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0076 伝統の崩壊 宮天狗 2006/02/13-07:12:41
1823年(文政6)に来日して近代西洋医学や生物学を伝えたフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは、帰国後豊かな自然を背景に薫り高い文化を築いた「日本」をヨーロッパに紹介したことでも知られていますが、このほど1859年(安政6)に再訪した当時の日記がはじめて公刊されました。
シーボルトは「安政の大獄」「桜田門外の変」など幕末の騒然とした世相を冷静に観察するとともに、市井の人情風俗にも目を配り、江戸の街角に日用品や食べ物などを入れた無人販売の箱が置かれているのを見て「世界で最も人口の多い都市のひとつがこうである。この商売は貧しい家族、貧しい人々を支えるために、すべての町人たちとの信頼により成り立っている」とヨーロッパの都市には見られない人情の温かさをたたえています。「士農工商」と最低に貶められた江戸商人の「生き馬の目を抜く」世知辛さの反面、弱者に対するこまやかな心遣いに、改めて頭の下がる思いです。
改革、規制緩和の掛け声の下、マルクスに牙を抜かれた資本主義がアメリカの一人勝ちとなって本性を現し、「新自由主義」の仮面をかぶって闊歩する現在、こんなやさしさは忘れ去られてしまったかに見えます。