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0751 奥村宏『資本主義という病』を読む。 名無しの探偵 2018/04/26 20:24:04
@87歳になる奥村氏が2015年に刊行された著書を、読み「目から鱗」的な啓発を受けたので、以下次回も継続してこの著書のエッセンスを紹介したい。

奥村氏はこの本の中で最初に、「自分の経歴と経済学者としての方法論」を語っている。

その前にこの本で、何を主張しようとしているのかを第1章で明らかにする。

それは「格差という病」と題され、副題は「ピケティ『21世紀の資本論』に欠けているものとなっている。

要約すると、ピケティはこの著書で「不平等の拡大に抗議している」が、しかし、「資本主義を否定しているわけではなく、資本主義をきちんと管理」(つまり、富裕層に対して、適切に課税する、タックスヘイブンなどを認めない。注、この部分は探偵が追加)すれば問題ないという。

ピケティの本は「21世紀の資本論」と題されているが、それはマルクスの「資本論」とはかなり異なり、「21世紀の資本論」といえるのか、疑問に思えた、と批判する。

その理由を奥村氏は端的に述べる。マルクスが亡くなってから130年以上も経過している。その間に資本主義は大きく変化した。それは資本主義の担い手として株式会社が巨大化したことである。

もし、マルクスが生きていれば、きっと、株式会社について分析していたとし、その分析によって資本主義を解明していたはずだと言う。

残念ながらピケティには、その視点は何もないとされる。

そして、奥村氏は「金融資本の危機」と題して、ピケティの著作より以前に(2012年に)、ガルブレイスはその著作の中で、「格差拡大の大きな原因になっているのは金融部門にある」、という。

21世紀になってからのアメリカの出来事として、注目されるのが、2012年9月に始まった「ウォール街を占拠せよ」という運動である、とする。

つまり、2007年7月からアメリカでは株価が暴落し、これがやがて<リーマン・ショック>へと繋がってゆく。

 そのきっかけはサブプライム・ローンという住宅金融の破綻からだった。これは低所得層にも住宅が買えるようにと考案されたのが、サブプライム・ローンである。この破綻の構造は最初は住宅の価格は上がっていたので、これを転売して儲ける、また新しくローンを組む。しかし、価格の下落が始まると、ローンを返せないという「悪循環」から破綻に帰結して、大混乱になったというものである。

こうして、「サブプライム危機」と「リーマン・ショック」で株価は大暴落、それはまさに<アメリカ金融資本の危機>である。

そこで、アメリカ政府はどうしたかと言うと、緊急経済安定化法を作り、7,000億ドル(約70兆円)もの公的資金を投入して金融機関を救済することになったという。(日本では「公的資金」というが、アメリカではずばり、「タックス・ベイヤーズ・マネー:国民の税金」という。)

奥村氏はここで、「もし、マルクスが生きていて、『資本論』を書き直したとしたら、彼は株式会社の問題を正面から取り上げた」はずだという。

2、このように奥村氏はマルクスの『資本論』を現在(マルクスの方法論を継承して)自分なりに書き直す作業をこの著書で明らかにされている。

奥村氏がマルクスの「方法論」だけを継承するということは自分のこれまでの研究方法の歴史(自分史)を振り返っているからである。

奥村氏は最初、新聞記者(産経新聞、先輩記者に司馬遼太郎がいた)からスタートするが、途中でこの新聞社今のような体質に変ると産経を退社して、大阪証券経済研究所に勤務することになる。

そこから、奥村氏はできるだけ、上場企業に通って、調査したり、内外の新聞に目を通したという。
その理由は日本の経済学も外国の経済学も机上の理論だけで実際の株式会社を調査したり、分析対象にしていないので、自分独自の方法を取る以外に方法がなかったからだという。

その場合に大いに参考になったのが「ジャーナリスト マルクス」の「方法」だったのである。

実際、マルクスはロンドンに亡命して生活費はどうしていたかというと、アメリカの「ニューヨーク・デイリー・トリビューン」に原稿を送って生計を」たてていたのだった。

こうして、「新聞経済学者」マルクスにあやかり、奥村氏は独自の経済学の方法論を打ちたて、日本の
企業(株式会社)の分析を行い、「法人資本主義」という研究成果を世に問うことになる。

この続きは次回のコラムで記述する。

そのあらすじを書くと、奥村氏は資本主義:巨大株式会社の大きな矛盾はその「有限責任」という原則にあり、これを否定して株式会社の「無責任体制」を改めない限り資本主義に未来はない、つまり現代の人類に暗黒の未来しか訪れないというのである。