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0588 政治言語の耐えられない軽さ! 流水 2015/05/25 09:52:08
昔、「存在の耐えられない軽さ」という映画がありました。1966年の「プラハの春」に題材をとった米国映画。筋書きは、以下に詳しい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%98%E5%9C%A8%E3%81%AE%E8%80%90%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%84%E8%BB%BD%E3%81%95_(%E6%98%A0%E7%94%BB)
(ウイキペデイア)

主人公の軽薄なプレイボーイ、トマシュと彼に翻弄され、政治情勢に翻弄される女性二人の物語です。そのうちの一人テレサが、トマシュに残した別れの手紙「私にとって人生は重いものなのに、あなたにとっては軽い。私はその軽さに耐えられない。」という台詞が、いまだに記憶に残っています。

安倍首相やその取り巻き連中・橋下市長やそれをよいしょする連中の言葉、これは軽薄なプレイボーイ、トマシュの言葉と同じです。いつのまにこんなに政治の言葉が、軽くなったのでしょう。

それでも、プレイボーイの言葉は、まだ一人の女性の存在に配慮しています。ところが、安倍首相たちの言葉は、国民の存在に何も配慮していないばかりか、意図的に『騙す』事を目的としているのです。戦後の歴史で、これほど意図的に国民騙しを行っている政権はありません。

アベノミクスが典型ですが、要はじゃぶじゃぶの金融緩和(QE)で国がみせかけの株高(景気)を演出している砂上の楼閣です。多くの経済学者が指摘しているように、このようなバブルはいつかはじけます。政治の言葉とは裏腹に、いつ崩壊してもおかしくない薄氷を踏むような経済政策です。

政策説明での安倍首相の言葉は詭弁の典型です。たとえば、岡田民主党党首との党首討論で何度も繰り返された「海外派兵が一般に許されないという従来からの原則も変わりません」という言葉を考えて見ましょう。

まず、現在の日本国憲法では、軍隊の存在を認めていません。海外派兵というのは、軍を海外に送る事です。そもそも、現在の日本国憲法下ではありうるはずがないのです。

PKOなどで自衛隊が海外に送られるケースは、【海外派遣】という用語が用いられました。安倍首相は、それを分かっていて、慎重に【海外派遣】という言葉を避け、【海外派兵は許されない】といっているのです。そして、【海外派兵】ではなく【海外派遣】だという名目で自衛隊を送りだそうと言う狙いなのです。

さらに言えば、特段の理由もなく海外派兵した国など歴史上一つもないのです。すべての海外派兵は「自国の存亡にとって死活的に重要である」という大義名分から行われてきました。首相の言う「一般に許されない」というのは「特段の理由があれば許される」ということを意味します。これは過去様々な国が海外派兵をする時に使った常套手段なのです。

安倍首相が今回の安全保障法案を提出した時の演説からもう一つ。
・・「日本が武力を行使するのは日本国民を守るため、これは日本と米国の共通認識です。もし、日本が危険にさらされたときには、日米同盟は完全に機能する。そのことを世界に発信することによって、抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていくと考える」・・

「抑止力はさらに高まる」と熱弁をふるっていますが、そもそも戦後日本はどこからか攻められたでしょうか。その時米軍が助けてくれた経験があるのなら、【さらに高まる】という言葉も意味を持ちます。しかし、戦後日本はそのような経験を一度もしていません。つまり、「さらに」という言葉が何を基準としているのか、全く分かりません。つまり、この言葉は、何の根拠もないのです。

この演説からもう一つ。
・・・「まるで、自衛隊で殉職している方がいないかのような認識を持っている方がいらっしゃるかもしれないが、自衛隊発足以来、今までも1800人の方が殉職されている」・・・

この言葉。反対論者の言う【自衛隊は、戦後一人の戦死者も出さなかった。この法制が決まったら、自衛隊の戦死者が出るのは確実】という反対論が念頭にあったのでしょう。

しかし、よく考えれば分かるように、警察でも海上保安庁でもどんな組織でも毎年一定程度の殉職者は出ます。自衛隊の年間殉職者数はここ数年ほぼ一桁台です。ほとんどが災害派遣と訓練中の事故です。22万人の隊員で一桁というのは、組織としては、立派な管理だと言えます。

反対論者の主張は、【戦死者が出る】というところに力点があるのですが、安倍首相は災害派遣や訓練中の事故と同列にして、【戦死】という言葉のインパクトを薄めようとしているのです。この発想は、自衛隊員のリスクを一切語らない、という姿勢と通底しています。

政治家、まして一国の総理の言葉が、この種の誤魔化しや詭弁に満ち満ちていて、その国民は幸せでしょうか。何度も言いますが、国や国民の道義や倫理も退廃します。

政治家やメディアなどの政治言語のあまりの軽さこそが、現在の日本の危機を象徴していると思います。