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0997 安倍首相暗殺から見える日本の言論風景の現在地(1) 流水 2022/07/18 11:28:35
🔶テロ・暗殺・戦争雑感

人間の死には、様々な形がある。
その中で、本人の意思にかかわらず他者に人生の終わりを強制されるのは最悪。
その意味からいえば、安倍元首相の人生の終わり方は、最悪の終わり方だった。さぞかし無念だったと思う。
わたしは彼とは政治的立場は全く異なるが、彼の無念さは良く理解できる。
心より冥福を祈りたいと思う。

テロとか暗殺が許しがたいのは、他者の命を強制的に終了させるところにある。
それ以上に許しがたいのは、戦争である。戦争ほど他者の命を強制的に奪うものはない。それも不特定多数の弱者の命を奪う。第一次大戦以降の戦争による死者の大半は、軍人ではなく武器を持たない戦争に責任のない国民。これほど理不尽な話はない。

安倍元首相の暗殺を語るのなら、他者の命を強制的に終わらせる殺人、テロ、暗殺、特に戦争を徹底的に否定するところから出発すべきであり、この視点のない評論は無意味である。

洪水のような安倍元首相の暗殺を語るメディア報道のあまりにも形式的な論調に寒々とした思いを抱いている国民は私だけではないだろう。
どの報道を見ても、【民主主義に対する挑戦】だと【言論に対する挑戦】だとか、手垢にまみれた言辞のオンパレード。
まるで安倍元首相が民主主義の守護神でもあったかのような美化した報道に唖然としている国民も多いだろう。
死者に対する礼儀と公人としての安倍元首相の功罪の評価とは全く異なる。何もかも水に流せと言わんばかりの主張には同意できない。
わたしには、現在のメディア報道は、安倍政権下の数々の問題をなかったことにするための「安倍神格化」の始まりではないかとさえ思われる。

その象徴が安倍元首相の【国葬】話。
何の法的根拠もなしに【国葬】などありえない。どう見ても、自民党内の権力構造の変化が背景にある。岸田首相の安倍派懐柔(自民党右派懐柔)の狙いがあからさまで、鼻白む。

私から言わせれば、安倍首相ほど民主主義をないがしろにした首相はいなかった。
【民主主義に対する挑戦】という点で言えば、安倍政権の8年間ほど、【民主主義への挑戦と否定】が露骨な年月はなかった。
国会で118回の虚偽答弁を行い、あまつさえ公文書の書き換えも行った。
「民主主義」とは、正確な事実や情報をもとに真摯な議論を行い、その理非を国民が判断することが基本である。
その為には、虚偽答弁や統計数値の改竄や公文書の書き換えなど決してあってはならない。それこそが民主主義の根幹になる。
その根っこを否定してきたのが安倍政権だった。
さらに、検察人事への介入、警察庁長官に出世した中村格氏の問題など数え上げればきりがない。安倍政権下では、【公共】が私物化され、【公】の規範とモラルが崩壊した。

【民主主義への挑戦】という評価だけを一人歩きさせるメディア報道のありようは考え直すべきである。
私流に書くと、安倍元首相暗殺は、【民主主義への挑戦と否定】を繰り返した人物が、皮肉にも【民主主義に対する挑戦と否定】を是とする犯人による暗殺という手段によって否定された事件と言う事になる。

さらに書くと、今回の暗殺は、伊藤博文や犬養毅などの過去の首相暗殺のように明確な政治的意図を持った「政治的暗殺」とは違い、安倍暗殺は、暗殺目的が判然としない。
本人の自供や一部メディアの報道のように、「統一教会」とその分派よる内輪もめなどが関わっているのであれば、それが何故安倍元首相暗殺につながるのか、を明らかにしなければ、報道ではないだろう。

当初、大手メディアは、「ある特定の宗教」という曖昧模糊とした表現で、「統一教会」の名前を出さなかった。「統一教会」が記者会見を開いてようやく「統一教会」の名称を報道し始めたのだから、その腰の引けようは尋常ではない。
この報道ぶりを見れば、「統一教会」の問題の闇の深さが感じられる。
オーム真理教に対する初期の報道姿勢を思い出した。

🔶世界情勢の急変の中での安倍暗殺・・ジョンソン引退につながる変化・・

わたしは安倍暗殺は、現在の世界の潮流と決して無縁なものではない、と考えている。安倍元首相ではないが、世界を俯瞰した見方をしなければ、この不幸な事件を政治に生かすことはできない。

英国のジョンソン首相が辞任しなければならなかった最大の理由は、英国が米国と連携してG7を使ってロシア・中国敵視を徹底的に行う戦略の大失敗が確定したこと。ロシア側など非米諸国の米国側への経済的報復により、エネルギーや穀物などの資源類が高騰と不足、経済破綻しかねないためである。

同様な政変がイタリアでも起きている。フランスでもドイツでも政権与党が敗北している。

世界的情勢から見れば、安倍首相暗殺もこの流れの一貫だと考えられる。
しかし、この見方は大手メディアでは決して取り上げられないだろう。
(例えば、安倍首相を最初に見た医者の記者会見での証言では、肩から入った弾丸が心臓を傷つけたと言っていた。肩から心臓へと言えば、上から撃たれたことになる。と言う事は、周辺のビルの屋上を捜索しなければならないが、そういう報道はない。
以降は、宗教がらみのニュース一色。どこかに大きな力が働いているとしか思えない)

安倍元首相は、就任最初の海外訪問国に中国を選んだり、ロシアのプーチン大統領と20回以上会談したり、彼なりにロシア・中国との関係構築を行ってきた。

わたしはウクライナ戦争勃発時に、日本は【銀座のママ】になれと書いた。
要は、米国一辺倒、中国一辺倒などという外交は外交ではない。どの国ともそれなりの関係を構築するのが外交。外交関係者は、そのために手練手管を磨き、自国の国益のために秘術を尽くす。
日本のような立ち位置の国は、どこにも愛想笑いを絶やさない「全方位外交」が必要である。わたしは、安倍元首相の外交姿勢は、99%是認できないが、中国・ロシアとも外交関係を通じておこうという姿勢は評価する。
現在の岸田政権や林外相の米国一辺倒の外交姿勢は、日本の国益を危うくする。

ただ、ウクライナ戦争以降の米国・英国やNATOなどは、国の立ち位置をはっきりさせようという意図がみえみえ。黒白をはっきりさせよ、というのが、米国の要求。中立などと言うあいまいな立ち位置は許さない。曖昧模糊とした立場は許さない、という姿勢に変わりつつある。明らかに【世界の二極化】への動きが加速している。お前はどっちにつくのだ、と恫喝している。

この背景には、米国の弱体化がある。以前から何度も指摘しているように、覇権国家が覇権国家から転落する時が、世界にとって一番危険。
ウクライナ戦争に対する米英の頑ななまでの好戦的姿勢は、その背景に米英の覇権喪失に対する恐怖がある。

日本は米英の没落とともに衰退の一途を辿ってよいのか。このままでは、米英の没落とともに日本も衰退してしまう。米英と抱き合い心中をするのを選択するのか。それとも、自立の道を選択するのか。日本の正念場である。

この中で安倍元首相の立ち位置は微妙なものだったのかもしれない。
おそらく安倍元首相の暗殺の真相には、【二極化】を推し進める米英側の姿勢の変化が大きく影響していると思える。
※多分、真相は永久に分からないだろう。