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0100 現在の社会状況について(15)  トランプ氏が今の世の中に仕掛けるBoard of Peaceというオキシモロン yo-chan 03/16 20:14
 
現在の社会状況について(15)  トランプ氏が今の世の中に仕掛けるBoard of Peaceというオキシモロン


もう少し、オキシモロンという言葉に拘ってみたい。権力を持つ組織や人間が世の中に仕掛けるオキシモロンが如何に莫大な影響力を持っているかが、ハッキリと了解できる事例が今世界を席巻している。トランプ氏が仕掛けるBoard of Peaceがオキシモロン語だとの視点に立って今の世の中の動きを観察すれば、世の中を動かす仕組みとその仕組みをしきりに使いたがる権力を持つ組織や人間の性向と性癖の一端が垣間見えると感じている。

トランプ氏がここの所、力を入れているBoard of Peace(以後BoPと略す)活動が向かう先の一つの困った状況が、イランで具体化されてしまった。

権力者がオキシモロンを武器として敢えて使いたがる背景が良く観察できる事例だと感じていること、そして今の中東状況ならびにその危険性が中東だけに止まらず世界全体に及ぶ可能性をもトランプ氏のBoP活動が秘めている点を指摘してみたい。

トランプ氏のBoP活動の経緯と現状ならびにその影響を先ず紹介する。

1) BoPの成立経緯とスイス・ダボスでの世界経済フォーラムまでの推移

2025年9月、トランプ氏はガザ地区の戦乱状況の終結を目指した『20項目の和平案』を提示した。       【ガザの戦争の背景はここで立ち入ることは控える】

10月8日,提示された和平案を基に、イスラエルとハマスとの間で停戦が合意された。
平行してトランプ氏は、和平案第9項のガザの統治と復興を監督する組織として『BoP:平和を目指す委員会(トランプ氏を勘案すると役員会か?)』の構想を初めて打ち出した。

11月17日、国連は安全保障理事会を開き、決議案2803を採択。『ガザ地区における暫定統治組織としてBoPの設立と運営』が国際間で承認された。

2026年1月22日、スイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムでトランプ氏と20カ国以上の指導者が集まり、BoPの憲章(Charter)に署名し、BoPが正式に発足。
しかし、署名された憲章には、懸念される内容が含まれていた。
一つは権限がトランプ氏に集中する内容だったこと(氏を終身議長とし、氏に後継者指名権・新規加盟国の招待権・補助機関の設立権と解散権)が挙げられる。

2) BoPに国連が課した権限範囲の不明確化と変更

もう一つの懸念は、この憲章の内容には国連の意向(BoPの権限はガザ地区の紛争解決に限定)は無視されていた。即ち、署名された憲章には『ガザ地区』を特定する文言が抜けており、BoP権限範囲の曖昧化がなされ、更にそこには世界中の紛争地域で『恒久的な平和を確保する』という広範な地域に権限が及ぶという拡大化と変更が明記されていた。
正に国連は庇を貸して母屋を取られる恐れが生まれていた。

3) BoPの初回正式会合とBoP活動の拡大化に対する主要各国の懸念

2026年2月19日、ワシントンDCでBoPの初の会合が開催され、米国が100億ドル、他の9カ国が計70億ドルの資金を拠出することが表明され、そしてガザ地区の治安維持とハマス武装解除の為2万人規模の『国際安定化軍』の配備構想が議論され、アルバニアとカザフスタン等が部隊派遣に応じることとなった。

フランス、ドイツや英国といったヨーロッパ主要国はBoPへの参加に躊躇・静観している。
トランプ氏が想定するBoPの権限範囲が国連の意向から逸脱していることが、憲章で明らかになり、国連の権限を弱体化させ、多国間主義を弱体化させる活動との懸念が拡大していることが要因の一つであり、また参加には10億ドルの費用が要請されていること、権限が一個人に集中していること等、平和活動の意味合いが『従来のルールと包括的な外交に重点を置く』ものから『参加国選定に個人の恣意性が入り込み、そしてマネーゲーム的様相(平和は金で買える、紛争終結後の復興の仕組み作りも金で買える)』を帯びていることが明らかになってきていることも大きな要因となっている。

更に大きな要因として、ワシントンDCでのBoPの初会合においてトランプ氏は、イランが核兵器開発意欲を抑制する内容の文書に合意することを強く求め、しかもそのことに10日程の期限を設定したこと、そして実際に発言日から9日目の28日に作戦名『壮絶な怒り作戦;Operation epic fury、イスラエルの作戦名は咆哮するライオン作戦;Operation Roaring Lion』でテヘランへの爆撃を始めてしまったことが挙げられる。

4) テヘラン空爆事態発生以降の国際状況

中東に不安定さが拡大している。原油の出発地の不安定化でエネルギー価格は上昇を始め、経済面で不安定化が拡大している。
西欧に対するアラブ社会の対立感情の高進の状況も生まれている。BoPへの拠出金出資を決定していたインドネシアが、国民の90%近くを占めるイスラム教徒の反対運動の活発化により、インドネシア政府が拠出金出資決定を一旦見合わせる事態になったという。
今後様々な動きが世界各地で起こる予感がする。それほど大きな潜在的危険性を持っているのがトランプ氏のBoP活動である

トランプ氏が推進するBoP活動がオキシモロンだとする意見が批判者たちから指摘されている。幾つかを紹介すると、個人主導であり、構成が恣意的であり、紛争解決と解決後の復興機会を商取引のチャンスと捉える姿勢であり、平和を目指すと言いつつ方法論には『最大限の圧力を背景とする』といった力の行使が内在していることが指摘されている。

ここでオキシモロンの意味合いを再度確認しておきたい。

ある言葉がオキシモロンであるかどうかを決める一つのモノサシは、権力を持つ国や企業がある見栄えの良い言葉(ここではPEACE)を選択し利用し彼らは活動を推進する訳だが彼らの活動の実態から判断するとその選ばれた言葉の意味合いが、その言葉が本来持っている伝統的な意味合いとはかけ離れたものであり、全く相いれないものということが一つの目安と言える。

このモノサシをBoard of Peace中のPeaceに当てはめて見ると、トランプ氏が推進する活動の実態におけるPeaceの意味合いは、バランスを欠いた個人主導型であり、構成が恣意的であり、力を背景にした紛争解決であり、復興機会も商取引のチャンスと見るという従来の伝統的なPeaceの意味合いとは、言うまでもなく全く異質のものである。

従って批判者らの指摘『トランプ氏のBoard of Peace活動はオキシモロン』は、極めて真っ当な見方であろう。

以前にも触れたように、権力者がある意図を持って使うオキシモロンという枠組みを、素直にそして単に受け入れてしまうと、権力者にとって不都合な、即ち従来からの伝統的な言葉の意味合いが曖昧になっていき、権力者の都合の良い意味合いを違和感なく受け入れていくようになり、故に当面の課題の焦点が曖昧化されることになり、次第に言葉の上でのマインドコントロールが起こることになる。

イラン空爆開始以降の国際社会の今の状況を見ると、そこには危惧意識と叱責と戦略的支持とが入り混じった状況が発生しているとされ、トランプ氏が敢えて使うBoard of Peace というオキシモロン語的言い回しが国際社会の中で一定の効果を生んでいることが認められる。そこで、それら国際社会の受け取り方の現況を紹介すると、

危惧意識の表明と叱責する例としては、国連のグテーレス事務総長の発言(武器使用への憂慮と国際法違反の指摘及び外交交渉への復帰要請)や中国の発言(事態への憂慮表明とイランの持つ自主権と安全保障権に対する侵害行為とする叱責、並びに敵対行為の即時停止を求める)やロシアの発言(アメリカの外交は、あらかじめ計画していた侵略行為を隠すカモフラージュにすぎない、との批難)や欧州(イランへは核兵器交渉の席に戻るよう要請するとともに、事態の拡大化は全てに対し危険であるとフランスのマクロン氏は指摘)や中東地域(オマーン等の幾つかの国は現行の外交交渉が侵害されていることへの失意を表明し、アルジェリアは自主権に対する目に余る侵犯行為と非難)の発言が挙げられる。

一方、米−イスラエルの行動を支持する例として、イスラエルのネタニヤフ首相の発言(イランの核兵器所持を止める目的の先制攻撃だとの主張)やカナダのマーク・カーメイ首相の発言(イランは地域を不安定化させている代表的な国であり、核兵器を抑止する上で米−イスラエルの行動を支持する)やウクライナのカナダと同意見との発言やナイジェル・ファラージ氏率いるReform UKやスペイン右翼・ポピュリスト政党Voxの発言(反欧米イスラム主義と対峙する行動と位置付けて支持する)が挙げられる。

最後に、3月9日付けAlJazeera掲載のRobinson氏の意見(今、世界は米国なしで行動する時。原題:It is time for the world to move on without the United States)を紹介する。

2月28日米−イスラエルがイランへの戦争を開始。事前通告なし、国連協議抜きの攻撃でハメネイ最高指導者が死亡した。
遡ること2か月前、アメリカはベネズエラのマドゥロ大統領を拉致誘拐していた。
ベネズエラとイランとの二つの暴力行為の間、トランプ氏は66の国際組織(31の国連機関を含む)から撤退し、国連機能を転換させる潜在力を持つと氏が指摘する新たな組織(BoP)の設立に着手していた。
これらの状況や他の状況の展開を観察すると、アメリカが終戦当時自らの選択で作りあげ、そしてアメリカの財力・外交力・軍事力をもとに80年間にわたり維持してきた1945年成立の世界秩序が、今やアメリカの国益に適わないことを示していると言える。
2026年の世界と1945年の世界とはほとんど類似点はない。欧州は復興し、中国は台頭した。カナダ、日本、韓国、そして多くの湾岸諸国は豊かになり、ブラジル、インドネシア、ナイジェリア、インド、ベトナム等の国々も台頭しつつある。
気候変動・パンデミック・テロ等、今日の脅威は国連憲章が起草された当時には想像も出来ないものだ。最早当時とは別物になってしまった世界に対して、旧来のイメージと変わらない貢献を求められることの不自然さをアメリカ市民が感じていることは当然なことであろう。
課題として求められているのは、世界の他の国々がどのように行動するか、である。
多国間主義の果実はアメリカが提供し、他国はそれを享受するだけが従来の構造だった。
欧州諸国はアメリカの安全保障を盾にしながら、アメリカの外交政策を批判してきた。
発展途上国は制度改革を要求しながら、アメリカの資金援助に頼ってきていた。
カリブ海諸国のような小国は、国際法を盾にしながら、その執行にはほとんど貢献して来なかった。
もし私たちがこの制度を真に尊重するならば、今こそ言葉だけでなく、それぞれが持てる資源を投入して、それぞれの国の価値を証明する必要がある。
先ず力強い第一歩は、国連本部をニューヨークから移転することだろう。アメリカは今、多くの国連組織や国際機関から撤退を試み、そして国連に代わる新たな機関(BoP)を作ろうとしている。かかる国に国連本部を留めておく理由はないだろう。
国連の移転という行為は、国際社会がアメリカの参加の意思ありなしに関わらずに多国間主義を維持する意思があり、その為の費用を負担する覚悟があることを示すことになるだろう。
国連本部を置く場所には多くの選択肢がある。ジュネーブとウィーンは中立性が提示できる。ナイロビとリオデジャネイロは、グローバルサウスに中心を置くメッセージとなる。
島国も選択肢の一つで、アンティグア・バーブーダ、バルバドス、ジャマイカ、モーリシャス等が挙げられる。
こうした選択は、この制度が最早、権力者の為のものではなく、弱者の為のものだということを強調するメッセージとなろう。
戦争やその修復復興目的で何兆ドルもの資金を世界は供給している。本部移転費用の捻出が困難であるはずはない。
根本の課題として、国連には新たな資金調達のモデルの構築が求められる。
アメリカは国連の通常予算の約22%を拠出している。そしてそれを上回る資金を平和維持活動に供出している。この資金のアメリカへの依存性が過大な影響力をワシントンに与え、国連はアメリカの国内政治の人質状況が継続してきた。
多国間主義を重視するならば、この歪さを改善する必要がある。
欧州連合、中国、日本、湾岸諸国、そして新興諸国は、国際秩序におけるそれぞれの利害関係に見合った貢献を国際秩序の機能維持のため行うことが求められる。
資金基盤の多様化は国際社会の存続を確実にし、待望されてきたグローバルガバナンスの民主化の促進に寄与するだろう。
現在進行中の危機は、これら改革が緊急事案であることを示している。
イランへの攻撃は湾岸諸国を巻き込み世界のエネルギー供給を混乱させ、脆弱な経済を不況に陥れる可能性があり、より広範な地域紛争を引き起こす危険性が指摘される。
ベネズエラ大統領の拉致はラテンアメリカを不安定化させ、如何なる主権国家の指導者も一方的な武力から逃れられない状況にあるという前例を作ってしまった。
ガザとスーダンの戦争は長期化し、コンゴ民主共和国東部は依然として紛争に巻き込まれ、数百万人の避難民が近隣諸国の対応能力を圧迫している。
いずれの場合も、国連安全保障理事会は行動を起こす能力も意思もなく、弱者よりも強者を優遇する拒否権構造により麻痺状況に陥っている。
資金基盤が拡大化し、最早一国に依存する体質ではなくなり、そして移転が実行され、再び国連が活性を取り戻したとしても、上に挙げた様々な危機状況は一晩で解決できるものではない。しかし、より大きな正当性と、より偏りのない倫理観でもって行動できるようになっている筈だ。そしてある特定の一カ国の地政学的利害によって行動が阻害されるといった懸念なしに国連は人道主義が指し示す回廊を歩んでいくことが出来るだろう。
ただし、改革がなされた後の国連は万能ではないのも事実だが、現在の国連には集団的行動が求められる緊急事態に対し、迅速に対処することが構造的に出来ないという欠点が存在しており、そして行動を起こせない期間が長引けば長引くほど、国連が語る約束事と国連が提供する実態との間のギャップが拡大していき、結果として最も脆弱な国々が国連に抱く信頼感が損なわれていき、国連の多国間主義というものが守るべき価値のある大切なものという人々の思いが劣化していく恐れがある。
気候変動の枠組みの構築は、迅速さが求められるけれども、アメリカはその枠組み条約から撤退している。よって緑の基金や適応資金や損失と損害補償のメカニズムが脅かされている。発展途上の島嶼国やその他気候変動の影響に脆弱な国々にとって、この状況は抽象的なものでなく、命に直結する関心事なのである。
アメリカの参加なしで気候変動対策資金のシステムを構築する道筋は狭いものだろうが、全く閉じられている訳ではなく、間違いなく道は存在しているのである。
欧州は、その持てる資源を使い気候対策のリーダ―の働きを示す必要がある。世界最大のGHG排出国の中国は倫理的観点でのリーダ―を主張したいのであれば、その能力は充分にある。
カリブ海諸国にとっては、国連の変革に対し、謙虚さと野心との両方が求められる。
即ち、カリブ海諸国は長年にわたり国連の枠組みシステムに依存してきた半面、これまで資金拠出はほとんど行ってこなかったという事実から謙虚さが求められるのであり、またカリブ海諸国は国連の場で14票という投票権を持ち、気候変動の最前線で戦ってきているという道義上の権利ならびにカリブ海諸国が自身の力量以上の力を発揮して成果を上げてきているという実績からの野心が求められるのである。
カリブ海諸国、発展途上の島嶼諸国、アフリカやその他の開発途上国が協調して行動すれば、本部移転や資金調達改革決議案の提出や統治体制の再構築を推進できる能力は持っている。
アメリカは依然として世界最大の経済大国であり、最強の軍事力を誇る国である。また、世界の進歩を牽引する多くの研究機関や大学、企業、市民社会組織の本拠地でもある。
多国間主義を信奉するアメリカ人は依然として多く、影響力も大きい。アメリカの新たな関与への扉は開かれておくべきである。
しかし、世界はアメリカの国内政治が自然に解決するのをいつまでも待つことはできない。
我々は、アメリカの参加の有無に関わらず機能する強靭な制度を構築しなければならない。1945年、戦争に疲弊しながらもアメリカは撤退でなく、世界の建設を選択し、以降私たちが受け継いできた世界の基礎を作った。2026年、そのアメリカは異なった選択をしている。
私たちはそれを受け入れ、それがなんであるのか認識すべきであろう。そうすることで、私たちが価値を置く国際的秩序の所有権を最終的に私たちは獲得することに繋がるのである。

トランプ氏が実態として捉えているPeaceの意味合いは、やはりおかしい。
トランプ氏の推進するBoard of Peace活動はやはりオキシモロンであり、単に受け入れてはいけない代物だと捉えたい。
そしてビジネス的なBoard という言葉を安易に国際政治に持ち込む姿勢、全て金次第という姿勢、力で平和が買えるという姿勢、そして世界経済フォーラム等のBoP会合でトランプ氏が背景に良く使うアメリカのみを表した世界地図等、氏の良く使うアメリカファーストの匂いも、やはりかなり気になる。


 
0099 現在の社会状況について(14)   相矛盾する二つの言葉を連ねた物言いの矛盾さが、企業の熱気で溶かされ、その物言いが矛盾なく世の中に受け入れられていることで起っている今の状況 yo-chan 03/10 17:12
 
現在の社会状況について(14)   相矛盾する二つの言葉を連ねた物言いの矛盾さが、企業の熱気で溶かされ、その物言いが矛盾なく世の中に受け入れられていることで起っている今の状況



都会暮らしを始めたいと願う人が増えるという大きな潮流が世界全体を覆い、現在の世界人口約80億人の半分の40億人程が都会で暮らしており、今後100億人に向かう人口の60%以上が都会を選択するとされ、新たに20億人以上が都市暮らしに加わる。今の社会状況を考える際、この潮流が一つの大きなポイントになる。

その都会を観察すると、企業が主導し、行政が追認し支援するトップダウン方式の再開発と称するスマート都市計画があちこちで推進され、スマートビルの乱立が近々目撃されることになるだろう。そして、企業や行政がどう言い繕おうが、その計画には市民参加型のボトムアップ方式のアイデアが組み込まれることは期待できない。このことがもう一つの大きなポイントになる。

そして、別の重要なポイントとして、地球環境の自浄能力には限界があるという事実であり、そのことを人々に知らしめた2009年Nature発表のスウェーデンの環境学者ロックストローム氏らの提唱になるプラネタリ―バウンダリーという考え方がある。

ロックストロームらは、可能な限り恒常性を維持するという地球が持つ安定維持機能を、人間が行う様々な経済活動が侵食し劣化させていく様相を『可視化させる』ことの持つ意味の重要性を下敷きとして、人々に『危機意識』を持ってもらう手段として、地球が持つ自浄システムの中から9つを選定し、それぞれの自浄システムには限界があるとしてそれぞれに限界値を設定したのである。
そして、限界値に対してそれぞれのシステムの状況が限界内なのか、越えているのかを継続的に情報提供するシステムを構築した。ロックストローム氏らのこの『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化』した功績は大といえる。

プラネタリ―バウンダリーの現在地を簡単に纏めると、2009年時点で2つの自浄システムがその限界を既に超えていたと指摘され(地球の気温維持システムと生物圏の統一性維持システムの2つ)、また地球環境内で恒常性が維持されている窒素とリンの循環システムの中の窒素の循環システムが限界値を越えていたとされた。

2015年には、リンの循環システムも限界値を越えて、先の窒素と合わせて地球環境内元素循環システムの限界地越えが確立した。更に併せて大地維持システムも限界値を越え、9つの指標のうち合計4つのシステムが限界値を越えたとされた。

2023年になると、化学物質が主体の新規汚染物質システムが、地球の汚染物自浄処理能力限界を越えたとされ、更に淡水供給システムの維持能力もその限界を越え、損なわれたとされ2015年時点の4つと合わせ、6つの項目が限界地越えとなった。

2025年、更に海洋酸性化システムが限界値を越したと宣言され、9つのうち7項目が越えた状況になっている。そして悪化・劣化の拡大傾向は、今も続いていると指摘されている。

人々の都市暮らし志向の高まり、そして企業の都合のみが優先される今の都市開発計画の稚拙さ、及び田園部や自然生態系への目配せの不足等が組み合わさり、更に人新世時代特有の人間中心主義に偏した経済活動が相変わらず拡大していることから地球の自浄能力を越える環境劣化の拡大傾向は継続している。これらの実態が明らかに示されている『上記のプラネタリ―バウンダリーの現在地』を見ると、ロックストローム氏らの努力で始まった『プラネタリ―バウンダリーの見える化』が、まだまだ人々の危機意識を充分に高めるまでには至っていないというのが今の社会状況の大きな一面だと考える。

この『なかなか危機意識が高まらない原因』の一つではないかと思える世の中の仕組みと要因について考えて見たい。

最近、オキシモロン(oxymoron)という言葉に出会った。

矛盾語法とか撞着語法と訳される言葉で、例えば「負けるが勝ち」とか「小さい巨人」、「公然の秘密」等が例であり、矛盾する意味を持つ2つの言葉を意図的に組み合わせて、新しい意味や深い印象を与える修辞技法(レトリック)を指し、マクベス中の魔女が言う「清い(善)は汚い(悪)、汚い(悪)は清い(善)」も代表的な例である。

実はこのオキシモロンのレトリックを、『世の流れを作り出す』力と知恵を持つ巨大企業や組織が利用しているのであり、このことも現在の社会状況の一面である。

例として、ファースト・ファッション、ファースト・フード、スマート・シティ、スマート・農業(1960年代から80年代のグリーンレボル−ションが前の例)、ギグ経済、サステイナブル・デベロップメント(国連主導のSDGsも内部の矛盾を”当たり前化”させ、”開発”が持つ悪影響の面を曖昧にさせることを目指した運動かもしれない)等が挙げられる。

旧来の伝統的視点から解釈すると、これらの連結語が相矛盾する意味合いの2つの言葉をつなげたもの、即ちオキシモロンに相当することが了解されるが、言葉というものが時代の流れや使用者の意識の流れ、そして企業側の執拗であり巧妙な戦略の故に変化していき、オキシモロンさが徐々に曖昧にされていき、最終的に矛盾性が無くなることすら起こるのである。
結果として、『企業や組織に都合の良い意味合いのみ』が世の中の人々に醸成され、共有化されていくようになるのはある意味必然の流れであると思われ、現実にそのように推移しているのである。

だが、この流れを単に受け入れてしまう世の中には、困った状況が生まれてくる恐れが実はある。この辺りの事に焦点を当てて見たい。

ファースト・ファッションという言葉は、2000年代半ば、ファースト・フードになぞらえて使われ始め、H&Mの日本進出を機に加速したブームに乗っかり定着したとされる。

この言葉が社会に定着する前の従来のファッションの伝統的な意味合いは、スローファッションとかヘリテージファッションとも称されていたように、職人技が光る芸術的センスを競うものであり、『長期にわたる着用』を前提にした耐久性と美的センスを商品設計に組み込んでいるとされる。

一方、ここ20年程の歴史のファースト・ファッションのコンセプトは、業界のトレンドや高級衣料のデザインを下敷きに発想から店頭に陳列するまでの時間を数週間程度に収める『スピード感』であり、『大量生産』による低価格化という入手しやすさを訴えることと言える。
そしてもう一つの大きな特徴として、開発する衣料の設計の時点で『計画的陳腐化』という仕掛けを商品に組み込んでいるということが指摘されている。

よって、従来の伝統ファッションが持つ、ファッションの意味合いを厳密に維持して捉えれば、ファッションという言葉の前にファーストを置くこと、即ちファースト・ファッションという言葉は明らかにオキシモロンとなる。

しかし、現実にはファースト・ファッションは、企業の思惑通りに世の中に受け入れられているのである。

世の中が、素直に受け入れてしまったが為に、その結果として、企業の狙った『計画的陳腐化という仕掛け』も世の中に受け入れられ、消費者らは違和感なく、そして罪悪感なく数回着用しただけで次の衣服を購入するシステムが世の中に定着してしまった。その結果『使い捨て』が『文化』にまで持ち上げられてしまったのである。

延々と続く大量生産−大量消費−大量ゴミ排出という連鎖からなる今の世の中のシステムに、人々は危機感を持つべきなのだが、ファースト・ファッションという言葉のオキシモロンさが意識下に封印されてしまったが故の現状である。

ロックストローム氏らが作りだし、定期的に情報発信している『プラネタリーバンダリーの見える化の仕掛け』の存在を世の中は意識し続けることが求められると考える。

同じく、ファースト・フードという言葉にも、これまでの伝統食に繋がる従来のフードの意味合いと、今はやりのファースト・フードに使われているフードの意味合いとは全く異なることは容易に了解できる。ファースト・フードもまたオキシモロンの例だろう。

そして世の中は、やはりファースト・フードを素直に受け入れ、今やファースト・フードに直結している超加工食品の隆盛はすさまじい。

結果として、本来人々の栄養と健康の維持と改善を願う従来の伝統的フードの意見合いが、現在人々に受け入れられているファースト・フードでは変化しており、そこには一時の空腹さえ満たせば善しとする考え方や、ファースト・ファッションでは計画的陳腐化の組み込みだった企業戦略が、ここでは、『繰り返えされる摂食行動を促す過度のそして意図的な美味しさの仕組み(高塩分・高糖分そして高脂肪分を商品に組み込む)』を超加工食品に組み込んだり、また見栄えの良さと世界の果てまで配送可能となるよう過剰な包装や長期間品質が保存される添加物システムが組み込まれ、付随する食品チェーンシステムが出来上がっているのである。

それだけファースト・フード業界は巨大化しており、ここでも大量生産―大量消費−大量廃棄(例えば包装用プラスチックや一回使用のナイフ・スプーン・ストローのプラスチック問題)というサイクルが厳然と出来あがり、プラネタリ―バウンダリーがここでも脅かせられる条件が着々と進行するシステムが出来上がっているのである。

スマートという言葉をビルディングやシティの前、或いは農業の前に置く企業側の目論みも最近よく見かける。ここでは、スマート・農業に焦点をあててみたい。

農業を考える際にも、世界人口の歴史的推移を把握しておくことが前提として必要で、簡単に触れると、産業革命がボンヤリと姿を現し始めた1750年頃までの人口推移と産業革命がハッキリと姿を現わし生産性の拡大化が確実に可能となった以降の世界人口の流れが全く違うということの確認である。

即ち、1750年以前の世界人口は、微増傾向にあったものの基本的には2−3億人程から7億人以内に収まる程度で1000年程の期間、安定的に推移していた。即ち人類は充分プラネタリ―バウンダリー内に収まる生活を長期にわたり行ってきていた、と言える。

その安定状況が1750年頃から始まる100年或いは150年の期間、産業革命の進捗状況とその効果・影響がハッキリとしてきた期間、人口はほぼ2倍の15億人ほどに上昇し、以降2度の大戦があったものの人口は更に加速度を増して拡大していったのである。
1950年頃の22-3億人が、1960年頃には30億を突破、1980年には44億人、2000年には60億人を優に越し、現在の80億人以上になっている。

この世界人口増加の急加速化を前に、多国籍企業は急拡大する人口増加に対処するには農業領域にも革新技術を導入し、機械化を推進することの必要性を説き、彼らの当時の解答として『緑の革命』を推し進めることを提案した。
インドや中国・メキシコやフィリピン等の戦後急速に人口が拡大していた各国は、多国籍企業が主導する『緑の革命』農業システムを採用することで、食糧危機を脱したことは間違いない事実であった。

その結果、農業・食糧という数千年にわたる伝統領域に『商品化という経済活動のくさび』を打ち込むことに多国籍企業は成功した。

そして、多国籍企業が推進する種子・肥料・農薬・灌漑設備・コンバイン等の機械化を基盤にした所謂工業型農耕法を、各国政府が資金的支援を優先的に行ったことから、今や世界の農業・食糧生産の主流は、かかる工業型農業に確定したとも言える状況になっているのが実態であろう。

更に『緑の革命』という以前の成功体験を前提に置けば、今後の農業ならびに食料安全保障を考えていく際に、多国籍企業が主導する革新的科学技術の推進をベースに置くことが成功の鍵になるとの考えが出てくる訳で、かかる背景をもとに、多国籍企業が現在スマート・農業という新たなパッケージを提示している、と考えられる。

『スマート・農業』というキャッチフレーズは既に世の中の大半に違和感なくそして当然の帰結として受け入れられている感じがしている。
従って、敢えてここで『スマート・農業』のオキシモロン性を取り上げること自体に不自然さを感じるのであるが、やはり大勢がどうであろうが、『スマート・農業』を含めて今まで紹介した『ファースト・ファッション』『ファースト・フード』という多国籍企業がある意図を持って世の中に投げかけているオキシモロン的物言いを、世の中が単に安易に受け入れてしまうと、困った状況が生み出されるということを最後に取り上げてみたい。

1点目は、大量生産―大量消費という企業側のコンセプトを安易に受け入れたことによる『使い捨て』が文化にまでなってしまったことだろう。これを助長しているのが『ファースト・ファッションの計画的陳腐化』の仕掛けにだまされている世の中であり、結果として衣料資源の浪費とゴミ廃棄物の拡大、更に衣料につきものの有害染料の大量消費と垂れ流しによる人を含めての生態系の悪化が懸念される事態が拡大し続けることになる。
そして大量生産に伴う温室効果ガスの過剰排出による地球温暖化の促進という生態系悪化のもう一つの面も加速するのである。

2点目は、生態系における生物多様性が失われていくことを止められないシステムが出来上がっている、ということである。
『緑の革命』で問題とされた生物多様性の損失の課題は、一つに工業型農業が単一の作物を大規模に栽培することを特徴としており、選択された小麦・大豆・トウモロコシ・コメ・パーム油等主に10種程、それ以外は徐々に種の消滅に向かうというシステムが採用されているのであり、またこれら単一栽培作物を使用して超加工食品即ちファースト・フードを製造する企業の論理も、規格化が徹底しやすいように使用材料の数は極力減らしたいという意向があり、生態系における生物多様性を消失させていく推進力を加速するのである。
更に工業型農業のもっとも大きなウェイトを占める工業型畜産農業の問題がある。ここでは飼育施設の狭量さから起こる密集飼育の弊害が指摘されており、疾病予防や成長促進を兼ねて必要以上の抗生物質が使用されている(人向けの利用を数倍上回る利用がされていると言われる)。これに基づく抗生物質耐性菌の発生懸念が従来から指摘され、工業型畜産農業の最大欠点の一つであり、今後医療現場のひっ迫や世の中の健康環境の致命的な悪化も懸念されている。

3点目は、2点目に連動するものだが従来存在していた伝統が限界化し周縁化しそして消滅化していくという懸念である。各地域に伝わる伝統的食材や食べ方が消滅化していくのであり、地域共同体の特徴だったものや活力や文化自体が失われていくのである。
『ファースト・フード』『ファースト・ファッション』『緑の革命やスマート・農業』という物言いを安易に受け入れることでかかる影響が生まれるのである。

第4点目は、企業が打ち出す戦略を安易に受け入れる体質が世の中に広まると、企業が打ち出す物言いが『事実上の標準(de facto standard)』となり、他の選択肢を採用することが困難になっていく所謂ロックイン(lock-in)効果の発生が懸念される。

第5点目は、世の中に諦念化が進行する恐れがある。何をやっても無駄という諦めの心情が人々に覆いかぶさっていくという非常に危険な状況に繋がる恐れも指摘されている。


旧来の伝統的視点から解釈すると、相矛盾する意味合いの2つの言葉をつなげたオキシモロンといえる『見栄えの良い物言い・キャッチフレーズ』を企業は事業拡大のいわば方便として執拗に巧妙に打ち出す戦略を採用する。

それら物言いを企業が執拗に繰り返すことで、世の中は徐々に企業の戦略を受け入れていく流れがどうやら出来あがっていると思われる。
だが最後に触れた如く、企業が執拗に流す『見栄えの良い物言い・キャッチフレーズ』を安易に受け入れることで世の中が向かっている行き先は、決して『望ましい』ものではないのである。人にとっても、全ての生物にとっても、更に全ての生態系にとっても好ましくない方向なのである。

それが事実だということは、ロックストローム氏らが提案した『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化』した『プラネタリ―バウンダリー』の今の状況が、昨年新たに7つ目(海洋酸性化システム)が限界値を越え、即ち全部で9つのうち7項目が越えた状況になっており、しかも全体的に悪化・劣化は拡大する傾向にあると指摘されていることで明らかだろう。

ロックストローム氏らが提示した『人間の経済活動の現在地と地球自浄能力の現在地との状況を可視化したプラネタリ―バウンダリー』の状況を世の中は注視し続けることが、やはり強く求められると考える。





 
0098 >>現在の社会状況について(13) 全ての人々のQOL状況のモノサシとなる『障害調整健康年数』毀損の急拡大から見えるプラスチック汚染の異常性について yo-chan 01/30 12:43
 
現在の社会状況について(13)  全ての人々のQOL状況のモノサシとなる『障害調整健康年数』毀損の急拡大から見えるプラスチック汚染の異常性について


昨年末のCOP30においても地球温暖化に寄与する温室効果ガス(CO2、CH4、NOxやSO2等)発生の基となる化石燃料の使用量に上限を設定し、以降低減化していく工程表に関する国際間の合意は得られず、先延ばされてしまった。

プラスチック汚染についても、状況は同じで、昨年8月のジュネーブにおける国際間協議でプラスチック生産に上限を設定し、以降低減化していく工程表は見送られてしまった。

地球温暖化・沸騰化に及ぼすGHG排出量拡大の問題と、地球環境劣化に及ぼすプラスチック生産拡大・利用拡大の問題とは、全く同じ構造を持つ現在の世の中の最も喫契の課題だと認識しており、『現在の社会状況について』という連続テーマの大きな主題のひとつとして度々取り上げて議論している。

少し脱線するが、かかる世界を覆う止まることの見通しも付かない気候変動課題そしてプラスチック課題という難題に私たちは直面している最中での今回の突然の総選挙。
本来なら地球温暖化に対する政策の違いやプラスチック問題に対する政策の違いが明確に市民に提示され、投票態度に反映できる状況下での選挙が望ましいのだが、突然の総選挙。地方行政府は振り回され、要らん費用1000億円近くが費消されようとし(これだけあれば一体どれだけ有効なことが出来るだろうか)、司法への市民の態度表明権も棄損しつつ進む話も聞こえてくるし、何にもまして何を目ざすかさえ明確化せず、ただただ『御しやすい』衆院構造になるよう『白紙委任状に署名よろしくね』を推し進める政権与党の横暴(最高行政権保持者は人気投票にすり替えようとの横暴さえ透けて見える)に、NOの意思表示が一択の選挙と考えたい。話を戻すと、

今回、Deutsche Welle にプラスチックの問題の捉え方(マクロプラスチックやマイクロプラスチックやナノプラスチックの大量流出の問題点に焦点を当てた見方が多い中で、プラスチックのライフサイクル全体から生じる影響に焦点を当てていること、そしてその影響を数値化している点が面白い)として興味深い読み物が掲載されたので、ここに紹介したい。

表題は、『プラスチックの流出が2040年までに倍増し健康被害が懸念される』
(原題:Plastic emissions could double health damage by 2040)
DW, 2026/1/27,  Jeannette Cwienk氏記す

現在のプラスチック生産の傾向が今後も続くとするとプラスチックの流失の増大により、今後数十年で健康被害の恐れが倍増する懸念がある、とする新しい研究が発表されている。

プラスチックは至る所で使われており、人の臓器中にも、深海深くにも、はるか北極にも確認されているが、最近発表された研究によると、もし現在の傾向が修正されなければプラスチックによる健康被害は2倍以上に拡大するだろうと警告している。

その健康被害拡大の主犯は環境中に流失・拡散するプラスチックごみやマイクロプラスチックだけではなく、プラスチックが生まれ・輸送され・使われ・リサイクルされ・廃棄され、そして廃棄後に辿る行方まで含めたプラスチックの全ライフサイクルを通して発生する排出物全部もまた犯人だとしている。

そして今回の研究は後者のプラスチックの全ライフサイクルから生じ、健康に悪影響を与える排出物に焦点を当てたものである。

プラスチックの99%は化石燃料を原料に作られる。そして1950年代以降に急拡大しているプラスチックというものが、包装材料・家具・衣服・建築材料・医療器具や自動車タイヤ等々と、今やそれ無しでは生活が成り立たない程に世の中に広まっている。

Lancet Planetary Health誌に掲載された研究の試算結果によると、8300万年にわたり全人類が辿ってきた健康状態の歴史を、2016年〜2040年の間に既に生じたか、或いは今後生じるだろうプラスチック排出物総量がぶち壊してしまうだろう、と指摘している。

プラスチックのライフサイクル全工程中に生じる影響力と人類の健康状態が保持・維持されてきた年数とを比較するという点で、今回の論文は新しい視点を提供するものである。

今回の論文が取り上げた影響因子としては、石油・天然ガスから生じるGHGs、プラスチック生産及び輸送中に発生する微小飛散粒子や生産時・リサイクル時やゴミ廃棄時に排出される有毒化学物質が含まれている。

これら汚染物質は、例えば呼吸器系や心血管系の疾患といった直接的健康被害はもとより、気候変動への影響や気候変動推進に基因する間接的健康被害も起こすのである。

アメリカ・ルイジアナ州では、200か所以上の石油化学プラントが列をなしプラスチックを生産し、その一帯が『発がん通りCancer Alley』と呼ばれ、最近の調査では全米平均値に比べてがん発生率が11倍に達することが指摘されている。

かかる事実が認められるにも拘らず、そのルイジアナ地域でも、また別の地域でもプラスチック生産は跳ね上がる勢いで拡大している。

OECDの予測では、プラスチック生産量は2060年までに3倍増に近づくとされ、生産が増えれば、並行して排出量も増え、結果健康リスクも拡大することになる。

この傾向がどのような事態を生じるかを理解するため、今回の研究では6つの将来にたどるだろう道を設定し、2040年時点における予測される健康状態を調査している。

(健康が損なわれる年数を計測する)

幾つかの要因・因子の効果を評価・測定するために、研究者らは標準公衆健康状態の目安となるモノサシとしての『障害調整生存年数(障害を持つことで影響されることを組み込み調整した健康生活が期待できる年数disability-adjusted life years; DALYs)』法を利用している。

ここで、1年のDALYとは、例えば乳幼児期の死亡や病気によりQOL(Quality of Life)の毀損といった健康生活上の1年の消失を意味する。

最初に、研究者らは各シナリオにおいてどれほど多くのプラスチックが世界に存在しているかを評価し、そして、研究者らは、それら推察した量のプラスチックの存在により排出される汚染物によって何年の健康生活年数が毀損されるかを計算している。

研究者らは基準年を2016年に設定し、2016年当時のプラスチック量をもとに計算した所、約210万健康生活年数が2016年に毀損した、との計算値を得ている。

経済状況に大きな変化がない、即ちプラスチック生産量・リサイクル率・廃棄物からの流出性に大きな変更がないシナリオにおいては、プラスチックの健康への打撃は今後大幅に上昇するという結果が得られ、2040年時点において年間の健康生活年数の毀損は2016年に比べて2倍以上の450万年を超える毀損発生としている。

プラスチックへの依存が低減出来、リサイクル率が向上し、廃棄物管理運営がより良い状況に今後なるという最も楽観的なシナリオに社会が移行すると仮定した場合でも、2040年には計算上260万健康生活年数の毀損になるとし、最も楽観的なシナリオに社会が移行する場合でもある程度の健康生活年数の悪化が起こるとしている。

(プラスチックの気象状況への打撃)

2040年時点で予測される400万年以上の健康生活年数の毀損ということは、大まかに言うと地球上で生活する全ての人の一人当たり5時間の健康生活が毀損されることに相当するとハンブルグ大の研究者ウオルター・リード氏は指摘する。

ライフサイクルを通じて、プラスチックは人為的原因で発生する温室効果ガスの約4.5%分を排出する計算になると、リード 氏は語る。
この割合はエネルギー生産分野や農業分野からの排出に比べれば小さいものであり、通常の大気汚染で引き起こされる打撃に比べても小さいものであるが、しかしそれでもなおプラスチック汚染は大気汚染の主要な要因であり、今後も続く急速な利用拡大を考慮に入れれば、政治的な行動を緊急に取る必要がある、と指摘する。

潜在的健康リスクを有する幾つかの要因による影響の大きさに関する世界全体のデータが欠けていることから、今回の研究対象にはそれらの要因は除外され計算されている。
例えば、この理由からマイクロプラスチック粒子とナノプラスチック粒子の潜在的な影響は組み込むことが出来ていない。

また、プラスチック生産時に練り込まれ、日常の利用条件下で滲出し・流出する有毒化学物質もまた組み込むことが出来ていない。

従ってプラスチック汚染に基づく実際の健康年数毀損リスクは、今回の研究で計算された結果より大きいということ、即ち今回の計算値は氷山の一角のみから見える予測と言える。

プラスチックの生産から利用そして廃棄・廃棄後までを含む全ライフサイクルを通じて起こる人の健康に及ぼす危険性が著しく大きいという懸念に対する証拠は充分あり、迅速な対応策を取る必要のあることは明白だとしている。
しかしながら、プラスチックの有害性情報が蓄積する一方で、生産は拡大を続け、汚染は世界中に拡大しているのである。

(プラスチック生産量削減が何故重要であるのか?)

プラスチックによる健康危機の回避に最も効果的な方策は新たなプラスチックの生産を削減することである。
また各国はプラスチックの消費を削減し、不必要なプラスチック利用を停止し、再利用システム強化に舵を切る必要がある。

プラスチック利用は代替えが困難な用途にのみ限定し、プラスチック製造時に有害添加化学物質の使用を禁じる必要があると指摘している。

理想的に言えば、世界全体に法的拘束力が広く強く発揮される状況の下で、プラスチックの全ライフサイクルに対処すること、プラスチックに関連する化学物質を考慮の対象とすること、そして政策は国際間で共有され、情報の交換も国際間で共有される必要がある。

国際間のプラスチック協定に関する国連主導会合が昨年ジュネーブで開かれたが、プラスチック生産量を削減する案の成立を産油国側が妨害したことで成立できていない。

プラスチック汚染に対処することは、個人レバル・組織レベル・地域行政政府レべルそして国家政府レベルで出来ることは多くある、と研究者らは指摘している。




 
0097 >現在の社会状況について(12) 世の中は多国籍企業主導のUPFsを甘く見過ぎている yo-chan 01/19 12:27
 
現在の社会状況について(12)   世の中は多国籍企業主導のUPFsを甘く見過ぎている


超加工食品(Ultra-Processed Foods:UPFs)の現状をまとめると以下のようになる。

UPFsとは、ブラジル・サンパウロ大学モンペイロ教授らが主導的に考案した食品を加工度の多寡・強弱で4つに分類したNOVA分類法において、その4分類の一つがUPFsである。

UPFsはその特徴として、自然食材を構成栄養成分ごとに一旦分画し、即ち蛋白質や糖質や脂質等を別々に分画・抽出し、その後各分画成分ごとに工業技術ならではの、家庭の台所では行うことが出来ない、例えば超高温・超高圧といった物理的処理や化学的処理(水素添加や加水分解や化学修飾が典型例)や酵素処理等の生物学的処理などの特異な改変工程・精製工程を経て得られる各精製・改変素材を、再度『新たな食べ物、即ちUPFs』とすべく配合・調合し、物理的に(例えばエクストルーダー利用)新食品に組み立て上げる(この組み立て工程時に着色や着香料・乳化剤・増粘多糖類・酸化防止剤・保存料・離型剤その他の食品添加物が見た目や嗜好性を高めるために、大量で機械的な生産をスムーズに進められるように、そして商品をくまなく世界隅々まで届けられる長期保存性を持たせるべく恣意的に加えられる)ことで作り上げられた食品という極めて特異な性質をもっている。

モンペイロ教授らがそれら特異な特質を持つ『新食品』に敢えてUPFsという名称を与え、それ以前に萌芽の時期があっただろうが敢えて言えば大戦終了後1950年頃から突如として世の中に広まり始めた『工場大量生産型新規食べ物』である『超加工食品』が尋常ならざる特質(即ち、人々が個人単位・家族単位程度で調理し摂食してきた食べ物とは全く異質であることは上に述べた特質から明らかであろう)を持っていることの重要な意味合いを世の中に知らしめるべく、敢えて従来からの食べ物と明確に区分けしたのであろう。

【UPFsのもう一つの特徴の食物繊維不足やミネラルやビタミン等の微量栄養素不足が生じる原因は上記の分離・分画、そして特異精製工程過程中でそれら有用栄養成分が抜け落ちてしまい、UPFsが油脂リッチでカロリー過多になったり、糖質リッチで酸化ストレスを人々に与え勝ちな食品になったり、その一方で食物繊維不足・ミネラル不足・ビタミン不足な食べ物になり、いわゆる『2重の栄養失調状態(カロリー過多・食物繊維不足・ミネラル不足・ビタミン不足のUPFs過剰摂食により生じる太りすぎや肥満もある意味栄養失調と見なし、従来の栄養失調の症状だけが問題ではない時代が到来しているとの認識)』という健康上の懸念が生まれるのである。】

UPFsの簡単な見分け方は、パッケージの表示成分中に一般家庭では目にすることがない素材名(例えば、乳化剤・増粘剤・保存料・着色料・香料等)が表示されていることを確認することである。

モンペイロ教授らが、4つの分類の中の大きな一つとしてUPFsを名指しし、そして焦点を当てようとした背景を考えることが今回の主題である。

戦前も、そして戦中も技術の革新を各国が競い、戦争まで引き起こしながら世界が大きく変転していったという動因・推進力が、戦後も変わることなく継続していることが一つの背景状況である。科学にはそういった側面があり、大国主義者や企業論理がそれを利用して世の中が動かされていくという推進力である。

一方、革新技術競争の拡大のあおりを受ける形で『伝統』というものが、そして『地域社会』というものが『周縁化・限界化・消滅化』へと進むというシステムが構築され、そして放置されているということがもう一つの今の世の中の特徴であり、科学が持つ一つの面がそれを促進している。

食品産業界もご多分にもれず、技術的には1960年代から1970年代の凍結乾燥技術や脱水技術等が開発され、販売方法としては同時期にスーパーマーケット網が社会に進出していくこととなり、それらを背景としてUPFsの基盤が先ずは作られていった。
例えば、アンディ・ウォーホールが1962年に発表した作品『キャンベルのスープ缶詰』がUPFs食品時代の幕開けを象徴する出来事だったのだろう。

1950年代から1960年代、ハンバーガーなどが北米で黎明期を迎え、1970年代から1980年代にかけて世界市場化へと展開していき、UPFsは拡大期を迎えた。
ファーストフードや袋入りスナック菓子の大量生産が、食品加工業界の規模・利益拡大の推進力となることが明らかになっていった時期と言える。
北米・西欧そしてオーストラリアを中心にして始まったUPFs市場は日本を始めとする諸国に膨張していく状況が始まり、例えば市場規模は1989年が5700億米ドルだったのが2019年には1.1兆米ドル以上へとほぼ倍増した。

重量ベースでその伸長を見ると、2013年には9200億kgのUPF生産が行われ、それが2021年には1兆kgに達している。

この1兆kgに達したという事実を少し考えて見たい。

現在の80億人強の世界人口をもとにすると、1兆(10000億)kgのUPF は一人当たりに計算すると年間125kg分となる。1日当たり342gが世界の人に割り当てられる計算になる。

そしてこの342gという量の持つ意味を考えると、従来の新鮮で栄養価値の高い食材(NOVA分類で言う未加工食材と最小限の加工を受けた第一分類食材)が、1g当たり1.0〜1.2カロリーを持つとされるのに対し、カロリー密度が高いことを特徴とするUPFsは1g当たり2.0〜2.3カロリーを持つとされ、これを基に上の一人当たり1日342gに当てはめると、そのカロリー数は684〜786.6カロリーとなる。

成人一人の摂取カロリーを2000と仮定すると計算上、34.2〜39.3%となり、2021年時点という少し古いデータをもとにしても1日必要カロリー数のほぼ35〜40%分がUPFs食品から摂食してしまう状況が既に出来上がっていることを意味し、この現実が今の世の中の健康上のベースとなってしまっていることを世界に暮らす人々は強く認識する必要があると思う。

そしてこの世の中の流れは今のところ全く変わることなく、超加工食品業界はその生産を着々と拡大していくことが予測されているのである(2024年〜2029年の期間の拡大は年率9%と見積もられている)。

年率9%の拡大が今後6年続くと、計算上ではあるが、1日一人当たり342gが570g程に増大することになり、やはり計算上ではあるが1日摂取カロリーの60%以上をUPFsが占める時代が目前に迫っているのであり、この点は強調し過ぎることがない位に重要な事柄と考えている。

【アメリカや英国がUPFs摂食率の点でトップを競い、成人でいえば60%近くに達し、若年者では62〜67%に達しているとされ、日本も全体では現在25〜30%であるが、急速に食の西欧化と伝統食離れが今も変わらず進んでいることから、更に高い割合に近々なっていくことは確実であろう】

人の胃袋には限りがあり、UPFsが幅を利かせれば利かせるほど、その分従来の伝統食材は圧迫され、それにより個々人にとっては健康上の懸念が高まり、世の中にとっては格差の拡大も合わさった形で、健康食材に対する入手性の格差や食習慣の偏向化・劣化の拡大が推進され、社会不安への懸念が高まることになる。

このUPFsの現在地及び今後の行く末の世の中の劣化を、いち早く認識し科学の世界から出来る行動と対策を行ってきたのがモンペイロ教授らの功績だと思っている。
【科学が持っているもう一つの面の代表例がここに表れていると考える】

但しこのUPFsの状況の推移を、そしてこの推移を引き起こしている世界の革新技術開発競争を世の中の進歩の姿だと肯定的に評価しようとする考えもまた存在している。
この考え方の大本には『経済の発展という社会の重み』と『科学的知識の蓄積という事実に立脚しての正当であり妥当な社会のシステムの変更への科学界からの提言の重み』とを比べた際に、前者の『経済の発展の重み』を優先するという思想があり、それが選択され、そして存在しているのだろう。

それを象徴しているのがトランプ主義的な思想であり、世界の巨大企業が立脚している思想なのであろう。即ちトランプ主義者らは『正当で妥当な科学的知識の蓄積事実』を『茶化したり、捻じ曲げようとする』のである。
トランプ主義の煽りを受けつつある科学界の窮状は前に紹介した。

それでもなお『科学界からの知識の蓄積が為されていく行動』が『健全な世の中のシステム構築』の為にはやはり重要であり、必要なことだということを示す例として、モンペイロ氏を始めとするUPFs関連の科学的研究の全景を紹介する報道が最近発表されているので、以下に紹介したい。

紹介する記事は、『超加工食品が人の全ての主要臓器に悪い影響を及ぼすとする研究が発表されている』
(原題:Ultra-processed food linked to harm in every major human organ, study finds)
The Guardian, 2025年、11月18日、アンドリュー・グレゴリー氏記す 
以下に内容を記します。

世界最大規模で調査を行った結果、超加工食品の摂食が世界の人々の健康と幸福な生活に脅威となる、と警告している。

UPFが人の体の全ての器官・臓器に危害を与え、世界の人々の健康に甚大な脅威となっていることが、新たな世界最大規模で行われた調査で明らかとなった。

全ての大陸の子供たちや成人の食事において、新鮮な加工されていない食べ物、或いは加工度の低い食べ物を、UPFが急速に駆逐し置き換わりつつある。その結果、肥満や2型糖尿病や心臓疾患や鬱といった数多くの疾患の拡大化の恐れが高まっている。

世界規模でのUPFの摂食割合の急増は、消費拡大を煽る一連の刺激的であり攻撃的な企業の広告戦略、そしてUPF問題に関する科学的議論の活発化やUPFを規制するといったことを批判し反撃する企業の戦略によって引き起こされており、結果として企業に莫大な利益が生れている、と研究論文は指摘している。

Lancet誌に公表された一連の3つの研究報告からなる知見は、調理済み食品(ready meal)・シリアル類・プロテインバー(protein bars)・発泡飲料(fizzy drinks)やファーストフーズといったUPF食品を過大に摂食する数百万人の人々の調査から得られている。

UKやUSでは、食事の50%以上が既にUPF食品で占められている。そしてある人たち、ことに若い人・収入の少ない人・恵まれていない地域に住む人、は食事の80%程の多くをUPFが占めるまでに至っている。

43人の専門家の調査結果から、UPFを多く含む食事というものは、過食を促し、必要な栄養価を取ることが出来ず、そして有害な化学物質や添加物をより多く体に取り込むことに繋がるとされる。

長期間の疫学調査を行った104の論文を解析したところ、92の論文が1つまたは複数の慢性疾患の発症並びに早期の死亡とUPFの摂食との間に相関性があることを認めている。

ランセットの3つの一連の報告の著者の一人のモンテイロ教授(サンパウロ大公衆衛生学)は、得られている科学的知見はUPFに緊急に対策をとる必要性のある理由を強く示している、と語る。
『一連の報告の最初の報告によると、UPFsの摂食が人体の全ての主要臓器に悪影響を及ぼすことを明らかにしており、そこで提示された証拠は人間がUPFsを消化する観点において、人間は生物学的には適応できていない、ということを強く示唆している』

モンテイロ氏と共同研究者らは、食品を分類することの必要性・重要性を基にNOVA分類法の考案に辿りついたとされる。

【第一分類:未加工食材と最小限の加工を受けている食品、第二分類:第一分類の材料をもとに簡単で安価で伝統的な手法で加工した例えば油や塩や酢や砂糖・澱粉等といった味付けや調理に使われる食材がこの分類に入る、第三分類:第一分類の食材を第二分類の調味料等を添加することで作られる加工食品を指す、第四分類:UPFs】

UPFsは、家庭の台所では作ることが無理であり、工業的プロセスを使って初めて作ることが出来る素材である例えばフレーバー類や乳化剤や加工澱粉や蛋白単離物や着色料を使用することで出来上がる食材を組み合わせて作りあげられるもので、ソフトドリンク・袋入りスナック菓子類があり、それらは非常に美味しく、高カロリーであり、手ごろな価格であり、何処でも簡単に購入できるという特徴を持っており、だが栄養的には質の劣るという特徴も併せ持つ食べ物なのである。

そして、結果的にUPFsは新鮮な食品や伝統的食事に置き換えられるようデザインされ、販売されているものであり、企業の利益が最大化されるようにデザインされて販売されている、とモンペイロ氏は指摘する。

モンペイロ氏らの研究に批判的な人は、NOVA分類法の曖昧さを指摘し、そして砂糖や塩分の摂取量を減らすことを目指す政策を推進すれば指摘される健康上のリスクは回避できると主張する。

モンテイロ氏らは、かかるNOVA分類法やUPFに関連する批判的な人の科学的根拠の妥当性を認めている。即ち長期間の臨床的テストや地域的なテストが不足している点やUPFsの悪影響のメカニズムの解明が不足している点やNOVAには様々な栄養的価値をもつサブグループが存在している点をモンテイロ氏らは認識している。

その上でモンテイロ氏らは、今後に行う必要のある研究の存在が、UPFの危険性への対策の迅速な着手を妨げてはならないと指摘し、そして彼らのこの議論の正当性・妥当性はこれまでに蓄積されている現在の科学的知識でもって充分に正当化できるとしている。

『UPFsの摂食量の拡大ということが、世界の食事風景とシステムを変えつつある。新鮮で加工度合いの少ない食材や食べものが駆逐されつつある。 人々が何を食べるかということに繋がる世界的なUPFsの拡大化という変化が、多国籍企業体の強力な力で推進され、彼ら企業体に爆大な利益を生んでいる。そして彼ら多国籍企業体は広範囲に及ぶ組織的広告宣伝運動とロビー運動という両面における活動を精力的に展開することで、健康的な食生活を支援する公衆衛生に関わる有効な政策作りやその実践の妨害を行っている』とモンペイロ氏は懸念する。

ランセット誌に掲載された2番目の論文ではUPF食品の生産とUPF食品業界の市場構築作業及びUPF食品の摂食を規制し削減する政策の提案を行っている。

一部の国では食材の構成成分を一旦分画し、それぞれの構成成分を精製した後に目的に合わせて再度組合せて作ることを背景に持つUPF食品を規制する条例が導入されているけれども、公衆衛生上の対応に関わる世界の状況は、というと未だ黎明期の段階であり、数十年前のたばこ規制の黎明期の時期に似た状況と言えると指摘している。

ランセット誌に掲載された3番目の論文ではUPF食品の現在の拡大傾向を後押ししている推進力となっているのは世界規模の企業活動が中心であり、世界に居住する個々人がUPF食品を『自身の意思で優先的に選択する』ことでかかる状況が推進されている訳ではない、と指摘している。
【自身の意思で優先的に選択している、と人は言うかもしれないが、その方向に誘導するシステムが存在し、その悪知恵と腕力は物凄いものであるが故の選択と言える】

今や『慢性疾患のパンデミック』と言ってよい状況が進行しており、その主因が世界の人々の食生活に侵入してきているUPFだと言える。そしてこの背景に食品業界のなにを置いても利益第一を優先する考え方があると著者らは指摘している。

健康を守る上での主なる障害は『批判に対しては、それを跳ね返し、規制に対しては、それをブロックする』といった食品業界全体の政治的な活動が存在していることである。
それら活動はフロント企業グループの世界的ネットワークを通じて、多種多様な利害関係者が行う運動を通じて、資金援助をもとに研究活動に恣意性を組み込みたいという思惑を通じて行われており、そしてそれら全体を多国籍企業体が連携して取り仕切っている。

ランセット誌掲載の論文の共著者であるノースカロライナ大のバリー・ポプキン教授は『不健康な添加物を抑制し、より有効な規制を達成する上で有効な食品包装の前面表示の中に飽和脂肪含量・糖分含量・塩類含量と共にUPFsの存在の明示化を要求したい』と語る。
また著者らは、特に子どもを対象にした広告に対する厳しい規制、学校や病院等の公共スペースにおけるUPFの禁止、スーパーマーケットでのUPFの販売制限規制と陳列方法の制限規制も提案している。

成功例の一つに、ブラジルの国家学校給食プログラムがあり、このプログラムでUPFはほとんど廃止され、2026年までには食品の90%は新鮮なもの、或いは最小限の加工を受けた物のみとする義務付けが行われることになっている。

この一連の研究に関与していない研究者らは、これら一連の研究における証拠の検討内容をおおむね好意的に捉えているが、しかしUPFに関する研究はまだ必要であり、そしてUPFと健康上の危険性との関連性の指摘は因果関係性を意味するものでない可能性の注意を指摘している。

以上。

世界のUPF食品業界は数社の多国籍巨大企業(Nestle, PepsiCo, Unilever, The Coca-Cola Company, Kraft Heinz Co.、Mondelez International, Danone, General Mills, Mars, Kellogg’s)に支配されている。
UPF以外の加工度合いの低い食品業界や基本食材を扱う業界に比べUPF 食品業界の利益率ははるかに高く、このことは上記の多国籍巨大企業の中のいくつかがUPFの利益が占める割合が3分の2を越えているという事実(2022年時点の実態)で明らかである。

高い利益率の例としてKraft Heinz, General Mills, とNestle 社は平均営業利益率が過去5年間を通じて17%を超えており、畜肉品販売等の他のビジネスの営業利益率が6%程と比べると明らかにUPFsは儲かる商材なのである。

UPFsの摂食過多傾向と健康上の懸念、例えば肥満・2型糖尿病・心臓疾患・ある種のがんや認知症との因果関係については研究が進み、かなりの確度で因果関係ありと言えるところまで来ているのが現状と言える。
但しまだ研究すべき点が残っているとの指摘があるのも事実であるが、モンテイロ氏が指摘するようにそれがために迅速な対策の着手が妨害されるべきでなく、また迅速な着手が妥当であり正当な政策だということを支持する知見は既にあるとの氏の考えに立脚してこの問題を考えたい。

安全側に身を置くことの重要性を斟酌すれば少なくともUPFsの現状とこれから予測される世の中のUPFsの暴走状態を止めることが優先されるべきであろう。

UPFsの優先に歯止めをかけることが『自由であるべき経済の発展』を『意味無く妨げる犯罪行為』だと考え現状を追認する姿勢を優先すべきなのか、あるいは『迅速な対策の着手』を優先すべきかの岐路に私たちは今現在立っている。

人々の健康の安全保障・地域社会の健全性とその安全保障、更にやはり食べるという行為は保守的なものであり、時代に合わせて変わる部分の存在は認めるものの、長く伝わる保守的な伝統食や伝統的な食べ方が『周縁化・限界化・消滅化』まで進んでいくのであれば、やはり明らかにおかしい。そんな極めて常識的な視点を持ち続けたいと思う。

科学の一面を利用して大国主義者や企業の論理だけが表舞台で脚光を浴びるだけで動く世の中になりがちなのが世の常とはいえ、それに棹差すもう一つ面の科学の役割に是非脚光を当てたいものであり、それが出来るのが・求められるのが私たち市民であろう。
アセモグル先生・ロビンソン先生が言う『健全社会に居続けるために市民側に走り続けることが求められる活動』がここにもあると指摘したい。


 
0096 現在の社会状況について(11)企業も社会もプラスチックを甘く見過ぎている yo-chan 01/09 15:17
 
現在の社会状況について(11)企業も社会もプラスチックを甘く見過ぎている

化学合成品が出現する以前から、天然ゴムや琥珀(amber:植物の樹脂)やシェラック(shellac:ラックカイガラムシがマメ科クワ科の木に寄生し樹液を吸い分泌した樹脂)やべっ甲等の自然物が加熱により、流動化し、成型性を増すという性質が利用され、冷却後に様々な形状の宝石やピアノ鍵盤やビリヤード球や櫛といった造形物を与えることから重用されてきた。これらの物質群がプラスチックのもとである。

1800年代になると、アメリカ・欧州の上流家庭ではビリヤード台を持つことがステータスを象徴するようになり、自然界に頼る材料だけでは需要を満たすことが困難となり、大量に入手できる材料を求める欲求が高まったこと、並びに1800年代までにかなり化学技術が蓄積されていたこともあり、天然素材に代わるプラスチックを化学の力で獲得する土壌が生れていた。その後の展開事例を挙げると以下になる。

1862年:Alexander Parkesはパークシン(Parkesin)と命名の人工プラスチックを作成

1867年:ニューヨークタイムズが、象牙の需要増から象の絶滅の懸念を報じ、自然物でない合成品プラスチックの必要性が高まり、John Wesley Hyattがセルロイドを発明し上市

1907年:セルロイドが可燃性であり、それを改良すべくLeo Baekelandがベークライト(コールタール製造で発生する廃物のフェノールとフォルムアルデヒドの利用)を製造

1920年代:ポリスチレン(発泡樹脂や使い捨てナイフやスプーン・CD等 パッケージ)とポリ塩化ビニル(PVC:レコード盤や塩ビパイプで汎用され、現在世界第3位のプラ)が、

1933年:ポリエチレン(強度・柔軟性・耐熱性で優れ、現在最も利用されている)が、

1935年:ナイロンと呼ばれるポリアミドがDuPont社から、

1938年:テフロンが世の中に登場

軽くて丈夫、加工・成型しやすく、大量生産が容易なことから安価であり、湿気や電気を通しにくく、水や薬品に強く、そして透明性があり容易に着色出来る等々の特性がプラスチックにあったことから、以降プラスチック時代が進行し、現在のプラスチックが蔓延する社会が生れたことは言うまでもないだろう。
今はまさにプラで溢れかえっている時代になっている。

今回は、プラスチックが溢れかえっている社会が果たして健全だ、と言えるかどうか、を改めて問う形でプラスチック社会が抱える問題点を中心に纏めて見たい。

1.(生産量の推移の点から)
1950年に150万トンレベルだったプラスチックの総生産量は徐々にそして着実に上昇し、1970年に3000万トン、1980年に6000万トン、1990年に1億トン、2000年に1.8億トン、2010年に2.5億トン、2022年に4億トンへと爆発的に拡大している。
この傾向が続くと仮定すると2050年に8.84〜11億トン、2060年に12億トン以上の総生産量が予測され、生産開始以降の生産量を全て合計した総累計で考えると260億トンのプラスチックが世界に溢れている時代になっていると予測されている。世界に居住する一人当たり約3トンが背負わされている勘定になる。

2050年時点における海に流れ込むプラスチック量の予測量が如何に莫大なものであるかは、その予測総重量が海に泳ぐ魚の総重量を上回るだろうという事実が物語ってくれるだろう。
この試算は2016年2月15日付けBBCニュース(Will there be more fish or plastic in the sea in 2050?) で紹介されており、エレン・マッカーサー財団と世界経済フォーラムが海に流れ込むプラスチック量を調査した「新しいプラスチック経済(The New Plastic Economy)」なる報告書がこの予測値を記載しているという。

2.(マイクロプラスチック及びナノプラスチックの量的・数的な蔓延状況の点から)
プラスチックは非常に安定であるが、自然界に流れ込むとその環境の下で徐々に破断破砕分解し、例えばプラ袋は、50cm以上の大きさのものはメガプラスチックと呼ばれ、更に日光や物理的力で破砕破断が進み、25o〜50cmになるとマクロプラスチック、5mm〜25mmになるとメゾプラスチック、1μm〜5oのサイズになるとマイクロプラスチック(microplastic, MP),1μm以下のサイズになるとナノプラスチック(nanoplastic, NP)と呼ばれるものへと変化していく。

メゾプラスチック以上の大きさのプラの生態系への悪影響(海鳥海亀の窒息やカラマリ等)は大いにあるが、目視出来ることから捕捉し除去することは容易であり可能である。

視認が難しく、一旦生態系に拡散されると捕捉が困難であり、更にその微小性から食物連鎖に取り込まれやすいという特徴を持つことから、マイクロプラスチック(MP)とナノプラスチック(NP)の二つが生態系の健全性並びに全動植物の健康度合に非常に大きな影響を与える可能性を持っている。
かかる観点から、如何に社会がMPとNPに覆われているか、如何に社会がそれらの危険性に直面しているか、を先ずは以下に紹介したい。

2025年1月29日付けStanford Reportの記事(What’s the deal with microplastics, the material that ‘never goes away’?)によると、推定1000万〜4000万トンのMPs粒子が毎年環境に放出されており、2040年にはその数が倍増する可能性がある、と報じている。

また温帯から亜熱帯の北大西洋のNP粒子重量を試算した研究がある(Nanoplastic concentrations across the North Atlantic, National Library of Medicine, 2025年7月)。それによると北大西洋の混合層に存在するNPsの総重量は現在2700万トンと推定され、このNP量は大西洋全体または世界の海洋のマクロプラスチックとMPの推計総重量と同程度かそれを上回る量になり、重量でなく粒子の数から判断すればナノプラスチック(NP)が海洋プラスチック汚染の大部分を占めると結論付けられるとしている。

そしてその総重量は2040年には倍増すると予測されており、重量ベースで5400万トンとなり、NPの微小さからするとその粒子数は天文学的な数になるのである(因みに1gのNPには少なくとも数100万〜数兆個の微粒子が含まれると試算されている)。

海洋の表層水面には10の18乗(米式)あるいは10の30乗(英国式)個の海洋微生物(海洋における光合成能力並び食物連鎖の起点となる重要な生態系を構成)が成育し浮遊しているとの試算があり、2700万トンや5400万トンというNPの粒子数は海洋に生育する微生物数に数的に十分拮抗できる無視できない困った状況が既に生まれているのではないかと推測できる。【1000万トンのNPで、1g1兆個の粒子数と仮定すると、10の29乗個】

3.(MPとNPが持つ人の健康に対する危険性の点から)
2025年1月29日付けStanford Medicineニュースセンターに『マイクロプラスチックと私たちの健康:科学が示すこと(Insight Microplastics and our health: What the science says)』という記事がある。少し引用すると、今、成人は週にクレジットカード1枚分のMPを摂取していると、科学者は推定しているという。

科学者らは動物を使った実験やヒト細胞を用いた実験を行っており、それらの知見からMPの暴露が及ぼす人体への影響を推定し、MPの暴露が人のガン発症や心臓発作発症・生殖機能への障害やその他多くの疾患と関連する可能性を指摘している。
しかしMPが人体に与える影響を直接検証した研究はほとんどなく、2024年時点ではMPの危険性については充分な情報が得られていないとしている。
【プラスチックを推進する企業側は、この科学界の現状を最大限利用して、一方では科学界の合意形成に繋がる研究を妨害し、他方で多国間のプラスチック生産抑制合意の成立を妨害し、規制するのであれば、それは生産抑制ではなく、排出されるプラスチックを管理下に置く方策の検討とその推進へと目くらましを、行おうとしているのが現状と思われる】

4.(酸化ストレスと炎症反応に及ぼすMP とNPの影響の点から)
人への疫学的研究は未だ発展途上であり、今後の更なる進展が待たれる状況であるが、MPとNPの持つ人を含め多くの動物植物微生物の生理機能に及ぼす危険性を示す研究例は数多く発表されている。2つ紹介すると、
2020年10月のPubMedに『マイクロプラスチックとナノプラスチックによる酸化及び炎症の有害事象経路の活性化(Micro- and nano-plastics activation of oxidative and inflammatory adverse outcome pathways)』という報告があり、そこにおいて次の記述がある。
『MPとNPはいずれも活性酸素種(ROS)の形成を分子レベルで誘発(酸化ストレス誘発)する共通の効能を持っており、酸化ストレスの生体内伝播の遂行と炎症反応の発生を通じて成長阻害や行動変容といった有害な結果がもたらされることが判明した』としている。

2024年10月の研究誌Cellsに『マイクロプラスチックとナノプラスチックの分子・細胞への影響:炎症と老化に焦点を当てて(Molecular and Cellular Effects of Microplastics and Nanoplastics: Focus on Inflammation and Senescence)』という報告があり、そこにおいて次の記述がある。
『MPとNPへの暴露は、活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の産生増加に繋がり、ROSはDNAや蛋白質や脂質等の細胞高分子に損傷を与え、その結果炎症性サイトカインの産生増加に繋がり、よって細胞内炎症反応による神経変性疾患や心血管疾患やその他加齢関連疾患を引き起こす可能性がある』と指摘している。

5.(MPとNPはトロイの木馬という点から)
MPとNPの生態系への危険性には、プラスチック生産時に機能性を付与する目的で混入される重金属やテレフタレート類等が持つ毒性の懸念がそもそも存在しており、生体内に取り込まれた後の細胞内でのこれら毒物の影響が心配されている。
【プラスチックやタイヤ用ゴムや運動靴に使われるゴムには、重金属やテレフタレートだけでなく、後の述べる6PPDを始めとする数千以上の特殊化学物質が着色性・柔軟性・堅牢性等の機能性を付与する目的で混入されており、しかもそれらは企業機密に守られており、安全性の判断に必要とされる透明性は期待できない状況と言われている。奥深い闇がプラスチックやゴムの世界にも存在している】

そして別のプラスチックの特徴にプラスチック表面に生態系に存在している様々な危険物や毒物を吸着し、それら危険物や毒物の運搬役、即ちトロイの木馬の役割をMPやNPが果たすということが指摘されている。

更に、MPやNPの表面上に様々な微生物が繁殖し、独特の微生物群スライム菌叢(biofilmと称される)が形成されることも研究され、この研究において『菌叢内で構成微生物種が“抗生物質耐性機能”を獲得していくシステム』が存在していることを報告している。
【“抗生物質耐性機能”獲得システムにMPやNPが絡んでいる点は、極めて重要な視点】

MPとNPは酸化ストレス・炎症反応だけでなく、毒物危険物の温床であり、運搬役であり、そして抗生物質耐性菌をも生みだす厄介な代物ということが判明して来ているのである。

6.(子どもの生活環境の危険な状況の点から)
クライミングジム(ボルダリングジムの方が正式名のようだ)といった子どもの遊び場の環境が高速道路と同じくらい汚染されている、とする調査結果(原典:クライミングシューズの目に見えない足跡:屋内施設におけるゴム添加剤への高暴露The Invisible Footprint of Climbing Shoes: High Exposure to Rubber Additives in Indoor Facilities) が最近出されている。
それによると、クライミングシューズ底面に使われているゴムは自動車タイヤと類似の素材が使われており、クライミング壁面に突出しているホールドと称する突起に足をかけていきながら上に登るスポーツであることから、競技者のゴム底のゴムの摩耗物が突起にこびりつき、そこからゴム粉が散逸し、屋内のジムの環境を悪化させている、というのだ。

クライミングジムで使用されている靴底のゴム成分と室内に浮遊するゴム粉とを精密に分析した結果、自動車タイヤで問題視されている6PPDというゴム安定剤が検出されたとしている。そしてこの6PPDおよび6PPDから誘導される転換物質が河川の鮭が大量死したという以前から問題となっていた事故を引き起こした原因物質だったのである。

また子供らが遊ぶ別の場の問題も指摘されている。最近よく見かける滑り台やシーソーやブランコがある遊び場がクッション性の良いゴムで敷き詰められていることである。
このゴム面は『その場で流し込むことで作られるゴム性遊び場(Poured-in-place rubber playground; PIP rubber ground)』と呼ばれるもので、1950年代に欧州で競技場の走路面として利用が始まり、1980年代から1990年代初めの時期に北米で子どもの遊び場に利用されるようになり、墜落事故の危険を大幅に改善したという効能があり、日本でも多くの遊び場で見かけるようになっている。
しかし、当初に使われた基本材料が古タイヤを再利用する方式だったのである。古タイヤの再利用というエコに関わる大義と幼児・児童の転落事故防止という2つの良い点を持つ施策だったことから普及が促進されたと言える。
しかし、古タイヤにはクライミングジムで触れた6PPDの問題並びに混在する重金属やその他の特殊化合物という問題も抱えていたのである。その後当然ながら素材の改良も見られつつ今に至っているのだろうが、一方の幼児・児童の墜落事故防止効果が絶大な為に混入する化学物質の危険性は軽く見られ、研究が進みにくい環境が生まれているのではないかとみている。そしてこの子供の遊び場からも微小なMPやNPが生れ、風で舞い上がり、付近の環境を汚染し、また雨で流され河川へと、そして最終的に海へと向かいMP/NPの蓄積量増加に貢献するシステムが構築されている。

7.(自販機の飲料からの点から)
自販機で販売されているPETボトル飲料にMPsがどの位あるかを調べている2つの報告があり、1つは1リッター中に60〜130個、もう1つは2〜42個と報告している。
PETボトル飲料を加温した場合にどの程度のMPsが放出されるか、を調べた実験室レベルの研究によると100℃1時間の撹拌条件下ではあるが100万個以上の微粒子を確認している。

また2021年6月のJournal of Water Healthに掲載された別の研究(使い捨てペットボトルの開閉によるマイクロプラスチックの発生:原題Generation of microplastics from the opening and closing of disposable plastic water bottles)がPETボトル飲料で行われており、それはキャップの開け閉めの繰り返しを行うことで生じるMPがどの位であるかを調べているものであり、それによると一回のキャップ開閉につき、1リットルの飲料中に350〜750個のMPが発生することを観察している。
キャップの開閉の繰り返し回数の多寡でMPの摂取に大きな違いが発生することを示す興味深い研究と言える。

更に興味深い研究(SRS顕微鏡によるナノプラスチックの迅速な単粒子化学イメージング:原題Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy)が米国科学アカデミー紀要にその後発表されている。興味深い点は測定技術の進歩により、今まで存在していたにも関わらずにカウントできず、結果としてNPの存在数を過少評価していた事実を明るみに出した調査結果だということである。米国科学アカデミー紀要が行った調査は、新たに開発したSRS顕微鏡技術を用いて当時販売されていた3つの人気ブランドのボトル飲料を調べたことであり、彼らは平均して1リットル当たり24万個の微小プラスチックをカウントし、その90%程はNPに分類されるサイズだったとし、この24万個という数値は従来の大きなMPの検出に焦点を当てざるを得なかった調査結果の粒子数を10倍〜100倍した数値だった、と指摘している。
【用いる検出技術の精度次第で、検出数が大きく変化するということは、従来の研究結果を比較する上で勘案する必要のあることを示した興味深い文献といえる】

8.(プラスチックは、加熱に、特に電子レンジ加熱に相性が悪いという点から)
プラスチックが過熱に弱い点に焦点を当てているニュースがある。
1つ目は2022年4月20日付けのScience of the Total Environment誌に掲載の(使い捨てプラスチック素材は、熱水中にマイクロプラスチックや有害物質を放出する、原題:Disposable plastic materials release microplastics and harmful substances in hot water)
であり、100℃の熱水中にプラスチック容器、プラスチックカップ、透明性のあるプラ容器を60分間撹拌した結果発生したMPサイズの微粒子数を測定している。結果はそれぞれ50万〜150万個、130万〜160万個、150万〜296万個であった、としている。

もう1つは米国モンタナをベースに活動するグループが提示しているプラットホーム“Beyond Plastics”にある記事(電子レンジ+プラスチック容器=間違った取り合わせ:原題Microwave+Plastic=BAD Idea)に、2003年の時点で研究者らが『繰り返し電子レンジ加熱対応可能プラ容器と表示されていても、繰り返し利用すると、プラ容器から揮発する有害物質の食品への移行が繰り返し回数につれて増大していく恐れがある』ことを指摘していたこと、そして最近の研究事例に『代表的な2社が販売する新生児向け食品を調査したところ、電子レンジ対応であり安全なポリプロピレン容器(#5)に納められている幼児向け食品を電子レンジ加熱した所、容器表面積(1cm2)当たり420万あるいは12億個の微粒子をカウントしたと紹介している。

水中で加熱することで、数百万レベルの微粒子が、そして電子レンジ加熱ではケースによっては水中加熱よりも100倍〜1000倍多くの微粒子(大半がNPレベル)が発生している。
【”プラ容器入り食べものは電子レンジと相性が悪い” や“プラ容器入り食べものは加熱に弱い”というキャッチコピーは銘記して良いフレーズだろう】

9.(企業の都合のみを優先していると大変なことになるのでは)
要点のみを最後に強調しておきたい。

現在のプラスチック生産量は4億トン以上。
現在世界で生産されたプラスチック総量は100億トンを超えている。
2022年の統計によると、総生産量4億トンで、ゴミとなった量は2.68億トン。
2.68億トンのその後の内訳は約40%は埋め立て処理、約34%は焼却処理、約9%はリサイクル、約11%は不適切処理で散逸、約16%は行方不明。%総計が110%になり、かなり怪しげな統計値と思われるが、一応ここでは25%が不適切処理で環境中にあふれ出出ている量と仮定すると、2022年に6700万トンが新たに自然界に放出されたとなる。
上に述べた世界生産プラスチック総量100億トンに当てはめると、自然界に散逸しているプラスチックの総量は25億トンと推定される。
推定1000万〜4000万トンのMPs粒子が現在、毎年環境に放出されていると前に述べた。
1950年からスタートし、現在75年が経過していることを勘案すると、この推定値の1000万から4000万を20倍すれば、現在自然界に散逸しているアバウトなMP総累計量が求められだろうとして、計算すると2億〜8億トンになる。
下限の2億トンを現在の浮遊NP総重量と更に仮定して、この2億トンの総粒子数を算出すると2X10の25乗のオーダーになる。
海洋の表層水面には10の18乗(米式)あるいは10の30乗(英国式)個の海洋微生物(海洋における光合成能力並び食物連鎖の起点となる重要な生態系を構成)が成育し浮遊しているとの試算を前に述べている。安全側の10の30乗を採用すると仮定すると、NPと海洋微生物との数量関係はNP1個に対し微生物種は10の5乗個になり、10ppm程度と見てよさそうである。但し現在の測定技術がNPを正確にまた全てをカウント出来ているかどうか、を考えると、この比較はかなり安全側で判断している可能性がある。そしてMPもNPも100年以上にわたって安定して存在するものであり、今後の散逸分がそのまま新たに加わる一方で推移していくことを考えると危険性を無視する態度は取りえないものと思う。
そして現在の社会のシステムである。
買い物袋は、やはり多くはプラ袋が使われている。
使い捨てのナイフ・フォーク・ストローが相変わらず使われ、しかもプラ包装されている。
食べものは概ねプラ包装され、かなりの部分が加熱される。
自販機内の飲み物も加温状態で販売されるものも多い。
弁当の加熱用にスーパーやコンビニには電子レンジが置かれている。
遊び場にもスポーツ競技場にもゴムが安全性向上目的で敷き詰められ、ゴム粉が生まれる。
道路でも、車のタイヤから摩耗したゴム粉が生まれる。
そのような社会のシステムが出来上がっているのである。
しかし、このシステムは今回様々な例でみたように、危険さを秘めたシステムなのである。

ではどうしたら良いか?
一つの考えは、現在のシステムは世界を一つの大きな市場に見立てたい、そうしていきたいとする企業側の膨張を目指す方向性だと思う。
対立する考え方があると思う。それは地域内に収斂していく方向性だと思う。

長距離の移送を考えるから軽量で丈夫で安価なプラを企業は選択するのであって、地域内の移送は、例えば昔ながらの紙包装で充分だろう。

企業の狙う世界制覇の夢ばかりに付き合う義理はなく、プラ以外の従来使ってきた素材が役立つ生活のシステムの復興を考えるのもありではないかと思っている。
 
0095 早苗ちゃんのオトモダチ、核保有でイキがる 猫家五六助 12/25 12:46
 
まったく、とんでもない首相と補佐官である。
発言したのは高市首相と同郷の、尾上定正総理大臣補佐官だと。
しかも、「核軍縮・不拡散問題担当」で、防衛問題のブレーンときた。
呆れかえって、びっくらポン!・・・冗談じゃない。

「オフレコ発言なのに、ルール違反だ!」、その指摘は、当たらない。(菅義偉・調)

>記者団の取材は、完オフ(内容そのものを一切報じない)ではなく、オフレコ(発言者はぼかした上で内容を報じることができる)取材であった。そのため、発言者は匿名にした上で各社が報じた。(本文引用)

サナエちゃん、「引き続き、非核三原則を堅持〜」なんて、リップサービスはいらないよ。
国政をなんだと思っている?こんなアブナイ私物化は許されない。

サッサと尾上氏をクビにしなさい。
毅然と「You are Fire!」だ!

◆《本人直撃》「日本は核保有すべき」発言をしたのは“核軍縮担当”の首相補佐官だった! 高市首相が更迭しない理由は…
/文春オンライン、2025年12月24日付

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E7%9B%B4%E6%92%83-%
E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AF%E6%A0%B8%E4%BF%9D%E6%9C%89%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%8D-%E7%99%BA%E8%A8%80%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%AF-%E6%A0%B8%E8%BB%8D%E7%B8%AE%E6%8B%85%E5%BD%93-%E3%81%AE%E9%A6%96%E7%9B%B8%E8%A3%9C%E4%BD%90%E5%AE%98%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F-%E9%AB%98%E5%B8%82%E9%A6%96%E7%9B%B8%E3%81%8C%E6%9B%B4%E8%BF%AD%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%84%E7%90%86%E7%94%B1%E3%81%AF/ar-AA1SWvso?ocid=BingNewsSerp
 
 
0094 現在の社会状況について(10) 『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』はずの科学に対するトランプ氏の考えに垣間見える『科学を自由に裁量したい』との思惑 yo-chan 12/24 11:30
 
現在の社会状況について(10) 『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』はずの科学に対するトランプ氏の考えに垣間見える『科学を自由に裁量したい』との思惑


トランプ主義の一つの特徴に科学が辿りついた成果を無視したり、曲解したり、茶化したりすることがある。即ち『科学とは? や目的及びその成果』を恣意的に取り扱いたい、自由に裁量したいとの思惑があることに特徴がある。

人新世時代が始まり、化石燃料の利用(結果として大気中CO2濃度)が拡大し、それにつれ地球温暖化も拡大し、壊滅的猛威が度々起こる兆候が明らかとなるにおよび、漸く辿りついた2015年パリ合意のもと、再生可能エネルギー利用という新システムの確立と推進が一つの解答策と世界の国々は位置付けることに成功したが、しかしそれから10年が経過するも、旧来システムの化石燃料主導システムの存続・継続・再拡大を狙う力は相変わらず世界に存在し、新旧システムの間の熾烈な綱引きが為されているのが私たちの現在地だろう。

かかる状況において、トランプ氏は再生エネ推進運動を、『世界史上最大の詐欺』と称したり、風力タービン翼をして『景観の邪魔』『くじらに災厄をもたらす』と断じ、また再生エネはコストが高く、信頼性が低く、経済に悪影響を及ぼすものとの考えのもと旧システムを優先し、新システムの浸透スピードの遅延化に繋がる政策を推進している。

今回は、トランプ主義の特徴の一つである『科学を曲解する・恣意的に扱う』という考え方をトランプ氏が推進していく上での論理的帰結だったのだろうトランプ氏が打ち出した『GOLD STANDARD SCIENCE(様々な日本語がこの言葉に与えられるだろうが、ここでは“具備すべき科学の健全性と完全性”としておく)』という大統領令を取り上げ、トランプ主義の特徴と問題点に光を当てて見たいと思います。

5月23日付け大統領令14303『具備すべき科学の健全性と完全性の復権(Restoring Gold Standard Science)』になります。

トランプ氏の『科学との付き合い方・扱い方』の根本部分が見て取れる格好の材料と思っています。

【トランプ大統領の新たな“ゴールド・スタンダード”ルールは私たちが知っているアメリカの科学を破壊するだろう  (原題:Trump’s new ‘gold standard’ rule will destroy American science as we know it)】 The Guardian, 2025, May, 29を基にして、概略を示します。

1. 科学には次の9つの項目が具備されているべき、と大統領令14303は指摘している。

(i)再現が可能であること (ii)透明性があること (iii)誤りや不確実性を伝えることが出来ること (iv) 協調的であり、学際的であること (v) 知見や仮定に懐疑的であること (vi) 仮説に対する反証可能性を考慮した構造であること (vii) 公正な査読を受けること (viii) 否定的な結果を積極的なものとして受け入れること (ix) 利害の衝突がないこと

2. 大統領令14303の表面上の顔

大統領令は、研究の厳密さ・透明性の推進等々、使われている言葉から見ると科学の積極的な改革・開放と結びつくものであり、事実様々な人々が既にそれに見合う活動に参画しているという実態を単に綴っているものと見ることが出来るという一面がある。

そして額面通りに大統領令を解釈すれば、この命令は連邦政府資金による『透明性、厳密性そして影響力のある』研究への政府のコミットメントであり、『最高の信頼性と確実性と偏りのない公正な科学的証拠』に基づいた政策への政府のコミットメントを約束するものである、という当然の考え方を綴ったものと見ることが出来る体裁を整えている。

3. 裏に隠された顔

しかし巧みな物言いの裏に、アメリカの科学の独立性を破壊する可能性がある『目論み』が隠されているのである。 

その『目論み』とは、『政治の世界が任用する担当者』を連邦政府の各研究機関に配置し、『任用した担当者らに研究全体を管理し、支配できる自由裁量権を与える』ものであり、『現政権の嗜好する目標に合致しない研究者を処罰できる自由裁量権を与える』のである。

『彼らの意に沿わない研究』に対し、彼らの設定するモノサシから判断すれば『不正と認められる研究』との烙印を押す権利を『政権と一体となった政治任用者』に与え、当該研究者を処罰する権限を『政治任用者』に与えているのである。

『科学は開かれたものであるべき』が懸念されるどころの状況ではなくなる可能性がある。

悪しき前例である、スターリン時代のルイセンコの再来が懸念されるのであり、即ち、遺伝及び自然淘汰理論を否定したルイセンコがソビエト農業を支配したことから、反対した数千人の科学者の放逐・投獄が行われ、そして農業と農作物の不振から数百万人が餓死していったという悪しき前例の再演が懸念されている。

4. 科学の独立性を破壊する『目論み』が既に行われている実例について

注目度の大きい2つの研究領域(気候変動領域とパンデミックに備える医療領域)について、トランプ政権の『目論み』が既に如何に影響しているかの実態を見ると、

1) 気候変動問題および化石燃料関連

環境保護庁(the Environmental Protection Agency: EPA)や内務省(the Department of the Interior)を始めとし数多くの連邦政府のウェブページから気候変動に関する情報やデータ等が既に削除されたり、隠ぺいされたりしている。

また海洋大気庁(the National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)および地質調査所(the US Geological Survey: USGS)等の気候関連の研究機関の予算や職員の大幅な削減が既に提案され、実際に実行されている。

そしてNOAAを始めとする諸機関を『監督統制する任命官ら』が、例えばハリケーン『ドリアン』が辿った軌道をトランプ氏が間違えている発言を無署名文書で擁護したり、また専門知識を政府に提供する政府諮問委員会を、政府が解体したりしているのである。

更に科学的根拠を提供する報告書の内容の変更を求めるという動きもある。例えば環境保護規制政策が社会に与える便益を数値的に示しているEPAの報告書を撤回させ、新たに再度評価分析を行うようEPAに要請しているという。
化石燃料産業に都合の良いように規制を解除することが狙いと見られるのである。

2) パンデミック対策等の研究への影響

トランプ政権がパンデミック向け研究を抑制するために行う行動として、公衆衛生指導指針の政治化の問題がある。政府と政府任命官らが、疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)に圧力をかけCOVID-19の検査やマスク利用や学校の閉鎖解除等にからむ指導指針の修正や遅延化を図ったと報告されている。

COVID-19治療の承認やワクチン開発の承認に関し、FDAに対しても圧力がかけられている。

更に長く継続したコロナウィルス向けのNIH研究助成金が政権の要請に基づき撤廃されている。

政権はまた、ある種の『機能獲得研究(gain-of-function research)』に対する資金提供も禁じたことが報じられている。

そして、5月23日付け大統領令14303『具備すべき科学の健全性と完全性の復権(Restoring Gold Standard Science)』に続いて、8月7日に大統領令14332『連邦助成金交付の監督改善(Improving Oversight of Federal Grantmaking)』が発令されていることも付記しておく。

政治が、科学があるべき姿を規定し、管理し、科学の進む方向すらも差配する構造の固定化に向けての手順をトランプ氏が着々と進めている様子が見て取れる。

そして、ルイセンコの悪しき前例を彷彿とさせる事例がアメリカ科学界で既に起こりつつあるようだ。


COP30に合わせてグテーレス国連事務総長は、パリ合意の目標である気温上昇1.5℃に抑えることは、かなり厳しい状況になっているが、まだ達成の可能性は残っていると語っていた。但しそのために残されている私たちの時間的猶予は全くなく、各国が直ちにそして総力を挙げて全面的に野心的計画を展開することが『達成の条件』としていた。

多国籍企業体の利益第一主義の力強さ、そしてトランプ主義の恣意的な科学のハンドリングなど、『達成の条件』を弱体化・妨害する動向を考えると、パリ合意の『せめて2℃以内に抑制』の目標も危ういという可能性のほうが当たっているだろう。

最後に、今年度のブラジルはベレンにおける気候変動国際会議COP30が終了した現在時点における世界の状況と動向を基にして予測される今世紀末までの世界平均気温にかかわる基本情報を指摘しておきたい。

2100年時点の予測気温:+2.3℃から+2.8℃の範囲(2015年のパリ合意前は+3℃以上が予測されていた。よって世界は好ましい方向に若干進んだ状況と言える)
+2℃に到達するだろう年度:2030年代の初め頃だろうとする予測が出されている
今年度中の提出が義務付けられるNDCsの提出国数:122カ国を超えている
現在の各国NDCsから算出されるGHG排出予測削減率:2035年時点で2019年比−12%
(気温上昇を+1.5℃にしたい場合、2035年時点で2019年比−46%以上の削減が必要)


+2℃とか+2.8℃とかに到達した世界の異常気象の状況は空恐ろしい。
既に世界各地で起こっている異常気象現象の熱波や森林火災や洪水や干ばつ・日照りや高潮やハリケーン・モンスーン・台風や雷雨・豪雨や竜巻等々が、『もっと頻繁に』『もっと強烈に』起こることになる。しかも脆弱な地域ほど甚大な被害を被るという格差の拡大の問題も悪化する方向に促進されることだろう。

化石燃料に依存する国々や組織を含む多国籍企業体の利益第一主義、そしてトランプ主義の恣意的な科学のハンドリングは、パリ合意に向かう世界の国々の動向にとって、『達成の条件』を弱体化・妨害する極めて厄介な、そして罪深い動向といえるだろう。

トランプ主義と対峙する、科学界が今までに様々な形で打ち出している『健全で完全な科学のもと、社会に幸福を提供する』科学の実践例を次の機会に紹介してみたい。

 
0093 >>アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(3) yo-chan 12/11 12:44
 
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(3)


第二回目に続き、1.1節の紹介から始めます。

1.1 技術が救済してくれるという幻想

農業分野において工業型技術を追求し推進するということは、グローバルサウスから資源を搾取収奪することを狙うという歴史上見られた植民地主義の基本構造の焼き直し・繰り返しと見ることが出来る。
この現代における繰り返しは、地域共同体の水域管理や農家の種子システムといった地域社会にある技術や先住民が持つ技術を疎外化させたり消滅させたりすることであり、伝統技術や地域共同体住民の生活手段を弱体化させることになる。

第二次大戦後のイデオロギーの根元には、科学至上主義と生産性至上主義が存在しており、そして同時に、『小規模農家の生産性は悪く劣ったものであり、一方いわゆる高収量種子は優れている』との神話・言説が流布され、広く一般に受け入れられていったことから、工業型技術と単一種栽培が世界規模で採用されていく流れに拍車がかかることになった。
かかる流れは、地域共同体社会が本来持つ食料システムの管理運用権の劣化や食料自治権自主権を無視することに繋がっていったのである。

多国籍企業(transnational corporations: TNCs)が支援し擁護する技術官僚が支配するシステム(technocratic systems)は、生態系や社会にとっては食料の損失や生活全般の保全や伝統技術・伝統技能の損失を結果として引き起こすのである。
そのシステムはまた、土壌の劣化や生物多様性の崩壊や人畜共通伝染病の蔓延化の恐れをも導くことになる。

気候変動や天然資源の収奪に繋がる、行きすぎたグローバル化の推進は、これらの脅威を更に拡大していくのである。

同時に技術至上主義企業やアグリビジネス業界の支援を受ける『ロビーストたち』は、民主的手続きを踏むことなく、社会全体の了解を求めることなく、莫大なコストをかけて初めて達成できる『高度技術high-tech』を利用する解決のシステムを推進する。
農業分野で言えば『世界全体に食料を行きわたらせるため』との言説を旗印に、彼らが描くシステムの構築とそのシステムの主流化・本流化に都合の良いように世界を変えようと活動し、世界全体を誤誘導し、結果的にそれ以外のシステムを排除しようとするのである。

精密農業(precision farming)が主張する『精密さ』の基本部分の全体は、まだ検査を終えていない、と私たちは認識している。
合わせて、デジタル農耕法というものも、厳密に言うと往々にして不正確なものであり、この不正確さを軽視すると重大な結果を生みだす可能性があると認識している。

私たちは、『精密さの落とし穴』と言うものを認識しているのである。

工業型農業で流通するデータである『ビッグデータの精密さ』を過剰に信用すると、往々にして『環境の状況を観察し認識し、その上で均衡を保つ対策を取る(check and balance)』という農民が本来、耕作地域で持っている機能を劣化させることに繋がる。

精密農業のシステムは、第一に工業型農耕法のデータに依存していること、そしてどのような便益であっても、その便益が農民の間に公平に分配されることはない、と私たちは認識している。

1.2 技術依存型解決法の危険性とアグロエコロジー利用解決法の必要性

技術に依存する解決法に比べると、アグロエコロジー利用解決法は、社会が食料の自主権に向かう動向や持続可能な農耕の実践へと向かう動向と合致し、支援するものである。

アグロエコロジーを利用する解決法と言うものは、『農民の経験と知識』、『地域共同体』、『生
物多様性』並びに『生態系の持つ調整・均衡化機能』を強調し支援するものである。

しかし、大半のEU金融機関は大規模組織やハイテク型革新を目指す組織への肩入れに偏っており、結果として小規模農業は消滅の危機に瀕している。
この金融機関の対応の流れにより、社会が長期的視野に立ち生態系に対し責任を果たしていくことを優先するのではなく、企業が短期的視野のもと利益を得ていくことが優先されることになる。
技術利用解決策の優先は、現代の資本を蓄積していくという潮流と深く絡み合っており、このことは十年前に起こった金融危機の際の例から明らかなように、大多数の人が災厄に見舞われている最中、ごく少数が利益を得ていたという『破壊的なシステム』の維持に役立ったのであり、今も続いている。

いわゆる、精密農耕法や合成生物学(synthetic biology: 工学的手法を用いて従来存在しない新たな生命現象を作りだすことを目指す学問)や分子技術(molecular technologies; 遺伝子編集技術が例)というものは、農民らの食料システムに脅威を与えるものであり、現在のそして今後の農業の危機に内在する根本的原因に対処できるものではないし、これらの方策は化石燃料への依存や遺伝子編集種子等の議論の的になっている技術を永続させることに繋がり、社会に影響を与え続けることになる。

これらハイテク依存型解決策は、往々にしてベンチャー資本により運用され、ベンチャー資本は投資家の資本の最大化を使命付けられていることから気候変動に対する持続可能な解決策を提供することには結び付かないのである。

コストの高い技術の実践を促すということは、往々にして農民らに『負債の罠』を仕掛けることとなり、市場の混乱や技術の陳腐化等が発生すると『負債の罠』がより大きく作動して農民らの脆弱性は更に高められることになる。

デジタル技術を資金的に採用できない、あるいは採用の意思がない多くの小規模農家は、消滅化の危機に直面する。
欧州にも大きな打撃を与えた2022年の世界規模の干ばつは、欧州大陸の異常気象に対する脆弱さを露呈したが、そのことが逆に『天然資源には限りがあること』、『強靭性を高めること』の認識の重要性を提起した。そして地域共同体に根ざし、市民の活動に立脚した革新へと緊急にシフトしていくことが求められるということを知らしめる結果となった。


【BOX B       ECVCの人々の声:選別の必要がある】
ECVCに所属の農民によると、技術とデジタル道具の利用自体には、必ずしも負のイメージを彼らは持っていない。多くのECVC所属の農民らは、相応の技術を使い、そしてある場合分析機関(公立と私立がある)にサンプル分析依頼を毎年行っている。
しかし、デジタル化が農民の持つ権利に影響を及ぼすことの危険性を考慮すると、ECVCの農民は、技術を利用する・しない自体に自由さを持つべきだと認識している
例えばデジタル灌漑システムソフトは節水手段とされるが、オリーブや小麦のような水を多く必要とする作物をシステムに組み込むことを推進することから、往々にして現状維持に繋がり、結果として水利用が拡大され、水の蒸発率が高進し、深部帯水層や地下水の入手性の低下が起こる。結果、干ばつを緩和する方向でなく干ばつが悪化する方向となる。
デジタル灌漑は状況を悪化させる可能性がある一方、水路・導水路のコンピューター管理というものは効率性の上で、廃水量を削減する上で、有用な役割を果たす可能性がある。
デジタル道具利用の最大の障害の一つがその高いコスト・価格である。
例えば土壌水分量やその他の環境因子等の基本項目の測定が求められるが、コストの安い測定で得られるデータは精度が劣り、役立つとは言えないとの欠点が指摘されている。
当然、日々の農場周辺の自然環境の観察は土壌の状況や作物等の植物の状態を確認する重要な手段である。高額なコストを要求し、時に必要の無いデータの測定まで行うデジタルに頼るだけでは、人々の五感による観察と言う情報収集能力に置き換えることはできない。


1.3 誠実であり、公正公平なアグロエコロジーへの転換を目指して

誠実で、公正公平なアグロエコロジーに向けての転換を実現するには、そして農民の、農民によるアグロエコロジーに向けての転換を実現するには、企業のコントロールから隔絶した自由なアグロエコロジーのシステムが構築され、そのシステムの中には科学的研究(多国籍企業の行うハイテクではなく、地域に根差し、過大にコストをかけることもなく推進できる所謂“中間技術”が望まれる)とその革新が組み込まれ、研究と革新が醸成され育成されていくことが望まれる。

この転換の為には、持続可能性に向けての行動とその決意を誠実に反映させることが必要であり、その持続可能性は『圧力団体(lobbies)の活動から受ける強い圧力』に抵抗し対抗することで達成されるのである。

遺伝子改変作物や合成生物学(synthetic biology)といった危険な実践は厳密に規制される必要があり、そして農業のシステムや環境や公衆衛生の保全の為には最終的に禁じられる必要がある。

共通農業政策(Common Agricultural Policy; CAP: EU加盟国に共通して適用される農業政策)と持続可能食料システム(Sustainable Food Systems; SFS)法は、全ての農民がアグロエコロジーの実践の訓練を受け、その実践を行うことを保証する必要がある。
この支援策は、食料自主権や生態系の均衡そして社会の公平性公正性を優先し、強靭な食料システムを構築する上で必須なものである。

地域に立脚した革新を支援すること、小規模農家を活性化することにより、持続可能な将来の農業が作りだされるのであり、その活動によって多国籍企業体(TNCs)からの支配に立ち向かうことが出来、そして地域共同体の自主権・自立権が回復出来るのである。

『世界のすべての人に食料を提供していくために』という言質・物語性とデジタル農業との関連性を批判的に問い質していくことで、農業の分野・領域に深く根ざす不均衡・不公正な権力の存在が明らかにされていくのである。

多国籍企業体が支援し、法的枠組みでもって裏打ちしようとする多国籍企業体が主導する技術とシステムによって生れる解決策に対し、私たちはアグロエコロジーと食料自主権を擁護・提唱し、推進することで、抵抗することが出来るのである。

2. 農民の自治権と生活・生存権に対する危害

過大なコストを要求するハイテク技術および農業4.0(Agriculture 4.0;AI等の革新技術を駆使し現代農業の課題の解決を図ることを目指す動き)という市場が主導する方策は生産効率最大化や市場における競争力といった事柄を優先するものであり、結果として大規模−工業型農業は利益を拡大し、一方小規模農家は消滅化していくという不均衡が助長される。結果、経済の不平等さは悪化し、地域共同体は衰退していく方向になるといえる。

2.1 生活権生存権への危害と現在の農業システムの構造的課題

工業4.0の原理に触発された農業4.0の出現により、生産効率・持続可能性・農業生産とそれに付随する工程の改善がハイテク革新技術を統合化することによって可能となる、といった誤った考えが広まっている。

このパラダイムをシフトさせようと試みる動きは、農民が持つ知識への打撃とともにそれ以上に深刻な懸念を引き起こす。即ち世界の食料生産割合で8割を占める小規模農家の正に生存を脅かす可能性があり、それにより地域共同体の生存権・生活権を劣化させ、生物多様性の消失に導くといった恐れが生れるのである。

小規模農家が直面する経済的危機は、借金体質の構造化によって悪化させられる。
高額を要する技術の利用を要求する圧力により、農家は借金体質へと誘導され、そしてデジタル農耕時代に参入するのに必要な過大なコストに基づく借金ローンの返済の見込みは限りなく小さいのである。

この状況の進行を許せば、小規模農家は農業を放棄する方向に向かうことになり、結果として農業耕作地の大規模集約化が推進され、ごく少数の大地主が生まれることになる。

EUの共通農業政策(CAP)の助成金の分配方法がこの傾向の悪化を助長する。即ち分配方法は往々にして大規模農業に有利になっているからである。この助成金という動因により、金融面で不利な立場の農家らは彼らの土地を売り払うことが促され、小規模農家の減少化が推進されるのである。

更にこれら多くの小規模農家は、『重要データの農家同士の交換やEU内の行政手続きに必要となる光ファイバー網への接続性の欠落』といった、更なる打撃にも直面している。

これら金融と技術的な障害と障壁の存在が組み合わさって小規模農家の疎外化・孤立化は更に推進されることになり、農業環境のデジタル化が進展する社会の中で、小規模農家が農業を継続していく上での能力と意欲に対し危険性が増しているのである。

2.2 伝統的知識体系の継続性の劣化と断絶

過大なコストを要求するハイテクを農業分野に持ち込むということは、農民らと彼らが持つ土地との間の関係性を根本から変えていくことになる。

世代を超えた知識や自然が織りなす現象を直接観察することに深く根ざしている伝統的農耕法の実践は、データに支配された自動化システムの存在ならびに拡大化により、その存在価値が弱体化されていくリスクが生まれることになる。

実体験ではなく、アルゴリズムに基礎を置いて諸々のことが決められていくと、農民らは彼ら本来の仕事から引き離され、疎外化されていくことになる。
世代を超えて蓄積されてきた豊富な知識と経験は脇に置かれていき、結果としてこれらの貴重な知識と経験は次世代に伝えられていくことはなくなる。


【BOX C   ECVCの声:自身が管理運営する農作地をよく観察することで得られる力】
ECVCのメンバーは、観察することの重要性を指摘する。
例えば、スペインで見られるコナジラミ(whiteflies: 作物の害虫、生育を妨げ黄化葉巻病等のウイルス病を媒介)への対策はデジタル道具では対応出来ず、観察や他の農民との意見交換や予防的トラップの設置等が対策の鍵となる、とECVCのメンバーらは指摘する。
精密農業(precision farming)や家畜に取り付けたセンサー利用や搾乳ロボットやサテライト誘導トラクターといったハイテクを利用する対策は、生産効率の改善を約束するけれども、更なる効率性の改善ということが、持続可能性を更に高めるということに必ずしも結び付くものではない。そしてハイテク利用解決策は、技術への依存度合いを高めることになり、結果として課題解決における農民らの役割と能力は減退していくことになる。
かかる変化の方向の推進は、農民らの自主権自立権が衰退するだけでなく積み重ねてきた農業が本来持つ適応力の源泉である伝統的知識体系の価値が毀損されていくことになる。
Grietje Raaphorstさんは、10ヘクタール以上の土地を使い大規模に種子の生産を行うが、これ以上の規模拡大は考えていない。理由はこの規模が手作業の限界だと彼女が認識しているからだ。同じ理由でトウモロコシ栽培は2へクタールを限界と定めているという。
30ヘクタールを使い穀物・野菜や他の栽培を行うLucia Heiglさんは、デジタルを利用しておらず、彼女の普段は農場の自然環境の観察であり、殺虫剤は制限して利用している。デジタルに頼る農耕法は、より多くの殺虫剤使用を要求することに繋がると、指摘する。
Antonio Onoratiさんは、デジタル利用農耕法は実態としては往々にして『厳密に言うと非精密』だとし、農民らの持つcheck & balance機能(環境の状況を観察し認識し、その上で均衡を保つ対策を取る)の消失といった重大なリスクを起こす可能性があると指摘する。
Tove Sundstromandさんは農業に関する知識の所有権の問題を指摘し、『農民の持つ知識は農民のものであるが、一方デジタル道具の所有権は企業側が握っている』と指摘している。


2.3 経済的格差と自主権・自治権の消失

金融機構が持つメカニズムというものは、ハイテク農業を支援する体質を持っており、大規模農業を優先的に選択し支援する性向を持っている。

EUの金融機関の例がこの性向を明瞭に示しており、シェア20%のイタリア系農家らがEUの農業補助金の87%以上を受け取っており、結果として資源は、規模が最も大きく最も資本集約型である農家に集中するという傾向を生みだしている。

欧州で数の上では多数を占める小規模農家は、往々にしてこれらの特典から排除される。小規模農家は、投下資本を用いて革新技術を利用し、それにより得られる成果は極々小さいものだろうとの固定観念があるが故に排除されているのである。

デジタル農耕法が要求する高額な金融条件に見合うことが出来ない農家らは、往々にして過大な負債・借金を背負うことになり、結果として更に格差が拡大していくことになる。

EUには、2020年時点で910万軒の農家と事業体があり、その約3分の2(63.8%)は5ヘクタール以下の農家である。

ロボット型トラクターや精密灌漑システムや洗練されたデータ運用に関わる道具といった技術を採用し実践し維持していくのに必要なコストというものは、小規模農家の手に余る過大な費用を要求する。

かかる経済的障壁が存在することにより、大規模農家と小規模農家との格差は悪化していくだけでなく、小規模農家は農業領域からの撤退を迫られることになっていくのである。

今回はここまでとします。


 
0092 現在の社会状況について(9)COP30を例に思惑と意思のせめぎ合いをみる、そして社会の抑制機能が企業のロビースト活動と競走する上で役立つヒントとなる参考資料 yo-chan 12/04 06:25
 
現在の社会状況について(9)COP30を例に思惑と意思のせめぎ合いをみる、そして社会の抑制機能が企業のロビースト活動と競走する上で役立つヒントとなる参考資料


ブラジル・ベレンでのCOP30が終わった。

COP気候会議や、プラスチック条約等の国際会議の舞台では大戦後国際連合が掲げた基本の考え『多国間協調主義、Multilateralism』が機能している。

1990年代以降、各国が選出した国家代表者らだけでは解決が難しい課題が多く発生して来ているとの言説が拡散し、国際会議の場に『多国籍企業体、Transnational Corporations (TNCs)』の介在が望まれるとするマルチステークホルダー主義(Multi‐stakeholderism)の考えが主流化してきたことから、この両主義の思惑と意思とのせめぎ合いが絶えず国際会議の舞台で結果として見られることになった。

そして舞台上にもう一つの大きな力が加わってきている。2015年トランプ氏の米大統領選出を契機に、氏の主張する『国際間の課題解決』は多国間でなく、二国間交渉を原則採用することであり、また氏のアメリカ第一主義・MAGA思考及び交渉事は『一方が得し他方がその分損するゼロ−サムゲーム感覚思考』の介入であり、『民族主義・国家主義』の追求のスタイルの推進が、国際舞台にもう一つ加わっている。

現代の国際間交渉には少なくとも3つの力がけん制し合い、せめぎ合うという構図が生まれていると感じる。

そして忘れてならないのが、世界市民が本来持っているもう一つの大きな力であり、この推進力をどのように国際会議の舞台上に表現していくことが出来るかが、現在世界が抱える諸課題に対する最適解を見出していく上で重要なポイントになると考える。

アセモグル氏とロビンソン氏は、社会が最適解を見いだし選択し続けていくことが可能なシステムの存在が、幸福を享受し続けられる『狭い回廊』の中に社会が居続けられる条件だと主張した。
そして、このシステムが存在し機能し続け、社会が幸福状況を維持継続していくには、社会を統治する機能の存在とその存続が一つの条件だとし、その統治機能を古代神話・伝承に出てくる海の怪物『リバイアサン』になぞらえている。
即ち『リバイアサン』が不在の場合、その社会は無政府混乱状況になってしまい、混乱状況を抑止する『リバイアサン』の存在には意義があるとしている。しかし一方、『リバイアサン』を野放図に放任すると今度は、社会は『リバイアサン』に圧倒され、そこに生きる人々の自由が奪われていき『専横のリバイアサン』の社会が生まれてくることになる。

アセモグル氏とロビンソン氏は『リバイアサン』が専横化することを抑制する力を『社会』は持っており、その権能の適切な使用を社会は行う必要があるとしている。
即ち社会が抑制力を発揮し、『専横のリバイアサン』に足枷をし、『足枷のリバイアサン』の状況を生みだし、その状況を維持継続していくことが社会の幸福を継続していくこと、社会が『幸福の狭い回廊』の中に居続けられるための条件としている。

不思議の国のアリスに出てくる『赤の女王』がアリスに諭す『今の状況を維持したいと望むなら、駆け続けなさい』という行動指針が、幸福を願う私たちの社会にも当てはまるとアセモグル氏とロビンソン氏は指摘している。市民社会の持つ力に拮抗するもう一方の勢力(後半で紹介する)は金と時間と専門家知識を武器にある意味彼らなりの『弛まぬ』普段の努力に励んでいるのである。

今回終了したCOP30の結果を例に、それぞれの力のせめぎ合いが、幸福の継続に繋がる拮抗状況になっているのか、または片方の専横が勝る状況を継続しているのかに、焦点を合わせた形でCOP30を見ることとしたい。

1. 適応化資金の増額問題
4年前のスコットランド・グラスゴーのCOP26で400億ドルの適応資金目標が設定されたが、今回のCOP30においては『2035年まで』に3倍に引き上げること、2025年までに2倍に増額するよう努力することを各国に求めるとの内容で合意した。適応資金の目標額は1200億米ドルとなった。

Debt Justiceの記事(要望内容と、負債ならびに気候正義とを比較してみると今回のCOP30はどう評価できるか?原題How did COP30 stack up against demands for debt and climate justice?)の記事を基に、この増額を成果とする見方の妥当性を調べて見たい。

COP30の主要資金問題が『適応資金』だった。後発開発途上国グループと市民社会は『2030年まで』に年間1200億ドルへと3倍に増やすことを求めていた一方、EUと日本の抵抗により、その部分が『適応資金は2035年までに最低でも3倍にする』とされた。
この5年間の延期は市民社会の要求を下回るものであり、そして文書に3倍増の基準が明確に示されておらず、資金が公的資金か助成金ベースかの要件も、また誰が資金提供の責任を負うのかについても明記されていない、という問題が指摘されている。
そして、適応基金を含めて従来の気候基金の最近の実態と実績とを紹介している部分を取り上げると以下のようになる。

適応化に対する数多くの約束がCOP30の期間中に公表、或いは再確認され、その総額は約1.35億ドルに登る。しかし、今年度の年間目標額の3億ドルと比べると半分もない。
また、COP30期間中、『損出と被害に対する基金the Fund for Responding to Loss and Damage, FRLD(COP27の成果)』の第1回目の資金要請が開始されたが、この最初の6カ月間の割り当て金額は2.5億ドル(1カ国当たり500万ドルから1000万ドルの申請が可能)であり、グローバルサウスが2025年までに必要とする金額3960億ドルと比べると0.5%にも満たない額だという点が指摘されている。

更にCOP30の合意文書の『損出と被害の基金』の部分で、基金への供出が8.17億ドルに達したことを評価しているが、支払われた額は3.97億ドルであり、富裕国側の拠出が滞ると基金は速やかに資金不足となることが予測されるが、合意文書では多量排出国の富裕諸国に対し、新たな拠出の要請は為されておらず、そして以前約束の資金提供分の再要請さえ文書中に明記されていない。

資金を一方的に保持する社会の支配層側の最近のdelayismという戦略が継続しており、社会が持つ抑制の拮抗力の更なる強化が望まれる状況が続いているといえる。

2. べレム・行動・メカニズム(Belem Action Mechanism; BAM)の採択
パリ合意に基づき、世界が目標とする気温上昇を1.5℃に抑えるため、各国が低炭素経済社会構造へと移行する際、その移行の実践的活動が公正であり、かつ包括的であることが大前提として重要であるとし、この大前提が保証される仕組みを定めた指針が今回採択されたBAM枠組みである。

COP30の会議場では多くの市民活動家やBAM支援者らが『BAM!』バッジを身につけ、採択に向けての活動を行い、世界人口の約80%を占める多くの国々がこのBAM提案に支持を表明したことで最終合意文書に盛り込むことが出来たという市民運動の成功例であろう。市民の運動(国際労働ユニオンの運動や環境団体・気候正義団体・女性とジェンダー団体や若者と先住民団体の数年にわたる活動に裏打ちされたもの)と共に、多国間協調主義(Multilateralism)が国際間の会合で充分機能していることが例証できる特筆すべき成果だった言える。

BAMという枠組みが国際社会の中で承認され、今後この枠組みに沿っての活動が期待されることになるが、適切な雇用、働きがいのある人間らしい仕事、労働者の権利、社会正義の確立を気候変動対策の中心に組み込み機能させていく運動の継続が、今後求められる。また今後の動向に注視していくことも求められる。

大きな成果ではあるが、アセモグル氏とロビンソン氏が指摘する『赤の女王効果』の存続が求められる場面と言える。巨大企業側の資金をもとに活動するシンクタンクやロビィーストらは巨大企業と共に絶えることなく駆け続けているのであるから。

3. 化石燃料からの段階的撤退に向けたロードマップの合意文書への記載に失敗
今回のCOPの開会時、開催国ブラジル大統領は『行動のCOP(cop of implementation)』、『真実のCOP(cop of truth)』を会合の基調方針に据えようとした。
目標や計画という机上の議論のみに偏るのでなく、今までに合意した、或いは今後合意する世界の目標に対し、明確な実行という結果が伴われるべきだとの主張と言える。

その一つの大きなテーマが化石燃料依存の段階的撤退を明確化するロードマップ作りであり、ロードマップに沿った各国の今後の段階的撤退の実践工程の合意文書化であった。

結果は、既に報道された通り化石燃料を議題項目に含む形で『たたき台合意案』が当初、会議に提案されたが、最終的には削除されてしまった。会合期間中のこの議題に関する実態を見ると次のようになる。

3‐1 国際会議場内(ブルーゾーンと言うようだ)の実態
EUや英国を含む80カ国以上の国々が、時間枠を明確に示した化石燃料からの撤退化ロードマップを合意文書に組み込むことを要求した。
サウジアラビア・ロシア・中国を含む多くの石油産出国ならびに利害を共有する国々が、合意文書への組み込みに反対。
現在の国際会合の原則が全会一致を基本的に要請していることから、最終合意文書に記載されることは適わなかった。

3‐2 自主的活動(グリーンゾーンと称する国際会議場外・枠外での活動・出来事とされる)
ブルーゾーン内は全会一致が必要だが、それを回避する動きとしてCOP30議長国ブラジルは化石燃料からの移行問題と森林伐採問題についてのロードマップを会議と並行して自主的活動で推進したいことを宣言している。
この宣言により、全会一致を要件とする国際会議の場において、『意思を持つもの達の連合(coalition of the willing)』が行動を推進することが出来る環境が生まれたことになる。
結果として、今回コロンビアとオランダが協働ホスト国として来年4月に創立会議を立ち上げ自主的ロードマップ作りとその推進を図ることになっている。
参加国の数次第で、変革を起こす強力な武器になる可能性を秘めた自主的活動が提案されたと言える。

COP30の話題には、まだ他に取り上げるべきものはあるが、今回は幸福追求のために必要な『狭い回廊』に留まる上で必要とされる統治支配機構の力と社会の力の拮抗状況を確かめることに焦点を当てたいと思っていたことから、COP30の紹介はここまでとしたい。

最後に、古い資料であるが2012年3月19日付けの記事(BINGOs and the global lobbyist)の紹介で締めてみたい。ロビーストらの生態を生き生きと描写している面白い記事である。
調査するジャーナリストたちの国際組合(International Consortium of Investigative Journalists, ICIJ)のKate Willson氏がバンコックの国際会議場でみた光景を描いている。

気候変動問題に対応すべく企業を代表するロビーストたちは、ロビー活動ではなく、ただあちこちをさまよい歩くことを基本にしているようだ。

バンコックの国連会議場の外では、参加国の温暖化効果ガス削減に対する弱腰の姿勢に抗議する人々が10月特有のスコールに濡れる一方で、会議場内には専門的知識に長けた人々がコーヒーバーに集い、顔見知りに笑顔を振りまき、握手して再会を喜び合う姿が見られるというビジネスに集う者たち独特の雰囲気が流れている。
その後、彼らは世界のトップエネルギ―企業の代表らが主催する遮断された秘密会合の室内で落ち合うことになる。

BINGOsの世界へようこそ。BINGOsとはBusiness and Industry Non-Governmental Organizationsの頭文字を綴った造語、即ちビジネス・産業界を代表するNGOである。

このBINGOs組織が世界の気候変動会議の議論の流れに実は大きな役割を果たしてきた。
国連の規則に従い、個々の企業は気候会議への参加から排除されている。従って産業界は産業界を代表する協会団体を作り、代わりに参加させている。

会議場内では、数十に及ぶBINGOs代表者らが集い、排出量削減目標や多くの炭素オフセット(相殺)政策やそれらの実践の時間割決めといった『賭け金が巨大な世界が抱える課題』についてお互いに報告し合うのである。ここでBINGOsの課題は明確であるが、彼らの戦略をハッキリと認識することは難しい。彼らの努力の結果はしばしば目に見えにくいものであり、彼らの行動は常識で捉えるロビー活動とは趣が異なるのである。

欧州の発電業界に所属するスコウクロフト氏は、『私たちはこの場では、さまよい歩いている。しかも思惑を持ってそうしている』と語る。

フランスの化学会社Arkemaの化学者でありロビーストである英国人のキャンベル氏は1991年から国連気候変動会議に参加し、会議場で報告会のまとめ役の活動をしているが、彼が重きを置くロビー活動は、ブラッセルに本拠を置くEUにおける活動であり、特定の国家や地域における活動に焦点を合わせているという。
一人のBINGO活動員として、国際会議場で影響を与えることはほとんど出来ない。影響を与えることが可能なこととしては、国連会議に参加資格を持つ『国家を代表する参加者』に普段から説得を試み、彼が所属する業界の利害の絡む事柄に協力してもらえる環境を作ることだとしている。従ってキャンベル氏は国際会議場内ではネットワーク作りの為にひたすら握手をし、再開を確認し合い、コーヒーを飲み、名刺を交換し合うという。
この行動が別の機会の成功に役立つだろうと信じている。

炭素集約型企業の代表者らは、かつて彼らの企業活動から排出されるガスが世界の気候温暖化に結び付くという考え方を真っ向から否定し、ガス排出削減に向けた世界の合意に長らく対抗する姿勢を取っていた。
しかし、科学的証拠が積み重なっていき、政府や世論の動向が変化していったことから、企業側はその対応を変更していくこととなった。
1997年の京都議定書の成立を持って、企業側は排出ガスと温暖化との関連性を認め、その上での彼らの行動指針の修正に乗り出している。

オスロ大学のフォルメダル研究員は、その辺の状況を次のように語っている。
『公式に規制に反対する企業は、今は多くない。国際的規制の合意に達した船は最早ドッグを離れたことから、企業側は新たな状況への準備を進めている。準備を整えた上で、企業側は再度交渉テーブルに座り、規制の動向に影響力を発揮出来るようになるだろう』としている。

巨大炭素集約型企業の現在の戦略の核心は、排出量の制限を行うことの必要性は認め、脱炭素化に譲歩する一方で、条約の『実施スピードを遅くするような文言の使用』を各国政府や国連代表団に対し働き掛けるというやり方だ。即ち石炭・石油や発電業界は長期間にわたる削減計画に焦点を合わせ、短期に終結が求められる計画を反故にする戦略を採用する。
そして企業側は、規制条約の枠内のもと、無償であり潤沢な排出量の割り当てを各国政府に要請しており、更に企業側は、排出量の削減の代償として、排出量の『相殺化』に役立つ『自由裁量権の拡大化』を要求している。拡大化した自由裁量権のもとで、例えば開発途上国が計画する再植林化といったコストの安いプロジェクトへの投資を企業側は行おうとする。

そしてまた、企業側は国連に対し、炭素捕捉と貯蔵化技術(carbon capture and storage 
technology)といった未だ生れたばかりで物議を醸す技術を石炭燃焼型発電の存続の為に利
用するという計画をも排出量相殺化事案に含めるよう要請している。

ここで、国際的ビジネス界のロビー活動は一枚岩ではなく、多面的であるという特徴を持
っている。

最近の数年間、新しい産業からの声が届き始めている。それは風力発電やソーラー発
電業界からであり、新興炭素市場から利益を得ようと躍起になっている金融企業からの声
である。

彼らからの声は、旧来のエネルギー業界のものと大きく異なる。
フォルメダル研究員は、『再生可能エネ企業と金融投資家は、突如として声高に主張するよ
うになった』と指摘し、『彼らは利益団体のプラットフォームを構築し、規制強化を訴え、
先進国に対してより厳しい目標設定を提唱している』と語る。

エネルギー大手エクソンモービル所属の気候問題専門家であり、BINGOs古参メンバーの
フラナリ―氏は、1991年と言う早い時期から人為的な炭素排出が気候変動の一因であるこ
とを認めるものの、その影響力を的確に評価するには情報が不足していることを取り上げ
ている。即ち、現在の観測データからでは『宇宙規模で自然界に起こる気候の大揺動の実
態の理解がいまだ不足しており、よって気候変動の要因が、その大揺動によるものか、企
業活動で発生する人為的排出ガス効果によるのか、を正確に判別することはできない』と
の主張を1991年に発表している。

このフラナリ―氏の主張であり、言説は今日でも専門家の一つの意見として有効と見なさ
れ、世界が合意を目指す際、悲観的材料として利用される恐れがある。

また、フラナリ―氏は『炭素排出量を低水準に設定し、それを達成する唯一の方策は全世
界が共通の目標と共通の炭素価格をもと、協力して実行に移すことが要求されることにな
り、そのような方策の実行には合理性はない。達成不可能な目標を設定し、実行に移せば
混乱と失望が生じる。そのような方策を取るのか、または達成可能な目標を設定し実行を
目指すという方策を採用するのか、という根本的な疑問が存在している』と指摘している。

またもっと意欲的な目標設定を支持する欧州風力エネルギー協会のグルエ氏は、フラナリ
ー氏の姿勢は容易に予測できる企業特有の『ゆっくりと行動する(go-slow approach)』様
式であり、BINGOグループに参加の石油や天然ガス業界や化学業界といった従来の企業の
誰もが排出量削減を望んでおらず、国際間の交渉プロセスに参加はするものの、参加当初
から交渉の混乱を図ることを狙っている』と指摘する。

かくしてグルエ氏は、代替え再生可能エネルギー業界は同調する業界・企業を、旧来の業
界からでなく別の業界・企業から求める必要があり、その数の力を持って国際間炭素市場
の拡大を図り、炭素市場の拡大でもって、炭素価格の安定化を図るとする共通する基盤が
成立する』と指摘する。

米国に本拠を持つ電力研究所所属のノバク氏は『炭素削減目標』の成就は、『想定する時間
枠』をどう見るかで決まるものだとし、技術的進展速度に比べて早過ぎる削減目標速度の
設定は出来ない』と主張する。
欧州電力連合(ユーエレクトリック)も、国連が提唱する炭素排出量上限達成には更に30
年の猶予を設定したいと考えており、ユーエレクトレックのスコウクロフト氏も削減の必
要性は認識するも問題は設定するスピードだと指摘している。

スコウクロフト氏はロビーストらの国際会議場に参加するメリットを次のように指摘する。

『こうした会議に参加することの素晴らしい点は、何もやることが無い各国の大臣や国務
長官が参集している』ことであり、彼らにはコーヒーバーに集まり寛ぐ時間が必要だと指
摘する。

またBINGOsのベテランロビーストらは、彼らが社交的交際能力を発揮する結果として、条約の文言の微妙な変更が為されたり、各国代表団がロビー業界からの意見を求めるといった成果が対価として得られる点を挙げる。こうした成果の場面でBINGOs業界が実際の交渉の場に参加が可能となるのである。

2007年のバリ行動計画(The Bali action plan: 後の国際交渉の流れに大きく影響した)で、民間セクターの参加が明記されたこともBINGOsのロビー活動の大きな成果だったことも特記できる。即ち、それ以前には各国政府は課題解決するための構成要員として企業の参入を想定していなかったのである。

また国際間の交渉ごとには『細部を詰める』作業が欠かせないとされ、その作業には長い時間枠での対応が求められることになり、企業の資金をバックに持ち、そして専門家としての知識と見識をもつ専門家集団のBINGOsのメンバーの活躍場は長く続くことになる。

以上見てきたように、企業側の国際会議への影響力の拡大化努力は並々ならぬものである。
『赤の女王効果』を継続し、有効性を維持し、幸福社会が期待できる『狭い回廊に居続けたい』なら『社会は走り続けること』が求められるのである。
社会も一緒に走り続けることでのみ、統治権を持つ権力側の暴走を抑制できる。


 
0091 >アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(2) yo-chan 11/22 12:56
 
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(2)


第一回目に続き、ECVCの推奨する25項目の紹介から今回は始めます。

農業分野にデジタル化を推進することが、単に企業の支配力が強化されていくことに結び付き、現在の不公平さ・格差が拡大していくことを結果として生じてしまうようには利用されるべきでなく、農業分野のデジタル化推進は、公平・公正な食糧システムの構築と支援に貢献する方向に行われるべきである。

この考え方をもとに、ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(European Coordination Via Campesina: ECVC)は、以下の25項目の推奨事項を提示する。

(支援策)
1.EU加盟諸国とEUは、資金的支援と参加型方式での支援を行うことで、農民の持つ知識を保全し強化することが求められる。ここで、参加型方式での支援とは、地域の農民と共同体が農業における知識を作りだし、共有化していくことを含むものである。
デジタル的道具が持つリスクを包括的に評価することが必要であり、それら道具が農民の行う農耕ならびに生態系にどのように影響するかを評価することが求められる。

2. EU加盟諸国とEUは、農業のデジタル化の推進が潜在的に持つ危険性から生態系および農民らを守るために事前に取り得る基本的原則を打ち出すことが求められる。

3. EU加盟諸国とEUは、農民と農業従事者らの権利を保護する政策をデザインし実践することが求められ、合わせてアグロエコロジーの推進と持続可能な農業実践の強化のために当該技術の支援を行うことが求められる。

(データの所有権の問題)
4. EU加盟諸国とEUは、知的所有権(intellectual property rights; IPR)・契約・デジタル錠(digital locks)あるいは如何なる利用上の制約の存在があるとしても、様々な保護を禁じることでアルゴリズムの透明性の確保を保証することが求められる。農業のデジタル化の流れの中で利用されるアルゴリズムというものは、大衆による公共利用のためには、自由であり・外部に開かれた状態であるべきであり、知的所有権による障壁は取り除かれることが求められる。
【知的所有権とは企業の勝手の部分とも言え、市民が本来持っている勝手の部分と、時にその兼ね合いを考える必要があるのだろう】

5. EU加盟諸国とEUは、農民が持つデータの所有権は農民が保持すること、そしてその利用で生じる直接的な利益は農民にあることを保証することが求められる。如何なる利用・自動的データ収集、或いは農民への事前の説明と了解なしでのデータ収集は禁じられる。農業に関するデータを元々所有する立場の農民は、それらデータがどのように収集され、貯蔵され、利用されていくかについて完全な支配権を持つべきなのである。

6. EU加盟諸国とEUは、生物的資源の中に同定され、特定されるデジタル連鎖情報(the Digital Sequence Information, DSI)が、これら生物資源の遺伝的構成要素であることを明確に認識することが求められる。従って如何なる知的所有権による制約があるとしても、その利用は妨げられるべきでなく、欧州の法規制のもと『基本的生物プロセスessentially biological processes』の用語で定義されるように、天然生物資源にも拡張的に適用されるべきであり、あるいは伝統があり農民が主導する選別選択プロセスでもって誘導される天然生物資源にも拡張的に適用されるべきである。

7.  EUと食料・農業向け植物遺伝資源に関する国際条約 (International Treaty on Plant Genetic Resources for Food and Agriculture:ITPGRFA)の統治機構は、食料と農業向けの植物遺伝資源のデジタル連鎖情報(DSI)が植物遺伝資源だということを認識することが求められる。

8.  ITPGRFAの統治機構は、それぞれの国内法の中で各国は条約第9条で定義される農民の権利を擁護支援することを保証することが求められ、そして多国間のシステム・それらの遺伝子部分・12.3(d)条項に関わる構成要素を通して獲得された種子に関わる如何なる知的所有権の主張を排除することが求められる。
EUとしては、このことは現行のGMO規制を維持し、厳格に強化することを意味するものであり、一方種子に関する市場や知的所有権および植物の健康保全に関わる法的な枠組みの修正は、種子に関する農民の権利と一致することする。

9. 便益の共有化については、ITPGRFAは共有便益の収集・分配についての権限と責任を各国に与える必要がある。各国との協力無しでの如何なる便益の分配も、利用と便益共有化に関する多国間システム(Multilateral System of Access and Benefit Sharing; MLS)の食料・農業向け植物遺伝資源(PGRFA)に含まれるデジタル連鎖情報(DSI)の利用やインターネットへの自由な接続性に適用すべきでない。

10. EUは、小規模農家から得られるデータに関する小規模農家の支配権を保護する政策を強化することが求められる。このことには、農業データを企業が利用する際の安全装置の設置化が含まれ、そして農民や協同組合や地域共同体の便益となるデータの共有化モデルを推進することが含まれる。

(間違った解決策とならないために)
11. 加盟各国は炭素市場(carbon markets)や生物多様性市場(biodiversity markets)を避けることが求められる。

12. 加盟各国とEUは、炭素農耕(carbon farming)の推進と生物多様性オフセットスキームの推進を避けることが求められる。何故なら、これらのことは『自然』を商品に変えることであり、小規模農家の知識と自律・自主権を損なうものだからである。
炭素除去保証化枠組み(Carbon Removal Certification Framework, CRCF)のようなデジタル化された炭素除去スキームに依存するのでなく、採用する政策は生物多様性を高め、土壌を改善し、実質的な気候温暖化対策に真に貢献するアグロエコロジー型実践を直接的に支援するものであるべきである。

13. EUは、説明責任を有し、人間を中心に置く技術の利用を推進すべく強固で堅牢な計画を開発・展開させることが求められる。そして事前の注意対策の優先、農民の自立・自主権の保証、知識伝達の保証、そして気候危機に直面する若年農民の自立を優先し保証することが求められる。ここで、ハイテク技術利用に依存する解決策を推進するということは、単にエネルギー依存性を高進させるだけという認識を持つ必要がある。

(統合化)
14. 共通農業政策(Common Agricultural Policy: CAP)のもとでの補助金を含めてEUの補助金というものは、小規模農家がデジタル的道具を採用し、これらの市場に参加することを支援する方向に向けるべきである。
この支援策は、小規模農家ならではのユニークな取り組みにおいて発生する資金的難題・技術的難題の解決の促進に焦点を合わせて行われる必要がある。

(土地収奪に対抗するために)
15. EUは、土地の管理運用と所有権・借地権に影響する政策枠組みを改定することが求められ、その枠組み改定には、デジタル化が更なる農耕地の集中化と土地収奪を推進するのでなく、集中化と収奪を阻止し抑制する明確な安全防止対策が含まれることが必要である。

16. 加盟各国は土地の登録と運用に使用されるデジタル的道具とプラットフォームは、不法に取得した土地の登録の合法化を防止し、小規模農家の権利を保護する構造を含むものであることを保証することが求められる。

17. 加盟各国は、透明性と説明責任が担保できるようデジタル土地台帳のシステムを支配する法規制を強化することが求められる。これらのシステムは、デジタル的道具の使用により過去に収奪された土地が合法化されることのないようにデザインされる必要があり、土地に対する個人の権利と共同体の権利が正確に、公正に取り扱われることが保証されるデザインにする必要がある。

18. 全てのデジタル的土地統治運動が及ぼす人権への影響の評価を包括的に実施することが加盟各国に要請される必要がある。これらの評価では、デジタル化がどのように土地台帳や小規模農家に影響するかが評価されるべきであり、そしてデジタル化推進が彼らの土地権利を妨害しないことを保証するものであるべきである。

19. 加盟諸国は、投機的慣行を防止し、デジタル化が土地への利用性における不平等性を悪化させることのないよう、デジタル的土地の市場化活動を統括管理する法規制を確立するする必要がある。そこにおいては、土地の市場のデジタル化により発生する潜在的な不正を監視し対処する方策の存在が求められる。

20. 加盟各国は、若年農家や新規農家を支援すべくデジタル的土地の統治政策の条項を含めるべきであり、それにより土地管理のデジタル化が次世代の参入の障壁とならないことを保証すべきである。

(平等・公正な利用のために)
21. 加盟諸国は、働く人々の権利を保護し、技術的便益の公正公平な利用性を促進し、そして農業のデジタル化が農業労働における階級的な、あるいは人種差別的な収奪といった歴史的に存在したパターンを存続させたり、悪化させたりすることの無いような戦略を開発し実践することが求められる。

(装置)
22. 加盟諸国は、小規模農家に適った従来とは異なる機械化運動を支援し、拡大するような政策を実行することが求められる。これには、農民らや開発技術者らが協働して参画し、デザインし、誰もが無償で利用できる道具類の開発と利用を推進する方式が採用されており、従ってこれらの道具類は、適応力があり、入手可能な手ごろな価格であり、修理も地域内で対応できるように設計されていることになる。加えて、加盟諸国は農業器具装置のしっかりした中古市場を作りだすことに協力することが求められる。これにより、小規模農家にとって障害となっている技術への利用性を妨げる知的所有権のライセンスという障壁を取り除くことが可能となるのである。
【Schumacherが描いた中間技術の取り組み方であり、彼が描く目標の姿を表現している】

(現行の巨大アグリビジネスが支配し構築する地球規模の単一化に対抗するために)
23. 加盟諸国は、地域共同体内の食糧ネットワークの構築を支援し、促進することが求められ、それにより、現行のアグリビジネスが支配し構築している地球規模の食糧ネットワークとは異なる小さい領域内で成立するネットワーク作りの重要性が認識されることになる。よって小規模農家は生産工程から、流通工程にかけて自立・自主権を持つことが可能になる。加盟諸国はかかるシステム作りに必要な政策作り、資金的対応が求められる。

24. 加盟諸国は、農業と食品領域で拡大する独占権に対抗する上で有効な政策を展開し強化することが求められる。 そしてこれらの行動によって、小規模農家や地域共同体が農業と食品領域の産業活動に参画が可能となり、公正性・公平性の担保が保証されるのである。

(不平等性に対処するために)
25. 加盟諸国は、都市部以外の地域ならびに限界地域共同体の人々を含めて全ての人に対し、即応性があり・手ごろな価格であり・信頼できるインターネット接続性ならびにデジタルインフラの展開と実践の推進が求められる。これらの行動戦略においては、ジェンダー間に存在する差別や権力格差の不公正さや不公平さに対処することを保証する必要があり、そしてデジタル機器類道具類の公平な利用性を促進し、農業領域に存在する不公平性を悪化させるようなリスクを軽減・緩和することが求められる。


1. 技術的解決策 対 食糧自立権と自主権: 批判的分析

現代農業の景色の中に見られる『世界需要に見合う食糧を生産し提供する』という頻繁に発せられる言説が主張されることにより、デジタル化が勃興し、そして気候スマート農業・精密農業・e‐農業や農業4.0といった技術的進展の必要性が取りざたされることになる。

効率性や生産性の向上を強調するこれらの方策の推進は、往々にして多国籍企業体により取り仕切られて行われ、農業分野において多国籍企業体(transnational corporations; TNCs)による重大な企画開発権・管理運営権が行使される。

幾つかの国際機関や工業型農業を行う組織は、デジタル化の動向を『第4次農業革命』と位置付けることで、更なる多国籍企業体の支配力強化を狙っており、その一方で地域や先住民の農業慣行は見捨てられていくことになる。

FAO・世界銀行や欧州開発基金のような開発支援機関もまた、デジタル技術が小規模農家を強化し、生活生存力を向上させる有効な武器になると位置づけている。

初期のデジタル技術の幾つか例 (例えば衛星支援型操縦・速度可変アプリ・搾乳ロボット・インターネットやスマホ支援情報システムや農場管理運営ソフト)は既に10年〜25年の実績があり、それら技術による効能を紹介する文献が積み上げられつつある。

農場ロボット化やドローン技術・農場におけるIoT (農場に存在するあらゆるものをインターネットに接続する技術)や統合型農場管理運営アプリを含むその他の技術は、実用化に向けて様々なステージで開発が進んでいる。

いっぽう、価値連鎖(value chain)もまた連鎖の上流に位置する組織によって変化が起こっており、発注・契約・標準化・品質保証そして行政手続きの自動化が進行している。

農場で起こっている技術的変化とは別に、企業連合体や公共−民間連携組織は、『スマート農業』の持つ潜在能力を選別して紹介することを行い、それにより気候危機・食糧危機や資源危機といった危機が累積する最中での資本主義的農業へ向かう構造的な批判を分散化させようとする動きが往々にしてある。

農地・農民や消費者に関し収集されるデータが、既に主要な商品となっており、農業に関する知識を誰が作りだし、適用し、解釈し、利用するかの点で新たな構造的不公平性・不公正性の問題が生じている。

これらデジタル技術が推進されるにつれて、農業領域における権力支配力学の捻じれが増大している。それにより、食糧生産の今後の行方や知識の管理運営の今後の行方に懸念が生じてきている。

今回はここまでとします。


 
0090 アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(1) yo-chan 11/06 10:24
 
アグロエコロジーを志向する『農民の道』が良とするデジタル利用の農耕の形と条件(1)


世の中には、少なくとも2つの流れがあると思う。
農業の分野でいえば、競争力UPを求め、ひたすらに規模の拡大・効率の向上・生産量の拡大を至上命題とし、農薬・化学合成肥料等外部資源の大量投入を辞さない工業型農業の姿が一方にある。アフリカを舞台とするAGRAが代表だろう。
そしてもう一方に、規模の拡大には意義を認めず、農薬・化学合成肥料等外部資源の投入についても基本的には意義を認めず、自然と共生するアグロエコロジーにこだわり、健全な農地の土壌にこだわり、公正・公平な食料供給システムを追求し、食料の自主権を確立することで農民の自立を目指し、合わせて地域共同体の活性化を目指す農業の姿がある。
アフリカのAFSAや南米発のLa Via Campesinaが代表だろう。

ただし、投入される資金面で、2つの農業の姿には非常に大きな格差・落差があり、前者には注目度・資金という日の光が大いに当たっているのに対し、後者には注目度も資金というお日様はほとんど当てられていないのが実情である。

かかる状況の不自然さを普段から感じており、後者の農業の姿にエールを送ることに意義あるとの思いから今まで後者の話題を敢えて数多く取り上げてきている。

農業分野へのデジタル化の推進が、殊に前者の工業型農業に浸透してきている状況に対し、この動向に対する後者の立場からの意見表明が発表されていることが分かり、そしてその内容が非常に興味深いと感じたことから、今回、何回かに分けて紹介したいと思います。

繰り返しますが、注目度の低い中で活動している後者の農業の拡大を目指している人々の声が出されていることに対する応援の気持ちを込めた紹介とお考えください。

今年の4月に発表されていた興味深い情報です。出来る限り全てを網羅したい考えですが、50ページに亘る情報であり、部分的な省略を交えることとなります。
では始めます。

『デジタル化が、アグロエコロジーを志向する農民に課題を投げかけている:ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体の視点』         2025年4月28日
原題:the challenges digitalization brings to peasant agroecology: an ECVC perspective

農業分野のデジタル化の推進が、農業分野への企業の影響力をさらに強めること、そして既に存在する格差が更に拡大することのないようラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(European Coordination Via Campesina:ECVC)は、25項目の推奨事項を以下に纏めた。
これら推奨事項を採用し、順守することで初めて、デジタル化推進が食糧の自主権と安全性確保と保障に役立つ形になると考える。
小規模食糧生産者の要望を優先する条件のもとで、環境的・社会的な危機状況に対処していく上でデジタル技術推進は役立つものになるだろう。

 (前文)
デジタル化が進んでいる。私たちの生活すべてに影響が出ており、農業も例外ではない。

ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体(ECVC;以降ECVCと略記)はこの状況を踏まえ、デジタル化進行と幾つかの農業技術の未来像に対し、ECVCの立場と見解を表明する。以下の表明は、ECVCの政治的な態度を表明しており、そこでは事実に基づく話や大地に根ざした例が示されている。

『デジタル化が、アグロエコロジーを志向する農民に課題を投げかけている:ラ・ビア・カンぺシーナ欧州連携体の視点』という表題の報告は、私たちのタスクチームの分析結果ならびに2024年に行った2回にわたるワークショップの結果を反映しており、ECVCの各メンバーの考えを反映したものです。

ここに紹介するデジタル化に対するECVCの立場・見解が、ECVC各メンバー間の議論の指針として役立てられること、ならびに農民が持っているデジタル化推進に対する明確な見解と懸念を、政策立案者、各種公共団体や各種市民団体に対し、提示する機会となることをECVCは期待している。

(概要)
農業のデジタル化にはデジタル技術の広範な利用が包含されており、そしてデジタル技術には、社会が抱える様々な課題に解決策を提供する力があるとして、各国政府・国際機関や各企業がデジタル化を推進している。情報・通信技術にはインターネット・無線ネットワーク・セルフォン・コンピューター・ソフトやメディア利用等が含まれ、デジタル形式で情報の相互交換・データ貯蔵・情報伝達・情報加工等の利便性を利用者に提供している。

デジタル技術には人工頭脳(AI)やデータ科学の活用も包含されており、膨大な量の情報を処理し、加工することで、対象情報のパターン・傾向・内部構造等の情報を得ることが可能になっている。現在のバイオテクノロジーにも利用され、デジタル的に土地のマッピングを行うことで地理空間的データを取得することが出来、またこれらデータ集積と各種データ処理を組み合わせ利用することで炭素のクレジット化や生物多様性のクレジット化等のビジネス拡大に結び付ける方法も存在している。

近代化の名の下に食料システムのデジタル化を推進するということは、実態としては社会の中における企業の存在と企業の役割が拡大している状況を見えにくくする企業側の戦略と言え、そしてグローバル化の進展で起こっている格差の拡大を継続させ、その構造を定着させるものである。

自由貿易協定(FTAs)に後押しされた多国籍アグリビジネスが、革新技術を独占し、強力な法規制と公共政策に守られ、食糧の生産と分配に関する権利をも多国籍アグリビジネスが独占的に管理している。

デジタル化推進による支配は、小規模農家を消滅の危機へと導くとともに、データ所有権と意思決定権がごく少数の巨大企業と強力な国家の手に集中する事態になっており、それにつれて、本来小規模農家が権利として持つ筈の食糧の自主権の侵害にも繋がってきているのである。

そして、これら巨大企業や強力国家は、『人』の優先ではなく『利益』の優先を掲げるモデルを推進しているのである。
よって、彼らの推進する農業は利益優先であり、人々の幸福優先ではないのである。
従って、持続可能で強靭性のある食料システムを構築する上で重要なアグロエコロジー的農耕慣行は弱体化されていくことになるのである。

このデジタル化推進の流れは、データ帝国主義の一形態であり、そこでは農民共同体が生み出してきた膨大な量のデータが、適切な見返りなしに、勝手に抽出され・集積され、そして商品化されていっている。

自由貿易協定には、かかるデータ抽出を促進する条項がしばしば挿入されており、米・ロシア・EU・中国・インドやブラジルといった主要国とそれ以外の国々との間の力の格差が更に固定されていくことになるのである。

ECVCは、この現在の農民たちの保有するデータを搾取し、対価なしで商品化する企業が提供する現行のモデルへの対抗策としてアグルエコロジーを支援するものである。

アグロエコロジーというものは、単なる一つの農耕法以上の意味を持つ実践的農耕なのである。そこでは農民の持つ知識と近代的研究体系とを総合的・科学的に統合化していくことになり、持続可能な強靭な農業システムが作り出されることになる。
【ここでいう近代的研究体系とは、Schumacherがsmall is beautifulの中で語る中間技術に頼る研究を指していると考える。決して巨大企業だけが投入しえる巨大資本が必要条件とされ生れ出る巨大技術を指すべきでないと思う。この中間技術に拘る姿勢がアグロエコロジー拡大に結び付くのであり、地域共同体の活性化に結び付く道だと確信している】

工業型農業が、外部からの投入資源や単一種栽培に頻繁に依存するのに対し、アグロエコロジーは、多様性・地域が持つ特質・エコロジカルな原理に価値を置いている。
世代を超えて積み重ねられた農民の持つ知識は、アグロエコロジーにとって基幹となる知識体系であって、作物の持つ強靭性や土壌の肥沃化やエコシステムの管理運用に貴重な参考資料となる。

この伝統的知識と科学的研究体系とを組み合わせれば、地域の状況に適合した、そして長期に亘り持続可能な農業実践を行うことが出来る。
デジタル化推進による企業統治の拡大に抵抗することで、農民の持つ伝統知識の権利を守ることができ、生物多様性は保全され、より公正でより持続可能な食料システムを推進できる。

しかし、複雑な事情もデジタル化推進の中にあり、デジタル化には潜在的な長所もある。殊に農民が行うアグロエコロジーに役立つデジタル技術を利用する場合である。

例えば、アプリやネットワークの様なデジタル道具がそれで、これらの利用で農民間の知識の交換・交流は促進され、作物管理や気象状況への適応の様な農業実践に役立つ。
これらの技術は、農民の知識を補完するように使われるべきであり、そこでは農民は自律性が担保される形でデジタルデータを収集し活用し、伝統的なやり方と統合して農耕を進めることになる。結果的に、外部からの間違った解決策の利用は回避できることになる。

次の章で、農業におけるデジタル化の様々な側面を批判的に検討する。そこでは農民が共有している実際の例を取り上げており、これらの問題に対するECVCの立場を明確に示すこととしている。
そして、現在のバイオテクノロジーのような分野を解明し、土地に関連するデジタルの利用やカーボンクレジットの勃興、デジタル化に基づく課題とリスクを強調することとする。

(ボックスA)農業のデジタル化に関するECVCの立場

デジタル技術は、より持続可能なより公平な食糧システム確立に貢献できる潜在力を持っているけれども、現行のデジタル技術の実践は、しばしば企業の力を強化するように働き、存在する不公平さ不平等さを悪化させる働きをする。
農家・牧畜家や小規模漁業家は農業と食糧生産における最も長い歴史を持つ革新家である。
農業と家畜飼育が始まって以後、必要とされるものに対応できる、そして直面する課題に対応できる道具とシステムを創造してきている。

そして農民の深い知識と知識を得ていく方法は、データを単に蓄積し加工処理する以上に多くの意味合いを持っている。
農民たちの知識は包括的な実践に結び付くものであり、そして農民たちと小規模食糧生産者の間にある複雑な社会的・生態学的な関係性にも結び付くものである。
また農民たちのアグロエコロジカルな実践と革新というものは、蓄積する認識プロセス(cognitive processes)に依存するとともに、人間の感覚や直感にも依存するものである。

私たちの急速に進展する世界において、技術ならびにデジタル化というものは私たちの生活に欠くことのできない部分になってきており、それらのカバーする範囲は私たちの食料システム全域に拡大している。

それらはしばしば技術革新に『必要な道具』として提供され、あるいは複数の世界的課題に取り組む手段を提供する。

しかし、真実はもっと更に複雑だ、ということを私たちは知っている。

私たちは『高度技術の道具』の利用を強制されアドバイスされる一方で、農村田園地域には大きなデジタル格差(デジタルを利用する機会の格差や能力格差)が存在しており、殊にこの問題は女性と小規模農家に影響が顕著なのである。

多くのデジタル推進者たちは更なるデジタル化が若者をこの分野に引き込むと主張する。
しかし、欧州では若者たちは農民の生活スタイルを優先しており、彼らにとってはデジタル化の推進の優先順位は低いのであり、若い農民らは確実な所得と土地の利用性について議論しているのである。

ここで、ECVCは反技術主義の立場でないことを明確にしておきたい。

私たちのメンバーは有効な道具と技術を持ち活用している。一方、デジタル化推進に対しては、注意を払う必要があると考えている。理由はこの技術が中立性を欠いているということを充分に認識しているからだ。
現在のデジタル道具と技術の大半は小規模農家の要望に沿う形で取り組んではいない。

現実の実態としては、酪農のロボット化であり、群れの位置情報やサテライトとトラクター連結技術等である。これら全ては、いわゆる『意思決定支援道具』ではあるが、実態としては『自動的に意思決定が提示される』のである。

それは私たちが抱えている課題とはかけ離れたものであり、このことから新たな懸念とストレスが生れる。 私たちの生産工程を決定する権限は低下し、農業活動を企業のコントロール下に置くことを助長する。よって小規模農家の生計を棄損することに繋がると見る。

換言すると、デジタル化推進運動は、気候変動を含め現在の地球規模で直面している複合的な危機の根元にある要因に取り組むものではないのである。

2回のワークショップと内部会合の議論を通して、ECVCメンバーが主な懸念事項として捉えているものは、多くの技術的解決策が私たちとの協同作業により、或いは我々の為に開発されているのではないという点であり、実質的には私たちにリスクを負わせるものになっているという点である。

EU の全体的な政策というものは、例えそれが、農民が主導するものでなくても、あるいは農民との協同的なものでなくても、この種の研究ならびに技術の革新に対し非常に緩やかな方式を助長するものであり、よってデータ主導型技術を所有するか、或いはデータ主導型技術をコントロール下に置く強力な組織によって動かされていくのである。

小規模農家としての私たちの自治権自主権は、『農耕資源』のコントロール権を維持することに依存する。そして私たちの『農耕資源』としては、土地であり、労働力であり、知識であり、技術であり、種子であり、あるいは家畜育種法であり、それら全ては農民が潜在的にもつ自己適応力に結び付いているのである。

このことが、デジタル技術を内包する強力な土地測量技術保持者らとの衝突を招く。
私たちは、私たちの了解なしに為されるデータの収集を望むものではない。
それだけでなく、それら勝手に収集されたデータが、後に私たちに『コンサルタント料やアドバイスサービス料』を名目として販売されるべきでないと考える。

私たちは、私たちのアグロエコロジーへの転換を包括的にそしてボトムアップ方式で支援してくれることになる『研究と技術の革新の新たなパラダイム』への移行を求めるのである。

革新的技術やデジタル化というものは、食糧に対する普遍的権利に役立つべきものである。

EUメンバー諸国は、農民の了解なしに撮られた衛星写真を用いるといった、農民の不利益になるような形で法廷論争において、それら衛星データを使用すべきでない。

以上の全てのリスクが存在しているにもかかわらず、デジタル技術というものが追加的データとともに不公平性の存在を明らかにする上で、そして食糧安全保障と食糧自主権を推進する上で、さらに生態系と社会に対する危機に対処する上で貴重な資源となる可能性があると、私たちは認識している。
データ利用性を更に拡大することは、知識を拡大し、多くの解決策を与えてくれる可能性がある。

しかしながら、このことが有効性を発揮するかどうかは、公正な食糧システムを達成する上で鍵となる強力な公的ガバナンスの枠組みの開発が展開されるかどうかに掛かっている。

米国とEUに対し、農業技術にデジタル技術を適用する際の彼らの取り組み思想の再考を求める由縁は、そこにある。
即ち私たちは、デジタル技術が生態系の劣化を引き起こすという問題から社会の不公平さを拡大するという問題にわたり、問題を悪化させる可能性を持っているとともに、一方ではデータを通して理解の拡大化を図る上での潜在的な力をデジタル技術が持っているという認識も持っているのである。

今回はここまでとします。


 
0089 >現在の社会状況について(8) トランプ主義とCOP30への影響 yo-chan 11/04 15:33
 
現在の社会状況について(8)トランプ主義とCOP30への影響


もう少しでアマゾンの港湾都市Belenを舞台とするCOP30が始まる。
世界が同じ方向を見つめ、直面する課題、気候変動への緩和と適応に資する行動を討議し合い、各国は独自に設定した削減計画の棚卸と次なる新たな意欲的な目標設定を目指す場がCOPではないかと思うのだが、この行方にトランプ大統領が大いに影響しそうである。

先ずは、トランプ氏がここのところ取る氏ならではの弁舌と戦術の幾つかを挙げれば次のようになろう。
1) 気候変動危機の否定:氏は世間に流れる気候変動の言説が『詐欺(con job)』だとか『悪ふざけのでっち上げ(hoax)』だとの話を再三にわたりソーシァルメディアを通して、そして公式表明の場を通して行っている。この氏の行動は、国際間で行われてきている気候枠組み交渉がアメリカ経済の活動に負担を強いるものであり、科学に立脚した要請というよりもイデオロギーに引きずられた要請に基づくものだという世論の流れを作りだそうとしているものといえる。
【健全な科学とは?という設問に対する政府の回答が、政権が変わるたびに変更されるという問題がある。この点については別の機会に紹介する予定】
2) 多国間協議と合意からの撤退:氏は再度パリ合意協定からの撤退を宣言し、国連気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)からの撤退の脅しを行っている。
3) 国内の法規制の解体:オバマならびにバイデン政権時代に行われた環境と気候問題に関する法制度(例えばクリーン電力計画や電気自動車指令)の解体に精力的に取り組んでいる。 またインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)に絡むクリーンエネルギー税制優遇措置(Clean Energy Incentives)の弱体化を図っている。
4) 化石燃料の拡大化:トランプ政権のエネルギー戦略は石油・天然ガス・石炭の採掘推進であり、その為の連邦所有の土地と水域の開放であり、連邦が有する石炭採掘用地のリースを一時停止していた状況を撤回するという動きである。
5) 経済的圧力の利用:トランプ政権はアメリカが有する経済的・政治的影響力を利用して国際間の気候関連運動(例えば国際海事機関が手掛ける海運に対する炭素税構想を遅滞化させるトランプ政権の動き)を妨害する活動を精力的に行っている。
6) 政府権限を持つ担当者のCOP30への参加の回避:せいぜい権限のないオブザーバーが参加する方式を採用すると見られている。

上記のトランプ政権の横やりが存在する状況下での今回のCOP30では、目指す方向性に混乱が生じるであろう、との懸念が指摘されている。
また、国際間の討議の場において『多国間協調主義Multilateralism』の考えが弱体化し、『多利害関係者主義Multistakeholderism』の考えが隆盛を極め、よって多国籍巨大企業の思惑が国際間の討議の場で大きなウェイトを占め、討議の流れさえ支配する状況になっている。この動きを主導するのがロビィストと称する知的技能者たちであり、彼らの戦術に討議の『遅滞化(delayism)』と『そっちこそ、あっちこそどうなんだ主義(whataboutism)』があり、国際間の討議の混乱化や遅滞化が最近の特徴の一つになっている。今回のCOP30においてはトランプ主義という波乱要因と共にロビィストによる混乱要因の存在が多いに懸念される。

かかる状況の下ではあるが、来るCOP30の行方に絡む幾つかの話題を紹介することで、現在の社会状況の特徴の一つにスポットライトを当てたいと思います。

始めに紹介する情報は、『COP30を直前に100カ国が気候目標設定に苦しんでいる』
(原題:100countries stall on climate targets ahead of COP30)
E&ENEWS by POLITICO, 2025年10月27日  サラ・ショーンハート氏記す 

以下全文紹介でなく、要点のみの紹介になります。

トランプ大統領は、世界の指導者に気候変動対策の放棄を強要し、各国は意欲的な炭素削減目標の提出が出来ない状況が続いている。

そしてトランプ氏のパリ協定離脱姿勢により、アメリカの気候変動目標は見当違いの方向になる恐れがある。

温暖化を促進する汚染が拡大するなか、多くの国々は近く始まる多国間国際協議の準備を進めているが、パリ協定に合致すべく意欲的な炭素削減目標の提出が出来ない数十カ国に及ぶ国が世界には存在している。

トランプ氏により、アメリカの気候対策は骨抜きにされ、そして氏は、他の諸国に対し対策の放棄を強要している。

かかる状況下、EUはアメリカ撤退の空隙を埋める努力をし、世界最大炭素排出国中国は、排出削減の公約となる新たな対策目標を提示したが、充分に意欲的な目標ではない、と専門家らは指摘している。

トランプ氏は、貨物船やその他の発生源からの汚染物質削減を求める対策の弱体化を公然と主張しており、そんな中で行われるアマゾンの港湾都市Belenでの今回のCOP30は、30年前にCOPがスタート以来、恐らく最大の政治的反発に直面しているといえる。

現今の気象変動状況下で、いかなる対策が求められるかを考える世界の国々は、彼らの目指す方向と真逆の方向を目指すトランプ氏と取引しなければならないことを心得ている、とバイデン政権下で気候政策アドバイザーだったジョン・ポデスタ氏は指摘している。

だがトランプ氏だけが現在の課題ではないのである。

世界ではエネルギー需要は高進し、化石燃料の離脱への道には複雑さが増している。
一方、政治世界では対立が、そして生活面では日常必需品の価格は高騰し、それらの要因によって欧州の気候対策策定には波乱が生じている。

国連への各国のNDC(Nationally Determined Contribution今後10年間にわたる国家で決めたGHG排出削減計画の表明は5年ごとに求められている)の最初の提出期限は2月で、次の期限は9月だったが、現時点(10月27日)で提出した国の数は70カ国に満たない(195カ国が提出を求められている)。

アメリカが真逆の方向性を目指すという不確実性が高まるなかで、世界の国々には高い目標の意欲的な行動計画の提出が求められる、という不可思議さに対し世界各国が懸念と疑念を持つことは驚くに当たらない、とジョナサン・エルキンド氏(エネルギー省の元高官)は語る。

景気が好調であろうが、不調であろうが、そして戦乱やパンデミックがあろうが無かろうが、持続可能性が数十年にわたり維持できるかどうかが真に大切なことであり、その為には注意力が、焦点を定めることが、創造性をもつことが、そして何にもまして資本また資本が求められる、とエルキンド氏は指摘する。

現在のところ、トランプ氏に追随してパリ協定の離脱を表明する国はない。

しかし、世界初となる筈だった海運炭素税を支持する国々に対しトランプ氏は10月初めに関税を課すとの脅しをかけた。その結果、各国は態度を変え、海運炭素税の可否に関わる投票は1年間延期される事態となっている。
この動きにより、COP30交渉のEUの立場が先週一時的に混乱している。

しかし時間は限られている。時は刻まれている。そして、全てを上手く推進するのに必要な事柄を私たちは充分に認識していない、とポデスタ氏は指摘する。

先月、ニューヨークでCOP30に先行しての国連気候サミットが開催され、加盟各国に対し新たな意欲的政策目標の提出を促した。その会合には100カ国以上が参加しており、気候変動対策推進を目指す専門家らは、トランプ氏の横車にもかかわらず世界の多くの国々には変動対策への積極性がある、と見ている。
そして英国・日本とブラジルは意欲的な削減目標を示しており、また欧州委員会委員長のUrsula von der Leyen 氏はCOP30開催前の提出を声明している。

しかし亀裂の存在もまた明らかになってきている。
世界で3番目の排出国のインドは参加を見送っている。
そしてG20を構成し、世界の排出総量の4分の3を排出している10カ国は、求められている新たな削減目標をまだ提出していない。

そして、2030年を最終期限とする前回のNDC削減目標を達成すると見られる国の数は少ない、とされる。最近の研究結果はそれを裏付けており、例えば日本・インドとアメリカは現在の状況からすると前回のNDC削減目標を達成出来る見込みはないとされている。


次の紹介記事は、『目指す変化の方向性が今や変えられ、気温上昇1.5℃以内の目標達成が困難になっている、と国連代表が表明』
(原題:”Change course now”: humanity has missed 1.5C climate target, says UN head)
The Guardian, 2025年10月28日  ジョナサン・ワッツ氏・ワヤ・ザイパイ氏記す

既に人類は1.5℃以内のパリ合意の目標達成に失敗しており、故に将来の破滅的な結果の現出は避けられないと指摘した上で、現在たどっている道を直ちに変えることの必要性と重要性を、COP30各国代表団に対し国連グテーレス事務総長は指摘し、警告している。

歴史上最も暑い10年を世界は体験している。

化石燃料大量消費による気温上昇はそのスピードを加速していると研究者が指摘するが、それにもかかわらず各国政府の目標公約とその実践内容は不充分、とグテーレス氏は語る。

パリ合意に従い、国の気候行動目標計画(NDC)を期限内に提出しているのは、197カ国のうちの62カ国だけ、即ち世界の3分の一以下の国だけが期限内に提出しているのである。

そしてトランプ政権のアメリカはその手続きを既に放擲している。

パリ合意目標の1,5℃以内の気温上昇の達成には60%の削減が求められるが、現時点で提出されたNDCの内容では、期待される削減は10%という。従って1.5℃以内の気温上昇目標の達成は困難になっている、とグテーレス氏は指摘する。

それでも国連事務総長はパリ合意目標達成に合致する軌道への回復はまだ可能とし、その為にはCOP30を手始めとして今後の国際間の協議における軌道の大転換の重要性を指摘している。

そして、グテーレス氏は、国際間協議に送り込むメンバーのバランスを再考することの重要性を各国政府に対し指摘している。
即ち市民団体・殊に各国の先住民共同体を代表する人々・団体をメンバーに加えることの重要性を指摘している。

ロビィストらが望むことは充分に分かっている、彼らは人々全体の利益を犠牲にして、自分たちの収入の拡大を目指すものだ、と事務総長は指摘する。

COP30におけるブラジルの取り組みの一つは、熱帯雨林フォーエバー・ファシリティー(Tropical Forest Forever Facility)であり、現存林の保護のために1250億ドルの調達を目指している。支出される資金の5分の1は、森林の生物多様性と炭素吸収機能の保全に長く寄与している先住民の共同体の活動支援に向けられる。

グテーレス事務総長は、ことあるごとに先住民の声の重要性を強調している。『自然を最もよく守る人々に投資することが不可欠だ』と主張している。そして世界の指導者たちは先住民から自然とのバランスを取る方法を学ぶべきだと述べている。
特に経済状況が複雑化し、そして気候変動・災害・大惨事に直面した際、政治指導者らは日々発生する社会の課題に時として関係したがるという性癖を持っている。
故に、政治指導者の中には自然との調和をとることの重要性を理解していない例が見られ、彼らへの継続的な教育が必要であり、その教育には先住民共同体が最適な先生になる。


次の紹介は『アメリカの超富裕層の行動が、現在の気象状況のもとでの地上の安全な地域空間を狭めている』(原題:America’s super-rich are running down the planet’s safe climate spaces, says Oxfam)
The Guardian 2025年10月29日   ジョナサン・・ワッツ氏記す 

Oxfamの調査により、超富裕層の投資のほぼ60%が、石油や天然ガスや鉱物資源の採掘といった気候変動に大きく影響する業種に向かっていることが判明している。

そして、アメリカの超富裕層(アメリカ総人口の0.1%:約30万人とされる)が生み出す炭素排出量は、世界の最貧層10%(即ち8億人)が生み出す炭素排出量総量の4000倍だという。

別の視点で言うと、アメリカの超富裕層の生活は、世界基準で平均的に暮らす人々と比較して、地上の安全な地域空間を183倍分早く・大きく狭めている、という。

また彼らの『炭素がぶ飲み』生活を見ると、0.1%の超富裕層が日々排出するCO2量は2.2トン(年間に約800トン)。一方、ソマリアの平均的市民の日々の排出量は82g(年間約30kg)であり、また世界で暮らす多くの人々はその中間に位置し、平均して日々12kg(年間約4トン)を排出する生活を送っている、とされる。

更に言えば、世界の308人の超富裕者をひとつの国と見なし、彼らの総排出量を全世界の国別ランキングに当てはめると、第15位になるとされる。

そしてこの傾向はここ30年にわたり拡大しているのである。即ち、0.1%の超富裕層の排出総量に占める割合は1990年以降32%拡大し、反対に世界の貧困層(50%)の占める割合は3%低下している。かかる状況を、Oxfam International代表のBehar氏は『気候危機という課題は、不平等の危機』でもあるとしている。

『世界の超富裕層は気候危機を煽る方向の投資を、行い利益を得、そして彼ら以外の世界市民には壊滅的な災厄を甘受することを求めているのである。そしてかかる彼らの権力の行使には何ら規制が掛けられていない』

不平等性の存在は、危険な循環構造を生みだす、即ち少数の富むものがますます富んでいけば、拡大する気候危機に対する排出責任がそれら少数者に集中していくのであるが、彼ら少数者は彼らの蓄えた財力と影響力を使って排出責任を否認し、責任があるとなっても遅延化を画策し、また他者へ排出責任をなすりつける可能性をも狙うのである。

Oxfamの調べでは、石油業界・天然ガス業界が主導する形で世界の企業は年間平均27.7万ドルをロビー活動に使っているとされ、前回のバクーで行われたCOP29では1773人からなるロビィストの集団が投入されていたという。彼らは巨大排出者に掛けられるぺナルティーの骨抜き化、化石燃料からの撤退化気運の巻き戻し化等々を図っていたとされる

そしてもっと心配な状況がある。即ち超富裕層の投資先の傾向が極右運動や人種差別運動に向かっているということであり、それら極右・人種差別運動が、気候変動対策の基本目標である迅速なネットゼロ化政策に対立し、反対する急先鋒となっているのである。

その行く先にあるのは危機的なものであり、1%の富裕層の排出により、今世紀末までに計算上130万人が熱中症関連で死亡すると見積もられている。また2050年までに中所得−低所得の国に対し総計44兆ドルに相当する経済的打撃が起こると見積もられている。
被害はグローバルサウス諸国により偏って生じるのである。

『超富裕層が行う世界の気候政策への締め付け行動に対し、各国は彼らに適切な課税を課し、そして彼らが行うロビィスト支援活動を禁止し、ロビィストに代わり気候危機に最も直面している人々を気候問題討議の場の前面に据えることが求められると、Behar氏は指摘している。

 
0088 現在の社会状況について(7)工業型農業の選択とゴミ処理プラント---PFAS・MPs・NPsが混入するBiosolids利用により生態系へのPFAS・MPs・NPs拡散のサイクルが成立し機能する yo-chan 10/26 14:45
 
現在の社会状況について(7)工業型農業の選択とゴミ処理プラント---PFAS・MPs・NPsが混入するBiosolids利用により生態系へのPFAS・MPs・NPs拡散のサイクルが成立し機能する


特に、PFAS(有機フッ素化合物:Per-and Polyfluoroalkyl substrates)の問題についての報道は主に3つの点に焦点を合わせて国内で紹介されている。
一つは、地方自治体の住民に広がる血中濃度検査の結果に関すること、2つ目は米軍基地と工場周辺の高濃度汚染の実態に関すること、そして3つ目は政府の対応の遅れを問うもの、である。

プラスチック汚染の拡大情報についても、状況は良く似ていると思う。

即ち、ここで述べる『困ったサイクル』の存在と、それが既に機能しているという重要な視点の指摘が抜けているか、或いは軽視されていると認識している。

よってここでは、『困ったサイクル』を構成する幾つかの要素を紹介すること、そしてその構成要素が循環的に相互に関連しあい『困ったサイクル』が発生し機能する構造を考えて見たい。

実は、『困ったサイクル』の構成要素は、私たち社会が敢えて選択したものに由来している。

即ち、農業様式(規模拡大を目指す工業型農業の選択。従来の急峻な地形に合わせ、機能していた小規模農業継続の断念)の選択であり、大量生産−大量消費の生活様式の選択であり、工場生産に過度に依存する食の様式の選択であり、さらに企業が経済性・効率性・作業性から採用したPFAS類とプラスチック類の拡大利用化を、便利さに魅了されて私たちが選択したことに基づいているのである。
これら選択のそれぞれにPFAS類とプラスチック類が内在しているのである。

更に、ここにゴミ処理プラントが『困ったサイクル』の確立とそのサイクルの継続化に欠かせない構成要素として存在している点を強調したい。

PFASやマイクロプラスチック(MPs)・ナノプラスチック(NPs)が抱える現在の課題は、私たちの選択とそしてゴミ処理プラントの存在とから発生する『困ったサイクル』の構図が背景にあるといった。

この構図が継続的に機能することで、PFASやMPs・NPsが広く生態系全体に拡散し、人間と生態系への悪影響が拡大する点に焦点を当て以下に詳述したい。

即ち、PFASやMPs・NPsの危険性は米軍基地や特定の場所に限定された問題ではなく、私たちの知らないうちに私たちの身の回りの至る所に既に危険が蔓延するという『困ったサイクル』が既に出来上がっており、それが継続して機能していることから、PFASやMPs・NPsの危険の禍中で私たちは暮らしているとの認識を持つ必要があると強調したい。

1. 工業型農業選択の問題点

工業型農業は、生産効率最大化達成のため、遺伝子修飾種子・遺伝子編集種子の採用に始まり合成肥料・農薬・土壌改良剤等の外部資源の投入に強く依存し、更に排水処理プラントから排出されるBiosolidsをも安価で高栄養素を含有する素材として農地へ投入することを継続的に行ってきている。
そしてかかる西欧発の革新技術を背景とする近代型農業技術が、世界各地に伝わる伝統農法より格段に優れているとの西欧諸国の偏った信念(以前述べた世界の主要な農政担当者らにこの信念が彼らの教育過程で刷り込まれるとされる)が、資金的裏付けをも背景にして世界に充満し、工業型農業の世界への拡大が推進されていることも現在の農業が抱える大きな問題であり、結果としてPFASやMPs・NPsを拡散する世界的な直接ルートの拡大がノーチェックで進行する背景になっている。  

2. ゴミ処理プラントへのPFAS・MPs・NPsの集中とBiosolidsへの変換と残存化

泡消火器向け、繊維製品の皮膜形成向け、そして食品容器向けと広範な目的のためにPFASは数千種類の工業製品や生活必需品製品に利用されている。
プラスチックの社会への浸透具合は言うまでもなく、プラスチックのない世界が逆に想像できない状況が継続している。

故に、これら工業製品・生活日常品や住宅設備から排出される各種ゴミの受け皿である廃水処理プラントは、PFAS・MPs・NPsを除去する工程を現状組み込んでいないために、“永久に残存する化学物質forever chemical”と言われるPFASや、やはり安定性に定評のあるプラスチックの類は、ほぼ変化することなく固体状汚泥(Biosolids)の形に濃縮され残存する。

3. 固体状汚泥(Biosolids)の大地への投入と汚染拡大経路

PFAS・MPs・NPsに汚染されたBiosolidsが農地に投入されると、幾つかの経路を進み拡散されていく。

3−1)土壌汚染
土壌に混入したPFAS・MPs・NPsは土壌の性質と投入されたPFAS・MPs・NPsの種類ごとの安定性にもよるが、基本的には持続して存在し続けることになる。

3−2)作物への吸収
汚染土壌で生育する作物はPFAS・MPs・NPsを吸収する。よってPFAS・MPs・NPsは食物連鎖の中に組み込まれることになる。

3−3)水汚染
PFAS・MPs・NPsは地下水系を汚染する可能性があるとともに、地表を流れる水と共に流れていき、飲料水の汚染や灌漑用水の汚染を引き起こす可能性がある。

3−4)家畜の汚染
汚染水を飲むことや汚染土壌で生育した飼料草を食べることで家畜にPFAS・MPs・NPs汚染が発生し、よって汚染された畜肉製品・乳製品や卵が販売されることになる。

4.『困った汚染サイクル』の誕生と循環

4−1)工業依存型社会の推進・拡大
大量生産−大量消費が推奨され、よって工業生産に過度に依存する社会が成立している現
在、これら大量に生産されるすべての商品にはPFAS・プラスチック類(MPs・NPsを含
む)は混入している。大量に消費している現在、社会から排出されるゴミにも当然PFAS・
プラスチック類(MPs・NPsを含む)が大量に混入している。

4−2)工業型農業向け外部投入資源Biosolidsへと変換する経路
社会から排出されるPFAS・MPs・NPsを大量に混入するゴミはゴミ処理プラントに集中
し、そこで安価な農業向け肥料であるPFAS・MPs・NPs入りBiosolidsへと変換される。
合わせてPFAS・MPs・NPsが残存する処理済み浄化水も発生する。

4−3)工業型農業
大規模に行われる工業型農業では、これらのBiosolidsを土壌肥沃剤として投入する農耕法
が採用されている。  

4−4)汚染の進行と拡大
Biosolidsに混入するPFAS・MPs・NPsは土壌を汚染し、作物・家畜を汚染し、そして地域が利用する水系をも汚染する。

4−5)人々へのPFAS・MPs・NPsの暴露
汚染された作物と飲料水を摂取することで人々にPFAS・MPs・NPs汚染が引き起こされ、重篤な疾患の恐れが発生する。

上に示したサイクルの発生と継続的なサイクルの活動の結果、人間へのPFAS・MPs・NPsの暴露の問題を指摘したが、このサイクルの結果影響が出るのは、人間だけでない。

土壌中の微生物や小動物、水系の微生物や小動物・小植物、更に食物連鎖に取り込まれることで大小を問わず全ての動植物への悪影響も考慮する必要があり、もっと言えば広く生態系全体にその悪影響は出ている可能性をイメージすることが私たちには求められる、そういった事態が既に出来上がっているということである。

PFAS・マイクロプラスチック・ナノプラスチックという私たちが抱えている現代の課題は、大量生産−大量消費という社会習慣、食を含めた私たちの工業型生産物への過度の依存、便利さ・経済性だけを重視する生活スタイル、そして工業型農業の採用で起こるゴミ処理プラントから排出されるBiosolidsを肥料に利用するというPFAS・マイクロプラスチック・ナノプラスチックの世界的ばら撒きシステムの存在と採用から発生しているのであり、いわば私たちのライフスタイルにも大いなる責任がある構造的問題であり課題なのである。



 
0087 現在の社会状況について(6)GorgonBrown氏の視点 yo-chan 10/22 16:25
 
現在の社会状況について(6) Gorgon Brown氏の視点


化石燃料企業やそのロビィースト・メディアが、気候WhataboutismやClimate Delay Discoursesといった戦略を採用している。それらに影響され、国際間に亘る課題の根本的対策の議論に影響が出ており、そしてその状況を受け入れてしまう風潮が多くの市民の間に醸成されつつある。

一方、多利害関係者主義(Multistakeholderism)に価値を置かず、従来の多国家間主義(Multilateralism)に価値を置く市民もまた多く存在している。昨今のポピュリズムの台頭があちこちから聞こえ、ややもすると人権の縮小を目指す排他的な民族主義・国家主義・ゼロサム思考に支配される孤立主義・保護主義がマスコミ情報戦の中で本流化する状況下でも、これらの国際間協調を喜んで受け入れる姿勢を持つ多国家間主義の立場の人々が一定の塊として存在しているのは心強いものであり、それを指摘することの重要性は大きいと考える。

しかし、この一定の塊の人々は私たちの視界から掻き消されがちなのも現実なのである。

かかる視点の参考となる見解を、2010年頃に英国首相を務めていたGorgon Brown氏が述べている。The Guardianに紹介された氏の見解を以下に紹介する。


権威主義的な誇大宣伝に騙されてはいけない。改革派と極右を防ぐことは難しくない
The Guardian, 2025年10月11日   Gordon Brown氏記す

アメリカから欧州・アジアにかけて、鬱積した憤懣が権力奪取のために悪用されている。
しかし多数の声の中には、穏健な意見がしっかりと根付いている。

Nigel Farage氏は、彼の改革英国党(Reform UK party)の現在の姿を、世界の政治舞台に流星のごとく現れた前例なき画期的な現象だと描写している。

だが、今秋の欧州各国、インド、タイ、アメリカそしてアルゼンチンに亘る各地の世論調査において、極右・移民反対・グローバル化反対とするFarage氏と同類の政党がリードしていることが伝えられている。

先週の土曜日チェコの選挙では、アンドレイ・バビシュ前首相率いる右翼・親プーチンのポピュリスト政党が、現職のぺトル・フィアラ首相率いる右派連合を下している。

フランスでは、大統領選挙と議会選の両方の世論調査において、フランス首相を失脚させた国民連合(National Rally)がまたもやリードしている。

ドイツでは、極右のドイツの為の選択肢(AfD)が現在最も人気のある政党になっている。

そして、ハンガリーのフィデス党、ロベルト・フィツォの親ロシア・スロバキア連合、イタリアの同胞は既に政権を握っている。

更にオーストリアの自由党(FPO)、オランダの自由党(PVV)、ベルギーのフラームス・べランゲらは、スティーブ・バノンのような極右宣伝者に感化されているいずれも強硬な国家主義者であり、彼らは国際法の支配を転覆させ、人権を縮小し、多国家間主義(multi- lateralism)を破壊しようとしている反国際主義者の国際連合(an international coalition of anti-internationalists)の一員である。

ポピュリストであり国家・民族主義者である彼らの台頭は、民主主義者がこれを無視すれば危険な状況が生まれることになる、新たな避けることの出来ない現実が現れてきていることを示している。
かつてベルリンの壁とともに崩壊したと思われていた『権威主義的民族主義』が『新自由主義』にとって代わり現代の主要なイディオロギーとなり、『何々ファーストの世界』を私たちに現出しているのである。
即ち『アメリカファースト』・『インドファースト』・『中国ファースト』・『ロシアファースト』・『わが民族ファーストmy tribe first』が謳われ、そして往々にして『わが民族が第一であり、そして唯一my tribe first and only』を訴える政権へとその思考は繋がっていく。

この民族・国家主義の存在が、何故現在の世界が91の独裁国家とわずか88カ国の民主主義国家から構成されているのかの理由を説明しているのであり、この民族・国家主義がロシアのウクライナへの公正を欠く国際人権法違反の背景にある力であるとともに世界で起こっている59件の国境を超えての紛争と市民間の紛争の背景にある力なのである。

ほぼ全ての国に共通する、この新たな国家主義・民族主義の時代を牽引している根底にある推進力を理解することが重要だ。

それは自由な参加を原則約束するものの、包摂性に欠ける(全員参加の点では欠点がある)『グローバル化』というものが、全員にとって自由ではあるが、公平・公正ではなかったという広く認識されている感覚の理解に繋がるのである。

10年以上にわたり、排除され取り残されていると感じている数百万の人々への対応をリーダー達は、遅らせてきている。
そしてそれだけでなく、リーダー達は世界経済のパワーバランスを変え、アメリカ一極支配の世界構造を複数のスーパーパワーが競合する多極構造の世界へと変え、そして『ルールが支配する統治システム』を『力が支配する統治システム』へと変えている。

これにより引き起こされた民族主義的国家主義が、自由貿易主義を保護主義に取って代えているのである。

かつて経済が政治を支配していた場所で、国家主義・民族主義の政治がいまや経済政策を決定し、すでに100カ国以上の国がリショアリング(海外に移管した生産拠点を再び国内に戻す動き)やフレンドショアリング(経済効率のみで判断するのでなく、政治的経済的に信頼できる友好国にサプライチェーンを求める動き)、国境を越えた貿易、投資、技術移転の禁止を特徴とする重商主義政策を実施しており、その反面、国際協力は1945年以来の最低水準に沈んでいる。

だが、全ての希望が消えた訳ではない。
まだセメントは乾ききっていないのであり、そして例えセメントが硬化し始めているとしても世界の市民には共通する良識・常識を見いだせる希望は残っているのである。

34カ国3.6万人を対象にフォーカルデータ(Focaldata)が調査した結果では、排他的な国家主義・民族主義に抵抗する明らかな市民の塊が見出され、彼らを統治する主導者らに比べると、抵抗する市民の塊は国際間協調を喜んで受け入れる姿勢を持っている。

多分驚くと思うが、世界を見ると国際協調主義に反対の感情を強く持つグループの割合は16.5%と低い(今日のアメリカでさえ25%)。
国際協調主義に反対する彼らは、民族主義のグループと宗教団体との共存は不可能との意識を持っているか、あるいは彼ら民族主義意識を持つ国々が世界を上手に渡っていくには、彼ら以外の国々が、その代償として世界を上手に渡っていけない状況の存在が必要とのゼロ-サム思考を持っている。

そして、その一方で献身的国際主義者とも呼べる21%の集団が反対側の極端に存在している。彼らは依然として自由貿易を通じて国境を越えた国際協調が双方にとってウィンウィンの関係をもたらすと見ているか、或いは彼らはアメリカの哲学者であり作家のクワメ・アンソニー・アッピアが言うところの『根っからの世界主義者』なのである。

『国際協調主義に反対感情を強く持つグループ』と『献身的国際主義者』という両極端の政治姿勢の範囲の中間のどこかに『大多数の世界市民』は、位置している。

『大多数の世界市民』は、偏狭な内向き志向の例えば『アメリカファースト』といった思想が暗示する国家主義者・民族主義者でもなく、或いは『一から十まで世界主義者』でもないのである。

彼らは、愛国心はあるが、永遠に相互理解不能の関係にある『我々』と『彼等』の間の終わりなき争いの場として世界を見ることはない。

中間に位置する大多数の人々は、義務のない社会を望むのか、あるいは義務を負う社会を望むのか?
彼らは彼らの庭の外側、或いは都市の壁の外側で起こる出来事に関わる義務を受け入れる用意をしているだろうか?

ある条件の下では用意をしていると、言えるのである。

『中間に位置する大多数の人々』の中の第一のグループ(22%)は、人道的に行動することで災厄は軽減できるということを支持し、利他主義の姿勢でもって災害地域の緊急支援の行動を行う覚悟を持っている。『大義ある多国家間主義者good cause multilateralists』とも称されるこれらの人々は他人の痛みを感じ、自分より大きな何かの存在を信じている。

第2のグループ(22%)は、国際的な開発のための税金が適切に使われているかを知ることを重視する実利的な多国家間主義者である。

そして21%を占める利己的な多国家間主義者の第3のグループが存在する。
彼らはその行動が食糧保障や平和・安全の点で彼ら自身や彼らが所属の共同体にとって有益であると判断すれば国際間の協調行動を支持する。

従って資金が適切に使われれば、人道支援だけでなく、気候危機やパンデミック予防といった地球規模の課題への取り組みに対しても明確な多数派を形成することは可能だ。ただし、この事例が賢明な自己利益に基づいて議論され、彼らと自国にもたらされる相互利益を重視する必要がある。

私たちは、必要に迫られて協力するのか、それとも協力する必要があるのかの判別の答えを長く疑問に思ってきたが、両方ともが正しい答えなのである。

国境を超えて協力する、この誰もが参加できる開かれた姿が、外国人排斥の潮流を逆転させる方法を私たちに示している。

人々の帰属願望に応え、差し迫った懸念に対して共感する前向きで外向き、包括的な愛国心を支持し育んでいくことが、移民や外国人や『他者』を殊更に作り出し悪者扱いする今日の否定的で内向きで、時に攻撃的・権威主義的な国家主義・民族主義を打ち破れるのである。

細部まで深く行った世論調査が教えてくれているように、西欧社会を通して不法な移民が現在の最も大きな国家的関心事項であり、だれもが疑うことなく不法な移民を直ちにコントロール下に置く必要があるとしている。がしかし、更に出されている意見を探ると、今現在彼らの社会・彼ら自身の地域共同体の中に何が起こっているのかの点に関して、より大きな懸念を『中間に位置する大多数の人々』は抱いていることが判る。

先月、Keir Starmer首相は英国の良い所が悪い所を追いだすことが出来ると感動的に語った。正にそう言えるのは、大半の西欧諸国では経済と社会について問われた際に『崩壊している』や『衰退している』という言葉が長年に亘り最も多く使われてきたからだ。

そして首相はまた、極右というものは人々が持つ心の奥底からの憤懣を解消させることに興味を持っているのでなく、極右の興味の対象は、その憤懣を上手く利用すること、ということを思いださせてくれている。

Farage氏は、Lis Truss氏(ジョンソン首相がコロナ禍最中の官邸パーティー疑惑で引責辞任した後に首相となるも、打ち出した大規模減税策が金融機関を混乱させ、政策撤廃に追い込まれ44日という最少期間の政権となった)の壊滅的な小型予算を『保守党が1986年以降提出したベスト予算』と絶賛している。

Farage氏はTruss首相の第2法(首相が実行しようとしているのは過去最大の公共サービスの削減)の法案化も実践しようとしていた。
改革派の2750億ポンドの公共支出削減案は低迷沈滞する共同体社会の修復には繋がらず、逆に共同体社会を破滅に導き、市民間の反目を高め、社会の連帯意識を棄損することになる。

ファラージ氏の極右政権では、病気や障害、貧困や社会弱者でいることは許されないだろう。
今後は、どの選挙区でも、どの病院が、どの学校が、そしてどの公共サービスが先ず始めにカットされるのか、または閉鎖されるのかを、改革派は毎日問われるべきである。

『ファラジズムFaragism』は最も非人道であり、拝金主義よりももっと破壊的であり、そして緊縮性をずっと超える報復性を持つ新自由主義と言える。

全ての西欧諸国を通じて大衆が訴えていることは、彼らの政府による経済と市民社会の再構築なのである。

『改革派』と世界の同盟国は、両方を破壊する政策に対する批判に連日曝されるべきである。
私たちの最良の日々はこれからだと信じる人々にとっては、改革派の偽善に焦点を当てるだけでなく、理想主義者・現実主義者・利己主義者そして英国市民が持つ日々の思いやり・共感力に訴える事例を提供していくことが重要となるのである。


 
0086 現在の社会状況について(5)気候『そっちこそどうなんだ、あっちこそどうなんだ論法(Climate Whataboutism)』と『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』 yo-chan 10/17 10:12
 
現在の社会状況について(5)気候『そっちこそどうなんだ、あっちこそどうなんだ論法(Climate Whataboutism)』と『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』


前回に続き、引用しているヨワキム・クリン氏の文献(Environmental Politics,vol.34,2025)
の紹介を続ける。

(序論)
人新世時代の進行を放任する姿勢が続いている。故に厳しい気候変化が社会に課せられている。厳しい変化を緩和するには、気候政策担当者が決定的役割を有している。
しかし大半の国の政策は、目標と比べると急激なGHG排出削減には不充分だと直近のIPCC報告(2023)は指摘している。事実、多くの国は削減目標を達成できていない。

こうした中、現在の気候変動会合の議論には『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が蔓延しつつあり、具体的・適切な行動を合意し実践することに力を集める方向には向かわず、議論の散漫化が進行している。即ち責任の所在は逸らされ、ある国家が意欲的な気候対策を行おうとしても、他国の対策との比較や世界状況と比べる意識が政策決定に入り込み、その国家の意欲的対策の意義は低い、とする巧言戦略の罠にはまり、議論は散漫化していく。

巧言戦略がメディアで注目され拡散されていくと、消費者や投票者らの間に、気候変動対策はコストが掛かる、便益性はなく人気もない、という悪い印象が植え付けられ、殊に政治家の間でそうした傾向が顕著になる。

気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』に乗る専門家や政治家らは実効的で意義ある対策を排除する議論を展開することで、その巧言戦略に嵌った消費者や投票者らの満足感を助長することを狙う。故に核心から離れた見当違いの考え方が支援され、結果として実質的な気候変動改革に対する欲求は散漫化され、減退していくことになる。

こうした議論は、一見すると世界的公平・公正性への懸念に立脚しているように見えるが、気候危機に必要な国際間の協働の取り組みを無意識に、または故意に損なう可能性がある。

この巧言戦略が蔓延化し、故に適切な気候変動対策が著しく不充分な現在、こうした戦略を助長する社会的・政治的勢力への理解を深めることが必要なことになる。

気候政策はじめ他の政策が市民の支持を受けることが民主主義に求められることからすると、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』が世論にどの程度浸透し、政策選択にどのように関連しているかを評価することは極めて重要になる。

気候変動課題に対し政治的分極化が拡大していることを勘案すると、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』とは異なった政治志向或いはイデオロギーとの間の潜在的な関連性を明らかにすることは特に重要である。

気候政策に対する国民の支持の党派的二極化、特に左派と右派との二極化は、アメリカと欧州で広く論じられている。そして近年、右翼ポピュリズムと気候変動の世論との関連性相関性が、大きく注目を集めている。

この関心の高まりは、右翼ポピュリストのイデオロギーがしばしば根深いポピュリスト的・民族主義的感情に根ざしているという認識から生じている。

『現代の西欧社会の右翼ポピュリズムの核心』が『民族主義的・国家主義的イデオロギー』であり、そして『認識されている脅威(拡大するグローバル化と政治体制の集中化)』に対抗すべく国境の維持を図る運動だと考えられる。
その信条の中で、国家自主・自立権が強調され、文化と経済を保護する試みが追求される。
これらの連携と組み合わせが気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』のはびこる温床となり、国家主義性向を持つ人々は地球規模の危機において自国の役割を軽視する一方で他国の欠点をあげつらう傾向が出るのである。

彼らは国家の自主権を守るため境界を維持し、国家への帰属意識を明確化させることに集中する。そして国家主義者・民族主義者らは、批判をかわすため他国の環境政策の失政に焦点を当てがちになる。

このやり方は『我々』対『彼ら』と言う対立感情を助長し、自らの国は不当に狙い撃ちされているとの考えを助長する。そして他国の欠点は誇張され、自国の不作為は正当化され不問に付されるのである。

ここでは、気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が右翼ポピュリズムにより助長され、気候変動対策への不作為が推進されるという仮説を検証する。
具体的に言えば、他国が気候対策を取らない限り、自国は対策をとるべきでないと考えるこの巧言戦略が広く国民に浸透していくのは、国民の国家主義的民族主義的感情によるものであり、この力学が気候変動政策への支持を決定的に損なっているという仮説の妥当性を検証する。

(そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法)

政治に関わる言説では、Whataboutismという言葉は、巧言戦略を意味し、そこにおいては見当違いの別の事柄が取り上げられ、批判や告発は矛先を捻じ曲げられる。故に当初の課題や告発は有耶無耶にされてしまう。

ディクストラ(2020)によると、1960年代後半、北アイルランドの宗派間の争いの際に、この言葉が初めて使われたとされる。そしてこの言葉は、後に冷戦時のソビエトの宣伝戦術に見られ、プーチンへと継続している。そして特に2016年の大統領選挙後にこの巧言戦略がアメリカの政治言説世界で注目を集めてきている。

即ち、トランプ氏と関係者が、しばしばこの戦略を、批判をかわすために利用している。メディア、殊にある種のニュース媒体は、歴史的にこの戦略を増幅する装置になっており、しばしば政治に関連するコメントや討論でこの戦略は利用され、それ故に市民が持つ認識や言説に影響が出ることになる。

メディアの影響力や市民に及ぼす政治的影響力を思うと、『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』を戦略として利用することは、議論に打ち勝つ武器として役立つだけでなく、中心課題の論争の中に『論点ずらし・曖昧さ』と言う困った事柄を植え付け、市民の意見を操作するための武器として役立つことなり、故に論争は泥沼化してしまう恐れがある。
市民はかかる巧言戦略に直面すると混乱が生じ、市民の間に意見の分散化や情報の不足化が生じ、故に市民の間には課題への適切な対処法を思い描く力が低下する。

(気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』)

市民の間には、危険であり厳しい現実の認識はあるもの、緊急な行動が必要だという認識は軽視されてしまう議論が数多く起こってきている。

化石燃料会社やそのロビィーストグループ・右翼政治家・メディアが常に持つ関心事は、市民が持つ意見(直ちに気候変動緩和策は講じるべきであり、GHG排出も削減すべき)を曖昧化し雨散霧消化させる装置・武器に関するものであった。

歴史的に見ると、気候変動を『全て無視する』姿勢から彼らの戦略が始まった。しかし気候変動の過激化が進み、化石燃料が、全く関係がないとする最初の姿勢を取り続けることが困難ということが明らかになってきたことから、彼らの戦略はより微妙なものへと近年変化している。即ち現在の彼らの戦略は気候対策を前向きに考えるものの、実行スピードや責任に関する議論や行動の分担についての議論に目を逸らせる戦略に替わっている。

『気候対策遅滞化言説(climate delay discourses)』とも言うべきこれらの言説が採用されることで、議論はしばしば暗礁に乗り上げ、意味ある行動の採用が難しい障害物が存在しているという認識が植え付けられる。

これら言説は気候変動とGHG排出との関連性を論じはするものの、責任の所在は他所に転換され、責任の曖昧化が図られる。これがこの言説の基本的な戦術なのである。
即ち多国家間で体系的に解決を図ることが重視されるのでなく個人の行動が重視され、または他の主体や関係者が非難され、より重大な責任は他者が負っていると示唆することで気候変動対策の責任は自分らではなく、他所にあると責任を転嫁するのである。

そしてこの戦略は単なる責任転嫁だけではない。説明責任の相対化を図る強力な装置になっている。即ち自分らとは異なる他所の主犯たちが行動を起こさないのであれば、主犯ではない国々に厳しい基準を課すことは間違っているとの考えに誘導する戦略なのである。

かかる戦略は各国が協調して解決策を考えることよりも非難し合うことを優先し、結果として悪循環が醸成されることになり、国際間の協調的解決策作りは妨害される。

気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の市民への影響を明確に意識した市民意識調査があり、そこでは気候変動政策における一国単独主義と多国間協調主義に対する市民の態度が調べられている。

例えば、Mildenberger は気候変動協働作業に対する一つの国の離脱が他の諸国の行動を阻害するという従来から指摘されている考え方を調査する過程で、Beiser-McGrathとBernauerの行った研究を引用し、アメリカと中国の両国の市民は、例え他の主要国の協力が得られなくとも国家の気候対策に関する施策を強く支持するという点を強調している。
即ちMildenbergerは、ある特定の国々が余り意欲的でない決定を下したとしても世界の市民の考えは消極的な態度には向かわないだろう と指摘している。

Bechtelらは、気候変動対策運動に対する市民の支持の動向に多国間で合意した協定がどのように影響するかを調べている。また政治家らが永く信じている、多国間の協調確保が市民の支持拡大を助長するとの信念の妥当性を調べている研究があり、調査の結果、幾つかの西欧の大国そしてアメリカでは、コストのかかる気候対策において『多国間主義multilateralism』が市民の支持の実質的拡大に繋がることを研究者らは認めている。

『多国家間の努力の姿勢』が市民の支持拡大に効果的であり、しかも公平・公正だと市民が認識することに繋がるとしている。
特に、幾つかの国が協力すれば、市民の考えは環境面からの便益についてより楽観的になり、コストの公平・公正な配分によって、経済的な負担や統治に掛かる費用の削減に役立つと市民が期待するからである。

上記の研究では、市民らは国際間の協調姿勢に価値を置く一方、市民らはまた自分たちの責任回避への言い訳として他国の不作為を利用することの誘惑に通常は抵抗するものだと指摘している。

しかし上記研究は同類の方法論(調査的手法やコンジョイント分析:消費者にとりベストな商品やサービスを探し出す分析手法)を採用している点から、これらの研究結果からだけでは、気候に関する『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の戦略が市民の基本的な議論にどの程度影響しているかどうかは判断できない、との見方も指摘されている。

【気候WhataboutismやClimate Delay Discoursesといった化石燃料企業やそのロビィースト・メディアが採用する戦略に影響される多くの市民が存在する一方で、多利害関係者主義(Multistakeholderism)でなく、従来の多国家間主義(Multilateralism)に価値を置く市民もまた多く存在していることを指摘している部分です。2010年頃の英国首相だったGordon Brown氏の関連記事が最近出ている。これを次回紹介する予定です】

 (右翼ポピュリズム、国家民族主義、と気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』)

近年の右翼ポピュリズムの高まりにより、多くの研究者らが気候変動に対する市民の意見の動向への影響を調べ始めている。
右翼ポピュリズムの内容からすると、本来的に右翼ポピュリズムは気候変動の課題には反対の立場であり、気候変動の課題はリベラル志向・コスモポリタン志向を持つエリート層が作りあげたものであり、往々にして国家優先思想を阻害するものと判断されている。

この反対意識は二つの点から理解出来る。
一つは右翼ポピュリズムの考え方の中心がボンヤリしたものであり、反エリート志向をもっていること、『普通の人々』の意志に焦点を当てていることで特徴付けられるものであり、本来的に認識されているエリート層が作った課題意識には反対する体質を持っている。
二つ目は、右翼ポピュリズム思想の濃い部分に国家主義(国家利益)的・民族主義(自国中心)的な関心事を優先する意識があり、気候変動のような地球規模の課題の議論や国際的な気候変動緩和活動を排除する強い力が存在している。

これまでの研究の大半は、右翼ポピュリズムに関連する性向と気候変動と気候政策に関する市民の見解との間の直接的連関性に焦点を当てているが、如何に特定の言説(例えば、気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』)が、右翼ポピュリストの性向(例えば、国家民族主義)を気候変動政策反対へと導くのかを調査している研究例はほとんどない。

主に欧州23カ国の代表的サンプルからのデータを分析しているKulinらの研究によると、『国家主義・民族主義イデオロギーに共感する態度・姿勢』と『気候変動懐疑論』との間に強い相関性があること、化石燃料に掛けられている割高な税への反発との間にも強い相関性があることを証明している。

これらの相関性は、特にヨーロッパ西部で見られるが、国家主義・民族主義的態度が気候変動政策を予測する強い要因になっていることを示す研究が出されている。Dykstraが強調するように、右翼ポピュリスト政治家らは『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の戦術を一連の課題に対する批判の矛先を変える武器として頻繁に利用し、例えば中国のような主要GHG排出国への攻撃に目を転じさせようとしている。

SchafferとUmitは、地球規模の約束の存在と帰属意識の存在が、パリ合意のような国際間の気候政策を世界の市民 が支持することに繋がることが期待できるとする一方で、気候変動課題の政治問題化の進行、そして国家主義・民族主義政党の勃興と拡大化が、世界の市民の目をそれぞれの国家の自主・自立権の保持を優先する意識に転じさせつつあると指摘している。

Kulinらによると、国家主義・民族主義性向を持つ人々は化石燃料に掛けられる税の拡大に反対することが認められるとし、殊にこの傾向は西部ヨーロッパ諸国で著しいという。

『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』に内在する明白な国家主義者民族主義者の底に流れているものは、その論法への市民の傾倒・誘導であり、国家主義・民族主義と気候変動政策反対とを結びつける装置の提供なのである。

国家主義・民族主義的感情に深く根ざした『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』の潜在的な運動力(目くらまし・論点ずらし・曖昧化力)が、枠組みの如何(国内政策か国際間政策か、単独国家的か多国家間的か)に関わらず、市民の意見の変更に決定的な要因となる潜在力を持っているのである。

気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』という巧言戦略が右翼ポピュリズムにより助長され、気候変動対策への不作為が推進されるという仮説を検証するため、欧州4カ国(スウェーデン、ドイツ、スペイン、ポーランド)を対象に調査を行い、この仮説の妥当性を検証する本体部分がこの後に残されていますが、その紹介は省略し調査の検討により得られた結論のみの紹介で今回の情報提供を終えたいと思います。

結論
1.『国家主義者・民族主義者の態度』と『他国が気候変動対策を講じない限り自国は対策を講じるべきではないと考える程度』との間に一貫して強い相関関係がある。
2.気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』は、国家主義者・民族主義者の態度と彼らの気候政策への反対意識との関係を媒介している。
3.国家主義・民族主義感情に駆り立てられた気候『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法』が右翼ポピュリストの言説に浸透し、気候変動対策への不作為を正当化している。

 
0085 現在の社会状況について(4) 気象予報士がネット上の攻撃対象に何故なりやすいか、の記事をもとに、ポピュリズムに関わる幾つかの面の現在地を考えてみたい yo-chan 09/25 16:57
 
現在の社会状況について(4)  気象予報士がネット上の攻撃対象に何故なりやすいか、の記事をもとに、ポピュリズムに関わる幾つかの面の現在地を考えてみたい


ポピュリズムを考える場合、様々な面を見ていくことが大切との視点から、取り組んでいる。そしてたどる情報の中で面白いワーディングに出会ったとき、そのワーディングをもとに情報を拾い集め、その言葉や文の意味する内容の世の中の現在地を確認することも行っている。

今回は次の情報を下敷きにして、ポピュリズムの幾つかの面をなぞってみたい。

紹介情報の題目は、『気象予報士がオンライン上の威嚇攻撃の対象に何故なりやすいか?』
(原題:Why TV weather forecasters are targeted by online hate?)
Deutsche Welle, 2025年9月16日、Jennifer Collins氏記す

死の威嚇を予告する一通のe-メールがある気象予報士の仕事を奪うきっかけとなった。
気候に関わる誤情報や陰謀論が、オンラインで憎悪をかきたてる、と専門家らは指摘する。

中西部アイオワの州都デモインのテレビ局に勤める気象予報士クリス・グロニンガーさんはある朝一通のe-メールを受け取った。そこには、彼の住所の問いかけとともに、記憶に残る歓迎をしたい旨の記載があり、合わせて最高裁判事ブレット・カバノー氏の自宅に銃と結束バンドを持ち現れ、殺人未遂容疑で逮捕された男の事も言及されていた。
主任気象予報士就任以降、グロニンガーさんは度重なる嫌がらせを受けてきていたが、このメールが最後の一撃となり、彼は警察に通報すると同時に妻と共にホテルに逃げ込んだ。

 [気象予報士をターゲットとするオンライン上での威嚇行為の拡大]

気候変動を話題とした場合、様々な場面があるが、その中にテレビ気象予報士が誤情報や陰謀論が渦巻くオンラインの禍中に曝される、ということがある。

グロニンガ―さんは、『現代の最も重要な課題』が気候変動である、との信念から気象予報の中で気候変動の話を積極的に取り入れることに努めていた。
デモインで働くこととなったグロニンガ―さんは、2016年トランプ氏が大統領に選出以降、気候変動懐疑論が更に強まったアイオワ州に合わせた報道、例えば農業が盛んなアイオワで干ばつが農家にどう影響を与えるか、等の日々の体験と関連付けて報道を展開した。

そんな折に、e-メール受信箱にメールが届き始めた。初めは単なる反発だったが、次第に攻撃的な脅迫へと変化していった。視聴者が『科学を政治的に利用しよう』としていることにグロニンガ―さんは、気づいた。
送信者らは『リベラルな話題』には飽き飽きしている、とメールの中で語っているという。
気象学の専門家たちの99%は支持している気候変動の話題は、決して政治に結び付けるべきでないと、グロニンガーさんは信じている。

[誤情報の長い歴史]

気候変動が原因して強烈な気象状況が生れ、更に温度上昇が継続すると気象状況悪化が助長されるとするのが科学者らの見解であるが、オンライン上では気候に関わる誤情報や陰謀論が蔓延している。

この蔓延の起源は20世紀半ばまでさかのぼる。 即ち1960年代、主な化石燃料企業は、石炭・石油や天然ガスの燃焼と世界の温暖化との『相関性』を認識していたが、それにもかかわらず、企業の多くは、その相関性を積極的に否定したり、科学的知見を軽視する戦略を当初取った。

しかし、氷河が溶け、海面が上昇し、危険な気象状況が拡大するにつれて、気候変動を否定する企業の戦略は勢いを失っていった。
そこで企業は、彼らが流す誤情報の内容を『相関性の否定』から『世界が合意する気候変動対策行動の遅滞化』へと戦略を変更した。
即ち、世界が打ち出す気候変動対策の効果に疑いを呈したり、或いは企業が手掛ける行動が環境に優しく適合しているとの間違った印象を世間に投げかけるといった『化石燃料企業のグリーン洗浄化運動』の推進に努めるようになって行った。

2024年の調査によると、化石燃料企業や石油化学企業は、彼らが再生可能エネルギー開発にコミットしているという誤った主張を世間に植え付ける目的で、数百万ドルの広告代を使っていることが判明しているが、実態としてはクリーン電力に対して世界が使っている投資費用の1%分しか彼らは支払っておらず、一方新たな石油採掘場所や天然ガス採掘場所の開発を彼らは積極的に推進していたのである。

 [偽情報の複雑なネットワーク]

気候に関する誤情報の背後にあるネットワークは非常に巧妙化して来ていると、デンマーク・コペンハーゲン大の研究者エセ・エルベイ氏は語る。
このネットワークには、ロビーストやシンクタンクといった気候対策遅延化・遅滞化行動に利害が一致する人々がいるだけでなく、メディア、ネット荒らし、ロシアボットファームやインフルエンサーらが協働してソーシャルメディアにおける誤情報の拡大化・拡散化に関与し、そしてソーシャルメディア上で感情を注入・増幅されたメッセージがアルゴリズムで優先的に流されるのである。

殊に国家主義基盤や保守基盤に立つ政治家らは誤情報を活用して彼らの支持基盤を動員しようとする、とエルベイ氏は語る。

『彼らは気候変動を明確に否定しないが、例えば国際間で合意した気候変動対策や炭素制御策が、国家の自立性や経済の自由度に対し脅威となるとの意識付け』を試みるのである。
気候変動への国際間の行動に対峙する彼らの行動は、国家の存在価値・存在意義の問題に結び付けられることになり、従って企業の対峙行動に対処することは難しいものとなる。

人々が誤情報を共有する理由、またグロニンガーさんのような人に対し怒りのメールを送りつける人々が存在する理由の一つが、企業が希求する企業と国家との一体化なのである。

 [陰謀論の肥沃な土壌]

時に誤情報は野蛮で突飛な陰謀論へと変質する可能性があり、それら陰謀論は偏執病や不安症候群や自己中心性の強い人々にとって魅力的なものになる。

陰謀論は、災害の後に急増することが多い。

そして、陰謀論はしばしば人々を価値ある存在だと感じさせるのであり、または他の強力なグループに『悪者』の烙印を押すことで人々に安心感を与える。
例えば、今夏のテキサスで発生した致命的な鉄砲水の後、オンライン上に科学者や政府機関が雲の種まきを利用し、天候を操作し、災害を引き起こしたとする陰謀論が急増した。

『人というものは、甚大な問題や不確かさ・懸念・危険を感じさせる問題に直面した際、説明を付けたがるもの』と言える。そして気象状況が変化していることから、誤情報や陰謀論も段々と際立ったものになって行くと見られ、そして彼らが最も目立つことから、誤情報や陰謀論に影響される人々からの攻撃の矢面に、気象学者らが立たされるのである。

 [誤情報を止めるために出来ることは何か?]

誤情報を識別する上で鍵となるものは、教育と見られている。
課題の解決策に関する討論から排斥されていると感じている脆弱なグループが存在する場合やかかる脆弱なグループの希望とは異なる解決が提起される場合に、誤情報と言うものが増殖し拡大していくものであり、この排斥力が人々に科学者たちや科学自体に対する信頼感を侵食していくのである。

陰謀論について考えるとき、陰謀論の嘘を暴きたてるより、人々の間の信頼感を育てること、そしてなぜ人々がそのような考えを持つに至ったのかに関して共感的である姿勢がより良い戦略だと言える。そしてグロニンガーさん(死の予告メールをもらい心的外傷後ストレス障害;PTSDと診断された)のような攻撃を受けている人への支援が必要とされる。
警察はメール脅迫を行った犯人を逮捕し、150ドルの罰金を科している。

そして、テレビ局に戻ったグロニンガーさんは仕事を続けていたが、その後経営陣に向けて大量のメール攻撃が続いたために、経営陣はグロニンガーさんに気候変動への言及を止めるよう指示することになり、グロニンガーさんは自身の意思に合わない業務を続けるよりも辞職の道を選んだ。

グロニンガーさんは、それでも保守派の多くの視聴者からの前向きなメールをかなりの数貰うことが出来たことから、ある程度影響を与えることが出来たと感じている。

ネット上での憎悪を理由に気象予報士たちが撤退するのは、間違いだと今は感じていると、グロニンガーさんは言う。そして、気候変動に言及するケースが少なくなっている状況を見るにつけ、オンライン上の威嚇攻撃の実態を感じるが、それでも気象予報士に対し科学的知見に立脚した正当な気候変動の情報の提供を強化することを指摘する。
(以上)

たどる情報の中で面白いワーディングに出会ったとき、そのワーディングをもとに情報を拾い集め、その言葉や文の意味する内容の世の中の現在地を確認することを行うと言った。
今回の記事の中から拾い出したワーディングを紹介すると、以下になる。

【科学と政治との対立化】【経済成長を生態系保全の上に置く思考法がポピュリズムを醸成】
【様々な意見の存在を受容する人がいる一方、異見の存在を全否定し抹殺する人もいる】
【misinformation  disinformation  conspiracy  delayism  lobbyist】【科学の政治利用】
【『相関性の否定』から『世界が合意する気候変動対策行動の遅延化』へ戦略変更】
【環境に優しいイメージを投げかける『化石燃料企業のグリーン洗浄化運動』の推進】
【influencers, delayism, national sovereignty, uniting nation with corporation】

中でも【経済成長を生態系保全の上に置く思考法がポピュリズムを醸成】が最も気になった。
そこで『右翼ポピュリズムの支持者らは、生態系保全行動を軽視し、もっと大切な経済の開発を優先すべき、との考えを強く持っているようだ?』という問い合わせをAIにし、帰ってきた返答を次に紹介する。

(AIの答え)
『その通り、多くの右翼ポピュリズム支持者らは生態系保全より経済の開発発展を優先する。理由は、生態系保全行動は経済発展の邪魔となるからである。そして、生態系保全政策はしばしば『リベラルであり、コスモポリタンといえるエリートたちの創るプロジェクト』であり、国家規模の経済的利害を妨害するものだからだ。
かかる見方は、気候変動懐疑主義に繋がり、グリーン政策に対立することになり、そして環境に関わる法規制を弱体化させることになる。
さらに、エリートたちの創る生態系保全政策は、国家の自立と国家の経済的活力を損なうものであり、そして『普通の人々』の生活を脅かすものであるとの見方に繋がる。(以上)

AIの返答は、世の中に発表されている文献情報を網羅し、要約した形で出来ていると考えているが、今回のAI返答のもととなる文献情報に興味深いものがあったので、そちらの方に進んでみた。

興味を持った情報は、『気候に関する“そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義(whataboutism)”と“右翼ポピュリズム”: GHG排出継続への叱責を『はぐらかし論法』を取り入れることで、国家主義者らは気候変動対策実践に反対する姿勢を強めている』
(原題:Climate whataboutism and rightwing populism: how emissions blame-shifting translates nationalist attitudes into climate policy opposition)
Environmental Politics, vol.34, 2025, authored by Joakim Kulin

ポピュリズムが増殖すると、ポピュリストの常とう手段も蔓延することに繋がり、国際間協議の合意形成が難航し、遅滞化していく状況が生まれ、合意した行動も遅滞化してしまうという現在の国際間の困った状況が生まれている背景を浮かび上がらせる内容の情報と思う。

要旨:気候変動に関する新しい言説として、巧妙な論法戦術としての『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義(whataboutism)』が現れてきている。この論法により自身の属する国家の排出責任問題を他国の責任問題へと転化させてしまうのである。
本論文では、殊に国家主義者らと『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』とが共鳴し合うと、国家主義者らは他国を軽視する一方、自国の懸念を称賛したり自国を優先したりすることになる、という問題点を議論する。

ヨーロッパの4カ国(スウェーデン、ドイツ、スペイン、ポーランド)の調査結果を解析することで、『国家主義者らの採用する姿勢』と『他国が行動しないなら我々も行動すべきでないと考える人々の割合』との間に、明白で矛盾のない連関性のあることを本論文では例証している。

また、『気候に関するそっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』が、『国家主義者らの採用する姿勢』と『国際間で合意した気候変動政策への彼らの対立姿勢』との連関性を取り持っていることも本論文で例証している。

従って、本論文の結果は、国家主義的感性に駆り立てられた『そっちこそ、あっちこそどうなんだ論法主義』が、右翼ポピュリストらが発する言説に浸透し、気候変動対策行動に関する各国の遅滞化や不作為を正当化することになる、との推論を支持している。


今回は要旨部分の紹介で終えることとします。
序論部分そしてその他の興味深い部分の紹介は次回とします。

 
0084 プラスチック汚染の政府間交渉の現状について yo-chan 09/12 12:53
 
プラスチック汚染の政府間交渉の現状について


8月28日東京新聞の社説で、“今年も暗雲が漂う国際間プラスチック交渉”の話題があった。

この課題に対する政府間交渉委員会会合の略歴は、2022年のウルグアイで始まり、以降フランス、ケニア、カナダを経て直近の2024年の釜山会合に至るも合意できずに、今年度のジュネーブ会合(8月5日から14日、184カ国から3700人を超す代表が集結)に持ちこされていた。
この課題に対する政府間交渉委員会は、当初2024年中の合意決定を目指してスタートし、いわば釜山会合が約束最終期日だったのが一年延び、しかも1年後も決着がつけられていない状況が継続しているという背景認識をもつことが重要と考える。

産油国・プラスチックメーカー・利権側は生産削減でなく、廃プラスチックの処分策拡大に目を向けようとし、一方、事の重大性と脆弱な島嶼国・途上国に被害が偏る不公平さのあるこの問題に対し、本質的解決である生産量削減にメスを入れたい諸国との争いといえる。正に毎年末のCOP のGHG課題同様の構図がプラスチック条約交渉にも見てとれる。

1〜5mmのマイクロプラスチックス(MPs)とそれ以下のナノプラスチックス(NPs)は、100〜400億kgが毎年環境に排出され、しかも安定なことから蓄積され続けている。

人への影響としてこれらMPsとNPsが炎症化反応を引き起こすことが懸念されており、この炎症化反応が引き金になり、現代の様々な疾病(膠原病や潰瘍性大腸炎等の自己免疫疾患、心血管疾患、2型糖尿病や肥満、ガン、呼吸器系疾患、アレルギー、やアルツハイマー・パーキンソン病等の神経変性疾患)が引き起こされているのが今の社会の有り様なのである。事実、認知症患者は3〜5倍多く脳内にプラスチックの蓄積が見られるという。

そして事は、人の健康だけではない。現状でも、植物の光合成に劣化を起こすという研究例が出ている。
生態系にどんな悪影響が出ているか、まだ不明なことが多い。
共に暮らす動物・植物・微生物全てへの私たちの責任を、この課題は突き付けている。

生産量削減を単に言葉で語るだけでは、この課題の根本的な解決は出来ないとの認識を新たにする必要がある。

暮らし方自体に課題の根元があり、パラダイムシフトが求められていると考える。

ここで目を転じると、私たちの性向の一つに将来の科学技術に過度に期待する癖がある。今後出現するだろう革新技術が全ての難題を解決してくれ、その革新技術開発を推進するエンジンが企業の力であり、故に企業の持つ経済成長第一主義の思想を保持することが革新技術開発の推進の上で最も大切なものだとの考え方である。

そして、その企業側は現状のこのプラスチック課題に対し生産量の削減には腰が引けているのである。GHG排出課題に対する姿勢とも類似の構図がここにもある(トランプ政権2.0は気候温暖化とGHG排出との関連性の主張はでっち上げとさえ語り、USEPの縮小化を狙っている)。企業側の姿勢の容認・受容は私たちの健康だけでなく、広く生態系に甚大な影響を及ぼすのである。

このプラスチックの課題に対し、解決策を提供できると期待されている革新技術としてのバイオ分解性プラスチックの現状を少し紹介して見たい。

今年8月に『生分解性プラスチックは世界を襲うプラスチック問題を緩和し解決することが出来るだろうか?(Could bioplastics mitigate and solve world’s plastic invasion?)』という研究論文が発表された。その序論部分を紹介する。

その低コスト性と長期安定性故に、プラスチックは現代社会に無くてはならない素材であるが、その持っている安定性能および広範に利用を推し進めてきたことから、今日ではプラスチック廃棄物が海洋・土壌中・湖だけでなく、南極北極地域でも検出されており、世界中への蓄積が徐々にそして確実に進行している。

そして、一旦プラスチックが生態系に排出されると、光分解化(photodecomposition)を受けて、マイクロプラスチックス(MPs)やナノプラスチックス(NPs)を作りだしていくことになり、MPs・NPs汚染を世界に引き起こすことになる。

このMPs・NPs汚染の分布や毒性等の研究は広く行われており、生態系及び人への影響を緩和するには、プラスチック類の慎重な取り扱いと戦略的な廃棄物管理が求められるとしている。

だが、陸系生態系・水系生態系への甚大な汚染状況のもと、現行の廃棄物削減プログラムは推進されてはいるものの、最適な方策とは言えず(燃やしカスを埋め立て処理)、リサイクル化拡大という目標に向かう訳でもなく、また持続可能なやり方でもない。

生産から始まり、利用し、そして最終的に廃棄するまでを循環型経済に適合させていくには、通常使うプラスチックを別の素材に求めることが重要になる。
かかる観点から生分解性プラスチック(bioplastics:bio-based and biodegradable plastics; BPs)がより持続可能な社会における素材として認識され、殊に再生可能原料の利用とGHG排出削減への効果もが期待されている。

今日、従来のプラスチックが使われていた諸分野へのBPsの適用が検討されている。

しかしながら、現状のBPsにおいては、期待する分解の開始ならびに分解工程の進行にはある種の条件の存在とその条件のクリアが必要であり、結果として現状では分解の制御と完全な分解の保証は出来ない、というのが実情である。

従って現状では管理下から離れ、外の環境に排出されたBPsは、従来のプラスチック同様に生態系に蓄積されていき、そしてバイオマイクロプラスチック(bio-micro-plastics;BMPs)やバイオナノプラスチックス(bio-nano-plastics; BNPs)へと変換されていき、しかもこれらBMPsやBNPsは生態系及び人にとって有害な作用を持っていることが証明されているのである。(以上)


今後の革新技術にのみ、過度の期待をすることは賢明な態度ではないのであり、例えBPsが今後新たな地平を開くことがあったとしても、現在抱えているプラスチックの課題への人としての対応は、利用の絶対量を削減することであり、繰り返し利用を図ることであり、リサイクル化を推進することであり、その上でのBPsの利用化促進という複合的・重層的な取り組みが求められるのである。

偏った解決策に拘る企業ペースに乗ることは、間違った方向に向かうことになる。
毎年11月末からの1週間程の気候温暖化国際会合においても全く同じ態度が私たちに求められるのである。
GHG公害とプラスチック公害との類似性は大きく、そしてそれぞれの会議・会合におけるロビーストと称する企業側を弁護するエリートの活動の障壁は高いのが解決を遅らせている一つの要因と思っている。では、具体的にどうするか?考えどころである。

 
0083 山火事・台風等の頻度・強烈さの拡大とそれら災害に便乗する資本主義について yo-chan 09/04 11:58
 
山火事・台風等の頻度・強烈さの拡大とそれら災害に便乗する資本主義について



地中海地域を襲っている山火事を題材にしたAl Jazeeraの記事を紹介する。

表題は、『地中海地域の山火事は単なる災害ではない(Alejandro Pedregal氏記す)』。
(原題:Mediterranean wildfires are no accident,  Al Jazeera, 2025年8月27日)

今夏の災害は、『気候変動』、『大地の放棄』そして『災害便乗型資本主義(disaster capitalism)』といった事柄が複合的に作用することで生じる、森林の燃料化症状を提示している。
トルコからギリシャ、フランスからスペインにかけてのこの夏の山火事は、ある一つのことを暗示している。『何かが変わった』ということだ。

時に偶発的に起こる異常乾燥や極端な気象状況ではない。
いわゆる今の第6世代の山火事は、『現代の気候の論理と社会の論理』に刻み込まれている『世界の災害便乗型資本主義』によって激しさを増している。

これら山火事は、あるシステムに則って生じており、このシステムは『私たちの社会的経済学的指令・要請』により誘発・拡大される気候変動によって加速され、『私たちが採用する土地政策とそれに付随して起こる蓄積志向・利益志向そして成長志向』によって悪化させられていく。

多くの関連機関は、災害の防止や手当を優先する姿勢は取らず、代わりに防止策や消火活動への資金投入を大幅に削減しており、実態として最近の13年間でこれらの予算は半減させられている。

また、田園地域に対する冷淡な姿勢は慢性化している。
そして、企業や金融機関の影響下の土地利用モデルは、目先のツーリズムビジネスを選択し、長期的視野での土地活用に目を向けることがない。

即ち、全てのものの商品化が第一に優先され(commodifying everything FIRST)、災害の防止と手当は二の次となり、収益性を優先する資本が持つ先天性膨張願望により、周囲の環境は変化させられていく。
地域共同体と周囲の環境との連携性は壊れ、従来の農業方式は弱体化される一方で、『資源収奪型のアグロビジネスモデル』が優先され、広大な土地に『単一種栽培農業』、『郊外に向かう都市部の無秩序な拡張』や『荒廃した土地空間』が発生している。

かかる状況を考えると、山火事を最早、単なる災害と見ることは妥当ではない。
そして山火事という災害を通して生じる影響を考えると、私たちの社会の根元にある経済的・生態学的両面における『不公平・不公正な交流関係』がそこに存在していることが映し出される。

労働者、田園地域住人、移住者や消滅危機地域からの人々が、山火事の炎に曝される危険性を受ける人々なのである。
階級、人種、性別、地政学的場所といった現在のシステムの亀裂にそって、今の危機は拡大化していく。見捨てられる人々が、繰り返し同じ目に会う傾向がある。
多くの地中海地域で山火事は、素早さを増し、何処で起こるかの予測は困難さを増し、そして制御しづらくなって来ている。

『気候に新たな常態(ニューノーマル)』が定着してしまった。

森林には、順応・適応する余力は既になく、バイオマス燃料と化した森、人の手が入らない放棄地の拡大とともに進む単一種栽培農業地域の拡大、そして行政機関は今の状況に圧倒されている。森にはそこかしこに時限爆弾がカチカチと時を刻んでいるのである。

一方、世論の動向は間違った方向にそれている。
数週間前、カタロニア州首相サルバドール・イジャ氏は『森が多すぎる』とコメントした。
地中海という海は正に沸騰状況、山火事や干ばつや洪水が頻発する地中海地域で、『森はどうでも良い』という選択肢はない。荒廃した森林とはいえ森の生態系への貢献は大きい。

進むべき道は、私たちと森林との間に順応性のある関係を再度作りあげること(即ち森林管理の再構築)であり、そこでは森林の構造の見直し、生物多様性の保全と促進、土壌劣化を防ぎ森に蓄積されるバイオマスを削減すること、そして重要度合いの高い地域共同体と周辺領域との間の連携性の回復を追求することである。

このことは都市部と地域共同体との関係性に再度バランスをとることを意味する(従来、都市部が見る地域共同体は、資源を供出させる場所、都市の廃棄物を処分する場所程度)。

求められるのは、短期的視野を乗り越えた政策、即ち、生態学的・社会学的に見て合理性のある計画であり、その実践であり、それらへの投資である。

現行システムに沿っての『燃焼』が継続する現在、しかし、抵抗する動きは高まっている。

アグロエコロジーに適った農耕を実践する共同体の存在、新自由主義的・植民地主義的土地収奪に逆らい地域を守る人々がアマゾンからパレスチナに至る各地で発生していること、生活し生存していく上で『別の道』があることを主張し、気候正義運動(Climate Justice Movement)に光をあてる人々の存在である。

これらの人々は、人種差別や極端な不公正さ・不平等性に立ち向かっており、緩和や適応・順応に留まることなく私たちが生活し生存する領域の中心に『生命』を再び置くこと、そして包括的全体的な開放にコミットする政策を要求している。

蓄積・搾取そして土地の強奪が社会に蔓延する状況が続く限り、山火事はより迅速に燃え広がり、その脅威は更に増していく。私たちの中心に『生命』を置くシステムへと、システムを再度見直し改革していくことが求められている。
以上。


『災害便乗型資本主義(disaster capitalism)』という言葉が上記情報に使われている。
この言葉が持っている力の範囲を、目一杯・大胆に拡げて見ると、今の世の中の企業が中心となって進むSDGsの芳しくない面が、結構あぶり出されるような気がしている。
次にその辺りまでを意識した情報の紹介をしてみたい。

先ずは、災害便乗型資本主義(disaster capitalism)とは何か?
Teen VOGUEに簡単な説明があり、要点のみを紹介する。

表題:災害便乗型資本主義とは何か?何らかの災害・天災が勃発、便乗する形で略奪が次いで起こり、結果として民間事業が推進されるというサイクルが繰り返される
原題:What is Disaster Capitalism? A Cycle of Crisis, Exploitation, and Privatization
Jacqui Germain氏記す、TeenVOGUE、2021年9月2日

2004年12月26日、朝7時58分頃インドネシア西部、スマトラ島北西沖でマグニチュード9.1〜9.3の地震が発生。30mに達する津波により、被災者約206万人、死者及び行方不明者約23万人という大災害が起こった。
この事態の推移を注視していたブリティッシュコロンビア大のナオミ・クライン教授は、地震の余波の中、地域の農民や住民らが、津波が去った後のがれき片付けに注力する一方で、ディベロッパーたちがリゾート開発や別の思惑の事業目的で土地を強奪している様子を確認していた。

クライン氏は、当初想定していた『災害便乗型資本主義』が、戦争や対テロの範疇であり軍需産業の拡大に絡む事柄を研究対象にしていたが、津波という災害とその後の状況を観察して以降、自然災害後の後始末に発生する範疇をも対象とするようになった、という。

そして翌2005年にはカトリーナと呼ばれるハリケーン事案が起こり、戦時下イラクで活動した同じ土建業者らが、今度はニュー・オリーンズに現れ、自由に使える政府予算を当てにした活動を始めているのである。

クライン氏によれば、『災害便乗型資本主義とは戦争・政権交代・自然災害といった大規模な不安定状況に合わせて民間の事業者が該当地域に集まり、後に始まる復興活動にビジネスチャンスを見いだし、目指すもの』としている。

グスタフス・アドルフス大のホアキン・ビジャヌエバ准教授は、この災害便乗型資本主義の枠組みを更に広げ、そもそもなぜ特定の国がこの種の民間による収奪に弱いのかを理解するにはそれぞれの国の歴史にさかのぼることも必要とし、2010年・2021年の2回のハイチ地震、そして2017年のプエルト・リコを襲ったハリケーン・マリアの事例における影響をあげている。

『ハイチは早くから国家の主権を回復した国ではあるが、しかし生き残るためにはアメリカやその他の帝国主義勢力に頼ることもあったため、自然災害に対しかなり脆弱さを持つ国』といえると、ビジャヌエバ氏は語る。
『但しこの脆弱性は、ハイチ人たちの文化的特質や知識不足が原因ではなく、むしろ植民地主義や帝国主義時代の複雑な歴史的な要因に背景がある』としている。

ハリケーン・マリアに襲われたプエルト・リコのケースでは、プエルト・リコの経済が従来から米国資本に依存する体質であったこと、更に具合が悪いことにハリケーンが襲った時が丁度大規模な負債の危機でもあったという事情がある。正に復興にはアメリカ資本がなければならない状況下だったといえる。

災害便乗型資本主義の実態と背景をみる上で、次の対比を確認しておくことが大切である。

巨大地震とその後の津波、大洪水や巨大台風に見舞われた場合、当該地域に住む住民たちは被害状況の確認・可能な限りの有価物の回収・個人的損失分への対応策・今を乗り越えるための算段を付ける作業等々やることが多くそれらに忙殺されることになる。

一方で、これらの突発的災害や事態を想定して、多方面から対処する方策を時間をかけて練っている人々も多くおり、彼らはシンクタンクや各種機関に所属している。

この二つからなる構造があり、一方はトラウマをも懸念される状況下で自身のそして所属する地域共同体の復興に力を注ぎ、もう一方は普段からかかる事態を想定して事前に考えうるビジネスチャンスをかかる悲惨な状況下であるからこそ掴んでいこうとする人々の存在である。前者の人々にとっては気が回らない状況下、復興以降の自分たちの生活に大きく影響する事態が、同時期に着々と進行していることは思いもよらないことである。

かかる事態の推移を明確に示す典型的な事例を2つ紹介する。

1つ目はカトリーナ被災後、ニュー・オリーンズにおける学校制度がそれを契機に改編された例がある。

この説明には、アメリカの公教育の民営化を志向する動向の最近の推移を確認していくことが必要で要点を示すと、次のようになる。

アメリカでは、教育の質向上、親の選択肢の増大、効率化理念のもと公立学校の運営を民間企業や非営利団体に委託する動きが拡大していた。即ち親たちの公教育に対する不満・競争原理の導入により効率化し質を向上させることへの期待・財政的制約や子どもの教育の自由の選択の拡大を求めるニーズの高まりがあったとしている。

その期待に答える形で、1990年代以降、チャーター・スクール制度の拡大や教育バウチャーの導入が進み、2000年代以降、学校の運営権を民間企業に委ねる学校の増加やテクノロジーを活用した民間の教育サービスが普及しているという。
これらの背景のもと、そしてカテリーナによる被災状況が長期化し、教育環境の立て直しに時間がかかる事態の中、ニュー・オリーンズでも災害復旧の一環として公立学校の民営化が急速に進められた。多くの学校が閉鎖された後、チャーター・スクール(親や教員・地域団体などが認可を受けて公費で運営する従来と異なる学校形態)を中心にしたモデルが導入され、学校選択の自由が高まるという効果はあったが、一方で組合に参加の教員が大量に解雇されること、学区の再構築や教職員の配置、質の確保等の課題が取りざたされる状況を生む結果となっている。


2つ目の例は、2013年フィリピンのシコゴン島(island of Sicogon)を大型台風・ハイヤンが襲い、6000人の島民が家を失った事例である。
この事例は、災害便乗型資本主義の考え方ややり方が典型的に現れていることから、時系列的に以下に示してみる。この情報はAljazeera、2018年8月16日付け、『Typhoons and Tycoons: Disaster capitalism in the Philippines』をもとにしております。

1. 台風後、フィリピン政府はアヤラ社を含む20の企業に復興活動計画作りの協力を要請。各企業は希望する島を選択し計画することになり、アラヤ社はシコゴン島を選択
2. アラヤ社は、島の70%を所有するリゾート会社SIDECOと連携関係を台風襲来前から結んでいた。
3. 台風来襲前、政府はシコゴン島の200以上の島民の為に土地を分配する計画を持っており、SIDECOに対し大部分の土地の放棄を求める検討を行っており、これらの事情からSIDECOと住民との間に法廷闘争が起こっていた。
4. 古くから事業を行う裕福な企業グループに所属のアヤラ社は、数百万ドル規模の事業をこの島に展開することを狙っていた。
5. 台風により、ガレキと化したシコゴンの島民に、アラヤとSDECOは生存者に3000ドルを給付し、別の島への移住を条件に、家並びに更に100ドルの支払いを提案した。
6. 地元の研究員のグスマン氏によると、アヤラ社は政府の復興パートナー企業の立場を悪用し、様々な嫌がらせを行っているという。例えば食料の提供は制約し、飢えの状況を作り出し、台風被災数カ月後には船主や近隣の村長に覚書を送り、島内での建設資材の使用を禁止することを行っている。
7. 翌2014年のシコゴン島では、企業、住民、そして政府代表の間で妥協案の署名が行われた。内容は、住民はシコゴン島の全ての観光事業を承認する。企業は住民に移住地・農地そして職業訓練を提供する。
8. しかし、契約締結から4年たち(2018年)、空港滑走路とホテル2軒が建設中だが、島民らは何も受け取っていないという。

以上、欧州の山火事は、単なる自然災害ではない、という話題を紹介することで出発したが、山火事の頻発と火勢の甚大化という状況を作りだしているのが、『気候変動』であり、それと共に人が行う諸経済活動が、その中心に『利益追求・収益性拡大』を置くという状況に変化がないことが、山火事を制御不能にしている根本原因だとし、森林と地域共同体との間の連携を再度作りだす努力が必要だと結論付けている。

そして山火事や台風等の災害が起こるとそれに便乗する『災害便乗型資本主義』という問題が紹介されたていたことから、『災害便乗型資本主義』についても紹介しました。

焦点がボヤケるきらいはあるもの、最後についでに、前から気になっていた現在の企業が主導する形態のSDGsが持つ問題点についてさらに調べてみました。
行ったことは、『災害便乗型資本主義というレンズ』を通して見たら、企業主導の今のSDGsはどのように見えるか? という質問をAIに問うことです。AIはかかる付き合い方で利用すると重宝な情報を提供してくれます。但し、AIがどの程度の情報をバックグランドにして答えているか、を批判的に見定める姿勢を保つことがAIとの付き合い方で大切だと考えています。

【AIの返答】
企業が主導するSDGsには2つの面がある。一つは、SDGsが新たな市場を作り、利害関係者らとの約束達成を通じて正当な行動のもと利益と持続可能な実践を提供するもの、としている。
もう一つは、『SDGs洗浄』または『災害便乗型資本主義』の発生であり、そこにおいては、『利益追求』や『現に存在する不平等性不公平性を潜在的に促進する役割』をSDGsの諸事業が果たしていること、結果としてシステム上の望まれる改善を実際に達成することを妨げる働きをすることになる。
幾つかの企業はSDGsを通じてリスクへの対応を行い、チャンスの創造を行おうとしているが、一方で別の企業らは真の解決策を追求することよりも災害が発生した際のような状況が生まれるか、またはそうした状況を作りだすことで、災害に便乗する形でSDGsを実行しようとし、その結果、世界が目標とする開発の全体的な進み具合において、遅速の格差を生んだり、企業理念の正当性への懸念が生まれたりしている。
(企業主導SDGsの長所)
1. 市場の拡大
2. 企業のイメージアップや正当性の拡大
3. リスク回避
4. 革新技術と効率性向上
5. 従業員の企業帰属意識の向上
(災害便乗型資本主義のレンズを通して見た企業主導SDGsの欠点)
1. 企業主導SDGsのリスクは、SDG洗浄(国連の17の持続可能開発目標に取り組んでいるように見せるが、実態が伴っていないビジネス実践)であり、過剰広告。
2. 災害便乗型資本主義の実践、危機優先ではない利益優先のビジネス実践が、現状維持体質を強化し、リスクの拡大化や資源の収奪化を生み、結果として長期的視点での真の解決の道が閉ざされることになる。
3. 企業主導SDGsは、性別格差や富の格差といった社会に存在する不平等性不公平性を悪化させたり、全体的視点からの持続可能性を棄損する恐れがある。
4. 企業が主導する活動を通じて『利益優先』を中心に据え焦点を当てると、うわべはSDGsに向かっているように見えても実態は持続可能性の期待できないビジネスモデルを推進することになりかねない。

『災害便乗型資本主義』という言葉が持っている力の範囲を、目一杯・大胆に拡げて見ると、今の世の中の企業が中心となって進むSDGsの芳しくない面が、結構あぶり出されるような気がしている、と言った。その考えが、AIが答えるだろう今の世の中の大勢を占める言説(narrative and discourse)の中でどう評価されるかを、見たところ、以前から持っていた現在の企業が中心となって進むSDGsにはやはり胡散臭い部分が内包されていること、『SDG洗浄』であり、『災害便乗型資本主義』であることが示された。

常々思う『もう一つ別の道』の必要性、それが『生命』を中心とする人間の活動であり、また技術についても巨大開発費を前提に世の中の中心を狙う巨大企業の革新技術開発競争が主流である現在を問題視し、シューマッハー氏が指摘する人間の背丈に会った資金で調達可能な最新技術と伝統的技術の融合を図ることであり、そしてその目標は地域住民に働く場をもたらすことを目指すものであり、地域共同体の活性化を中心に据えた(都市部の指令組織が、地域共同体を単なる人・モノを収奪するだけの場所と見なし、生れる収益を独占する現在のシステムとは、異なる次元のシステム)『中間技術・適切技術』といった技術の開発に目を向けることが大切なことであり、しかも今はその活動には人・モノ・金が欠乏状況なのである。

かかる視点の重要性を今後も展開していきたい。



 
0082 現今のクマ騒動を考える yo-chan 08/29 11:28
 
現今のクマ騒動を考える


結論から言うと、クマ騒動の根本原因はやはり地球温暖化の急激な進行とその放置。
その結果、クマたちにとっては迷惑な生息域の生態系の悪化が進行。
更にクマたちの暮らす生息域を縮小・分断する開発と称する人間の行動も追い打ちをかけ、クマ騒動を拡大している。
こんな構図の認識が大切と思う。

温暖化の進行、しかも加速度化している温暖化が、クマたちを安住の地域から追いたて、冬眠に向けての採餌行動という彼ら本来の生活リズムを混乱させているのである。
その結果として様々な困った状況を現在私たちは目撃しているという構図を先ずは基本に置きたい。 そして、ではどうしたら良いか考えていく必要があると思っている。

効果発現に時間はかかるものの、最良・最大の策はやはり温室効果ガスの排出抑制。
排出抑制・停止に貢献出来る事柄は、総力を挙げて推進する覚悟が求められる。
そして、合わせて短期的、中期的に効果の期待できる方策に取り組むことも求められる。

現在、クマたちは非常に危険な状況に追い詰められているとの認識を持つべきである。
クマに襲われる人間、クマに農畜産物を食い荒らされた、という構図のみに耳目を集めることは、このクマ騒動の根本的な解決に向けての辿るべき道を間違えてしまうだろう。
目指す道は、クマたちの窮状の救済、無駄な死を迎えることのないような道にも通じるものであって欲しい。

クマたちは、温暖化という打撃を現在受けており、ストレスを貯めている。
かかる構図に光を当てている、情報を紹介してみたい。

冬眠機会の変化に着目した情報がある。

表題:冬も寝ない:如何に気候変動がクロクマの冬眠を妨げているか(2025年1月24日)
(原題:Awake in Winter: How Climate Change is Disrupting Black Bear Hibernation)

ひんやりした冬の朝、見るとクロクマがゴミ箱をひっくり返している。雪が積もる冬にクマは巣穴で冬眠中との思い込みがあるが、最近は違ってきている。
北米のクマは、最近冬眠期間を短くしており、全く冬眠しない例もある。
何が起こっているのだろうか?

暖冬傾向が原因し、自然界の生命の様々な有りようが大きく変わってきている。
クロクマの行動様式の変化も当然それに含まれる。

クマの冬眠は生き残るための重要な戦略。そして冬眠とはいっても、コウモリやリスの様な体温を極度に落とす本格的なものではなく、冬眠中もクマの体温は少し落とす程度〈8〜10℃程度下げる〉、巣穴の中では極力代謝を緩やかにし、呼吸と脈拍(分当たり約8回に低下)を落としている。

この冬季の巣ごもりの為、クマたちは8月から9月にかけて過食期に入り、日に2万カロリー分の食事に励むとされる。そして巣穴の中でも日に4000カロリー程度は消費しながら、じっと春のくるのを待つのである(北米のクマの冬眠期間は場所にもよるが9月から翌4月)。

そして近年の地球温暖化の影響で、クマを始めとして生態系の微妙であり、精巧なバランスに狂いが生じ始めているのである。研究によると外気温が1℃上がると平均で6日間クマが巣穴に入るのが遅くなるとされている。この気候変動の傾向が修正されず更に進めば、2050年頃には、15日から39日巣ごもりの開始が遅くなると見込まれる。

巣ごもりが遅くなることで、どんな影響がクマたちに起こるだろうか?
エサ不足に直面するのである。巣ごもり時期にはナッツもベリーもなく、春の収穫もまだ先。エサがなければ蓄えた脂肪分が頼りだが、活発に動けば動くだけ直に使い果たし、栄養失調・飢餓状況が待っていることになる。

即ち、気候温暖化でクマは冬眠に入る時期が遅くなり、そして通常より早めに冬眠から覚め巣穴から出ることで冬眠期間が短くなっているのである。そして冬眠状態と異なりエネルギーを多量に必要とする活動期がその分長くなる一方、その冬眠期間と早めの冬眠開け時分にはエサが周囲にないのである。そんな状況にクマたちは追いやられているのである。

この記事には、クマと人との遭遇を避ける上で当然やるべき直ちに取り組める事柄も挙げている。先ずは第一に取り組むべき項目であり紹介すると、
【ゴミ箱の管理:収集日まで屋内に置くこと、そして頑丈なゴミ容器にする】
【鳥用のエサ台はクマを引きつけることになるので、片づける】
【車の中に、食べ残しや空袋、ガム等の匂いを発するものを置かない、鍵をかけておく】
【キャンプの際、食べもの・洗面具・香水等は丈夫な容器に入れ、テント内には置かない】【ハイキング時、クマよけスプレーとクマよけベルを用意携行し存在を明らかにする】
【犬等のペットはリードで繋ぎ、クマを驚かせるような行動をしないよう注意する】

クマは本来、人に積極的に危害を加える性質ではなく、人を避ける行動をする動物ということが基本であるが、クマが空腹である状況であることも考慮せざるを得ない現在かもしれない。但し上に挙げた注意項目は、エサがないことをクマに判らせるための最低限の注意事項であり、クマを引きつけない方策を取って行くことが、現状の人々の先ず出来る行動指針であろう。エサをあげたり、びっくりさせるようなことが最も困った行動と言える。
(以上)

寝るに寝られない環境の変化にクマたちは直面し、クマたちは本能的に持っている人間への恐怖心さえ押し殺して、人里にエサを求めて行動範囲を拡大せざるを得ない状況にクマたちは追い詰められているという構図が了解できると思う。

クマたちは、地球温暖化の進行の責任を放擲している人間の犠牲者なのである。

次に取り上げる情報は、冬眠状況の変更を余儀なくされているクマたちに起こっている『半分寝た状態』のクマたちを扱ったものです。

表題:冬眠するには余りの暑さで冬眠出来ずに『半分寝ている』クマたちがシベリアで徘徊している。  LIVESCIENCE、2023年12月6日
原題:Half-asleep bears are wandering around Siberia because it’s too hot to hibernate

冬眠を控え、充分に脂肪分を貯えたクマたちが、11月にしては温かい気温が続き冬眠に入れない状況が発生していると、当地の担当者が11月21日に伝えている。
担当者によると例年は10月の末までには巣ごもりを始める筈が、11月下旬になってもクマたちは放心状態で巣穴の辺りをさまよい歩いている。但しさまよい歩いているのはオスで、メスは子どもと一緒にいつも通りに冬眠を始めている(母熊は寒さに弱い子どものことを本能的に心得て巣ごもりをいつも通りに始めるという)。

クマたちに冬眠に入ることを告げる合図である寒い気候の到来が遅くなり、冬の期間の短縮化がおこっている。 しかしこれらの状況とともに外気温が水の凍結温度以上にある場合、解けた水のせいで巣穴がびしょ濡れになることも起こり、冬眠を妨げる要因となっているという。

次の情報も同様な状況を伝えている。

表題:年間を通して不眠症:クロクマはなぜ冬眠を止めているのか。2023年7月12日
原題:Year-Long Insomnia: Why Black Bears Have Stopped Hibernating

アメリカのクロクマの惨状は、まるで冗談話のようだ。クマが食料品店に押し入り、ポテトチップ袋を掴んだとか、ガソリンスタンドでチョコバーを盗んだとか、工場でバターを10kgドカ食いしたとかだ。

タホー(Tahoe)湖はカリフォルニアとネバダ両州の境にあるシエラネバダ山脈中の高山湖。
年間、数百万人がテントとキャンプ用品を、持ち込み5日間ほどキャンプを楽しむというのが核家族の定番で、人気のスポットとなっている。

このタホー湖がある盆地スポットが昔ながらの淡青色の湖のキャンプ地のイメージから今では米国を代表するクマたちと人間たちとの争いの場所へと変化している。

約5万ヘクタールの湖の周りには、モーテル・ミニゴルフコース・バーベキュー場やカジノ施設が取り囲み、それにより先住民であるクマたちには二つの選択肢が突き付けられた。『移動するか』『そこに住みつくか』だ。大半のクマたちは後者を選んだ。

アメリカクロクマは世界でもっとも個体数の多いクマ。過去1世紀にわたる国あげての全国的な再野生化活動により、生息域は過去の最大領域面積の約半分まで回復したという。

その結果、例えばニューヨーク州のヨンカーやマサチューセッツ州のボストン等でクロクマが巨大ゴミ箱をあさったり、家の裏に巣穴を作るケースが起こっている。
即ち、都会のクマ(アーバンベア)の出現である。

ネバダ州野生生物局の生物学者のカール・ラッキー氏が持ち主の留守中の家の床下をライトで照らすと明らかにクロクマが住み着いている形跡がわかるという。そんな家がタホー湖周辺のインクライン・ビレッジにはたくさんあり、夜になるとクマたちがエサを求めてうろつきゴミ箱を漁る、とラッキー氏は語る。

ラッキー氏は、ハスキー種とボーダーコリー種を掛け合わせたようなカレリアン・ベアドッグ種という犬2匹を同行して、今までに何百頭ものクマを追っ払っており、犬の活用が氏の仕事遂行に大いに役立っているという。

氏によると、タホー湖付近の町や都市にクロクマの侵出が目立し始めたのは1990年頃だとし、当初は何が原因しての状況の急変か、正確には理解できず、しかもその時期の本来のクマの生息地域の山谷のエサの状況は豊富だったことから、ラッキー氏と同僚らは観光客らが放置した異臭を放つゴミがクマたちを引き寄せたと、当時は結論付けたという。

そして、2000年代に入るころからタホー湖周辺のクマ被害は拡大し、対処を強める必要が生まれ、先に触れたカレリアン・ベアドッグ種の犬1頭をブリーダーから手始めに調達したという。

本来なら4月の声を聞くまで巣穴にこもっている筈のクマたちは、都市環境へと変化した生息地域のせいで今ではアーバンベア化し、従来の意味での冬眠は行わないようになっており、クマたちは昼寝用の寝床を見つけ居住し、昼寝を楽しみつつ週に1〜2回外に出てエサを見つけにさまよい歩く生活スタイルに変わってしまっているとラッキー氏は語る。

即ち、タホー湖周辺のクロクマは、冬眠スタイルを放擲し、年中『不眠症患者』様の症状で真夜中にゴミ箱と言わず冷蔵庫と言わずにひっくり返しまわる存在になっている。

2003年の調査で、タホー湖近くのカーソン山の奥地に生息するクマは12月初旬には冬眠に入り、通常通りの冬眠を行うのに対し、タホー湖都市部のクマは、1月まで、冬眠用の巣穴に入ることなく起きていること、調査した38頭の内5頭は、全く巣穴に入らなかったことが報告されている。

北米全土で、クマの体内時計がリセットされてしまったと言える状況の変化である。

研究者らは、都市型クマの出現は、クマにとって命を落とす最大の危機と隣り合わせの状況と捉えるべきと指摘している。
(以上)

クマと人との遭遇の現在の状況を作っている背景の構図として、根本要因は気候危機・温暖化の進展であり、もう一つの要因は、開発と称する人の行動の拡大であり、いずれもが人間が原因となっている生態系の混乱であり、悪化である。
クマたちは人間が作る環境の変転に単に適応しようともがいている、そしてそのもがく行動の辿っている道は、クマたちにとって実は自殺行為に等しいものなのである。
クマたちの命を無駄に短くしない、彼らが本来の人を恐れて人里に近づくことなく彼らが暮らしていける生態系の回復に繋がる道を考えていくことが、最も大切な現今のクマ騒動の見方だと考える。

生態系の悪化を、人間にいち早く知らせる『炭鉱のカナリア』の役目をクマたちは現在果たしている、という見方がある。こういった視点を忘れないようにしたものだ。

最後に、短期的中期的に取るべき対策として、クマたちの保護地域計画と保護地域保全ネットワーク計画とを、現状に合わせて策定し直すことがあるとの情報もあったことを付けたしておく。


 
0081 現在の社会状況について(3) ヘルト・ウィルダースという先行者の動向 yo-chan 08/23 14:39
 
現在の社会状況について(3)ヘルト・ウィルダースという先行者の動向


オランダのトランプとも称されているヘルト・ウィルダースに関する情報を紹介する。

ポピュリズムの動向と消長・今後の推移を考える上で、様々な視点からの様々な情報を押さえておくことが必要と考える。ポピュリズムの一つの特徴として、その思想の中心がボンヤリしていて捉えどころがない、ということが言われている。様々な視点からの様々な情報が大切だ、と考える由縁です。

先行する主だった面々の考え方やその思想の支持される状況を見ておくことも大切な視点と思い、今回ウィルダース氏を取り上げてみます。

1. 自由党(PVV)結党まで(wikipedia情報から)
1963年オランダ、フェンローで生まれたウィルダース氏は、ローマカトリック教徒として育つ。成人になり、同教会を離れた氏は青年期をイスラエル・アラブ諸国遍歴で過ごしたという。
次いで保守・リベラルの自由民主人民党(VVD)のスピーチライターとして働き、その後1990年〜1998年までVVD党首フリッツ・ボルケシュタインの議会補佐官を務めた。
1997年にユトレヒト市議会議員に当選、翌1998年に衆議院議員に当選。
トルコのEU加盟に関する党内の和解不能な意見の相違を理由に2004年にVVDを離党し、自身の政党PVVを結成(正式な結党年は2006年の総選挙時点)。

2.2006年結党時:総選挙で9議席を獲得し、新興勢力の立場を確保

3.2010年〜2017年:2010年総選挙で24議席を獲得し、第3位の政党となる。第一次ルッテ内閣に対し信任と協力の姿勢を取る。しかし予算削減をめぐる意見の相違から2012年4月内閣支持を撤回する。そして迎えた2012年総選挙では9議席を失うこととなり、政権から離れ野党の立場となる。
2017年の総選挙で、PVVは20議席まで回復。

4.2023年総選挙以降、現在まで
4−1.2023年総選挙時点
 [出典情報:オランダ選挙、反イスラムを掲げるヘルト・ウィルダース氏率いるPVVが劇的な勝利(原題:Dutch election: Anti-Islam populist Geert Wilders wins dramatic victory, BBC News, 2023年11月22日)]
PVVは、得票率23%を得て、37議席を獲得。ライバルの左派連合を大きく引き離して第1位の政党となる。ウィルダース氏は政権を担当する意思があるとし、その為に他党との協議で妥協する用意があるとした。

今回の選挙での他党の結果は、第2位が左派連合[元EU委員のティメルマンスが率いる;労働党(PvdA)と緑の党(GL)とが選挙協力で結成した連合体で、左派連合またはGL/PvdAと称する]25議席、第3位が中道右派リベラル(VVD)、第4位が新社会契約党(オムツィート氏結党の新党、NSC)以下農民市民運動党(BBB)が続く。

選挙前、PVVに対する他の政党の考え方は一様にPVVに批判的で、PVV主体の政権の可能性が出たとしても、距離を置くとしていた。しかし今回の選挙結果が判明した後、他の政党に選挙前の考え方と異なる意見も出始めており、今後の連立政権の動向に目を離せないとしている。

4−2.2023年総選挙の別の情報
(ヘルト・ウィルダース氏:どんな人物か何を望むのか?BBC News, 2023年11月23日
原題Geert Wilders:Who is he and what does he want?,)
PVVの勝利理由を興味深く伝えており、重複のきらいはあるが、紹介する。

ヘルト・ウィルダース氏は『極右』と呼ばれることが好きではなく、氏は『普通の人々』のために声高にしゃべっていると主張する。だが、扇動的で発火の恐れのある、そして論争の的になることが明白な政策のいくつかを彼は棚に上げたこと、更に氏特有の強硬論的言説・発言を控えたことで、ウィルダース氏は初めてPVVの支持を広げることに成功し、選挙で勝利を得ることが出来た、とするのが事実だ。

25年前、氏がオランダ政界に登場した時、モーツアルトのニックネームとなったブロンドヘアは、今ではグレーに変わっているが、氏の論争力は今やピークを迎え、選挙戦でほぼ毎夜行われたテレビ討論会でウィルダース氏は弁舌巧みに難民移民に関するスローガンを簡潔な形でペラペラと語り、論争相手の上手を行っていた。、
例えば、『オランダはもう我慢できない。私たちは今や自国民を先ず優先する(our own 
people first)必要がある。国境は閉鎖。避難を求める申請者はゼロに』とウィルダース氏
は主張した。

そして、もし氏は極右か?と聞かれたら、氏は否定するだろう。そして『オランダは議論
を重ね合意点を積み上げていく国だ。オランダには極右の人はそれほど多いとは思わない
し、今後も増えていくことはないだろう』、『伝統ある先住の人々は大挙して居住する移民
者らによって存在を無視されている。先住の人々は不当に扱われていると感じながら生活
しているのだ』とウィルダースしはBBCに語っている。

選挙で主流派の投票層から更なる支持を受けられるように、ウィルダース氏は党のマニフ
ェストに記載のコーランの禁止やイスラム教学校・モスクの禁止といった計画は凍結する
と宣言し、PVVの主張のソフト化を図っていた。その結果の今回のPVVの躍進(議席数が
以前の17から倍増以上の37へと拡大した)であった。

しかしこの結果はオランダ国内在住のイスラム共同体に大きな不安を与えた。なぜなら、
ウィルダース氏率いるPVVのマニフェストには公共の建物内でのイスラム教徒のスカーフ
着用禁止が依然記載されているからだ。
また、2014年の集会でウィルダース氏は『モロッコ人を減らせ』等のシュピユレヒコール
の唱和を主導したとの罪で、モロッコ住民を侮辱したかどで有罪判決を受けていた(扇動
罪の罪では無罪であった)。また2017年の選挙期間中オランダ系モロッコ人の一部を『ク
ズ』と呼ぶようなこともあった。

またウィルダース氏はPVV選挙勝利の祝いの際に、2016年のトランプ大統領勝利を称賛
し、『アメリカ国民は祖国を取り戻した』と称えた上で、『オランダを再び第一の国にする(put the Dutch back as number one)』と勝利宣言している。

5.2023年総選挙以降2024年7月までの動向
[参考『選挙と新内閣』原題(Elections and the new cabinet)Tweede Kamer,2024 July 2]

2023年選挙結果の詳細:投票率77.7%。選挙で競った政党数は26で、議席を獲得できた政党数は15。PVV,37議席。GroenLink-PvdA,25議席。VVD,24議席。NSC,20議席。D66,9議席。BBB,7議席。CDA,5議席。SP,5議席。FvD,3議席。PvdD,3議席。CU,3議席。SGP,3議席。DENK,3議席。Volt,2議席。JA21,1議席。

新たな衆議院体制が選挙後2日目に組閣プロセスを開始、先ず前大統領ベラ・ベルグキャンプ指名の一人の『スカウト』が、新たに選出された各政党の代表者との間で様々な新内閣の形態についての可能性を協議することを始める。12月11日『スカウト』が協議により得た知見に関する報告書を提示し、その報告書を衆議院が検討協議し、一人の『インフォルマテュールinformateur(詳細な政治情勢の上で、各政党と連立政権形成の準備があるかどうかを調査する役目を負う)』を指名。インフォルマテュールの役目は連立政権確立のために各党間の調整を促進すること。連立政権に意欲を示した政党は4党(PVV,VVD, NSCとBBB)となる。
その後各党間の調整過程を経て、4党が2024年5月16日に連立の大枠で合意し、5月22日に予定される新首相にディック・シューフ氏が指名され、シューフ氏は連立政権を形成する4党のリーダ―らから選ばれた一人の組閣担当者(フォルマテユールformateur)と共に他の内閣メンバーの選出。7月2日のシューフ氏の首相就任式を経て新内閣の発足となる。

6.2024年7月2日新内閣発足から11カ月経過した2025年6月に内閣崩壊。

その間の状況を伝える記事として次の情報を取り上げる
(論説:オランダ政府の崩壊−崩壊に予想を上回る時間を要した(OP-ED: The fall of the Dutch government-that took longer than expected, ecre, 2025年6月19日)

6月3日、政府が崩壊。PVV党首ウィルダース氏は難民政策をめぐる対立を理由に、連立から離脱。ディック・シューフ首相率いる内閣は僅か11ヶ月で事実上崩壊した。しかしオランダ国民の多くはこれほど長く新政権が続くとは思っていなかった節がある。
シューフ政権はある意味、政治上の実験と見られていたのである。

即ち党首[ウィルダース氏]以外に正式な党員資格を持つものがいない、という内部の民主主義体制を欠き、そして長く政界を牛耳ってきた『政治エリート』らは冷淡で、無責任で、そして何ら根本的解決策を怠ってきたとの扇動的な言辞を、唯一党員資格を持つ党首自身が繰り返し批判を展開してきた政党が、中核をなす政権はそもそも機能を果たすことが出来るのだろうか?との疑念を持たれていたのである。
即ち11カ月前に船出した新政権は、そもそも不安定な基盤に乗っていると見られていたのである。

今回、崩壊の原因となった難民問題に対する連立政権内部の考え方には出発時点で相違が存在していた。
PVVは国境で移民難民を押し返すために軍の活用や全ての難民申請者の申請を拒否すること、また在住する6万人に及ぶシリア難民を国外追放すること、等の極めて強硬な難民忌避政策を掲げる党であるが、今回の連立政権構築に際し、『かつてない最も強力な移民政策を行うが、但し採用する政策はEU関連法ならびに国際法の範囲内で設定する』という柔軟な移民政策を採用することを連立予定の他の3党との間で合意し、連立政権をスタートさせた経緯がある。即ちPVV以外の3党は、移民政策の重要性はわきまえるもののその処方箋はEU法規と国際法規内で行うという考えがある点が、PVVとは大きく相違していることを内包した上で政権が船出していたのである。

そして新政権出発後、有権者やメディアの関心対象に変化が起こってきていた。
即ち、ウクライナ戦争の推移やガザでの大量虐殺の継続といった身近な懸念材料が有権者やメディアの間で高まり、PVVの存在価値に陰りがでてきており、最近の世論調査等でPVVの支持率は低下傾向にあることが判明して来ていたのである。

ウィルダース氏はこのままの状況の継続は党の埋没になるとの危機感を持ち、再度移民難民政策がオランダの抱える最も重要な中心課題だということを狙って、5月26日に10項目からなる移民政策を作成し、連立相手に提示したのである。
だが連立相手は同意する見込みはなく、6月3日の連立からの離脱となったのである。

かかる状況で、次の総選挙は10月29日が設定されている。

オランダのトランプと呼ばれるウィルダース氏に先ず興味を持ち、欧州で広がる極右勢力の政界への浸透の好例と考え、調査したところ当初の思い以上のオランダの政治状況が緊迫している状況だということがわかり、しかもこれからの2カ月程が更に欧州の極右が勢力を伸ばすのか、現状維持当たりで推移するのか、世論調査で浮かび上がる衰退の方向に向かうのか、の観点で、しばらくはオランダの政治状況から目が離せられない。

2007年、2008年から始まった世界的規模の金融危機そして2019年から始まるコロナパンデミック等、及び新自由主義経済の変調を含めての様々な生活基盤を揺るがす数々の危機があり、そして追い打ちをかける形の2015年の移民難民危機の突発により、民族意識が高まる背景のもと人々の危機意識の高まりを利用し、ウィルダース氏は有権者層への支持拡大を訴える一つのやり方として、政権を担ってきた主流派政党ならび官僚エリート層そしてメディア含めての知識エリート層からなる構造と、持って行き場のない心の底から湧き出る怒りと憤りを高める『普通の人々』の存在との対比を鮮明に浮かび上がらせる構図を提示するという戦略を、ウィルダース氏は取り、前回は成功したと言える。

オランダ世論は今や、ウィルダース氏の狙う構図から離れていく流れを見せ始めている状況もあり、再度『普通の人々』を引き戻すという氏の狙い、氏の『悪ぶる』腕力がこれからの2カ月間どのように発揮されていくのか、それともウィルダース氏抜きの旧連立内閣を構成した3党の移民難民対策・政策でも『普通の人々』は満足する状況が生れるのかが、ウィルダース氏の今後そして欧州の、ひいては日本の政治状況の流れに大きく影響を与えることになるのではないかと思う。


 
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