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0698 障害者と人権―相模原事件の根を考える 2017/05/17 23:03:33
何かの事件が起きたとき「精神科に通院歴がある」と書いてあると、それで「自分とは違う」と納得してしまう人は多いのではないだろうか。また、ネットでは「一生閉じ込めておけ」「殺していいよ」といったヘイト発言が溢れる。

一生にかかる精神疾患はどのくらいの率だろう。うつ病は15〜20人に1人、統合失調症は100〜120人に1人(これは胃潰瘍と同じくらいの発症率)。その他、双極性障害(躁うつ病)や拒食症、パニック障害、強迫性障害など、軽重はともかく一生のうちに5人に1人は精神疾患にかかる。

話を事件に戻す。19人の知的障害者を殺した相模原事件の加害者は「精神病院に入院した」とあった。しかし彼の殺人行為を、そのせいにすることはできない。

彼の殺人の根拠となった「障害者は家族を苦しめる存在だから、殺す方が家族のためになる」「殺せば税金が浮く」との発言は、もっと根が深い。

加害者は、「障害者は家族や施設職員を苦しめる。障害者がいない方が、経済的に繁栄し、平和になる」といったことを衆議院議長あての手紙に記した。

私が戦慄したのは、加害者が、政府は自分の行為を正当化してくれるものと思っていたことだ。そこに、この社会の差別・偏見の根を見ることができる。

石原慎太郎氏は、障害者施設を訪れてこう発言した。「ああいう人ってのは人格あるのかね」「ああいう問題って安楽死なんかにつながるんじゃないか」。

また、環境庁長官時代には、水俣病患者の施設を視察後に「これ(患者から渡された抗議文)を書いたのはIQが低い人たちでしょう」「補償金が目当ての“偽”患者もいる」と発言したこともある。

曽野綾子氏は、障害のある子を持つ野田聖子議員に対して「自分の息子が、こんな高額医療を、国民の負担において受けさせてもらっていることに対する、一抹の申し訳なさ、感謝が全くない」と書いた。

フリーアナウンサーの長谷川豊氏は自分のブログに、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」という記事を投稿。

麻生太郎氏も「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで糖尿になって病院に入るやつの医療費は俺たちが払っているんだから、公平じゃない」「こいつが将来病気になったら医療費を払うのかと、無性に腹が立つときがある」と発言している。

こうした発言は、公的な視察途上でなされたり、雑誌に書いたり、記者の居るところで発言したりして、新聞でも取り上げられた。

いずれも強者が弱者を差別する、これらの言葉がナチスの優生思想とぴったり当てはまることを、多くの日本人は問題視しただろうか。

怖いのは発言した本人の「失言」ではなく、「本心」であろうと思われること、またそれを肯定する人が少なからずいる社会であることだ。

それが、相模原事件の加害者に、「政府は、障害者を殺した自分を肯定するだろう」というとんでもない妄念を抱かせたのではないか。

相模原事件の加害者と同じ差別する気持ちを、私たちは心の中にひそかに抱えてはいないだろうか。そしてその心が、ヘイト発言をする政治家や著名人を許容してそのままにさせているのではないだろうか。

最初に精神疾患にかかる率は5人に1人、つまり20%と言ったが、高齢社会では、身体障害者や認知症患者も増加する。いま健康な人も、いつ障害を抱えるかは分からない。むしろ障害者となる率はもっと高い。

病者や障害者の人権をないがしろにする社会は、あらゆる人の人権を粗末に扱うだろう。