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0849 「無罪請負人」弘中惇一郎 名無しの探偵 2019/12/31 20:26:07
私が弘中弁護士に出会ったのは4年前になるだろう。若く見えるので同世代かと思ったが3歳上なので、今74歳である。
京都弁護士会主催の講演会場でのことである。学生時代のことから自分の経歴を話した講演者も珍しい。

講演終了後に私は質疑応答で手を挙げていた。「先生が安部英被告を無罪にしたということですが、当時、非加熱製剤は危険であり、加熱製剤を使用していたら血友病患者がエイズを発症することはなかったのではないですか。」と私が聞いた。
「いや、そうではありません。非加熱製剤が危険であると当時の医学水準では解明されていませんでした。私と武藤さんが共著で出している本(注、「安部英医師『薬害エイズ』事件の真相、」のこと)を読んでいただければ分かると思います。」と弘中弁護士が答える。

講演終了後に弘中弁護士に近づいて、「三浦事件」の真相の論文を送ってほしい旨を告げると弘中氏は快く応じてくれた。

2、少し脱線して昨日から話題になっているニュースに触れる。それによると、カルロス・ゴーン被告人がレバノンに「逃亡」したことを伝えている。
弘中弁護士は、ゴーン被告人の逃亡に関して、「寝耳に水」であるという。

今の日本で無罪率が80パーセントという弁護士は皆無であり、これからもこういう弁護士は出てこないだろう。「無罪請負人」と言われる所以である。
日本の普通の裁判でも無罪率は0・01パーセントなのであるから。

それにしても戦時中に軍医であり、731部隊の軍医ではなかったのかと言われている安部英(たけし)はなぜ一審で無罪になったのか。
弘中弁護士の本を読んだわけではないが、やはり業務上過失致死罪で「無罪」になったというのは安部英の近くにいた医師やマスコミ(毎日新聞の「社説」はこの判決は不当であるとする)が言うように納得できるものではないであろう。

安部英が731部隊の関係者ではないことは今では明らかであるが、731部隊(石井部隊とも)のトップにいた軍医たちが戦後に作ったミドリ十字社(最初はブラッドバンクと呼んでいた)と安部英が密接な関係にあり、実際に安部医師のような「帝京大学ルート」の刑事裁判ではなく、「ミドリ十字ルート」と言われる裁判ではそこに所属していた医師たちは有罪判決を受けている。(松村被告人は有罪であった。)

なぜ、安部英のような「帝京大学ルート」の医師は無罪になったのか。安部英は帝京大学の副学長を務め、また厚生省のエイズ研究班では代表を務めていた。その研究班では安部は絶大なる権力を行使して、クリオ製剤や加熱製剤を使用するべきだという部下の風間医師を恫喝して、その意見を封じているのである。

無罪判決を勝ち取った弘中弁護士の検察への反対論告では「クリオ製剤は供給量が少なく入手が困難だった。加熱製剤は変性タンパク質の危険性などが予測されるので、慎重に治験を行うべきだった。ミドリ十字の加熱製剤開発は遅れていなかった。一括申請で治験や審査の時間を大幅に短縮した。」等である。

思うにこうした反対の主張に正当性があるとは思えない。(武藤弁護士と弘中弁護士の共著を読んでいないので、上記の主張だけからの判断であるが)
厚生省(当時)のエイズ研究班で、安部英の意見に反対していた医師は安部医師の意見に逆らうことはできなかった。

クリオ製剤を使用するべきであるとか、加熱製剤を使うべきであるという欧米などでは普及していた医学的な方法は当時に日本でも妥当な療法ではなかったのではないだろうか。

厚生省の生物製剤課長を務めた郡司篤晃のファイルは安部英の「非加熱製剤」使用を正当化するものであるが、今日から見ても到底是認できるものではありえない。(1996年に当時の厚生大臣であった菅直人はこの「郡司ファイル」の件では謝罪している)

弘中弁護士は無罪獲得率が80パーセント近いと言われているが、前回言及した遠藤誠弁護士と比較しても弘中弁護士が弱者を守る人権派弁護士であるとは言えないであろう。遠藤弁護士は依頼者に正当性があり困っている場合には実費だけいただくと言っていた。(着手金は要らないということである)

有能な弁護士であるが、両刃の剣的な法曹であると考える。

以上。