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0587 「マッカーサーの日本国憲法」 パンドラ 2015/05/19 16:40:10
私達のグループの定例会「サロンド・朔」の4月例会のテーマ「皆で考える日本国憲法」で、この「マッカーサーの日本国憲法」という本についての話が出た。

これは、キョウコ・イノウエ著 /古関彰一監訳/五十嵐雅子訳による研究本である。

私は日本国憲法成立時のいきさつに、小さな疑問があった。その一つが当時のアメリカ、GHQは何故アメリカ本国にもなかった「国民皆健康保険制度」をこの極東の小さな敗戦国に作り上げたのか?という事だった。

女性の投票権も、社会福祉制度も今は当たり前の事であるが、当時としてはあり得ない程斬新で、それまでの「常識」を覆す制度だったのだろう。

この著書の中で「彼らの主目的は日本を二度と再び戦争する事のない責任ある民主主義国家に一変させる事であった(後略)」という一文に出会った。

当時のアメリカ政府、GHQにとって、日本を上記のような国に一変させる事がアメリカの国際社会での立場と国益に適ったものだったのだろう。

そして「国民皆健康保険制度」に象徴されるような国民への福祉が、「この日本国憲法草案創りに関わった日本人に対する最高の報酬だ」と当時の連合国民政局長ホイットニー将軍は述べている。

著者は日本国憲法の細かい言い回しや条文を日本語と英語に分け、比較、分析している。英語が分からない私は著者の訳した文章や解説で知るしかないが、英語が分かる人が読んだらまた、違った意味で興味を引かれた事だろう。

著者は、天皇制、宗教、家庭についてのアメリカ社会と日本社会の理解の相違と文化の違い、主権在民、基本的人権などをアメリカの憲法と比較しながら、この憲法は日本とアメリカとの「誤解」の上に成り立った憲法だと述べている。

もし「誤解」の部分があったにしても、当時の日本国民にとっては「幸運な誤解」であったのだろうと私は思う。

この本は「誤解の上に成り立ち、押しつけられた憲法だったら正さなければいけない」という人達を勇気づけるかもしれないが、視点を変えて「誰が押しつけられたのか?」を考えてみよう。

答えは、戦争へと突き進み多大な犠牲者を出した上にまだ戦前の「大日本帝国」という国体に固執していた当時の指導者達に対して「押しつけた憲法」ではなかったか。

では、誰が押しつけたのか?当時の連合国司令部と、この憲法を創り、受け入れた国民である。

東京新聞5月17日の朝刊「読む人」という欄では、この本の監訳者、古関彰一氏自身が「平和憲法の深層」という著書の中で、GHQの憲法草案が鈴木安蔵たちの「新憲法草案」を参考に創られたものだったと述べている。

ここで注目したいのは、アメリカが創ろうとしていた「民主主義国家と自立した個人」という原理である。

主権在民も、基本的人権も、生存権も国民が不断の努力を積み重ねなければ無に帰してしまう。

今の日本国憲法は正に立憲主義に基づいた、国民が権力者を縛るという意味においても優れた憲法だと私は思っている。

昨今の安倍政権の法案の通し方等を見ていると、ヒタヒタと戦争への道を突き進んでいるように私には思える。

一度戦争への道を歩み始めたら、破壊と殺戮の世界が待っているだけで、「マッカーサーの日本国憲法」のような、「国民と憲法との幸福な出会い」は二度と訪れる事はないだろう。

近い将来実施と取りざたされている「憲法改定国民投票」では、日本という国と国民が試される重大な岐路に立つことになる。

その時の為にも私は「日本国憲法」について皆で考え議論したいと思っている。