呼出完了
0467 夜郎自大はやめよう 鈴木建三 2013/04/01 18:23:30
夜郎自大は止めよう

 先日変な機会があって、ごく小さな会合で、二・二六を中心に昭和史の話をする機会があり、ちょっとむきになってその辺のことを調べすぎた結果、話にまとまりがつかなくなって惨めな失敗に終わったが、それが口惜しくてその後もその辺のことを読みまくっているが、あの昭和の狂気の二十年、軍人たちや一部のインテリの奇妙な超論理的な発想の始まった理由はいまだに断定的な結論はない。
 しかし、この狂気の時期をほぼ完全に生きる外なかった八十四歳の私は、もう絶対にこういった愚かな時代の再現を拒否することに敗戦とともに硬く決意したのであり、現憲法が決まった時、この九条はよその国に攻撃された時は無抵抗に降参することを決めたのであり、それは太平洋上の小島列島の日本の当然のことであり、当時、アメリカの占領下にあった(実は現在も同程度の支配下にある)日本の賢明な選択だと考えたのである。そういった点から考えると、すでに明治の末年に夏目漱石が『それから』の中でつぎのようにいっているのは、じつに見事な予言である。

  「何故働かないって、そりゃ僕が悪いんじゃ ない。つまり世の中が悪いのだ。もっと、大袈 裟に云ふと、日本対西洋の関係が駄目だから働 かないのだ。第一、日本程借金を拵へて、貧乏 震ひををしている国はありゃしない。此の借金 が君、何時になったら返せると思ふか。そりゃ 外債位は返せるだろう。けれども、それ許りが 借金じゃありゃしない。日本は西洋から借金で もしなければ、到底立ち行かない国だ。それで いて、一等国を持って任じている。さうして無 理にも一等国の仲間入りをしやうとする。だか ら、あらゆる方面に向かって奥行きを削って一 等国丈の間口を張っちまった。なまじい張れる から、なお悲惨なものだ。牛と競争をする蛙と 同じ事で、もう君、腹が裂けるよ。其影響はみ んな我々個人の上に反射しているから見給へ。 斯う西洋の圧迫を受けている国民は、頭に余裕 がないから、碌な仕事は出来ない。悉く切り詰 めた教育で、さうして目の廻るほどこき使われ るから揃って神経衰弱になっちまふ・・・・・ 自分の事と自分の今日の、只今のことよりほか に何も考えてやしない考えられない程疲労して いるんだから仕方がない。  
 
 そして戦後、この悲惨な経験によって日本人が少し利口になったかを考えてみると、日本の奇跡的な経済復興も実は朝鮮戦争という外発的な事情によるものであり、それによって戦後生まれの、今六十歳後半までの連中は全員、戦前よりはるかに裕福な生活を享受した結果、此の教訓は随分うすれてしまったように思われる。
 しかしよく考えてみると、日本はほとんど資源のない太平洋上の小島列島であり、貿易以外に豊かな生活ができない事はまったく変わっていない。
 ここで再び昭和期を考え直してみるとそれは短期的な視点で外国の情勢にすぐ感情的に反応して、しかも夜郎自大だった頭の悪い軍人の支配がその失政の大きな理由だった。
 それゆえに、今の若い人たちがどう考えるかわからないが、南の果ての本来は日本領でもなんでもない尖閣諸島の問題も石原や橋下のように夜郎自大に威張りかえるのはやめたほうがいい。外務大臣まで毅然として対応するなどというのは笑止である。
 阿片戦争から百五十年もかかって、国内的にも散々苦労して英米独ソ日本の侵略をやっと排除して立派な統一国家を作り上げた中国の偉大さに十分敬意を払って外交は柔軟にするのが外交というものである。困難にぶつかるとすぐ感情的に狂気になるのは昭和から少しも学ばなかったことである。
 註 尖閣が日本領でないことは、ポツダム宣言
  を受諾した事で明瞭であるし、あの辺の無人  島はもともとどこの国のものでもない。
 、