呼出完了
0621 労働法の現在 名無しの探偵 2016/01/07 18:40:46
労働法(特に労働基準法)が自民党長期政権(独裁政権)によって徐々に潜脱(法は残されたが形骸化)されて現在に至る。
最初は新自由主義の開始とされる中曽根民営化路線と言われる改革である。国鉄の民営化で国労がつぶされたことは記憶に新しい。

次に、小泉内閣のときの派遣労働に対する規制撤廃
(規制緩和というのが普通であるが徐々に撤廃されていくのでこう呼ぶことに)であり、非正規社員が徐々に増加していく端緒となった。
現在では非正規社員が全労働者の4割近くなっている。

こうしてそれまでの日本の労働慣行としての@長期雇用(終身雇用)制度A年功制賃金制度B新卒者の大量雇用慣行などが崩壊したと言われる。

しかし、ある労働政策の学者の調査によると、@の終身雇用制度の慣行は確かに一部の企業(大企業の男性基幹社員にのみ)に存在したが、他の中小企業の多くは終身雇用の慣行はなく、また大企業でも女性社員には当てはまらないという(伍賀教授)。

現在小泉構造改革を引き継ぐ安倍政権では、以前にもまして、企業の側に立った労働政策が進行している。
安倍首相は5年ぶりに政権に復帰すると、経済政策(アベノミクス)の3本柱の一つである「産業競争力の強化」をあげ、その基本原理として「世界で一番、企業が活動しやすい国にすること」を目指すとする。
安倍政権の「労働改革」を推進する論者(政府御用の学者)が主張するのが、日本の正社員に対する雇用保護法制が厳格で、企業に正規雇用の採用をためらわせ、非正規雇用に依存する傾向を促進するという。
しかし、OECDの指標を見る限り日本はむしろ雇用保護法制は緩やかな部類に属する。
雇用保護のレベルが高いことは使用者の解雇の自由を規制するものではあっても転職を希望する労働者の移動を妨げるものではない。
しかるに安倍政権はこの雇用保護法制にもメスを入れようとしている。

次に、安倍政権の「正社員改革」と言われる労働改革は人材ビジネスの機能をフルに活用することで正社員の長期雇用慣行を転換し、労働移動(労働力流動化)を促進するというものである。

@労働移動支援助成金の大幅な拡充によって、人材ビジネス業者は正社員を流動化させるごとに利益があがる。
A無限定正社員と限定正社員を二分化する方針は、前者には無限定な働きを、後者には「ジョブ型正社員」と称して、無期雇用であっても企業内で担当する職務が喪失すれば解雇可能な状態におくことで労働移動の促進を図る構想だ。
この限定正社員は限りなく非正規に近い存在である。
B無限定正社員に対しては、長期雇用を保障することと引き換えに働き方の無限定を課すもので、安倍首相が固執するホワイトカラー・エグゼンプション構想はこのことを裏付けする。

また、安倍「労働改革」は小泉構造改革を継承するものであり、その推進を裏付けるものが日本型雇用システムの特殊性論(「メンバーシップ契約論」)である。

安倍改革の推進論者は大企業男子正社員からなる内部労働市場と非正規雇用を中心とする外部労働市場の断絶という特徴は時代遅れであり、グローバル競争に相応しいシステムに転換せよという。
ただし、これは国際労働基準にそって日本の雇用システムを改革しようとするものではない。

ILO(国際労働者機構)が提唱する「ディーセントワーク」に接近するには、雇用を保障したうえで、「職務、勤務地、労働時間」限定の正社員を目指すべきであり、労働者の意思に反した職務や勤務地変更を使用者が自由に行えるという意味での無限定な、企業に対する拘束性の強い働き方は改めるべきである。

以上、安倍政権の労働改革を正社員改革を中心に見てきたが、非正規雇用という働き方の急激な増大により、労働法が形骸化して日本の労働社会が崩壊寸前にあり、その結果「格差社会」が進行した。現在では沖縄などの地方都市や大阪府などの大都市で
格差社会の進行が際立ってきている。沖縄では、3世帯に1世帯が貧困世帯となっている(昨日のニュースによる)。
特に問題が多いのは失業後の生活保障の問題である。なぜなら、日本の失業時生活保障はその適用条件が厳しく(失業前に一年以上の就業が存在したことなど)、非正規雇用に従事していて短期で就業が終了した労働者には雇用保険の適用はない。
したがって、失業時の雇用保障を受けて雇用保険による基本手当を受給している労働者は失業者全体のうち2割程度であると報告されている。
これでは非正規雇用に従事している労働者で次の仕事が見つからない労働者は失業しても生活保障を受けられないのである。
そして、最期の綱(セーフティネット)は生活保護であるが、実際のところ生活保護に頼ることは行政から「落ちこぼれ」の烙印を押されることであり、
失業して雇用保険の適用を受けられない労働者で生活保護に救済を求める人たちはやはり全体の2割程度であると言われる。
日本の生活保護制度は権利ではなく、政府による恩恵的な措置であるという法の運用実態があるからである。実際に、持家があったり自家用車がある人は適用を受けられない。強制的に売却せざるを得ないのである。
失業時生活保障の問題に戻ると、日本の雇用保険システムは適用条件が厳しく諸外国(欧米先進国)と比べて失業者全体の2割しか受給できていないということが先進諸国でも異例の厳しさであると言われる。
なぜ、2割しか受給できないかというと、前述したように非正規雇用の労働者は雇止めにあって失業してもすぐに勤務場所が見つからないからであり、長期で失業していると、雇用保険の適用を受けられないので失業者のうちの2割ほどしか基本手当の受給がないからである。

また、給付を受けられても平均して180日ほどの期間しか受給できいないシステムだからである。
この失業時生活保障の制度を改革しなければ、現在の貧困問題や格差是正は解決できないのである。

以上。