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1029 公人が個人の感性だけで物事を判断していいのか 見習い期間 2023/02/12 18:44:44
 今月に入ってから、LGBTをはじめとした性的少数者の人たちへの理解を増進するための議員立法に注目が集まり、国会でも焦点のひとつになっている。
 前総理大臣秘書官による同性婚に対する差別的な発言がきっかけで話題に上がるようになったと感じられるが、問題となった発言の二日前には、総理大臣自らが「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と国会で答弁していた。

 首相の発言にしろ、オフレコを前提にしたとされる前首相秘書官の発言にしろ、社会が変わることをマイナスにとらえてしまっている点が一番の問題であろう。
 「社会」と一口に言っても、大きく分けて「世間」と「制度」の二つの要素が含まれる。そのうちの世間は、すでに同性婚というパートナーシップや家族のかたちもありうると、当事者でない人たちも含め認知している人が少なからずいるのではないか。今までに見えていなかった人の存在に気づき、これまで当たり前だとされてきたこととは異なる現象に遭遇しても、それらをバッシングせずに容認し共生する方向に変化していると感じている。身近に同性婚のカップルがいるからといって国を捨てるような人は、少なくとも私の知る範囲にはいない。
 こうした変化についていけていないのは、政府の中心にいる人たちのほうではないか。だからこそ、制度の部分がもはや何もない状態なのである。変化することの何が悪いのだろうか。もはや世間は放っておいても変化するものなのだ。

 「同性婚を認めることは子供が生まれない結婚を助長することにもつながりかねない」という考えのもとで同性婚に否定的な態度を取る人もいるのだろう。しかし、現実には異性同士のパートナーシップであっても、子供がいない夫婦は存在する。助長するしない以前に、今ここにたしかにあるものを認めるつもりはないのだろうか。

 政府の中心となる人物から性的少数者への差別的な発言が出てしまうことに対して、国外でも批判的な報道が相次いでいる。そして、G7の参加国では唯一同性婚が法制化されていない点についても国内外から指摘されている。内閣の方針として「多様性の尊重」を掲げているようだが、制度的な部分ではまだその理念を達成できているとはいえない。
 日本だけがいつまでも脱マスクができず、欧米諸国と足並みを揃えられないと苛立ちを感じているのかもしれない。しかし、同性婚の法制度がなく、選択的夫婦別姓も法的に認められない事実のほうが、欧米よりも大きく遅れ、日本は孤立している。
 「日本は遅れている」と指摘したところで、日本と欧米の宗教や文化的な面の違いを盾にし、日本には日本独自の家族観やジェンダー観があり、日本の宗教や文化の中で検討する必要がある、と反論されるのだろう。自分たちが取り入れたい欧米の慣習だけ躊躇なく導入し、取り入れたくないことは日本と欧米の違いを理由に拒絶する、ダブルスタンダードの考え方だ。

 同性婚を合法化したからといって、今までの異性同士の婚姻関係が否定されるものでもない。したい人に選択肢を与えるだけなのに何が問題なのか。希望者が「してもいい」のであって、全員に対して強制的に「しろ」と言っているわけではないのだ。

 LGBTをはじめとした性的マイノリティへの理解を増進するための法案は、思わぬ形で突如、国会でも焦点に浮かび上がってきた。これまでにも、あと一歩というところで法案提出が見送られたことがあった。これを機に関連する法整備が一気に進んでほしいところである。