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0978 ロシアのウクライナ侵攻に関する一視点 笹井明子 2022/03/21 10:38:14
ロシアが(2月24日に)ウクライナ侵攻を開始してから間もなく一か月が経とうとしている。プーチンによる理不尽で一方的な軍事侵攻に、日本を含む世界中から一斉に「NO」の声が上がったが、膠着状態が続き解決の糸口が見いだせない中で、各国首脳の思惑や、市民の受け止めに微妙な変化が見えてきている。

日本国内では、国民の間で「戦争反対」「ウクライナに平和を」の思いは一致しているものの、美しい街並みが破壊され、多くの一般住民の命が奪われていく現状を目の当たりにして、ゼレンスキー大統領の「徹底抗戦」に懐疑的な声も出始めている。

果たして、国家と国民の命運を握る政治リーダーは、今回のように圧倒的な軍事大国に武力攻撃を仕掛けられた場合、自国の独立を守るために総力戦で徹底抗戦するべきか、あるいは、自国民の犠牲を最小限にするために、早期に降伏し、例え国家の主権を手放すことになっても、戦闘を回避するのが正しいのか、大きく判断が分かれるところだろう。

3月15日、ポーランド、チェコ、スロベニアの東欧3カ国の首脳が、ウクライナの首都キエフを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談。ポーランドのモラウィエツキ首相はそれに先立ち、ツイッターへの投稿で「戦争で荒廃したキエフで歴史が作られ、専制政治の世界に対する自由への戦いが行われている。この地にわれわれの未来がかかっている」と述べたという。

また、チェコのフィアラ首相は「われわれの訪問の目的は『あなたは1人ではない』と伝えることだ。ヨーロッパはウクライナとともにある」と述べ、スロベニアのヤンシャ首相も「ウクライナの戦いは自国のためだけでなく、ヨーロッパの基本的価値である自由と民主主義、国家の主権のための戦いだ」と、ウクライナとの連帯を強調したと報じられている。
https://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN2LC23Y.html
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220316/k10013533681000.html


このニュースに接して思い出したのは、数年前にポーランドを、その翌年にチェコを訪れた私の個人的体験だった。数日間の滞在期間中、どちらの国でも穏やかで落ち着いた、文化の香り溢れる美しい街並みに大きな寛ぎを覚える一方、「歴史博物館」「コミュニズム博物館」を見学に訪れた時には、展示物や映像に記された、暗く重苦しい時代の実相や、民主主義体制獲得までに流された幾多の血の痛ましい歴史、それを乗り越え平和な社会を築き上げた人々の底力に圧倒され、史実の重さが胸に残った。

これ等の国は夫々に、過去にナチスの侵攻や旧ソ連の支配、ソ連傘下に置かれた政府による言論統制など、辛く苦しい試練を経験し、幾多の困難の中で、民衆が立ち上がり、権力の荒々しい暴力に抗い、やがて自由と民主主義を選び取った歴史を持ち、その歴史を決して忘れまいと、街の風景の中に刻んでいる。

こうした歴史的背景を踏まえて、キエフでの四者会談は成立し、三か国の首脳たちは、『今仮に、ゼレンスキー大統領が、国民の犠牲を回避するために、戦うことを断念し、ロシアに全面降伏したとしても、ロシアによる傀儡政権をウクライナ国民は決して受け入れることはなく、自由と民主主義獲得の闘いは民主主義体制の再生まで続き、更なる血が流されることは必然』と認識した上で、ウクライナへの連帯と、具体的な支援を表明したに違いない。ポーランドは、既に170万人のウクライナからの避難民を受け入れてもいる。

ゼレンスキー大統領は現在、欧米各国にも支持、支援の呼び掛けを積極的、精力的に行い、3月23日には日本の国会でオンライン演説が行われるという。ゼレンスキー演説に拍手喝采を送る欧米各国、そして日本は、核や生物化学兵器の使用をちらつかせるロシアを相手に、どのような有効な解決策を打ち出せるのだろうか。

私としては、東欧諸国のウクライナへの連帯の意志を主軸した、ウクライナ政府もウクライナ国民も認めることのできる停戦が、早急に実現することを、心から願っているのだが。

嘗てポーランドの人々の闘いの現場に飛び込んで、苦しみや喜びを共にした今井一さんが、著書「チェシチ!うねるポーランドへ」の締めくくりに書いた、ポーランドの友人たちから教わったという以下の言葉が、今改めて思い起こされる。

『人間的に生きること、個性的に生きることを妨げるような権力・制度は、その国が資本主義国家であれ社会主義国家であれ、決して長生きすることはできない。いかなる国であれその死滅は時間の問題となっている。それを信じること。向かい合うものがどんなに強大に見えても、屈服せずに闘うこと。』

一刻も早く、ウクライナの人々に、平和で自由な日常が訪れますように!