| 🔶9・11の衝撃
アフガン戦争は、2001年9月11日、WTCビルに飛行機で突っ込んだテロ行為に対する報復として始まった。
わたしはその時の衝撃をよく覚えている。 ゆっくりと旋回してビルに突っ込む飛行機の映像は、現実のものとは思えなかった。ビルに突っ込んだ飛行機が、WTCビルに突っ込んだままの姿で残っている映像は、まるで、悪夢をみているようだった。そしてその後に起こったビルの崩落、砂埃、逃げ惑う人々の姿。 現実にこういう事が起きるのだ、という衝撃以外なかった。
次に思ったのは、米国は怒り狂うだろうな、という予感だった。米国は内戦(南北戦争)以外、米国本土が本当の意味で戦場になった事はない。 第二次大戦後は世界の覇権国家として君臨し、米国本土を攻撃する国などあり得ない。もし、万が一そんな事をすれば、その後の報復が恐ろしい。それが世界の常識だった。 ところが、そのあり得ないはずの攻撃が現実に起きた。こんなテロ攻撃を受けたならば、米国は怒り狂い、徹底的な報復をするだろうな、というのが私の予想だった。
しかし、このような国際的大事件には必ず裏がある。特に、米国・ロシア・中国・英国・NATOなど大国が絡む大事件には、表面からみただけでは分からない裏がある。戦争というものは、正面での戦いと同時に裏での駆け引き(諜報)が入り混じっている。
一例を挙げれば、ベトナム戦争の契機になったトンキン湾事件。この事件をきっかけに米国はベトナム戦争にのめり込むのだが、これは米国の「自作自演」だった。 ※トンキン湾事件 ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E6%B9%BE%E4%BA%8B
わたしは、9・11テロ事件にも同様な匂いを感じた。
(1) 最初に“あれ”と感じたのは、当時のチエイニー副大統領が身を隠していると報道された時だった。二波・三波のテロ攻撃を警戒して身をかわした、という説明がなされていたが、少し違和感があった。ブッシュ大統領が公の場で記者会見をしているのに、副大統領は身を隠し、潜伏している。それが大統領と副大統領の棲み分けだと言えばそうだろうが、どうにも釈然としなかった。 (2) もう一つの違和感は、ブッシュ大統領がテロ実行犯としてアルカイダとオサマ・ビンラディンを直ちに名指しした事である。通常、これだけのテロ行為なのだから、犯人グループやその名前の特定には、多少の時間がかかるはず。それを殆ど間を置かずに犯人グループや首謀者の名前を特定した。⇒と言う事は、米国の諜報機関や捜査機関は、彼らをテロ行為をする可能性の高い集団や個人としてマークしていた事になる。
(3) 9・11の犯行は、WTCビルだけではなく、国防総省など全部で3ケ所に対して行われた。これだけの犯行がどうしてできたのか。
(2)で書いたように、犯行直後から【アルカイダ】や【ビンラディン】だと言う事が分かるくらいなら、なぜテロ実行前に逮捕できなかったのか、という疑問が拭いきれない。 たしかに、テロ実行犯は、サウジアラビア出身者が多い。単純にアルカイダと特定できないかもしれない。
しかし、米国は、世界一の諜報機関CIAや捜査機関としてのFBIなど、世界最高の諜報組織を持っている。彼らにかかれば、他国の大統領の携帯の盗聴などお茶の子さいさい。世界の外交官の間では、大使館内部でも盗聴を警戒しなければならないのが常識。 その彼らが、あれだけの大テロ事件をやすやすと成功させたのか。どう考えても納得できない。
(4) もう一つの違和感は、WTC(世界トレードセンター)のようなあれだけの巨大なビルディングが、飛行機が体当たりしたくらいで、ああも簡単に崩壊するものか。この疑問もどうしても消えない。 WTCの地下で火薬が爆発していたなどという諸説が飛び交っている。⇒いわゆる陰謀説に近いが、9・11テロは、CIAなどの「自作自演」だったのではないか、という説が消えない。
🔶戦争のあり方の変容 【非対称型戦争=永遠に続く戦争】へ
その後の経緯を見れば分かるが、9・11を契機にして戦争のあり方が大きく変わった。 ◎「対象型戦争」⇒「非対称型戦争」へと変化した。 「国家」VS「国家」の従来型戦争、いわゆる戦争の「対象」が明確な戦争から「テロリスト」VS「国家」という戦争の対象が不明確な戦争へと変化した。
アフガン戦争が典型だが、相手が「テロリスト」のため、宣戦布告がない。 しかも、「テロリスト」は何にでもなる事ができる。毛沢東や北ベトナムの将軍ポー・グエンザップなどが得意とした「ゲリラ戦」の要諦は、【民衆の海に潜る】こと。 ベトナム戦末期、米軍兵士が最も恐れたのは、どこにでもいる民衆が、突如テロリストに変身する事だった。例えば、街で靴磨きをしている少年(浮浪者)が突然爆弾を爆発させるように。
こういう目に見えない敵を相手に戦争を始めれば、それこそアフガンの民衆を皆殺しにでもしなければ勝利はない。理由は明白。誰が「テロリスト」か分からないから。敵が分からないから、誰もが敵に見える。だから、恐怖に駆られ普通の民衆を殺してしまうケースが多発する。 こういう戦争を始めると、多数の民衆を殺戮せざるを得ない。そうなると、多くの民衆の怨嗟の的になる。
今回の撤退劇でも行われたが、こういう混乱のさなかにテロを行えば、混乱に拍車をかける事ができ、効果は倍増する。テロ攻撃の死者が百数十人と報道されていたが、この死者の大半は、パニツクに襲われた米軍兵士が銃を乱射したためだ。密閉した空間ならいざ知らず、外での爆弾テロであれだけの人間が死ぬはずがない。この手のニュースを読む場合、常に眉に唾をつけて聞く必要がある。
米国が始めたのはこういう戦争である。テロ撲滅を旗印に戦争を始め、テロ撲滅の名目で罪なき民衆を多数殺戮する。殺害された民衆の家族に米国に対する深い憎しみと恨みの感情を植え付ける。中には、報復のため米軍を標的にするテロリストになる人間も出る。これに対し米軍はさらなる報復をする。 いわゆる【憎しみの連鎖】である。この「憎しみの連鎖」の蟻地獄にはまってしまうと果てしがない。
さらに問題なのは、この戦争が始まった時、ブッシュ大統領は【悪】に対する【正義の戦争】だと言いきっていた。そうなると、戦争の意味が、【宗教戦争】の色彩を帯びてくる。 「悪」を殲滅する戦争=「正義の戦争」という理念で戦えば、「正義」を体現している国の軍隊=米軍の行為は全て免責される。
現にイラク戦争を始める時、ブッシュ大統領は、米軍を【十字軍】に例えた。 イスラム教徒は全て敵なのか、という反発が起きた。事実、米国内ではイスラム教徒に対する警戒感や敵視や嫌がらせが頻発した。(※日本人にも既視感がある。太平洋戦争中、米国に住む多くの日本人が収容されたのを忘れてはいけない) ※https://ja.wikipedia.org/wiki/日系人の強制収容
これは、中東諸国から見れば、我慢できない。中東諸国から見れば、「十字軍」は、イスラム教徒に対するキリスト教徒の侵略に他ならない。歴史的悪夢であり、看過できない屈辱でもある。 米国はイスラム教徒全てを敵に回すのか、という議論が沸き起こった。もちろん、米政府は公式には否定したが、この疑いは世界中のイスラム教徒の心に滓のように残った。
🔶 戦争のゲーム化(永遠の戦争を勝ち抜くための方策)
米国が始めた戦争を【永遠の戦争】と呼ぶのはこのためである。換言すると、「永遠の蟻地獄」戦争である。 そして、武器も劇的に変化した。 ロボットを使い、【無人機=ドローン】を使ってターゲットを銃撃したり、爆破して殺戮。 言い換えると、人殺しの「機械化・自動化」である。換言すると、「人殺しのゲーム化」である。
米国が戦争の「無人化・機械化・自動化」を進めるのには理由がある。現在、米国の兵士は、志願制を取っている。志願制の兵数には限りがある。そして、戦死者が増えれば増えるほど、志願者が少なくなる。米軍にとって、戦死者の増加は、軍隊への志願者の減少と同義語。 だから、出来るだけ戦闘を機械で代用しよう、という発想が生まれる。 ※https://www.weblio.jp/wkpja/content/アメリカの徴兵
もう一つ、米軍にとっての頭痛の種は、退役軍人のPTSD発症の多さがある。ベトナム戦争の地獄の戦いでPTSDを発症した兵士は数えきれない。その治療費も莫大である。 イラク戦争でのファルージャの戦いのような悲惨な戦場で戦った兵士たちの多くもPTSDを発症している。 ※ファルージャの虐殺 https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/3555 ※シリーズ米軍の危機:その2 イラク帰還兵を襲うPTSD www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/us_troops_crisis2.htm
このような兵士たちのメンタル面での負荷を出来るだけ減らすための、「機械化・自動化・ゲーム化」の導入という側面もある。
しかし、今回の撤退劇の中でも起きたように、無人機による攻撃は、多くの誤爆を招く。無人機による攻撃が成功するためには、地上での誘導が欠かせない。 誘導なくして、無人機による攻撃を行えば、誤爆も頻発する。同時に、非人間的な無人機による殺戮をされた側の心には、殺された恨みの他に、人間ではなく物扱いをされた怒りが堆積する。 これが、タリバン復権をゆるしたアフガン国民の心にないとは言い切れない。
🔶 戦争のコスト
〇戦費⇒2兆ドル(約250兆円)以上 ブラウン大学「戦争のコストプロジェクト(Costs of War Project)の見積もり
〇20年間、毎日3億ドル(370億円)以上のコストがかかる計算) 〇内訳 米軍の直接戦争費用 8000億ドル(約96兆円) アフガン軍訓練費用 850億ドル(約10兆2000億円) アフガン兵士の給料 年間7億5000万ドル(約900億円)
〇米国は、アフガン戦争費用を借金で賄っている。⇒戦争終了後も借金払いは続く 〇戦死者など。 ・米軍兵士⇒2500人以上 ・米軍と契約した米国民間人⇒4000人近く死亡 ・アフガン軍や警察⇒6万9000人 ・民間人⇒4万7000人 ・反政府勢力兵士⇒5万1000人 が死亡
●米国人死者収容費用⇒3000億ドル(約36兆円) ※アフガン戦争のコストは20年間で「250兆円」、米大学が試算(FORBES) www.jca.apc.org/stopUSwar/Iraq/us_troops_crisis2.htm
如何に壮大な無駄が費やされてきたかが分かる数値である。
🔸 ビンラディン殺害
オバマ大統領の時、オサマ・ビンラディンの潜伏先に米軍がヘリコプターで乗り付け、殺害する場面がTVで公開された。オバマ大統領をはじめ米国の閣僚たちがその場面を見ている場面も公開された。生きている人間が殺される場面を映像で見るのである。常人の神経で耐えるのはなかなか難しい。 ※ビンラディン殺害映像 https://www.nicovideo.jp/watch/sm14344534
米国の権力者の神経は強靭でなければ務まらない。こういう血塗られた場面を正面から見据え、米国の行為を堂々と正当化し、国民をきちんと説得できる論理を構築できなければ、大統領は務まらない。
しかも、ビンラディンの潜伏先はパキスタン。パキスタン政府に何の断りもなく、他国の領土で米軍ヘリを使い米軍兵士がビンラディンを殺害する。国際法で言うならば、明白な「主権の侵害」。米国は、「テロリスト」の殺害のためなら、国際法など無視して構わない、と考えているのだろう。「覇権国家」の傲慢さそのもの。まさに「タイラント」である。
その決定を下したのが、民主主義を説いてやまないオバマ大統領。 アメリカと言う国家の【ダブルスタンダード】が象徴的に見えた場面でもあった。 わたしにとっての「アフガン戦争」の最も象徴的な場面だった。
同時に、ビンラディン殺害はアフガン戦争の一つの転換点だった。これ以降、米国民の間からアフガン情勢に対する興味が減少した。 タリバン復権の一つの要素に、ビンラディン殺害によってアフガン戦争の目的が果たせた、という米国民の安堵感があったと考えるのは、そう的外れではない。
🔶米国の戦争考 「米国の戦争の歴史」の年表を見ると、米国と言う国が如何に多くの戦争をしてきたかが良く分かる。 ※machidaheiwa.fc2web.com/tokushyuu/1war/us-history.html
米国の歴史は浅い。わずか240年余りしかない。
★戦争(発動・関与)⇒200回以上 ★第二次大戦終了(1945〜2001年) 世界の武力紛争⇒153地域、248回 ↓ 米国が起こしたもの ⇒201回 (全体の81%) ↓ 世界で、これだけ戦争をした国家はない。文字通り、米国は戦争を好む国家=【好戦国家】である。
◎米国が戦争を好む理由
端的に言えば、戦争をすることにより、実際的な経済的利益があるからである。 アフガニスタンの20年戦争の受益者リスト・・安全政策改革研究所リスト(SPRI) ↓ ロッキード・マーティン、レイセオン、ジェネラル・ダイナミクス、ボーイング、ノースロップ・グラマンの米軍事大手5社 ⇒20年間 2兆200億ドルを得ている。
米国の軍事費(2020年度)⇒7780億ドル(約90兆円)⇒世界の軍事費39%
実にシンプルで分かりやすい。 わたしはこの掲示板で何度も「戦争は米国の公共事業」と指摘してきた。小難しい「安全保障」論をぶち上げる連中は、この単純明快な事実を糊塗するために、難しく語るのである。 【戦争は儲かる】。この単純明快な理屈で米国は戦争をするのであろう。逆に言えば、戦争をしないと経済が回らなくなる、という経済体制に落ち込んでいるのかもしれない。
この経済体制(好戦国家体制)のほころびが見え始めたのが、現在の国際情勢。 バイデン政権は中国との緊張(新冷戦体制)を煽る事により、この危機を乗り切ろうとしている。 そのお先棒を担がされるのが日本。 過去あまり反中国的言動を弄さなかった岸田元政調会長が、総裁選では、反中国的言動を発信しているのは、米国の戦略転換(中東・アフガンから中国)に合わせたものであろう。
米国も「戦争が公共事業」という経済体制からの脱却が難しいのだろう。米国の覇権が揺るぎ始めたというのが、今回のアフガンを巡る一連の動きだと思う。
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