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0229 自殺考 流水 2008/12/15-17:23:25
日本人の自殺者数が、10年連続3万人を超えた。この10年間での自殺者総数は、優に30万人を超えた、ということになる。

日露戦争の戦死者数約15万弱(統計によって多少ばらつきがある)。日清、日露・北清事変(シベリア出兵)・満州事変の戦死者数全てを合計しても、16万にも満たない。如何に30万人という数字が異常なものか分かる。
http://www.jacar.go.jp/nichiro/keyword06.htm

今でも、自殺は個人の問題だとか、本人が弱いからだ、と切り捨てる人も多いが、上記の異常な数値を個人の問題だと断定するにはどう見ても無理がある。

ここ数年、秋葉原事件のように、世間を震撼させる「無差別殺傷事件」が多い。この犯人たちの多くが、【死刑になりたかった】と殺人の動機を供述している。

このように、「自殺」という行為に踏み切れなかった人間の中に、「殺人」という行為に走る人間がかなりいる、というのも見逃せない事実。秋葉原事件の犯人たちような「無差別な殺傷行為」は、形を変えた「自殺」の代償行為という見方もできる。

つまり、「自殺」という行為は、わたしたちの社会が抱え込んだ問題(ゆがみ)を映し出す「鏡」だという認識が必要である。

年間3万人を超す自殺者数、10年間で30万人を超える。これはどう見ても異常だ、と感じる感性を私たちの社会は喪いかけている。

【自殺】という行為を掘り下げて考えることは、私たちが生きている「社会」の抱え込んだ「いびつさ」「ゆがみ」を正確に認識することになる。同時に、それを認識することによって、問題の所在を正確につかみ、その対処方法も構築できる。

詳しい統計は、http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2007/pdf/gaiyou/pdf_gaiyo/g04.pdf 
で見てもらえば分かるが、しかし、この統計を見ても上の問題意識にあまり明確な解答を出してもらえない。

例えば、自殺の原因で多いのが「うつ病」である。しかし、よく知られているように、「自殺」寸前の人の大半は「うつ」状態にある。だから、「うつ病」と特定しても、社会の問題として認識する理由にはならない。

この疑問に答えようとした研究が、NPO法人ライフリンクの【自殺実態白書】という報告書である。http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html

この報告書の最初に【自殺は、人の命に関わる極めて「個人的な問題」である しかし同時に自殺は「社会的な問題」であり「社会構造的な問題」でもある】と書かれている。これがこの報告書の問題意識であり、立場であろう。

この白書では、自殺者の家族など1000人から聞き取り調査を行い、自殺にいたる様々な理由を図式化し、如何にして「自殺に至るか」=「白書の言葉でいえば、危機経路」を明らかにしている。そして、人が「自殺に追い詰められていく経路」を明らかにしていく過程で、社会の問題点を浮き彫りにしている。

とりあえず、http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_1.pdf
で示された図を見てほしい。

★【自殺の諸原因】
@職場環境の変化A事業不振B過労C職場の人間関係D身体疾患E失業F負債Gうつ病H生活苦I家族の不和 ⇒「自殺」

これらの諸原因が複雑に絡み合い、影響しあって、最終的に【自殺】という行為に追い詰められているのが見て取れる。

この白書では、非常に慎重にこの「1000人調査」で見えてきたことを以下の8つにまとめている。
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@ 自殺の背景には様々な「危機要因」が潜んでいる(計68項目)
A 自殺時に抱えていた「危機要因」数は一人あたり平均4つ
B 「危機要因」全体のおよそ7割が上位10要因に集中
C 自殺の10大要因が連鎖しながら「自殺の危機経路」を形成
D 危機連鎖度が最も高いのが「うつ病→自殺」の経路
E 10大要因の中で自殺の「危機複合度」が最も高いのも「うつ病」
F 「危機の進行度」には3つの段階がある 〜危機複合度を基準にして〜
G 危機要因それぞれに「個別の危険性」がある
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つまり、危機要因(同書では、68項目)が4つになると自殺する危険性がきわめて高い、と分析している。しかも、同書では、年齢別、地域別、男女別などの違いがあり、一律に解釈することを戒めている。

ただ、私の問題意識に引き寄せていえば、同書で危機要因として挙げられた68項目がきわめて重要だと思う。「自殺の諸原因」として掲げた10項目だけでも詳細に点検すれば、「自殺と社会経済的背景・構造」がかなり明らかになると考えられる。

この白書でも
【そうした状況に自殺者が追い込まれる社会経済的背景・構造を明らかにしなければ有効な自殺対策を立てることは難しい。例えば、日本の自殺者数は1997年から98年にかけてのいわゆる金融危機時に急増し、それ以来ほぼ10年連続で年間自殺者数が3万人以上にのぼっているが、これは「失われた10年」と評される日本の経済問題や中小・零細企業の経済的疲弊が自殺の増加と関連していることを示唆している。】
と指摘しているように、社会経済的背景・構造を明らかにすることの重要性を説いている。

この白書を詳細に読むと、日本社会の抱えている問題が、死者の声として浮かび上がってくる。法外な儲けをした人たちには、脳裏に浮かんだこともないだろうが、地を這うように生きている庶民には、どれもこれも切実な問題である。

「無念の思い」を残してこの世を去らざるを得なかった人々の「声なき声」をくみ取りたいものである。