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0395 フランスからのメッセージ 笹井明子 2011/11/03 21:27:59
10月31日に、2ヶ月間滞在していたフランス・トゥールーズから東京に戻ってきました。滞在期間中は好天に恵まれ、大きく広がる青空と建物の赤レンガの対比が、街の明るい雰囲気を際立てていました。

街の中心部キャピトル広場に通じる狭くて古い石畳の道は、いつも大勢の人が行き交い、時に立ち止まって話しに花を咲かせています。道の片隅にはギターを弾いてお金をもらう人、アルミ缶細工を自分で作り売っている人もいます。道の角にはクレープや焼き栗を売る屋台も出ています。自分で車椅子を操作して広場に向かう人も沢山見かけました。

そんな、信号も、車道・歩道もない人通りの中を時に自転車が、更には車が走り抜けていきます。道行く人々は、人同士がすれ違う時には少しよけ、自転車や車がくれば少し歩みを緩めて、走り過ぎるのを待ちます。苛立つことも、押し退けることもなく、伸び伸びと、自然体のままで。

かつて、老人党提唱者のなだいなださんは、老人党サイトはスクランブル交差点のようなものであって欲しい」と言っていました。
『ぼくの理想とするところは、スクランブル交差点の人々のマナーです。ルールは信号だけ。でも、だれの命令も受けずに、自主的に、混乱なく、横断していきます。』(「打てば響く」2007.11.21)

トゥールーズの旧街道は、スクランブル交差点の信号すらないのに、何の混乱もトラブルも起きません。雑然としているけれど、自律と調和の精神がもたらす自然なマナーが、街全体を活気付かせているようです。

その一方で、10月半ばには近くの車通りで脱原発の大規模デモがあり、10月末にはエール・フランスの乗務員ストライキがあるなど、権利要求の意思表示は躊躇なく明快です。

そんな雰囲気の中で2が月過ごした後、日本に戻ると、青空に刷毛をはいたようなうす雲が広がる美しい秋の空が出迎えてくれました。街は驚くほど清潔で秩序があります。けれど何だかひっそり静かで活気がなく、人の表情には疲れと悲しさが見て取れます。

大震災の傷が未だ癒えず、原発事故の収束の目処が立たないどころか、原子炉での新たな核分裂の可能性すら云々されています。食物汚染の不安も残されたままです。それに追い討ちをかけるように、TPP参加や消費税10%アップの話が、国民を追い詰めています。このような状況下、日本の私たちが元気を出せないのは、余りにも当然のことでしょう。

それでもなお、「国難に苦しむ日本の人たちよ、人の持つ内なる力を拠り所として、立ち上がり、幸福な暮らしを自らの手に取り戻そう!」・・・【自由・平等・友愛】の国フランスの人々から、こんなメッセージを受け取った気がして、私も焦らず大らかに、でも現実と真剣に向き合って、これからも進んで行こうと考えた、フランス滞在の日々でした。