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0298 新しい社会実現の一翼を担いたい 笹井明子 2010/02/16-16:45:30
最近、『働かざるもの、飢えるべからず』(小飼弾著)という本を読んだ。切っ掛けは、1月に行った「ベーシック・インカム」の学習会だった。

「ベーシック・インカム」という概念に対して、私自身は全くの白紙状態であり、現在の社会状況との関係についても、何の考えも持っていなかったが、未知の概念だった分、知的好奇心が大いに刺激されていた。あいにく学習会当日は都合で参加できず、残念に思っていたところ、その会に参加された志村建世さんが、後日ご自分のブログでこの本を紹介していらっしゃった。

http://pub.ne.jp/shimura/?entry_id=2714028
http://pub.ne.jp/shimura/?entry_id=2716292

興味を持って、さっそく取り寄せて読んでみると、そこにはIT産業で成功を収め、沢山のお金を手にした新自由主義の申し子のような著者が、お金の価値と限界、幸福とは何か、資本主義の未来などについて、率直かつ真摯に語り、そうした根源的・総合的思考に基づいた「ベーシック・インカム」論を展開していた。

この本に提示されているのは、サブタイトルにあるように『ベーシック・インカムと社会相続で作り出す「痛くない社会」』であり、底流に流れる思考は「あとがき」の『われわれのために社会があるのであって、社会のためにわれわれがあるのではないのです。だからこと、社会が本当にそうなっているかを、われわれは常に確認し、そうなっていなければ社会を「作り直し続ける」必要があるのです。』に集約されている。

そして実は、民主党の「国民生活第一」のスローガンや「子ども手当て」「教育の無料化」などの具体的政策の中には、この理念に通じるものが少なくないことに気付かされる。現在、こうした民主党の政策に対しては、「財源はどうする」の大合唱が起きていることでも分かるように、この本に描かれていることはひとつの壮大な発想であって大雑把に過ぎるし、具体的に実現するのには多くの障壁があることは事実だ。

しかし、今の時代を成功者として颯爽と生きる若い世代の中から、資本主義や現代社会の病理克服を目指す発想が生まれていて、民主党の政策の中に同じ理念が内包されていることを思うと、これは単なる「夢物語」とか「理想論」ではなく、現実性を持った新たな社会像であるのかもしれないという気がしてくる。

いま国会は、野党に下野した議員たちによる執拗で無内容な攻撃と中傷の場と化し、私たちが「政権交代」に託した変革実現への希望は、足踏みを余儀なくされている。マスメディアもまた、彼らの悪あがきに便乗して、「言った、言わない」の下らない詮索を面白おかしく書き立てているし、そんな喧騒に引き摺られたような世論調査の結果が繰り返し報道されている。

一体いつになったら前に進むのだろうか、いつになったら成熟した政治を持つことができるのだろうかと、ため息の出る日々が続いているが、望ましい政治を持つためには、結局のところ、主権者たる私たちが成熟した「政治の担い手」になることから始めるしかないのだろう。

そしてそのためには、スキャンダルまがいの事象で右往左往するのではなく、自らの中にある理念を軸として、起きている事象を見通し判断する力を養うことが大事なのだろう。

しかし、不毛な政治劇が繰り広げられている一方で、新しい社会実現に向って新しい世代のエネルギーが生まれ、結実していこうとしている、そんな希望の芽も、私たちが思っている以上に確かな力で育っているのかもしれない。そんな萌芽が感じられるからこそ、新政権の試みも長いスパンで見守りたいし、私たち自身、自らの固定観念から一旦解放され、視野を広げる精神的な自由さを取り戻したい。

古い価値観の殻を脱ぎ捨て、若い世代の柔軟な発想に学び、彼らと共に、新しい社会作りの一翼を担う私たちでありたいと思う昨今である。