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0110 安倍内閣の誕生と南原繁 笹井明子 2006/10/02-16:29:50
安倍晋三内閣が誕生した。「美しい国創り」をキャッチコピーにする安倍総理は、東条英機内閣の中にあって開戦詔勅にサインをし、戦後は総理として安保条約改定を強行採決させた祖父・岸信介を、自らのモデルとする政治家である。彼はそんな祖父の意思を引き継いで、総裁選の早い段階で教育基本法の改正と改憲の具体化を打ち出した。

安倍総裁誕生に先立つ8月15日、立花隆氏の呼びかけにより東京大学で公開シンポジウム「8月15日と南原繁を語る会」が開かれ、定員の1200名を大幅に超える参加申込があったそうだ。(*1)

立花氏によれば、敗戦当時東大総長であった南原繁は、「国家権力中心の国造りの結果、人間個人は国家的不変と固有の国体観念の枠にはめられ、国民は少数者の虚偽の宣伝に欺かれ、その指導に盲従した」という反省に立って、敗戦のショックで虚脱状態になっていた人々に、「自由な精神的独立人となること」を呼びかけ、その後貴族院議員として、新憲法、新皇室典範、教育基本法など、戦後民主主義の法的枠組み作りに直接的に貢献したという。(*1、2)

戦後生まれの私は、民主主義の溌剌とした明るい空気を当たり前のこととして享受してきたが、実はそれは、『「戦争放棄と平和国家理想」、「国家組織の民主的根本変革」、「人間個人の完全な自由の確保」という独特の意義をもつ新憲法』(*2)と、それに呼応する「個人の尊厳の重視」、「真理と平和の希求」、「個性ゆたかな文化の創造」を基軸とする教育基本法によってもたらされたものだった。

戦後大多数の国民が心から歓迎して受け入れた「憲法」や「教育基本法」は、今安倍内閣によって、その価値を否定され、戦前の国家主義的価値に置き換えられようとしている。多くの人が言う「戦後最大の危機」は、私自身の痛切な実感でもある。

しかし、先のシンポジウムの例は、「自由な精神的独立人」であることを自認する人たちが、保守・革新の枠を越えて、危機感を共有し、動き出した証と見ることもできる。これまで「護憲・改憲」論争に傍観者的態度をとってきた人たちの中に、安倍氏の描く国創りの帰結としての「改憲」に警戒感を見せ、反対の意志を示す動きが間違いなく現れ始めている。

安倍総理の誕生は、はからずも憲法の価値を顕在化させる契機となるかもしれない。僅かではあるがそんな機運を感じ、そこに希望を託して、私も「自由な精神的独立人」の一員として、これからも「護憲」の意志を発信し続けたいと思う。

(参照・引用:(1)月刊「現代」10月号「憂国の緊急寄稿」「改憲政権・安倍晋三への宣戦布告」(立花隆)(2)「8月15日と南原繁を語る会」 http://www.nanbara.net/about.php )