呼出完了
0498 「特定秘密保護法案」に見る「自民党が取り戻したい」国家像 笹井明子 2013/10/30 15:26:40
10月25日に閣議決定・国会提出された「特定秘密保護法案」に対しては、「特定秘密」の範囲の広さや不明瞭さ、処罰範囲の広さや刑の重さ、結果としての「報道の自由」「国民の知る権利」の侵害、あるいは公務員の適正評価制度による「プライバシー権」の侵害、等々、ここにきて多くの懸念や問題点が、新聞やインターネット上で連日取り上げられている。

しかし、法案の内容が明らかになるにつれて、詳細な問題点を具体的に云々するまでもなく、この法案に固執する安倍首相と自民党政権の持つ危険な本質が、いよいよ明白になってきた。

10月30日の東京新聞に、谷垣禎一現法相が中曽根政権時代にスパイ防止法案に反対し「中央公論」に発表した論文が紹介されているが、そこで谷垣氏は、「自由と民主主義に基づく国家体制を前提とする限り、国民が防衛情報を含む国政の情報にアクセルすることは自由であるのが原則」(「中央公論」1987)と言っている。

「秘密保護法案」は国による情報の独占を目指すものであり、政府・自民党が今国会での成立を目指すということは、かつて自民党議員自身が語った見識を否定しているということであり、それは同時に「自由と民主主義に基づく国家体制」という前提そのものを自ら否定していることになる。

一方、10月28日の朝日新聞は、「奥平康弘氏ら憲法学者たちは『基本的人権の保障、国民主権、平和主義という憲法の基本原理を踏みにじる危険性が高い』として、制定に反対する声明を発表した」と報じている。
http://www.asahi.com/articles/TKY201310280264.html

周知の通り、「日本国憲法」は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定め、国家がその権利を侵害することのないように、憲法でその手を縛る「立憲主義」を柱としている。天皇、国務大臣、国会議員、裁判官、等の公務員には憲法遵守義務が課されており、法律や命令は「国の最高法規」である憲法によってその有効性が問われることとなる。

現在は、政府が「基本的人権、国民主権、平和主義」を侵害しようとするならば、私たちは憲法を論拠に反対を表明したり「違憲訴訟」を起すなど、政府の暴走を押し止める手段を、曲がりなりにも持っている。

しかし、自民党が目論む「改憲案」では、基本的人権を「国益」「国の秩序」に従属するものとし、「国家」を国民の上位に定めた憲法の擁護義務を「国民」に課そうとしている。

「秘密保護法案」は、「日本版NSC」「集団的自衛権の見直し」と共に、「改憲」の先取りともいわれている。

「自由で民主的な国家体制」の前提をかなぐり捨てた現政権が目論む、「基本的人権、国民主権、平和主義」を脅かす法案成立を、私たちがなし崩しに許してしまったら、その先に「国家主義的」な「憲法」が待っているとしたら、私たちを最終的に待ち受けるのは、「国民が物を言う手段を奪われた戦前」を「取り戻した」荒涼たる日本の姿なのではなかろうか。