| この頃世の中やたらキナ臭くなって本当に困ったことである。
まだ太平洋戦争直前ほど新聞が好戦的とまでは言えないの がせめてものことであるが、世の中には領土なんてことを強調する人がいるのはいただけない。 尖閣諸島なんていうのは無人島で、ちょっと前までは日本の「領土」ではなかったし、もちろん中国の「領土」でもなかった。 こんな無人島で領土争いなんかしないで、入り合い地域として両方で仲良くお魚を獲ればいいのである。 もちろん昔は海のお魚なんかあまり食べなかった十三億の人々みんなに日本人並みに海のお魚を食べさせるのはちょっと無理かもしれないが。 国後の問題も、グルジア生まれのスターリン治下のソビエトが、第二次大戦のドサクサでとってしまったのはあまりいいことではないが、ここももともとは蝦夷地で、元から住んでいたのはアイヌの方々である。
そんなことをいえば、東北だって坂上田村麻呂さんや源義家なんていうヤマトのひとが征服する以前は蝦夷地だったのである。 だからあまり歴史ばかり強調するのは少し困ったことだが、逆にやたら欧米の真似をして領地領地というのも考え物である。
第一次大戦前には、あろうことかドイツが領有したと称していた南洋群島は、日本の委任統治以後でも先住民が沢山いたのは、中島敦の小説ひとつ読んでもすぐ判ることで、あそこで日米がやたら戦争をしたとき、ヤマトの人間の自殺は時々話題になるが、その人たちはどうしたか、私はだいぶ気になるのである。 今『ヒットラーとスターリン』という妙な本を読んでいるが、それでよく判るのは、二十世紀の西欧というのは、日本の戦国時代よりもひどい人殺しと、モラルの全くない権謀術策の世界だということである。 こんなところへ、温暖な気候の世界から、これを牛耳るつもりでのこのこ出かけた松岡などが完全に向こうに振り回されたのはもう当たり前の結果である、
それゆえここで現時点のことにばかり振り回されがちな日本の政治家に代わって、少し長い視点で日本のありようを考えてみる。
この頃新聞で防衛論が、自衛隊の構造まで含めて論じられているが、その場合、政府の防衛の対象は北朝鮮だけでなく、それさえ余計なのに中国も入っているようである。 しかし、日中戦争になれば、安保の許にある日本の場合、当然それは米中戦争になる。すると、日本にある原爆を沢山持ったアメリカの他国侵略基地は中国は一番怖いから、今度は中国の原爆が沢山降ってきて、日本人はみんなひどい目にあうことは間違いない。 だから、もちろん防衛論とか抑止力とかいう幻想はもたないほうがいいに決まっている。
しかし、戦争好きのアメリカは、日本が犠牲になることなんか気にしないから、日米合作の抑止力なんか歓迎かもしれない。 国が国民の幸せのためにあるのなら、ここで、日本が今のようにアメリカの属国でいるより、中国の僻地の属国になるほうが、百年の計としてははるかに賢明であることをきちんと考えておくべきだろう。その場合は、米中戦争でも戦略上あまり重要な土地ではなくなるだろう。
もちろん、半世紀以上アメリカの属領として、一応平和で、比較的裕福な生活を享受し、相当程度アメリカナイズされた国民は、中国よりもアメリカの属領のほうが好きであろう。しかし、香港の例もあるのだし、政治家というものはそのくらい長い見通しもつべきであろう。
これが、中国文学者ではなく、一応イギリス文学者だったことになっている鈴木の本音である。
私は、戦争、人殺しの被害はなるべく避けたい。
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