呼出完了
0753 朝鮮半島の冷戦終結がもたらすもの 流水 2018/05/07 14:28:10
4月27日、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩労働党委員長が板門店で会談し、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」に署名した。
この様子はTVで実況中継され、全世界に報道された。

冷酷無慈悲な独裁者として恐れられていた北朝鮮の金正恩委員長が、意外にウイットとユーモアに富んだジョークも飛ばす人物だと言う事が世界中に認知された。会談での真摯な姿勢、卒直な物言い、年長者である文在寅大統領を立てる韓半島の風習にも通じていることを示した。

さらに、夕食会で文大統領がワイングラスを鷲掴みにして乾杯の音頭を取っていたが、金委員長はきちんとワイングラスを指で持っていた。金委員長はワインを飲みなれていると思われ、さすが、スイス留学の経験があるな、と言う事を見せていた。

外交などというものは、いろいろ難しい理屈はあっても、所詮人間が行うもの。最後は、交渉当事者の人間性が物を言う。その事を金正恩委員長は見事に証明した。冷酷非道で血も涙もない無慈悲な独裁者のイメージから、意外に知的で冷静でユーモアも解する指導者というイメージを世界中に植え付けたのは、北朝鮮のこれからの外交にとって大変な成果だったと思う。要するに、「話せばわかる」人間だと言う事を世界中に示したのである。

特に、文大統領と金委員長が二人きりで30分以上話し込んだ場面は、両国関係が新たな世界に確実に一歩踏み出した、という事を両国国民に映像で象徴的に見せた。これには、通訳なしに、お互いが、朝鮮語で話せるという事情もあったに相違ない。

とにもかくにも、北朝鮮と韓国の首脳会談は大成功だったと評価せざるを得ない。この会談の成果をトランプ大統領がぶち壊すのは相当難しい。もし、ぶち壊したら、米国が一方的に悪者になる可能性が高い。トランプ大統領は本気でノーベル賞を欲しがっていると報道されているので、その意味から言えば、ぶち壊すことはしないと思える。

つまり、今回の北朝鮮・韓国会談は、成功裏に終わるように、北朝鮮・米国・韓国の間で事前に調整されていたはずである。同時に、中国もその調整に一枚噛んでおり、北朝鮮・韓国・米国・中国の間で全て調整済みだったはずである。

朝鮮戦争後60有余年。この間の四ケ国の関係はもつれにもつれており、そうそう簡単に解決できるものではない。お互いが自分の主張を少しずつ譲り合わなければ、妥協は成立しない。おそらく、この妥協が成立する見通しがついたのであろう。

ここからが本題。一体全体、どのような妥協が成立したのか。ここからは、わたしの推測である。

★CVIDとは何か。

まず、日本でも評論家と称する連中が、したり顔に主張している【非核化】の論理である。この論理は、米軍産複合体が主張するCVID(完全で検証可能、不可逆的な兵器の廃棄)の引き写しである。当然、日本政府も同じ主張を展開している。米国が主張しているリビア方式はこのCVIDの適用例。

ところが、このCVIDを受け入れたら、IAEAの査察が済んだ後でも、まだ隠し持っているはずだ、あそこが怪しいと無限に査察を要求してくる。これをやられたイラクは軍事的に丸裸にされ、最後にイラク侵攻され、フセインは殺された。リビアのカダフィも同様な目にあっている。CVIDを条件にされたら、いずれ北朝鮮の金正恩も同様な目に合う事は火を見るより明らか。

つまり、CVID(完全で検証可能、不可逆的な兵器の廃棄)とは、米国が他国(反米国)を潰すためのツール。これをしたり顔に主張する連中は、米軍産複合体の代弁者と考えてよい。

★トランプ大統領はCVIDに固執しない、と予測できる。

昨春、トランプ大統領は、北朝鮮の核問題の解決を中国に任せた。中国は、CVIDを米英による政権転覆の道具とみており、その適用に反対している。

もし、米国が最後までCVIDの適用に固執すると予測できたなら、北朝鮮は今回の話に乗らない。金正恩が中国の習近平主席と会談したのは、この適用をどのように避けるかが大きな議題であった事は間違いない。現在の米朝会談までの進捗状況を見れば、この話はすでに落としどころが見えている、と考えるのが至当だ。

★北朝鮮の核廃棄の現実的解決方法

田中宇は以下のように予測している。

・・・「今後、北の核廃棄に際しては、CVIDでなく、1か月とか期限を区切り、あらかじめ指定した施設群をIAEAが査察して何も見つからなければそれで査察は終わる。それに加え、北の政府が自発的に出してきた核兵器を解体して核廃棄とする算段になりそうだ。北はおそらく、たくさん作った核弾頭のうちの一部を隠し持ち続ける。中国やロシアは、それを黙認せざるを得ないと現実的に考えている。外国に対して閉鎖されている北の国内のどこかに隠した兵器を外国勢が探すのは不可能だ。北が他国に対して「核攻撃するぞ」と言わない限り、中露は、北が核を隠し持ち続けることを黙認する(そもそも北に核開発の材料や情報を入手させたのは米国系の諜報機関だから、北の核武装は米国の責任だと中露は考えている)。北自身や韓国も、中露の考え方に賛成している。米国が北核問題の解決を宣言すると、日本も何も言わなくなる。」・・・
(朝鮮戦争が終わる)https://tanakanews.com/180430korea.htm

★韓半島の将来

もし、米朝会談が成功裏に終わり、韓半島に平和が訪れると、以前に書いた事があるが、ロシアのプーチン大統領が提示した将来プランが現実味を帯びてくるだろう。

・・・「 プーチンの新提案とは、9月6−7日にロシア極東のウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」で発せられた、(日本や)韓国から北朝鮮を通ってロシア、中国に至る鉄道やパイプラインを開通させる構想だ。朝鮮半島を縦断する鉄道やパイプラインは、ロシアのシベリア鉄道や西シベリアからのパイプライン、中国が「一帯一路」計画で建設している中国経由で西アジアや欧州まで伸びる鉄道やパイプラインにつながり、日韓がユーラシアや欧州に製品を輸出したり、シベリアから石油ガスを輸入する際に使える。北朝鮮は、自国を通過する鉄道貨物やパイプラインの通行料を得られる。この構想は、10年以上前からあったが、北と韓米の対立激化により頓挫していた。 (The Russia-China Plan For North Korea: Stability & Connectivity Pepe Escobar)

プーチンが提案した北をめぐる経済協力案は、北が核やミサイルの開発をやめるよう求めている国連決議に従わないと進められない。米国が北を先制攻撃すると脅し、北は脅されるほど突っ張って核ミサイルの開発を誇張して進める現状が続くなら、北は国連決議に従わず、経済協力も実現しない。だが、今回のプーチン案は、従来の米国と中国が主導してきた解決策と、大きく異なっている。それは、今回の案が北朝鮮に対し「米国に脅されても挑発に乗らず無視して、露中や韓国(や日本)と一緒に、鉄道やパイプラインをつないで経済開発しようよ」と「米国無視・米国はずし」を持ちかけていることだ。従来の解決案は米中主導だったので、北は米国を無視できず、米国の挑発に乗らざるを得なかったが、プーチンの案はそれと正反対だ。
 
北の核ミサイル開発の目的は、米国を倒すことでない。米国が北を倒すぞと脅し続けるので、北は自衛手段・抑止力として核ミサイルを開発している。米国は北に、核ミサイルの完全廃棄を求めているが、露中や国連決議は、核ミサイルの開発停止を求めているだけで、すでに作った核ミサイルの保有を黙認する姿勢をとっている。北は、米国の挑発を無視しつつ、核ミサイルの開発を停止すれば、プーチンの提案に乗って経済開発を進め、外貨を獲得できる。 」・・・田中宇

実は韓国文大統領が、これと酷似した経済活性化案を金委員長に提示しているようだ。韓国メディアによると下のようになる。

「韓国・文大統領が金正恩氏に渡した「繁栄の地図」、朝鮮半島に3つの経済ベルト構想―
http://www.recordchina.co.jp/b195851-s0-c10.html

・・・「2018年5月3日、環球網は、南北首脳会談の際に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)氏に手渡したとされるUSBメモリに、3つの経済ベルトを柱とする朝鮮半島の新経済構想が収録されていたと報じた。

記事は、韓国の日刊紙・韓国日報の2日付報道を引用。新経済構想の制定に携わった韓国開城(ケソン)工業パーク支援財団理事長が「金正恩氏に渡された新経済構想には、北朝鮮の電力インフラ拡大、南北の鉄道・道路の接続、北朝鮮西海岸経済ベルトなどのさまざまな具体的な提案が含まれている。構想は西海岸経済ベルト、東海岸経済ベルト、中部経済ベルトのH型を呈している」と語ったことを伝えた。

また、東海岸経済ベルトでは、ロシアの天然ガスが直接韓国へと供給されるほか、北朝鮮の地下資源も開発されると説明。西海岸経済ベルトは南北の産業・物流の中心地帯となり、韓国の西海岸工業パークから開城特区、海州経済特区、南浦などの産業パークを貫くほか、韓国の道路や鉄道が中国やロシアへとつながることで、日本の貨物を欧州に運ぶうえでの利便性も高まるとしている。

記事はさらに、韓国KBSテレビが「南北首脳会談の開催で、韓国各界で南北経済協力に対する期待がますます高まっている。新構想の一部はかつての南北首脳会談で署名された南北共同宣言と重なる部分が多く、今回この宣言の履行をコンセンサスとした『板門店宣言』が発表されたことで、新経済構想が実現する可能性はいつになく高まっている」と報じたことを紹介した。

ハンギョレ新聞は「新経済構想が実現すれば、韓国は島国経済から脱出し、大陸型経済へと転換する出発点にもなる」と評している。(翻訳・編集/川尻)・・・

今回の北朝鮮・韓国の会談、米朝会談、中朝会談。その背後にいるロシア。これだけの構想が背景にある。北東アジア経済圏構想といってもよい構想である。おそらく、ここには、米国の影響力は限定的になるだろうと予想される。

日本の誰かさんのように、何の構想もなく、中国包囲網を作ると叫んで、国富を湯水のようにバラマキ、北朝鮮に対しては何の成算もない、圧力一点張りの主張。ただただ、国内に北朝鮮の脅威を喧伝する政策。どちらが将来の世界に貢献し、どちらが説得力があるかは、一目瞭然だ。

日本のメディアも安倍政権忖度の北朝鮮脅威論を垂れ流すだけのプロパガンダニュースを考え直さないと、日本の21世紀はない。