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0623 転形期から争乱期に入った世界 流水 2016/01/18 20:23:03
イラク戦争前、わたしは、世界は転形期に入ったと書いた。転形期とは、旧来の価値と新しい価値が相克し、併存している時代を意味している。

しかし、ここ数年来、いよいよ旧来の価値観が時代にそぐわなくなり、その役割を終えつつある。歴史上、そういう時には、大きな戦争が起きる。戦争とは、価値観の大激変をもたらすものだから。

では、旧来の価値観(世界の支配的価値観)とは何か。一言でいえば、西欧近代の価値観を指す。資本主義的価値観であり、合理主義的、科学的思考であり、政治体制でいえば、民主主義的価値観に基づく政治体制を指す。

さらにこの民主主義的価値観は、『政教分離』の世俗主義を基盤にしている。宗教は政治に関与せず、その関与は、個人の内面に限定されるというのが、近代的価値観である。

しかし、テロリズムを包含したイスラム過激派の台頭は、この世俗主義的価値観を根底から揺さぶっている。世俗主義の代表格であるフランスのパリで起きたテロは、フランス革命以来の近代的価値観(世俗主義の伝統)に対するあからさまな挑戦である。シャルリエブド紙の風刺の論理は、西欧(フランス)近代精神の発露であるが、イスラム原理主義者から見れば、許しがたいものだろう。

しかし、この原理主義的思考は、何もイスラム原理主義のみを指すのではない。アメリカでも、キリスト教原理主義者は多く存在する。彼らの思考形態は、西欧近代の思考のみでは説明できない。日本でも日本会議を中心とした右派の思考は、きわめて原理主義的と言わざるを得ない。

同時に、第二次大戦後の世界を支配したのは、西欧近代主義の論理を基盤としているが、その内部に覇権国家の色彩を色濃く持っている米国流価値観である。

戦後、世界を支配した国連の常任理事会は、米国流価値観とソ連や中国流価値観の相克の場だった。ソ連邦消滅後は、米国の一極支配が顕著になり、その覇権主義的傾向が一層顕著になった。米国支配に逆らう国々を圧倒的な軍事力と経済力で崩壊させ、多くの人間の血を流した。崩壊させられた国々から見ると、米国はまさにタイラント(暴君)であり、怨念と復讐の対象だった。

戦後米国が支援した国々の政権を見ると、米国の狙いがよく分かる。南ベトナムのゴ・ジンジェム政権(どうしようもない独裁政権)、チリのピノチェト政権など、民主主義とは程遠いどうしようもない独裁政権を支援してきた。

イスラエルなど中東のこの種の独裁政権が生き延びるためには、どうしても米国の力が必要になる。その為には米国の利益を優先する。それが米国の利益につながる。この種の独裁政権と米国との蜜月関係は、戦後の米国支配の伝統的手法だと言ってよい。その意味で、日本の安倍政権は、時代遅れだが、米国流支配の典型だと言ってよい。

ここ数年、米国の支配力の衰えや、中国の台頭など、世界の覇権の帰趨に大きな変化が生まれている。しかし、中国の支配論理も、米国と大きく変わっていない。その覇権主義的傾向は、米国と同じかそれ以上だと言ってよい。

中国の論理は、10億人以上の人間と50以上の異民族を包摂する巨大国家統治の困難さに起因している。この困難さを理解できないと、本当の意味で中国を理解できない。反中国論者の言説は、この困難さを理解できていない人間の言説であり、あまり意味がない。

中国に欧米流民主主義的価値観を無原則に導入した場合、その国家的混乱は想像を絶するものであろう。このカオスから新たな価値観に基づく国家統治が生み出されるまでの時間と労力と費用は、天文学的なものになるのは必至だ。おそらく、現在の中華人民共和国という国家は雲散霧消するに違いない。この影響が近隣諸国に与える影響は甚大で、アジアの混乱は長く続くに違いない。中国で、欧米流民主主義が有効であるという言説を無邪気に信ずる事は難しい。

米中・米ロの争いは、これまでなら、力による覇権主義者の似た者同士の争いであり、当事者同士お互いの思考過程がかなり理解できる。その為、破局にいたる可能性はかなり低いと思われてきた。しかし、これまでのように米国の覇権力が強大な時代なら、破局回避も期待できたが、米国の覇権力が落ちている現在、何が起きるか予想できない。【金持ち喧嘩せず】の諺は、国家にも当てはまる。

さらに問題は、中東のように、米国の覇権力で何とか抑え込んできた諸矛盾が、米国の衰退とともに、表面に噴出し始めている地域である。

先に指摘したように、米国が力で支援してきたイスラエル・サウジ・エジプトの矛盾があからさまに表面に出始めている。さらに大義なきイラク戦争、アラブの春によるリビア・カダフイ政権の打倒など、民主主義の美名の下で行われた政権打倒による中東地域のカオス化、その結果としてのテロリズムの増殖は、もはや欧米の論理で解決の糸口すら見つけられない。

その延長線上で行われたシリアの内戦。それに伴う多量の難民は、EUの屋台骨を揺るがし始めている。さらに、禁輸措置解除に伴うイランの国際社会復帰は、新たな中東での地政学的波乱要因を生み出している。

EUでの極右勢力の台頭は、EUの戦後理念(近代的価値観)に対する挑戦である。さらに言えば、スペイン、ギリシャ、アイルランド、イギリスなどを中心に新たな反資本主義の動きが鮮明になっている。ピケティなどを中心にした『反新自由主義』のうねりは、今年あたりから世界の主流になり始める可能性がある。EUの価値観は、左右両派による挑戦を受けている。

この動きは米国も無縁ではない。たとえば、米国大統領選挙における民主党のサンダース候補の健闘は、新自由主義者であるヒラリー・クリントンを脅かしている。きわもの扱いをされている共和党のトランプ候補も、サンダースとは逆の意味での既成権威に対する挑戦を行っている。

昨年、ローマ法王が、「すでに第3次世界大戦は始まっている」と述べたのも、これら世界の動きに対する危機感の表れであろう。

安倍政権の動きは、これらの世界の潮流と無縁ではない。好むと好まざるとに関わらず、世界は争乱の時代に向かいつつある。

わたしたちは、この危機感を共有して、新たな価値観を強固に構築して、安倍ファッショ政権に対峙しなければならない。