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0796 感情動員と感情労働の国 ;近代国家失格の日本(NO3) 流水 2019/01/28 10:18:24
(6)感情労働と天皇制

★感情労働とは何か
 
過去、労働形態には、「肉体労働」と「頭脳労働」の二つがあると言われてきたが、近年第三の労働形態として【感情労働】がクローズアップされてきた。社会学者A・R・ホックシールドが考え出した新しい概念である。
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 相手(顧客)の精神を特別な状態(平たく言えば心地よく)に導くために、自分の感情を誘発(奮い立たせる)したり、抑圧する(我慢する)ことを職務とする、精神と感情の協調が必要な労働の事を言う。
 感情が労働内容にもたらす影響が大きく、かつ適切・不適切な感情が明文化されており、会社からの管理・指導のうえで、本来の感情を押し殺して業務を遂行することが求められる。
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★感情労働が必要とされる職業・職種

〇代表的なもの
・「看護師」などの医療職 ・「介護士」などの介護職 ・客室乗務員(CA)
〇顧客の言う事に耐えなければならない職業
・「ウエイトレス」 「ホステス」の接客業 ・「オペレーター」(カスタマーセンターやコールセンターで働く人)・「広報」、「苦情処理」「顧客対応セクション」(官公庁や企業)・「読者視聴者応答部門」(マスメディア)
〇秘書・受付嬢・エレベーターガール・ホテルのドアマン・銀行の案内係・営業などのサービス係
〇教師・保育士・カウンセラー・ケアワーカー

これらの職業をよく見ると、どう考えても相手の一方的な誤解であったり、無知であったり、腹いせ、悪意、その時の気分、嫌がらせなどによる理不尽な要求や非常識な要求などにも自分の気持ちを押し殺し、礼儀正しく、丁寧な言葉遣いで対応し、相手の言い分をじっくり聞いて、的確な対応をしなければならない。

間違って相手を怒らせて、対応を失敗すると、どんな理由があるにせよ、職業人失格になる可能性が高い。

しかも、「生産性」理論からすると、きわめて「生産性」が低く、事前の計画が立てにくい。その意味で、「肉体労働」や「頭脳労働」とは決定的に異なる。

【感情労働】という概念を考えたホッシールドは、感情労働を肉体労働や頭脳労働と同じ労働価値として評価すべきだと主張している。

同時に、彼は、【感情労働】には、二つの側面があると主張している。
(1) 表層演技
(2) 深層演技

表層演技とは、笑顔や声や態度で望ましい感情を表現する事。深層演技とは、心を変えようと努力する事。望ましい表層演技をするために、自分自身の心の深層部分を変え、表層演技をする自分自身の心を納得させる事である。

人間だれしも、生きて生活をしていると、【表層演技】も【深層演技】も無意識に行っている。ただ、【感情労働】の職種は、これが仕事であり、日常であるという点で大きく異なる。

毎日、日常的に【仕事として表層演技】を行い、その評価にさらされると言う事は、自分の心の中を覗き込み、【深層演技】を日常的に行わなければ、耐えられないはず。これは、きわめてストレスの多い仕事である。

一例を挙げよう。わたしの職業だった教師でも、精神を病んで休職する人が年々増えている。様々な原因が考えられる。

一つは子供たちの変容。教室にじっとしていることができない子供が増えている。精神的な障害児が増加しており、一斉指導に適さない子供が年々増加している。

次は、モンスターペアレントと呼ばれる親の変容。とにかく、教師の指導にクレームをつける。特に、女性教師(若い)に執拗なクレームをつける。中には、連日のように、抗議の電話をかける親もいる。教師の力量の低下もあるだろうが、いささか度が過ぎている。

一つは、教師間の格差の拡大。校長⇒教頭⇒教務⇒主任⇒教師の従来のヒエラルヒーにさらに細かなヒエラルヒーが設けられ、上意下達が徹底されている。その為、下級教師とされた教師たちは、自らの教育活動が常に上級教師たちの評価の目にさらされている。

この序列が子供たちや親に可視化されると、偉い(上級)とされた教師の言う事は聞くが、偉くない(下級)教師の指導は聞かない、という現象が起きる。そうなると、当然、学級経営でも、親との関係でももめごとが起きる。それを「指導力がない」と評価される。だから、必死で不祥事を隠したり、上級教師に媚びる教師も生まれる。

現在、官邸に人事権を握られた中央官庁の役人たちが、財務省や厚生省の不祥事を起こしたり、裁判所の裁判官が最高裁判所事務局に人事権を握られ、行政裁判の判決に政府や行政有利の判決を書き、司法の信頼性にかなりの影響が出ている。

これらの裁判官を「ひらめ」裁判官と呼ぶが、教師の世界はそれ以前にそうなりつつあった。それが安倍政権が長期政権になり、文部省支配が進むにつれ、「物言わぬ教師」上だけを見る【ひらめ教師】が増殖している。

教師と言う人種は、たとえ、管理職に疎まれても、子供たちの支えがあれば、それなりに仕事が楽しく、耐えられるものだが、その子供や親にまで疎まれたら耐えられない。これが精神疾患による休職者の増加の最大の要因だろう。

こういう労働を【感情労働】と呼ぶ。よくよく考えると、こういうストレスが大きく、辛い【感情労働】を真正面から受け止め、真面目に、誠心誠意働く人は、あまり評価されていない。いくら誠心誠意の対応をしても、儲けにはあまりつながらない。会社のマイナス部分をなくす以外に生産性があまりない、と評価される。

出世街道をひた走る連中は、自らの【感情】を忖度される事に慣れた連中が多く、他人の感情を忖度する【感情労働】には向かない。ただし、そういう連中は、自分の出世に必要な上司や権力者に対する【感情労働】は、大変よく行う。だから、自分の部下に対しては、自分に対する【感情労働】を強要する。

だから、介護などの人材はなかなか定着しない。労多くしてあまり報われない。介護を受ける人やその家族の感謝の言葉以外、本当の意味では報われない。この報われなさが、介護などの現場で様々な軋轢を生む。

【感情労働】の現場で行われているのは、労働の搾取以外の何物でもない。同時に、過剰に【感情労働】を他者に求めるクレーマーの存在が、日本の昔からの醇風である「お互い様」という精神を壊し、ますます住みにくい世の中を加速している。

★最後に、このような【感情労働】の最大の担い手が、天皇陛下であり、皇族だろうと思う。

何回も書いて恐縮だが、【世の中で起きる災いは全てわたしのせいなのよ】と引き受ける天皇制のありようは、災いを受けた人々のあらゆる思いや感情を真正面から受け止める事を意味する。天皇の被災地訪問や戦地訪問は、その意味で【感情労働】そのものである。

沖縄に何度訪問された事か。この辛い【感情労働】をしなければならないのは、本来政府と国民の仕事である。それだけの犠牲を沖縄県民は払ってきた。
それを天皇一人に負わせて、政府も国民もネグレクトしてきたのではないか。

社会の【感情労働】に対する低評価も大問題であるし、天皇の【感情労働】におんぶにだっこの政府・国民は、平成の終わりに際し、もう一度自問自答しなければならないと思う。

国民に対し、具体的で論理的な説明や話し合いをしないで、【感情動員】で世の中を動かそうとする国は、近代国家とは呼べない。現在の日本の現状は、もはや【近代国家】失格と言われても仕方がない。

実は、近代国家失格は、経済でも同様な事が言われている。

評論家冷泉彰彦は、マグマグニュースで、もはや日本は先進国ではない、と断じている。

「もはや先進国ではない。なぜ、日本経済はスカスカになったのか?」
https://www.mag2.com/p/news/382054
冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 まぐまぐニュース

内容は読んでもらえば分かるが、正当な議論を拒否し、【感情動員】に狂奔する安倍政権のアナクロニズムが良く分かる。