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0142 「片恋」 桃李 2007/05/08-17:01:28
フランス大統領選が、全体の投票率83パーセント以上のなか、サルコジ氏がおよそ53パーセントを獲得して当選の結果となりました。さっそく「今度の大統領は日本のことをどう考えているんでしょうねぇ」とかつてフランスに留学した人との間で話題になりました。

今回の選挙は、日本のメディアでもたびたび取り上げられましたが、日本でとりあげられるフランスの事柄と、フランスで取り上げられる日本の事柄を観察してみると、「いくらシラクが親日でも、今までだって日本の片思いだ。」
と言わざるを得ない状況です。

以下に示すデーターをあらためて見ておどろきました。これではシラク氏の親日は政治的に日本に注目していたと言うことではなく、個人としてだったと思われます。サルコジ氏が大統領になったとて、対日外交に大した変化はないのではないでしょうか。それは、互いの国が どのくらい相手の国のことを勉強しているか比べてみると見えるものがあるのです。

「年報日本現代史」(歴史としての日本国憲法)
http://business3.plala.or.jp/gendaisi/nennpou.htm

2006年第11号・現代資料出版の中に、憲法とは関係がないのですが、「フランスにおける日本近現代史研究の動向」という記事があります。その記事によると、フランスにおける日本研究の主流は文学と芸術に集中し、1980年代の日本ブームから若手日本史研究者が増えてきた経過が詳しく報告されています。

フランスの国立高等教育機関、143校のなかで日本語、日本学関係の学位を取得できる学校はおよそ10パーセントの16校。その中で、日本語、日本学の単位を多数含む学位を与える機関は9校。しかし、日本語、日本学を主として学位の取れる機関は、143校の中で、たったの7校のみです。

フランスで日本に特化して研究する学会は、「日本フランス学会」たったのひとつしかありません。フランスには日本史学会も日本政治学会も、日本語学会もないのです。この「日本フランス学会」調査発表による2004年の日本についての文献目録をみると、総数367本。フランス全土でこれだけなのか!!!と寒くなるような寂しい数です。

文献は、主流の文学が40本で26.3パーセントを占めており、ついで芸術が25本で16パーセント、護憲の皆様の関心のありそうな日本の法学、政治、外交の研究については、ずるっとひっくり返りそうなたったの6本で3.9パーセント。日本史については8本で2.2パーセント。そのうち近現代史の研究は4本で1.1パーセントです。(これには漫画史も含まれています。)

フランスにおける大学院の日本学ゼミナールの数は全部で21しかありません。それも外交、政治、法律については皆無。歴史についてのゼミは5つですが近現代史についてのゼミは2つしかありません。

どうでしょう?日本で行われているフランス研究との差が歴然ではないでしょうか。

日本では仏文学科のある大学は、フランスの日本学と比べて圧倒的に多く、フランス史、フランス政治、とくにEUに関する研究はこれから増えると思われますが、このデーターが、日本からフランスへ宛てたラブレターの返事であるなら、これは片恋と言わざる終えない状況です。

シラク氏が親日でも政治と余り関係のないことが見えています。サルコジ氏が大統領になっても、それがかわるとは思えません。互いのためにも、もっと多くのフランスの人たちが、日本を勉強してくれると、互いの外交の基盤ももっとしっかりするのではないかと思えます。

「シラクさんは知日家だったのに・・・」といっても、私の耳にに聞こえてくるのは、日本に隠し口座があったのではないかとか、銀座の天ぷら屋にお忍びで良く来ていたとか、日本に隠し子がいるらしいとか、そんな程度のつまらない話題です。

実際、このデーターをみると、シラク氏が日本を知るために高等教育機関の充実を図り、日仏外交をしっかりつなぐ人材を育てるべく努力を、日本とフランスがしたとは思えません。その証拠に、シラク大統領の時代に、中国ではフランスの高等教育機関も、医学の研究所もできていますが、日本は故橋本龍太郎元首相がそう言うことに奔走した形跡を、フランスでみかけましたが、形にならなかったことがわかります。

『サルコジ氏が「相撲が理解できない」といった。日本のことを知ってもらうように、早期の来日と安倍総理との対話をもとめる』と書いた新聞もありますが、そんなバカな理屈があるもんか。駐日フランス大使のポール・クローデルだって「能はつまらない」といいましたが、クローデルはちゃんと日仏の学術交流の場として、日本と協力して日仏会館を作りました。

また、『EUの対中武器輸出解禁が心配だ』との報道もあったようですが、日本がアメリカと仲良くしているのです。だから中国がEUから武器の輸入を望んだとしても、それはサルコジ氏が大統領になったことをきっかけに懸念する問題ではありません。

政治が動くときは、その準備が前々から行われているのですから、サルコジが大統領になったとたん、対日外交が悪くなると、なんでもかんでもそのような考えに持って行くのは間違いだと思います。

懸念するなら、フランスのことでなく、もっともっと前から、日本は自分の中国に対する態度を鏡に映して考え直すべき。隣国とあるていどいい関係を保つ努力をしていればいいことです。安倍首相は、靖国へ行かないことです。

もともとフランスは中国との教育機関など、学問、文化交流歴史は日本より深いのですから、シラク氏のほうがフランス大統領としては珍しかったのです。対日外交の基礎を作る学問の分野に長けていたわけではありません。

日本のメディアは、そんなことも調べないで表面的な記事ばかり書いて読者を翻弄してはいけません。報道側も、もっと色んな観点から物事を分析して記事にするべきですし、読者も不安な記事を鵜呑みにしないことです。

このように世論を動かせば、また「今度のフランス大統領は中国よりだから、私たちはやはりアメリカについていてもらわなければ」という人も出てくるかも知れませんね。

さて、日本をよく研究して互いにつきあっている国は具体的なデーターを持たないまでも、やはりアメリカかなぁ・・・とためいきのコラムとあいなりました。
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紹介した書籍、第1号には「昭和天皇」講談社
で、2001年のピューリッツァー賞を受賞した日本史研究者のハーバート・ビックス教授が
「アメリカでの日本研究の動向」を記したほか、ビックス氏は何度か日本について記事を寄稿しており
各国の研究者が、日本を知るためにどのような学術研究が行われているかを、人文社会系の見地から述べています。