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0215 今私たちがすべきこと 笹井明子 2008/09/18-22:20:27
福田総理の突然の辞任表明以降、自民党は総裁選候補を乱立させ、国民をお祭り騒ぎに巻き込もうと目論み、マスコミも過去の例に懲りることなく、その後押しをしているようです。しかし、5者揃い踏みの記者会見でも、日本という国のトータルビジョンを示す候補者は見当たらず、彼らの決意表明の内容の乏しさに、自民党政治の空疎さの印象は強まるばかりです。

さて、日本社会の現状を見てみれば、生産地の付け替えを始め、食品にまつわる数々の偽装が明るみに出る中、事故米の輸入と食品業界への大量流出という最悪の事態が私たちの暮らしに襲い掛かり、いま私たちの胸には「毒を口にしていた可能性」に対する不安と不快感が、澱のように拡がっています。金儲けのためなら何でも有りの業者たちと、逃げ腰の行政、現状認識の欠落した担当大臣の存在によって、憲法25条の「健康な生活」が危機に曝されています。

また、アメリカからのリーマン・ブラザーズの経営破たんのニュースは、日本国内の金融市場に激震を走らせました。現職総理の職務投げ出しで休眠状態にあった日本政府は、右往左往するばかり。次期総裁候補たちは、日本経済のあり方について熱心に論戦をはっているように見せていますが、既に顕在化していた“何でも証券化する金融バブル”の不健全性と、結果としの社会の歪みというグローバルな問題に対し、自民党内で真剣に取り組み手を打とうとしてきた人がいたとは、とても思えません。

憲法25条のもう一つの側面、「文化的な生活」に目を向けると、日本国内では国立大学などの研究機関にも成果主義・競争原理が導入され、人材の流失や研究水準の低下という問題が生じているとのことです。フランスの知人(研究者)によれば、これは日本だけの問題ではなく、フランスでも同様で、分野によっては研究機関そのものの存続が危ぶまれているとのことです。「自然科学というのは短期的・直接的なメリットを追求するものではない。優れた研究は世界にとって掛け替えがなく、だからこそグローバルなサポート体制が必要だ」と彼は言っていました。

文化・芸術の価値について更に考えるとき、9月17日の朝日新聞紙上で大江健三郎さんが紹介していた、戦争末期に書かれた伊丹万作氏の次の言葉、「思うに芸術の修行も要するに自己を鍛錬して、いかなる場合にもぐらつくことのない立派な余裕を築き上げることに尽きるようである。そして芸術の役割とは要するに人々の心に余裕の世界観を植えつけること以外にはなさそうである。」が、いま大事な問いかけをしているように思われます。

世界を席巻する経済至上主義の結果、「健康で文化的な生活」の衰退は多岐に亘り、しかもグローバル化しています。だからこそ、問題解決にもグローバルな視点が不可欠な時代なのかもしれません。こんな時代だからこそ、「ぐらつくことのないゆとりの世界観」を共有できる政治家たちを、私たちは、そして世界は、持つことが必要だといえるでしょう。そして、そういう政治家を持つために、まずは私たち自身が日々の変化に追い立てられるのではなく、心を静め、ゆとりある世界観を持つよう志すことがとても大事なのかもしれません。