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0728 前提を疑うことの必要性 見習い期間 2017/12/03 20:53:42
 先日、自らを「ひきこもり名人」と名乗る勝山実さんのTwitterで、「親DO(ドゥー)!リトミック」なるものが紹介されていた。
https://youtu.be/Xf5QpZC2dz0
このリトミック体操は「親道プログラム」と称する活動の一環のようだが、「子育てにおける四つの躾によって子どもの年収が86万円上がる」という研究結果をもとに作成したそうだ。
 この「親道プログラム」が効果的であることを示すエビデンスとして挙げられている調査研究は、インターネット上にも公開されている。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/14020005.html
この調査では、約16000名の成人を対象として、子ども時代に受けた躾が学歴・年収・倫理観にどのような影響を与えているのかを、選択式アンケート調査結果を分析し考察している。
 この調査において不透明な点が少なくとも三点見受けられる。まず、アンケートで提示される「嘘をつかない」など「子どもの頃に受けた躾」の選択肢は、どのようにして決められたのだろうか。提示されている選択肢に含まれないが躾の範疇に入る振る舞いも存在する。同様に、躾と倫理観の因果関係を調査する際に示された14項目の社会的行為も、これら14項目を選択した理由・経緯が明らかにされていない。
 次に、調査結果の分析に関する問題である。躾と学歴の因果関係の分析結果で、「あいさつをする」「親の言うことをきく」の二項目に関しては、むしろ低学歴者の方が子ども時代に親から言われた人の割合が高く、統計的にも有意な差が出ているのだ。特に「あいさつをする」は、学校や企業などで初めて会った人から信用を得るために真っ先にすることではないだろうか。
 同様に、躾と倫理観の関係を調査する際にも「ライバルが困っていても手を差し伸べようとは思わない」という社会的行動について「勉強をする」という躾を受けた者は肯定的であるという結果も重回帰分析の結果として示されている。躾を受けた者が他者から信用される倫理的な行動を肯定しないこともあるという統計結果も露呈しているではないか。
 最後に、調査方法にも問題がある。政策シンクタンクから発表された調査報告であることを考えると量的な統計調査が望ましいのだろう。しかし、各回答者がその選択肢を選んだプロセスを自由記述式で答えてもらい、質的な分析方法も合わせて躾と収入や人間性との関連性を深く掘り下げることが必要だろう。
 以上の条件下で実施された調査を見る限り、躾を受けることと生涯年収が上昇することの間に明確な因果関係があるとは断言できないのではないだろうか。
 「親道プログラム」を作成し広めようと試みる団体は、憲法の問題についても主に若年有権者を対象として議論を呼びかけているが、その呼びかけ方にも同様の疑問を持たざるを得ない。
 学生・若者向けに憲法を考えてもらうためのイベントを主催し、インターネット上で模擬国民投票を行っているようであるが、その際の論点も憲法改正をすることを前提に「自衛隊の存在明記」という一点に絞っているのだ。どうして「自衛隊の存在明記」だけを模擬国民投票で賛否を問うのだろうか。
 ましてや、憲法を改正することを前提としているような問題提起にも恣意性を感じる。改憲発議されるのか確定はしていない状態で、どうしてこれまでの憲法条文に書かれていないことを追加するかを考える集会や投票を行うのだろうか。現在の状況であれば、最初に問うべきは「憲法を改正するか否か」である。