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0477 安倍・橋下発言のアナクロニズムと日本の右傾化 流水 2013/06/11 09:51:31
「慰安婦制度は当時の時代状況を考えれば、当然」という橋下発言の人権意識の無さ、差別意識もろだしの感性は、多くの国民の顰蹙を買った。当然である。

同時に忘れてならないのは、彼の国際感覚の無さである。国際的にいえば、【現代では、管理売春は、国際基準から言えば、性奴隷】であり、【国境を越えたコミュニケーションでは理念型の発信しか通用しない】(冷泉彰彦)
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/title3_1.html
という原則を全く理解していないという事を意味している。

わたしは、米国の売春事情は、全く知らないが、冷泉氏によれば、以下のようである。

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(1)アメリカなど欧米諸国はキリスト教国だから性的なタブーの強い「偽善的な国」だという主張があります。もしかしたら問題の奥の背景にはそうした宗教やカルチャーもあるのかもしれません。ですが、アメリカがいい例ですが、買春行為に対して社会が厳しい目で見ているのは宗教や文化のためではないと思います。核家族のイデオロギーが確立する中で、買春行為というのは、妻と子への裏切りであり、社会の最小単位である核家族を破壊し、自分以外の家族のメンバーの幸福を奪う行為だからです。

(2)同時に買春行為というのは、売春をする側の女性の尊厳を金銭を背景とした暴力で踏みにじる行為だとも言えます。勿論、価値観の多様化の中で自身の意志でそうしたビジネスに関与する女性も存在するわけで、そうした人々への不必要な蔑視はなくなっていますし、こうした問題に厳しいアメリカでも州や都市によっては規制の緩い場所もあります。ですが、本人の意志に反して行われた場合は、社会的には厳しい指弾を受けるのが通常です。

(3)この点に関しては、日本のいわゆる「風俗産業」に関しては、芸能活動や通常の接客業と偽って採用した女性に、借金を背負わせたりする中で売春行為を事実上強制するということが根絶できていないようです。このうち、対象が外国人の女性となるケースに関しては、例えば米国の国務省が「事実上の人身売買行為」として監視対象に入れています。
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/title3_1.html

米国の国務省が、日本の風俗産業を「事実上の人身売買行為」として監視対象に入れているというのは、初めて知ったが、これが【国境を越えたコミュニケーションは、理念型の発信しか通用しない】と言う事なのだろう。

橋下氏は、この事を全く理解していない。彼が、いくら詭弁を弄しようが、【現代では、管理売春は、国際基準から言えば、性奴隷】という原理原則から外れている事は明らか。弁明すればするほど泥沼に落ち込む。

冷泉氏によれば、安倍首相の「侵略の定義は定まっていない」とか「村山談話をそのままには継承しない」などという発言も、米国では橋下発言と同根のものである、と受け取られているそうである。

冷泉氏によれば、以下のようになる。

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この問題の報道ですが、アメリカに関して言えば、橋下市長の個人的な問題という文脈で語られるだけだはありません。むしろ「安倍政権には超国家主義者(ウルトラナショナリスト)的な懸念がある」ということがあり、その延長で「アジア諸国との関係が悪化している」という問題と絡めて解説されることが主です。その場合には、この「橋下発言」と「高市早苗自民党政調会長の村山談話否定コメント」が同列視された上で、日本の保守派の「ホンネ」だとされ、全体としては安倍政権への疑念という形に集約されています。

ところでこの「超国家主義者(ウルトラナショナリスト)」という表現ですが、安倍首相は「誤解であり、説明して誤解を解きたい」と言明しているようですが、この認識自体に誤解があります。

国際社会での定義ということで言えば、「超国家主義者」というのは「自国中心主義が過度になり、周辺諸国との摩擦を煽っている」ような人物だけではありません。第二次大戦を引き起こした「ナチス・ドイツ」がまずあり、その信奉者である現在の「ネオナチ」だけでなく、戦前の日独伊三国同盟と、この同盟を背景に行われた戦争の正当化をする人間はやはり「超国家主義者」になるのです。
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/title3_1.html

冷泉氏の指摘は、重要である。特に「戦前の日独伊三国同盟と、この同盟を背景に行われた戦争の正当化をする人間はやはり「超国家主義者」になるのです。」という指摘は、現在の日本の政治状況・言論状況を考えれば、胸が痛むのは私だけではないだろう。

自由とは、横軸に【抵抗の自由】と【遵法の自由】を置き、縦軸に【獲得の自由】と【無為の自由】を置く。自由とは、そのグラフ上の範囲にある。ところが、【自由】というのは、しばしば行きすぎる。

生徒たちを見ていれば一目瞭然だが、【抵抗の自由】を掲げてあれ回る生徒は、しばしば【遵法】それ自体を否定し始める。【獲得の自由】を標榜する人間は、しばしば【無為の自由】それ自体を否定し去る。否定する論理は一理あっても、全体とすれば、きわめて危険な側面がある。

これを是々非々で統御するためには、「縦軸と横軸の交わった点」に身を置く必要がある。それがジャーナリストであり、教師である、というのが、わたしの理論だった。

長谷川如是閑はその典型だった、と思う。「自由」を制限する規範は、「利己主義」と「利他主義」の狭間にある、と考えていた。つまり、【自由】を主張するなら、周囲の人間の気持ちを忖度できる【想像力】が不可欠であり、【想像力】のない【自由の主張】はきわめて危険であると考えていた。安倍首相や橋下市長の主張が駄目なのは、この【想像力】の決定的な欠落にある。

だが、グラフそれ自体が、【遵法】と【無為】=(右)の方向に移動すると、原点も右に移動する。橋下氏や安倍首相の言説を信奉する連中からすれば、【獲得の自由】とか【抵抗の自由】を標榜する連中は、全て左翼という範疇にはいる。日本のメデイアから、民主主義的体質の評論家、ジャーナリストが排除されているのも、こういう背景がある。

冷泉氏が指摘する「戦前の日独伊三国同盟と、この同盟を背景に行われた戦争の正当化をする人間はやはり「超国家主義者」になるのです。」という国際的常識を理解できない指導者を持った日本の国際的孤児ぶりが、安倍政権になって際立ってきている。

北朝鮮問題でも日本はずしが顕著になり尖閣・竹島でも明らかに日本は孤立し始めている。機を見るに敏なプーチン大統領が日本からの援助を引き出すために日ロ首脳会談をしかけていたが、ここでも日本の歴史認識がとげになる可能性がある。原発輸出問題でも、「フクシマ事故」を克服できないで原発を輸出するという倫理的、道徳的退廃がいずれ世界の良識から指弾されるに違いない。

【アベノミクス】などともてはやされているが、同志社大学浜教授は「アホノミスク」とばっさり切り捨てている。彼女によれば、
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1番の悲劇は「デフレ下のバブル経済化」です。

メディアでは「この金融緩和をきっかけに、設備投資や消費拡大が起これば、日本経済は本当の意味で、復活する」といった報道がなされていますが、これは間違いです。

安倍政権と日銀の「チーム・アベ」が目標とするのは、バブルによるデフレ退治です。つまり、彼らは企業が設備投資を拡大したり、私たち庶民の消費が拡大したりすることを、そもそも狙っていないのではないかとさえ思えてしまいます。

この金融緩和の結果、株や不動産などの資産、すなわち「カネの世界」だけがバブルに沸き、私たち庶民の毎日の生活に関係する「モノの世界」ではデフレが続くという、本来ならば起こりえないはずのことが、日本経済で起こってしまうのです。

もうおわかりでしょう。

結局のところ、この政策で恩恵を受ける個人は、差し当たり株や不動産を持っている人つまり、ごくごく一部の富裕層だけということになります。

しかも、さらに怖いのは、富裕層ではない人々も、今の調子であおられれば、投機性の強い株や不動産に手を出してしまうかもしれないということです。超低金利の中で、おとなしい投資をしていたのでは収益が上がらない。将来に備えて、この際、アベノミクス相場に乗ってみようか。そのような発想で、いわば「生活防衛型投機」へと普通の市民たち、生活に不安を抱える市民たちが誘導されてしまうのが恐ろしい。そのような流れが形成されたところで、アベ・バブルが崩壊した時が悲惨です。
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先週の株価の大暴落、翌日の激しい乱高下。彼女の予測が現実のものになりつつある。それに加えて、円安による物価の上昇・TPP参加・消費税の増税・国債の長期金利の上昇等々。かてて加えて憲法改悪。これをそのまま許すと、国民生活が大苦境に陥るのも時間の問題といえる。

ファッシズムとは、こういう国民生活の苦境を背景に形成される。新大久保で展開されている「反韓国・反朝鮮」デモの過激な言説は、その一つの表れであろう。これまた、国連から「ヘイトスピーチ」として指弾された。

戦前もそうだったが、国際社会の常識から逸脱した政治家・政党・指導者を持つと、国民がそれと気付かない間に世界から孤立し始める。日本は今そうなりつつある。

これを止める事ができるのは、これまた【国民】だけである。一人一人が政治に絶望しないで、自らの一票の重みに想いを致さなければならない。