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0908 忘れられない一年 見習い期間 2020/12/20 20:26:25
このコラムで一年の最初から最後まで同じ話題を繰り返す羽目になるとは思いもよらなかった。そして、現在こそがこれまでで最も状況が悪化しているのだ。

日本では今日に至るまで自覚症状がない市民への検査が十分に行き届かず、政府が唯一の出口戦略として想定しているはずの予防接種は、自国での開発と国外からの調達の両面で、日本は先進国の中でも大きく後れを取っている。
本来であればすでに終了していたオリンピックも、開催するのかすらまだ先行きが見えないままである。

日用品の買い物も必要最低限にとどめているが、時折立ち寄る店舗では今ではマスクも潤沢に揃い、消毒液や除菌シートなどの衛生用品も大量に入荷している。そのため現在では個数制限などが設けられておらず、買い占めようとする人もいなくなったことが、春先と比較して唯一改善された点であろう。
もっとも、市民が求めている生産や調達にむけて尽力したのは個々の民間企業などであり、感染拡大防止のために最低限必要なものは手続きなしに与えられる公的な支援制度は今でも存在しない。

検査にしても、行政検査が症状を有する者の病理診断の確定とごく限られた範囲のコンタクトトレーシングにのみ用いられているため、症状がない人たちは自分が感染しているか判断がつかない状態である。
国としては無症状者を野放しにしている間に、民間企業が無症状の人を対象とした検査を提供するようになった。申し込みも殺到しており、個人レベルでは知らない間に周囲に感染を広めてしまうのではないかと心配し、気遣うことができる人が多いのだろう。パンデミックを自助のみで生き抜く中での数少ない救いともいえる。

こうした個々の生活者による感染症から身を守るための行動と対照させると、私たちの代表者がしてきたことは、感染症を防ぐどころか縦横無尽に拡散する行為としかいいようがない。
さらに昨今では、総理大臣自らが五人以上での会食を行っていたこと、また連日のように会食をしていたことがマスメディアで報じられている。国民に対しては会食自体をハイリスク行為であると伝え、大人数で長時間にわたる会食や飲酒を伴う会合は控えるように呼びかけていたにもかかわらず、当の首相がその回避すべき行為を連日実践していたことになってしまう。
これまで感染症の拡大を防ごうと、それこそ命がけで行動してきた一般の人々からすれば到底許されない行為であり、世界的な公衆衛生上の危機にあるという意識を欠いているようにしか見えない。

日本は島国なのだから水際作戦などのオーソドックスな防疫策をとっていれば、大陸からウィルスをそもそも持ち込まないこともできた。しかしながら、目先のインバウンド需要に気を取られて海外から人が流入してもおかまいなしという態度を取り続けていた。

初動の明らかな誤りと今日に至るまで継続している公助なしの市民に丸投げモデルがもはや機能していないことは誰の目にも明らかである。
さらには政府から国民にお願いしていることを国のトップである総理大臣が守っていないということ、それを強く肯定もしないが内部から非難することもなく、ましてや非を認めて謝罪することもない側近たちの態度を見ると、私たちももうこれからは政府のお願いに従う必要はないのでは、と感じてしまう。
今後は政府の公式見解として何かを依頼したにせよ、従ってくれない人が市民の多数派になってしまう可能性すらある。

これまでもこの国の政府は国民との間に信頼関係を築けていたのかと考えてみると、必ずしもそうとは言えなかった。しかし、首相自ら感染が拡大する中でハイリスク行為を犯したという今回の失策は、年を越えたからといって忘れてもらえるものではない。信頼関係を恒久的に破壊する行為である。

この一年、ウィルスと政府と三つ巴で戦ってきた日々を忘れたいが、感染におびえる市民は例年のように楽しい宴も開けず、今年一年の国に放置され見放された記憶を保持したまま、新しい年を迎えるのだろう。