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0411 ブックレット「未来に語り継ぐ戦争」が伝えるもの 笹井明子 2012/02/21 17:26:17
最近、岩波書店から「未来に語り継ぐ戦争」というブックレットが発刊されました。これは「東京新聞が、2006年から毎年、8月15日の終戦記念日に掲載している対談記事などを、そのまま収録した」(「はじめに」−東京新聞編集局長・菅沼堅吾さん)ものです。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/2708260/top.html

東京新聞は2006年以前から「戦争を風化させてはいけない」との信念を持って、戦争を語り継ぐ企画を続けており、その姿勢に対し私たちは、「戦争があって、今の憲法がある」との認識に立つ「護憲+」の基軸に通じるものがあると、常々共感してきました。

しかし、昨年の3月11日の大震災・津波・原発事故以来、私自身はその圧倒的な現実を前にして、「戦争を語ること」や「憲法を護ること」に積極的な意味を見出せなくなり、深い虚無の穴に落ち込んでいました。そんなわけで、今回発刊されたブックレットを手にしたものの、正直それほど大きな期待はしていませんでした。

ところが、2006年からの6年間、計7編の対談を読み進むうちに、戦争体験者が夫々に語る言葉の底流に、今の状況に通じる普遍的なメッセージが存在することに気付かされたのです。

「実体のない言葉がはやるときは危ない」(半藤一利さん・2007.5)の言葉は、昨年3月11日以降毎日のようにメディアで使われてきた「絆」という言葉を連想させます。「『どっちでもいい』を突き詰めれば、民主主義そのものが疑わしくなる」(品川正治さん・2007.8)、「想像力を働かせないように規制し、偏見を植え付けるのが戦争の技術」(野上照代さん・2008.8)などの言葉は、新たな国難ともいうべき今の状況に於いてなお続く、政治や原発に対する私たちの無関心やあいまいな態度への強い警鐘となっています。
 
一方で、「同じ時代を生きていても、体験は同じではない」(村井志摩子さん・2010.8)、「一人一人が自分を大事にすること」(むのたけじさん・2006.8)の言葉は、今の困難を打開しようともがく私たちに、一歩を踏み出す起点を示してくれます。

そして最後の章、震災後の2011年8月に行われた大城立裕・開沼両氏の対談では、「日本は、どこかを犠牲にして成長を追い求めるのではなく、思いやりのある国になってほしい。」「中央のためにどこかを犠牲にすることだけは、もう繰り返してはならない」という言葉が語られていて、それは、戦時を生きてきた先輩たちが、今苦しんでいる全国の人々に贈る、集大成としてのメッセージだと、私は受け止めました。
 
温故知新。今と未来の希望構築のために「かつての歴史とは何だったのかを、それがどんなにむごいことでも、理性的に見据えていく」、そして「どんなに状況が絶望的でも、未来のために希望を紡ぐ」(飯田進さん・2009.8)ことが、いかに大事かということを、この対談集は強く訴えかけています。
 
この時期にブックレット発刊を決めた「東京新聞」に拍手を贈ると共に、出口のない混乱の中にあえぐ多くの人達に、是非いまこれを読んでもらいたいと願っています。