| 熊 おはようご隠居、孫に聞かれたんだが文化国家ってどんなものか教えておくんなさい。
隠居 戦時中どん底生活に耐えながら、何が何でも勝たねばならぬと必死になってがんばってきた人々は、負けるはずのない神の国が負けたことで、なにをする気力も失くしてしまったんだ。
これはいかんと大川周明や北一輝とも交流のあった代議士中谷武世は、1945（昭和20）年12月の衆議院予算委員会で「廃墟となった日本人の心にふたたび光明を点じるためには、富国強兵に代えて身に寸鉄も帯びない高度文化国家の建設こそ急務であり、武装解除された日本が平和的繁栄を遂げて、ふたたび世界の一流国家となることが出来れば、やがて世界の武装解除を誘導することが出来る」と質問、幣原喜重郎首相も深く同感して文化国家が国是になったといわれている。
熊 ところがいつの間にか文化国家じゃなくて経済大国になっちまった？
隠居 おまえさん、車やエアコンはおろか風呂、電話、テレビ、冷蔵庫、洗濯機・・・など一切なく、重湯のような粥をすすって飢えをしのぎ、上着もシャツもつぎはぎだらけで靴はぼろぼろ、雨が降ればバケツ、洗面器、たらいから鍋まで総動員して雨漏りを防がなきゃならない。そんな生活に我慢できるかね。
そこから抜け出すためにわれわれはみな夢中になって働いた。日一日とよくなってゆく暮らし、それは麻薬のような魅力に満ちていたから、どっぷり浸かって身動き出来なくなった。おかげで肝心の文化はちょっと脇に置かれた、というよりそんなゆとりがなかったわけだ。
熊 なるほど「花より団子」か。
隠居 だれでも食べなきゃ生きていけないが、食べ過ぎたら腹を壊す。いまの日本が元気のないのは多分そのせいだ。幸いこの国には千年以上も前から育まれ洗練された伝統文化が数え切れないほどあって、柔道や囲碁の愛好者は世界に広がっている。この際物だけでなく、伝統文化を海外に紹介し普及する運動を積極的に展開したらどうかと思うんだよ。これからますます増える高齢者を活用すれば、生きがいにもなって一石二鳥。熊さんもどうだい。
熊 おれは大好きな将棋がいいな。
隠居 結構だね。チェス、シャンチーを始め世界に将棋の仲間はたくさんあるが、取った駒を使えるのは日本の将棋だけ。競技の奥行きが深まるとともに、その本質が殺し合いから人材獲得競争に変わったといえる。9条を持つ平和国家にこれほどふさわしいゲームもないだろう。日本将棋連盟やアマの「将棋を世界に広める会」も海外普及に力は入れているがなかなか思うようにいかない。熊さん頼むよ。
熊 そういやご隠居、こないだおれが王手飛車取りかけたら、あわてて飛車逃げたっけ。
隠居 うーん急に眠くなった。おやすみ。
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