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1012 米国外交の光と影 流水 2022/10/24 10:31:45
◆ウクライナ戦争の分かりにくさ

ウクライナ戦争の帰趨が分かりにくい。

日本のニュースでは、もうすぐロシアが敗北し、プーチンが失脚するようだ。TVに出ているコメンテーターでこの見方に反対を唱える人間はいない。

本当にそうなのか。私には、戦前の日本軍の大本営発表に見えて仕方がない。

今年の2月から始まったウクライナ戦争は、本当に戦争と呼ばれるようなものだったのか。

@ 本当の戦争ならば、ウクライナのインフラを全部破壊し、ウクライナ民衆が生活できないように攻撃するのが戦いの常道。⇒太平洋戦争時の東京空襲をはじめとする日本国内への無差別爆撃。広島・長崎への原爆などを見ればよく理解できる。米国の戦い方はほとんどこの方法。(ベトナム・イラク・アフガン戦争など)⇒その米国がロシアの非人道的戦争を批判するなど理解できない。

⇒ロシアはこの半年このような無差別攻撃をしてこなかった。⇒その理由は、プーチンの言う【特別軍事作戦】は【戦争】ではない。だから通常の戦争のような破壊や殺戮はしない。他の一つは、ウクライナのインフラを破壊したら、その再建に天文学的費用がかかる。それも避ける。

A ウクライナに戦争継続の力があるのか。
⇒戦争継続には、財政的根拠、生産的根拠、武器弾薬、兵士など様々な難題を克服しなければならない。
⇒現在のウクライナにはその大半が欠落している。経済的にも破綻国家に近い。武器生産などできない。
⇒つまり、ウクライナは単独で戦争継続など全くできない国家だと考えるのが至当。 

では、何故戦争継続できているのか。
⇒米国およびNATO諸国の援助があるから。というより、現実的には、現在の戦争は、ロシア VS NATOの戦いになっていると見なければならない。

B 以前の投稿で、米国のウクライナ援助額が、日本の軍事費総額を上回る額だと書いたが、米国はさらに5兆円近い援助を決めている。

少し考えたらすぐ分かるが、どの国家が、日本の防衛費をはるかに上回る援助をするのだろうか。

理由はただ一つ。その戦争が自国の戦争だから。
⇒つまり、ウクライナの戦争継続は、米国とNATOの援助におんぶにだっこ状態。ゼレンスキー大統領の発言は、大半が米国やNATOの意向だと読まなければならない。

【結論】
※現在のウクライナ戦争は、ロシア対米国NATOのウクライナに場所を借りた「代理戦争」であり、その勝敗は今後の世界の帰趨を決定する。

わたしは、トランプとバイデンの大統領選前から、もしバイデンが大統領になったら、第三次世界大戦の危険性が高まると書いた。

その理由は、わたしには、バイデン大統領および民主党の主導する【理念外交】の危うさがどうにも危険に見えたからである。

◆米外交の二つの方向性

米国は本質的に理念国家である。これは、米国の歴史に起因する。

英国植民地支配に対する独立戦争を戦った歴史が米国と言う国家や国民の思考の骨格を形成している。これが米外交に色濃く反映している。

▼リベラリズム外交

それが、米外交の一つの柱である【理想主義】である。具体的に言えば、米国指導者の口癖である【自由】と【民主主義】を指す。これらを総称して言う【リベラリズム】が米国外交の一つの柱。

学問的に言えば、「民主主義や貿易の自由などの普遍的な価値観を広め、国際的なルールや国際機関を通じた国際協調を推し進めれば、平和で安定した国際秩序が実現するという理論」(中野剛志・奇跡の社会学)
(例)イラク戦争など。(人権、自由と民主主義)

▼リアリズム外交

他の一つは、外交を具体的に進めていく際に必要な現実主義的思考を指す【リアリズム】。

【リアリズム】的政治手法は、国益に合致するなら、多少理想に反していても目をつぶって最も国益に合致する手段を選択する。例えば、ベトナム戦争前、南ベトナムに対するベトコンの浸食に対抗するため、暴力的で腐敗していて、独裁的でどう見ても反民主主義的なゴジンジエム政権を支持したような政治手法を指す。
(例)湾岸戦争

学問的に言うならば、「国際秩序を成り立たせているのは、民主主義や貿易の自由といったリベラルな制度や価値観ではなく、軍事力や経済力といったパワーのバランスであるとする理論」(中野剛志・奇跡の社会学)

◆パット・ブキャナンの論説

パット・ブキャナンは、ニクソン・レーガン大統領補佐官を務めた人物で共和党系の思想の持主。彼の米国政治の論評は、きわめて本質的で傾聴に値する。

そのブキャナンが「米国は何故冷戦勝利の果実を失ったのか」という視点で以下のように論じている。

★1991〜1992 (パパブッシュ政権時代)
米国の国力・名声が頂点に達した。
ブッシュ大統領は、新世界秩序(New World Order)を提案し、一極集中(米国中心)を主張。

★1997年 冷戦終結

★ブキャナンの主張する冷戦終結後の米国の三つの失敗
(1)ロシア政策の失敗⇒同盟国にロシアは永久の敵と指摘し、ロシアの孤立化を図った。
(2)中国政策の失敗⇒中国をグローバル経済に引き込み、中国繁栄に手を貸し、貿易・経済・軍事などあらゆる部門で米国を凌駕するような国に育てた
(3)中東政策の失敗⇒強引に中東に進出、アフガニスタンやイラク、シリアなどしなくてもよい無駄な戦争をしかけ、米国に対する信頼を失った。これらの戦争は何の役にも立たず、死と破壊をもたらしただけである。

ブキャナンの主張では、1997年ソ連邦崩壊・冷戦終了後ロシアに対する包囲網は必要ではなかった。そうではなくて、中国に対する包囲網を形成すべきだった。中国こそ、米国の最大のライバルに
なる可能性があり、グローバリストが中国の繁栄に手を貸したのは間違いだった。

結果、中国とロシアは接近し、冷戦終了後30年、米国は中国とロシアの二正面作戦を戦わざるを得なくなった。

同様の主張をジョージ・ケナン(ソ連封じ込め政策の中心人物で冷戦終了の立役者)もしている。

彼は、ソ連崩壊後、NATOは決して東方進出をしてはならないと主張した。彼は、冷戦終了後のNATOの東方拡大は致命的な誤りだと厳しく批判している。

理由は明白で、ロシアは民族主義的・反欧米的・軍国主義的傾向があり、NATO東方拡大はそれを刺激する。NATOの東方拡大は、ロシアを中国に近づけ、再び【東西冷戦】を進展させた。

現在のウクライナ戦争は、ブキャナンやケナンから言わせれば、冷戦終了後の米国外交の致命的な間違いでNATO東方拡大の結果だと言う事になる。

わたしから言わせれば、この致命的間違いの上に、さらに米国の【リベラリズム的戦争論】が加わり、米国の二枚舌外交に世界の大半が嫌気を指しつつある。

ウクライナ戦争の帰趨ははっきりしないが、おそらくこの戦争は長引く。

理由は、プーチン大統領が現在の世界秩序を根底から変えようと考えている。そのためには安易な妥協は禁物だと腹を据えている。

もう一つは、米国の中間選挙の帰趨を見極めているはず。バイデンの民主党が敗北すれば、停戦論議もしやすいと考えている。

もはや欧州の政治情勢は、プーチン有利に動いている。もう少しの辛抱だと考えているはずである。さて、どうなるものか。