呼出完了
0630 現在の政治情況の読み方 流水 2016/03/13 16:47:31
今朝のサンデーモーニングで寺島実郎が「関東大震災が大正デモクラシーを潰した」と言っていた。3.11以降、5年。メディアが垂れ流す、「一体」とか「絆」とか情緒的な言葉だけに反応しているうちに、軍国主義・全体主義にからめとられていった歴史的教訓を踏まえた示唆に富んだ言葉だった。

たしかに、現在の一強多弱の政治情況を見ていると、絶望感に駆られる。しかし、詳細に検討して見ると、そんなに絶望的ではない事に気づく。

わたしたちがまず考えなければならないのは、小選挙区制度では、ほんの少しの投票率の上昇、当日の天候、勝てるかもしれないというほんの少しの「希望」などで選挙結果は劇的に変わる。国民の側の「どうせ何も変わらない」という諦めや絶望感が最大の敵である。

何がしかの希望を抱きたくて、情緒的な言葉にすがりつく。そして、この事を知悉しているのが、権力側(自民党・公明党)。彼らの戦術は、とにかく国民が諦めて寝てくれる情況を如何にして創出するか、につきる。安倍官邸の願いは、「静かな海面に波を立てるな」に尽きる。

ところが、好事魔多し。年初以来の、原油安、円高、株安。GPISの運用損拡大。甘利の口利き疑惑。閣僚や自民党議員のスキャンダル多発。「保育園落ちた。日本死ね」ブログを巡る対応の間違い。高浜原発差止め判決。内閣支持率低下などなど。「天気晴朗なれど波高し」の情況になりつつある。

現在の自民党議員などよりはるかに真面目で懸命に努力を重ねた「なでしこジャパン」でさえ、敗れたのである。権力に酔いしれて、それこそ政治家劣化の象徴のような能天気な自民党連中を簡単に勝たして良いわけがない。

自民党に勝利できるヒントは、「なでしこジャパン」の敗退の過程に隠されている。わたしの見る所、「なでしこジャパン」敗退の要因は、自民党の衰退要因そのものである。

【なでしこジャパン】敗退の要因
@世代交代の失敗 
A経験の積み重ねと金属疲労とは紙一重
B勝ち慣れによる緊張感の弛緩
C戦略・戦術のマンネリ化(※新戦術転換への怖れ)
Dリーダー層(宮間など)の意識過剰による柔軟性の欠如
E相手チームの研究(強者に挑戦する弱者の研究の凄さ)の見誤り

これを詳細に見て見る。

@どこの組織でもそうだが、組織の構成には、老・壮・青のバランスが一番重要。これは国でも同じ。現在の日本の危機は、日本の人口構成のいびつさが最大の要因。なでしこの敗退は、このバランスを欠いた所にある。

Aたしかにベテランの経験は貴重。しかし、誰にでも経験があるが、長く同じ事をやっていると、「あきる」し「疲れる」。本人は同じようにやっているつもりだが、「あきや疲れ」がどこかに表れる。

わたしはなでしこの初戦のオーストラリア戦を見て、オリンピック出場は無理だと判断した。彼女たちのパススピードの無さ、不用意な横パス、バックパス。意図の感じられないパス。これらを許してくれるほど、アジアサッカーのレベルは低くない。これらは、なでしこたちの「金属疲労」だと思う。

Bスポーツの世界では時折、けた違いに凄い選手が現れる。たとえば、スキージャンプの高梨選手、レスリングの吉田選手のような。ところが、そういう選手はそのうち「顔」で勝つ事を覚える。あまりにも強いので相手選手が戦う前から諦めるからである。Aの「あきや疲れ」に加えて、楽に勝てる安易な精神状態に陥りやすい。常勝選手が敗れる時は、こういう精神状態が多いそうである。

C今回のなでしこが典型的だが、彼女たちのサッカーは、ワールドカップの勝利の時と変化がなかった。それでも戦術の精緻さが増していれば勝利出来たのだろうが、上記のような「金属疲労」を起こしているのだから、戦術としても隙が多すぎた。

D宮間選手が一番だろうが、彼女たちは真面目すぎた。だから、自分たちの戦術がうまく機能しない時の「切り替え」が出来なかった。真面目である事と柔軟に変化する事はしばしば相反する。スポーツの試合(特に大きな試合)では、試合の流れに柔軟に対処する事が勝敗を決する。今回のなでしこはそれができなかった。

E初戦のオーストラリアがそうだが、弱いチームは必至で強いチームを研究する。そうしなければ、強者を倒す事は不可能。昨年のラグビー日本代表の勝利は、その研究の賜物。今回のなでしこは、その逆の立場に置かれたのである。

上記のなでしこの敗因を現在の自民党の情況に当てはめて見る。

(1) 一見、老・壮・青のバランスが取れているようでそうではない。政党組織内のバランスというのは、年齢だけではなく、政治思想、政治経験、政治倫理などのバランスが必要。ところが、現在の自民党は、政治思想の多様性がない。政治経験に裏打ちされた政治的老獪さもない。

甘利をはじめ、数々のスキャンダルが示すように、政治倫理は弛緩している。完全に組織内の箍が緩んでいる。

(2) 政権内の規律や緊張感の緩みは、彼らが「権力の蜜」に酔いしれている事を示している。政治学で言う「権力のデーモン」に魅入られた人間は、権力維持そのものが目的になる。権力維持が至上命題なのだから、それ以上の倫理観・道徳観はなくなる。これが国民の常識・倫理観・道徳観と相反し、足元を崩す。現在の自民党はその自壊過程に入った。

(3) 現在の自民党には、カリスマはいない。その代わりに、ゲッペルスのように、陰湿・陰険な権力を行使する官房長官がいる。このような権力行使が行われる組織は「暗い」。この「暗さ」が組織を内部から腐らせる。

現在の自民党は、執行部に対抗しようとする反体制派はいない。それでいて、一枚岩の組織でもない。こういう組織内部には、マグマのような不満が渦巻いている。現在の自民党の「暗さ」は、このマグマの噴出先が見当たらないからである。

(4) 現在、自民党は衆参ダブル選挙を目論んでいる。これは彼らの焦りの象徴。汚職やスキャンダルにまみれ、世界中から孤立しつつある現在の政治情況。アベノミクスの失敗が露わになり、ほとんど打つ手なしに追い込まれた経済情勢。どこをどう取っても、政権末期である。

これを乗り切るためには、このどうしようもなさが国民にばれる前に、選挙に打って出る以外にない。衆参同日かどうか分からないが、衆議院選挙に打って出ると考えてほぼ間違いないだろう。

(5) 政治もスポーツも似たようなものだが、うまくいかない時は、戦術の切り替えをする。その時に一番重要なのは、チームを覆う雰囲気(空気)をどう変えるかである。これを変えれなければ、必ず敗退する。

現在、安倍政権は、その「空気」を変える事に懸命になっている。曰く、「軽減税率」「所得の低い高齢者に3万円支給」「同一労働・同一賃金」「待機児童ゼロ作戦」などなど。

これは民主党の政策ではないのか、というような政策を打ち出している。今更、何をやっているのか、という程度のものだが、彼らの危機感は伝わってくる。

(6) 最後は野党の問題。現在の民主党と維新の合併協議だが、こんなものは、それほどのインパクトも政治的意味もない。問題は連合。今や、連合という組織は、労働者の味方ではない。官公労と民間労組との亀裂はほとんど修復不可能だろう。民主党の優柔不断さは、この象徴。

野党は、1%の味方ではなく、99%の味方である事を明確にしなければ、勝利は難しい。その意味で、共産党の変身には希望が持てる。野党共闘が実現すれば、間違いなく現在の閉塞した政治状況は変えられる。この主役は、市民連合と野党共闘に求められる。

以上見てきたように、現在の自民党は強くない。ただ、注意しなければならないのは、自民党は広告手法を駆使した選挙戦略に特化しており、弱点を強みに変える強かな選挙手法を駆使している点だ。

たとえば、「同一労働、同一賃金」を打ち出すなど。自民党の政策は、「同一労働、同一賃金」に最も遠く、この政策を否定するものなのだが、平気でそれを実現すると強弁する。

この種の詭弁が現在の自民党の特徴。「平和のための集団的自衛権」などと恥ずかしげもなく言い募るだから始末に負えない。

安倍首相ではないが、「無知」だけでなく、「無恥」である。野党はこの自民党の「無恥」を警戒しなければならない。