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1062 戦争の“不都合”を隠してきた日本政府 猫家五六助 2023/09/04 00:55:44
落としどころの探れないロシア・ウクライナ紛争。当初からウクライナ全域が絶え間ない攻撃を受け、軍人はもとより多くの民間人が戦火に晒され犠牲になっている。一方のロシアもウクライナからのドローン等で国内を攻撃されることが増え、自国の正義と勝利を信じてきたロシア国民も返り血を浴び始めた。そこへ“国民的英雄”キーマンのプリゴジン氏が事故死(暗殺説あり)したことで厭戦気分が高まり、戦争終結に向かうことを期待した。

そんな折にネット記事で、2015年にノーベル文学賞を受賞した女性ジャーナリスト・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ氏の著書「戦争は女の顔をしていない」が漫画化されたことを知った。独ソ戦争へ従軍した500名以上の女性にインタビューを行い、戦場の真実を記した内容によってロシア国内での出版を断られ続けた“問題作”との事で、ロシアの国民性と戦争に対する本音をしりたくて1・2巻を購入した。(現在、第4巻まで刊行)

このコミックス「戦争は女の顔をしていない」(原作;スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、作画;小梅けいと、監修;速水螺旋人、出版;カドカワ)の第1巻には監修・速水氏のよる大祖国戦争(独ソ戦)の簡単な解説と図解が巻末にあり、現在のロシア・ウクライナ紛争は旧ソ連圏のロシア人同士が戦っていると気づかされる。さらに、男女同権を唱える社会主義国・ソ連は女性が率先して前線へ向かい、洗濯係・看護師・偵察兵・狙撃兵・砲兵・飛行士などに従事した。その過酷な戦場体験は、漫画化によって理解しやすくアレンジされている。作中には原作者が登場し、インタビュー時の様子も知ることができる。

その中で印象的なのは原作者の葛藤である。取材対象者の主観を真実とした一次原稿(インタビューまとめ)に対し、彼女達から戻った二次原稿(校正稿)には添削や変節が多かったという。校正稿は「そんな(悲惨な、恥ずかしい)話はしていない」「本意と違う」などのコメントで消し込んである。また、取材時に対象者以外の人間(夫、親類、元兵士の男性)が同席していると、恐怖・恥辱・理不尽・告発のような体験談が美談・武勇伝・栄誉で誇り高いものに置き変わったり変節したりする。書籍化が「ロシア国内で出版を断られ続けた」所以だろう。

原作者は女性兵士の悲惨で屈辱的な戦場体験を聞いた通りに克明に記述しただけだが、曲解された男女平等の思想や戦勝国のプライドがそれを否定してしまう。これでは、戦争の不条理や教訓を後世に活かすことができないだろう。現在ウクライナを武力侵略しているロシアの国民(特に独ソ戦世代)が勝利を信じ、プーチン政権を支持している理由が少し理解できた。

しかし、その類の感情は戦後日本にも根強く残り、右翼的な政治家・国粋主義者・ネトウヨに引き継がれているように思う。戦争加害国・敗戦国なのに、である。
・靖国神社を公式参拝する政治家
・愛国心を強要する政治家
・関東大震災での朝鮮人虐殺を反省しない都知事、国会議員
・A級戦犯の東条英機、不起訴となった岸信介を擁護する人たち
・「必要だった」「仕方がなかった」と無謀な戦争を肯定する人たち
・特攻作戦を感傷的な美談とし、批判を許さない人たち
戦後、日本政府は「戦争の過ち」について客観的事実を掘り起こし記録に残してきたとは到底思えない。むしろ、都合よく“水に流そう”としている、フクシマの汚染水のように。同じ敗戦国・ドイツとは対照的だ。

例えば、人間を操縦部品扱いした特攻兵器「桜花」。「1機で敵艦1隻を撃沈する。敵を恐怖に陥れ、戦局逆転を狙う」という思い付きが無責任な根回しで実機になった。軍上層部は非人道的な作戦と思い、搭乗員は「志願による募集」との建前にした。しかし、実態は各航空隊で「お国のため」「大和魂を見せろ」「志願ゼロでは格好がつかない」等の理由で打診を断れない雰囲気ができ、多くが特攻隊員を強制された。しかも初戦では味方の護衛機が揃わず、敵到達前に精密レーダー補足され、敵戦闘機により15機(一機当たり一式陸攻8名+桜花1名搭乗)が全滅し、一瞬にして135名が戦死した。以降、計10回出撃の戦果は微々たるもので、計715名の尊い命が失われた。その後も通常の戦闘機・爆撃機等での特攻が終戦当日まで繰り返されている。

その特攻作戦に「無謀な作戦」「犬死に(無駄死に)」等の批評をすると「お国のため、家族のために美しく散って逝った者を愚弄するのか!」と怒る人がいる。いやいや、特攻に「行かされた」人を責めたり批判したりしているわけじゃない。彼らは戦争の被害者、大本営や軍部の戦争継続派が加害者。アナタが怒る矛先は無謀な特攻作戦を立案・指揮・忖度したのに戦後たくましく逃げ回った人たち、政治家や自衛隊幹部になった輩達ではないのか?詳しくは新刊「カミカゼの幽霊〜人間爆弾をつくった父〜」(神立尚紀著、小学館、1,980円)を読んでいただきたい。太平洋戦争に従軍した人や軍部の中心にいた人の多くが他界する昨今、「戦後のドサクサ」まで丁寧に追跡取材・検証・考察した良書である。

ウクライナ紛争において人海戦術で消耗品のように戦死させられるロシア軍兵士、安全圏で戦争を指揮するプーチン以下軍参謀を目の当たりにすると、78年前の愚かな日本を思い起こす。私たちは「やってはいけない」戦争の理由と結末を数多く掘り起こし、記録し、語り継がねばならない。