人の働く場を最大化したいシステムの確立拡大を期待する人々の希望とは根本的に食い違う先進国の思想なのである。我が国の減反一辺倒思想-工業偏重・グローバリゼーション偏重一辺倒思想は、市民が求める良き社会の姿を実現するには欠陥のある偏った考え方なのである)、そして支援に起因して債務のみが途上国に積み上がることになっている、と指摘する。 シューマッハーは、彼が生きた1970年代の西欧社会の人々の意識は、次の3つの考えを人々がベースに持つというイビツな社会だったと見る。即ち一つは、安価な資源は世界中に限りなく存在しているという考え、2つ目は、単純であり誰でもができる簡単な仕事を、敢えて引き受ける安価な労働者も世界に限りなくいるという考え、そして3つ目は、かかる所まで発達した西欧社会では、課題が出てきたとしても発展が目覚ましい科学と技術が何とか解決策を出してくれる筈であり、西欧に暮らす人々の最大関心事は、どうやって余暇時間を充実させるかの研究であり、そして蓄えた資産をどうやって管理し運用していくかの研究であるとした。 第二次世界大戦後の4半世紀程の間は、戦後の復興に明け暮れ、そして理念として世界の各国家の間には上下はないとの原則で世界は再出発した筈であったが、1970年代には、既に、殊に西欧の人々の認識には、工業偏重・グローバリゼーション偏重の思想が既に深く大きく根付いていたことを、シューマッハーは指摘している。 そして、これら3つの認識(天然資源は無限、安価な労働力も無限、課題は科学と技術が何とかしてくれる)が、現在の我が国の人々に何処まで当てはまり、残っているかを考えると、「天然資源は無限」については若干疑問に思う人々が増えてきているが、残る2点については間違いなく今も人々に深く刻まれている認識であり、従って現在も我が国は工業偏重・グローバリゼーション偏重の思想に大きく影響されている状況の中、だと言える。 シューマッハーは、仏教経済思想を現今の世界の主流の経済思想に組込みたいという思いが氏の1つの基本的考え方なのだろう。彼は、現在の主流の経済思想を打倒すべきものとは考えておらず、ここでも仏教哲学を持ちだし、主流の経済哲学はそれはそれとして、しかし別の考えの思想もある、それが仏教的経済思想であるとし、身の丈に合ったサイズの経済システムの確立と拡大を如何に図っていくかを願っていたと思う。 『地域密着・身の丈労働集約型システム』の適用先はなにも途上国だけとは限らないという認識を私は持っている。我が国の中にも例えば、消滅危機に瀕する地方共同体地域はある、そして都会の中でも安心して働くこと、働くことを通じて自己実現を図り、向上していきたいという願い、即ち基本的な人としての権利を保障されたいと願う多くの人がいる。 教育という基本的人権についても同様なことが言えるだろう。果たして全ての児童に公平な教育機会は保証されているだろうか? また減反政策を翻し、お米の増産をと言われても無理との声が多くある。代表的な一つに新たに農業に取り組むにも数千万円にもなる農耕機械類の購入が必要であり、ハードルが高い、の声がある。例えば、この様な声の受け皿となる科学と技術の開発思想が我が国に抜け落ちていたのではないか?シューマッハーがこだわった中間技術や適切技術といった思想の出番は昔からあったのであり、今からでも農業参入のハードルを下げる技術開発に取り組むという思想を膨らませていきたいものと考える。この思想の持つ延伸性は広大であり、様々な分野、殊に地域共同体の活性化のための必須ピースになる面白い検討領域と思う。 工業偏重・グローバリゼーション偏重一辺倒の道が、市民が取り得る最良の唯一の道ではない。『もう一つ』の道もあることを気づかせてくれるシューマッハーの考え方は、興味深く面白く、しかも今回の参議院選選択の参考になるものと思っている。
0079
現在の社会状況について(1)
yo-chan
07/30 16:13
現在の社会状況について(1) 今回の参院選挙は、ことに欧州で顕著に見られる政治状況が我が国にも目に見える形で押し寄せてきたことを示すこととなった。 ポピュリズムとどう向き合うか、ということもこれからの私たちに問われる大切な視点になることは間違いない。 ポピュリズムの特徴として、社会を分断状況に置くこと、つまり『私たち』の存在の規定とそれに対立するものとして『私たちが抱える不満』に上手く対処できない、間違った対応をしようとする或いはそもそも目を向けようともしない『エリート層、エスタブリッシュメント層』の存在を想定することがある。 そして、『私たちが抱える不満』の解決を強く約束するカリスマ性を持つ主導者の出現も特徴として挙げられる。 また、ポピュリストの言辞や彼らが語る物語には、科学的合理性の裏付けに乏しい特徴があり、よって解決を約束するも、その提示する方策で真の解決が実現できるか、は極めて怪しいという点も一つの特徴である。 しかし、現在の社会には確かに人々が不平不満を高めざるを得ない要因はごろごろあり、そして『エスタブリッシュメント層』は確かにそれら要因に対する対応が弱く・遅かったのであり、時には間違っていると受け取られ、不作為と見なされることもあった。そしてジャーナリストや識者を含め、合わせて従来からの各政党も、『不平不満をため込む人々』にとっては同罪と見なすのである。 またポピュリズムはネット社会を通しての拡大にも注力している。殊に若い人々は情報源にこれらネット社会を優先的に選択していると言われる。そしてこのネット社会の情報には間違った情報やある種の信念を植え付けることを狙う情報も紛れ込む余地が大きいとされている。 即ち、不平不満の放置や情報の取り方の一方性やその他の状況を見ると、我が国を含めて世界に共通して至る所にポピュリストがつけ込む余地が発生しているのである。 彼らを無視することは最悪の選択肢だと言われる。よって、私たちに求められるのは、彼らも不安にさせている根本原因への対処策を粛々と講じていくことが第一であり、彼らのレトリックに惑わされる人々に対して、多面的な情報をもとに不安の根本原因に対処していく術を考えていくことが、社会の健全性確保に大切であり、そして選挙におけるポピュリズムの更なる拡大を抑制していく策になると考える。 即ち、社会の分断化の推進を目指すのではなく、社会が一体であることの安心感・信頼感を人々が持つ状況を如何に目指すか、が大切な視点となる。 かかる観点から役立つであろう、海外の識者らのこの問題に対する見解を以下に紹介していく。 今回は今年5月2日発表のキャサリン・ド・ブリース氏の意見を紹介する。 題名:ポピュリズムに対抗し、安全保障強化のために、欧州は市民層への投資を再度強める必要がある (原題:To Counter Populism and Bolster Security, Europe Must Reinvest In Its Citizens) 安全保障の脅威そしてポピュリズムの拡大に直面する欧州には市民への投資が求められるのであって、緊縮財政が求められる訳ではなく、反対に緊縮は人々の不安不満の拡大を助長することになる。 現在欧州は転換点・岐路に立っている。課題となっている安全保障問題は実質的な投資を欧州各国に要求しており、継続する欧州の低成長と合わせて欧州に構造的な難題を突き付ける。 同時に、ポピュリストの台頭で悪化する政治的分断と不安定化による統治能力の劣化もあり、欧州各国の行動への制約要因が高まっている。 この状況への対処に幾つかの国は歳出カットの採用を選択する誘惑にかられる恐れがある。 最近の例として、英国のStarmer政権が導入した緊縮財政措置、医療や福祉という不可欠の公共サービスへの投資をせずに安全保障予算を増額しようとしたドイツの例が、かかる傾向を示す好例である。 しかしこのような対応策は見当違いのものだ。 即ち最近10年間に発生しているポピュリストの拡大という教訓を間違って解釈したことが原因しての見当違いである。 ポピュリズムの台頭は、なにも経済難状況や文化的不安状況だけが原因しているのではない。なにかもっと根深い状況に起因していると考えるべきであり、例えば『国家』が普通の『市民を見捨てている』という感情を市民は抱いており、その感情の原因を作っているのが国家の上層を構築する『エリート層・エスタブリッシュメント層』であり、ならびに『従来から存続している各政党』も同罪だとの認識を抱いているのである。 根深い根本原因には、社会を分断しようとする思考法をも含める必要がある。 市民の信頼を再度得るには、各国政府は国家体制を更に弱体化させるべきでなく、国家体制がより良く機能する方向を目指すべきである。それには行政機構の非効率性の削減、公共サービスの供給性の改善、そして公共機関の信任度合いの強化が必要である。 ポピュリズムというものは、現代の麻薬(鎮静剤)という面を持っている。 即ち、ポピュリズムは、陶酔的な作用を強く持ち、人々が抱く『見捨てられている』という不平不満に基づく『痛み』を忘れさせる効能を持つ。但し、この現代の麻薬(鎮静剤)には『痛み』の根本原因を解決させる能力はなく、単にポピュリズム支持を通しての帰属意識と高揚感は得られるものの、『人々の抱く不平不満』は『エリート層やエスタブリッシュメント層やポピュリズム支持者以外の層』への『怒り』へと、結果として転換させられていくのである。 安定で継続が期待できる『働きの場』は減少し、社会の連帯感は劣化し、地域共同体は脆弱性が増し、混乱した場へと変化している。かかる根本的な社会が抱える問題の痛みに対し、ポピュリズムは麻薬(鎮痛剤)的効能を果たすのみで、根本治療薬ではないのである。 ポピュリズムが人々の不平不満を聞く耳はあるものの、ほとんど解決能力を持っていないということが、従来から主流を占めている政党が再度集票力を強めることに繋がる可能性を持っていると言える部分である。 第一に行う必要があることは、緊縮財政の採用のような経済政策は『人々』に対する裏切りだとの感情を引き起こすことになり、それをポピュリズムは利用しているのであるが、かかる人々の感情は『正当性・妥当性を持つ不平であり不満』であるとの認識を持つことである。 経済学者らはBrexit投票の際、緊縮財政策が如何に投票行動に影響したかを示す事例を提示し、そして政治社会学者らは、公共サービスのカットが如何に極右運動を助長したかを解き明かしている。 政府の行動に幻滅した人々の経験がもとになって、投票者らは幻滅の共犯と見なす政党を見捨てているのである。 別の研究によると、住宅価格や家賃の高騰に対する懸念が政治に対する不満を高めている、そして医療へのアクセス性の問題(多くの場合、一般開業医の閉鎖や病院の待ち時間の長期化の形で人々は体験している)が不満を深め、ポピュリストの弄する言説の訴求力を高めることに繋がっている。
0080
>現在の社会状況について(2)ポピュリズムが語る物語の特徴
yo-chan
08/22 15:14
現在の社会状況について(2)ポピュリズムが語る物語の特徴 現在の社会状況について(1)で、現在人々の間の不平不満が放置され、一面的な情報の取り方等を合わせ考えると、我が国を含めて世界の至る所でポピュリストがつけ込む余地が発生している、と記した。 また彼らを無視することは最悪の選択肢だとも指摘した。ポピュリズム・ポピュリストに関わる様々な話題を取り上げ、目を通しておくことも大切との思いを持っている。 今回は、トランプ氏とトゥンベリ氏とが語る物語の特徴を比較研究した報告をもとにして、ポピュリズムが用いるレトリック(特にトランプ氏に絞って)の特徴を探ってみたい。 取り上げた情報は、次になります。 [表題] 物語を語る行為としてのポピュリズム:トランプ氏及びトゥンべリ氏という二人のポピュリスト的真実の語り部の語る気候変動の言説・物語を比較分析して (原題:Populism as an act of storytelling: analyzing the climate change narratives of Donald Trump and Greta Thunberg as populist truth-tellers) 以下、要点のみの紹介なります。 ポピュリストが使うレトリックの特徴として、次の2点が挙げられている。 1)『ヒーローたる主人公』対『悪人たる敵対者』の存在を明確に設定する。 2)『ヒーローたる主人公』が語る話に同調を求める『話の筋立て』の独特さ。 次いで、要旨部分を示します。 『ポピュリズム』は、『物語を語る語り方』だと提案したい。 ここでいう語り方には、カリスマ性を持つ『真実を語る者』の存在とポピュリスト特有の 『物語の枠組』を明示することが特徴として存在する。 『ポピュリストが語る物語』というものは、『設定する課題に意味を与える装置』であり、その装置においては、単に合理性・形式性(即ち理性)だけでは、人々は意志決定・解決を導き出すことが出来ないとし、課題解決のためには人々は『論争・不確実さ・複雑性』が存在する領域(感性)へと踏み込むことが必要だ、ということを納得させる装置だ、とする。 『ポピュリスト的に真実を語る者』は、気候変動の様な複雑な課題の解釈・解決を行う際に、『人々』対『エリート層』という対立構造の中で課題を競い合わせようとする。 本研究の目的は、ドナルド・トランプ氏とグレタ・トゥンべリ氏の両名を取り上げ比較検討することで、『ポピュリズムの考え方・思想』が『物語の語り方』とイコールだ、とする一つの理論を提示することである。 両者の気候変動に対する物語には多いに相違があるものの、両者の採用する手続きには共通点があり、即ち両者ともに『真実を語るヒーロー』の存在と特徴に依拠し、そして『同じ様なポピュリスト特有の物語の枠組』の適用を行っているのである。 特別な興味や政治的課題をもとに気候変動問題に意味を与えていく論争の際、『感情』とか『衝突』といったものが論争に果たす役割を理解していく上で、本報告で得た知見が役立つと考える。(要旨部分終了) 研究者らは、トランプ氏とトゥンベリ氏の以前の演説・講演をもとにして二人の物語の語り口の特徴を次のように纏めている。即ち、 1. 彼らの語る物語の枠組の前提情景として、『主人公』と『敵対者』という対立関係の存在が設定される。その対立関係の例としては、『人々』対『エリート』、『個人』対『組織・機関』、『ローカル』対『グローバル』、『若者』対『高齢成人層』等があるとし、真実を語る『語り部(ここではトランプ氏とトゥンベリ氏)』の存在を設定し、『語り部』は腐敗し、尊敬に値しない・信用できない『敵対者』を暴きだすという筋立てで物語を始めるのである。 2. 前提情景に続く物語の第1場面として、『主人公』は自身が描く目標と現在の状況との対比を行い、今現在の状況が如何に危機的か、ということを意識付けする。そして更に『真実の語り部』は敵対者の『裏切り』を暴き、この『裏切り』に対処できなければ危機的状況が実体化してしまうと語るのである。 3. 物語の第一場面に続く第2場面として、『語り部』は危機の解決策は『単純なもの』だと指摘し、黒白を付けるがごとく『簡単に解決できる』とし、『真実を語る者』はその『解決の鍵』を示すことが出来る、と語るのである。 4. 物語の最終場面として、『主人公』は『主権を回復し、敵対者の裏切りに挑戦する』と指摘する。即ち、『真実を語る者』は主人公が描く道筋を通して、そして敵対者に挑戦することでもってのみ主人公の描くユートピアの未来が実現できると語るのである。 研究者らが纏めた詳細な語り口の実態をトランプ氏に絞った形で次に示す。 (トランプ氏の語り口の実態詳細例) 1. トランプ氏の語る物語の枠組の前提情景 フェアでない方法を用い中国は米国の競争力を弱めている 。 メディアは偽って気候変動を過大に報道している、故に米国企業は気候緩和策を必要以上に求められることになる。 国連の米国を見る目にはバイアスが掛かっている。 国内のリベラル派と活動家、そして競合する各国は、声を合わせ気候変動と環境保護の課題を殊更取り上げる。従ってアメリカの経済には足枷が課せられ、競争相手に有利な状況が生まれている。 2. トランプ氏の語る物語の第1場面 過去がどうであったかを思い出すべきだ。過去にアメリカは偉大な国であった。アメリカは環境の保護や気候変動に悩まされることなく化石燃料を利用し活用できていた。 3. トランプ氏の語る物語の第2場面 経済と職の安定のため、米国はパリ合意から離脱する必要がある。 国連のアメリカに対するバイアスを取り除く必要がある。 4. トランプ氏の語る物語の最終場面 煩雑で合理性のない全ての規制はアメリカ経済にとって負担であり、除去すべきだ。 環境規制を巻き戻す行動をとる一方、有害な国際合意から引き上げることがアメリカにとって中心的な課題だ。 トランプ氏を例に、ポピュリストが用いる語り口のレトリックの詳細を紹介したが、ポピュリズムの特徴の一つに指摘される物語の単純化が見て取れる。 そして解決のための道筋を、極めて短絡化・単純化した形で提示している。そこには論理 の積み重ねはほとんど見られない。これが、ポピュリストが行いがちなレトリックの特徴 なのだろう。 そしてもう一つポピュリズムの特徴として挙げられるものに、『真実を語る主人公』の行状 が、時に得てして『悪ぶる』ケースが多いということがある。 スケープゴートを仕立てあげ、そのスケープゴートを道具に煽情的に聞き手の感性に訴え るやり方には、『悪ぶる主人公』が支持拡大に合致するのかもしれない。 演説時に、反対するヤジに対し指を差し、激昂する姿はよく見かけるものだ。 単純化した筋立て、『正義の主人公』対『邪魔する悪者』という構図、解決策は極めて簡単 とする構図が聞き手を引きつけ、更に『悪ぶる主人公』という困ったキャラさえもが反発 を受けるでなく、逆に受け入れられてしまう状況を見るにつけ、人々に不平・不満が蓄積 され、行き場のない憤りが高まり、人々には脆弱さが高進して来ているのであろう。 ポピュリストが何らかのスケープゴートを提示し、道具として投げ込めば、選挙の結果さえもが大きく振れてしまう現在の世界の諸所の社会状況なのだろう。 気象には『気候のムチ打ち症』があり、そこでは、豪雨と高温で一気に野山に草・木が大繁茂し、その後の長期の日照りで山谷・草木は干上がりきってしまい、故に山火事に脆弱さが強まる現今の状況が山谷に存在している。 一方、人々の間で不平・不満が放置され拡大している現在、人々には行き場のない憤りが諸所で高まり、人々にも脆弱さが高進しているのではないか。 故にポピュリストらが何らかの生け贄を投じるが如き言説を行えば、選挙さえもが大きく振れてしまう状況が現在、世界の諸所で発生しているのではないか。 かかる世界の政治状況を眺めると、世の中にも『社会のムチ打ち症』とも言える症状が明らかに存在していると考えたくなる。 今後続けて、この『社会のムチ打ち症』の症状例を見ていくこと、ポピュリズムの原因・要因を世界はどう見ているのか、ポピュリズムをあるレベル以下(極右勢力の投票率は20年程前までは高々1−2%だったのが、今や10%を超し、時に15、6%に達する時がある)に抑え込む上で役立つ治療法があるとすれば、それはどのようなものかを見ていきたい所です。
0081
現在の社会状況について(3) ヘルト・ウィルダースという先行者の動向
yo-chan
08/23 14:39
現在の社会状況について(3)ヘルト・ウィルダースという先行者の動向 オランダのトランプとも称されているヘルト・ウィルダースに関する情報を紹介する。 ポピュリズムの動向と消長・今後の推移を考える上で、様々な視点からの様々な情報を押さえておくことが必要と考える。ポピュリズムの一つの特徴として、その思想の中心がボンヤリしていて捉えどころがない、ということが言われている。様々な視点からの様々な情報が大切だ、と考える由縁です。 先行する主だった面々の考え方やその思想の支持される状況を見ておくことも大切な視点と思い、今回ウィルダース氏を取り上げてみます。 1. 自由党(PVV)結党まで(wikipedia情報から) 1963年オランダ、フェンローで生まれたウィルダース氏は、ローマカトリック教徒として育つ。成人になり、同教会を離れた氏は青年期をイスラエル・アラブ諸国遍歴で過ごしたという。 次いで保守・リベラルの自由民主人民党(VVD)のスピーチライターとして働き、その後1990年〜1998年までVVD党首フリッツ・ボルケシュタインの議会補佐官を務めた。 1997年にユトレヒト市議会議員に当選、翌1998年に衆議院議員に当選。 トルコのEU加盟に関する党内の和解不能な意見の相違を理由に2004年にVVDを離党し、自身の政党PVVを結成(正式な結党年は2006年の総選挙時点)。 2.2006年結党時:総選挙で9議席を獲得し、新興勢力の立場を確保 3.2010年〜2017年:2010年総選挙で24議席を獲得し、第3位の政党となる。第一次ルッテ内閣に対し信任と協力の姿勢を取る。しかし予算削減をめぐる意見の相違から2012年4月内閣支持を撤回する。そして迎えた2012年総選挙では9議席を失うこととなり、政権から離れ野党の立場となる。 2017年の総選挙で、PVVは20議席まで回復。 4.2023年総選挙以降、現在まで 4−1.2023年総選挙時点 [出典情報:オランダ選挙、反イスラムを掲げるヘルト・ウィルダース氏率いるPVVが劇的な勝利(原題:Dutch election: Anti-Islam populist Geert Wilders wins dramatic victory, BBC News, 2023年11月22日)] PVVは、得票率23%を得て、37議席を獲得。ライバルの左派連合を大きく引き離して第1位の政党となる。ウィルダース氏は政権を担当する意思があるとし、その為に他党との協議で妥協する用意があるとした。 今回の選挙での他党の結果は、第2位が左派連合[元EU委員のティメルマンスが率いる;労働党(PvdA)と緑の党(GL)とが選挙協力で結成した連合体で、左派連合またはGL/PvdAと称する]25議席、第3位が中道右派リベラル(VVD)、第4位が新社会契約党(オムツィート氏結党の新党、NSC)以下農民市民運動党(BBB)が続く。 選挙前、PVVに対する他の政党の考え方は一様にPVVに批判的で、PVV主体の政権の可能性が出たとしても、距離を置くとしていた。しかし今回の選挙結果が判明した後、他の政党に選挙前の考え方と異なる意見も出始めており、今後の連立政権の動向に目を離せないとしている。 4−2.2023年総選挙の別の情報 (ヘルト・ウィルダース氏:どんな人物か何を望むのか?BBC News, 2023年11月23日 原題Geert Wilders:Who is he and what does he want?,) PVVの勝利理由を興味深く伝えており、重複のきらいはあるが、紹介する。 ヘルト・ウィルダース氏は『極右』と呼ばれることが好きではなく、氏は『普通の人々』のために声高にしゃべっていると主張する。だが、扇動的で発火の恐れのある、そして論争の的になることが明白な政策のいくつかを彼は棚に上げたこと、更に氏特有の強硬論的言説・発言を控えたことで、ウィルダース氏は初めてPVVの支持を広げることに成功し、選挙で勝利を得ることが出来た、とするのが事実だ。 25年前、氏がオランダ政界に登場した時、モーツアルトのニックネームとなったブロンドヘアは、今ではグレーに変わっているが、氏の論争力は今やピークを迎え、選挙戦でほぼ毎夜行われたテレビ討論会でウィルダース氏は弁舌巧みに難民移民に関するスローガンを簡潔な形でペラペラと語り、論争相手の上手を行っていた。、 例えば、『オランダはもう我慢できない。私たちは今や自国民を先ず優先する(our own people first)必要がある。国境は閉鎖。避難を求める申請者はゼロに』とウィルダース氏 は主張した。 そして、もし氏は極右か?と聞かれたら、氏は否定するだろう。そして『オランダは議論 を重ね合意点を積み上げていく国だ。オランダには極右の人はそれほど多いとは思わない し、今後も増えていくことはないだろう』、『伝統ある先住の人々は大挙して居住する移民 者らによって存在を無視されている。先住の人々は不当に扱われていると感じながら生活 しているのだ』とウィルダースしはBBCに語っている。 選挙で主流派の投票層から更なる支持を受けられるように、ウィルダース氏は党のマニフ ェストに記載のコーランの禁止やイスラム教学校・モスクの禁止といった計画は凍結する と宣言し、PVVの主張のソフト化を図っていた。その結果の今回のPVVの躍進(議席数が 以前の17から倍増以上の37へと拡大した)であった。 しかしこの結果はオランダ国内在住のイスラム共同体に大きな不安を与えた。なぜなら、 ウィルダース氏率いるPVVのマニフェストには公共の建物内でのイスラム教徒のスカーフ 着用禁止が依然記載されているからだ。 また、2014年の集会でウィルダース氏は『モロッコ人を減らせ』等のシュピユレヒコール の唱和を主導したとの罪で、モロッコ住民を侮辱したかどで有罪判決を受けていた(扇動 罪の罪では無罪であった)。また2017年の選挙期間中オランダ系モロッコ人の一部を『ク ズ』と呼ぶようなこともあった。 またウィルダース氏はPVV選挙勝利の祝いの際に、2016年のトランプ大統領勝利を称賛 し、『アメリカ国民は祖国を取り戻した』と称えた上で、『オランダを再び第一の国にする(put the Dutch back as number one)』と勝利宣言している。 5.2023年総選挙以降2024年7月までの動向 [参考『選挙と新内閣』原題(Elections and the new cabinet)Tweede Kamer,2024 July 2] 2023年選挙結果の詳細:投票率77.7%。選挙で競った政党数は26で、議席を獲得できた政党数は15。PVV,37議席。GroenLink-PvdA,25議席。VVD,24議席。NSC,20議席。D66,9議席。BBB,7議席。CDA,5議席。SP,5議席。FvD,3議席。PvdD,3議席。CU,3議席。SGP,3議席。DENK,3議席。Volt,2議席。JA21,1議席。 新たな衆議院体制が選挙後2日目に組閣プロセスを開始、先ず前大統領ベラ・ベルグキャンプ指名の一人の『スカウト』が、新たに選出された各政党の代表者との間で様々な新内閣の形態についての可能性を協議することを始める。12月11日『スカウト』が協議により得た知見に関する報告書を提示し、その報告書を衆議院が検討協議し、一人の『インフォルマテュールinformateur(詳細な政治情勢の上で、各政党と連立政権形成の準備があるかどうかを調査する役目を負う)』を指名。インフォルマテュールの役目は連立政権確立のために各党間の調整を促進すること。連立政権に意欲を示した政党は4党(PVV,VVD, NSCとBBB)となる。 その後各党間の調整過程を経て、4党が2024年5月16日に連立の大枠で合意し、5月22日に予定される新首相にディック・シューフ氏が指名され、シューフ氏は連立政権を形成する4党のリーダ―らから選ばれた一人の組閣担当者(フォルマテユールformateur)と共に他の内閣メンバーの選出。7月2日のシューフ氏の首相就任式を経て新内閣の発足となる。 6.2024年7月2日新内閣発足から11カ月経過した2025年6月に内閣崩壊。 その間の状況を伝える記事として次の情報を取り上げる (論説:オランダ政府の崩壊−崩壊に予想を上回る時間を要した(OP-ED: The fall of the Dutch government-that took longer than expected, ecre, 2025年6月19日) 6月3日、政府が崩壊。PVV党首ウィルダース氏は難民政策をめぐる対立を理由に、連立から離脱。ディック・シューフ首相率いる内閣は僅か11ヶ月で事実上崩壊した。しかしオランダ国民の多くはこれほど長く新政権が続くとは思っていなかった節がある。 シューフ政権はある意味、政治上の実験と見られていたのである。 即ち党首[ウィルダース氏]以外に正式な党員資格を持つものがいない、という内部の民主主義体制を欠き、そして長く政界を牛耳ってきた『政治エリート』らは冷淡で、無責任で、そして何ら根本的解決策を怠ってきたとの扇動的な言辞を、唯一党員資格を持つ党首自身が繰り返し批判を展開してきた政党が、中核をなす政権はそもそも機能を果たすことが出来るのだろうか?との疑念を持たれていたのである。 即ち11カ月前に船出した新政権は、そもそも不安定な基盤に乗っていると見られていたのである。 今回、崩壊の原因となった難民問題に対する連立政権内部の考え方には出発時点で相違が存在していた。 PVVは国境で移民難民を押し返すために軍の活用や全ての難民申請者の申請を拒否すること、また在住する6万人に及ぶシリア難民を国外追放すること、等の極めて強硬な難民忌避政策を掲げる党であるが、今回の連立政権構築に際し、『かつてない最も強力な移民政策を行うが、但し採用する政策はEU関連法ならびに国際法の範囲内で設定する』という柔軟な移民政策を採用することを連立予定の他の3党との間で合意し、連立政権をスタートさせた経緯がある。即ちPVV以外の3党は、移民政策の重要性はわきまえるもののその処方箋はEU法規と国際法規内で行うという考えがある点が、PVVとは大きく相違していることを内包した上で政権が船出していたのである。 そして新政権出発後、有権者やメディアの関心対象に変化が起こってきていた。 即ち、ウクライナ戦争の推移やガザでの大量虐殺の継続といった身近な懸念材料が有権者やメディアの間で高まり、PVVの存在価値に陰りがでてきており、最近の世論調査等でPVVの支持率は低下傾向にあることが判明して来ていたのである。 ウィルダース氏はこのままの状況の継続は党の埋没になるとの危機感を持ち、再度移民難民政策がオランダの抱える最も重要な中心課題だということを狙って、5月26日に10項目からなる移民政策を作成し、連立相手に提示したのである。 だが連立相手は同意する見込みはなく、6月3日の連立からの離脱となったのである。 かかる状況で、次の総選挙は10月29日が設定されている。 オランダのトランプと呼ばれるウィルダース氏に先ず興味を持ち、欧州で広がる極右勢力の政界への浸透の好例と考え、調査したところ当初の思い以上のオランダの政治状況が緊迫している状況だということがわかり、しかもこれからの2カ月程が更に欧州の極右が勢力を伸ばすのか、現状維持当たりで推移するのか、世論調査で浮かび上がる衰退の方向に向かうのか、の観点で、しばらくはオランダの政治状況から目が離せられない。 2007年、2008年から始まった世界的規模の金融危機そして2019年から始まるコロナパンデミック等、及び新自由主義経済の変調を含めての様々な生活基盤を揺るがす数々の危機があり、そして追い打ちをかける形の2015年の移民難民危機の突発により、民族意識が高まる背景のもと人々の危機意識の高まりを利用し、ウィルダース氏は有権者層への支持拡大を訴える一つのやり方として、政権を担ってきた主流派政党ならび官僚エリート層そしてメディア含めての知識エリート層からなる構造と、持って行き場のない心の底から湧き出る怒りと憤りを高める『普通の人々』の存在との対比を鮮明に浮かび上がらせる構図を提示するという戦略を、ウィルダース氏は取り、前回は成功したと言える。 オランダ世論は今や、ウィルダース氏の狙う構図から離れていく流れを見せ始めている状況もあり、再度『普通の人々』を引き戻すという氏の狙い、氏の『悪ぶる』腕力がこれからの2カ月間どのように発揮されていくのか、それともウィルダース氏抜きの旧連立内閣を構成した3党の移民難民対策・政策でも『普通の人々』は満足する状況が生れるのかが、ウィルダース氏の今後そして欧州の、ひいては日本の政治状況の流れに大きく影響を与えることになるのではないかと思う。
0082
現今のクマ騒動を考える
yo-chan
08/29 11:28
現今のクマ騒動を考える 結論から言うと、クマ騒動の根本原因はやはり地球温暖化の急激な進行とその放置。 その結果、クマたちにとっては迷惑な生息域の生態系の悪化が進行。 更にクマたちの暮らす生息域を縮小・分断する開発と称する人間の行動も追い打ちをかけ、クマ騒動を拡大している。 こんな構図の認識が大切と思う。 温暖化の進行、しかも加速度化している温暖化が、クマたちを安住の地域から追いたて、冬眠に向けての採餌行動という彼ら本来の生活リズムを混乱させているのである。 その結果として様々な困った状況を現在私たちは目撃しているという構図を先ずは基本に置きたい。 そして、ではどうしたら良いか考えていく必要があると思っている。 効果発現に時間はかかるものの、最良・最大の策はやはり温室効果ガスの排出抑制。 排出抑制・停止に貢献出来る事柄は、総力を挙げて推進する覚悟が求められる。 そして、合わせて短期的、中期的に効果の期待できる方策に取り組むことも求められる。 現在、クマたちは非常に危険な状況に追い詰められているとの認識を持つべきである。 クマに襲われる人間、クマに農畜産物を食い荒らされた、という構図のみに耳目を集めることは、このクマ騒動の根本的な解決に向けての辿るべき道を間違えてしまうだろう。 目指す道は、クマたちの窮状の救済、無駄な死を迎えることのないような道にも通じるものであって欲しい。 クマたちは、温暖化という打撃を現在受けており、ストレスを貯めている。 かかる構図に光を当てている、情報を紹介してみたい。 冬眠機会の変化に着目した情報がある。 表題:冬も寝ない:如何に気候変動がクロクマの冬眠を妨げているか(2025年1月24日) (原題:Awake in Winter: How Climate Change is Disrupting Black Bear Hibernation) ひんやりした冬の朝、見るとクロクマがゴミ箱をひっくり返している。雪が積もる冬にクマは巣穴で冬眠中との思い込みがあるが、最近は違ってきている。 北米のクマは、最近冬眠期間を短くしており、全く冬眠しない例もある。 何が起こっているのだろうか? 暖冬傾向が原因し、自然界の生命の様々な有りようが大きく変わってきている。 クロクマの行動様式の変化も当然それに含まれる。 クマの冬眠は生き残るための重要な戦略。そして冬眠とはいっても、コウモリやリスの様な体温を極度に落とす本格的なものではなく、冬眠中もクマの体温は少し落とす程度〈8〜10℃程度下げる〉、巣穴の中では極力代謝を緩やかにし、呼吸と脈拍(分当たり約8回に低下)を落としている。 この冬季の巣ごもりの為、クマたちは8月から9月にかけて過食期に入り、日に2万カロリー分の食事に励むとされる。そして巣穴の中でも日に4000カロリー程度は消費しながら、じっと春のくるのを待つのである(北米のクマの冬眠期間は場所にもよるが9月から翌4月)。 そして近年の地球温暖化の影響で、クマを始めとして生態系の微妙であり、精巧なバランスに狂いが生じ始めているのである。研究によると外気温が1℃上がると平均で6日間クマが巣穴に入るのが遅くなるとされている。この気候変動の傾向が修正されず更に進めば、2050年頃には、15日から39日巣ごもりの開始が遅くなると見込まれる。 巣ごもりが遅くなることで、どんな影響がクマたちに起こるだろうか? エサ不足に直面するのである。巣ごもり時期にはナッツもベリーもなく、春の収穫もまだ先。エサがなければ蓄えた脂肪分が頼りだが、活発に動けば動くだけ直に使い果たし、栄養失調・飢餓状況が待っていることになる。 即ち、気候温暖化でクマは冬眠に入る時期が遅くなり、そして通常より早めに冬眠から覚め巣穴から出ることで冬眠期間が短くなっているのである。そして冬眠状態と異なりエネルギーを多量に必要とする活動期がその分長くなる一方、その冬眠期間と早めの冬眠開け時分にはエサが周囲にないのである。そんな状況にクマたちは追いやられているのである。 この記事には、クマと人との遭遇を避ける上で当然やるべき直ちに取り組める事柄も挙げている。先ずは第一に取り組むべき項目であり紹介すると、 【ゴミ箱の管理:収集日まで屋内に置くこと、そして頑丈なゴミ容器にする】 【鳥用のエサ台はクマを引きつけることになるので、片づける】 【車の中に、食べ残しや空袋、ガム等の匂いを発するものを置かない、鍵をかけておく】 【キャンプの際、食べもの・洗面具・香水等は丈夫な容器に入れ、テント内には置かない】【ハイキング時、クマよけスプレーとクマよけベルを用意携行し存在を明らかにする】 【犬等のペットはリードで繋ぎ、クマを驚かせるような行動をしないよう注意する】 クマは本来、人に積極的に危害を加える性質ではなく、人を避ける行動をする動物ということが基本であるが、クマが空腹である状況であることも考慮せざるを得ない現在かもしれない。但し上に挙げた注意項目は、エサがないことをクマに判らせるための最低限の注意事項であり、クマを引きつけない方策を取って行くことが、現状の人々の先ず出来る行動指針であろう。エサをあげたり、びっくりさせるようなことが最も困った行動と言える。 (以上) 寝るに寝られない環境の変化にクマたちは直面し、クマたちは本能的に持っている人間への恐怖心さえ押し殺して、人里にエサを求めて行動範囲を拡大せざるを得ない状況にクマたちは追い詰められているという構図が了解できると思う。 クマたちは、地球温暖化の進行の責任を放擲している人間の犠牲者なのである。 次に取り上げる情報は、冬眠状況の変更を余儀なくされているクマたちに起こっている『半分寝た状態』のクマたちを扱ったものです。 表題:冬眠するには余りの暑さで冬眠出来ずに『半分寝ている』クマたちがシベリアで徘徊している。 LIVESCIENCE、2023年12月6日 原題:Half-asleep bears are wandering around Siberia because it’s too hot to hibernate 冬眠を控え、充分に脂肪分を貯えたクマたちが、11月にしては温かい気温が続き冬眠に入れない状況が発生していると、当地の担当者が11月21日に伝えている。 担当者によると例年は10月の末までには巣ごもりを始める筈が、11月下旬になってもクマたちは放心状態で巣穴の辺りをさまよい歩いている。但しさまよい歩いているのはオスで、メスは子どもと一緒にいつも通りに冬眠を始めている(母熊は寒さに弱い子どものことを本能的に心得て巣ごもりをいつも通りに始めるという)。 クマたちに冬眠に入ることを告げる合図である寒い気候の到来が遅くなり、冬の期間の短縮化がおこっている。 しかしこれらの状況とともに外気温が水の凍結温度以上にある場合、解けた水のせいで巣穴がびしょ濡れになることも起こり、冬眠を妨げる要因となっているという。 次の情報も同様な状況を伝えている。 表題:年間を通して不眠症:クロクマはなぜ冬眠を止めているのか。2023年7月12日 原題:Year-Long Insomnia: Why Black Bears Have Stopped Hibernating アメリカのクロクマの惨状は、まるで冗談話のようだ。クマが食料品店に押し入り、ポテトチップ袋を掴んだとか、ガソリンスタンドでチョコバーを盗んだとか、工場でバターを10kgドカ食いしたとかだ。 タホー(Tahoe)湖はカリフォルニアとネバダ両州の境にあるシエラネバダ山脈中の高山湖。 年間、数百万人がテントとキャンプ用品を、持ち込み5日間ほどキャンプを楽しむというのが核家族の定番で、人気のスポットとなっている。 このタホー湖がある盆地スポットが昔ながらの淡青色の湖のキャンプ地のイメージから今では米国を代表するクマたちと人間たちとの争いの場所へと変化している。 約5万ヘクタールの湖の周りには、モーテル・ミニゴルフコース・バーベキュー場やカジノ施設が取り囲み、それにより先住民であるクマたちには二つの選択肢が突き付けられた。『移動するか』『そこに住みつくか』だ。大半のクマたちは後者を選んだ。 アメリカクロクマは世界でもっとも個体数の多いクマ。過去1世紀にわたる国あげての全国的な再野生化活動により、生息域は過去の最大領域面積の約半分まで回復したという。 その結果、例えばニューヨーク州のヨンカーやマサチューセッツ州のボストン等でクロクマが巨大ゴミ箱をあさったり、家の裏に巣穴を作るケースが起こっている。 即ち、都会のクマ(アーバンベア)の出現である。 ネバダ州野生生物局の生物学者のカール・ラッキー氏が持ち主の留守中の家の床下をライトで照らすと明らかにクロクマが住み着いている形跡がわかるという。そんな家がタホー湖周辺のインクライン・ビレッジにはたくさんあり、夜になるとクマたちがエサを求めてうろつきゴミ箱を漁る、とラッキー氏は語る。 ラッキー氏は、ハスキー種とボーダーコリー種を掛け合わせたようなカレリアン・ベアドッグ種という犬2匹を同行して、今までに何百頭ものクマを追っ払っており、犬の活用が氏の仕事遂行に大いに役立っているという。 氏によると、タホー湖付近の町や都市にクロクマの侵出が目立し始めたのは1990年頃だとし、当初は何が原因しての状況の急変か、正確には理解できず、しかもその時期の本来のクマの生息地域の山谷のエサの状況は豊富だったことから、ラッキー氏と同僚らは観光客らが放置した異臭を放つゴミがクマたちを引き寄せたと、当時は結論付けたという。 そして、2000年代に入るころからタホー湖周辺のクマ被害は拡大し、対処を強める必要が生まれ、先に触れたカレリアン・ベアドッグ種の犬1頭をブリーダーから手始めに調達したという。 本来なら4月の声を聞くまで巣穴にこもっている筈のクマたちは、都市環境へと変化した生息地域のせいで今ではアーバンベア化し、従来の意味での冬眠は行わないようになっており、クマたちは昼寝用の寝床を見つけ居住し、昼寝を楽しみつつ週に1〜2回外に出てエサを見つけにさまよい歩く生活スタイルに変わってしまっているとラッキー氏は語る。 即ち、タホー湖周辺のクロクマは、冬眠スタイルを放擲し、年中『不眠症患者』様の症状で真夜中にゴミ箱と言わず冷蔵庫と言わずにひっくり返しまわる存在になっている。 2003年の調査で、タホー湖近くのカーソン山の奥地に生息するクマは12月初旬には冬眠に入り、通常通りの冬眠を行うのに対し、タホー湖都市部のクマは、1月まで、冬眠用の巣穴に入ることなく起きていること、調査した38頭の内5頭は、全く巣穴に入らなかったことが報告されている。 北米全土で、クマの体内時計がリセットされてしまったと言える状況の変化である。 研究者らは、都市型クマの出現は、クマにとって命を落とす最大の危機と隣り合わせの状況と捉えるべきと指摘している。 (以上) クマと人との遭遇の現在の状況を作っている背景の構図として、根本要因は気候危機・温暖化の進展であり、もう一つの要因は、開発と称する人の行動の拡大であり、いずれもが人間が原因となっている生態系の混乱であり、悪化である。 クマたちは人間が作る環境の変転に単に適応しようともがいている、そしてそのもがく行動の辿っている道は、クマたちにとって実は自殺行為に等しいものなのである。 クマたちの命を無駄に短くしない、彼らが本来の人を恐れて人里に近づくことなく彼らが暮らしていける生態系の回復に繋がる道を考えていくことが、最も大切な現今のクマ騒動の見方だと考える。 生態系の悪化を、人間にいち早く知らせる『炭鉱のカナリア』の役目をクマたちは現在果たしている、という見方がある。こういった視点を忘れないようにしたものだ。 最後に、短期的中期的に取るべき対策として、クマたちの保護地域計画と保護地域保全ネットワーク計画とを、現状に合わせて策定し直すことがあるとの情報もあったことを付けたしておく。
0083
山火事・台風等の頻度・強烈さの拡大とそれら災害に便乗する資本主義について
yo-chan
09/04 11:58
山火事・台風等の頻度・強烈さの拡大とそれら災害に便乗する資本主義について 地中海地域を襲っている山火事を題材にしたAl Jazeeraの記事を紹介する。 表題は、『地中海地域の山火事は単なる災害ではない(Alejandro Pedregal氏記す)』。 (原題:Mediterranean wildfires are no accident, Al Jazeera, 2025年8月27日) 今夏の災害は、『気候変動』、『大地の放棄』そして『災害便乗型資本主義(disaster capitalism)』といった事柄が複合的に作用することで生じる、森林の燃料化症状を提示している。 トルコからギリシャ、フランスからスペインにかけてのこの夏の山火事は、ある一つのことを暗示している。『何かが変わった』ということだ。 時に偶発的に起こる異常乾燥や極端な気象状況ではない。 いわゆる今の第6世代の山火事は、『現代の気候の論理と社会の論理』に刻み込まれている『世界の災害便乗型資本主義』によって激しさを増している。 これら山火事は、あるシステムに則って生じており、このシステムは『私たちの社会的経済学的指令・要請』により誘発・拡大される気候変動によって加速され、『私たちが採用する土地政策とそれに付随して起こる蓄積志向・利益志向そして成長志向』によって悪化させられていく。 多くの関連機関は、災害の防止や手当を優先する姿勢は取らず、代わりに防止策や消火活動への資金投入を大幅に削減しており、実態として最近の13年間でこれらの予算は半減させられている。 また、田園地域に対する冷淡な姿勢は慢性化している。 そして、企業や金融機関の影響下の土地利用モデルは、目先のツーリズムビジネスを選択し、長期的視野での土地活用に目を向けることがない。 即ち、全てのものの商品化が第一に優先され(commodifying everything FIRST)、災害の防止と手当は二の次となり、収益性を優先する資本が持つ先天性膨張願望により、周囲の環境は変化させられていく。 地域共同体と周囲の環境との連携性は壊れ、従来の農業方式は弱体化される一方で、『資源収奪型のアグロビジネスモデル』が優先され、広大な土地に『単一種栽培農業』、『郊外に向かう都市部の無秩序な拡張』や『荒廃した土地空間』が発生している。 かかる状況を考えると、山火事を最早、単なる災害と見ることは妥当ではない。 そして山火事という災害を通して生じる影響を考えると、私たちの社会の根元にある経済的・生態学的両面における『不公平・不公正な交流関係』がそこに存在していることが映し出される。 労働者、田園地域住人、移住者や消滅危機地域からの人々が、山火事の炎に曝される危険性を受ける人々なのである。 階級、人種、性別、地政学的場所といった現在のシステムの亀裂にそって、今の危機は拡大化していく。見捨てられる人々が、繰り返し同じ目に会う傾向がある。 多くの地中海地域で山火事は、素早さを増し、何処で起こるかの予測は困難さを増し、そして制御しづらくなって来ている。 『気候に新たな常態(ニューノーマル)』が定着してしまった。 森林には、順応・適応する余力は既になく、バイオマス燃料と化した森、人の手が入らない放棄地の拡大とともに進む単一種栽培農業地域の拡大、そして行政機関は今の状況に圧倒されている。森にはそこかしこに時限爆弾がカチカチと時を刻んでいるのである。 一方、世論の動向は間違った方向にそれている。 数週間前、カタロニア州首相サルバドール・イジャ氏は『森が多すぎる』とコメントした。 地中海という海は正に沸騰状況、山火事や干ばつや洪水が頻発する地中海地域で、『森はどうでも良い』という選択肢はない。荒廃した森林とはいえ森の生態系への貢献は大きい。 進むべき道は、私たちと森林との間に順応性のある関係を再度作りあげること(即ち森林管理の再構築)であり、そこでは森林の構造の見直し、生物多様性の保全と促進、土壌劣化を防ぎ森に蓄積されるバイオマスを削減すること、そして重要度合いの高い地域共同体と周辺領域との間の連携性の回復を追求することである。 このことは都市部と地域共同体との関係性に再度バランスをとることを意味する(従来、都市部が見る地域共同体は、資源を供出させる場所、都市の廃棄物を処分する場所程度)。 求められるのは、短期的視野を乗り越えた政策、即ち、生態学的・社会学的に見て合理性のある計画であり、その実践であり、それらへの投資である。 現行システムに沿っての『燃焼』が継続する現在、しかし、抵抗する動きは高まっている。 アグロエコロジーに適った農耕を実践する共同体の存在、新自由主義的・植民地主義的土地収奪に逆らい地域を守る人々がアマゾンからパレスチナに至る各地で発生していること、生活し生存していく上で『別の道』があることを主張し、気候正義運動(Climate Justice Movement)に光をあてる人々の存在である。 これらの人々は、人種差別や極端な不公正さ・不平等性に立ち向かっており、緩和や適応・順応に留まることなく私たちが生活し生存する領域の中心に『生命』を再び置くこと、そして包括的全体的な開放にコミットする政策を要求している。 蓄積・搾取そして土地の強奪が社会に蔓延する状況が続く限り、山火事はより迅速に燃え広がり、その脅威は更に増していく。私たちの中心に『生命』を置くシステムへと、システムを再度見直し改革していくことが求められている。 以上。 『災害便乗型資本主義(disaster capitalism)』という言葉が上記情報に使われている。 この言葉が持っている力の範囲を、目一杯・大胆に拡げて見ると、今の世の中の企業が中心となって進むSDGsの芳しくない面が、結構あぶり出されるような気がしている。 次にその辺りまでを意識した情報の紹介をしてみたい。 先ずは、災害便乗型資本主義(disaster capitalism)とは何か? Teen VOGUEに簡単な説明があり、要点のみを紹介する。 表題:災害便乗型資本主義とは何か?何らかの災害・天災が勃発、便乗する形で略奪が次いで起こり、結果として民間事業が推進されるというサイクルが繰り返される 原題:What is Disaster Capitalism? A Cycle of Crisis, Exploitation, and Privatization Jacqui Germain氏記す、TeenVOGUE、2021年9月2日 2004年12月26日、朝7時58分頃インドネシア西部、スマトラ島北西沖でマグニチュード9.1〜9.3の地震が発生。30mに達する津波により、被災者約206万人、死者及び行方不明者約23万人という大災害が起こった。 この事態の推移を注視していたブリティッシュコロンビア大のナオミ・クライン教授は、地震の余波の中、地域の農民や住民らが、津波が去った後のがれき片付けに注力する一方で、ディベロッパーたちがリゾート開発や別の思惑の事業目的で土地を強奪している様子を確認していた。 クライン氏は、当初想定していた『災害便乗型資本主義』が、戦争や対テロの範疇であり軍需産業の拡大に絡む事柄を研究対象にしていたが、津波という災害とその後の状況を観察して以降、自然災害後の後始末に発生する範疇をも対象とするようになった、という。 そして翌2005年にはカトリーナと呼ばれるハリケーン事案が起こり、戦時下イラクで活動した同じ土建業者らが、今度はニュー・オリーンズに現れ、自由に使える政府予算を当てにした活動を始めているのである。 クライン氏によれば、『災害便乗型資本主義とは戦争・政権交代・自然災害といった大規模な不安定状況に合わせて民間の事業者が該当地域に集まり、後に始まる復興活動にビジネスチャンスを見いだし、目指すもの』としている。 グスタフス・アドルフス大のホアキン・ビジャヌエバ准教授は、この災害便乗型資本主義の枠組みを更に広げ、そもそもなぜ特定の国がこの種の民間による収奪に弱いのかを理解するにはそれぞれの国の歴史にさかのぼることも必要とし、2010年・2021年の2回のハイチ地震、そして2017年のプエルト・リコを襲ったハリケーン・マリアの事例における影響をあげている。 『ハイチは早くから国家の主権を回復した国ではあるが、しかし生き残るためにはアメリカやその他の帝国主義勢力に頼ることもあったため、自然災害に対しかなり脆弱さを持つ国』といえると、ビジャヌエバ氏は語る。 『但しこの脆弱性は、ハイチ人たちの文化的特質や知識不足が原因ではなく、むしろ植民地主義や帝国主義時代の複雑な歴史的な要因に背景がある』としている。 ハリケーン・マリアに襲われたプエルト・リコのケースでは、プエルト・リコの経済が従来から米国資本に依存する体質であったこと、更に具合が悪いことにハリケーンが襲った時が丁度大規模な負債の危機でもあったという事情がある。正に復興にはアメリカ資本がなければならない状況下だったといえる。 災害便乗型資本主義の実態と背景をみる上で、次の対比を確認しておくことが大切である。 巨大地震とその後の津波、大洪水や巨大台風に見舞われた場合、当該地域に住む住民たちは被害状況の確認・可能な限りの有価物の回収・個人的損失分への対応策・今を乗り越えるための算段を付ける作業等々やることが多くそれらに忙殺されることになる。 一方で、これらの突発的災害や事態を想定して、多方面から対処する方策を時間をかけて練っている人々も多くおり、彼らはシンクタンクや各種機関に所属している。 この二つからなる構造があり、一方はトラウマをも懸念される状況下で自身のそして所属する地域共同体の復興に力を注ぎ、もう一方は普段からかかる事態を想定して事前に考えうるビジネスチャンスをかかる悲惨な状況下であるからこそ掴んでいこうとする人々の存在である。前者の人々にとっては気が回らない状況下、復興以降の自分たちの生活に大きく影響する事態が、同時期に着々と進行していることは思いもよらないことである。 かかる事態の推移を明確に示す典型的な事例を2つ紹介する。 1つ目はカトリーナ被災後、ニュー・オリーンズにおける学校制度がそれを契機に改編された例がある。 この説明には、アメリカの公教育の民営化を志向する動向の最近の推移を確認していくことが必要で要点を示すと、次のようになる。 アメリカでは、教育の質向上、親の選択肢の増大、効率化理念のもと公立学校の運営を民間企業や非営利団体に委託する動きが拡大していた。即ち親たちの公教育に対する不満・競争原理の導入により効率化し質を向上させることへの期待・財政的制約や子どもの教育の自由の選択の拡大を求めるニーズの高まりがあったとしている。 その期待に答える形で、1990年代以降、チャーター・スクール制度の拡大や教育バウチャーの導入が進み、2000年代以降、学校の運営権を民間企業に委ねる学校の増加やテクノロジーを活用した民間の教育サービスが普及しているという。 これらの背景のもと、そしてカテリーナによる被災状況が長期化し、教育環境の立て直しに時間がかかる事態の中、ニュー・オリーンズでも災害復旧の一環として公立学校の民営化が急速に進められた。多くの学校が閉鎖された後、チャーター・スクール(親や教員・地域団体などが認可を受けて公費で運営する従来と異なる学校形態)を中心にしたモデルが導入され、学校選択の自由が高まるという効果はあったが、一方で組合に参加の教員が大量に解雇されること、学区の再構築や教職員の配置、質の確保等の課題が取りざたされる状況を生む結果となっている。 2つ目の例は、2013年フィリピンのシコゴン島(island of Sicogon)を大型台風・ハイヤンが襲い、6000人の島民が家を失った事例である。 この事例は、災害便乗型資本主義の考え方ややり方が典型的に現れていることから、時系列的に以下に示してみる。この情報はAljazeera、2018年8月16日付け、『Typhoons and Tycoons: Disaster capitalism in the Philippines』をもとにしております。 1. 台風後、フィリピン政府はアヤラ社を含む20の企業に復興活動計画作りの協力を要請。各企業は希望する島を選択し計画することになり、アラヤ社はシコゴン島を選択 2. アラヤ社は、島の70%を所有するリゾート会社SIDECOと連携関係を台風襲来前から結んでいた。 3. 台風来襲前、政府はシコゴン島の200以上の島民の為に土地を分配する計画を持っており、SIDECOに対し大部分の土地の放棄を求める検討を行っており、これらの事情からSIDECOと住民との間に法廷闘争が起こっていた。 4. 古くから事業を行う裕福な企業グループに所属のアヤラ社は、数百万ドル規模の事業をこの島に展開することを狙っていた。 5. 台風により、ガレキと化したシコゴンの島民に、アラヤとSDECOは生存者に3000ドルを給付し、別の島への移住を条件に、家並びに更に100ドルの支払いを提案した。 6. 地元の研究員のグスマン氏によると、アヤラ社は政府の復興パートナー企業の立場を悪用し、様々な嫌がらせを行っているという。例えば食料の提供は制約し、飢えの状況を作り出し、台風被災数カ月後には船主や近隣の村長に覚書を送り、島内での建設資材の使用を禁止することを行っている。 7. 翌2014年のシコゴン島では、企業、住民、そして政府代表の間で妥協案の署名が行われた。内容は、住民はシコゴン島の全ての観光事業を承認する。企業は住民に移住地・農地そして職業訓練を提供する。 8. しかし、契約締結から4年たち(2018年)、空港滑走路とホテル2軒が建設中だが、島民らは何も受け取っていないという。 以上、欧州の山火事は、単なる自然災害ではない、という話題を紹介することで出発したが、山火事の頻発と火勢の甚大化という状況を作りだしているのが、『気候変動』であり、それと共に人が行う諸経済活動が、その中心に『利益追求・収益性拡大』を置くという状況に変化がないことが、山火事を制御不能にしている根本原因だとし、森林と地域共同体との間の連携を再度作りだす努力が必要だと結論付けている。 そして山火事や台風等の災害が起こるとそれに便乗する『災害便乗型資本主義』という問題が紹介されたていたことから、『災害便乗型資本主義』についても紹介しました。 焦点がボヤケるきらいはあるもの、最後についでに、前から気になっていた現在の企業が主導する形態のSDGsが持つ問題点についてさらに調べてみました。 行ったことは、『災害便乗型資本主義というレンズ』を通して見たら、企業主導の今のSDGsはどのように見えるか? という質問をAIに問うことです。AIはかかる付き合い方で利用すると重宝な情報を提供してくれます。但し、AIがどの程度の情報をバックグランドにして答えているか、を批判的に見定める姿勢を保つことがAIとの付き合い方で大切だと考えています。 【AIの返答】 企業が主導するSDGsには2つの面がある。一つは、SDGsが新たな市場を作り、利害関係者らとの約束達成を通じて正当な行動のもと利益と持続可能な実践を提供するもの、としている。 もう一つは、『SDGs洗浄』または『災害便乗型資本主義』の発生であり、そこにおいては、『利益追求』や『現に存在する不平等性不公平性を潜在的に促進する役割』をSDGsの諸事業が果たしていること、結果としてシステム上の望まれる改善を実際に達成することを妨げる働きをすることになる。 幾つかの企業はSDGsを通じてリスクへの対応を行い、チャンスの創造を行おうとしているが、一方で別の企業らは真の解決策を追求することよりも災害が発生した際のような状況が生まれるか、またはそうした状況を作りだすことで、災害に便乗する形でSDGsを実行しようとし、その結果、世界が目標とする開発の全体的な進み具合において、遅速の格差を生んだり、企業理念の正当性への懸念が生まれたりしている。 (企業主導SDGsの長所) 1. 市場の拡大 2. 企業のイメージアップや正当性の拡大 3. リスク回避 4. 革新技術と効率性向上 5. 従業員の企業帰属意識の向上 (災害便乗型資本主義のレンズを通して見た企業主導SDGsの欠点) 1. 企業主導SDGsのリスクは、SDG洗浄(国連の17の持続可能開発目標に取り組んでいるように見せるが、実態が伴っていないビジネス実践)であり、過剰広告。 2. 災害便乗型資本主義の実践、危機優先ではない利益優先のビジネス実践が、現状維持体質を強化し、リスクの拡大化や資源の収奪化を生み、結果として長期的視点での真の解決の道が閉ざされることになる。 3. 企業主導SDGsは、性別格差や富の格差といった社会に存在する不平等性不公平性を悪化させたり、全体的視点からの持続可能性を棄損する恐れがある。 4. 企業が主導する活動を通じて『利益優先』を中心に据え焦点を当てると、うわべはSDGsに向かっているように見えても実態は持続可能性の期待できないビジネスモデルを推進することになりかねない。 『災害便乗型資本主義』という言葉が持っている力の範囲を、目一杯・大胆に拡げて見ると、今の世の中の企業が中心となって進むSDGsの芳しくない面が、結構あぶり出されるような気がしている、と言った。その考えが、AIが答えるだろう今の世の中の大勢を占める言説(narrative and discourse)の中でどう評価されるかを、見たところ、以前から持っていた現在の企業が中心となって進むSDGsにはやはり胡散臭い部分が内包されていること、『SDG洗浄』であり、『災害便乗型資本主義』であることが示された。 常々思う『もう一つ別の道』の必要性、それが『生命』を中心とする人間の活動であり、また技術についても巨大開発費を前提に世の中の中心を狙う巨大企業の革新技術開発競争が主流である現在を問題視し、シューマッハー氏が指摘する人間の背丈に会った資金で調達可能な最新技術と伝統的技術の融合を図ることであり、そしてその目標は地域住民に働く場をもたらすことを目指すものであり、地域共同体の活性化を中心に据えた(都市部の指令組織が、地域共同体を単なる人・モノを収奪するだけの場所と見なし、生れる収益を独占する現在のシステムとは、異なる次元のシステム)『中間技術・適切技術』といった技術の開発に目を向けることが大切なことであり、しかも今はその活動には人・モノ・金が欠乏状況なのである。 かかる視点の重要性を今後も展開していきたい。
0084
プラスチック汚染の政府間交渉の現状について
yo-chan
09/12 12:53
プラスチック汚染の政府間交渉の現状について 8月28日東京新聞の社説で、“今年も暗雲が漂う国際間プラスチック交渉”の話題があった。 この課題に対する政府間交渉委員会会合の略歴は、2022年のウルグアイで始まり、以降フランス、ケニア、カナダを経て直近の2024年の釜山会合に至るも合意できずに、今年度のジュネーブ会合(8月5日から14日、184カ国から3700人を超す代表が集結)に持ちこされていた。 この課題に対する政府間交渉委員会は、当初2024年中の合意決定を目指してスタートし、いわば釜山会合が約束最終期日だったのが一年延び、しかも1年後も決着がつけられていない状況が継続しているという背景認識をもつことが重要と考える。 産油国・プラスチックメーカー・利権側は生産削減でなく、廃プラスチックの処分策拡大に目を向けようとし、一方、事の重大性と脆弱な島嶼国・途上国に被害が偏る不公平さのあるこの問題に対し、本質的解決である生産量削減にメスを入れたい諸国との争いといえる。正に毎年末のCOP のGHG課題同様の構図がプラスチック条約交渉にも見てとれる。 1〜5mmのマイクロプラスチックス(MPs)とそれ以下のナノプラスチックス(NPs)は、100〜400億kgが毎年環境に排出され、しかも安定なことから蓄積され続けている。 人への影響としてこれらMPsとNPsが炎症化反応を引き起こすことが懸念されており、この炎症化反応が引き金になり、現代の様々な疾病(膠原病や潰瘍性大腸炎等の自己免疫疾患、心血管疾患、2型糖尿病や肥満、ガン、呼吸器系疾患、アレルギー、やアルツハイマー・パーキンソン病等の神経変性疾患)が引き起こされているのが今の社会の有り様なのである。事実、認知症患者は3〜5倍多く脳内にプラスチックの蓄積が見られるという。 そして事は、人の健康だけではない。現状でも、植物の光合成に劣化を起こすという研究例が出ている。 生態系にどんな悪影響が出ているか、まだ不明なことが多い。 共に暮らす動物・植物・微生物全てへの私たちの責任を、この課題は突き付けている。 生産量削減を単に言葉で語るだけでは、この課題の根本的な解決は出来ないとの認識を新たにする必要がある。 暮らし方自体に課題の根元があり、パラダイムシフトが求められていると考える。 ここで目を転じると、私たちの性向の一つに将来の科学技術に過度に期待する癖がある。今後出現するだろう革新技術が全ての難題を解決してくれ、その革新技術開発を推進するエンジンが企業の力であり、故に企業の持つ経済成長第一主義の思想を保持することが革新技術開発の推進の上で最も大切なものだとの考え方である。 そして、その企業側は現状のこのプラスチック課題に対し生産量の削減には腰が引けているのである。GHG排出課題に対する姿勢とも類似の構図がここにもある(トランプ政権2.0は気候温暖化とGHG排出との関連性の主張はでっち上げとさえ語り、USEPの縮小化を狙っている)。企業側の姿勢の容認・受容は私たちの健康だけでなく、広く生態系に甚大な影響を及ぼすのである。 このプラスチックの課題に対し、解決策を提供できると期待されている革新技術としてのバイオ分解性プラスチックの現状を少し紹介して見たい。 今年8月に『生分解性プラスチックは世界を襲うプラスチック問題を緩和し解決することが出来るだろうか?(Could bioplastics mitigate and solve world’s plastic invasion?)』という研究論文が発表された。その序論部分を紹介する。 その低コスト性と長期安定性故に、プラスチックは現代社会に無くてはならない素材であるが、その持っている安定性能および広範に利用を推し進めてきたことから、今日ではプラスチック廃棄物が海洋・土壌中・湖だけでなく、南極北極地域でも検出されており、世界中への蓄積が徐々にそして確実に進行している。 そして、一旦プラスチックが生態系に排出されると、光分解化(photodecomposition)を受けて、マイクロプラスチックス(MPs)やナノプラスチックス(NPs)を作りだしていくことになり、MPs・NPs汚染を世界に引き起こすことになる。 このMPs・NPs汚染の分布や毒性等の研究は広く行われており、生態系及び人への影響を緩和するには、プラスチック類の慎重な取り扱いと戦略的な廃棄物管理が求められるとしている。 だが、陸系生態系・水系生態系への甚大な汚染状況のもと、現行の廃棄物削減プログラムは推進されてはいるものの、最適な方策とは言えず(燃やしカスを埋め立て処理)、リサイクル化拡大という目標に向かう訳でもなく、また持続可能なやり方でもない。 生産から始まり、利用し、そして最終的に廃棄するまでを循環型経済に適合させていくには、通常使うプラスチックを別の素材に求めることが重要になる。 かかる観点から生分解性プラスチック(bioplastics:bio-based and biodegradable plastics; BPs)がより持続可能な社会における素材として認識され、殊に再生可能原料の利用とGHG排出削減への効果もが期待されている。 今日、従来のプラスチックが使われていた諸分野へのBPsの適用が検討されている。 しかしながら、現状のBPsにおいては、期待する分解の開始ならびに分解工程の進行にはある種の条件の存在とその条件のクリアが必要であり、結果として現状では分解の制御と完全な分解の保証は出来ない、というのが実情である。 従って現状では管理下から離れ、外の環境に排出されたBPsは、従来のプラスチック同様に生態系に蓄積されていき、そしてバイオマイクロプラスチック(bio-micro-plastics;BMPs)やバイオナノプラスチックス(bio-nano-plastics; BNPs)へと変換されていき、しかもこれらBMPsやBNPsは生態系及び人にとって有害な作用を持っていることが証明されているのである。(以上) 今後の革新技術にのみ、過度の期待をすることは賢明な態度ではないのであり、例えBPsが今後新たな地平を開くことがあったとしても、現在抱えているプラスチックの課題への人としての対応は、利用の絶対量を削減することであり、繰り返し利用を図ることであり、リサイクル化を推進することであり、その上でのBPsの利用化促進という複合的・重層的な取り組みが求められるのである。 偏った解決策に拘る企業ペースに乗ることは、間違った方向に向かうことになる。 毎年11月末からの1週間程の気候温暖化国際会合においても全く同じ態度が私たちに求められるのである。 GHG公害とプラスチック公害との類似性は大きく、そしてそれぞれの会議・会合におけるロビーストと称する企業側を弁護するエリートの活動の障壁は高いのが解決を遅らせている一つの要因と思っている。では、具体的にどうするか?考えどころである。
0085
現在の社会状況について(4) 気象予報士がネット上の攻撃対象に何故なりやすいか、の記事をもとに、ポピュリズムに関わる幾つかの面の現在地を考えてみたい
yo-chan
09/25 16:57
現在の社会状況について(4) 気象予報士がネット上の攻撃対象に何故なりやすいか、の記事をもとに、ポピュリズムに関わる幾つかの面の現在地を考えてみたい ポピュリズムを考える場合、様々な面を見ていくことが大切との視点から、取り組んでいる。そしてたどる情報の中で面白いワーディングに出会ったとき、そのワーディングをもとに情報を拾い集め、その言葉や文の意味する内容の世の中の現在地を確認することも行っている。 今回は次の情報を下敷きにして、ポピュリズムの幾つかの面をなぞってみたい。 紹介情報の題目は、『気象予報士がオンライン上の威嚇攻撃の対象に何故なりやすいか?』 (原題:Why TV weather forecasters are targeted by online hate?) Deutsche Welle, 2025年9月16日、Jennifer Collins氏記す 死の威嚇を予告する一通のe-メールがある気象予報士の仕事を奪うきっかけとなった。 気候に関わる誤情報や陰謀論が、オンラインで憎悪をかきたてる、と専門家らは指摘する。 中西部アイオワの州都デモインのテレビ局に勤める気象予報士クリス・グロニンガーさんはある朝一通のe-メールを受け取った。そこには、彼の住所の問いかけとともに、記憶に残る歓迎をしたい旨の記載があり、合わせて最高裁判事ブレット・カバノー氏の自宅に銃と結束バンドを持ち現れ、殺人未遂容疑で逮捕された男の事も言及されていた。 主任気象予報士就任以降、グロニンガーさんは度重なる嫌がらせを受けてきていたが、このメールが最後の一撃となり、彼は警察に通報すると同時に妻と共にホテルに逃げ込んだ。 [気象予報士をターゲットとするオンライン上での威嚇行為の拡大] 気候変動を話題とした場合、様々な場面があるが、その中にテレビ気象予報士が誤情報や陰謀論が渦巻くオンラインの禍中に曝される、ということがある。 グロニンガ―さんは、『現代の最も重要な課題』が気候変動である、との信念から気象予報の中で気候変動の話を積極的に取り入れることに努めていた。 デモインで働くこととなったグロニンガ―さんは、2016年トランプ氏が大統領に選出以降、気候変動懐疑論が更に強まったアイオワ州に合わせた報道、例えば農業が盛んなアイオワで干ばつが農家にどう影響を与えるか、等の日々の体験と関連付けて報道を展開した。 そんな折に、e-メール受信箱にメールが届き始めた。初めは単なる反発だったが、次第に攻撃的な脅迫へと変化していった。視聴者が『科学を政治的に利用しよう』としていることにグロニンガ―さんは、気づいた。 送信者らは『リベラルな話題』には飽き飽きしている、とメールの中で語っているという。 気象学の専門家たちの99%は支持している気候変動の話題は、決して政治に結び付けるべきでないと、グロニンガーさんは信じている。 [誤情報の長い歴史] 気候変動が原因して強烈な気象状況が生れ、更に温度上昇が継続すると気象状況悪化が助長されるとするのが科学者らの見解であるが、オンライン上では気候に関わる誤情報や陰謀論が蔓延している。 この蔓延の起源は20世紀半ばまでさかのぼる。 即ち1960年代、主な化石燃料企業は、石炭・石油や天然ガスの燃焼と世界の温暖化との『相関性』を認識していたが、それにもかかわらず、企業の多くは、その相関性を積極的に否定したり、科学的知見を軽視する戦略を当初取った。 しかし、氷河が溶け、海面が上昇し、危険な気象状況が拡大するにつれて、気候変動を否定する企業の戦略は勢いを失っていった。 そこで企業は、彼らが流す誤情報の内容を『相関性の否定』から『世界が合意する気候変動対策行動の遅滞化』へと戦略を変更した。 即ち、世界が打ち出す気候変動対策の効果に疑いを呈したり、或いは企業が手掛ける行動が環境に優しく適合しているとの間違った印象を世間に投げかけるといった『化石燃料企業のグリーン洗浄化運動』の推進に努めるようになって行った。 2024年の調査によると、化石燃料企業や石油化学企業は、彼らが再生可能エネルギー開発にコミットしているという誤った主張を世間に植え付ける目的で、数百万ドルの広告代を使っていることが判明しているが、実態としてはクリーン電力に対して世界が使っている投資費用の1%分しか彼らは支払っておらず、一方新たな石油採掘場所や天然ガス採掘場所の開発を彼らは積極的に推進していたのである。 [偽情報の複雑なネットワーク] 気候に関する誤情報の背後にあるネットワークは非常に巧妙化して来ていると、デンマーク・コペンハーゲン大の研究者エセ・エルベイ氏は語る。 このネットワークには、ロビーストやシンクタンクといった気候対策遅延化・遅滞化行動に利害が一致する人々がいるだけでなく、メディア、ネット荒らし、ロシアボットファームやインフルエンサーらが協働してソーシャルメディアにおける誤情報の拡大化・拡散化に関与し、そしてソーシャルメディア上で感情を注入・増幅されたメッセージがアルゴリズムで優先的に流されるのである。 殊に国家主義基盤や保守基盤に立つ政治家らは誤情報を活用して彼らの支持基盤を動員しようとする、とエルベイ氏は語る。 『彼らは気候変動を明確に否定しないが、例えば国際間で合意した気候変動対策や炭素制御策が、国家の自立性や経済の自由度に対し脅威となるとの意識付け』を試みるのである。 気候変動への国際間の行動に対峙する彼らの行動は、国家の存在価値・存在意義の問題に結び付けられることになり、従って企業の対峙行動に対処することは難しいものとなる。 人々が誤情報を共有する理由、またグロニンガーさんのような人に対し怒りのメールを送りつける人々が存在する理由の一つが、企業が希求する企業と国家との一体化なのである。 [陰謀論の肥沃な土壌] 時に誤情報は野蛮で突飛な陰謀論へと変質する可能性があり、それら陰謀論は偏執病や不安症候群や自己中心性の強い人々にとって魅力的なものになる。 陰謀論は、災害の後に急増することが多い。 そして、陰謀論はしばしば人々を価値ある存在だと感じさせるのであり、または他の強力なグループに『悪者』の烙印を押すことで人々に安心感を与える。 例えば、今夏のテキサスで発生した致命的な鉄砲水の後、オンライン上に科学者や政府機関が雲の種まきを利用し、天候を操作し、災害を引き起こしたとする陰謀論が急増した。 『人というものは、甚大な問題や不確かさ・懸念・危険を感じさせる問題に直面した際、説明を付けたがるもの』と言える。そして気象状況が変化していることから、誤情報や陰謀論も段々と際立ったものになって行くと見られ、そして彼らが最も目立つことから、誤情報や陰謀論に影響される人々からの攻撃の矢面に、気象学者らが立たされるのである。 [誤情報を止めるために出来ることは何か?] 誤情報を識別する上で鍵となるものは、教育と見られている。 課題の解決策に関する討論から排斥されていると感じている脆弱なグループが存在する場合やかかる脆弱なグループの希望とは異なる解決が提起される場合に、誤情報と言うものが増殖し拡大していくものであり、この排斥力が人々に科学者たちや科学自体に対する信頼感を侵食していくのである。 陰謀論について考えるとき、陰謀論の嘘を暴きたてるより、人々の間の信頼感を育てること、そしてなぜ人々がそのような考えを持つに至ったのかに関して共感的である姿勢がより良い戦略だと言える。そしてグロニンガーさん(死の予告メールをもらい心的外傷後ストレス障害;PTSDと診断された)のような攻撃を受けている人への支援が必要とされる。 警察はメール脅迫を行った犯人を逮捕し、150ドルの罰金を科している。 そして、テレビ局に戻ったグロニンガーさんは仕事を続けていたが、その後経営陣に向けて大量のメール攻撃が続いたために、経営陣はグロニンガーさんに気候変動への言及を止めるよう指示することになり、グロニンガーさんは自身の意思に合わない業務を続けるよりも辞職の道を選んだ。 グロニンガーさんは、それでも保守派の多くの視聴者からの前向きなメールをかなりの数貰うことが出来たことから、ある程度影響を与えることが出来たと感じている。 ネット上での憎悪を理由に気象予報士たちが撤退するのは、間違いだと今は感じていると、グロニンガーさんは言う。そして、気候変動に言及するケースが少なくなっている状況を見るにつけ、オンライン上の威嚇攻撃の実態を感じるが、それでも気象予報士に対し科学的知見に立脚した正当な気候変動の情報の提供を強化することを指摘する。 (以上) たどる情報の中で面白いワーディングに出会ったとき、そのワーディングをもとに情報を拾い集め、その言葉や文の意味する内容の世の中の現在地を確認することを行うと言った。 今回の記事の中から拾い出したワーディングを紹介すると、以下になる。 【科学と政治との対立化】【経済成長を生態系保全の上に置く思考法がポピュリズムを醸成】 【様々な意見の存在を受容する人がいる一方、異見の存在を全否定し抹殺する人もいる】 【misinformation disinformation conspiracy delayism lobbyist】【科学の政治利用】 【『相関性の否定』から『世界が合意する気候変動対策行動の遅延化』へ戦略変更】 【環境に優しいイメージを投げかける『化石燃料企業のグリーン洗浄化運動』の推進】 【influencers, delayism, national sovereignty, uniting nation with corporation】 中でも【経済成長を生態系保全の上に置く思考法がポピュリズムを醸成】が最も気になった。 そこで『右翼ポピュリズムの支持者らは、生態系保全行動を軽視し、もっと大切な経済の開発を優先すべき、との考えを強く持っているようだ?』という問い合わせをAIにし、帰ってきた返答を次に紹介する。 (AIの答え) 『その通り、多くの右翼ポピュリズム支持者らは生態系保全より経済の開発発展を優先する。理由は、生態系保全行動は経済発展の邪魔となるからである。そして、生態系保全政策はしばしば『リベラルであり、コスモポリタンといえるエリートたちの創るプロジェクト』であり、国家規模の経済的利害を妨害するものだからだ。 かかる見方は、気候変動懐疑主義に繋がり、グリーン政策に対立することになり、そして環境に関わる法規制を弱体化させることになる。 さらに、エリートたちの創る生態系保全政策は、国家の自立と国家の経済的活力を損なうものであり、そして『普通の人々』の生活を脅かすものであるとの見方に繋がる。(以上) AIの返答は、世の中に発表されている文献情報を網羅し、要約した形で出来ていると考えているが、今回のAI返答のもととなる文献情報に興味深いものがあったので、そちらの方に進んでみた。 興味を持った情報は、『気候に関する“そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義(whataboutism)”と“右翼ポピュリズム”: GHG排出継続への叱責を『はぐらかし論法』を取り入れることで、国家主義者らは気候変動対策実践に反対する姿勢を強めている』 (原題:Climate whataboutism and rightwing populism: how emissions blame-shifting translates nationalist attitudes into climate policy opposition) Environmental Politics, vol.34, 2025, authored by Joakim Kulin ポピュリズムが増殖すると、ポピュリストの常とう手段も蔓延することに繋がり、国際間協議の合意形成が難航し、遅滞化していく状況が生まれ、合意した行動も遅滞化してしまうという現在の国際間の困った状況が生まれている背景を浮かび上がらせる内容の情報と思う。 要旨:気候変動に関する新しい言説として、巧妙な論法戦術としての『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義(whataboutism)』が現れてきている。この論法により自身の属する国家の排出責任問題を他国の責任問題へと転化させてしまうのである。 本論文では、殊に国家主義者らと『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』とが共鳴し合うと、国家主義者らは他国を軽視する一方、自国の懸念を称賛したり自国を優先したりすることになる、という問題点を議論する。 ヨーロッパの4カ国(スウェーデン、ドイツ、スペイン、ポーランド)の調査結果を解析することで、『国家主義者らの採用する姿勢』と『他国が行動しないなら我々も行動すべきでないと考える人々の割合』との間に、明白で矛盾のない連関性のあることを本論文では例証している。 また、『気候に関するそっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』が、『国家主義者らの採用する姿勢』と『国際間で合意した気候変動政策への彼らの対立姿勢』との連関性を取り持っていることも本論文で例証している。 従って、本論文の結果は、国家主義的感性に駆り立てられた『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』が、右翼ポピュリストらが発する言説に浸透し、気候変動対策行動に関する各国の遅滞化や不作為を正当化することになる、との推論を支持している。 今回は要旨部分の紹介で終えることとします。 序論部分そしてその他の興味深い部分の紹介は次回とします。
0086
現在の社会状況について(5)気候『そっちこそどうなんだ、あっちこそどうなんだ論法(Climate Whataboutism)』と『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』
yo-chan
10/17 10:12
現在の社会状況について(5)気候『そっちこそどうなんだ、あっちこそどうなんだ論法(Climate Whataboutism)』と『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』 前回に続き、引用しているヨワキム・クリン氏の文献(Environmental Politics,vol.34,2025) の紹介を続ける。 (序論) 人新世時代の進行を放任する姿勢が続いている。故に厳しい気候変化が社会に課せられている。厳しい変化を緩和するには、気候政策担当者が決定的役割を有している。 しかし大半の国の政策は、目標と比べると急激なGHG排出削減には不充分だと直近のIPCC報告(2023)は指摘している。事実、多くの国は削減目標を達成できていない。 こうした中、現在の気候変動会合の議論には『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が蔓延しつつあり、具体的・適切な行動を合意し実践することに力を集める方向には向かわず、議論の散漫化が進行している。即ち責任の所在は逸らされ、ある国家が意欲的な気候対策を行おうとしても、他国の対策との比較や世界状況と比べる意識が政策決定に入り込み、その国家の意欲的対策の意義は低い、とする巧言戦略の罠にはまり、議論は散漫化していく。 巧言戦略がメディアで注目され拡散されていくと、消費者や投票者らの間に、気候変動対策はコストが掛かる、便益性はなく人気もない、という悪い印象が植え付けられ、殊に政治家の間でそうした傾向が顕著になる。 気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』に乗る専門家や政治家らは実効的で意義ある対策を排除する議論を展開することで、その巧言戦略に嵌った消費者や投票者らの満足感を助長することを狙う。故に核心から離れた見当違いの考え方が支援され、結果として実質的な気候変動改革に対する欲求は散漫化され、減退していくことになる。 こうした議論は、一見すると世界的公平・公正性への懸念に立脚しているように見えるが、気候危機に必要な国際間の協働の取り組みを無意識に、または故意に損なう可能性がある。 この巧言戦略が蔓延化し、故に適切な気候変動対策が著しく不充分な現在、こうした戦略を助長する社会的・政治的勢力への理解を深めることが必要なことになる。 気候政策はじめ他の政策が市民の支持を受けることが民主主義に求められることからすると、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』が世論にどの程度浸透し、政策選択にどのように関連しているかを評価することは極めて重要になる。 気候変動課題に対し政治的分極化が拡大していることを勘案すると、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』とは異なった政治志向或いはイデオロギーとの間の潜在的な関連性を明らかにすることは特に重要である。 気候政策に対する国民の支持の党派的二極化、特に左派と右派との二極化は、アメリカと欧州で広く論じられている。そして近年、右翼ポピュリズムと気候変動の世論との関連性相関性が、大きく注目を集めている。 この関心の高まりは、右翼ポピュリストのイデオロギーがしばしば根深いポピュリスト的・民族主義的感情に根ざしているという認識から生じている。 『現代の西欧社会の右翼ポピュリズムの核心』が『民族主義的・国家主義的イデオロギー』であり、そして『認識されている脅威(拡大するグローバル化と政治体制の集中化)』に対抗すべく国境の維持を図る運動だと考えられる。 その信条の中で、国家自主・自立権が強調され、文化と経済を保護する試みが追求される。 これらの連携と組み合わせが気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』のはびこる温床となり、国家主義性向を持つ人々は地球規模の危機において自国の役割を軽視する一方で他国の欠点をあげつらう傾向が出るのである。 彼らは国家の自主権を守るため境界を維持し、国家への帰属意識を明確化させることに集中する。そして国家主義者・民族主義者らは、批判をかわすため他国の環境政策の失政に焦点を当てがちになる。 このやり方は『我々』対『彼ら』と言う対立感情を助長し、自らの国は不当に狙い撃ちされているとの考えを助長する。そして他国の欠点は誇張され、自国の不作為は正当化され不問に付されるのである。 ここでは、気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が右翼ポピュリズムにより助長され、気候変動対策への不作為が推進されるという仮説を検証する。 具体的に言えば、他国が気候対策を取らない限り、自国は対策をとるべきでないと考えるこの巧言戦略が広く国民に浸透していくのは、国民の国家主義的民族主義的感情によるものであり、この力学が気候変動政策への支持を決定的に損なっているという仮説の妥当性を検証する。 (そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法) 政治に関わる言説では、Whataboutismという言葉は、巧言戦略を意味し、そこにおいては見当違いの別の事柄が取り上げられ、批判や告発は矛先を捻じ曲げられる。故に当初の課題や告発は有耶無耶にされてしまう。 ディクストラ(2020)によると、1960年代後半、北アイルランドの宗派間の争いの際に、この言葉が初めて使われたとされる。そしてこの言葉は、後に冷戦時のソビエトの宣伝戦術に見られ、プーチンへと継続している。そして特に2016年の大統領選挙後にこの巧言戦略がアメリカの政治言説世界で注目を集めてきている。 即ち、トランプ氏と関係者が、しばしばこの戦略を、批判をかわすために利用している。メディア、殊にある種のニュース媒体は、歴史的にこの戦略を増幅する装置になっており、しばしば政治に関連するコメントや討論でこの戦略は利用され、それ故に市民が持つ認識や言説に影響が出ることになる。 メディアの影響力や市民に及ぼす政治的影響力を思うと、『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』を戦略として利用することは、議論に打ち勝つ武器として役立つだけでなく、中心課題の論争の中に『論点ずらし・曖昧さ』と言う困った事柄を植え付け、市民の意見を操作するための武器として役立つことなり、故に論争は泥沼化してしまう恐れがある。 市民はかかる巧言戦略に直面すると混乱が生じ、市民の間に意見の分散化や情報の不足化が生じ、故に市民の間には課題への適切な対処法を思い描く力が低下する。 (気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』) 市民の間には、危険であり厳しい現実の認識はあるもの、緊急な行動が必要だという認識は軽視されてしまう議論が数多く起こってきている。 化石燃料会社やそのロビィーストグループ・右翼政治家・メディアが常に持つ関心事は、市民が持つ意見(直ちに気候変動緩和策は講じるべきであり、GHG排出も削減すべき)を曖昧化し雨散霧消化させる装置・武器に関するものであった。 歴史的に見ると、気候変動を『全て無視する』姿勢から彼らの戦略が始まった。しかし気候変動の過激化が進み、化石燃料が、全く関係がないとする最初の姿勢を取り続けることが困難ということが明らかになってきたことから、彼らの戦略はより微妙なものへと近年変化している。即ち現在の彼らの戦略は気候対策を前向きに考えるものの、実行スピードや責任に関する議論や行動の分担についての議論に目を逸らせる戦略に替わっている。 『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』とも言うべきこれらの言説が採用されることで、議論はしばしば暗礁に乗り上げ、意味ある行動の採用が難しい障害物が存在しているという認識が植え付けられる。 これら言説は気候変動とGHG排出との関連性を論じはするものの、責任の所在は他所に転換され、責任の曖昧化が図られる。これがこの言説の基本的な戦術なのである。 即ち多国家間で体系的に解決を図ることが重視されるのでなく個人の行動が重視され、または他の主体や関係者が非難され、より重大な責任は他者が負っていると示唆することで気候変動対策の責任は自分らではなく、他所にあると責任を転嫁するのである。 そしてこの戦略は単なる責任転嫁だけではない。説明責任の相対化を図る強力な装置になっている。即ち自分らとは異なる他所の主犯たちが行動を起こさないのであれば、主犯ではない国々に厳しい基準を課すことは間違っているとの考えに誘導する戦略なのである。 かかる戦略は各国が協調して解決策を考えることよりも非難し合うことを優先し、結果として悪循環が醸成されることになり、国際間の協調的解決策作りは妨害される。 気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の市民への影響を明確に意識した市民意識調査があり、そこでは気候変動政策における一国単独主義と多国間協調主義に対する市民の態度が調べられている。 例えば、Mildenberger は気候変動協働作業に対する一つの国の離脱が他の諸国の行動を阻害するという従来から指摘されている考え方を調査する過程で、Beiser-McGrathとBernauerの行った研究を引用し、アメリカと中国の両国の市民は、例え他の主要国の協力が得られなくとも国家の気候対策に関する施策を強く支持するという点を強調している。 即ちMildenbergerは、ある特定の国々が余り意欲的でない決定を下したとしても世界の市民の考えは消極的な態度には向かわないだろう と指摘している。 Bechtelらは、気候変動対策運動に対する市民の支持の動向に多国間で合意した協定がどのように影響するかを調べている。また政治家らが永く信じている、多国間の協調確保が市民の支持拡大を助長するとの信念の妥当性を調べている研究があり、調査の結果、幾つかの西欧の大国そしてアメリカでは、コストのかかる気候対策において『多国間主義multilateralism』が市民の支持の実質的拡大に繋がることを研究者らは認めている。 『多国家間の努力の姿勢』が市民の支持拡大に効果的であり、しかも公平・公正だと市民が認識することに繋がるとしている。 特に、幾つかの国が協力すれば、市民の考えは環境面からの便益についてより楽観的になり、コストの公平・公正な配分によって、経済的な負担や統治に掛かる費用の削減に役立つと市民が期待するからである。 上記の研究では、市民らは国際間の協調姿勢に価値を置く一方、市民らはまた自分たちの責任回避への言い訳として他国の不作為を利用することの誘惑に通常は抵抗するものだと指摘している。 しかし上記研究は同類の方法論(調査的手法やコンジョイント分析:消費者にとりベストな商品やサービスを探し出す分析手法)を採用している点から、これらの研究結果からだけでは、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の戦略が市民の基本的な議論にどの程度影響しているかどうかは判断できない、との見方も指摘されている。 【気候WhataboutismやClimate Delay Discoursesといった化石燃料企業やそのロビィースト・メディアが採用する戦略に影響される多くの市民が存在する一方で、多利害関係者主義(Multistakeholderism)でなく、従来の多国家間主義(Multilateralism)に価値を置く市民もまた多く存在していることを指摘している部分です。2010年頃の英国首相だったGordon Brown氏の関連記事が最近出ている。これを次回紹介する予定です】 (右翼ポピュリズム、国家民族主義、と気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』) 近年の右翼ポピュリズムの高まりにより、多くの研究者らが気候変動に対する市民の意見の動向への影響を調べ始めている。 右翼ポピュリズムの内容からすると、本来的に右翼ポピュリズムは気候変動の課題には反対の立場であり、気候変動の課題はリベラル志向・コスモポリタン志向を持つエリート層が作りあげたものであり、往々にして国家優先思想を阻害するものと判断されている。 この反対意識は二つの点から理解出来る。 一つは右翼ポピュリズムの考え方の中心がボンヤリしたものであり、反エリート志向をもっていること、『普通の人々』の意志に焦点を当てていることで特徴付けられるものであり、本来的に認識されているエリート層が作った課題意識には反対する体質を持っている。 二つ目は、右翼ポピュリズム思想の濃い部分に国家主義(国家利益)的・民族主義(自国中心)的な関心事を優先する意識があり、気候変動のような地球規模の課題の議論や国際的な気候変動緩和活動を排除する強い力が存在している。 これまでの研究の大半は、右翼ポピュリズムに関連する性向と気候変動と気候政策に関する市民の見解との間の直接的連関性に焦点を当てているが、如何に特定の言説(例えば、気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』)が、右翼ポピュリストの性向(例えば、国家民族主義)を気候変動政策反対へと導くのかを調査している研究例はほとんどない。 主に欧州23カ国の代表的サンプルからのデータを分析しているKulinらの研究によると、『国家主義・民族主義イデオロギーに共感する態度・姿勢』と『気候変動懐疑論』との間に強い相関性があること、化石燃料に掛けられている割高な税への反発との間にも強い相関性があることを証明している。 これらの相関性は、特にヨーロッパ西部で見られるが、国家主義・民族主義的態度が気候変動政策を予測する強い要因になっていることを示す研究が出されている。Dykstraが強調するように、右翼ポピュリスト政治家らは『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の戦術を一連の課題に対する批判の矛先を変える武器として頻繁に利用し、例えば中国のような主要GHG排出国への攻撃に目を転じさせようとしている。 SchafferとUmitは、地球規模の約束の存在と帰属意識の存在が、パリ合意のような国際間の気候政策を世界の市民 が支持することに繋がることが期待できるとする一方で、気候変動課題の政治問題化の進行、そして国家主義・民族主義政党の勃興と拡大化が、世界の市民の目をそれぞれの国家の自主・自立権の保持を優先する意識に転じさせつつあると指摘している。 Kulinらによると、国家主義・民族主義性向を持つ人々は化石燃料に掛けられる税の拡大に反対することが認められるとし、殊にこの傾向は西部ヨーロッパ諸国で著しいという。 『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』に内在する明白な国家主義者民族主義者の底に流れているものは、その論法への市民の傾倒・誘導であり、国家主義・民族主義と気候変動政策反対とを結びつける装置の提供なのである。 国家主義・民族主義的感情に深く根ざした『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の潜在的な運動力(目くらまし・論点ずらし・曖昧化力)が、枠組みの如何(国内政策か国際間政策か、単独国家的か多国家間的か)に関わらず、市民の意見の変更に決定的な要因となる潜在力を持っているのである。 気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が右翼ポピュリズムにより助長され、気候変動対策への不作為が推進されるという仮説を検証するため、欧州4カ国(スウェーデン、ドイツ、スペイン、ポーランド)を対象に調査を行い、この仮説の妥当性を検証する本体部分がこの後に残されていますが、その紹介は省略し調査の検討により得られた結論のみの紹介で今回の情報提供を終えたいと思います。 結論 1.『国家主義者・民族主義者の態度』と『他国が気候変動対策を講じない限り自国は対策を講じるべきではないと考える程度』との間に一貫して強い相関関係がある。 2.気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』は、国家主義者・民族主義者の態度と彼らの気候政策への反対意識との関係を媒介している。 3.国家主義・民族主義感情に駆り立てられた気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』が右翼ポピュリストの言説に浸透し、気候変動対策への不作為を正当化している。
0087
現在の社会状況について(6)GorgonBrown氏の視点
yo-chan
10/22 16:25
現在の社会状況について(6) Gorgon Brown氏の視点 化石燃料企業やそのロビィースト・メディアが、気候WhataboutismやClimate Delay Discoursesといった戦略を採用している。それらに影響され、国際間に亘る課題の根本的対策の議論に影響が出ており、そしてその状況を受け入れてしまう風潮が多くの市民の間に醸成されつつある。 一方、多利害関係者主義(Multistakeholderism)に価値を置かず、従来の多国家間主義(Multilateralism)に価値を置く市民もまた多く存在している。昨今のポピュリズムの台頭があちこちから聞こえ、ややもすると人権の縮小を目指す排他的な民族主義・国家主義・ゼロサム思考に支配される孤立主義・保護主義がマスコミ情報戦の中で本流化する状況下でも、これらの国際間協調を喜んで受け入れる姿勢を持つ多国家間主義の立場の人々が一定の塊として存在しているのは心強いものであり、それを指摘することの重要性は大きいと考える。 しかし、この一定の塊の人々は私たちの視界から掻き消されがちなのも現実なのである。 かかる視点の参考となる見解を、2010年頃に英国首相を務めていたGorgon Brown氏が述べている。The Guardianに紹介された氏の見解を以下に紹介する。 権威主義的な誇大宣伝に騙されてはいけない。改革派と極右を防ぐことは難しくない The Guardian, 2025年10月11日 Gordon Brown氏記す アメリカから欧州・アジアにかけて、鬱積した憤懣が権力奪取のために悪用されている。 しかし多数の声の中には、穏健な意見がしっかりと根付いている。 Nigel Farage氏は、彼の改革英国党(Reform UK party)の現在の姿を、世界の政治舞台に流星のごとく現れた前例なき画期的な現象だと描写している。 だが、今秋の欧州各国、インド、タイ、アメリカそしてアルゼンチンに亘る各地の世論調査において、極右・移民反対・グローバル化反対とするFarage氏と同類の政党がリードしていることが伝えられている。 先週の土曜日チェコの選挙では、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右翼・親プーチンのポピュリスト政党が、現職のぺトル・フィアラ首相率いる右派連合を下している。 フランスでは、大統領選挙と議会選の両方の世論調査において、フランス首相を失脚させた国民連合(National Rally)がまたもやリードしている。 ドイツでは、極右のドイツの為の選択肢(AfD)が現在最も人気のある政党になっている。 そして、ハンガリーのフィデス党、ロベルト・フィツォの親ロシア・スロバキア連合、イタリアの同胞は既に政権を握っている。 更にオーストリアの自由党(FPO)、オランダの自由党(PVV)、ベルギーのフラームス・べランゲらは、スティーブ・バノンのような極右宣伝者に感化されているいずれも強硬な国家主義者であり、彼らは国際法の支配を転覆させ、人権を縮小し、多国家間主義(multi- lateralism)を破壊しようとしている反国際主義者の国際連合(an international coalition of anti-internationalists)の一員である。 ポピュリストであり国家・民族主義者である彼らの台頭は、民主主義者がこれを無視すれば危険な状況が生まれることになる、新たな避けることの出来ない現実が現れてきていることを示している。 かつてベルリンの壁とともに崩壊したと思われていた『権威主義的民族主義』が『新自由主義』にとって代わり現代の主要なイディオロギーとなり、『何々ファーストの世界』を私たちに現出しているのである。 即ち『アメリカファースト』・『インドファースト』・『中国ファースト』・『ロシアファースト』・『わが民族ファーストmy tribe first』が謳われ、そして往々にして『わが民族が第一であり、そして唯一my tribe first and only』を訴える政権へとその思考は繋がっていく。 この民族・国家主義の存在が、何故現在の世界が91の独裁国家とわずか88カ国の民主主義国家から構成されているのかの理由を説明しているのであり、この民族・国家主義がロシアのウクライナへの公正を欠く国際人権法違反の背景にある力であるとともに世界で起こっている59件の国境を超えての紛争と市民間の紛争の背景にある力なのである。 ほぼ全ての国に共通する、この新たな国家主義・民族主義の時代を牽引している根底にある推進力を理解することが重要だ。 それは自由な参加を原則約束するものの、包摂性に欠ける(全員参加の点では欠点がある)『グローバル化』というものが、全員にとって自由ではあるが、公平・公正ではなかったという広く認識されている感覚の理解に繋がるのである。 10年以上にわたり、排除され取り残されていると感じている数百万の人々への対応をリーダー達は、遅らせてきている。 そしてそれだけでなく、リーダー達は世界経済のパワーバランスを変え、アメリカ一極支配の世界構造を複数のスーパーパワーが競合する多極構造の世界へと変え、そして『ルールが支配する統治システム』を『力が支配する統治システム』へと変えている。 これにより引き起こされた民族主義的国家主義が、自由貿易主義を保護主義に取って代えているのである。 かつて経済が政治を支配していた場所で、国家主義・民族主義の政治がいまや経済政策を決定し、すでに100カ国以上の国がリショアリング(海外に移管した生産拠点を再び国内に戻す動き)やフレンドショアリング(経済効率のみで判断するのでなく、政治的経済的に信頼できる友好国にサプライチェーンを求める動き)、国境を越えた貿易、投資、技術移転の禁止を特徴とする重商主義政策を実施しており、その反面、国際協力は1945年以来の最低水準に沈んでいる。 だが、全ての希望が消えた訳ではない。 まだセメントは乾ききっていないのであり、そして例えセメントが硬化し始めているとしても世界の市民には共通する良識・常識を見いだせる希望は残っているのである。 34カ国3.6万人を対象にフォーカルデータ(Focaldata)が調査した結果では、排他的な国家主義・民族主義に抵抗する明らかな市民の塊が見出され、彼らを統治する主導者らに比べると、抵抗する市民の塊は国際間協調を喜んで受け入れる姿勢を持っている。 多分驚くと思うが、世界を見ると国際協調主義に反対の感情を強く持つグループの割合は16.5%と低い(今日のアメリカでさえ25%)。 国際協調主義に反対する彼らは、民族主義のグループと宗教団体との共存は不可能との意識を持っているか、あるいは彼ら民族主義意識を持つ国々が世界を上手に渡っていくには、彼ら以外の国々が、その代償として世界を上手に渡っていけない状況の存在が必要とのゼロ-サム思考を持っている。 そして、その一方で献身的国際主義者とも呼べる21%の集団が反対側の極端に存在している。彼らは依然として自由貿易を通じて国境を越えた国際協調が双方にとってウィンウィンの関係をもたらすと見ているか、或いは彼らはアメリカの哲学者であり作家のクワメ・アンソニー・アッピアが言うところの『根っからの世界主義者』なのである。 『国際協調主義に反対感情を強く持つグループ』と『献身的国際主義者』という両極端の政治姿勢の範囲の中間のどこかに『大多数の世界市民』は、位置している。 『大多数の世界市民』は、偏狭な内向き志向の例えば『アメリカファースト』といった思想が暗示する国家主義者・民族主義者でもなく、或いは『一から十まで世界主義者』でもないのである。 彼らは、愛国心はあるが、永遠に相互理解不能の関係にある『我々』と『彼等』の間の終わりなき争いの場として世界を見ることはない。 中間に位置する大多数の人々は、義務のない社会を望むのか、あるいは義務を負う社会を望むのか? 彼らは彼らの庭の外側、或いは都市の壁の外側で起こる出来事に関わる義務を受け入れる用意をしているだろうか? ある条件の下では用意をしていると、言えるのである。 『中間に位置する大多数の人々』の中の第一のグループ(22%)は、人道的に行動することで災厄は軽減できるということを支持し、利他主義の姿勢でもって災害地域の緊急支援の行動を行う覚悟を持っている。『大義ある多国家間主義者good cause multilateralists』とも称されるこれらの人々は他人の痛みを感じ、自分より大きな何かの存在を信じている。 第2のグループ(22%)は、国際的な開発のための税金が適切に使われているかを知ることを重視する実利的な多国家間主義者である。 そして21%を占める利己的な多国家間主義者の第3のグループが存在する。 彼らはその行動が食糧保障や平和・安全の点で彼ら自身や彼らが所属の共同体にとって有益であると判断すれば国際間の協調行動を支持する。 従って資金が適切に使われれば、人道支援だけでなく、気候危機やパンデミック予防といった地球規模の課題への取り組みに対しても明確な多数派を形成することは可能だ。ただし、この事例が賢明な自己利益に基づいて議論され、彼らと自国にもたらされる相互利益を重視する必要がある。 私たちは、必要に迫られて協力するのか、それとも協力する必要があるのかの判別の答えを長く疑問に思ってきたが、両方ともが正しい答えなのである。 国境を超えて協力する、この誰もが参加できる開かれた姿が、外国人排斥の潮流を逆転させる方法を私たちに示している。 人々の帰属願望に応え、差し迫った懸念に対して共感する前向きで外向き、包括的な愛国心を支持し育んでいくことが、移民や外国人や『他者』を殊更に作り出し悪者扱いする今日の否定的で内向きで、時に攻撃的・権威主義的な国家主義・民族主義を打ち破れるのである。 細部まで深く行った世論調査が教えてくれているように、西欧社会を通して不法な移民が現在の最も大きな国家的関心事項であり、だれもが疑うことなく不法な移民を直ちにコントロール下に置く必要があるとしている。がしかし、更に出されている意見を探ると、今現在彼らの社会・彼ら自身の地域共同体の中に何が起こっているのかの点に関して、より大きな懸念を『中間に位置する大多数の人々』は抱いていることが判る。 先月、Keir Starmer首相は英国の良い所が悪い所を追いだすことが出来ると感動的に語った。正にそう言えるのは、大半の西欧諸国では経済と社会について問われた際に『崩壊している』や『衰退している』という言葉が長年に亘り最も多く使われてきたからだ。 そして首相はまた、極右というものは人々が持つ心の奥底からの憤懣を解消させることに興味を持っているのでなく、極右の興味の対象は、その憤懣を上手く利用すること、ということを思いださせてくれている。 Farage氏は、Lis Truss氏(ジョンソン首相がコロナ禍最中の官邸パーティー疑惑で引責辞任した後に首相となるも、打ち出した大規模減税策が金融機関を混乱させ、政策撤廃に追い込まれ44日という最少期間の政権となった)の壊滅的な小型予算を『保守党が1986年以降提出したベスト予算』と絶賛している。 Farage氏はTruss首相の第2法(首相が実行しようとしているのは過去最大の公共サービスの削減)の法案化も実践しようとしていた。 改革派の2750億ポンドの公共支出削減案は低迷沈滞する共同体社会の修復には繋がらず、逆に共同体社会を破滅に導き、市民間の反目を高め、社会の連帯意識を棄損することになる。 ファラージ氏の極右政権では、病気や障害、貧困や社会弱者でいることは許されないだろう。 今後は、どの選挙区でも、どの病院が、どの学校が、そしてどの公共サービスが先ず始めにカットされるのか、または閉鎖されるのかを、改革派は毎日問われるべきである。 『ファラジズムFaragism』は最も非人道であり、拝金主義よりももっと破壊的であり、そして緊縮性をずっと超える報復性を持つ新自由主義と言える。 全ての西欧諸国を通じて大衆が訴えていることは、彼らの政府による経済と市民社会の再構築なのである。 『改革派』と世界の同盟国は、両方を破壊する政策に対する批判に連日曝されるべきである。 私たちの最良の日々はこれからだと信じる人々にとっては、改革派の偽善に焦点を当てるだけでなく、理想主義者・現実主義者・利己主義者そして英国市民が持つ日々の思いやり・共感力に訴える事例を提供していくことが重要となるのである。
0088
現在の社会状況について(7)工業型農業の選択とゴミ処理プラント---PFAS・MPs・NPsが混入するBiosolids利用により生態系へのPFAS・MPs・NPs拡散のサイクルが成立し機能する
yo-chan
10/26 14:45
現在の社会状況について(7)工業型農業の選択とゴミ処理プラント---PFAS・MPs・NPsが混入するBiosolids利用により生態系へのPFAS・MPs・NPs拡散のサイクルが成立し機能する 特に、PFAS(有機フッ素化合物:Per-and Polyfluoroalkyl substrates)の問題についての報道は主に3つの点に焦点を合わせて国内で紹介されている。 一つは、地方自治体の住民に広がる血中濃度検査の結果に関すること、2つ目は米軍基地と工場周辺の高濃度汚染の実態に関すること、そして3つ目は政府の対応の遅れを問うもの、である。 プラスチック汚染の拡大情報についても、状況は良く似ていると思う。 即ち、ここで述べる『困ったサイクル』の存在と、それが既に機能しているという重要な視点の指摘が抜けているか、或いは軽視されていると認識している。 よってここでは、『困ったサイクル』を構成する幾つかの要素を紹介すること、そしてその構成要素が循環的に相互に関連しあい『困ったサイクル』が発生し機能する構造を考えて見たい。 実は、『困ったサイクル』の構成要素は、私たち社会が敢えて選択したものに由来している。 即ち、農業様式(規模拡大を目指す工業型農業の選択。従来の急峻な地形に合わせ、機能していた小規模農業継続の断念)の選択であり、大量生産−大量消費の生活様式の選択であり、工場生産に過度に依存する食の様式の選択であり、さらに企業が経済性・効率性・作業性から採用したPFAS類とプラスチック類の拡大利用化を、便利さに魅了されて私たちが選択したことに基づいているのである。 これら選択のそれぞれにPFAS類とプラスチック類が内在しているのである。 更に、ここにゴミ処理プラントが『困ったサイクル』の確立とそのサイクルの継続化に欠かせない構成要素として存在している点を強調したい。 PFASやマイクロプラスチック(MPs)・ナノプラスチック(NPs)が抱える現在の課題は、私たちの選択とそしてゴミ処理プラントの存在とから発生する『困ったサイクル』の構図が背景にあるといった。 この構図が継続的に機能することで、PFASやMPs・NPsが広く生態系全体に拡散し、人間と生態系への悪影響が拡大する点に焦点を当て以下に詳述したい。 即ち、PFASやMPs・NPsの危険性は米軍基地や特定の場所に限定された問題ではなく、私たちの知らないうちに私たちの身の回りの至る所に既に危険が蔓延するという『困ったサイクル』が既に出来上がっており、それが継続して機能していることから、PFASやMPs・NPsの危険の禍中で私たちは暮らしているとの認識を持つ必要があると強調したい。 1. 工業型農業選択の問題点 工業型農業は、生産効率最大化達成のため、遺伝子修飾種子・遺伝子編集種子の採用に始まり合成肥料・農薬・土壌改良剤等の外部資源の投入に強く依存し、更に排水処理プラントから排出されるBiosolidsをも安価で高栄養素を含有する素材として農地へ投入することを継続的に行ってきている。 そしてかかる西欧発の革新技術を背景とする近代型農業技術が、世界各地に伝わる伝統農法より格段に優れているとの西欧諸国の偏った信念(以前述べた世界の主要な農政担当者らにこの信念が彼らの教育過程で刷り込まれるとされる)が、資金的裏付けをも背景にして世界に充満し、工業型農業の世界への拡大が推進されていることも現在の農業が抱える大きな問題であり、結果としてPFASやMPs・NPsを拡散する世界的な直接ルートの拡大がノーチェックで進行する背景になっている。 2. ゴミ処理プラントへのPFAS・MPs・NPsの集中とBiosolidsへの変換と残存化 泡消火器向け、繊維製品の皮膜形成向け、そして食品容器向けと広範な目的のためにPFASは数千種類の工業製品や生活必需品製品に利用されている。 プラスチックの社会への浸透具合は言うまでもなく、プラスチックのない世界が逆に想像できない状況が継続している。 故に、これら工業製品・生活日常品や住宅設備から排出される各種ゴミの受け皿である廃水処理プラントは、PFAS・MPs・NPsを除去する工程を現状組み込んでいないために、“永久に残存する化学物質forever chemical”と言われるPFASや、やはり安定性に定評のあるプラスチックの類は、ほぼ変化することなく固体状汚泥(Biosolids)の形に濃縮され残存する。 3. 固体状汚泥(Biosolids)の大地への投入と汚染拡大経路 PFAS・MPs・NPsに汚染されたBiosolidsが農地に投入されると、幾つかの経路を進み拡散されていく。 3−1)土壌汚染 土壌に混入したPFAS・MPs・NPsは土壌の性質と投入されたPFAS・MPs・NPsの種類ごとの安定性にもよるが、基本的には持続して存在し続けることになる。 3−2)作物への吸収 汚染土壌で生育する作物はPFAS・MPs・NPsを吸収する。よってPFAS・MPs・NPsは食物連鎖の中に組み込まれることになる。 3−3)水汚染 PFAS・MPs・NPsは地下水系を汚染する可能性があるとともに、地表を流れる水と共に流れていき、飲料水の汚染や灌漑用水の汚染を引き起こす可能性がある。 3−4)家畜の汚染 汚染水を飲むことや汚染土壌で生育した飼料草を食べることで家畜にPFAS・MPs・NPs汚染が発生し、よって汚染された畜肉製品・乳製品や卵が販売されることになる。 4.『困った汚染サイクル』の誕生と循環 4−1)工業依存型社会の推進・拡大 大量生産−大量消費が推奨され、よって工業生産に過度に依存する社会が成立している現 在、これら大量に生産されるすべての商品にはPFAS・プラスチック類(MPs・NPsを含 む)は混入している。大量に消費している現在、社会から排出されるゴミにも当然PFAS・ プラスチック類(MPs・NPsを含む)が大量に混入している。 4−2)工業型農業向け外部投入資源Biosolidsへと変換する経路 社会から排出されるPFAS・MPs・NPsを大量に混入するゴミはゴミ処理プラントに集中 し、そこで安価な農業向け肥料であるPFAS・MPs・NPs入りBiosolidsへと変換される。 合わせてPFAS・MPs・NPsが残存する処理済み浄化水も発生する。 4−3)工業型農業 大規模に行われる工業型農業では、これらのBiosolidsを土壌肥沃剤として投入する農耕法 が採用されている。 4−4)汚染の進行と拡大 Biosolidsに混入するPFAS・MPs・NPsは土壌を汚染し、作物・家畜を汚染し、そして地域が利用する水系をも汚染する。 4−5)人々へのPFAS・MPs・NPsの暴露 汚染された作物と飲料水を摂取することで人々にPFAS・MPs・NPs汚染が引き起こされ、重篤な疾患の恐れが発生する。 上に示したサイクルの発生と継続的なサイクルの活動の結果、人間へのPFAS・MPs・NPsの暴露の問題を指摘したが、このサイクルの結果影響が出るのは、人間だけでない。 土壌中の微生物や小動物、水系の微生物や小動物・小植物、更に食物連鎖に取り込まれることで大小を問わず全ての動植物への悪影響も考慮する必要があり、もっと言えば広く生態系全体にその悪影響は出ている可能性をイメージすることが私たちには求められる、そういった事態が既に出来上がっているということである。 PFAS・マイクロプラスチック・ナノプラスチックという私たちが抱えている現代の課題は、大量生産−大量消費という社会習慣、食を含めた私たちの工業型生産物への過度の依存、便利さ・経済性だけを重視する生活スタイル、そして工業型農業の採用で起こるゴミ処理プラントから排出されるBiosolidsを肥料に利用するというPFAS・マイクロプラスチック・ナノプラスチックの世界的ばら撒きシステムの存在と採用から発生しているのであり、いわば私たちのライフスタイルにも大いなる責任がある構造的問題であり課題なのである。
0089
>現在の社会状況について(8) トランプ主義とCOP30への影響
yo-chan
11/04 15:33
現在の社会状況について(8)トランプ主義とCOP30への影響 もう少しでアマゾンの港湾都市Belenを舞台とするCOP30が始まる。 世界が同じ方向を見つめ、直面する課題、気候変動への緩和と適応に資する行動を討議し合い、各国は独自に設定した削減計画の棚卸と次なる新たな意欲的な目標設定を目指す場がCOPではないかと思うのだが、この行方にトランプ大統領が大いに影響しそうである。 先ずは、トランプ氏がここのところ取る氏ならではの弁舌と戦術の幾つかを挙げれば次のようになろう。 1) 気候変動危機の否定:氏は世間に流れる気候変動の言説が『詐欺(con job)』だとか『悪ふざけのでっち上げ(hoax)』だとの話を再三にわたりソーシァルメディアを通して、そして公式表明の場を通して行っている。この氏の行動は、国際間で行われてきている気候枠組み交渉がアメリカ経済の活動に負担を強いるものであり、科学に立脚した要請というよりもイデオロギーに引きずられた要請に基づくものだという世論の流れを作りだそうとしているものといえる。 【健全な科学とは?という設問に対する政府の回答が、政権が変わるたびに変更されるという問題がある。この点については別の機会に紹介する予定】 2) 多国間協議と合意からの撤退:氏は再度パリ合意協定からの撤退を宣言し、国連気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)からの撤退の脅しを行っている。 3) 国内の法規制の解体:オバマならびにバイデン政権時代に行われた環境と気候問題に関する法制度(例えばクリーン電力計画や電気自動車指令)の解体に精力的に取り組んでいる。 またインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)に絡むクリーンエネルギー税制優遇措置(Clean Energy Incentives)の弱体化を図っている。 4) 化石燃料の拡大化:トランプ政権のエネルギー戦略は石油・天然ガス・石炭の採掘推進であり、その為の連邦所有の土地と水域の開放であり、連邦が有する石炭採掘用地のリースを一時停止していた状況を撤回するという動きである。 5) 経済的圧力の利用:トランプ政権はアメリカが有する経済的・政治的影響力を利用して国際間の気候関連運動(例えば国際海事機関が手掛ける海運に対する炭素税構想を遅滞化させるトランプ政権の動き)を妨害する活動を精力的に行っている。 6) 政府権限を持つ担当者のCOP30への参加の回避:せいぜい権限のないオブザーバーが参加する方式を採用すると見られている。 上記のトランプ政権の横やりが存在する状況下での今回のCOP30では、目指す方向性に混乱が生じるであろう、との懸念が指摘されている。 また、国際間の討議の場において『多国間協調主義Multilateralism』の考えが弱体化し、『多利害関係者主義Multistakeholderism』の考えが隆盛を極め、よって多国籍巨大企業の思惑が国際間の討議の場で大きなウェイトを占め、討議の流れさえ支配する状況になっている。この動きを主導するのがロビィストと称する知的技能者たちであり、彼らの戦術に討議の『遅滞化(delayism)』と『そっちこそ、あっちこそどうなんだ主義(whataboutism)』があり、国際間の討議の混乱化や遅滞化が最近の特徴の一つになっている。今回のCOP30においてはトランプ主義という波乱要因と共にロビィストによる混乱要因の存在が多いに懸念される。 かかる状況の下ではあるが、来るCOP30の行方に絡む幾つかの話題を紹介することで、現在の社会状況の特徴の一つにスポットライトを当てたいと思います。 始めに紹介する情報は、『COP30を直前に100カ国が気候目標設定に苦しんでいる』 (原題:100countries stall on climate targets ahead of COP30) E&ENEWS by POLITICO, 2025年10月27日 サラ・ショーンハート氏記す 以下全文紹介でなく、要点のみの紹介になります。 トランプ大統領は、世界の指導者に気候変動対策の放棄を強要し、各国は意欲的な炭素削減目標の提出が出来ない状況が続いている。 そしてトランプ氏のパリ協定離脱姿勢により、アメリカの気候変動目標は見当違いの方向になる恐れがある。 温暖化を促進する汚染が拡大するなか、多くの国々は近く始まる多国間国際協議の準備を進めているが、パリ協定に合致すべく意欲的な炭素削減目標の提出が出来ない数十カ国に及ぶ国が世界には存在している。 トランプ氏により、アメリカの気候対策は骨抜きにされ、そして氏は、他の諸国に対し対策の放棄を強要している。 かかる状況下、EUはアメリカ撤退の空隙を埋める努力をし、世界最大炭素排出国中国は、排出削減の公約となる新たな対策目標を提示したが、充分に意欲的な目標ではない、と専門家らは指摘している。 トランプ氏は、貨物船やその他の発生源からの汚染物質削減を求める対策の弱体化を公然と主張しており、そんな中で行われるアマゾンの港湾都市Belenでの今回のCOP30は、30年前にCOPがスタート以来、恐らく最大の政治的反発に直面しているといえる。 現今の気象変動状況下で、いかなる対策が求められるかを考える世界の国々は、彼らの目指す方向と真逆の方向を目指すトランプ氏と取引しなければならないことを心得ている、とバイデン政権下で気候政策アドバイザーだったジョン・ポデスタ氏は指摘している。 だがトランプ氏だけが現在の課題ではないのである。 世界ではエネルギー需要は高進し、化石燃料の離脱への道には複雑さが増している。 一方、政治世界では対立が、そして生活面では日常必需品の価格は高騰し、それらの要因によって欧州の気候対策策定には波乱が生じている。 国連への各国のNDC(Nationally Determined Contribution今後10年間にわたる国家で決めたGHG排出削減計画の表明は5年ごとに求められている)の最初の提出期限は2月で、次の期限は9月だったが、現時点(10月27日)で提出した国の数は70カ国に満たない(195カ国が提出を求められている)。 アメリカが真逆の方向性を目指すという不確実性が高まるなかで、世界の国々には高い目標の意欲的な行動計画の提出が求められる、という不可思議さに対し世界各国が懸念と疑念を持つことは驚くに当たらない、とジョナサン・エルキンド氏(エネルギー省の元高官)は語る。 景気が好調であろうが、不調であろうが、そして戦乱やパンデミックがあろうが無かろうが、持続可能性が数十年にわたり維持できるかどうかが真に大切なことであり、その為には注意力が、焦点を定めることが、創造性をもつことが、そして何にもまして資本また資本が求められる、とエルキンド氏は指摘する。 現在のところ、トランプ氏に追随してパリ協定の離脱を表明する国はない。 しかし、世界初となる筈だった海運炭素税を支持する国々に対しトランプ氏は10月初めに関税を課すとの脅しをかけた。その結果、各国は態度を変え、海運炭素税の可否に関わる投票は1年間延期される事態となっている。 この動きにより、COP30交渉のEUの立場が先週一時的に混乱している。 しかし時間は限られている。時は刻まれている。そして、全てを上手く推進するのに必要な事柄を私たちは充分に認識していない、とポデスタ氏は指摘する。 先月、ニューヨークでCOP30に先行しての国連気候サミットが開催され、加盟各国に対し新たな意欲的政策目標の提出を促した。その会合には100カ国以上が参加しており、気候変動対策推進を目指す専門家らは、トランプ氏の横車にもかかわらず世界の多くの国々には変動対策への積極性がある、と見ている。 そして英国・日本とブラジルは意欲的な削減目標を示しており、また欧州委員会委員長のUrsula von der Leyen 氏はCOP30開催前の提出を声明している。 しかし亀裂の存在もまた明らかになってきている。 世界で3番目の排出国のインドは参加を見送っている。 そしてG20を構成し、世界の排出総量の4分の3を排出している10カ国は、求められている新たな削減目標をまだ提出していない。 そして、2030年を最終期限とする前回のNDC削減目標を達成すると見られる国の数は少ない、とされる。最近の研究結果はそれを裏付けており、例えば日本・インドとアメリカは現在の状況からすると前回のNDC削減目標を達成出来る見込みはないとされている。 次の紹介記事は、『目指す変化の方向性が今や変えられ、気温上昇1.5℃以内の目標達成が困難になっている、と国連代表が表明』 (原題:”Change course now”: humanity has missed 1.5C climate target, says UN head) The Guardian, 2025年10月28日 ジョナサン・ワッツ氏・ワヤ・ザイパイ氏記す 既に人類は1.5℃以内のパリ合意の目標達成に失敗しており、故に将来の破滅的な結果の現出は避けられないと指摘した上で、現在たどっている道を直ちに変えることの必要性と重要性を、COP30各国代表団に対し国連グテーレス事務総長は指摘し、警告している。 歴史上最も暑い10年を世界は体験している。 化石燃料大量消費による気温上昇はそのスピードを加速していると研究者が指摘するが、それにもかかわらず各国政府の目標公約とその実践内容は不充分、とグテーレス氏は語る。 パリ合意に従い、国の気候行動目標計画(NDC)を期限内に提出しているのは、197カ国のうちの62カ国だけ、即ち世界の3分の一以下の国だけが期限内に提出しているのである。 そしてトランプ政権のアメリカはその手続きを既に放擲している。 パリ合意目標の1,5℃以内の気温上昇の達成には60%の削減が求められるが、現時点で提出されたNDCの内容では、期待される削減は10%という。従って1.5℃以内の気温上昇目標の達成は困難になっている、とグテーレス氏は指摘する。 それでも国連事務総長はパリ合意目標達成に合致する軌道への回復はまだ可能とし、その為にはCOP30を手始めとして今後の国際間の協議における軌道の大転換の重要性を指摘している。 そして、グテーレス氏は、国際間協議に送り込むメンバーのバランスを再考することの重要性を各国政府に対し指摘している。 即ち市民団体・殊に各国の先住民共同体を代表する人々・団体をメンバーに加えることの重要性を指摘している。 ロビィストらが望むことは充分に分かっている、彼らは人々全体の利益を犠牲にして、自分たちの収入の拡大を目指すものだ、と事務総長は指摘する。 COP30におけるブラジルの取り組みの一つは、熱帯雨林フォーエバー・ファシリティー(Tropical Forest Forever Facility)であり、現存林の保護のために1250億ドルの調達を目指している。支出される資金の5分の1は、森林の生物多様性と炭素吸収機能の保全に長く寄与している先住民の共同体の活動支援に向けられる。 グテーレス事務総長は、ことあるごとに先住民の声の重要性を強調している。『自然を最もよく守る人々に投資することが不可欠だ』と主張している。そして世界の指導者たちは先住民から自然とのバランスを取る方法を学ぶべきだと述べている。 特に経済状況が複雑化し、そして気候変動・災害・大惨事に直面した際、政治指導者らは日々発生する社会の課題に時として関係したがるという性癖を持っている。 故に、政治指導者の中には自然との調和をとることの重要性を理解していない例が見られ、彼らへの継続的な教育が必要であり、その教育には先住民共同体が最適な先生になる。 次の紹介は『アメリカの超富裕層の行動が、現在の気象状況のもとでの地上の安全な地域空間を狭めている』(原題:America’s super-rich are running down the planet’s safe climate spaces, says Oxfam) The Guardian 2025年10月29日 ジョナサン・・ワッツ氏記す Oxfamの調査により、超富裕層の投資のほぼ60%が、石油や天然ガスや鉱物資源の採掘といった気候変動に大きく影響する業種に向かっていることが判明している。 そして、アメリカの超富裕層(アメリカ総人口の0.1%:約30万人とされる)が生み出す炭素排出量は、世界の最貧層10%(即ち8億人)が生み出す炭素排出量総量の4000倍だという。 別の視点で言うと、アメリカの超富裕層の生活は、世界基準で平均的に暮らす人々と比較して、地上の安全な地域空間を183倍分早く・大きく狭めている、という。 また彼らの『炭素がぶ飲み』生活を見ると、0.1%の超富裕層が日々排出するCO2量は2.2トン(年間に約800トン)。一方、ソマリアの平均的市民の日々の排出量は82g(年間約30kg)であり、また世界で暮らす多くの人々はその中間に位置し、平均して日々12kg(年間約4トン)を排出する生活を送っている、とされる。 更に言えば、世界の308人の超富裕者をひとつの国と見なし、彼らの総排出量を全世界の国別ランキングに当てはめると、第15位になるとされる。 そしてこの傾向はここ30年にわたり拡大しているのである。即ち、0.1%の超富裕層の排出総量に占める割合は1990年以降32%拡大し、反対に世界の貧困層(50%)の占める割合は3%低下している。かかる状況を、Oxfam International代表のBehar氏は『気候危機という課題は、不平等の危機』でもあるとしている。 『世界の超富裕層は気候危機を煽る方向の投資を、行い利益を得、そして彼ら以外の世界市民には壊滅的な災厄を甘受することを求めているのである。そしてかかる彼らの権力の行使には何ら規制が掛けられていない』 不平等性の存在は、危険な循環構造を生みだす、即ち少数の富むものがますます富んでいけば、拡大する気候危機に対する排出責任がそれら少数者に集中していくのであるが、彼ら少数者は彼らの蓄えた財力と影響力を使って排出責任を否認し、責任があるとなっても遅延化を画策し、また他者へ排出責任をなすりつける可能性をも狙うのである。 Oxfamの調べでは、石油業界・天然ガス業界が主導する形で世界の企業は年間平均27.7万ドルをロビー活動に使っているとされ、前回のバクーで行われたCOP29では1773人からなるロビィストの集団が投入されていたという。彼らは巨大排出者に掛けられるぺナルティーの骨抜き化、化石燃料からの撤退化気運の巻き戻し化等々を図っていたとされる そしてもっと心配な状況がある。即ち超富裕層の投資先の傾向が極右運動や人種差別運動に向かっているということであり、それら極右・人種差別運動が、気候変動対策の基本目標である迅速なネットゼロ化政策に対立し、反対する急先鋒となっているのである。 その行く先にあるのは危機的なものであり、1%の富裕層の排出により、今世紀末までに計算上130万人が熱中症関連で死亡すると見積もられている。また2050年までに中所得−低所得の国に対し総計44兆ドルに相当する経済的打撃が起こると見積もられている。 被害はグローバルサウス諸国により偏って生じるのである。 『超富裕層が行う世界の気候政策への締め付け行動に対し、各国は彼らに適切な課税を課し、そして彼らが行うロビィスト支援活動を禁止し、ロビィストに代わり気候危機に最も直面している人々を気候問題討議の場の前面に据えることが求められると、Behar氏は指摘している。
0090
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(1)
yo-chan
11/06 10:24
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(1) 世の中には、少なくとも2つの流れがあると思う。 農業の分野でいえば、競争力UPを求め、ひたすらに規模の拡大・効率の向上・生産量の拡大を至上命題とし、農薬・化学合成肥料等外部資源の大量投入を辞さない工業型農業の姿が一方にある。アフリカを舞台とするAGRAが代表だろう。 そしてもう一方に、規模の拡大には意義を認めず、農薬・化学合成肥料等外部資源の投入についても基本的には意義を認めず、自然と共生するアグロエコロジーにこだわり、健全な農地の土壌にこだわり、公正・公平な食料供給システムを追求し、食料の自主権を確立することで農民の自立を目指し、合わせて地域共同体の活性化を目指す農業の姿がある。 アフリカのAFSAや南米発のLa Via Campesinaが代表だろう。 ただし、投入される資金面で、2つの農業の姿には非常に大きな格差・落差があり、前者には注目度・資金という日の光が大いに当たっているのに対し、後者には注目度も資金というお日様はほとんど当てられていないのが実情である。 かかる状況の不自然さを普段から感じており、後者の農業の姿にエールを送ることに意義あるとの思いから今まで後者の話題を敢えて数多く取り上げてきている。 農業分野へのデジタル化の推進が、殊に前者の工業型農業に浸透してきている状況に対し、この動向に対する後者の立場からの意見表明が発表されていることが分かり、そしてその内容が非常に興味深いと感じたことから、今回、何回かに分けて紹介したいと思います。 繰り返しますが、注目度の低い中で活動している後者の農業の拡大を目指している人々の声が出されていることに対する応援の気持ちを込めた紹介とお考えください。 今年の4月に発表されていた興味深い情報です。出来る限り全てを網羅したい考えですが、50ページに亘る情報であり、部分的な省略を交えることとなります。 では始めます。 『デジタル化が、アグロエコロジーを志向する農民に課題を投げかけている:ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体の視点』 2025年4月28日 原題:the challenges digitalization brings to peasant agroecology: an ECVC perspective 農業分野のデジタル化の推進が、農業分野への企業の影響力をさらに強めること、そして既に存在する格差が更に拡大することのないようラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(European Coordination Via Campesina:ECVC)は、25項目の推奨事項を以下に纏めた。 これら推奨事項を採用し、順守することで初めて、デジタル化推進が食糧の自主権と安全性確保と保障に役立つ形になると考える。 小規模食糧生産者の要望を優先する条件のもとで、環境的・社会的な危機状況に対処していく上でデジタル技術推進は役立つものになるだろう。 (前文) デジタル化が進んでいる。私たちの生活すべてに影響が出ており、農業も例外ではない。 ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(ECVC;以降ECVCと略記)はこの状況を踏まえ、デジタル化進行と幾つかの農業技術の未来像に対し、ECVCの立場と見解を表明する。以下の表明は、ECVCの政治的な態度を表明しており、そこでは事実に基づく話や大地に根ざした例が示されている。 『デジタル化が、アグロエコロジーを志向する農民に課題を投げかけている:ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体の視点』という表題の報告は、私たちのタスクチームの分析結果ならびに2024年に行った2回にわたるワークショップの結果を反映しており、ECVCの各メンバーの考えを反映したものです。 ここに紹介するデジタル化に対するECVCの立場・見解が、ECVC各メンバー間の議論の指針として役立てられること、ならびに農民が持っているデジタル化推進に対する明確な見解と懸念を、政策立案者、各種公共団体や各種市民団体に対し、提示する機会となることをECVCは期待している。 (概要) 農業のデジタル化にはデジタル技術の広範な利用が包含されており、そしてデジタル技術には、社会が抱える様々な課題に解決策を提供する力があるとして、各国政府・国際機関や各企業がデジタル化を推進している。情報・通信技術にはインターネット・無線ネットワーク・セルフォン・コンピューター・ソフトやメディア利用等が含まれ、デジタル形式で情報の相互交換・データ貯蔵・情報伝達・情報加工等の利便性を利用者に提供している。 デジタル技術には人工頭脳(AI)やデータ科学の活用も包含されており、膨大な量の情報を処理し、加工することで、対象情報のパターン・傾向・内部構造等の情報を得ることが可能になっている。現在のバイオテクノロジーにも利用され、デジタル的に土地のマッピングを行うことで地理空間的データを取得することが出来、またこれらデータ集積と各種データ処理を組み合わせ利用することで炭素のクレジット化や生物多様性のクレジット化等のビジネス拡大に結び付ける方法も存在している。 近代化の名の下に食料システムのデジタル化を推進するということは、実態としては社会の中における企業の存在と企業の役割が拡大している状況を見えにくくする企業側の戦略と言え、そしてグローバル化の進展で起こっている格差の拡大を継続させ、その構造を定着させるものである。 自由貿易協定(FTAs)に後押しされた多国籍アグリビジネスが、革新技術を独占し、強力な法規制と公共政策に守られ、食糧の生産と分配に関する権利をも多国籍アグリビジネスが独占的に管理している。 デジタル化推進による支配は、小規模農家を消滅の危機へと導くとともに、データ所有権と意思決定権がごく少数の巨大企業と強力な国家の手に集中する事態になっており、それにつれて、本来小規模農家が権利として持つ筈の食糧の自主権の侵害にも繋がってきているのである。 そして、これら巨大企業や強力国家は、『人』の優先ではなく『利益』の優先を掲げるモデルを推進しているのである。 よって、彼らの推進する農業は利益優先であり、人々の幸福優先ではないのである。 従って、持続可能で強靭性のある食料システムを構築する上で重要なアグロエコロジー的農耕慣行は弱体化されていくことになるのである。 このデジタル化推進の流れは、データ帝国主義の一形態であり、そこでは農民共同体が生み出してきた膨大な量のデータが、適切な見返りなしに、勝手に抽出され・集積され、そして商品化されていっている。 自由貿易協定には、かかるデータ抽出を促進する条項がしばしば挿入されており、米・ロシア・EU・中国・インドやブラジルといった主要国とそれ以外の国々との間の力の格差が更に固定されていくことになるのである。 ECVCは、この現在の農民たちの保有するデータを搾取し、対価なしで商品化する企業が提供する現行のモデルへの対抗策としてアグルエコロジーを支援するものである。 アグロエコロジーというものは、単なる一つの農耕法以上の意味を持つ実践的農耕なのである。そこでは農民の持つ知識と近代的研究体系とを総合的・科学的に統合化していくことになり、持続可能な強靭な農業システムが作り出されることになる。 【ここでいう近代的研究体系とは、Schumacherがsmall is beautifulの中で語る中間技術に頼る研究を指していると考える。決して巨大企業だけが投入しえる巨大資本が必要条件とされ生れ出る巨大技術を指すべきでないと思う。この中間技術に拘る姿勢がアグロエコロジー拡大に結び付くのであり、地域共同体の活性化に結び付く道だと確信している】 工業型農業が、外部からの投入資源や単一種栽培に頻繁に依存するのに対し、アグロエコロジーは、多様性・地域が持つ特質・エコロジカルな原理に価値を置いている。 世代を超えて積み重ねられた農民の持つ知識は、アグロエコロジーにとって基幹となる知識体系であって、作物の持つ強靭性や土壌の肥沃化やエコシステムの管理運用に貴重な参考資料となる。 この伝統的知識と科学的研究体系とを組み合わせれば、地域の状況に適合した、そして長期に亘り持続可能な農業実践を行うことが出来る。 デジタル化推進による企業統治の拡大に抵抗することで、農民の持つ伝統知識の権利を守ることができ、生物多様性は保全され、より公正でより持続可能な食料システムを推進できる。 しかし、複雑な事情もデジタル化推進の中にあり、デジタル化には潜在的な長所もある。殊に農民が行うアグロエコロジーに役立つデジタル技術を利用する場合である。 例えば、アプリやネットワークの様なデジタル道具がそれで、これらの利用で農民間の知識の交換・交流は促進され、作物管理や気象状況への適応の様な農業実践に役立つ。 これらの技術は、農民の知識を補完するように使われるべきであり、そこでは農民は自律性が担保される形でデジタルデータを収集し活用し、伝統的なやり方と統合して農耕を進めることになる。結果的に、外部からの間違った解決策の利用は回避できることになる。 次の章で、農業におけるデジタル化の様々な側面を批判的に検討する。そこでは農民が共有している実際の例を取り上げており、これらの問題に対するECVCの立場を明確に示すこととしている。 そして、現在のバイオテクノロジーのような分野を解明し、土地に関連するデジタルの利用やカーボンクレジットの勃興、デジタル化に基づく課題とリスクを強調することとする。 (ボックスA)農業のデジタル化に関するECVCの立場 デジタル技術は、より持続可能なより公平な食糧システム確立に貢献できる潜在力を持っているけれども、現行のデジタル技術の実践は、しばしば企業の力を強化するように働き、存在する不公平さ不平等さを悪化させる働きをする。 農家・牧畜家や小規模漁業家は農業と食糧生産における最も長い歴史を持つ革新家である。 農業と家畜飼育が始まって以後、必要とされるものに対応できる、そして直面する課題に対応できる道具とシステムを創造してきている。 そして農民の深い知識と知識を得ていく方法は、データを単に蓄積し加工処理する以上に多くの意味合いを持っている。 農民たちの知識は包括的な実践に結び付くものであり、そして農民たちと小規模食糧生産者の間にある複雑な社会的・生態学的な関係性にも結び付くものである。 また農民たちのアグロエコロジカルな実践と革新というものは、蓄積する認識プロセス(cognitive processes)に依存するとともに、人間の感覚や直感にも依存するものである。 私たちの急速に進展する世界において、技術ならびにデジタル化というものは私たちの生活に欠くことのできない部分になってきており、それらのカバーする範囲は私たちの食料システム全域に拡大している。 それらはしばしば技術革新に『必要な道具』として提供され、あるいは複数の世界的課題に取り組む手段を提供する。 しかし、真実はもっと更に複雑だ、ということを私たちは知っている。 私たちは『高度技術の道具』の利用を強制されアドバイスされる一方で、農村田園地域には大きなデジタル格差(デジタルを利用する機会の格差や能力格差)が存在しており、殊にこの問題は女性と小規模農家に影響が顕著なのである。 多くのデジタル推進者たちは更なるデジタル化が若者をこの分野に引き込むと主張する。 しかし、欧州では若者たちは農民の生活スタイルを優先しており、彼らにとってはデジタル化の推進の優先順位は低いのであり、若い農民らは確実な所得と土地の利用性について議論しているのである。 ここで、ECVCは反技術主義の立場でないことを明確にしておきたい。 私たちのメンバーは有効な道具と技術を持ち活用している。一方、デジタル化推進に対しては、注意を払う必要があると考えている。理由はこの技術が中立性を欠いているということを充分に認識しているからだ。 現在のデジタル道具と技術の大半は小規模農家の要望に沿う形で取り組んではいない。 現実の実態としては、酪農のロボット化であり、群れの位置情報やサテライトとトラクター連結技術等である。これら全ては、いわゆる『意思決定支援道具』ではあるが、実態としては『自動的に意思決定が提示される』のである。 それは私たちが抱えている課題とはかけ離れたものであり、このことから新たな懸念とストレスが生れる。 私たちの生産工程を決定する権限は低下し、農業活動を企業のコントロール下に置くことを助長する。よって小規模農家の生計を棄損することに繋がると見る。 換言すると、デジタル化推進運動は、気候変動を含め現在の地球規模で直面している複合的な危機の根元にある要因に取り組むものではないのである。 2回のワークショップと内部会合の議論を通して、ECVCメンバーが主な懸念事項として捉えているものは、多くの技術的解決策が私たちとの協同作業により、或いは我々の為に開発されているのではないという点であり、実質的には私たちにリスクを負わせるものになっているという点である。 EU の全体的な政策というものは、例えそれが、農民が主導するものでなくても、あるいは農民との協同的なものでなくても、この種の研究ならびに技術の革新に対し非常に緩やかな方式を助長するものであり、よってデータ主導型技術を所有するか、或いはデータ主導型技術をコントロール下に置く強力な組織によって動かされていくのである。 小規模農家としての私たちの自治権自主権は、『農耕資源』のコントロール権を維持することに依存する。そして私たちの『農耕資源』としては、土地であり、労働力であり、知識であり、技術であり、種子であり、あるいは家畜育種法であり、それら全ては農民が潜在的にもつ自己適応力に結び付いているのである。 このことが、デジタル技術を内包する強力な土地測量技術保持者らとの衝突を招く。 私たちは、私たちの了解なしに為されるデータの収集を望むものではない。 それだけでなく、それら勝手に収集されたデータが、後に私たちに『コンサルタント料やアドバイスサービス料』を名目として販売されるべきでないと考える。 私たちは、私たちのアグロエコロジーへの転換を包括的にそしてボトムアップ方式で支援してくれることになる『研究と技術の革新の新たなパラダイム』への移行を求めるのである。 革新的技術やデジタル化というものは、食糧に対する普遍的権利に役立つべきものである。 EUメンバー諸国は、農民の了解なしに撮られた衛星写真を用いるといった、農民の不利益になるような形で法廷論争において、それら衛星データを使用すべきでない。 以上の全てのリスクが存在しているにもかかわらず、デジタル技術というものが追加的データとともに不公平性の存在を明らかにする上で、そして食糧安全保障と食糧自主権を推進する上で、さらに生態系と社会に対する危機に対処する上で貴重な資源となる可能性があると、私たちは認識している。 データ利用性を更に拡大することは、知識を拡大し、多くの解決策を与えてくれる可能性がある。 しかしながら、このことが有効性を発揮するかどうかは、公正な食糧システムを達成する上で鍵となる強力な公的ガバナンスの枠組みの開発が展開されるかどうかに掛かっている。 米国とEUに対し、農業技術にデジタル技術を適用する際の彼らの取り組み思想の再考を求める由縁は、そこにある。 即ち私たちは、デジタル技術が生態系の劣化を引き起こすという問題から社会の不公平さを拡大するという問題にわたり、問題を悪化させる可能性を持っているとともに、一方ではデータを通して理解の拡大化を図る上での潜在的な力をデジタル技術が持っているという認識も持っているのである。 今回はここまでとします。
0091
>アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(2)
yo-chan
11/22 12:56
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(2) 第一回目に続き、ECVCの推奨する25項目の紹介から今回は始めます。 農業分野にデジタル化を推進することが、単に企業の支配力が強化されていくことに結び付き、現在の不公平さ・格差が拡大していくことを結果として生じてしまうようには利用されるべきでなく、農業分野のデジタル化推進は、公平・公正な食糧システムの構築と支援に貢献する方向に行われるべきである。 この考え方をもとに、ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(European Coordination Via Campesina: ECVC)は、以下の25項目の推奨事項を提示する。 (支援策) 1.EU加盟諸国とEUは、資金的支援と参加型方式での支援を行うことで、農民の持つ知識を保全し強化することが求められる。ここで、参加型方式での支援とは、地域の農民と共同体が農業における知識を作りだし、共有化していくことを含むものである。 デジタル的道具が持つリスクを包括的に評価することが必要であり、それら道具が農民の行う農耕ならびに生態系にどのように影響するかを評価することが求められる。 2. EU加盟諸国とEUは、農業のデジタル化の推進が潜在的に持つ危険性から生態系および農民らを守るために事前に取り得る基本的原則を打ち出すことが求められる。 3. EU加盟諸国とEUは、農民と農業従事者らの権利を保護する政策をデザインし実践することが求められ、合わせてアグロエコロジーの推進と持続可能な農業実践の強化のために当該技術の支援を行うことが求められる。 (データの所有権の問題) 4. EU加盟諸国とEUは、知的所有権(intellectual property rights; IPR)・契約・デジタル錠(digital locks)あるいは如何なる利用上の制約の存在があるとしても、様々な保護を禁じることでアルゴリズムの透明性の確保を保証することが求められる。農業のデジタル化の流れの中で利用されるアルゴリズムというものは、大衆による公共利用のためには、自由であり・外部に開かれた状態であるべきであり、知的所有権による障壁は取り除かれることが求められる。 【知的所有権とは企業の勝手の部分とも言え、市民が本来持っている勝手の部分と、時にその兼ね合いを考える必要があるのだろう】 5. EU加盟諸国とEUは、農民が持つデータの所有権は農民が保持すること、そしてその利用で生じる直接的な利益は農民にあることを保証することが求められる。如何なる利用・自動的データ収集、或いは農民への事前の説明と了解なしでのデータ収集は禁じられる。農業に関するデータを元々所有する立場の農民は、それらデータがどのように収集され、貯蔵され、利用されていくかについて完全な支配権を持つべきなのである。 6. EU加盟諸国とEUは、生物的資源の中に同定され、特定されるデジタル連鎖情報(the Digital Sequence Information, DSI)が、これら生物資源の遺伝的構成要素であることを明確に認識することが求められる。従って如何なる知的所有権による制約があるとしても、その利用は妨げられるべきでなく、欧州の法規制のもと『基本的生物プロセスessentially biological processes』の用語で定義されるように、天然生物資源にも拡張的に適用されるべきであり、あるいは伝統があり農民が主導する選別選択プロセスでもって誘導される天然生物資源にも拡張的に適用されるべきである。 7. EUと食料・農業向け植物遺伝資源に関する国際条約 (International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agriculture:ITPGRFA)の統治機構は、食料と農業向けの植物遺伝資源のデジタル連鎖情報(DSI)が植物遺伝資源だということを認識することが求められる。 8. ITPGRFAの統治機構は、それぞれの国内法の中で各国は条約第9条で定義される農民の権利を擁護支援することを保証することが求められ、そして多国間のシステム・それらの遺伝子部分・12.3(d)条項に関わる構成要素を通して獲得された種子に関わる如何なる知的所有権の主張を排除することが求められる。 EUとしては、このことは現行のGMO規制を維持し、厳格に強化することを意味するものであり、一方種子に関する市場や知的所有権および植物の健康保全に関わる法的な枠組みの修正は、種子に関する農民の権利と一致することする。 9. 便益の共有化については、ITPGRFAは共有便益の収集・分配についての権限と責任を各国に与える必要がある。各国との協力無しでの如何なる便益の分配も、利用と便益共有化に関する多国間システム(Multilateral System of Access and Benefit Sharing; MLS)の食料・農業向け植物遺伝資源(PGRFA)に含まれるデジタル連鎖情報(DSI)の利用やインターネットへの自由な接続性に適用すべきでない。 10. EUは、小規模農家から得られるデータに関する小規模農家の支配権を保護する政策を強化することが求められる。このことには、農業データを企業が利用する際の安全装置の設置化が含まれ、そして農民や協同組合や地域共同体の便益となるデータの共有化モデルを推進することが含まれる。 (間違った解決策とならないために) 11. 加盟各国は炭素市場(carbon markets)や生物多様性市場(biodiversity markets)を避けることが求められる。 12. 加盟各国とEUは、炭素農耕(carbon farming)の推進と生物多様性オフセットスキームの推進を避けることが求められる。何故なら、これらのことは『自然』を商品に変えることであり、小規模農家の知識と自律・自主権を損なうものだからである。 炭素除去保証化枠組み(Carbon Removal Certification Framework, CRCF)のようなデジタル化された炭素除去スキームに依存するのでなく、採用する政策は生物多様性を高め、土壌を改善し、実質的な気候温暖化対策に真に貢献するアグロエコロジー型実践を直接的に支援するものであるべきである。 13. EUは、説明責任を有し、人間を中心に置く技術の利用を推進すべく強固で堅牢な計画を開発・展開させることが求められる。そして事前の注意対策の優先、農民の自立・自主権の保証、知識伝達の保証、そして気候危機に直面する若年農民の自立を優先し保証することが求められる。ここで、ハイテク技術利用に依存する解決策を推進するということは、単にエネルギー依存性を高進させるだけという認識を持つ必要がある。 (統合化) 14. 共通農業政策(Common Agricultural Policy: CAP)のもとでの補助金を含めてEUの補助金というものは、小規模農家がデジタル的道具を採用し、これらの市場に参加することを支援する方向に向けるべきである。 この支援策は、小規模農家ならではのユニークな取り組みにおいて発生する資金的難題・技術的難題の解決の促進に焦点を合わせて行われる必要がある。 (土地収奪に対抗するために) 15. EUは、土地の管理運用と所有権・借地権に影響する政策枠組みを改定することが求められ、その枠組み改定には、デジタル化が更なる農耕地の集中化と土地収奪を推進するのでなく、集中化と収奪を阻止し抑制する明確な安全防止対策が含まれることが必要である。 16. 加盟各国は土地の登録と運用に使用されるデジタル的道具とプラットフォームは、不法に取得した土地の登録の合法化を防止し、小規模農家の権利を保護する構造を含むものであることを保証することが求められる。 17. 加盟各国は、透明性と説明責任が担保できるようデジタル土地台帳のシステムを支配する法規制を強化することが求められる。これらのシステムは、デジタル的道具の使用により過去に収奪された土地が合法化されることのないようにデザインされる必要があり、土地に対する個人の権利と共同体の権利が正確に、公正に取り扱われることが保証されるデザインにする必要がある。 18. 全てのデジタル的土地統治運動が及ぼす人権への影響の評価を包括的に実施することが加盟各国に要請される必要がある。これらの評価では、デジタル化がどのように土地台帳や小規模農家に影響するかが評価されるべきであり、そしてデジタル化推進が彼らの土地権利を妨害しないことを保証するものであるべきである。 19. 加盟諸国は、投機的慣行を防止し、デジタル化が土地への利用性における不平等性を悪化させることのないよう、デジタル的土地の市場化活動を統括管理する法規制を確立するする必要がある。そこにおいては、土地の市場のデジタル化により発生する潜在的な不正を監視し対処する方策の存在が求められる。 20. 加盟各国は、若年農家や新規農家を支援すべくデジタル的土地の統治政策の条項を含めるべきであり、それにより土地管理のデジタル化が次世代の参入の障壁とならないことを保証すべきである。 (平等・公正な利用のために) 21. 加盟諸国は、働く人々の権利を保護し、技術的便益の公正公平な利用性を促進し、そして農業のデジタル化が農業労働における階級的な、あるいは人種差別的な収奪といった歴史的に存在したパターンを存続させたり、悪化させたりすることの無いような戦略を開発し実践することが求められる。 (装置) 22. 加盟諸国は、小規模農家に適った従来とは異なる機械化運動を支援し、拡大するような政策を実行することが求められる。これには、農民らや開発技術者らが協働して参画し、デザインし、誰もが無償で利用できる道具類の開発と利用を推進する方式が採用されており、従ってこれらの道具類は、適応力があり、入手可能な手ごろな価格であり、修理も地域内で対応できるように設計されていることになる。加えて、加盟諸国は農業器具装置のしっかりした中古市場を作りだすことに協力することが求められる。これにより、小規模農家にとって障害となっている技術への利用性を妨げる知的所有権のライセンスという障壁を取り除くことが可能となるのである。 【Schumacherが描いた中間技術の取り組み方であり、彼が描く目標の姿を表現している】 (現行の巨大アグリビジネスが支配し構築する地球規模の単一化に対抗するために) 23. 加盟諸国は、地域共同体内の食糧ネットワークの構築を支援し、促進することが求められ、それにより、現行のアグリビジネスが支配し構築している地球規模の食糧ネットワークとは異なる小さい領域内で成立するネットワーク作りの重要性が認識されることになる。よって小規模農家は生産工程から、流通工程にかけて自立・自主権を持つことが可能になる。加盟諸国はかかるシステム作りに必要な政策作り、資金的対応が求められる。 24. 加盟諸国は、農業と食品領域で拡大する独占権に対抗する上で有効な政策を展開し強化することが求められる。 そしてこれらの行動によって、小規模農家や地域共同体が農業と食品領域の産業活動に参画が可能となり、公正性・公平性の担保が保証されるのである。 (不平等性に対処するために) 25. 加盟諸国は、都市部以外の地域ならびに限界地域共同体の人々を含めて全ての人に対し、即応性があり・手ごろな価格であり・信頼できるインターネット接続性ならびにデジタルインフラの展開と実践の推進が求められる。これらの行動戦略においては、ジェンダー間に存在する差別や権力格差の不公正さや不公平さに対処することを保証する必要があり、そしてデジタル機器類道具類の公平な利用性を促進し、農業領域に存在する不公平性を悪化させるようなリスクを軽減・緩和することが求められる。 1. 技術的解決策 対 食糧自立権と自主権: 批判的分析 現代農業の景色の中に見られる『世界需要に見合う食糧を生産し提供する』という頻繁に発せられる言説が主張されることにより、デジタル化が勃興し、そして気候スマート農業・精密農業・e‐農業や農業4.0といった技術的進展の必要性が取りざたされることになる。 効率性や生産性の向上を強調するこれらの方策の推進は、往々にして多国籍企業体により取り仕切られて行われ、農業分野において多国籍企業体(transnational corporations; TNCs)による重大な企画開発権・管理運営権が行使される。 幾つかの国際機関や工業型農業を行う組織は、デジタル化の動向を『第4次農業革命』と位置付けることで、更なる多国籍企業体の支配力強化を狙っており、その一方で地域や先住民の農業慣行は見捨てられていくことになる。 FAO・世界銀行や欧州開発基金のような開発支援機関もまた、デジタル技術が小規模農家を強化し、生活生存力を向上させる有効な武器になると位置づけている。 初期のデジタル技術の幾つか例 (例えば衛星支援型操縦・速度可変アプリ・搾乳ロボット・インターネットやスマホ支援情報システムや農場管理運営ソフト)は既に10年〜25年の実績があり、それら技術による効能を紹介する文献が積み上げられつつある。 農場ロボット化やドローン技術・農場におけるIoT (農場に存在するあらゆるものをインターネットに接続する技術)や統合型農場管理運営アプリを含むその他の技術は、実用化に向けて様々なステージで開発が進んでいる。 いっぽう、価値連鎖(value chain)もまた連鎖の上流に位置する組織によって変化が起こっており、発注・契約・標準化・品質保証そして行政手続きの自動化が進行している。 農場で起こっている技術的変化とは別に、企業連合体や公共−民間連携組織は、『スマート農業』の持つ潜在能力を選別して紹介することを行い、それにより気候危機・食糧危機や資源危機といった危機が累積する最中での資本主義的農業へ向かう構造的な批判を分散化させようとする動きが往々にしてある。 農地・農民や消費者に関し収集されるデータが、既に主要な商品となっており、農業に関する知識を誰が作りだし、適用し、解釈し、利用するかの点で新たな構造的不公平性・不公正性の問題が生じている。 これらデジタル技術が推進されるにつれて、農業領域における権力支配力学の捻じれが増大している。それにより、食糧生産の今後の行方や知識の管理運営の今後の行方に懸念が生じてきている。 今回はここまでとします。
0092
現在の社会状況について(9)COP30を例に思惑と意思のせめぎ合いをみる、そして社会の抑制機能が企業のロビースト活動と競走する上で役立つヒントとなる参考資料
yo-chan
12/04 06:25
現在の社会状況について(9)COP30を例に思惑と意思のせめぎ合いをみる、そして社会の抑制機能が企業のロビースト活動と競走する上で役立つヒントとなる参考資料 ブラジル・ベレンでのCOP30が終わった。 COP気候会議や、プラスチック条約等の国際会議の舞台では大戦後国際連合が掲げた基本の考え『多国間協調主義、Multilateralism』が機能している。 1990年代以降、各国が選出した国家代表者らだけでは解決が難しい課題が多く発生して来ているとの言説が拡散し、国際会議の場に『多国籍企業体、Transnational Corporations (TNCs)』の介在が望まれるとするマルチステークホルダー主義(Multi‐stakeholderism)の考えが主流化してきたことから、この両主義の思惑と意思とのせめぎ合いが絶えず国際会議の舞台で結果として見られることになった。 そして舞台上にもう一つの大きな力が加わってきている。2015年トランプ氏の米大統領選出を契機に、氏の主張する『国際間の課題解決』は多国間でなく、二国間交渉を原則採用することであり、また氏のアメリカ第一主義・MAGA思考及び交渉事は『一方が得し他方がその分損するゼロ−サムゲーム感覚思考』の介入であり、『民族主義・国家主義』の追求のスタイルの推進が、国際舞台にもう一つ加わっている。 現代の国際間交渉には少なくとも3つの力がけん制し合い、せめぎ合うという構図が生まれていると感じる。 そして忘れてならないのが、世界市民が本来持っているもう一つの大きな力であり、この推進力をどのように国際会議の舞台上に表現していくことが出来るかが、現在世界が抱える諸課題に対する最適解を見出していく上で重要なポイントになると考える。 アセモグル氏とロビンソン氏は、社会が最適解を見いだし選択し続けていくことが可能なシステムの存在が、幸福を享受し続けられる『狭い回廊』の中に社会が居続けられる条件だと主張した。 そして、このシステムが存在し機能し続け、社会が幸福状況を維持継続していくには、社会を統治する機能の存在とその存続が一つの条件だとし、その統治機能を古代神話・伝承に出てくる海の怪物『リバイアサン』になぞらえている。 即ち『リバイアサン』が不在の場合、その社会は無政府混乱状況になってしまい、混乱状況を抑止する『リバイアサン』の存在には意義があるとしている。しかし一方、『リバイアサン』を野放図に放任すると今度は、社会は『リバイアサン』に圧倒され、そこに生きる人々の自由が奪われていき『専横のリバイアサン』の社会が生まれてくることになる。 アセモグル氏とロビンソン氏は『リバイアサン』が専横化することを抑制する力を『社会』は持っており、その権能の適切な使用を社会は行う必要があるとしている。 即ち社会が抑制力を発揮し、『専横のリバイアサン』に足枷をし、『足枷のリバイアサン』の状況を生みだし、その状況を維持継続していくことが社会の幸福を継続していくこと、社会が『幸福の狭い回廊』の中に居続けられるための条件としている。 不思議の国のアリスに出てくる『赤の女王』がアリスに諭す『今の状況を維持したいと望むなら、駆け続けなさい』という行動指針が、幸福を願う私たちの社会にも当てはまるとアセモグル氏とロビンソン氏は指摘している。市民社会の持つ力に拮抗するもう一方の勢力(後半で紹介する)は金と時間と専門家知識を武器にある意味彼らなりの『弛まぬ』普段の努力に励んでいるのである。 今回終了したCOP30の結果を例に、それぞれの力のせめぎ合いが、幸福の継続に繋がる拮抗状況になっているのか、または片方の専横が勝る状況を継続しているのかに、焦点を合わせた形でCOP30を見ることとしたい。 1. 適応化資金の増額問題 4年前のスコットランド・グラスゴーのCOP26で400億ドルの適応資金目標が設定されたが、今回のCOP30においては『2035年まで』に3倍に引き上げること、2025年までに2倍に増額するよう努力することを各国に求めるとの内容で合意した。適応資金の目標額は1200億米ドルとなった。 Debt Justiceの記事(要望内容と、負債ならびに気候正義とを比較してみると今回のCOP30はどう評価できるか?原題How did COP30 stack up against demands for debt and climate justice?)の記事を基に、この増額を成果とする見方の妥当性を調べて見たい。 COP30の主要資金問題が『適応資金』だった。後発開発途上国グループと市民社会は『2030年まで』に年間1200億ドルへと3倍に増やすことを求めていた一方、EUと日本の抵抗により、その部分が『適応資金は2035年までに最低でも3倍にする』とされた。 この5年間の延期は市民社会の要求を下回るものであり、そして文書に3倍増の基準が明確に示されておらず、資金が公的資金か助成金ベースかの要件も、また誰が資金提供の責任を負うのかについても明記されていない、という問題が指摘されている。 そして、適応基金を含めて従来の気候基金の最近の実態と実績とを紹介している部分を取り上げると以下のようになる。 適応化に対する数多くの約束がCOP30の期間中に公表、或いは再確認され、その総額は約1.35億ドルに登る。しかし、今年度の年間目標額の3億ドルと比べると半分もない。 また、COP30期間中、『損出と被害に対する基金the Fund for Responding to Loss and Damage, FRLD(COP27の成果)』の第1回目の資金要請が開始されたが、この最初の6カ月間の割り当て金額は2.5億ドル(1カ国当たり500万ドルから1000万ドルの申請が可能)であり、グローバルサウスが2025年までに必要とする金額3960億ドルと比べると0.5%にも満たない額だという点が指摘されている。 更にCOP30の合意文書の『損出と被害の基金』の部分で、基金への供出が8.17億ドルに達したことを評価しているが、支払われた額は3.97億ドルであり、富裕国側の拠出が滞ると基金は速やかに資金不足となることが予測されるが、合意文書では多量排出国の富裕諸国に対し、新たな拠出の要請は為されておらず、そして以前約束の資金提供分の再要請さえ文書中に明記されていない。 資金を一方的に保持する社会の支配層側の最近のdelayismという戦略が継続しており、社会が持つ抑制の拮抗力の更なる強化が望まれる状況が続いているといえる。 2. べレム・行動・メカニズム(Belem Action Mechanism; BAM)の採択 パリ合意に基づき、世界が目標とする気温上昇を1.5℃に抑えるため、各国が低炭素経済社会構造へと移行する際、その移行の実践的活動が公正であり、かつ包括的であることが大前提として重要であるとし、この大前提が保証される仕組みを定めた指針が今回採択されたBAM枠組みである。 COP30の会議場では多くの市民活動家やBAM支援者らが『BAM!』バッジを身につけ、採択に向けての活動を行い、世界人口の約80%を占める多くの国々がこのBAM提案に支持を表明したことで最終合意文書に盛り込むことが出来たという市民運動の成功例であろう。市民の運動(国際労働ユニオンの運動や環境団体・気候正義団体・女性とジェンダー団体や若者と先住民団体の数年にわたる活動に裏打ちされたもの)と共に、多国間協調主義(Multilateralism)が国際間の会合で充分機能していることが例証できる特筆すべき成果だった言える。 BAMという枠組みが国際社会の中で承認され、今後この枠組みに沿っての活動が期待されることになるが、適切な雇用、働きがいのある人間らしい仕事、労働者の権利、社会正義の確立を気候変動対策の中心に組み込み機能させていく運動の継続が、今後求められる。また今後の動向に注視していくことも求められる。 大きな成果ではあるが、アセモグル氏とロビンソン氏が指摘する『赤の女王効果』の存続が求められる場面と言える。巨大企業側の資金をもとに活動するシンクタンクやロビィーストらは巨大企業と共に絶えることなく駆け続けているのであるから。 3. 化石燃料からの段階的撤退に向けたロードマップの合意文書への記載に失敗 今回のCOPの開会時、開催国ブラジル大統領は『行動のCOP(cop of implementation)』、『真実のCOP(cop of truth)』を会合の基調方針に据えようとした。 目標や計画という机上の議論のみに偏るのでなく、今までに合意した、或いは今後合意する世界の目標に対し、明確な実行という結果が伴われるべきだとの主張と言える。 その一つの大きなテーマが化石燃料依存の段階的撤退を明確化するロードマップ作りであり、ロードマップに沿った各国の今後の段階的撤退の実践工程の合意文書化であった。 結果は、既に報道された通り化石燃料を議題項目に含む形で『たたき台合意案』が当初、会議に提案されたが、最終的には削除されてしまった。会合期間中のこの議題に関する実態を見ると次のようになる。 3‐1 国際会議場内(ブルーゾーンと言うようだ)の実態 EUや英国を含む80カ国以上の国々が、時間枠を明確に示した化石燃料からの撤退化ロードマップを合意文書に組み込むことを要求した。 サウジアラビア・ロシア・中国を含む多くの石油産出国ならびに利害を共有する国々が、合意文書への組み込みに反対。 現在の国際会合の原則が全会一致を基本的に要請していることから、最終合意文書に記載されることは適わなかった。 3‐2 自主的活動(グリーンゾーンと称する国際会議場外・枠外での活動・出来事とされる) ブルーゾーン内は全会一致が必要だが、それを回避する動きとしてCOP30議長国ブラジルは化石燃料からの移行問題と森林伐採問題についてのロードマップを会議と並行して自主的活動で推進したいことを宣言している。 この宣言により、全会一致を要件とする国際会議の場において、『意思を持つもの達の連合(coalition of the willing)』が行動を推進することが出来る環境が生まれたことになる。 結果として、今回コロンビアとオランダが協働ホスト国として来年4月に創立会議を立ち上げ自主的ロードマップ作りとその推進を図ることになっている。 参加国の数次第で、変革を起こす強力な武器になる可能性を秘めた自主的活動が提案されたと言える。 COP30の話題には、まだ他に取り上げるべきものはあるが、今回は幸福追求のために必要な『狭い回廊』に留まる上で必要とされる統治支配機構の力と社会の力の拮抗状況を確かめることに焦点を当てたいと思っていたことから、COP30の紹介はここまでとしたい。 最後に、古い資料であるが2012年3月19日付けの記事(BINGOs and the global lobbyist)の紹介で締めてみたい。ロビーストらの生態を生き生きと描写している面白い記事である。 調査するジャーナリストたちの国際組合(International Consortium of Investigative Journalists, ICIJ)のKate Willson氏がバンコックの国際会議場でみた光景を描いている。 気候変動問題に対応すべく企業を代表するロビーストたちは、ロビー活動ではなく、ただあちこちをさまよい歩くことを基本にしているようだ。 バンコックの国連会議場の外では、参加国の温暖化効果ガス削減に対する弱腰の姿勢に抗議する人々が10月特有のスコールに濡れる一方で、会議場内には専門的知識に長けた人々がコーヒーバーに集い、顔見知りに笑顔を振りまき、握手して再会を喜び合う姿が見られるというビジネスに集う者たち独特の雰囲気が流れている。 その後、彼らは世界のトップエネルギ―企業の代表らが主催する遮断された秘密会合の室内で落ち合うことになる。 BINGOsの世界へようこそ。BINGOsとはBusiness and Industry Non-Governmental Organizationsの頭文字を綴った造語、即ちビジネス・産業界を代表するNGOである。 このBINGOs組織が世界の気候変動会議の議論の流れに実は大きな役割を果たしてきた。 国連の規則に従い、個々の企業は気候会議への参加から排除されている。従って産業界は産業界を代表する協会団体を作り、代わりに参加させている。 会議場内では、数十に及ぶBINGOs代表者らが集い、排出量削減目標や多くの炭素オフセット(相殺)政策やそれらの実践の時間割決めといった『賭け金が巨大な世界が抱える課題』についてお互いに報告し合うのである。ここでBINGOsの課題は明確であるが、彼らの戦略をハッキリと認識することは難しい。彼らの努力の結果はしばしば目に見えにくいものであり、彼らの行動は常識で捉えるロビー活動とは趣が異なるのである。 欧州の発電業界に所属するスコウクロフト氏は、『私たちはこの場では、さまよい歩いている。しかも思惑を持ってそうしている』と語る。 フランスの化学会社Arkemaの化学者でありロビーストである英国人のキャンベル氏は1991年から国連気候変動会議に参加し、会議場で報告会のまとめ役の活動をしているが、彼が重きを置くロビー活動は、ブラッセルに本拠を置くEUにおける活動であり、特定の国家や地域における活動に焦点を合わせているという。 一人のBINGO活動員として、国際会議場で影響を与えることはほとんど出来ない。影響を与えることが可能なこととしては、国連会議に参加資格を持つ『国家を代表する参加者』に普段から説得を試み、彼が所属する業界の利害の絡む事柄に協力してもらえる環境を作ることだとしている。従ってキャンベル氏は国際会議場内ではネットワーク作りの為にひたすら握手をし、再開を確認し合い、コーヒーを飲み、名刺を交換し合うという。 この行動が別の機会の成功に役立つだろうと信じている。 炭素集約型企業の代表者らは、かつて彼らの企業活動から排出されるガスが世界の気候温暖化に結び付くという考え方を真っ向から否定し、ガス排出削減に向けた世界の合意に長らく対抗する姿勢を取っていた。 しかし、科学的証拠が積み重なっていき、政府や世論の動向が変化していったことから、企業側はその対応を変更していくこととなった。 1997年の京都議定書の成立を持って、企業側は排出ガスと温暖化との関連性を認め、その上での彼らの行動指針の修正に乗り出している。 オスロ大学のフォルメダル研究員は、その辺の状況を次のように語っている。 『公式に規制に反対する企業は、今は多くない。国際的規制の合意に達した船は最早ドッグを離れたことから、企業側は新たな状況への準備を進めている。準備を整えた上で、企業側は再度交渉テーブルに座り、規制の動向に影響力を発揮出来るようになるだろう』としている。 巨大炭素集約型企業の現在の戦略の核心は、排出量の制限を行うことの必要性は認め、脱炭素化に譲歩する一方で、条約の『実施スピードを遅くするような文言の使用』を各国政府や国連代表団に対し働き掛けるというやり方だ。即ち石炭・石油や発電業界は長期間にわたる削減計画に焦点を合わせ、短期に終結が求められる計画を反故にする戦略を採用する。 そして企業側は、規制条約の枠内のもと、無償であり潤沢な排出量の割り当てを各国政府に要請しており、更に企業側は、排出量の削減の代償として、排出量の『相殺化』に役立つ『自由裁量権の拡大化』を要求している。拡大化した自由裁量権のもとで、例えば開発途上国が計画する再植林化といったコストの安いプロジェクトへの投資を企業側は行おうとする。 そしてまた、企業側は国連に対し、炭素捕捉と貯蔵化技術(carbon capture and storage technology)といった未だ生れたばかりで物議を醸す技術を石炭燃焼型発電の存続の為に利 用するという計画をも排出量相殺化事案に含めるよう要請している。 ここで、国際的ビジネス界のロビー活動は一枚岩ではなく、多面的であるという特徴を持 っている。 最近の数年間、新しい産業からの声が届き始めている。それは風力発電やソーラー発 電業界からであり、新興炭素市場から利益を得ようと躍起になっている金融企業からの声 である。 彼らからの声は、旧来のエネルギー業界のものと大きく異なる。 フォルメダル研究員は、『再生可能エネ企業と金融投資家は、突如として声高に主張するよ うになった』と指摘し、『彼らは利益団体のプラットフォームを構築し、規制強化を訴え、 先進国に対してより厳しい目標設定を提唱している』と語る。 エネルギー大手エクソンモービル所属の気候問題専門家であり、BINGOs古参メンバーの フラナリ―氏は、1991年と言う早い時期から人為的な炭素排出が気候変動の一因であるこ とを認めるものの、その影響力を的確に評価するには情報が不足していることを取り上げ ている。即ち、現在の観測データからでは『宇宙規模で自然界に起こる気候の大揺動の実 態の理解がいまだ不足しており、よって気候変動の要因が、その大揺動によるものか、企 業活動で発生する人為的排出ガス効果によるのか、を正確に判別することはできない』と の主張を1991年に発表している。 このフラナリ―氏の主張であり、言説は今日でも専門家の一つの意見として有効と見なさ れ、世界が合意を目指す際、悲観的材料として利用される恐れがある。 また、フラナリ―氏は『炭素排出量を低水準に設定し、それを達成する唯一の方策は全世 界が共通の目標と共通の炭素価格をもと、協力して実行に移すことが要求されることにな り、そのような方策の実行には合理性はない。達成不可能な目標を設定し、実行に移せば 混乱と失望が生じる。そのような方策を取るのか、または達成可能な目標を設定し実行を 目指すという方策を採用するのか、という根本的な疑問が存在している』と指摘している。 またもっと意欲的な目標設定を支持する欧州風力エネルギー協会のグルエ氏は、フラナリ ー氏の姿勢は容易に予測できる企業特有の『ゆっくりと行動する(go-slow approach)』様 式であり、BINGOグループに参加の石油や天然ガス業界や化学業界といった従来の企業の 誰もが排出量削減を望んでおらず、国際間の交渉プロセスに参加はするものの、参加当初 から交渉の混乱を図ることを狙っている』と指摘する。 かくしてグルエ氏は、代替え再生可能エネルギー業界は同調する業界・企業を、旧来の業 界からでなく別の業界・企業から求める必要があり、その数の力を持って国際間炭素市場 の拡大を図り、炭素市場の拡大でもって、炭素価格の安定化を図るとする共通する基盤が 成立する』と指摘する。 米国に本拠を持つ電力研究所所属のノバク氏は『炭素削減目標』の成就は、『想定する時間 枠』をどう見るかで決まるものだとし、技術的進展速度に比べて早過ぎる削減目標速度の 設定は出来ない』と主張する。 欧州電力連合(ユーエレクトリック)も、国連が提唱する炭素排出量上限達成には更に30 年の猶予を設定したいと考えており、ユーエレクトレックのスコウクロフト氏も削減の必 要性は認識するも問題は設定するスピードだと指摘している。 スコウクロフト氏はロビーストらの国際会議場に参加するメリットを次のように指摘する。 『こうした会議に参加することの素晴らしい点は、何もやることが無い各国の大臣や国務 長官が参集している』ことであり、彼らにはコーヒーバーに集まり寛ぐ時間が必要だと指 摘する。 またBINGOsのベテランロビーストらは、彼らが社交的交際能力を発揮する結果として、条約の文言の微妙な変更が為されたり、各国代表団がロビー業界からの意見を求めるといった成果が対価として得られる点を挙げる。こうした成果の場面でBINGOs業界が実際の交渉の場に参加が可能となるのである。 2007年のバリ行動計画(The Bali action plan: 後の国際交渉の流れに大きく影響した)で、民間セクターの参加が明記されたこともBINGOsのロビー活動の大きな成果だったことも特記できる。即ち、それ以前には各国政府は課題解決するための構成要員として企業の参入を想定していなかったのである。 また国際間の交渉ごとには『細部を詰める』作業が欠かせないとされ、その作業には長い時間枠での対応が求められることになり、企業の資金をバックに持ち、そして専門家としての知識と見識をもつ専門家集団のBINGOsのメンバーの活躍場は長く続くことになる。 以上見てきたように、企業側の国際会議への影響力の拡大化努力は並々ならぬものである。 『赤の女王効果』を継続し、有効性を維持し、幸福社会が期待できる『狭い回廊に居続けたい』なら『社会は走り続けること』が求められるのである。 社会も一緒に走り続けることでのみ、統治権を持つ権力側の暴走を抑制できる。
0093
>>アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(3)
yo-chan
12/11 12:44
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(3) 第二回目に続き、1.1節の紹介から始めます。 1.1 技術が救済してくれるという幻想 農業分野において工業型技術を追求し推進するということは、グローバルサウスから資源を搾取収奪することを狙うという歴史上見られた植民地主義の基本構造の焼き直し・繰り返しと見ることが出来る。 この現代における繰り返しは、地域共同体の水域管理や農家の種子システムといった地域社会にある技術や先住民が持つ技術を疎外化させたり消滅させたりすることであり、伝統技術や地域共同体住民の生活手段を弱体化させることになる。 第二次大戦後のイデオロギーの根元には、科学至上主義と生産性至上主義が存在しており、そして同時に、『小規模農家の生産性は悪く劣ったものであり、一方いわゆる高収量種子は優れている』との神話・言説が流布され、広く一般に受け入れられていったことから、工業型技術と単一種栽培が世界規模で採用されていく流れに拍車がかかることになった。 かかる流れは、地域共同体社会が本来持つ食料システムの管理運用権の劣化や食料自治権自主権を無視することに繋がっていったのである。 多国籍企業(transnational corporations: TNCs)が支援し擁護する技術官僚が支配するシステム(technocratic systems)は、生態系や社会にとっては食料の損失や生活全般の保全や伝統技術・伝統技能の損失を結果として引き起こすのである。 そのシステムはまた、土壌の劣化や生物多様性の崩壊や人畜共通伝染病の蔓延化の恐れをも導くことになる。 気候変動や天然資源の収奪に繋がる、行きすぎたグローバル化の推進は、これらの脅威を更に拡大していくのである。 同時に技術至上主義企業やアグリビジネス業界の支援を受ける『ロビーストたち』は、民主的手続きを踏むことなく、社会全体の了解を求めることなく、莫大なコストをかけて初めて達成できる『高度技術high-tech』を利用する解決のシステムを推進する。 農業分野で言えば『世界全体に食料を行きわたらせるため』との言説を旗印に、彼らが描くシステムの構築とそのシステムの主流化・本流化に都合の良いように世界を変えようと活動し、世界全体を誤誘導し、結果的にそれ以外のシステムを排除しようとするのである。 精密農業(precision farming)が主張する『精密さ』の基本部分の全体は、まだ検査を終えていない、と私たちは認識している。 合わせて、デジタル農耕法というものも、厳密に言うと往々にして不正確なものであり、この不正確さを軽視すると重大な結果を生みだす可能性があると認識している。 私たちは、『精密さの落とし穴』と言うものを認識しているのである。 工業型農業で流通するデータである『ビッグデータの精密さ』を過剰に信用すると、往々にして『環境の状況を観察し認識し、その上で均衡を保つ対策を取る(check and balance)』という農民が本来、耕作地域で持っている機能を劣化させることに繋がる。 精密農業のシステムは、第一に工業型農耕法のデータに依存していること、そしてどのような便益であっても、その便益が農民の間に公平に分配されることはない、と私たちは認識している。 1.2 技術依存型解決法の危険性とアグロエコロジー利用解決法の必要性 技術に依存する解決法に比べると、アグロエコロジー利用解決法は、社会が食料の自主権に向かう動向や持続可能な農耕の実践へと向かう動向と合致し、支援するものである。 アグロエコロジーを利用する解決法と言うものは、『農民の経験と知識』、『地域共同体』、『生 物多様性』並びに『生態系の持つ調整・均衡化機能』を強調し支援するものである。 しかし、大半のEU金融機関は大規模組織やハイテク型革新を目指す組織への肩入れに偏っており、結果として小規模農業は消滅の危機に瀕している。 この金融機関の対応の流れにより、社会が長期的視野に立ち生態系に対し責任を果たしていくことを優先するのではなく、企業が短期的視野のもと利益を得ていくことが優先されることになる。 技術利用解決策の優先は、現代の資本を蓄積していくという潮流と深く絡み合っており、このことは十年前に起こった金融危機の際の例から明らかなように、大多数の人が災厄に見舞われている最中、ごく少数が利益を得ていたという『破壊的なシステム』の維持に役立ったのであり、今も続いている。 いわゆる、精密農耕法や合成生物学(synthetic biology: 工学的手法を用いて従来存在しない新たな生命現象を作りだすことを目指す学問)や分子技術(molecular technologies; 遺伝子編集技術が例)というものは、農民らの食料システムに脅威を与えるものであり、現在のそして今後の農業の危機に内在する根本的原因に対処できるものではないし、これらの方策は化石燃料への依存や遺伝子編集種子等の議論の的になっている技術を永続させることに繋がり、社会に影響を与え続けることになる。 これらハイテク依存型解決策は、往々にしてベンチャー資本により運用され、ベンチャー資本は投資家の資本の最大化を使命付けられていることから気候変動に対する持続可能な解決策を提供することには結び付かないのである。 コストの高い技術の実践を促すということは、往々にして農民らに『負債の罠』を仕掛けることとなり、市場の混乱や技術の陳腐化等が発生すると『負債の罠』がより大きく作動して農民らの脆弱性は更に高められることになる。 デジタル技術を資金的に採用できない、あるいは採用の意思がない多くの小規模農家は、消滅化の危機に直面する。 欧州にも大きな打撃を与えた2022年の世界規模の干ばつは、欧州大陸の異常気象に対する脆弱さを露呈したが、そのことが逆に『天然資源には限りがあること』、『強靭性を高めること』の認識の重要性を提起した。そして地域共同体に根ざし、市民の活動に立脚した革新へと緊急にシフトしていくことが求められるということを知らしめる結果となった。 【BOX B ECVCの人々の声:選別の必要がある】 ECVCに所属の農民によると、技術とデジタル道具の利用自体には、必ずしも負のイメージを彼らは持っていない。多くのECVC所属の農民らは、相応の技術を使い、そしてある場合分析機関(公立と私立がある)にサンプル分析依頼を毎年行っている。 しかし、デジタル化が農民の持つ権利に影響を及ぼすことの危険性を考慮すると、ECVCの農民は、技術を利用する・しない自体に自由さを持つべきだと認識している 例えばデジタル灌漑システムソフトは節水手段とされるが、オリーブや小麦のような水を多く必要とする作物をシステムに組み込むことを推進することから、往々にして現状維持に繋がり、結果として水利用が拡大され、水の蒸発率が高進し、深部帯水層や地下水の入手性の低下が起こる。結果、干ばつを緩和する方向でなく干ばつが悪化する方向となる。 デジタル灌漑は状況を悪化させる可能性がある一方、水路・導水路のコンピューター管理というものは効率性の上で、廃水量を削減する上で、有用な役割を果たす可能性がある。 デジタル道具利用の最大の障害の一つがその高いコスト・価格である。 例えば土壌水分量やその他の環境因子等の基本項目の測定が求められるが、コストの安い測定で得られるデータは精度が劣り、役立つとは言えないとの欠点が指摘されている。 当然、日々の農場周辺の自然環境の観察は土壌の状況や作物等の植物の状態を確認する重要な手段である。高額なコストを要求し、時に必要の無いデータの測定まで行うデジタルに頼るだけでは、人々の五感による観察と言う情報収集能力に置き換えることはできない。 1.3 誠実であり、公正公平なアグロエコロジーへの転換を目指して 誠実で、公正公平なアグロエコロジーに向けての転換を実現するには、そして農民の、農民によるアグロエコロジーに向けての転換を実現するには、企業のコントロールから隔絶した自由なアグロエコロジーのシステムが構築され、そのシステムの中には科学的研究(多国籍企業の行うハイテクではなく、地域に根差し、過大にコストをかけることもなく推進できる所謂“中間技術”が望まれる)とその革新が組み込まれ、研究と革新が醸成され育成されていくことが望まれる。 この転換の為には、持続可能性に向けての行動とその決意を誠実に反映させることが必要であり、その持続可能性は『圧力団体(lobbies)の活動から受ける強い圧力』に抵抗し対抗することで達成されるのである。 遺伝子改変作物や合成生物学(synthetic biology)といった危険な実践は厳密に規制される必要があり、そして農業のシステムや環境や公衆衛生の保全の為には最終的に禁じられる必要がある。 共通農業政策(Common Agricultural Policy; CAP: EU加盟国に共通して適用される農業政策)と持続可能食料システム(Sustainable Food Systems; SFS)法は、全ての農民がアグロエコロジーの実践の訓練を受け、その実践を行うことを保証する必要がある。 この支援策は、食料自主権や生態系の均衡そして社会の公平性公正性を優先し、強靭な食料システムを構築する上で必須なものである。 地域に立脚した革新を支援すること、小規模農家を活性化することにより、持続可能な将来の農業が作りだされるのであり、その活動によって多国籍企業体(TNCs)からの支配に立ち向かうことが出来、そして地域共同体の自主権・自立権が回復出来るのである。 『世界のすべての人に食料を提供していくために』という言質・物語性とデジタル農業との関連性を批判的に問い質していくことで、農業の分野・領域に深く根ざす不均衡・不公正な権力の存在が明らかにされていくのである。 多国籍企業体が支援し、法的枠組みでもって裏打ちしようとする多国籍企業体が主導する技術とシステムによって生れる解決策に対し、私たちはアグロエコロジーと食料自主権を擁護・提唱し、推進することで、抵抗することが出来るのである。 2. 農民の自治権と生活・生存権に対する危害 過大なコストを要求するハイテク技術および農業4.0(Agriculture 4.0;AI等の革新技術を駆使し現代農業の課題の解決を図ることを目指す動き)という市場が主導する方策は生産効率最大化や市場における競争力といった事柄を優先するものであり、結果として大規模−工業型農業は利益を拡大し、一方小規模農家は消滅化していくという不均衡が助長される。結果、経済の不平等さは悪化し、地域共同体は衰退していく方向になるといえる。 2.1 生活権生存権への危害と現在の農業システムの構造的課題 工業4.0の原理に触発された農業4.0の出現により、生産効率・持続可能性・農業生産とそれに付随する工程の改善がハイテク革新技術を統合化することによって可能となる、といった誤った考えが広まっている。 このパラダイムをシフトさせようと試みる動きは、農民が持つ知識への打撃とともにそれ以上に深刻な懸念を引き起こす。即ち世界の食料生産割合で8割を占める小規模農家の正に生存を脅かす可能性があり、それにより地域共同体の生存権・生活権を劣化させ、生物多様性の消失に導くといった恐れが生れるのである。 小規模農家が直面する経済的危機は、借金体質の構造化によって悪化させられる。 高額を要する技術の利用を要求する圧力により、農家は借金体質へと誘導され、そしてデジタル農耕時代に参入するのに必要な過大なコストに基づく借金ローンの返済の見込みは限りなく小さいのである。 この状況の進行を許せば、小規模農家は農業を放棄する方向に向かうことになり、結果として農業耕作地の大規模集約化が推進され、ごく少数の大地主が生まれることになる。 EUの共通農業政策(CAP)の助成金の分配方法がこの傾向の悪化を助長する。即ち分配方法は往々にして大規模農業に有利になっているからである。この助成金という動因により、金融面で不利な立場の農家らは彼らの土地を売り払うことが促され、小規模農家の減少化が推進されるのである。 更にこれら多くの小規模農家は、『重要データの農家同士の交換やEU内の行政手続きに必要となる光ファイバー網への接続性の欠落』といった、更なる打撃にも直面している。 これら金融と技術的な障害と障壁の存在が組み合わさって小規模農家の疎外化・孤立化は更に推進されることになり、農業環境のデジタル化が進展する社会の中で、小規模農家が農業を継続していく上での能力と意欲に対し危険性が増しているのである。 2.2 伝統的知識体系の継続性の劣化と断絶 過大なコストを要求するハイテクを農業分野に持ち込むということは、農民らと彼らが持つ土地との間の関係性を根本から変えていくことになる。 世代を超えた知識や自然が織りなす現象を直接観察することに深く根ざしている伝統的農耕法の実践は、データに支配された自動化システムの存在ならびに拡大化により、その存在価値が弱体化されていくリスクが生まれることになる。 実体験ではなく、アルゴリズムに基礎を置いて諸々のことが決められていくと、農民らは彼ら本来の仕事から引き離され、疎外化されていくことになる。 世代を超えて蓄積されてきた豊富な知識と経験は脇に置かれていき、結果としてこれらの貴重な知識と経験は次世代に伝えられていくことはなくなる。 【BOX C ECVCの声:自身が管理運営する農作地をよく観察することで得られる力】 ECVCのメンバーは、観察することの重要性を指摘する。 例えば、スペインで見られるコナジラミ(whiteflies: 作物の害虫、生育を妨げ黄化葉巻病等のウイルス病を媒介)への対策はデジタル道具では対応出来ず、観察や他の農民との意見交換や予防的トラップの設置等が対策の鍵となる、とECVCのメンバーらは指摘する。 精密農業(precision farming)や家畜に取り付けたセンサー利用や搾乳ロボットやサテライト誘導トラクターといったハイテクを利用する対策は、生産効率の改善を約束するけれども、更なる効率性の改善ということが、持続可能性を更に高めるということに必ずしも結び付くものではない。そしてハイテク利用解決策は、技術への依存度合いを高めることになり、結果として課題解決における農民らの役割と能力は減退していくことになる。 かかる変化の方向の推進は、農民らの自主権自立権が衰退するだけでなく積み重ねてきた農業が本来持つ適応力の源泉である伝統的知識体系の価値が毀損されていくことになる。 Grietje Raaphorstさんは、10ヘクタール以上の土地を使い大規模に種子の生産を行うが、これ以上の規模拡大は考えていない。理由はこの規模が手作業の限界だと彼女が認識しているからだ。同じ理由でトウモロコシ栽培は2へクタールを限界と定めているという。 30ヘクタールを使い穀物・野菜や他の栽培を行うLucia Heiglさんは、デジタルを利用しておらず、彼女の普段は農場の自然環境の観察であり、殺虫剤は制限して利用している。デジタルに頼る農耕法は、より多くの殺虫剤使用を要求することに繋がると、指摘する。 Antonio Onoratiさんは、デジタル利用農耕法は実態としては往々にして『厳密に言うと非精密』だとし、農民らの持つcheck & balance機能(環境の状況を観察し認識し、その上で均衡を保つ対策を取る)の消失といった重大なリスクを起こす可能性があると指摘する。 Tove Sundstromandさんは農業に関する知識の所有権の問題を指摘し、『農民の持つ知識は農民のものであるが、一方デジタル道具の所有権は企業側が握っている』と指摘している。 2.3 経済的格差と自主権・自治権の消失 金融機構が持つメカニズムというものは、ハイテク農業を支援する体質を持っており、大規模農業を優先的に選択し支援する性向を持っている。 EUの金融機関の例がこの性向を明瞭に示しており、シェア20%のイタリア系農家らがEUの農業補助金の87%以上を受け取っており、結果として資源は、規模が最も大きく最も資本集約型である農家に集中するという傾向を生みだしている。 欧州で数の上では多数を占める小規模農家は、往々にしてこれらの特典から排除される。小規模農家は、投下資本を用いて革新技術を利用し、それにより得られる成果は極々小さいものだろうとの固定観念があるが故に排除されているのである。 デジタル農耕法が要求する高額な金融条件に見合うことが出来ない農家らは、往々にして過大な負債・借金を背負うことになり、結果として更に格差が拡大していくことになる。 EUには、2020年時点で910万軒の農家と事業体があり、その約3分の2(63.8%)は5ヘクタール以下の農家である。 ロボット型トラクターや精密灌漑システムや洗練されたデータ運用に関わる道具といった技術を採用し実践し維持していくのに必要なコストというものは、小規模農家の手に余る過大な費用を要求する。 かかる経済的障壁が存在することにより、大規模農家と小規模農家との格差は悪化していくだけでなく、小規模農家は農業領域からの撤退を迫られることになっていくのである。 今回はここまでとします。
0094
現在の社会状況について(10) 『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』はずの科学に対するトランプ氏の考えに垣間見える『科学を自由に裁量したい』との思惑
yo-chan
12/24 11:30
現在の社会状況について(10) 『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』はずの科学に対するトランプ氏の考えに垣間見える『科学を自由に裁量したい』との思惑 トランプ主義の一つの特徴に科学が辿りついた成果を無視したり、曲解したり、茶化したりすることがある。即ち『科学とは? や目的及びその成果』を恣意的に取り扱いたい、自由に裁量したいとの思惑があることに特徴がある。 人新世時代が始まり、化石燃料の利用(結果として大気中CO2濃度)が拡大し、それにつれ地球温暖化も拡大し、壊滅的猛威が度々起こる兆候が明らかとなるにおよび、漸く辿りついた2015年パリ合意のもと、再生可能エネルギー利用という新システムの確立と推進が一つの解答策と世界の国々は位置付けることに成功したが、しかしそれから10年が経過するも、旧来システムの化石燃料主導システムの存続・継続・再拡大を狙う力は相変わらず世界に存在し、新旧システムの間の熾烈な綱引きが為されているのが私たちの現在地だろう。 かかる状況において、トランプ氏は再生エネ推進運動を、『世界史上最大の詐欺』と称したり、風力タービン翼をして『景観の邪魔』『くじらに災厄をもたらす』と断じ、また再生エネはコストが高く、信頼性が低く、経済に悪影響を及ぼすものとの考えのもと旧システムを優先し、新システムの浸透スピードの遅延化に繋がる政策を推進している。 今回は、トランプ主義の特徴の一つである『科学を曲解する・恣意的に扱う』という考え方をトランプ氏が推進していく上での論理的帰結だったのだろうトランプ氏が打ち出した『GOLD STANDARD SCIENCE(様々な日本語がこの言葉に与えられるだろうが、ここでは“具備すべき科学の健全性と完全性”としておく)』という大統領令を取り上げ、トランプ主義の特徴と問題点に光を当てて見たいと思います。 5月23日付け大統領令14303『具備すべき科学の健全性と完全性の復権(Restoring Gold Standard Science)』になります。 トランプ氏の『科学との付き合い方・扱い方』の根本部分が見て取れる格好の材料と思っています。 【トランプ大統領の新たな“ゴールド・スタンダード”ルールは私たちが知っているアメリカの科学を破壊するだろう (原題:Trump’s new ‘gold standard’ rule will destroy American science as we know it)】 The Guardian, 2025, May, 29を基にして、概略を示します。 1. 科学には次の9つの項目が具備されているべき、と大統領令14303は指摘している。 (i)再現が可能であること (ii)透明性があること (iii)誤りや不確実性を伝えることが出来ること (iv) 協調的であり、学際的であること (v) 知見や仮定に懐疑的であること (vi) 仮説に対する反証可能性を考慮した構造であること (vii) 公正な査読を受けること (viii) 否定的な結果を積極的なものとして受け入れること (ix) 利害の衝突がないこと 2. 大統領令14303の表面上の顔 大統領令は、研究の厳密さ・透明性の推進等々、使われている言葉から見ると科学の積極的な改革・開放と結びつくものであり、事実様々な人々が既にそれに見合う活動に参画しているという実態を単に綴っているものと見ることが出来るという一面がある。 そして額面通りに大統領令を解釈すれば、この命令は連邦政府資金による『透明性、厳密性そして影響力のある』研究への政府のコミットメントであり、『最高の信頼性と確実性と偏りのない公正な科学的証拠』に基づいた政策への政府のコミットメントを約束するものである、という当然の考え方を綴ったものと見ることが出来る体裁を整えている。 3. 裏に隠された顔 しかし巧みな物言いの裏に、アメリカの科学の独立性を破壊する可能性がある『目論み』が隠されているのである。 その『目論み』とは、『政治の世界が任用する担当者』を連邦政府の各研究機関に配置し、『任用した担当者らに研究全体を管理し、支配できる自由裁量権を与える』ものであり、『現政権の嗜好する目標に合致しない研究者を処罰できる自由裁量権を与える』のである。 『彼らの意に沿わない研究』に対し、彼らの設定するモノサシから判断すれば『不正と認められる研究』との烙印を押す権利を『政権と一体となった政治任用者』に与え、当該研究者を処罰する権限を『政治任用者』に与えているのである。 『科学は開かれたものであるべき』が懸念されるどころの状況ではなくなる可能性がある。 悪しき前例である、スターリン時代のルイセンコの再来が懸念されるのであり、即ち、遺伝及び自然淘汰理論を否定したルイセンコがソビエト農業を支配したことから、反対した数千人の科学者の放逐・投獄が行われ、そして農業と農作物の不振から数百万人が餓死していったという悪しき前例の再演が懸念されている。 4. 科学の独立性を破壊する『目論み』が既に行われている実例について 注目度の大きい2つの研究領域(気候変動領域とパンデミックに備える医療領域)について、トランプ政権の『目論み』が既に如何に影響しているかの実態を見ると、 1) 気候変動問題および化石燃料関連 環境保護庁(the Environmental Protection Agency: EPA)や内務省(the Department of the Interior)を始めとし数多くの連邦政府のウェブページから気候変動に関する情報やデータ等が既に削除されたり、隠ぺいされたりしている。 また海洋大気庁(the National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)および地質調査所(the US Geological Survey: USGS)等の気候関連の研究機関の予算や職員の大幅な削減が既に提案され、実際に実行されている。 そしてNOAAを始めとする諸機関を『監督統制する任命官ら』が、例えばハリケーン『ドリアン』が辿った軌道をトランプ氏が間違えている発言を無署名文書で擁護したり、また専門知識を政府に提供する政府諮問委員会を、政府が解体したりしているのである。 更に科学的根拠を提供する報告書の内容の変更を求めるという動きもある。例えば環境保護規制政策が社会に与える便益を数値的に示しているEPAの報告書を撤回させ、新たに再度評価分析を行うようEPAに要請しているという。 化石燃料産業に都合の良いように規制を解除することが狙いと見られるのである。 2) パンデミック対策等の研究への影響 トランプ政権がパンデミック向け研究を抑制するために行う行動として、公衆衛生指導指針の政治化の問題がある。政府と政府任命官らが、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)に圧力をかけCOVID-19の検査やマスク利用や学校の閉鎖解除等にからむ指導指針の修正や遅延化を図ったと報告されている。 COVID-19治療の承認やワクチン開発の承認に関し、FDAに対しても圧力がかけられている。 更に長く継続したコロナウィルス向けのNIH研究助成金が政権の要請に基づき撤廃されている。 政権はまた、ある種の『機能獲得研究(gain-of-function research)』に対する資金提供も禁じたことが報じられている。 そして、5月23日付け大統領令14303『具備すべき科学の健全性と完全性の復権(Restoring Gold Standard Science)』に続いて、8月7日に大統領令14332『連邦助成金交付の監督改善(Improving Oversight of Federal Grantmaking)』が発令されていることも付記しておく。 政治が、科学があるべき姿を規定し、管理し、科学の進む方向すらも差配する構造の固定化に向けての手順をトランプ氏が着々と進めている様子が見て取れる。 そして、ルイセンコの悪しき前例を彷彿とさせる事例がアメリカ科学界で既に起こりつつあるようだ。 COP30に合わせてグテーレス国連事務総長は、パリ合意の目標である気温上昇1.5℃に抑えることは、かなり厳しい状況になっているが、まだ達成の可能性は残っていると語っていた。但しそのために残されている私たちの時間的猶予は全くなく、各国が直ちにそして総力を挙げて全面的に野心的計画を展開することが『達成の条件』としていた。 多国籍企業体の利益第一主義の力強さ、そしてトランプ主義の恣意的な科学のハンドリングなど、『達成の条件』を弱体化・妨害する動向を考えると、パリ合意の『せめて2℃以内に抑制』の目標も危ういという可能性のほうが当たっているだろう。 最後に、今年度のブラジルはベレンにおける気候変動国際会議COP30が終了した現在時点における世界の状況と動向を基にして予測される今世紀末までの世界平均気温にかかわる基本情報を指摘しておきたい。 2100年時点の予測気温:+2.3℃から+2.8℃の範囲(2015年のパリ合意前は+3℃以上が予測されていた。よって世界は好ましい方向に若干進んだ状況と言える) +2℃に到達するだろう年度:2030年代の初め頃だろうとする予測が出されている 今年度中の提出が義務付けられるNDCsの提出国数:122カ国を超えている 現在の各国NDCsから算出されるGHG排出予測削減率:2035年時点で2019年比−12% (気温上昇を+1.5℃にしたい場合、2035年時点で2019年比−46%以上の削減が必要) +2℃とか+2.8℃とかに到達した世界の異常気象の状況は空恐ろしい。 既に世界各地で起こっている異常気象現象の熱波や森林火災や洪水や干ばつ・日照りや高潮やハリケーン・モンスーン・台風や雷雨・豪雨や竜巻等々が、『もっと頻繁に』『もっと強烈に』起こることになる。しかも脆弱な地域ほど甚大な被害を被るという格差の拡大の問題も悪化する方向に促進されることだろう。 化石燃料に依存する国々や組織を含む多国籍企業体の利益第一主義、そしてトランプ主義の恣意的な科学のハンドリングは、パリ合意に向かう世界の国々の動向にとって、『達成の条件』を弱体化・妨害する極めて厄介な、そして罪深い動向といえるだろう。 トランプ主義と対峙する、科学界が今までに様々な形で打ち出している『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』科学の実践例を次の機会に紹介してみたい。
0095
早苗ちゃんのオトモダチ、核保有でイキがる
猫家五六助
12/25 12:46
まったく、とんでもない首相と補佐官である。 発言したのは高市首相と同郷の、尾上定正総理大臣補佐官だと。 しかも、「核軍縮・不拡散問題担当」で、防衛問題のブレーンときた。 呆れかえって、びっくらポン!・・・冗談じゃない。 「オフレコ発言なのに、ルール違反だ!」、その指摘は、当たらない。(菅義偉・調) >記者団の取材は、完オフ(内容そのものを一切報じない)ではなく、オフレコ(発言者はぼかした上で内容を報じることができる)取材であった。そのため、発言者は匿名にした上で各社が報じた。(本文引用) サナエちゃん、「引き続き、非核三原則を堅持〜」なんて、リップサービスはいらないよ。 国政をなんだと思っている?こんなアブナイ私物化は許されない。 サッサと尾上氏をクビにしなさい。 毅然と「You are Fire!」だ! ◆《本人直撃》「日本は核保有すべき」発言をしたのは“核軍縮担当”の首相補佐官だった! 高市首相が更迭しない理由は… /文春オンライン、2025年12月24日付 https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E7%9B%B4%E6%92%83-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AF%E6%A0%B8%E4%BF%9D%E6%9C%89%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%8D-%E7%99%BA%E8%A8%80%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%AF-%E6%A0%B8%E8%BB%8D%E7%B8%AE%E6%8B%85%E5%BD%93-%E3%81%AE%E9%A6%96%E7%9B%B8%E8%A3%9C%E4%BD%90%E5%AE%98%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F-%E9%AB%98%E5%B8%82%E9%A6%96%E7%9B%B8%E3%81%8C%E6%9B%B4%E8%BF%AD%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AF/ar-AA1SWvso?ocid=BingNewsSerp
0096
現在の社会状況について(11)企業も社会もプラスチックを甘く見過ぎている
yo-chan
01/09 15:17
現在の社会状況について(11)企業も社会もプラスチックを甘く見過ぎている 化学合成品が出現する以前から、天然ゴムや琥珀(amber:植物の樹脂)やシェラック(shellac:ラックカイガラムシがマメ科クワ科の木に寄生し樹液を吸い分泌した樹脂)やべっ甲等の自然物が加熱により、流動化し、成型性を増すという性質が利用され、冷却後に様々な形状の宝石やピアノ鍵盤やビリヤード球や櫛といった造形物を与えることから重用されてきた。これらの物質群がプラスチックのもとである。 1800年代になると、アメリカ・欧州の上流家庭ではビリヤード台を持つことがステータスを象徴するようになり、自然界に頼る材料だけでは需要を満たすことが困難となり、大量に入手できる材料を求める欲求が高まったこと、並びに1800年代までにかなり化学技術が蓄積されていたこともあり、天然素材に代わるプラスチックを化学の力で獲得する土壌が生れていた。その後の展開事例を挙げると以下になる。 1862年:Alexander Parkesはパークシン(Parkesin)と命名の人工プラスチックを作成 1867年:ニューヨークタイムズが、象牙の需要増から象の絶滅の懸念を報じ、自然物でない合成品プラスチックの必要性が高まり、John Wesley Hyattがセルロイドを発明し上市 1907年:セルロイドが可燃性であり、それを改良すべくLeo Baekelandがベークライト(コールタール製造で発生する廃物のフェノールとフォルムアルデヒドの利用)を製造 1920年代:ポリスチレン(発泡樹脂や使い捨てナイフやスプーン・CD等 パッケージ)とポリ塩化ビニル(PVC:レコード盤や塩ビパイプで汎用され、現在世界第3位のプラ)が、 1933年:ポリエチレン(強度・柔軟性・耐熱性で優れ、現在最も利用されている)が、 1935年:ナイロンと呼ばれるポリアミドがDuPont社から、 1938年:テフロンが世の中に登場 軽くて丈夫、加工・成型しやすく、大量生産が容易なことから安価であり、湿気や電気を通しにくく、水や薬品に強く、そして透明性があり容易に着色出来る等々の特性がプラスチックにあったことから、以降プラスチック時代が進行し、現在のプラスチックが蔓延する社会が生れたことは言うまでもないだろう。 今はまさにプラで溢れかえっている時代になっている。 今回は、プラスチックが溢れかえっている社会が果たして健全だ、と言えるかどうか、を改めて問う形でプラスチック社会が抱える問題点を中心に纏めて見たい。 1.(生産量の推移の点から) 1950年に150万トンレベルだったプラスチックの総生産量は徐々にそして着実に上昇し、1970年に3000万トン、1980年に6000万トン、1990年に1億トン、2000年に1.8億トン、2010年に2.5億トン、2022年に4億トンへと爆発的に拡大している。 この傾向が続くと仮定すると2050年に8.84〜11億トン、2060年に12億トン以上の総生産量が予測され、生産開始以降の生産量を全て合計した総累計で考えると260億トンのプラスチックが世界に溢れている時代になっていると予測されている。世界に居住する一人当たり約3トンが背負わされている勘定になる。 2050年時点における海に流れ込むプラスチック量の予測量が如何に莫大なものであるかは、その予測総重量が海に泳ぐ魚の総重量を上回るだろうという事実が物語ってくれるだろう。 この試算は2016年2月15日付けBBCニュース(Will there be more fish or plastic in the sea in 2050?) で紹介されており、エレン・マッカーサー財団と世界経済フォーラムが海に流れ込むプラスチック量を調査した「新しいプラスチック経済(The New Plastic Economy)」なる報告書がこの予測値を記載しているという。 2.(マイクロプラスチック及びナノプラスチックの量的・数的な蔓延状況の点から) プラスチックは非常に安定であるが、自然界に流れ込むとその環境の下で徐々に破断破砕分解し、例えばプラ袋は、50cm以上の大きさのものはメガプラスチックと呼ばれ、更に日光や物理的力で破砕破断が進み、25o〜50cmになるとマクロプラスチック、5mm〜25mmになるとメゾプラスチック、1μm〜5oのサイズになるとマイクロプラスチック(microplastic, MP),1μm以下のサイズになるとナノプラスチック(nanoplastic, NP)と呼ばれるものへと変化していく。 メゾプラスチック以上の大きさのプラの生態系への悪影響(海鳥海亀の窒息やカラマリ等)は大いにあるが、目視出来ることから捕捉し除去することは容易であり可能である。 視認が難しく、一旦生態系に拡散されると捕捉が困難であり、更にその微小性から食物連鎖に取り込まれやすいという特徴を持つことから、マイクロプラスチック(MP)とナノプラスチック(NP)の二つが生態系の健全性並びに全動植物の健康度合に非常に大きな影響を与える可能性を持っている。 かかる観点から、如何に社会がMPとNPに覆われているか、如何に社会がそれらの危険性に直面しているか、を先ずは以下に紹介したい。 2025年1月29日付けStanford Reportの記事(What’s the deal with microplastics, the material that ‘never goes away’?)によると、推定1000万〜4000万トンのMPs粒子が毎年環境に放出されており、2040年にはその数が倍増する可能性がある、と報じている。 また温帯から亜熱帯の北大西洋のNP粒子重量を試算した研究がある(Nanoplastic concentrations across the North Atlantic, National Library of Medicine, 2025年7月)。それによると北大西洋の混合層に存在するNPsの総重量は現在2700万トンと推定され、このNP量は大西洋全体または世界の海洋のマクロプラスチックとMPの推計総重量と同程度かそれを上回る量になり、重量でなく粒子の数から判断すればナノプラスチック(NP)が海洋プラスチック汚染の大部分を占めると結論付けられるとしている。 そしてその総重量は2040年には倍増すると予測されており、重量ベースで5400万トンとなり、NPの微小さからするとその粒子数は天文学的な数になるのである(因みに1gのNPには少なくとも数100万〜数兆個の微粒子が含まれると試算されている)。 海洋の表層水面には10の18乗(米式)あるいは10の30乗(英国式)個の海洋微生物(海洋における光合成能力並び食物連鎖の起点となる重要な生態系を構成)が成育し浮遊しているとの試算があり、2700万トンや5400万トンというNPの粒子数は海洋に生育する微生物数に数的に十分拮抗できる無視できない困った状況が既に生まれているのではないかと推測できる。【1000万トンのNPで、1g1兆個の粒子数と仮定すると、10の29乗個】 3.(MPとNPが持つ人の健康に対する危険性の点から) 2025年1月29日付けStanford Medicineニュースセンターに『マイクロプラスチックと私たちの健康:科学が示すこと(Insight Microplastics and our health: What the science says)』という記事がある。少し引用すると、今、成人は週にクレジットカード1枚分のMPを摂取していると、科学者は推定しているという。 科学者らは動物を使った実験やヒト細胞を用いた実験を行っており、それらの知見からMPの暴露が及ぼす人体への影響を推定し、MPの暴露が人のガン発症や心臓発作発症・生殖機能への障害やその他多くの疾患と関連する可能性を指摘している。 しかしMPが人体に与える影響を直接検証した研究はほとんどなく、2024年時点ではMPの危険性については充分な情報が得られていないとしている。 【プラスチックを推進する企業側は、この科学界の現状を最大限利用して、一方では科学界の合意形成に繋がる研究を妨害し、他方で多国間のプラスチック生産抑制合意の成立を妨害し、規制するのであれば、それは生産抑制ではなく、排出されるプラスチックを管理下に置く方策の検討とその推進へと目くらましを、行おうとしているのが現状と思われる】 4.(酸化ストレスと炎症反応に及ぼすMP とNPの影響の点から) 人への疫学的研究は未だ発展途上であり、今後の更なる進展が待たれる状況であるが、MPとNPの持つ人を含め多くの動物植物微生物の生理機能に及ぼす危険性を示す研究例は数多く発表されている。2つ紹介すると、 2020年10月のPubMedに『マイクロプラスチックとナノプラスチックによる酸化及び炎症の有害事象経路の活性化(Micro- and nano-plastics activation of oxidative and inflammatory adverse outcome pathways)』という報告があり、そこにおいて次の記述がある。 『MPとNPはいずれも活性酸素種(ROS)の形成を分子レベルで誘発(酸化ストレス誘発)する共通の効能を持っており、酸化ストレスの生体内伝播の遂行と炎症反応の発生を通じて成長阻害や行動変容といった有害な結果がもたらされることが判明した』としている。 2024年10月の研究誌Cellsに『マイクロプラスチックとナノプラスチックの分子・細胞への影響:炎症と老化に焦点を当てて(Molecular and Cellular Effects of Microplastics and Nanoplastics: Focus on Inflammation and Senescence)』という報告があり、そこにおいて次の記述がある。 『MPとNPへの暴露は、活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の産生増加に繋がり、ROSはDNAや蛋白質や脂質等の細胞高分子に損傷を与え、その結果炎症性サイトカインの産生増加に繋がり、よって細胞内炎症反応による神経変性疾患や心血管疾患やその他加齢関連疾患を引き起こす可能性がある』と指摘している。 5.(MPとNPはトロイの木馬という点から) MPとNPの生態系への危険性には、プラスチック生産時に機能性を付与する目的で混入される重金属やテレフタレート類等が持つ毒性の懸念がそもそも存在しており、生体内に取り込まれた後の細胞内でのこれら毒物の影響が心配されている。 【プラスチックやタイヤ用ゴムや運動靴に使われるゴムには、重金属やテレフタレートだけでなく、後の述べる6PPDを始めとする数千以上の特殊化学物質が着色性・柔軟性・堅牢性等の機能性を付与する目的で混入されており、しかもそれらは企業機密に守られており、安全性の判断に必要とされる透明性は期待できない状況と言われている。奥深い闇がプラスチックやゴムの世界にも存在している】 そして別のプラスチックの特徴にプラスチック表面に生態系に存在している様々な危険物や毒物を吸着し、それら危険物や毒物の運搬役、即ちトロイの木馬の役割をMPやNPが果たすということが指摘されている。 更に、MPやNPの表面上に様々な微生物が繁殖し、独特の微生物群スライム菌叢(biofilmと称される)が形成されることも研究され、この研究において『菌叢内で構成微生物種が“抗生物質耐性機能”を獲得していくシステム』が存在していることを報告している。 【“抗生物質耐性機能”獲得システムにMPやNPが絡んでいる点は、極めて重要な視点】 MPとNPは酸化ストレス・炎症反応だけでなく、毒物危険物の温床であり、運搬役であり、そして抗生物質耐性菌をも生みだす厄介な代物ということが判明して来ているのである。 6.(子どもの生活環境の危険な状況の点から) クライミングジム(ボルダリングジムの方が正式名のようだ)といった子どもの遊び場の環境が高速道路と同じくらい汚染されている、とする調査結果(原典:クライミングシューズの目に見えない足跡:屋内施設におけるゴム添加剤への高暴露The Invisible Footprint of Climbing Shoes: High Exposure to Rubber Additives in Indoor Facilities) が最近出されている。 それによると、クライミングシューズ底面に使われているゴムは自動車タイヤと類似の素材が使われており、クライミング壁面に突出しているホールドと称する突起に足をかけていきながら上に登るスポーツであることから、競技者のゴム底のゴムの摩耗物が突起にこびりつき、そこからゴム粉が散逸し、屋内のジムの環境を悪化させている、というのだ。 クライミングジムで使用されている靴底のゴム成分と室内に浮遊するゴム粉とを精密に分析した結果、自動車タイヤで問題視されている6PPDというゴム安定剤が検出されたとしている。そしてこの6PPDおよび6PPDから誘導される転換物質が河川の鮭が大量死したという以前から問題となっていた事故を引き起こした原因物質だったのである。 また子供らが遊ぶ別の場の問題も指摘されている。最近よく見かける滑り台やシーソーやブランコがある遊び場がクッション性の良いゴムで敷き詰められていることである。 このゴム面は『その場で流し込むことで作られるゴム性遊び場(Poured-in-place rubber playground; PIP rubber ground)』と呼ばれるもので、1950年代に欧州で競技場の走路面として利用が始まり、1980年代から1990年代初めの時期に北米で子どもの遊び場に利用されるようになり、墜落事故の危険を大幅に改善したという効能があり、日本でも多くの遊び場で見かけるようになっている。 しかし、当初に使われた基本材料が古タイヤを再利用する方式だったのである。古タイヤの再利用というエコに関わる大義と幼児・児童の転落事故防止という2つの良い点を持つ施策だったことから普及が促進されたと言える。 しかし、古タイヤにはクライミングジムで触れた6PPDの問題並びに混在する重金属やその他の特殊化合物という問題も抱えていたのである。その後当然ながら素材の改良も見られつつ今に至っているのだろうが、一方の幼児・児童の墜落事故防止効果が絶大な為に混入する化学物質の危険性は軽く見られ、研究が進みにくい環境が生まれているのではないかとみている。そしてこの子供の遊び場からも微小なMPやNPが生れ、風で舞い上がり、付近の環境を汚染し、また雨で流され河川へと、そして最終的に海へと向かいMP/NPの蓄積量増加に貢献するシステムが構築されている。 7.(自販機の飲料からの点から) 自販機で販売されているPETボトル飲料にMPsがどの位あるかを調べている2つの報告があり、1つは1リッター中に60〜130個、もう1つは2〜42個と報告している。 PETボトル飲料を加温した場合にどの程度のMPsが放出されるか、を調べた実験室レベルの研究によると100℃1時間の撹拌条件下ではあるが100万個以上の微粒子を確認している。 また2021年6月のJournal of Water Healthに掲載された別の研究(使い捨てペットボトルの開閉によるマイクロプラスチックの発生:原題Generation of microplastics from the opening and closing of disposable plastic water bottles)がPETボトル飲料で行われており、それはキャップの開け閉めの繰り返しを行うことで生じるMPがどの位であるかを調べているものであり、それによると一回のキャップ開閉につき、1リットルの飲料中に350〜750個のMPが発生することを観察している。 キャップの開閉の繰り返し回数の多寡でMPの摂取に大きな違いが発生することを示す興味深い研究と言える。 更に興味深い研究(SRS顕微鏡によるナノプラスチックの迅速な単粒子化学イメージング:原題Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy)が米国科学アカデミー紀要にその後発表されている。興味深い点は測定技術の進歩により、今まで存在していたにも関わらずにカウントできず、結果としてNPの存在数を過少評価していた事実を明るみに出した調査結果だということである。米国科学アカデミー紀要が行った調査は、新たに開発したSRS顕微鏡技術を用いて当時販売されていた3つの人気ブランドのボトル飲料を調べたことであり、彼らは平均して1リットル当たり24万個の微小プラスチックをカウントし、その90%程はNPに分類されるサイズだったとし、この24万個という数値は従来の大きなMPの検出に焦点を当てざるを得なかった調査結果の粒子数を10倍〜100倍した数値だった、と指摘している。 【用いる検出技術の精度次第で、検出数が大きく変化するということは、従来の研究結果を比較する上で勘案する必要のあることを示した興味深い文献といえる】 8.(プラスチックは、加熱に、特に電子レンジ加熱に相性が悪いという点から) プラスチックが過熱に弱い点に焦点を当てているニュースがある。 1つ目は2022年4月20日付けのScience of the Total Environment誌に掲載の(使い捨てプラスチック素材は、熱水中にマイクロプラスチックや有害物質を放出する、原題:Disposable plastic materials release microplastics and harmful substances in hot water) であり、100℃の熱水中にプラスチック容器、プラスチックカップ、透明性のあるプラ容器を60分間撹拌した結果発生したMPサイズの微粒子数を測定している。結果はそれぞれ50万〜150万個、130万〜160万個、150万〜296万個であった、としている。 もう1つは米国モンタナをベースに活動するグループが提示しているプラットホーム“Beyond Plastics”にある記事(電子レンジ+プラスチック容器=間違った取り合わせ:原題Microwave+Plastic=BAD Idea)に、2003年の時点で研究者らが『繰り返し電子レンジ加熱対応可能プラ容器と表示されていても、繰り返し利用すると、プラ容器から揮発する有害物質の食品への移行が繰り返し回数につれて増大していく恐れがある』ことを指摘していたこと、そして最近の研究事例に『代表的な2社が販売する新生児向け食品を調査したところ、電子レンジ対応であり安全なポリプロピレン容器(#5)に納められている幼児向け食品を電子レンジ加熱した所、容器表面積(1cm2)当たり420万あるいは12億個の微粒子をカウントしたと紹介している。 水中で加熱することで、数百万レベルの微粒子が、そして電子レンジ加熱ではケースによっては水中加熱よりも100倍〜1000倍多くの微粒子(大半がNPレベル)が発生している。 【”プラ容器入り食べものは電子レンジと相性が悪い” や“プラ容器入り食べものは加熱に弱い”というキャッチコピーは銘記して良いフレーズだろう】 9.(企業の都合のみを優先していると大変なことになるのでは) 要点のみを最後に強調しておきたい。 現在のプラスチック生産量は4億トン以上。 現在世界で生産されたプラスチック総量は100億トンを超えている。 2022年の統計によると、総生産量4億トンで、ゴミとなった量は2.68億トン。 2.68億トンのその後の内訳は約40%は埋め立て処理、約34%は焼却処理、約9%はリサイクル、約11%は不適切処理で散逸、約16%は行方不明。%総計が110%になり、かなり怪しげな統計値と思われるが、一応ここでは25%が不適切処理で環境中にあふれ出出ている量と仮定すると、2022年に6700万トンが新たに自然界に放出されたとなる。 上に述べた世界生産プラスチック総量100億トンに当てはめると、自然界に散逸しているプラスチックの総量は25億トンと推定される。 推定1000万〜4000万トンのMPs粒子が現在、毎年環境に放出されていると前に述べた。 1950年からスタートし、現在75年が経過していることを勘案すると、この推定値の1000万から4000万を20倍すれば、現在自然界に散逸しているアバウトなMP総累計量が求められだろうとして、計算すると2億〜8億トンになる。 下限の2億トンを現在の浮遊NP総重量と更に仮定して、この2億トンの総粒子数を算出すると2X10の25乗のオーダーになる。 海洋の表層水面には10の18乗(米式)あるいは10の30乗(英国式)個の海洋微生物(海洋における光合成能力並び食物連鎖の起点となる重要な生態系を構成)が成育し浮遊しているとの試算を前に述べている。安全側の10の30乗を採用すると仮定すると、NPと海洋微生物との数量関係はNP1個に対し微生物種は10の5乗個になり、10ppm程度と見てよさそうである。但し現在の測定技術がNPを正確にまた全てをカウント出来ているかどうか、を考えると、この比較はかなり安全側で判断している可能性がある。そしてMPもNPも100年以上にわたって安定して存在するものであり、今後の散逸分がそのまま新たに加わる一方で推移していくことを考えると危険性を無視する態度は取りえないものと思う。 そして現在の社会のシステムである。 買い物袋は、やはり多くはプラ袋が使われている。 使い捨てのナイフ・フォーク・ストローが相変わらず使われ、しかもプラ包装されている。 食べものは概ねプラ包装され、かなりの部分が加熱される。 自販機内の飲み物も加温状態で販売されるものも多い。 弁当の加熱用にスーパーやコンビニには電子レンジが置かれている。 遊び場にもスポーツ競技場にもゴムが安全性向上目的で敷き詰められ、ゴム粉が生まれる。 道路でも、車のタイヤから摩耗したゴム粉が生まれる。 そのような社会のシステムが出来上がっているのである。 しかし、このシステムは今回様々な例でみたように、危険さを秘めたシステムなのである。 ではどうしたら良いか? 一つの考えは、現在のシステムは世界を一つの大きな市場に見立てたい、そうしていきたいとする企業側の膨張を目指す方向性だと思う。 対立する考え方があると思う。それは地域内に収斂していく方向性だと思う。 長距離の移送を考えるから軽量で丈夫で安価なプラを企業は選択するのであって、地域内の移送は、例えば昔ながらの紙包装で充分だろう。 企業の狙う世界制覇の夢ばかりに付き合う義理はなく、プラ以外の従来使ってきた素材が役立つ生活のシステムの復興を考えるのもありではないかと思っている。
0097
>現在の社会状況について(12) 世の中は多国籍企業主導のUPFsを甘く見過ぎている
yo-chan
01/19 12:27
現在の社会状況について(12) 世の中は多国籍企業主導のUPFsを甘く見過ぎている 超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPFs)の現状をまとめると以下のようになる。 UPFsとは、ブラジル・サンパウロ大学モンペイロ教授らが主導的に考案した食品を加工度の多寡・強弱で4つに分類したNOVA分類法において、その4分類の一つがUPFsである。 UPFsはその特徴として、自然食材を構成栄養成分ごとに一旦分画し、即ち蛋白質や糖質や脂質等を別々に分画・抽出し、その後各分画成分ごとに工業技術ならではの、家庭の台所では行うことが出来ない、例えば超高温・超高圧といった物理的処理や化学的処理(水素添加や加水分解や化学修飾が典型例)や酵素処理等の生物学的処理などの特異な改変工程・精製工程を経て得られる各精製・改変素材を、再度『新たな食べ物、即ちUPFs』とすべく配合・調合し、物理的に(例えばエクストルーダー利用)新食品に組み立て上げる(この組み立て工程時に着色や着香料・乳化剤・増粘多糖類・酸化防止剤・保存料・離型剤その他の食品添加物が見た目や嗜好性を高めるために、大量で機械的な生産をスムーズに進められるように、そして商品をくまなく世界隅々まで届けられる長期保存性を持たせるべく恣意的に加えられる)ことで作り上げられた食品という極めて特異な性質をもっている。 モンペイロ教授らがそれら特異な特質を持つ『新食品』に敢えてUPFsという名称を与え、それ以前に萌芽の時期があっただろうが敢えて言えば大戦終了後1950年頃から突如として世の中に広まり始めた『工場大量生産型新規食べ物』である『超加工食品』が尋常ならざる特質(即ち、人々が個人単位・家族単位程度で調理し摂食してきた食べ物とは全く異質であることは上に述べた特質から明らかであろう)を持っていることの重要な意味合いを世の中に知らしめるべく、敢えて従来からの食べ物と明確に区分けしたのであろう。 【UPFsのもう一つの特徴の食物繊維不足やミネラルやビタミン等の微量栄養素不足が生じる原因は上記の分離・分画、そして特異精製工程過程中でそれら有用栄養成分が抜け落ちてしまい、UPFsが油脂リッチでカロリー過多になったり、糖質リッチで酸化ストレスを人々に与え勝ちな食品になったり、その一方で食物繊維不足・ミネラル不足・ビタミン不足な食べ物になり、いわゆる『2重の栄養失調状態(カロリー過多・食物繊維不足・ミネラル不足・ビタミン不足のUPFs過剰摂食により生じる太りすぎや肥満もある意味栄養失調と見なし、従来の栄養失調の症状だけが問題ではない時代が到来しているとの認識)』という健康上の懸念が生まれるのである。】 UPFsの簡単な見分け方は、パッケージの表示成分中に一般家庭では目にすることがない素材名(例えば、乳化剤・増粘剤・保存料・着色料・香料等)が表示されていることを確認することである。 モンペイロ教授らが、4つの分類の中の大きな一つとしてUPFsを名指しし、そして焦点を当てようとした背景を考えることが今回の主題である。 戦前も、そして戦中も技術の革新を各国が競い、戦争まで引き起こしながら世界が大きく変転していったという動因・推進力が、戦後も変わることなく継続していることが一つの背景状況である。科学にはそういった側面があり、大国主義者や企業論理がそれを利用して世の中が動かされていくという推進力である。 一方、革新技術競争の拡大のあおりを受ける形で『伝統』というものが、そして『地域社会』というものが『周縁化・限界化・消滅化』へと進むというシステムが構築され、そして放置されているということがもう一つの今の世の中の特徴であり、科学が持つ一つの面がそれを促進している。 食品産業界もご多分にもれず、技術的には1960年代から1970年代の凍結乾燥技術や脱水技術等が開発され、販売方法としては同時期にスーパーマーケット網が社会に進出していくこととなり、それらを背景としてUPFsの基盤が先ずは作られていった。 例えば、アンディ・ウォーホールが1962年に発表した作品『キャンベルのスープ缶詰』がUPFs食品時代の幕開けを象徴する出来事だったのだろう。 1950年代から1960年代、ハンバーガーなどが北米で黎明期を迎え、1970年代から1980年代にかけて世界市場化へと展開していき、UPFsは拡大期を迎えた。 ファーストフードや袋入りスナック菓子の大量生産が、食品加工業界の規模・利益拡大の推進力となることが明らかになっていった時期と言える。 北米・西欧そしてオーストラリアを中心にして始まったUPFs市場は日本を始めとする諸国に膨張していく状況が始まり、例えば市場規模は1989年が5700億米ドルだったのが2019年には1.1兆米ドル以上へとほぼ倍増した。 重量ベースでその伸長を見ると、2013年には9200億kgのUPF生産が行われ、それが2021年には1兆kgに達している。 この1兆kgに達したという事実を少し考えて見たい。 現在の80億人強の世界人口をもとにすると、1兆(10000億)kgのUPF は一人当たりに計算すると年間125kg分となる。1日当たり342gが世界の人に割り当てられる計算になる。 そしてこの342gという量の持つ意味を考えると、従来の新鮮で栄養価値の高い食材(NOVA分類で言う未加工食材と最小限の加工を受けた第一分類食材)が、1g当たり1.0〜1.2カロリーを持つとされるのに対し、カロリー密度が高いことを特徴とするUPFsは1g当たり2.0〜2.3カロリーを持つとされ、これを基に上の一人当たり1日342gに当てはめると、そのカロリー数は684〜786.6カロリーとなる。 成人一人の摂取カロリーを2000と仮定すると計算上、34.2〜39.3%となり、2021年時点という少し古いデータをもとにしても1日必要カロリー数のほぼ35〜40%分がUPFs食品から摂食してしまう状況が既に出来上がっていることを意味し、この現実が今の世の中の健康上のベースとなってしまっていることを世界に暮らす人々は強く認識する必要があると思う。 そしてこの世の中の流れは今のところ全く変わることなく、超加工食品業界はその生産を着々と拡大していくことが予測されているのである(2024年〜2029年の期間の拡大は年率9%と見積もられている)。 年率9%の拡大が今後6年続くと、計算上ではあるが、1日一人当たり342gが570g程に増大することになり、やはり計算上ではあるが1日摂取カロリーの60%以上をUPFsが占める時代が目前に迫っているのであり、この点は強調し過ぎることがない位に重要な事柄と考えている。 【アメリカや英国がUPFs摂食率の点でトップを競い、成人でいえば60%近くに達し、若年者では62〜67%に達しているとされ、日本も全体では現在25〜30%であるが、急速に食の西欧化と伝統食離れが今も変わらず進んでいることから、更に高い割合に近々なっていくことは確実であろう】 人の胃袋には限りがあり、UPFsが幅を利かせれば利かせるほど、その分従来の伝統食材は圧迫され、それにより個々人にとっては健康上の懸念が高まり、世の中にとっては格差の拡大も合わさった形で、健康食材に対する入手性の格差や食習慣の偏向化・劣化の拡大が推進され、社会不安への懸念が高まることになる。 このUPFsの現在地及び今後の行く末の世の中の劣化を、いち早く認識し科学の世界から出来る行動と対策を行ってきたのがモンペイロ教授らの功績だと思っている。 【科学が持っているもう一つの面の代表例がここに表れていると考える】 但しこのUPFsの状況の推移を、そしてこの推移を引き起こしている世界の革新技術開発競争を世の中の進歩の姿だと肯定的に評価しようとする考えもまた存在している。 この考え方の大本には『経済の発展という社会の重み』と『科学的知識の蓄積という事実に立脚しての正当であり妥当な社会のシステムの変更への科学界からの提言の重み』とを比べた際に、前者の『経済の発展の重み』を優先するという思想があり、それが選択され、そして存在しているのだろう。 それを象徴しているのがトランプ主義的な思想であり、世界の巨大企業が立脚している思想なのであろう。即ちトランプ主義者らは『正当で妥当な科学的知識の蓄積事実』を『茶化したり、捻じ曲げようとする』のである。 トランプ主義の煽りを受けつつある科学界の窮状は前に紹介した。 それでもなお『科学界からの知識の蓄積が為されていく行動』が『健全な世の中のシステム構築』の為にはやはり重要であり、必要なことだということを示す例として、モンペイロ氏を始めとするUPFs関連の科学的研究の全景を紹介する報道が最近発表されているので、以下に紹介したい。 紹介する記事は、『超加工食品が人の全ての主要臓器に悪い影響を及ぼすとする研究が発表されている』 (原題:Ultra-processed food linked to harm in every major human organ, study finds) The Guardian, 2025年、11月18日、アンドリュー・グレゴリー氏記す 以下に内容を記します。 世界最大規模で調査を行った結果、超加工食品の摂食が世界の人々の健康と幸福な生活に脅威となる、と警告している。 UPFが人の体の全ての器官・臓器に危害を与え、世界の人々の健康に甚大な脅威となっていることが、新たな世界最大規模で行われた調査で明らかとなった。 全ての大陸の子供たちや成人の食事において、新鮮な加工されていない食べ物、或いは加工度の低い食べ物を、UPFが急速に駆逐し置き換わりつつある。その結果、肥満や2型糖尿病や心臓疾患や鬱といった数多くの疾患の拡大化の恐れが高まっている。 世界規模でのUPFの摂食割合の急増は、消費拡大を煽る一連の刺激的であり攻撃的な企業の広告戦略、そしてUPF問題に関する科学的議論の活発化やUPFを規制するといったことを批判し反撃する企業の戦略によって引き起こされており、結果として企業に莫大な利益が生れている、と研究論文は指摘している。 Lancet誌に公表された一連の3つの研究報告からなる知見は、調理済み食品(ready meal)・シリアル類・プロテインバー(protein bars)・発泡飲料(fizzy drinks)やファーストフーズといったUPF食品を過大に摂食する数百万人の人々の調査から得られている。 UKやUSでは、食事の50%以上が既にUPF食品で占められている。そしてある人たち、ことに若い人・収入の少ない人・恵まれていない地域に住む人、は食事の80%程の多くをUPFが占めるまでに至っている。 43人の専門家の調査結果から、UPFを多く含む食事というものは、過食を促し、必要な栄養価を取ることが出来ず、そして有害な化学物質や添加物をより多く体に取り込むことに繋がるとされる。 長期間の疫学調査を行った104の論文を解析したところ、92の論文が1つまたは複数の慢性疾患の発症並びに早期の死亡とUPFの摂食との間に相関性があることを認めている。 ランセットの3つの一連の報告の著者の一人のモンテイロ教授(サンパウロ大公衆衛生学)は、得られている科学的知見はUPFに緊急に対策をとる必要性のある理由を強く示している、と語る。 『一連の報告の最初の報告によると、UPFsの摂食が人体の全ての主要臓器に悪影響を及ぼすことを明らかにしており、そこで提示された証拠は人間がUPFsを消化する観点において、人間は生物学的には適応できていない、ということを強く示唆している』 モンテイロ氏と共同研究者らは、食品を分類することの必要性・重要性を基にNOVA分類法の考案に辿りついたとされる。 【第一分類:未加工食材と最小限の加工を受けている食品、第二分類:第一分類の材料をもとに簡単で安価で伝統的な手法で加工した例えば油や塩や酢や砂糖・澱粉等といった味付けや調理に使われる食材がこの分類に入る、第三分類:第一分類の食材を第二分類の調味料等を添加することで作られる加工食品を指す、第四分類:UPFs】 UPFsは、家庭の台所では作ることが無理であり、工業的プロセスを使って初めて作ることが出来る素材である例えばフレーバー類や乳化剤や加工澱粉や蛋白単離物や着色料を使用することで出来上がる食材を組み合わせて作りあげられるもので、ソフトドリンク・袋入りスナック菓子類があり、それらは非常に美味しく、高カロリーであり、手ごろな価格であり、何処でも簡単に購入できるという特徴を持っており、だが栄養的には質の劣るという特徴も併せ持つ食べ物なのである。 そして、結果的にUPFsは新鮮な食品や伝統的食事に置き換えられるようデザインされ、販売されているものであり、企業の利益が最大化されるようにデザインされて販売されている、とモンペイロ氏は指摘する。 モンペイロ氏らの研究に批判的な人は、NOVA分類法の曖昧さを指摘し、そして砂糖や塩分の摂取量を減らすことを目指す政策を推進すれば指摘される健康上のリスクは回避できると主張する。 モンテイロ氏らは、かかるNOVA分類法やUPFに関連する批判的な人の科学的根拠の妥当性を認めている。即ち長期間の臨床的テストや地域的なテストが不足している点やUPFsの悪影響のメカニズムの解明が不足している点やNOVAには様々な栄養的価値をもつサブグループが存在している点をモンテイロ氏らは認識している。 その上でモンテイロ氏らは、今後に行う必要のある研究の存在が、UPFの危険性への対策の迅速な着手を妨げてはならないと指摘し、そして彼らのこの議論の正当性・妥当性はこれまでに蓄積されている現在の科学的知識でもって充分に正当化できるとしている。 『UPFsの摂食量の拡大ということが、世界の食事風景とシステムを変えつつある。新鮮で加工度合いの少ない食材や食べものが駆逐されつつある。 人々が何を食べるかということに繋がる世界的なUPFsの拡大化という変化が、多国籍企業体の強力な力で推進され、彼ら企業体に爆大な利益を生んでいる。そして彼ら多国籍企業体は広範囲に及ぶ組織的広告宣伝運動とロビー運動という両面における活動を精力的に展開することで、健康的な食生活を支援する公衆衛生に関わる有効な政策作りやその実践の妨害を行っている』とモンペイロ氏は懸念する。 ランセット誌に掲載された2番目の論文ではUPF食品の生産とUPF食品業界の市場構築作業及びUPF食品の摂食を規制し削減する政策の提案を行っている。 一部の国では食材の構成成分を一旦分画し、それぞれの構成成分を精製した後に目的に合わせて再度組合せて作ることを背景に持つUPF食品を規制する条例が導入されているけれども、公衆衛生上の対応に関わる世界の状況は、というと未だ黎明期の段階であり、数十年前のたばこ規制の黎明期の時期に似た状況と言えると指摘している。 ランセット誌に掲載された3番目の論文ではUPF食品の現在の拡大傾向を後押ししている推進力となっているのは世界規模の企業活動が中心であり、世界に居住する個々人がUPF食品を『自身の意思で優先的に選択する』ことでかかる状況が推進されている訳ではない、と指摘している。 【自身の意思で優先的に選択している、と人は言うかもしれないが、その方向に誘導するシステムが存在し、その悪知恵と腕力は物凄いものであるが故の選択と言える】 今や『慢性疾患のパンデミック』と言ってよい状況が進行しており、その主因が世界の人々の食生活に侵入してきているUPFだと言える。そしてこの背景に食品業界のなにを置いても利益第一を優先する考え方があると著者らは指摘している。 健康を守る上での主なる障害は『批判に対しては、それを跳ね返し、規制に対しては、それをブロックする』といった食品業界全体の政治的な活動が存在していることである。 それら活動はフロント企業グループの世界的ネットワークを通じて、多種多様な利害関係者が行う運動を通じて、資金援助をもとに研究活動に恣意性を組み込みたいという思惑を通じて行われており、そしてそれら全体を多国籍企業体が連携して取り仕切っている。 ランセット誌掲載の論文の共著者であるノースカロライナ大のバリー・ポプキン教授は『不健康な添加物を抑制し、より有効な規制を達成する上で有効な食品包装の前面表示の中に飽和脂肪含量・糖分含量・塩類含量と共にUPFsの存在の明示化を要求したい』と語る。 また著者らは、特に子どもを対象にした広告に対する厳しい規制、学校や病院等の公共スペースにおけるUPFの禁止、スーパーマーケットでのUPFの販売制限規制と陳列方法の制限規制も提案している。 成功例の一つに、ブラジルの国家学校給食プログラムがあり、このプログラムでUPFはほとんど廃止され、2026年までには食品の90%は新鮮なもの、或いは最小限の加工を受けた物のみとする義務付けが行われることになっている。 この一連の研究に関与していない研究者らは、これら一連の研究における証拠の検討内容をおおむね好意的に捉えているが、しかしUPFに関する研究はまだ必要であり、そしてUPFと健康上の危険性との関連性の指摘は因果関係性を意味するものでない可能性の注意を指摘している。 以上。 世界のUPF食品業界は数社の多国籍巨大企業(Nestle, PepsiCo, Unilever, The Coca-Cola Company, Kraft Heinz Co.、Mondelez International, Danone, General Mills, Mars, Kellogg’s)に支配されている。 UPF以外の加工度合いの低い食品業界や基本食材を扱う業界に比べUPF 食品業界の利益率ははるかに高く、このことは上記の多国籍巨大企業の中のいくつかがUPFの利益が占める割合が3分の2を越えているという事実(2022年時点の実態)で明らかである。 高い利益率の例としてKraft Heinz, General Mills, とNestle 社は平均営業利益率が過去5年間を通じて17%を超えており、畜肉品販売等の他のビジネスの営業利益率が6%程と比べると明らかにUPFsは儲かる商材なのである。 UPFsの摂食過多傾向と健康上の懸念、例えば肥満・2型糖尿病・心臓疾患・ある種のがんや認知症との因果関係については研究が進み、かなりの確度で因果関係ありと言えるところまで来ているのが現状と言える。 但しまだ研究すべき点が残っているとの指摘があるのも事実であるが、モンテイロ氏が指摘するようにそれがために迅速な対策の着手が妨害されるべきでなく、また迅速な着手が妥当であり正当な政策だということを支持する知見は既にあるとの氏の考えに立脚してこの問題を考えたい。 安全側に身を置くことの重要性を斟酌すれば少なくともUPFsの現状とこれから予測される世の中のUPFsの暴走状態を止めることが優先されるべきであろう。 UPFsの優先に歯止めをかけることが『自由であるべき経済の発展』を『意味無く妨げる犯罪行為』だと考え現状を追認する姿勢を優先すべきなのか、あるいは『迅速な対策の着手』を優先すべきかの岐路に私たちは今現在立っている。 人々の健康の安全保障・地域社会の健全性とその安全保障、更にやはり食べるという行為は保守的なものであり、時代に合わせて変わる部分の存在は認めるものの、長く伝わる保守的な伝統食や伝統的な食べ方が『周縁化・限界化・消滅化』まで進んでいくのであれば、やはり明らかにおかしい。そんな極めて常識的な視点を持ち続けたいと思う。 科学の一面を利用して大国主義者や企業の論理だけが表舞台で脚光を浴びるだけで動く世の中になりがちなのが世の常とはいえ、それに棹差すもう一つ面の科学の役割に是非脚光を当てたいものであり、それが出来るのが・求められるのが私たち市民であろう。 アセモグル先生・ロビンソン先生が言う『健全社会に居続けるために市民側に走り続けることが求められる活動』がここにもあると指摘したい。
0098
>>現在の社会状況について(13) 全ての人々のQOL状況のモノサシとなる『障害調整健康年数』毀損の急拡大から見えるプラスチック汚染の異常性について
yo-chan
01/30 12:43
現在の社会状況について(13) 全ての人々のQOL状況のモノサシとなる『障害調整健康年数』毀損の急拡大から見えるプラスチック汚染の異常性について 昨年末のCOP30においても地球温暖化に寄与する温室効果ガス(CO2、CH4、NOxやSO2等)発生の基となる化石燃料の使用量に上限を設定し、以降低減化していく工程表に関する国際間の合意は得られず、先延ばされてしまった。 プラスチック汚染についても、状況は同じで、昨年8月のジュネーブにおける国際間協議でプラスチック生産に上限を設定し、以降低減化していく工程表は見送られてしまった。 地球温暖化・沸騰化に及ぼすGHG排出量拡大の問題と、地球環境劣化に及ぼすプラスチック生産拡大・利用拡大の問題とは、全く同じ構造を持つ現在の世の中の最も喫契の課題だと認識しており、『現在の社会状況について』という連続テーマの大きな主題のひとつとして度々取り上げて議論している。 少し脱線するが、かかる世界を覆う止まることの見通しも付かない気候変動課題そしてプラスチック課題という難題に私たちは直面している最中での今回の突然の総選挙。 本来なら地球温暖化に対する政策の違いやプラスチック問題に対する政策の違いが明確に市民に提示され、投票態度に反映できる状況下での選挙が望ましいのだが、突然の総選挙。地方行政府は振り回され、要らん費用1000億円近くが費消されようとし(これだけあれば一体どれだけ有効なことが出来るだろうか)、司法への市民の態度表明権も棄損しつつ進む話も聞こえてくるし、何にもまして何を目ざすかさえ明確化せず、ただただ『御しやすい』衆院構造になるよう『白紙委任状に署名よろしくね』を推し進める政権与党の横暴(最高行政権保持者は人気投票にすり替えようとの横暴さえ透けて見える)に、NOの意思表示が一択の選挙と考えたい。話を戻すと、 今回、Deutsche Welle にプラスチックの問題の捉え方(マクロプラスチックやマイクロプラスチックやナノプラスチックの大量流出の問題点に焦点を当てた見方が多い中で、プラスチックのライフサイクル全体から生じる影響に焦点を当てていること、そしてその影響を数値化している点が面白い)として興味深い読み物が掲載されたので、ここに紹介したい。 表題は、『プラスチックの流出が2040年までに倍増し健康被害が懸念される』 (原題:Plastic emissions could double health damage by 2040) DW, 2026/1/27, Jeannette Cwienk氏記す 現在のプラスチック生産の傾向が今後も続くとするとプラスチックの流失の増大により、今後数十年で健康被害の恐れが倍増する懸念がある、とする新しい研究が発表されている。 プラスチックは至る所で使われており、人の臓器中にも、深海深くにも、はるか北極にも確認されているが、最近発表された研究によると、もし現在の傾向が修正されなければプラスチックによる健康被害は2倍以上に拡大するだろうと警告している。 その健康被害拡大の主犯は環境中に流失・拡散するプラスチックごみやマイクロプラスチックだけではなく、プラスチックが生まれ・輸送され・使われ・リサイクルされ・廃棄され、そして廃棄後に辿る行方まで含めたプラスチックの全ライフサイクルを通して発生する排出物全部もまた犯人だとしている。 そして今回の研究は後者のプラスチックの全ライフサイクルから生じ、健康に悪影響を与える排出物に焦点を当てたものである。 プラスチックの99%は化石燃料を原料に作られる。そして1950年代以降に急拡大しているプラスチックというものが、包装材料・家具・衣服・建築材料・医療器具や自動車タイヤ等々と、今やそれ無しでは生活が成り立たない程に世の中に広まっている。 Lancet Planetary Health誌に掲載された研究の試算結果によると、8300万年にわたり全人類が辿ってきた健康状態の歴史を、2016年〜2040年の間に既に生じたか、或いは今後生じるだろうプラスチック排出物総量がぶち壊してしまうだろう、と指摘している。 プラスチックのライフサイクル全工程中に生じる影響力と人類の健康状態が保持・維持されてきた年数とを比較するという点で、今回の論文は新しい視点を提供するものである。 今回の論文が取り上げた影響因子としては、石油・天然ガスから生じるGHGs、プラスチック生産及び輸送中に発生する微小飛散粒子や生産時・リサイクル時やゴミ廃棄時に排出される有毒化学物質が含まれている。 これら汚染物質は、例えば呼吸器系や心血管系の疾患といった直接的健康被害はもとより、気候変動への影響や気候変動推進に基因する間接的健康被害も起こすのである。 アメリカ・ルイジアナ州では、200か所以上の石油化学プラントが列をなしプラスチックを生産し、その一帯が『発がん通りCancer Alley』と呼ばれ、最近の調査では全米平均値に比べてがん発生率が11倍に達することが指摘されている。 かかる事実が認められるにも拘らず、そのルイジアナ地域でも、また別の地域でもプラスチック生産は跳ね上がる勢いで拡大している。 OECDの予測では、プラスチック生産量は2060年までに3倍増に近づくとされ、生産が増えれば、並行して排出量も増え、結果健康リスクも拡大することになる。 この傾向がどのような事態を生じるかを理解するため、今回の研究では6つの将来にたどるだろう道を設定し、2040年時点における予測される健康状態を調査している。 (健康が損なわれる年数を計測する) 幾つかの要因・因子の効果を評価・測定するために、研究者らは標準公衆健康状態の目安となるモノサシとしての『障害調整生存年数(障害を持つことで影響されることを組み込み調整した健康生活が期待できる年数disability-adjusted life years; DALYs)』法を利用している。 ここで、1年のDALYとは、例えば乳幼児期の死亡や病気によりQOL(Quality of Life)の毀損といった健康生活上の1年の消失を意味する。 最初に、研究者らは各シナリオにおいてどれほど多くのプラスチックが世界に存在しているかを評価し、そして、研究者らは、それら推察した量のプラスチックの存在により排出される汚染物によって何年の健康生活年数が毀損されるかを計算している。 研究者らは基準年を2016年に設定し、2016年当時のプラスチック量をもとに計算した所、約210万健康生活年数が2016年に毀損した、との計算値を得ている。 経済状況に大きな変化がない、即ちプラスチック生産量・リサイクル率・廃棄物からの流出性に大きな変更がないシナリオにおいては、プラスチックの健康への打撃は今後大幅に上昇するという結果が得られ、2040年時点において年間の健康生活年数の毀損は2016年に比べて2倍以上の450万年を超える毀損発生としている。 プラスチックへの依存が低減出来、リサイクル率が向上し、廃棄物管理運営がより良い状況に今後なるという最も楽観的なシナリオに社会が移行すると仮定した場合でも、2040年には計算上260万健康生活年数の毀損になるとし、最も楽観的なシナリオに社会が移行する場合でもある程度の健康生活年数の悪化が起こるとしている。 (プラスチックの気象状況への打撃) 2040年時点で予測される400万年以上の健康生活年数の毀損ということは、大まかに言うと地球上で生活する全ての人の一人当たり5時間の健康生活が毀損されることに相当するとハンブルグ大の研究者ウオルター・リード氏は指摘する。 ライフサイクルを通じて、プラスチックは人為的原因で発生する温室効果ガスの約4.5%分を排出する計算になると、リード 氏は語る。 この割合はエネルギー生産分野や農業分野からの排出に比べれば小さいものであり、通常の大気汚染で引き起こされる打撃に比べても小さいものであるが、しかしそれでもなおプラスチック汚染は大気汚染の主要な要因であり、今後も続く急速な利用拡大を考慮に入れれば、政治的な行動を緊急に取る必要がある、と指摘する。 潜在的健康リスクを有する幾つかの要因による影響の大きさに関する世界全体のデータが欠けていることから、今回の研究対象にはそれらの要因は除外され計算されている。 例えば、この理由からマイクロプラスチック粒子とナノプラスチック粒子の潜在的な影響は組み込むことが出来ていない。 また、プラスチック生産時に練り込まれ、日常の利用条件下で滲出し・流出する有毒化学物質もまた組み込むことが出来ていない。 従ってプラスチック汚染に基づく実際の健康年数毀損リスクは、今回の研究で計算された結果より大きいということ、即ち今回の計算値は氷山の一角のみから見える予測と言える。 プラスチックの生産から利用そして廃棄・廃棄後までを含む全ライフサイクルを通じて起こる人の健康に及ぼす危険性が著しく大きいという懸念に対する証拠は充分あり、迅速な対応策を取る必要のあることは明白だとしている。 しかしながら、プラスチックの有害性情報が蓄積する一方で、生産は拡大を続け、汚染は世界中に拡大しているのである。 (プラスチック生産量削減が何故重要であるのか?) プラスチックによる健康危機の回避に最も効果的な方策は新たなプラスチックの生産を削減することである。 また各国はプラスチックの消費を削減し、不必要なプラスチック利用を停止し、再利用システム強化に舵を切る必要がある。 プラスチック利用は代替えが困難な用途にのみ限定し、プラスチック製造時に有害添加化学物質の使用を禁じる必要があると指摘している。 理想的に言えば、世界全体に法的拘束力が広く強く発揮される状況の下で、プラスチックの全ライフサイクルに対処すること、プラスチックに関連する化学物質を考慮の対象とすること、そして政策は国際間で共有され、情報の交換も国際間で共有される必要がある。 国際間のプラスチック協定に関する国連主導会合が昨年ジュネーブで開かれたが、プラスチック生産量を削減する案の成立を産油国側が妨害したことで成立できていない。 プラスチック汚染に対処することは、個人レバル・組織レベル・地域行政政府レべルそして国家政府レベルで出来ることは多くある、と研究者らは指摘している。
0099
現在の社会状況について(14) 相矛盾する二つの言葉を連ねた物言いの矛盾さが、企業の熱気で溶かされ、その物言いが矛盾なく世の中に受け入れられていることで起っている今の状況
yo-chan
03/10 17:12
現在の社会状況について(14) 相矛盾する二つの言葉を連ねた物言いの矛盾さが、企業の熱気で溶かされ、その物言いが矛盾なく世の中に受け入れられていることで起っている今の状況 都会暮らしを始めたいと願う人が増えるという大きな潮流が世界全体を覆い、現在の世界人口約80億人の半分の40億人程が都会で暮らしており、今後100億人に向かう人口の60%以上が都会を選択するとされ、新たに20億人以上が都市暮らしに加わる。今の社会状況を考える際、この潮流が一つの大きなポイントになる。 その都会を観察すると、企業が主導し、行政が追認し支援するトップダウン方式の再開発と称するスマート都市計画があちこちで推進され、スマートビルの乱立が近々目撃されることになるだろう。そして、企業や行政がどう言い繕おうが、その計画には市民参加型のボトムアップ方式のアイデアが組み込まれることは期待できない。このことがもう一つの大きなポイントになる。 そして、別の重要なポイントとして、地球環境の自浄能力には限界があるという事実であり、そのことを人々に知らしめた2009年Nature発表のスウェーデンの環境学者ロックストローム氏らの提唱になるプラネタリ―バウンダリーという考え方がある。 ロックストロームらは、可能な限り恒常性を維持するという地球が持つ安定維持機能を、人間が行う様々な経済活動が侵食し劣化させていく様相を『可視化させる』ことの持つ意味の重要性を下敷きとして、人々に『危機意識』を持ってもらう手段として、地球が持つ自浄システムの中から9つを選定し、それぞれの自浄システムには限界があるとしてそれぞれに限界値を設定したのである。 そして、限界値に対してそれぞれのシステムの状況が限界内なのか、越えているのかを継続的に情報提供するシステムを構築した。ロックストローム氏らのこの『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化』した功績は大といえる。 プラネタリ―バウンダリーの現在地を簡単に纏めると、2009年時点で2つの自浄システムがその限界を既に超えていたと指摘され(地球の気温維持システムと生物圏の統一性維持システムの2つ)、また地球環境内で恒常性が維持されている窒素とリンの循環システムの中の窒素の循環システムが限界値を越えていたとされた。 2015年には、リンの循環システムも限界値を越えて、先の窒素と合わせて地球環境内元素循環システムの限界地越えが確立した。更に併せて大地維持システムも限界値を越え、9つの指標のうち合計4つのシステムが限界値を越えたとされた。 2023年になると、化学物質が主体の新規汚染物質システムが、地球の汚染物自浄処理能力限界を越えたとされ、更に淡水供給システムの維持能力もその限界を越え、損なわれたとされ2015年時点の4つと合わせ、6つの項目が限界地越えとなった。 2025年、更に海洋酸性化システムが限界値を越したと宣言され、9つのうち7項目が越えた状況になっている。そして悪化・劣化の拡大傾向は、今も続いていると指摘されている。 人々の都市暮らし志向の高まり、そして企業の都合のみが優先される今の都市開発計画の稚拙さ、及び田園部や自然生態系への目配せの不足等が組み合わさり、更に人新世時代特有の人間中心主義に偏した経済活動が相変わらず拡大していることから地球の自浄能力を越える環境劣化の拡大傾向は継続している。これらの実態が明らかに示されている『上記のプラネタリ―バウンダリーの現在地』を見ると、ロックストローム氏らの努力で始まった『プラネタリ―バウンダリーの見える化』が、まだまだ人々の危機意識を充分に高めるまでには至っていないというのが今の社会状況の大きな一面だと考える。 この『なかなか危機意識が高まらない原因』の一つではないかと思える世の中の仕組みと要因について考えて見たい。 最近、オキシモロン(oxymoron)という言葉に出会った。 矛盾語法とか撞着語法と訳される言葉で、例えば「負けるが勝ち」とか「小さい巨人」、「公然の秘密」等が例であり、矛盾する意味を持つ2つの言葉を意図的に組み合わせて、新しい意味や深い印象を与える修辞技法(レトリック)を指し、マクベス中の魔女が言う「清い(善)は汚い(悪)、汚い(悪)は清い(善)」も代表的な例である。 実はこのオキシモロンのレトリックを、『世の流れを作り出す』力と知恵を持つ巨大企業や組織が利用しているのであり、このことも現在の社会状況の一面である。 例として、ファースト・ファッション、ファースト・フード、スマート・シティ、スマート・農業(1960年代から80年代のグリーンレボル−ションが前の例)、ギグ経済、サステイナブル・デベロップメント(国連主導のSDGsも内部の矛盾を”当たり前化”させ、”開発”が持つ悪影響の面を曖昧にさせることを目指した運動かもしれない)等が挙げられる。 旧来の伝統的視点から解釈すると、これらの連結語が相矛盾する意味合いの2つの言葉をつなげたもの、即ちオキシモロンに相当することが了解されるが、言葉というものが時代の流れや使用者の意識の流れ、そして企業側の執拗であり巧妙な戦略の故に変化していき、オキシモロンさが徐々に曖昧にされていき、最終的に矛盾性が無くなることすら起こるのである。 結果として、『企業や組織に都合の良い意味合いのみ』が世の中の人々に醸成され、共有化されていくようになるのはある意味必然の流れであると思われ、現実にそのように推移しているのである。 だが、この流れを単に受け入れてしまう世の中には、困った状況が生まれてくる恐れが実はある。この辺りの事に焦点を当てて見たい。 ファースト・ファッションという言葉は、2000年代半ば、ファースト・フードになぞらえて使われ始め、H&Mの日本進出を機に加速したブームに乗っかり定着したとされる。 この言葉が社会に定着する前の従来のファッションの伝統的な意味合いは、スローファッションとかヘリテージファッションとも称されていたように、職人技が光る芸術的センスを競うものであり、『長期にわたる着用』を前提にした耐久性と美的センスを商品設計に組み込んでいるとされる。 一方、ここ20年程の歴史のファースト・ファッションのコンセプトは、業界のトレンドや高級衣料のデザインを下敷きに発想から店頭に陳列するまでの時間を数週間程度に収める『スピード感』であり、『大量生産』による低価格化という入手しやすさを訴えることと言える。 そしてもう一つの大きな特徴として、開発する衣料の設計の時点で『計画的陳腐化』という仕掛けを商品に組み込んでいるということが指摘されている。 よって、従来の伝統ファッションが持つ、ファッションの意味合いを厳密に維持して捉えれば、ファッションという言葉の前にファーストを置くこと、即ちファースト・ファッションという言葉は明らかにオキシモロンとなる。 しかし、現実にはファースト・ファッションは、企業の思惑通りに世の中に受け入れられているのである。 世の中が、素直に受け入れてしまったが為に、その結果として、企業の狙った『計画的陳腐化という仕掛け』も世の中に受け入れられ、消費者らは違和感なく、そして罪悪感なく数回着用しただけで次の衣服を購入するシステムが世の中に定着してしまった。その結果『使い捨て』が『文化』にまで持ち上げられてしまったのである。 延々と続く大量生産−大量消費−大量ゴミ排出という連鎖からなる今の世の中のシステムに、人々は危機感を持つべきなのだが、ファースト・ファッションという言葉のオキシモロンさが意識下に封印されてしまったが故の現状である。 ロックストローム氏らが作りだし、定期的に情報発信している『プラネタリーバンダリーの見える化の仕掛け』の存在を世の中は意識し続けることが求められると考える。 同じく、ファースト・フードという言葉にも、これまでの伝統食に繋がる従来のフードの意味合いと、今はやりのファースト・フードに使われているフードの意味合いとは全く異なることは容易に了解できる。ファースト・フードもまたオキシモロンの例だろう。 そして世の中は、やはりファースト・フードを素直に受け入れ、今やファースト・フードに直結している超加工食品の隆盛はすさまじい。 結果として、本来人々の栄養と健康の維持と改善を願う従来の伝統的フードの意見合いが、現在人々に受け入れられているファースト・フードでは変化しており、そこには一時の空腹さえ満たせば善しとする考え方や、ファースト・ファッションでは計画的陳腐化の組み込みだった企業戦略が、ここでは、『繰り返えされる摂食行動を促す過度のそして意図的な美味しさの仕組み(高塩分・高糖分そして高脂肪分を商品に組み込む)』を超加工食品に組み込んだり、また見栄えの良さと世界の果てまで配送可能となるよう過剰な包装や長期間品質が保存される添加物システムが組み込まれ、付随する食品チェーンシステムが出来上がっているのである。 それだけファースト・フード業界は巨大化しており、ここでも大量生産―大量消費−大量廃棄(例えば包装用プラスチックや一回使用のナイフ・スプーン・ストローのプラスチック問題)というサイクルが厳然と出来あがり、プラネタリ―バウンダリーがここでも脅かせられる条件が着々と進行するシステムが出来上がっているのである。 スマートという言葉をビルディングやシティの前、或いは農業の前に置く企業側の目論みも最近よく見かける。ここでは、スマート・農業に焦点をあててみたい。 農業を考える際にも、世界人口の歴史的推移を把握しておくことが前提として必要で、簡単に触れると、産業革命がボンヤリと姿を現し始めた1750年頃までの人口推移と産業革命がハッキリと姿を現わし生産性の拡大化が確実に可能となった以降の世界人口の流れが全く違うということの確認である。 即ち、1750年以前の世界人口は、微増傾向にあったものの基本的には2−3億人程から7億人以内に収まる程度で1000年程の期間、安定的に推移していた。即ち人類は充分プラネタリ―バウンダリー内に収まる生活を長期にわたり行ってきていた、と言える。 その安定状況が1750年頃から始まる100年或いは150年の期間、産業革命の進捗状況とその効果・影響がハッキリとしてきた期間、人口はほぼ2倍の15億人ほどに上昇し、以降2度の大戦があったものの人口は更に加速度を増して拡大していったのである。 1950年頃の22-3億人が、1960年頃には30億を突破、1980年には44億人、2000年には60億人を優に越し、現在の80億人以上になっている。 この世界人口増加の急加速化を前に、多国籍企業は急拡大する人口増加に対処するには農業領域にも革新技術を導入し、機械化を推進することの必要性を説き、彼らの当時の解答として『緑の革命』を推し進めることを提案した。 インドや中国・メキシコやフィリピン等の戦後急速に人口が拡大していた各国は、多国籍企業が主導する『緑の革命』農業システムを採用することで、食糧危機を脱したことは間違いない事実であった。 その結果、農業・食糧という数千年にわたる伝統領域に『商品化という経済活動のくさび』を打ち込むことに多国籍企業は成功した。 そして、多国籍企業が推進する種子・肥料・農薬・灌漑設備・コンバイン等の機械化を基盤にした所謂工業型農耕法を、各国政府が資金的支援を優先的に行ったことから、今や世界の農業・食糧生産の主流は、かかる工業型農業に確定したとも言える状況になっているのが実態であろう。 更に『緑の革命』という以前の成功体験を前提に置けば、今後の農業ならびに食料安全保障を考えていく際に、多国籍企業が主導する革新的科学技術の推進をベースに置くことが成功の鍵になるとの考えが出てくる訳で、かかる背景をもとに、多国籍企業が現在スマート・農業という新たなパッケージを提示している、と考えられる。 『スマート・農業』というキャッチフレーズは既に世の中の大半に違和感なくそして当然の帰結として受け入れられている感じがしている。 従って、敢えてここで『スマート・農業』のオキシモロン性を取り上げること自体に不自然さを感じるのであるが、やはり大勢がどうであろうが、『スマート・農業』を含めて今まで紹介した『ファースト・ファッション』『ファースト・フード』という多国籍企業がある意図を持って世の中に投げかけているオキシモロン的物言いを、世の中が単に安易に受け入れてしまうと、困った状況が生み出されるということを最後に取り上げてみたい。 1点目は、大量生産―大量消費という企業側のコンセプトを安易に受け入れたことによる『使い捨て』が文化にまでなってしまったことだろう。これを助長しているのが『ファースト・ファッションの計画的陳腐化』の仕掛けにだまされている世の中であり、結果として衣料資源の浪費とゴミ廃棄物の拡大、更に衣料につきものの有害染料の大量消費と垂れ流しによる人を含めての生態系の悪化が懸念される事態が拡大し続けることになる。 そして大量生産に伴う温室効果ガスの過剰排出による地球温暖化の促進という生態系悪化のもう一つの面も加速するのである。 2点目は、生態系における生物多様性が失われていくことを止められないシステムが出来上がっている、ということである。 『緑の革命』で問題とされた生物多様性の損失の課題は、一つに工業型農業が単一の作物を大規模に栽培することを特徴としており、選択された小麦・大豆・トウモロコシ・コメ・パーム油等主に10種程、それ以外は徐々に種の消滅に向かうというシステムが採用されているのであり、またこれら単一栽培作物を使用して超加工食品即ちファースト・フードを製造する企業の論理も、規格化が徹底しやすいように使用材料の数は極力減らしたいという意向があり、生態系における生物多様性を消失させていく推進力を加速するのである。 更に工業型農業のもっとも大きなウェイトを占める工業型畜産農業の問題がある。ここでは飼育施設の狭量さから起こる密集飼育の弊害が指摘されており、疾病予防や成長促進を兼ねて必要以上の抗生物質が使用されている(人向けの利用を数倍上回る利用がされていると言われる)。これに基づく抗生物質耐性菌の発生懸念が従来から指摘され、工業型畜産農業の最大欠点の一つであり、今後医療現場のひっ迫や世の中の健康環境の致命的な悪化も懸念されている。 3点目は、2点目に連動するものだが従来存在していた伝統が限界化し周縁化しそして消滅化していくという懸念である。各地域に伝わる伝統的食材や食べ方が消滅化していくのであり、地域共同体の特徴だったものや活力や文化自体が失われていくのである。 『ファースト・フード』『ファースト・ファッション』『緑の革命やスマート・農業』という物言いを安易に受け入れることでかかる影響が生まれるのである。 第4点目は、企業が打ち出す戦略を安易に受け入れる体質が世の中に広まると、企業が打ち出す物言いが『事実上の標準(de facto standard)』となり、他の選択肢を採用することが困難になっていく所謂ロックイン(lock-in)効果の発生が懸念される。 第5点目は、世の中に諦念化が進行する恐れがある。何をやっても無駄という諦めの心情が人々に覆いかぶさっていくという非常に危険な状況に繋がる恐れも指摘されている。 旧来の伝統的視点から解釈すると、相矛盾する意味合いの2つの言葉をつなげたオキシモロンといえる『見栄えの良い物言い・キャッチフレーズ』を企業は事業拡大のいわば方便として執拗に巧妙に打ち出す戦略を採用する。 それら物言いを企業が執拗に繰り返すことで、世の中は徐々に企業の戦略を受け入れていく流れがどうやら出来あがっていると思われる。 だが最後に触れた如く、企業が執拗に流す『見栄えの良い物言い・キャッチフレーズ』を安易に受け入れることで世の中が向かっている行き先は、決して『望ましい』ものではないのである。人にとっても、全ての生物にとっても、更に全ての生態系にとっても好ましくない方向なのである。 それが事実だということは、ロックストローム氏らが提案した『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化』した『プラネタリ―バウンダリー』の今の状況が、昨年新たに7つ目(海洋酸性化システム)が限界値を越え、即ち全部で9つのうち7項目が越えた状況になっており、しかも全体的に悪化・劣化は拡大する傾向にあると指摘されていることで明らかだろう。 ロックストローム氏らが提示した『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化したプラネタリ―バウンダリー』の状況を世の中は注視し続けることが、やはり強く求められると考える。
0100
現在の社会状況について(15) トランプ氏が今の世の中に仕掛けるBoard of Peaceというオキシモロン
yo-chan
03/16 20:14
現在の社会状況について(15) トランプ氏が今の世の中に仕掛けるBoard of Peaceというオキシモロン もう少し、オキシモロンという言葉に拘ってみたい。権力を持つ組織や人間が世の中に仕掛けるオキシモロンが如何に莫大な影響力を持っているかが、ハッキリと了解できる事例が今世界を席巻している。トランプ氏が仕掛けるBoard of Peaceがオキシモロン語だとの視点に立って今の世の中の動きを観察すれば、世の中を動かす仕組みとその仕組みをしきりに使いたがる権力を持つ組織や人間の性向と性癖の一端が垣間見えると感じている。 トランプ氏がここの所、力を入れているBoard of Peace(以後BoPと略す)活動が向かう先の一つの困った状況が、イランで具体化されてしまった。 権力者がオキシモロンを武器として敢えて使いたがる背景が良く観察できる事例だと感じていること、そして今の中東状況ならびにその危険性が中東だけに止まらず世界全体に及ぶ可能性をもトランプ氏のBoP活動が秘めている点を指摘してみたい。 トランプ氏のBoP活動の経緯と現状ならびにその影響を先ず紹介する。 1) BoPの成立経緯とスイス・ダボスでの世界経済フォーラムまでの推移 2025年9月、トランプ氏はガザ地区の戦乱状況の終結を目指した『20項目の和平案』を提示した。 【ガザの戦争の背景はここで立ち入ることは控える】 10月8日,提示された和平案を基に、イスラエルとハマスとの間で停戦が合意された。 平行してトランプ氏は、和平案第9項のガザの統治と復興を監督する組織として『BoP:平和を目指す委員会(トランプ氏を勘案すると役員会か?)』の構想を初めて打ち出した。 11月17日、国連は安全保障理事会を開き、決議案2803を採択。『ガザ地区における暫定統治組織としてBoPの設立と運営』が国際間で承認された。 2026年1月22日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムでトランプ氏と20カ国以上の指導者が集まり、BoPの憲章(Charter)に署名し、BoPが正式に発足。 しかし、署名された憲章には、懸念される内容が含まれていた。 一つは権限がトランプ氏に集中する内容だったこと(氏を終身議長とし、氏に後継者指名権・新規加盟国の招待権・補助機関の設立権と解散権)が挙げられる。 2) BoPに国連が課した権限範囲の不明確化と変更 もう一つの懸念は、この憲章の内容には国連の意向(BoPの権限はガザ地区の紛争解決に限定)は無視されていた。即ち、署名された憲章には『ガザ地区』を特定する文言が抜けており、BoP権限範囲の曖昧化がなされ、更にそこには世界中の紛争地域で『恒久的な平和を確保する』という広範な地域に権限が及ぶという拡大化と変更が明記されていた。 正に国連は庇を貸して母屋を取られる恐れが生まれていた。 3) BoPの初回正式会合とBoP活動の拡大化に対する主要各国の懸念 2026年2月19日、ワシントンDCでBoPの初の会合が開催され、米国が100億ドル、他の9カ国が計70億ドルの資金を拠出することが表明され、そしてガザ地区の治安維持とハマス武装解除の為2万人規模の『国際安定化軍』の配備構想が議論され、アルバニアとカザフスタン等が部隊派遣に応じることとなった。 フランス、ドイツや英国といったヨーロッパ主要国はBoPへの参加に躊躇・静観している。 トランプ氏が想定するBoPの権限範囲が国連の意向から逸脱していることが、憲章で明らかになり、国連の権限を弱体化させ、多国間主義を弱体化させる活動との懸念が拡大していることが要因の一つであり、また参加には10億ドルの費用が要請されていること、権限が一個人に集中していること等、平和活動の意味合いが『従来のルールと包括的な外交に重点を置く』ものから『参加国選定に個人の恣意性が入り込み、そしてマネーゲーム的様相(平和は金で買える、紛争終結後の復興の仕組み作りも金で買える)』を帯びていることが明らかになってきていることも大きな要因となっている。 更に大きな要因として、ワシントンDCでのBoPの初会合においてトランプ氏は、イランが核兵器開発意欲を抑制する内容の文書に合意することを強く求め、しかもそのことに10日程の期限を設定したこと、そして実際に発言日から9日目の28日に作戦名『壮絶な怒り作戦;Operation epic fury、イスラエルの作戦名は咆哮するライオン作戦;Operation Roaring Lion』でテヘランへの爆撃を始めてしまったことが挙げられる。 4) テヘラン空爆事態発生以降の国際状況 中東に不安定さが拡大している。原油の出発地の不安定化でエネルギー価格は上昇を始め、経済面で不安定化が拡大している。 西欧に対するアラブ社会の対立感情の高進の状況も生まれている。BoPへの拠出金出資を決定していたインドネシアが、国民の90%近くを占めるイスラム教徒の反対運動の活発化により、インドネシア政府が拠出金出資決定を一旦見合わせる事態になったという。 今後様々な動きが世界各地で起こる予感がする。それほど大きな潜在的危険性を持っているのがトランプ氏のBoP活動である トランプ氏が推進するBoP活動がオキシモロンだとする意見が批判者たちから指摘されている。幾つかを紹介すると、個人主導であり、構成が恣意的であり、紛争解決と解決後の復興機会を商取引のチャンスと捉える姿勢であり、平和を目指すと言いつつ方法論には『最大限の圧力を背景とする』といった力の行使が内在していることが指摘されている。 ここでオキシモロンの意味合いを再度確認しておきたい。 ある言葉がオキシモロンであるかどうかを決める一つのモノサシは、権力を持つ国や企業がある見栄えの良い言葉(ここではPEACE)を選択し利用し彼らは活動を推進する訳だが彼らの活動の実態から判断するとその選ばれた言葉の意味合いが、その言葉が本来持っている伝統的な意味合いとはかけ離れたものであり、全く相いれないものということが一つの目安と言える。 このモノサシをBoard of Peace中のPeaceに当てはめて見ると、トランプ氏が推進する活動の実態におけるPeaceの意味合いは、バランスを欠いた個人主導型であり、構成が恣意的であり、力を背景にした紛争解決であり、復興機会も商取引のチャンスと見るという従来の伝統的なPeaceの意味合いとは、言うまでもなく全く異質のものである。 従って批判者らの指摘『トランプ氏のBoard of Peace活動はオキシモロン』は、極めて真っ当な見方であろう。 以前にも触れたように、権力者がある意図を持って使うオキシモロンという枠組みを、素直にそして単に受け入れてしまうと、権力者にとって不都合な、即ち従来からの伝統的な言葉の意味合いが曖昧になっていき、権力者の都合の良い意味合いを違和感なく受け入れていくようになり、故に当面の課題の焦点が曖昧化されることになり、次第に言葉の上でのマインドコントロールが起こることになる。 イラン空爆開始以降の国際社会の今の状況を見ると、そこには危惧意識と叱責と戦略的支持とが入り混じった状況が発生しているとされ、トランプ氏が敢えて使うBoard of Peace というオキシモロン語的言い回しが国際社会の中で一定の効果を生んでいることが認められる。そこで、それら国際社会の受け取り方の現況を紹介すると、 危惧意識の表明と叱責する例としては、国連のグテーレス事務総長の発言(武器使用への憂慮と国際法違反の指摘及び外交交渉への復帰要請)や中国の発言(事態への憂慮表明とイランの持つ自主権と安全保障権に対する侵害行為とする叱責、並びに敵対行為の即時停止を求める)やロシアの発言(アメリカの外交は、あらかじめ計画していた侵略行為を隠すカモフラージュにすぎない、との批難)や欧州(イランへは核兵器交渉の席に戻るよう要請するとともに、事態の拡大化は全てに対し危険であるとフランスのマクロン氏は指摘)や中東地域(オマーン等の幾つかの国は現行の外交交渉が侵害されていることへの失意を表明し、アルジェリアは自主権に対する目に余る侵犯行為と非難)の発言が挙げられる。 一方、米−イスラエルの行動を支持する例として、イスラエルのネタニヤフ首相の発言(イランの核兵器所持を止める目的の先制攻撃だとの主張)やカナダのマーク・カーメイ首相の発言(イランは地域を不安定化させている代表的な国であり、核兵器を抑止する上で米−イスラエルの行動を支持する)やウクライナのカナダと同意見との発言やナイジェル・ファラージ氏率いるReform UKやスペイン右翼・ポピュリスト政党Voxの発言(反欧米イスラム主義と対峙する行動と位置付けて支持する)が挙げられる。 最後に、3月9日付けAlJazeera掲載のRobinson氏の意見(今、世界は米国なしで行動する時。原題:It is time for the world to move on without the United States)を紹介する。 2月28日米−イスラエルがイランへの戦争を開始。事前通告なし、国連協議抜きの攻撃でハメネイ最高指導者が死亡した。 遡ること2か月前、アメリカはベネズエラのマドゥロ大統領を拉致誘拐していた。 ベネズエラとイランとの二つの暴力行為の間、トランプ氏は66の国際組織(31の国連機関を含む)から撤退し、国連機能を転換させる潜在力を持つと氏が指摘する新たな組織(BoP)の設立に着手していた。 これらの状況や他の状況の展開を観察すると、アメリカが終戦当時自らの選択で作りあげ、そしてアメリカの財力・外交力・軍事力をもとに80年間にわたり維持してきた1945年成立の世界秩序が、今やアメリカの国益に適わないことを示していると言える。 2026年の世界と1945年の世界とはほとんど類似点はない。欧州は復興し、中国は台頭した。カナダ、日本、韓国、そして多くの湾岸諸国は豊かになり、ブラジル、インドネシア、ナイジェリア、インド、ベトナム等の国々も台頭しつつある。 気候変動・パンデミック・テロ等、今日の脅威は国連憲章が起草された当時には想像も出来ないものだ。最早当時とは別物になってしまった世界に対して、旧来のイメージと変わらない貢献を求められることの不自然さをアメリカ市民が感じていることは当然なことであろう。 課題として求められているのは、世界の他の国々がどのように行動するか、である。 多国間主義の果実はアメリカが提供し、他国はそれを享受するだけが従来の構造だった。 欧州諸国はアメリカの安全保障を盾にしながら、アメリカの外交政策を批判してきた。 発展途上国は制度改革を要求しながら、アメリカの資金援助に頼ってきていた。 カリブ海諸国のような小国は、国際法を盾にしながら、その執行にはほとんど貢献して来なかった。 もし私たちがこの制度を真に尊重するならば、今こそ言葉だけでなく、それぞれが持てる資源を投入して、それぞれの国の価値を証明する必要がある。 先ず力強い第一歩は、国連本部をニューヨークから移転することだろう。アメリカは今、多くの国連組織や国際機関から撤退を試み、そして国連に代わる新たな機関(BoP)を作ろうとしている。かかる国に国連本部を留めておく理由はないだろう。 国連の移転という行為は、国際社会がアメリカの参加の意思ありなしに関わらずに多国間主義を維持する意思があり、その為の費用を負担する覚悟があることを示すことになるだろう。 国連本部を置く場所には多くの選択肢がある。ジュネーブとウィーンは中立性が提示できる。ナイロビとリオデジャネイロは、グローバルサウスに中心を置くメッセージとなる。 島国も選択肢の一つで、アンティグア・バーブーダ、バルバドス、ジャマイカ、モーリシャス等が挙げられる。 こうした選択は、この制度が最早、権力者の為のものではなく、弱者の為のものだということを強調するメッセージとなろう。 戦争やその修復復興目的で何兆ドルもの資金を世界は供給している。本部移転費用の捻出が困難であるはずはない。 根本の課題として、国連には新たな資金調達のモデルの構築が求められる。 アメリカは国連の通常予算の約22%を拠出している。そしてそれを上回る資金を平和維持活動に供出している。この資金のアメリカへの依存性が過大な影響力をワシントンに与え、国連はアメリカの国内政治の人質状況が継続してきた。 多国間主義を重視するならば、この歪さを改善する必要がある。 欧州連合、中国、日本、湾岸諸国、そして新興諸国は、国際秩序におけるそれぞれの利害関係に見合った貢献を国際秩序の機能維持のため行うことが求められる。 資金基盤の多様化は国際社会の存続を確実にし、待望されてきたグローバルガバナンスの民主化の促進に寄与するだろう。 現在進行中の危機は、これら改革が緊急事案であることを示している。 イランへの攻撃は湾岸諸国を巻き込み世界のエネルギー供給を混乱させ、脆弱な経済を不況に陥れる可能性があり、より広範な地域紛争を引き起こす危険性が指摘される。 ベネズエラ大統領の拉致はラテンアメリカを不安定化させ、如何なる主権国家の指導者も一方的な武力から逃れられない状況にあるという前例を作ってしまった。 ガザとスーダンの戦争は長期化し、コンゴ民主共和国東部は依然として紛争に巻き込まれ、数百万人の避難民が近隣諸国の対応能力を圧迫している。 いずれの場合も、国連安全保障理事会は行動を起こす能力も意思もなく、弱者よりも強者を優遇する拒否権構造により麻痺状況に陥っている。 資金基盤が拡大化し、最早一国に依存する体質ではなくなり、そして移転が実行され、再び国連が活性を取り戻したとしても、上に挙げた様々な危機状況は一晩で解決できるものではない。しかし、より大きな正当性と、より偏りのない倫理観でもって行動できるようになっている筈だ。そしてある特定の一カ国の地政学的利害によって行動が阻害されるといった懸念なしに国連は人道主義が指し示す回廊を歩んでいくことが出来るだろう。 ただし、改革がなされた後の国連は万能ではないのも事実だが、現在の国連には集団的行動が求められる緊急事態に対し、迅速に対処することが構造的に出来ないという欠点が存在しており、そして行動を起こせない期間が長引けば長引くほど、国連が語る約束事と国連が提供する実態との間のギャップが拡大していき、結果として最も脆弱な国々が国連に抱く信頼感が損なわれていき、国連の多国間主義というものが守るべき価値のある大切なものという人々の思いが劣化していく恐れがある。 気候変動の枠組みの構築は、迅速さが求められるけれども、アメリカはその枠組み条約から撤退している。よって緑の基金や適応資金や損失と損害補償のメカニズムが脅かされている。発展途上の島嶼国やその他気候変動の影響に脆弱な国々にとって、この状況は抽象的なものでなく、命に直結する関心事なのである。 アメリカの参加なしで気候変動対策資金のシステムを構築する道筋は狭いものだろうが、全く閉じられている訳ではなく、間違いなく道は存在しているのである。 欧州は、その持てる資源を使い気候対策のリーダ―の働きを示す必要がある。世界最大のGHG排出国の中国は倫理的観点でのリーダ―を主張したいのであれば、その能力は充分にある。 カリブ海諸国にとっては、国連の変革に対し、謙虚さと野心との両方が求められる。 即ち、カリブ海諸国は長年にわたり国連の枠組みシステムに依存してきた半面、これまで資金拠出はほとんど行ってこなかったという事実から謙虚さが求められるのであり、またカリブ海諸国は国連の場で14票という投票権を持ち、気候変動の最前線で戦ってきているという道義上の権利ならびにカリブ海諸国が自身の力量以上の力を発揮して成果を上げてきているという実績からの野心が求められるのである。 カリブ海諸国、発展途上の島嶼諸国、アフリカやその他の開発途上国が協調して行動すれば、本部移転や資金調達改革決議案の提出や統治体制の再構築を推進できる能力は持っている。 アメリカは依然として世界最大の経済大国であり、最強の軍事力を誇る国である。また、世界の進歩を牽引する多くの研究機関や大学、企業、市民社会組織の本拠地でもある。 多国間主義を信奉するアメリカ人は依然として多く、影響力も大きい。アメリカの新たな関与への扉は開かれておくべきである。 しかし、世界はアメリカの国内政治が自然に解決するのをいつまでも待つことはできない。 我々は、アメリカの参加の有無に関わらず機能する強靭な制度を構築しなければならない。1945年、戦争に疲弊しながらもアメリカは撤退でなく、世界の建設を選択し、以降私たちが受け継いできた世界の基礎を作った。2026年、そのアメリカは異なった選択をしている。 私たちはそれを受け入れ、それがなんであるのか認識すべきであろう。そうすることで、私たちが価値を置く国際的秩序の所有権を最終的に私たちは獲得することに繋がるのである。 トランプ氏が実態として捉えているPeaceの意味合いは、やはりおかしい。 トランプ氏の推進するBoard of Peace活動はやはりオキシモロンであり、単に受け入れてはいけない代物だと捉えたい。 そしてビジネス的なBoard という言葉を安易に国際政治に持ち込む姿勢、全て金次第という姿勢、力で平和が買えるという姿勢、そして世界経済フォーラム等のBoP会合でトランプ氏が背景に良く使うアメリカのみを表した世界地図等、氏の良く使うアメリカファーストの匂いも、やはりかなり気になる。