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0470 遥かなる海峡 流水 2013/04/14 07:46:08
以前わたしは「海峡的思考」という問題提起をした。五木寛之など戦後中国・朝鮮・満州などからの引き揚げ経験を持つ知識人の複雑で繊細なものの見方を総称して【海峡的思考】と呼んだ。

彼らの思考の背後に想像を絶する凄まじい現実が存在したか。彼らは、国家の裏切りも、人間の裏切りも、【引揚者】として本土や本土の人間たちの差別意識もその全身に浴びている。

彼らにとっては、対馬海峡は単なる地形上の隔たりではない。移民として植民地に赴いた時から、祖国から棄てられ、忘れされたのである。この隔たりは、彼らにとって想像を絶するほど広かった、と思う。

五木寛之の陰影の濃い思考の複雑さ、繊細さ、自分の人生を【仮の宿り】と思い定めているような生き方。この根底には、彼の引き揚げ体験、引揚者として生き続ける息苦しさ、どうしても日本の社会や人々に感じざるを得ない違和感がある。

五木のデラシネ感覚も漂流感覚もすべて彼が引揚者として【対馬海峡】を渡る途中で経験した彼我を隔てる暗い裂け目に由来している。

対中・対韓・対朝関係を考える時、日本や日本人は、五木に代表される引揚者たちの抱いた対馬海峡に隔てられた彼我の【暗い裂け目】に思いを致さなければならない。

単純な加害者意識では、満蒙開拓団に代表される移民=【棄民】たちの必死な生きる努力も満鉄に代表される「五族協和」=【理想】を信じた懐の深い知識人たちの必死の努力も正確な評価ができない。

単純な被害者意識では、日本の植民地政策や日中戦争下で苦しんだ朝鮮民衆や中国民衆の怨嗟の想いを理解できない。

現在の北朝鮮の瀬戸際外交の淵源を辿れば、結局、戦前の日本支配、戦後の冷戦構造の残滓に他ならない。特に、冷戦期の米国の北朝鮮政策のつけが、非常に大きい。

今回の北朝鮮危機も韓国の朴新政権が北と友好関係を結びそうなのを事前に壊そうとする米国軍産複合体の思惑と北との緊張関係をつくりだし、中国包囲網の一環としようとする米国の思惑が大きな要因だと考えられる。

ただ、中国包囲網を狭めようとする米国の思惑が強ければ強いほど中国はロシアに傾斜する。それが証拠に中国の習近平の最初の訪問国がロシアだった。これも今回の北朝鮮危機と時機を同じくしている。

田中宇は、「中露は、結束して北朝鮮やイラン、シリアの問題を解決する方針を決めている。習近平訪露の直後には、南アフリカでBRICSサミットも開かれ、米国がやり散らかして混乱している国際問題をBRICS主導で解決していくことが提案されている。」(田中宇:北朝鮮を扇動する米国)と指摘している。

つまり、北朝鮮危機の背後には、超大国のヘゲモニー争いがあるという事になる。

その文脈で安倍政権の政策を見れば、米国軍産複合体の意図とぴったり合わさっている事は一目瞭然である。政治・メディア挙げて危機感をあおり、尖閣問題・沖縄基地問題・自衛隊装備強化・最終的には憲法改正(9条改正)を一気に行おうとする意図が透けて見える。

これが、小沢問題を契機にして民主党政権を瓦解させ、自民党政権を復活させた【政官業外メディア】の既得権益勢力の狙いに他ならない。アベノミクスなどと浮かれていれば、今に地獄を見る。

日本や日本人は、対馬海峡を渡り、対馬海峡を戻った過去の日本人たちの悲惨な運命や辛酸を見つめなおさなければならない。

国家の暴走の犠牲者は、常に国民である。国家や政治を馬鹿にしていれば、必ず馬鹿にしたはずの国家や政治から復讐される。イラク民衆の悲惨、アフガニスタン民衆の悲惨、いずれも米国の戦争であり、米国流正義の名の下に行われた。これは対岸の火事ではない。

私たちは、もう一度戦前の歴史と戦後の歴史を噛み締めなければならない。