| >柳広司が書いた小説「アンブレイカブル」を読みました
小林多喜二「雲雀」 鶴彬 「叛徒」 和田喜太郎をモデル「虐殺」 三木清「矜持」をテーマにした4つの断短編集です
第一章 雲雀小林多喜二は何故あれほどリアルな小説を書けたのでしょうか。 天賦の才能もあったのでしょうが綿密な取材力にもあったのだろうと思います。 生き生きと楽し気に取材する多喜二の姿は大きな鷲や鷹にも臆する事なく空高く舞い上がり楽し気に鳴く雲雀を彷彿させます。多喜二と取材される労働者の間に信頼関係が生まれつつあった時、1人の内務官僚の罠により多喜二は絶対絶命のピンチに陥ります。 しかし最後は意外な結末でやはり多喜二は空高く舞う雲雀だったのです 鶴彬 「叛徒」権力を鋭く批判し軍隊貴族や帝国勢力に切り込んだ川柳を幾つも発表した川柳作家ですその作風と川柳という短い言葉で切りとった現実を為政者と国民に突き付け投獄されます。 鶴彬が理不尽な目にあった時それを見咎めた憲兵隊長に救われます彼は鶴彬に亡くなった弟の面影を見いだし「必ずや立派な憲兵に育て上げる」と決意しますが又内務官僚の計略にあい鶴彬は遂に帰らぬ人となるのです
1章は明るく、2章は取り締まる側にも感情があり救われる思いがしました 第3章「虐殺」は鳥肌が立つ恐ろしい章です 満鉄に勤務する志木(仮名)はある日若い編集者に「周囲の同業者、知り合いが次々と消えて行く」と怯えた表情で相談されます。それは文字通りある日突然「消えてしまう」のですこれは横浜事件をモデルにした小説です。「罪は見付けるのではなく作るのだ」と嘯く内務官僚の指示により免罪を記せられ弁明の機会も与えられず投獄され命を落としてしまう若き編集者達。動物園で編集者と話しをした後志木は食い入るように動物を見つめる子ども達の未来が恐ろしい虐殺に満ちていると予感するのです
第4章三木清「矜持」はこの小説に常に影の様に登場する内務官僚クロサキの章でもあります。 同郷の天才哲学者三木清はクロサキにとって何をやってもかなわない頭の上に置かれた大きな石の様な存在でした 中学、一高へと進みどんなに良い成績を取っても父親は 「清さんにはかなわない」と鼻の先で笑うのです。清さんは 西田磯太郎の下で学ぶべく京大に進学します。クロサキは帝大に進学し内務官僚に迄登りつめます。そして刑務所という劣悪な環境でボロボロに成り果てた三木清と対峙するのでしす クロサキはその時何を感じたのでしょうか 三木清も酷い環境で健康だった身体を壊し敗戦の年9月に還らぬ人となるのです
人間は恐ろしい残虐な行為を繰り返すうちそれにもいつか慣れてしまうのでしょうか クロサキの三木清に対する思いはどうしてもかなわぬ相手に対する「反知性主義」を彷彿させます 75年の時を経てそれがまたよみがえって来た様な気がします 学術会議任命拒否のあの頑な総理の態度。 とても「アンブレイカブル」にはなれない私。だからこのままではいられない。投げ出さず、諦めず出来る事をやろう…と 日々思っているのです
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