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0315 菅政権樹立をどう読むか「一歩前進二歩後退」 流水 2010/06/07-15:57:20
菅政権が成立した。わたしは昔からの菅ファンなので、まずは「おめでとう」を言わなければならない。ただ、菅首相が長期政権になるためには、多くの不安が残る。

わたしは、「政権交代」以前から、「民主党政権二段階革命論」を主張してきた。「政権交代」を行い、日本の既得権益層の存立基盤を破壊するところまでは、小沢一郎という稀代の破壊家(革命家)の力を最大限利用しなければならない。この破壊のプロセスが中途半端だと革命は必ず失敗する。そして、建設のプロセスに入ったとき、いわゆるヨーロッパ型社民主義的政権を樹立する。その思想的背景に日本国憲法の「平和主義」が大きな力を持つ。その建設プロセスのリーダーに菅直人を想定していた。

ところが、民主党政権に対する既得権益層の抵抗は激しく、革命の破壊プロセスが中途半端なまま、小沢一郎が幹事長を辞任した。報道で伝えられる菅内閣の中枢は、仙石・枝野をはじめごりごりの新自由主義者で占められている。これでは、「西欧型社民主義国家」ではなく、「米国型新自由主義国家」になりかねない。わたしが菅直人内閣の先行きに危惧を覚えるのは、この点である。

以下、少し分析してみる。

鳩山首相、小沢一郎幹事長は辞任。昨年以来執拗に続けられたメデイアによる民主党バッシングは大成功をおさめたかに見える。この戦略は、以下のヒトラー流大衆操作戦略そのままである。・・・・

「『広範な大衆に働きかけ、少数の論点に集中し、同一の事柄をたえずくり返し、反論し得ない主張になるまでテキストを確実に把握し、影響が広がることを望みながら辛抱強く忍耐すること』…ヒトラー著『わが闘争』(出典:宮田光雄著『ナチ・ドイツと言語』-岩波新書-)・・・。

・・ここで見られるのは、明らかに論理による説明よりも一般大衆の情緒的な感受性に訴える戦略。論点を黒白の図式(有罪か無罪かの択問形式設問)で単純化することが先ず重視される。次に、その単純な図式を断固とした口調(又は文章)で大胆に繰り返し断定することが優先され、具体的・客観的な証拠に基づく科学的論理は無視され、推論型の論理に巧みにすり替えられている。・・
http://d.hatena.ne.jp/toxandoria/20100605

もし、菅政権が、このようなヒトラーばりのメデイア戦略(いわゆるB層戦略)に完全に依拠しているのなら、下手をすれば、菅政権はファッシズムの露払い政権になりかねない。

しかし、本当にそうだろうか。このように先の見えない錯綜した局面では、全ての予断を排して自分自身の目で見、自分自身の頭で考え、判断しなければ間違う。

(1)まず、鳩山政権はなぜ倒れたか。これは誰の目にも明らかだが、普天間基地移設問題で、県外・国外移設公約を実現できなかった事である。この結果、社民党が連立離脱をせざるを得なくなり、参議院選挙での選挙協力が得にくくなり、民主党候補者が危機感を覚えた。⇒日本メデイアは、巧みに「政治とカネ」問題にすり替えているが、海外メデイアは鳩山政権退陣は、普天間基地問題と報じている。中には、日本の親米メデイアと米国の圧力が原因と断じている報道もある。http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=42623

(2)この危機感を背景に小沢幹事長や輿石参議院議員会長が鳩山首相に退陣を迫った。当然だが、時の最高権力者に辞任を迫る以上、自分自身も辞職をするというのが常識。鳩山政局ではなく小沢政局だと言う事。

(3)では何故鳩山首相は、両院議員総会で「政治とカネ」の問題で、小沢幹事長にも辞職するように迫った、と公言したのか。考えられる事は以下の通り。

(4)@辞任の要因を普天間基地問題からそらすためA参議院選挙対策⇒民主党の支持率低迷の最大要因である「政治とカネ」問題を払拭する。⇒「出直し」イメージを作り出すBこの結果、メデイアのネガテイブキャンペーンをそらす。

(5)この絵図を誰が書いたか。小沢以外考えられない。小沢自身は、辞職のタイミングを慎重に計っていた節がある。参議院選挙で大敗北を喫した後の辞任では影響力は残せない。となると、選挙前しかない。それも、最も効果的なタイミングとなると、鳩山首相が普天間でこけた後の今しかない。これが小沢側の事情だろう。鳩山首相側からすれば、小沢を道連れにすることで、普天間基地移設問題の大失政の傷を多少とも薄めることができる。

(6)そこで考え出されたのが、鳩山首相が小沢に鈴をつけ、一緒に辞任するというストーリー。小沢は自分を「悪」にすることにより、菅政権の道筋を開き、民主党政権の存続を図った。

(7)メデイアは、案の定、次期政権は、「小沢との距離感」が問題だと騒ぎ立てているが、これも小沢の計算のうちだろう。普通に考えればすぐ分かるが、小沢派は140名前後。民主党内の最大派閥。しかも、田中派以来の鉄の規律を信条とする集団。この最大派閥を敵に回して、政権運営などできるわけがない。小沢以外の誰が総裁になっても、小沢派との協力関係なしに政権運営などできない。現に当て馬の樽床候補者の得票数は129票。小沢派一新会が自主投票にしても、これだけの得票数を集めた。もし、小沢一郎本人が出馬して本気で選挙運動をしたら、こんな得票数になるはずがない。

(8)鳩山首相辞任の最大原因は、普天間問題。これを閣内で担当した大臣は、岡田外務大臣、北澤防衛大臣、前原沖縄担当大臣と平野官房長官。彼らは、鳩山内閣総辞職のA級戦犯。本来なら、鳩山首相とともに辞職するのが当然。まして、次期総裁について云々する資格はない。彼らが、菅直人支持に動くのは勝手だが、その理由に「政治とカネ」問題だけを言うのは、自らの政治的責任を感じていない証拠。

(9)菅内閣は、当面、小沢一郎との距離感を演出しなければ、民主党支持を取り戻せない。当然ながら、それは組閣にも出るだろう。しかし、小沢派との決定的な亀裂だけは避けなければならない。小沢派をあまり人事で冷遇する事は、民主党分裂の危機を招くことになる。政治の世界では【数は力=権力】。しかし、【権力】は使わないと錆びる。鳩山政権が露骨な権力使用をためらったばかりに、政権は瓦解した。政権末期のメデイアの鳩山バッシングを見れば、よく分かる。チンピラのお笑い芸人までもが、首相を小馬鹿にした言説を弄していた。下世話に言う「完全に舐められた」状況だった。小沢派はこの事をよく知っている。だから、あまりも小沢派を舐めた処遇をすれば、必ず反乱をおこす。下手をすれば、離党をする危険性がある。そうなれば、民主党政権は完全に瓦解する。「政権交代」の果実を得ぬ前に内部分裂する事だけは避けなければならない。

(10)小沢派以外の民主党連中は、大学のサークル・同好会のノリで政治を考えている。その為、権力闘争の凄まじさに耐えれない。小沢一郎は、自民党離党以来、既得権益側からの凄まじい攻撃を受けてきた。この攻撃から生き延びるためにはあらゆる手練手管をつかわなければ生き残れない。鳩山首相とのダブル辞任以降のメデイアの狂ったような小沢バッシングを見れば、彼の息の根を止めるまでこの攻撃は続くと考えざるを得ない。既得権益層から見れば、小沢一郎と言う男は、最も危険な男だと言う事である。

(11)菅直人首相は、とりあえず、既得権益層(官僚とメデイアのタッグが代表)の小沢排除路線に迎合する必要がある。いわゆるB層対策。これで参議院選挙をまず勝ち抜かなければならない。その為には、ある程度小沢排除人事を強行しなければならない。同時に、裏でしっかりと小沢とタッグを組んでおかねばならない。そうしなければ、たとえ参議院選挙で辛うじて勝利しても、9月の代表選挙では小沢一郎に追い落とされる。小沢派の強みは、民主党員の地方票、組織票(連合、小沢が切り崩したかっての自民党票など)、コアの小沢フアン(これはきわめて結束が高い)などを握っているところにある。代表選挙には浮動票はないと考えなければならない。

(12)上記の事を踏まえて、小沢派幹部の山岡国会対策院長は、NHKのインタビューで「選挙管理内閣」だとつい本音をもらしていた。田中真紀子も、TBSのニュースで、菅内閣を「暫定内閣・選挙管理内閣」だと断じていた。

(13)菅直人首相は、このような不安定な政権基盤に立っていることを認識しなければならない。綱渡りのような政権運営を強いられる事は間違いない。仙石・枝野・前原・野田・玄葉などの民主党内の対米追随派(ネオコンや新自由主義者)が浮かれまわっているようだが、彼らを選挙を勝つために利用するだけ利用して、切って捨てる冷酷さも必要になる。(できれば、分断して統治すればベスト)彼らと運命共同体になると、最後には鳩山由紀夫の運命が待っていると覚悟しなければならない。

(14)このように考えると、結局、菅直人首相に待っているのは、「進むも地獄、退くも地獄」の道。参議院選挙に負ければ辞任、勝利すれば、小沢派議員が増加。いずれに転んでも、反小沢の旗印だけでは政権運営はできない。この程度の政局観もないようでは、首相は務まらない。と言う事は、小沢派との裏での連携こそが、菅直人の生きる道。民主党政権内のネオコン派・新自由主義者(対米追従派)を駆逐し、真の意味での日本の自立を獲得するための「一歩前進、二歩後退」戦略ではないかと考えている。これがわたしの希望的観測でない事を菅内閣のために祈らずにはいられない。