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1039 近代戦のパラダイム・チェンジとしての「総力戦」(その1) 名無しの探偵 2023/04/21 22:15:32
1,(はじめに)

今回の投稿は、日本の太平洋戦争の歴史学が、「総力戦」という、戦争史のパラダイム転換に基づいた「近代戦」であることを前提にしているにしても、その実体には直視できていないという疑念があったことが執筆の「動機」である。そのような疑念は、ある著書で、すぐに氷解した。山本義隆著「近代日本の150年」という本がそれである。

2,山本義隆氏によれば、日本の近代150年は、「総力戦」という近代戦のパラダイム転換に沿って、国家目標を形成し、これを実践的に確立してきた歴史過程そのものであると言う。

ここで、「総力戦」とは何か、その特徴を幾つか、列挙しておこう。

まず、第一に、国家が国民を強制的に兵士として徴兵するという「徴兵制」の確立である。

第二に、近代戦への転換においては、科学技術の利用と科学者の動員が重要となる。

第三に、兵士ばかりか、非戦闘員である、国民の動員も第二次世界大戦では、大きな特徴となった。

この投稿では、「総力戦」の中核となる、特徴として、第二の「科学技術の軍事利用と科学者の動員体制が、近代戦における「総力戦」体制の中心であると理解する立場に立つ。それが、山本義隆氏の卓見であり、私の疑問を解くキーポイントなのであった。

3,本稿「その1」では、山本義隆氏の「総力戦」体制は、結局のところ、どうなったのか、山本氏の総括部分を引用する。

 「合理的」であること「科学的」であることが、それ自体で非人間的な抑圧の道具ともなりうるものであり、そのことの反省ぬきに、ふたたび「科学振興」を言っても、いずれ足許をすくわれるであろう。それを私たちは、やがて戦後の原子力の開発に見ることになる。

この下りを引用したのは、現在、ドイツが原子力発電から全面撤退したニュースが流れたのは、まだ先日の事であったが、この時、日本の岸田政権は、(G7の脱炭素目標で同意という後押しもあったのだろうが)原発再稼働を宣言してから大分経過するが、ドイツの「決断」を横目に見ながら、原発の推進政策にまっしぐらな姿勢を崩さない。そして、バイデン大統領に会いに、アメリカに飛び立ったのである。

次回「その2」では、第二次世界大戦における「科学者の軍事動員の要である、マンハッタン計画などに言及する。山本義隆氏と同様に、科学者の動員体制にかなり重点を置く、ジョンダワー先生の「戦争の文化」を参照して、科学の軍事利用の大きな問題点に言及する。

以上。