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0073 欲望資本主義の着地点(ホリエモン逮捕に思う) 流水 2006/01/24-11:10:04
ホリエモンが逮捕された。
直接的な容疑は、偽計取引と風説の流布、粉飾決算疑惑だとされているが、検察の真の狙いは、このままホリエモン的手法を許しておけば、資本主義社会の根底が崩壊するという危機感の表明であると考えられる。

学生時代、「資本主義」か「社会主義」かという論争を友人と交わしたことがある。そのとき、「人間の欲望」を抑えることが本当に可能なのか、という点が最後まで解決できない問題として残った。

ホリエモンは、ある意味で自分の「欲望」に忠実に生きた人物である。
今回の事件で多くの人が反射的に思い起こしたであろう類似の事件に戦後の「光クラブ」事件がある。主犯山崎晃嗣は東大生で、学生時代に「光クラブ」という今で言う闇金融の会社を興し、巨万の富を築いた。
「物でも女でも金で手に入らないものはない」と嘯き、銀座の一等地に事務所を構え、当時としては珍しい派手な宣伝を行い、一躍時代の寵児に躍り出た。
しかし、「物価統制令違反」で逮捕され、多額の借金を背負い、最後には青酸カリで自殺した。
彼の生き方は、「アプレゲール」の典型として人々の記憶の残り、高木彰光の「白昼の死角」など小説の題材になった。

山崎もホリエモンも「時代の転形期」には現れやすい「価値紊乱者」としての共通点がある。
そして、その共通点に「自らの欲望」に忠実に生きたという点が挙げられる。

「食べる」とか「寝る」とか「女が欲しい」とかいう動物の本能をわざわざ【欲望】となずけている間は、誰にも納得いく話ができるが、これが【所有欲】とか【支配欲】という風に拡大すると、諸説紛々で人それぞれという以外にない。

【食べる】【寝る】などという人間の生理に近い欲望を語ることが主流の時代から、誰もが【所有欲】とか【支配欲」とか【権力欲】などを身近なものとして語ることが主流の時代へと変化してきたのが現代という時代であろう。

情報化社会の欲望の特徴は、【欲望の外部化】に求められる。
マンション耐震強度偽装事件でいえば、【家】を欲しいという【欲望】を実現するには、まずそのための費用(お金)を用意しなければならない。次に用意したお金に見合う物件を探さなければならない。また、自分が【家】に何を求めるかを問わなければならない。次に家族が何を求めているかを聞く必要がある。
つまり、【欲望の外部化】が行われるのである。

現代という社会は、自分の欲望すら、自分から離れて【情報化」され、TV広告やパンフレットなどで提示されるピカピカの物件に自分の欲望を仮託してしまうという構図が生まれる。

自らの欲望すら【外部仮託】しなければ実現できない情報化社会の中にわたしたちは生きているということである。
そこでは、【自分の欲望】と【外部から与えられた欲望】との継ぎ目が見えなくなり、外部から掻きたてられ、肥大化した欲望を自らの欲望と錯覚する不透明な自分がある。
ここに、耐震強度偽装が行われる精神的土壌がある。

神戸少年殺害事件の犯人Aが書いた【透明な自分】を求める心も、今回のホリエモン逮捕、耐震強度偽装事件、先の総選挙での自民党の圧勝なども、この【欲望の外部化】という時代の延長線上にあると思う。