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0616 13日の金曜日:テロリズム再考 流水 2015/11/22 07:49:57
パリで起こった同時多発攻撃(テロ)は、西側社会を震撼させた。西側メディア(日本を含めて)は異口同音に『テロには屈しない』を大合唱し、それ以外の意見は許されないのではないかと思わせる雰囲気である。報道ステーションで、古館伊知郎が、西側の空爆も『テロ』ではないかと発言したことに対する反論もかなりあるようだ。

フランスのオランド大統領は、「これは戦争だ!」と叫び、EU諸国は集団的自衛権を発動した。わたしは、このオランド大統領の発言には強い違和感を覚えた。

「では、フランス空軍のシリア爆撃は、戦争行為ではないのか。シリアのアサド大統領の要請はあったのか。空爆されたISの報復は考えなかったのか。空爆された地域にすむシリア住民の犠牲や恐怖は考えなかったのか。自分の国の国民が犠牲になったら大騒ぎをするが、シリアの国民の命や犠牲はどうなっても良いのか。」

オランド政権は、2013年1月イスラム過激派の掃討作戦でマリを皮切りにチャド、ニジェール、モーリタニアなどに仏軍を派遣した。昨年8月にイラクのクルド人部隊に武器提供。9月には、ISに対する空爆。今年9月に空爆をシリア領内に拡大している。

オランド政権の発想は、欧州にとって重要な北アフリカや中東で『アラブの春』以降、政治的混乱が続いている。これに米国を深くコミットさせるために、フランスも対テロ戦争にコミットする必要がある、という所にある。

論理的にはそうなるが、わたしにはそれだけとは到底思えない。欧州のエリート層の骨がらみの差別意識が彼に強硬な軍事力行使をさせている、と思える。

オランド大統領の演説は、はしなくも、西欧社会のイスラム社会に対する優越感を示したものだと思う。同時に9・11時のブッシュ大統領の愚をもう一度繰り返すのか、と寒々しい気持ちに襲われた。

18年間ロイター通信社の記者で現在近畿大学で教えている金井啓子さんと言う人の興味深い書き込みが紹介されていた。
http://ryuma681.blog47.fc2.com/blog-entry-1664.html
2015.11.17 リュウマの独り言 
・・・ パリでの銃撃・爆発事件を報じるニュースを見ていて、ロイター在職中に「テロという言葉は使うな」と口を酸っぱくして何度も言われたことを思い出しました。もちろん、オランド大統領が「テロ」や「テロリスト」という言葉を使った時には、カギカッコの中に入れて記事中に書きます。 でも、そうではない部分では使いません。今回の事件もロイターの記事では「同時多発攻撃」と記述しています。「テロやテロリストというのは、恐怖・恐怖を与える人という、『主観的』な言葉だから」というのがその理由です。

 パリの人たちにとっては、恐怖を与えた今回の攻撃者たちが「テロリスト」であるのと同様に、シリア等の市民たちにとっては空爆によって恐怖を与える各国の軍隊が「テロリスト」でありうる、というのがロイターの考え方です。 中立であろうとするこうしたロイターの考え方は、時にはかなり変わっていると受け止められることもあるようです。でも、できるだけ多くの立場の人々の考え方を取り入れようとする、このあり方は私の考えに大きな影響を及ぼしましたし、今でも自分の根幹に据えて大切にしています。 ・・・   

日本流の中立の立場とロイターの中立の立場との違いが鮮明に浮かび上がる書き込みだが、現在の日本のメディアに最も欠落している視点だと思う。

・・・そもそもテロリズムという用語は、フランス革命の時、革命派が反革命派1万六千人を殺害した九月虐殺がきっかけで使われた。テロリズムは左翼・右翼集団、革命家、ナショナリズム集団、宗教集団、そして政府(権力)側など多岐にわたる政治的組織が彼らの政治的目的を達成するために実施しているものであり、100を超える多数の定義が存在し、正確な定義は困難。・・・(ウィキペディア)

ロイター通信の立場は、上記のウィキペディアの解説に即しており、きわめて冷静で歴史的・客観的である。

その意味で、古館伊知郎や内藤同志社大学教授の立場は、ロイター通信の立場にきわめて近く、ジャーナリストとして正当なものであろう。

さて、今回のパリでの同時多発攻撃(テロ)には、多くの疑問符が残る。この種の疑問を呈すると、陰謀論者とされるのが通例だが、あえてその危険を冒してみたい。

わたしの疑問は簡単で、推理小説の要領で、誰が一番得をして、誰が一番損をするか、を見るとどうも納得できない。

(1)オランド大統領は、テロ攻撃の犯人をISと断定。謀議はシリアで行われ、主犯者の名前も特定した。⇒治安関係者が、これだけ分かっているのなら、何故「テロ攻撃」をさせたのか。世界第一の米国諜報機関、捜査機関の力量があって、何故、9・11事件が可能だったのか、という疑問と共通する。

20日の新聞には、首謀者とされるアブデルハミド・アバウト容疑者の死亡が伝えられた。彼は、フランス公安当局の厳しい監視下にあるとされた人物だが、シリア、ベルギー、フランスを楽々と行き来していた事になる。わたしには、フランス公安当局の力量が、そんなにお粗末だとは到底信じられない。

考え得る合理的解釈は、当局が全てを承知の上で泳がせていたのではないか、と言う事である。

(2)何故、ISの「テロ攻撃」がG20の前に行われたのか。この絶妙のタイミングは、とても偶然とは思えない。たしかに、G20の首脳に恐怖を与える、という解釈も成り立つが、かえって団結を高め、強硬姿勢に転じさせる可能性が高い。

(3)ISはこのテロ攻撃により、どれだけのメリットを得るのか。⇒●当然ながら、ISに対する空爆は激しくなる。●G20前に事を起こせば、各国がIS討伐に協力せざるを得なくなる。●ISに対する国際世論の風当たりは激しくなる。(※覚悟の上とはいえ、風当たりが弱い方が活動をしやすい)●欧州各国の取り締まりは厳しくなり、今後のテロ活動は難しくなる、等々。どう考えてもメリットは少ない。

フランスや各国の国内世論がテロを恐れて空爆反対に傾くというのが最大のメリットだろうが、こういう思考は通常、為政者は取らない。何故なら、このような弱気の思考は、為政者にとって命取りになる可能性が高い。(卑怯者、臆病者とそしられる。)この程度の読みも出来ないのなら、ISの指導者もたいしたことはない。

(4)では誰がメリットを得るのか。⇒○フランス既得権益政党とその指導者→次期大統領選挙で最有力に躍り出ていた国民戦線ルペン党首の勢いが削がれる。→彼らの売りである『強硬策』をオランドは奪い取った。○米国の既得権益政党(民主・共和とも)の対抗馬だったトランプ氏やサンダース氏の勢いを奪った。→現実政治の文脈が強くなる。○ロシア→欧州特にフランスと和解が結びやすくなる。現に、プーチン大統領とオランド大統領と電話会談が行われ、結束してIS攻撃に当たる事が確認されている。

(5)EU諸国→難民に対する対応が強硬策に傾く。→国境封鎖がやりやすくなる。(テロリストを排除する理由)→実は、EU諸国にとって、国境封鎖をする事は、国際世論に抗う事になり、現実にはできない状態になっていた。これが大手を振って出来る、という意味で大きなメリットがある。

EUではないが、米国では難民受け入れを拒否する法律が共和党主導で下院で成立した。オバマ大統領は拒否するようだが、こういうせめぎ合いが起きる可能性が高い。

(6)シリア問題の解決に一歩前進できる。→アサド大統領延命を前提に和平会議が開かれる可能性が高い。(ロシア主導)→米国は反対の立場だが、今回のテロを受け、ロシアとの妥協が図りやすくなった。→ロシア・米国ともに乗りやすい。

このように考えてくると、ISにはメリットはほとんどなく、仏当局、米国、EU、ロシアにはかなりのメリットがある。だから、専門家と称する人間の多くが、恐怖心を与えたり、過激派同士の争い、IS内部の功名争いから、このようなテロ行為に走った、という解説をする。そうしなければ、合理的解釈が出来ない。

9・11事件の前と後では、世界の光景が変わった。米国の傲慢で強引で非民主的・暴力的行為がより酷くなった。明らかに米国の振る舞いは、タイラント(独裁者)そのものだった。9・11事件の後、アフガン侵略、イラク侵略までの速さは、この計画がかなり以前から練られていた事を証明している。

つまり、このような戦争を待ち望んでいた勢力が確実に存在していた、という事である。

しかし、テロの脅威は、明らかにイラク戦争以降急増している。米国務省発表の「国別テロリズム報告書』によれば、9・11以降、13年間でテロによる死者は80倍を超えている。イギリスのブレア元首相もISの台頭はイラク戦争の結果だと認めざるを得なかった。

その意味で世界中に蔓延しているテロリズムの猛威は、米国・英国に最大の責任がある。当時の言葉でいえば、『非対称戦争』という名目でテロリズムとの戦いを標榜してイラク戦争に突入した結果がテロの死者80倍というわけだ。『テロに屈しない』と言う言葉の虚しさを噛み締めなければならない。イラク7戦争の歴史的意味を精査しなければ、明確なテロリズムとの対峙方法など見つかるはずがない。

その発想の延長線上で、9・11事件の真相を追及しているジャーナリストもいるようだが、国家的犯罪とも思える事件の真実を暴くのはなかなか難しいだろう。

今回の「13日の金曜日の惨劇」にも同様な匂いがする。おそらく、テログループの構成員一人一人は真剣にジハードを考えていたに違いない。

彼らホームグローンテロリストの若者たちの心を占めていたであろう、『差別と貧困』による『希望の無い人生』に対するやり場のない悲しみや怒りを掬い上げる社会的システムがない限り、過激なテロ行為に走る土壌はなくならない。

そのような彼らの心理を巧みにつかみ、彼らをテロに掻き立て実行させた政治目的に利用した組織や影の人物がいただろうと想像する。それは、主犯と目されて死亡した人物とは全く違うだろう。その人物は、ISの組織の重要人物かも知れないし、モサドや欧米の諜報機関の人物かも知れない。

まあ、この程度の陰謀は、諜報機関や治安機関の人間にとって朝飯前だろう。モサドを中心に、中東で行われてきた過去の数々の謀略は、その事を証明している。そして、その真相は永遠に闇の中というわけである。

わたしたちはその深層を知るすべもないが、この種の大事件の裏には、多かれ少なかれ、様々な政治的思惑が絡んでいる事をよく認識していなければならない。