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0714 「9条問題の本質」を「護憲」の立場で捉え直す 笹井明子 2017/08/28 17:09:20
私が自分を「護憲派」だと意識したのは、2003年に自民党改憲要綱案(「自民党憲法改正草案」の前身)を目にしたのが切っ掛けだった。

そこに「国防軍」が明記され、緊急事態には首相に「国民に対する命令権」を与え、国民には「国家の独立と安全を守る責務」を定めるという文言があるのを見て愕然とし、それまで深く意識していなかった「現行憲法」の「国民主権・平和・人権」の掛け替えの無さと、私達国民が「全力をあげて、この理想と目的を達成する」という前文の重さに、身の引き締まる思いがしたことを思い出す。

あれから十数年、自民党は2012年に決定した「自民党憲法改憲草案」を表立って国民に問うことはしていないが、その根底にある国家観の実現を目指して着々と手を打ってきており、2015年の「集団的自衛権行使」を容認する「安保法」制定はそのひとつの到達点となった。

こうした状況下、自民党改憲案には否定的な識者の中からも、「9条と現実の齟齬を埋め、立憲主義を守る」「9条逸脱に歯止めをかける」あるいは「自衛隊の存在黙認の欺瞞を解消する」などの観点から、「新9条」の提案が起きている。

過日、『「解釈改憲=大人の知恵」という欺瞞』の著者・今井一さん主催で「9条問題の本質とその抜本的な解決を論ずる」というシンポジウムがあり、井上達夫さん、堀茂樹さん、伊勢崎賢治さんという「新9条」提唱者と、「9条護持」の伊藤真さん、関西大学教授で「9条の会・おおさか」事務局長の吉田栄司さんが、熱い議論を展開した。

その中で吉田さんは、『自衛隊は「戦力」に該当し「違憲」』『憲法は「交戦権」を全面否認』『解釈指針としての「前文」がその根拠』『日本が攻撃・侵略されないための外交努力が、安全保障の基盤』『自衛隊は自然災害救助隊、救命・建設を主要目的とする平和「貢献」部隊に改組』など、原理原則的な論点を提示。

加えて伊藤さんは、『前文と9条の平和主義が、「専守防衛」、「海外でも武力行使の禁止」、「他国の武力行使との一体化禁止」、「海外での自衛隊の活動を後方支援、人道復興支援に限定」など、政府解釈に縛りを持たせてきた』と、少なくともこれまでは政府解釈に一定の歯止めの役割を果たしていたと評価した。

シンポジウムでは、これらの主張に対し、他のパネラーや会場の参加者から、「今の国際環境の中で、交戦権を否認して日本の安全が守れるのか」「自衛隊の存在を憲法に明記せずに、イザとなったら自分達を守れというのはご都合主義ではないか」「PKOの国際貢献を否認して‘名誉ある地位’を目指せるのか」「仮に侵略された場合奴隷の平和を選ぶのか」などの疑問、批判が相継いだ。

実は、私たちはこうした議論を十年以上前から行ってきており、食傷気味というのが正直なところだが、「憲法改正を問う国民投票」が現実味を帯びてきている今、「護憲」を自認する私達も、こうした問題を棚上げするのではなく、様々な体験や立場によって認識に温度差がある「護憲」の中身について、本質的な議論を交わし、「護憲派」としてのコンセンサスを築く努力をすることが必要ではないだろうか。

今後そうした建設的議論の場が成立するようであれば、私は、「政治論」や「法理論・法哲学」とは異なった視点の、「あの戦争があって今の憲法がある」という、私たちの先輩である戦時体験者から受け継いだ肌感覚ともいうべき実感を、「9条問題の本質」のひとつとして、提示したいと思っている。