呼出完了
0792 この一年を通じて考えたこと 見習い期間 2018/12/31 10:37:38
今日は2018年最後の日だ。世間では「平成最後の年末年始」という言葉が多く飛び交っている。しかし、今年は筆者にとって、日本という国を中心とした視点にとらわれず、自分が生きている世の中は、誰もが各々の希望や幸せといったものを追求することができるのだろうかと問うことが多い一年だった。

今年は小説や詩、エッセイなどの文学作品テクストを読む機会が増えた一年であった。中でも、イギリスの作家、ヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』にある「あなたの世代の女性には、法律も医学も政治も、すべての職業がひらかれているわ」というセリフは、現在、自分が身を置き生活する世間を見直すきっかけとなったものだ。このセリフは、主人公の娘の家庭教師を務める人物が発したものだが、『ダロウェイ夫人』が公刊された1925年から90年以上経過した今でも―少なくとも自分が認識している世界においては―女性にすべての職業が開かれているとは言い難い状況と言わざるを得ない。

この数年で、まさに命がけでセクハラや性犯罪の被害を告発する人たちが現れ、それらのアクションに対して賛同を示す大きなムーブメントも存在する。以前に、このコラムでも有名無名の人々による様々な働きかけに言及したことがある。

男女の雇用機会は均等であり、職業に就くための教育へのアクセスも性別によらず平等にできるものであるかのように、表面上は見えるだろう。だが、今年一年の報道を見る限りでは、生物学的・社会的な性別による差別は依然として続いているように思える。前掲の引用箇所には含まれていないが、「報道」の分野においても、女性であることで不利益を被り権利を侵害されることが多いことは言うまでもない。

『ダロウェイ夫人』の世界には、女性だけではなく第一次世界大戦以後に神経症を患った若者の語りも含まれる。戦争は一人の人間に対して大きすぎるほどの傷を残すということを改めて意識させられる箇所だ。また、上流階級の間では若年層をイギリスからカナダへ移住させようとする計画にも言及されている。

現在、日本では「外国人労働者」を積極的に受け入れようとしているようだが、単に国外から人が来れば労働力不足などの問題がすべて解決するとは到底思えない。年が改まっても、この世を生きる/生きた人間たちによる二つと同じものはない語りに耳を澄まし、身近な他者に想像力を馳せることを忘れないようにしたい。